紫陽花で思い出すのは、愛媛にも関係のある医師で植物学者のシーボルトである。帰国する直前、所持品の中に国外に持ち出すことが禁じられている地図が見つかり、日本追放となった。 シーボルトは、紫陽花の新種に「オタクサ」と名付けた。自著で日本での紫陽花の通称名を付けたと記しているが、植物学者の牧野富太郎はシーボルトの愛妾・滝の名前ではないかと推察した。 牧野は、東京大学から理学博士の学位を授与された年、自分の発見した新種のササに、妻の名前を取って「スエコザサ」と名付けている。赤貧のなか、不平をいわず針仕事で牧野を支え続けた妻への感謝を捧げた。そのためか、牧野は、花の名前に花柳界の女性の名前をつけたとシーボルトを憤慨したという。 シーボルトと滝の間に生まれたのがイネで、孫はタカといい、大洲出身の三瀬諸淵と結婚している。どちらも、美人であった。
今治は、郊外にレンコン畑が多くある。蒼社川の下流は、水量が豊富で湿地帯でもあった。そのような土地でよく育つ作物として植えられたのが、レンコンなのである。今治のなかでも、鳥生(とりゅう)地方のレンコンはよく知られている。大正時代に、高山卯三郎氏がレンコンの栽培をはじめ、立花地区の特産として有名になった。卯三郎は、レンコン栽培の熱心さから「れんこんうーさん」と呼ばれていたという。その名前のついたレンコン焼酎「卯三郎」も、JA今治立花から発売されている。 7月を過ぎたころ、レンコン畑では、蓮の花のショーが始まる。美しい白い花が咲き誇り、その花を目指して蜂が乱舞する。花をよくみると、花芯にはレンコンの姿そのままに、穴が空いている。 レンコンは縁起物として、おせち料理にも使われる。穴の空いたところから、「先を見通す」との願いを込めて、食べられる。
愛媛では、栗の産地として伊予市中山が有名だ。この地を治めていた大洲藩主が参勤交代のおりに将軍に献上したと伝えられ、大振りの栗は「日本一」とも称される。 栗の花が咲く季節になった。山間部で、かすむように多くの白い花をつけるのが栗の木だ。しかも、強烈な匂いを放つ。男性の精液にも似た匂いだが、これは匂いの成分としてスペルミンを含んでいるためだ。しかも、栗は雌雄別花で、白く広がる花は雄花である。 スティーブ・マックイーンが出演した、フォークナー原作の「華麗なる週末」という映画には、マックイーン演ずる使用人が花満開の栗の下に主人公の少年を誘い、匂いをかがせるシーンがあった。原題は「The Reivers」で、泥棒を意味する古い英語。家族の留守中に、使用人が盗んだ自動車で旅した少年は、さまざまな世界に触れ、成長していくという内容である。少年から大人への道を歩み始めることの象徴として、栗の花を登場させたのだろう。 栗の花は青春時代をどこか想起させる。そして、なぜか恥ずかしい。