[海と真珠と段々畑]

海と真珠と段々畑
中村英利子
四六判・256P
¥1400+税

四国西南部の宇和海を舞台にした、真珠養殖を営む家族の物語

 段々畑で麦とサツマイモを作り、海でイワシを獲っていた時代から、真珠御殿が建ち、外車が走る時代へと駆け抜けた宇和海の漁村。その真珠の海を、原因不明のアコヤ貝の大量死が襲った。
 物語は10年前、実際に起きた真珠貝の大量へい死を下敷きに、真珠養殖を営む家族や地域がどのように変わっていったかを描く。
 漁協の名物組合長や海の環境調査を依頼された大学関係者、地域の変遷を記録し続けてきた写真家など、海をめぐる群像が登場し、この地域の歴史や現状を浮き彫りにしていく。
 豊かさを追い求めた先にあったのはなんだったのか─。
 シリアスな問題を含みながらも、この地方特有の人々の明るさと、とぼけた語り口が、読む人の心を救ってくれる。

 よそ者には美しく見える、山々に縞模様を刻んだ段々畑は、水もない平地もないこの地の人々が、食べていくためにしがみつくようにして耕作してきた、あまりにも苛酷な労働の象徴である。「耕して天に至る」と形容された宇和海一帯の段々畑は、日本の中でもまれに見る特異な風景だと確信するようになった私は、強くこの地域の風土に惹かれることとなった。
 真珠養殖は、魚類養殖と共にこうした厳しい風土のなかで生まれた水産業である。貧しかった人たちが信じられないほどの金を手にしたとき何が起きるか。私はそれを知ったときから、書いておかなくてはならないこととして自分に課した。

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