哀しさや苦しさを共有し、救われていく物語
この短編集には4篇が収録されており、タイトルとなった「妻と行く城」は、病院に勤務する男性が、趣味で訪れていた現存天守のうち、まだ行っていなかった弘前城へ妻と共に行くことから物語が始まります。
これは、ちょっと不思議な雰囲気が漂う小説で、楽しい旅行をしながらも、夫はいつ妻がいなくなるか気が気ではなく、それは旅の終わりに現実になってしまいます。
夫は細胞検査技師という、患者から採った細胞を顕微鏡で見て、癌かどうかを推定診断する仕事をしていますが、ある日、勤務先の病院へ検査にきた妻が、手術を要するほど進んだ胃癌だとわかり、胃を全摘出します。しかし癌は数年後に再発し、妻はさまざまな後遺症に苦しみ、亡くなっていたのです。
それぞれの短編は、検査技師だった河村氏の経験をもとにフィクションとして書かれたものですが、医療現場にいた人ならではの視点があり、数年前、夫人を亡くした河村さん自身、癌治療に対して、誰にも言えない苦しさを抱え込んでいました。
いま、多くの人が癌によって亡くなっており、その治療を見てきた遺族たちは、さまざまな思いを抱え、長期間苦しむことが多いといわれています。この短編集を読むと、人は書くことで心の中の苦しさ取り出し、逆に読者は、読むことによって哀しさや苦しさを共有し、救われていくのではないか──そんなことを感じさせます。 |