[やきとり王国]

愛媛出版文化賞受賞

全国のやきとり文化をディープに探索!!
やきとり王国
土井中 照
B6判・172p
¥1100+税

  『やきとり天国』から
 平成11(1999)年、今から14年前のことになるが、「今治やきとり」を紹介した『やきとり天国』を出版した。
 今治は、「無尽」という飲み会が盛んな地域で、集まった友人たちに「やきとり」の話をすると、なぜかそのたびに席が盛り上がる。「どこどこの何というメニューが美味しい」に始まり、「やきとり店の親父のエピソード」「やきとり店の様子」で笑いが起こり、「今治人の気質」に話が及ぶ。「やきとり」が、今治人のソウルフードである確かな証拠だ。私はいつか「今治やきとり」を本にしようと心に決めた。
 地元の会社で広告部門を担当していた私は、懇意にしている印刷会社から、尾道と今治の島々を橋でつなぐ「しまなみ海道(西瀬戸自動車道)」の開通を機に、雑誌発刊の準備をしていることを耳にする。そこで、「今治やきとり」を特集した本を新たにつくらないかと持ちかけてみた。「駄目で元々」と企画書を出したところ、意外なほどあっさり、出版してもいいとの答えが返ってきたのである。
 私が行ったことのあるやきとり店は、市街地を中心とする10軒程度だった。当時、今治市には60軒以上の店があったので、本を書くためには、やきとり店のことをもっと知らなくてはならないと思い、市民から「今治やきとり」に関するアンケートを集めた。社会人生活の大半を広告関係の仕事に携わっており、市場調査の大切さが身に付いていたからだ。アンケート用紙をつくり、友人、知人にも依頼して、約300の回答を得ることができた。
 そのデータを基に、今治市内のやきとり店をめぐって、人気メニューを自らの舌で味わい、店の雰囲気を肌で感じ取っていった。毎日毎日、「やきとり」を食べ続けた結果、「やきとり」の匂いが発散される身体になり、体重が10キロ以上も増えた。
 会社の仕事に支障が出ないよう、毎朝四時に起きてパソコンに向かった。情報を叩き込んでいくうち、店の紹介だけでは内容が面白くないことに気づく。やきとり店の大将たちに、鉄板で焼くやきとりの誕生秘話や、客の嗜好に関する興味深い話を伺った。また、今治の風土や産業、気質などに踏み込まないと、なぜ今治で「やきとり」が愛されているかが伝わらないことにも思い至り、地域の魅力をさまざまな形で盛り込んだ。
 「やきとり」に関する資料を読みあさっていると、全国各地に独特の「やきとり」があることを知る。すると「やきとり店の多い地域はどこだろう?」という疑問が頭に浮かんだ。現在のようにネット環境が整っていなかったので、図書館に置かれている各地のタウンページに当たり、掲載されている「焼鳥店」の数を集計すると、今治市は人口当たりのやきとり店数が多い自治体であることがわかった。東松山市には、到底敵わない数字であったが、頭をひねって「鶏肉を使う『やきとり』日本一」とした。
 『やきとり天国』は、しまなみ海道開通の一カ月前に出版された。地域の隠れた食文化「やきとり」を紹介した『やきとり天国』は、同時期に制作した曲のCDとともに話題を集め、地域のロングセラーになった。しまなみ街道が開通すると、今治市内のやきとり店は空前の観光客でにぎわった。「今治やきとり」は、全国ブランドとなったのである。
 ところが、「やきとり日本一宣言」という言葉が、マスコミの紹介で一人歩きするようになると、今治市に続き、室蘭市、久留米市が競うように「やきとり日本一」を宣言するという社会現象を生んだ。長門市もそのあとに続いた。ことのなりゆきは、51ページをご参照いただきたい。
 「やきとり」の動きは、他にもあった。各地の「やきとりの街」による「サミット」が、日疋好春さんと樋口秀一さんのご尽力で、平成17(2005)年に開催される。この「サミット」を母体として、翌年に「全国やきとり連絡協議会」が結成され、私は事務局長を務めたのち、「やきとり文化研究所所長」に就任した。
 「今治やきとり」の紹介を通じて、多くの文化人とも知り合うことができた。「類は友を呼ぶ」のことわざ通り、新しいモノ、面白いコト、興味あるヒトのもとには、多くの人たちが引き寄せられる。それを「運命」というなら、神に感謝を捧げたい。ひょんなことから「やきとり」に関わり、「やきとり文化」の普及に努めることになった。利用価値は少ないかもしれないが捨てるには偲びない「鶏肋」のような存在でありたいと願う次第である。

  『やきとり王国』へ
 「やきとり」には、その美味しさもさることながら、現在に至る歴史や由来、人物、データ、雑学など、みんなに知っていただきたい興味深い物語があふれている。今回、東京大手町「やきとりフードテイスティングパーク 全や連 総本店」の誕生を機に、それらをまとめたのが、本書『やきとり王国』である。書名は、日本各地の「やきとりの街」が、その地域の食文化を体現する「ご当地やきとり」の王国であることを示したものだ。また、かつては日本一を争っていたライバル同士が、今後は一丸となって「やきとり王国」づくりに邁進し、更に発展していただきたいという筆者の願いも込められている。
 第1章は「やきとりの謎を明かす」として、「やきとり」の定義や全国のやきとりデータ、「やきとり」のオモシロ雑学を集めた。第2章「やきとりの歴史をひもとく」では、「やきとり」と肉食の歴史、第3章の「ニッポンやきとりの街、探訪」は、ユニークな「やきとり」でまちおこしを図っている街と「ご当地やきとり」の紹介、第4章「聞き書き ニッポンやきとり人物列伝」は、七つの「やきとりの街」の店主と「全国やきとり連絡協議会」の事務局長のインタビューで構成した。巻末には、部位を解説した「やきとりメニュー小辞典」をつけている。
 本書を通じて、「やきとり」の大いなる魅力と蘊蓄を知っていただき、全国のやきとりファンのさらなる食欲と知識欲を増やすことができたなら、筆者望外の幸せである。

第1章 やきとりの謎を明かす
定義・やきとりの定義
定義・やきとり店の定義
定義・ご当地やきとりの定義
定義・やきとり作法の定義
やきとりデータ・日本一のやきとり都道府県は?
やきとりデータ・日本一のやきとりの街は?
やきとりデータ・日本一のやきとりの区は?
やきとりデータ・福井県がやきとり日本一?
やきとりデータ・肉食の地域差
やきとりの主役・脇役・タレと塩の違い
やきとりの主役・脇役・どうして備長炭を使うの?
やきとりの主役・脇役・地鶏とは?
やきとりの主役・脇役・銘柄鶏とは?
やきとりの主役・脇役・ブロイラーって何?
やきとりの主役・脇役・やきとりの串
やきトリビア・全国やきとり連絡協議会の歩み
やきトリビア・セカチョーって何?
やきトリビア・ご当地やきとりソング
やきトリビア・やきとりと酒の相性
やきトリビア・やきとりの薬味
やきトリビア・やきとりは俳句の季語
やきトリビア・やきとりの名の由来
やきトリビア・国技館の地下はやきとり工場
やきトリビア・やきとり日本一宣言の歴史
やきトリビア・浪速のエジソンのやきとり用皿
やきトリビア・世界のやきとり
やきトリビア・やきとり店を営んだ作家
にわトリビア・秋篠宮様は鶏研究の第一人者
にわトリビア・鶏の神社と絵馬

第2章 やきとりの歴史をひもとく
【全般】やきとりと肉食の関係
【古代】家畜の伝来と動物の埴輪
【中古】仏教の隆盛で肉食の禁忌
【中世】鳥食は雉子が主流、南蛮人の肉食
【近世】野鳥のやきとりが料理書に登場する
【近世】神社のやきとりと江戸時代末期の肉食
【近代】開化時の牛鍋と当時の肉事情
【近代】やきとり創世記
【近代〜現代】やきとりの普及と未来への指針

第3章 ニッポンやきとりの街、探訪
【北海道室蘭市】鉄鋼の街の室蘭やきとり
【北海道美唄市】炭鉱の街の美唄やきとり
【福島県福島市】復興の街の福島やきとり
[コラム]鶏肉・おいしさの秘密
【埼玉県東松山市】ベッドタウンの東松山やきとり
【愛媛県今治市】造船とタオルの街の今治やきとり
【山口県長門市】維新の街の長門やきとり
[コラム]坂本龍馬と鶏の関係
【福岡県久留米市】ゴム工業の街の久留米やきとり
【岩手県盛岡市】競馬の街の盛岡やきとり
【山形県寒河江市】さくらんぼの街の寒河江やきとり
【長野県上田市】千曲川の街の美味だれやきとり
【京都府京都市】稲荷の街の伏見やきとり
【香川県丸亀市】うちわの街のやきとり・骨付鳥
【愛媛県四国中央市】紙の街のやきとり・揚げ足鳥
【福岡県福岡市】屋台の街の博多やきとり
【福岡県北九州市】海峡の街の門司港やきとり
【宮崎県宮崎市】フェニックスの街の宮崎やきとり
【東京都千代田区】オフィス街のやきとりフードテイスティングパーク

第4章 聞き書きニッポンやきとり人物列伝
【北海道室蘭市】やきとりの一平・石塚和義さん
【北海道美唄市】美唄焼き鳥 たつみ・藤本和己さん
【福島県福島市】鶏料理専門 鳥安・安田雅樹さん
【埼玉県東松山市】やきとり ひびき・日疋好春さん
【愛媛県今治市】焼き鳥 まる屋・德永圭子さん
【山口県長門市】焼とりや ちくぜん・青村雅子さん
【福岡県久留米市】焼とり 鉄砲・木下敏光さん
【全や連】事務局長・樋口秀一さん

やきとりメニュー小辞典

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