東洋城の生き方と、支え続けた人々を描く
本書は、俳人であり、夏目漱石の弟子としても知られる松根東洋城(本名・豊次郎)の初の評伝です。
東洋城は、母方の祖父がもと宇和島藩主、父方の祖父がその家老という高い身分の家に生まれ、司法関係に進む予定でしたが、松山中学で英語教師の漱石に出会ったことから文学へと導かれることになります。
東洋城は上京後、教師を辞めて作家になった漱石の間近なところでその人間性に触れ、寺田寅彦、小宮豊隆、安部能成など、当時の知的エリートたちや同郷の俳人・高浜虚子らと交流し、さまざまなエピソードが生まれました。
また宮内省に勤めていた東洋城は、従妹で歌人の柳原白蓮(燁子)との恋愛が問題となり、一生「妻を持たぬ」と決め、職を辞して「渋柿」の主宰になります。
尊敬し、慕っていた漱石の死、関東大震災での被災、弟子たちの離反、戦争と、さまざまな苦難が次々に東洋城を襲いますが、俳句を続けるために自炊をしながら借家住まいを続け、つつましく生きていきます。
そんな東洋城も次第に老いていき、欠号することなく出し続けてきた「渋柿」発行が困難となり、ついに隠退しますが、郷里の人たちは、口うるさい反面、いかにも殿様然とした東洋城の気質を愛し、生活面の面倒まで見ていきます。「ホトトギス」に次いで長く発行されている俳誌「渋柿」が、なぜ今も続いているのか。本書は、俳句に徹した東洋城の生き方とともに、東洋城を支え続けた人々を描いた物語でもあります。 |