私がまだ大学生の頃。つきあっていた同郷の彼女と同居することになった。京都に置いていた荷物を移動させるため、今治から高速艇で尾道に着き、新幹線で京都へ向かった。 まず、高速艇が遅れた。新幹線の出発まで5分ほど。港から駅のホームまで懸命に走って、ようやく間に合った。ところが、新幹線も米子で自動車との衝突事故があり、約2時間の遅れが出た。いい気分になれないので、翌日にしようと彼女に提案したが、今日に済ませたいという。 引っ越しを頼んでいた友だちが急に手伝えなくなったというので、他の友だちにトラックの運転を頼んだ。目的地につくと、彼女が頼んでいた不動産業者が定休日。なんとか連絡をつけ、鍵をもらって荷物を運び込んだ。トラックを返却する時、レンタカー会社のすぐ近くで、タクシーと接触事故を起こした。 ふたりの生活は、最悪のスタートとなったのである。 それが理由かどうかわからないが、ふたりは半年ほどで別れた。私は失恋のショックで心を病んだ。 この日の事故の積み重ねは、守護霊からの警告だったのだろうか。
高校生から大学生の時代にかけて、金縛りによくあった。最初のころは、恐怖を感じたのに、馴れてくると、金縛りから解放されるための体勢や方法を考えるようになる。それを実践するころには、恐怖感がどこかに消えてしまう。人間は、学習する動物ということか。 金縛りの話を体験者に聞くと、頻繁に起る人は、私と同じような行動をとるようだ。人それぞれに方法は異なるが、私はもっぱら指に神経を集中させた。少しでも身体を動かすことができると、身体の自由が取り戻せるのである。 大学時代、京都の下宿で昼過ぎに寝込んでいると、金縛り状態に入った。金縛りが解けて、身体を横にしてうとうとしていると、また金縛りが襲う。これから逃れ、うつぶせで寝ているとまたまた金縛りだ。これが永久に続くのかと思うと、恐怖が心を満たした。 社会人になると、金縛りを体験することがめっきり減った。金縛りはレム睡眠時のバランスが関与するといわれるが、金縛りを呼び寄せるのは、社会への対応不安なのかもしれない。
40代はじめのころ。頭から、漬け物が腐ったような匂いがしたことがある。会社でも、上司から変な匂いがするから、気をつけるようにとの注意があった。 こちらは、何の匂いも感じない。まだ一緒に住んでいなかった嫁さんからも、風呂に入っても匂いが取れないと言われた。 そのころ、仕事がばたばたしていて仏壇に手を合わせていなかった。ある日のこと、仏壇を覗くと、献花の葉が枯れ、仏壇の周りを汚している。供物のリンゴは腐臭を放っていた。そのとき、家に来ていた嫁さんは「あなたの頭と同じ匂いがする」という。うちの母親は、掃除が好きではない。仏壇を放ったらかしにしていたのである。 ご先祖様が、仏壇の汚れを片付けてくれるように、仏壇の匂いを頭につけたのだろうか。仏壇を掃除してくれというサインが匂いだったのかもしれない。不思議なことに、仏壇を片付けると、徐々に匂いは消えていった。以降、頭から腐ったような匂いがすることもない。ご先祖様を敬い、仏壇をこまめに掃除するのは、大切なことだと思う。