プロの料理人が書いたお酒の本
本書は、〝日本酒ブーム到来〟と騒がれるたび、特定の銘柄だけが脚光を浴びるものの、それも長くは続かず、消費量が低迷したままなのを憂えて書いた、日本酒応援団ともいうべきプロの料理人が書いたお酒の本です。
ただし、ご本人はややシャイな人なので、大上段に振りかぶった日本酒評論家のような言い方ではなく、落語に出てくる熊さん、八っつぁんのとぼけたやりとりを凸凹小咄と称し、季節季節の美味しい料理に合った銘柄を紹介してくれています。そして、ちょっと小難しい「うんちく」のところは「一言居士」ということで、八っつぁんがわかりやすく解説してくれています。
出版社としては、著者・保古将通(ほご まさみち)さんに、得意の料理の腕を振るってもらい、その写真と共にお酒の紹介などしていただければ、飲兵衛のバイブルになること間違いなし! と思ったのですが、それは時間も経費もかかるのでと、やんわり断られてしまいました。けれども、不思議なことにこの本を読むと、食べ頃の食材の話が出てきて、妙に食欲を誘われるのです。料理は舌で味わうものですが、面白いうんちくを知れば、さらにひと味違うという、不思議な効果をもたらしてくれます。
ところで八っつぁんは、時々、難しい四字熟語やことわざなんかをさらりと使いこなしています。カウンターを挟んで、通の客と料理人が交わすことばとは、こんなふうなのかなあと、なんだかお店でのやりとりを彷彿とさせる文章も、なかなか読ませます。
それにしてもペンネームに「ほご」を選ぶところなどはさすがです。瀬戸内の旨い魚の中でも、「ほご」の良さが分かるのは、大人ですぞー。 |