奥白髪山

[所在地]高知県長岡郡本山町

[登山日]2000年12月9日

[参加数]3人

[概要]四国中部の名山である白髪山。剣山系の白髪山と区別するため、奥白髪山とも呼ばれる。ヒノキ、モミ、ツガなどの稀にみる良材の産地で、長曽我部元親から豊臣秀吉に献上されたり、窮乏した土佐山内藩の財政を上方への大量搬出によって一気に救済した「お宝」の山としても知られる。現在も大坂長堀(土佐材木問屋のあった場所、心斎橋の近く)の「白髪町」の地名にその名残を留めている。ヒノキの白骨樹の林立する頂上付近の風景はまことに特異的で、あたかも白髪頭を見るようであるが、ここに面白い伝説が伝えられている。「・・昔、白髪山に巨大なヤマネコが住んでいた。猟師が退治に出かけたところ、岩上に想像を超えた大きなヤマネコが現れ、大きな口を開けて一喝した。瞬間、山頂は風雲を呼び、あたりのヒノキの葉はふるい落とされてしまったという。それ以来、白髪山は枯れ木ばかりになった・・」(山中二男先生著 山と林への招待)。今回は、久しぶりの素晴らしい晴天の下、アルペンガイド「四国の山」(山と渓谷社)に紹介されている本山正面コースを辿ってみた。

[コースタイム]

  峰ヶ平林道登山口(7:50)―林道終点(水場)(8:25)―冬の瀬分岐(10:45)

    ―行川分岐(11:15)―頂上(12:00)・・昼食・・発(13:45)

    ―登山口(16:45)

[登山手記]前日の天気予報では快晴の予定。期待に胸を膨らましつつ目覚め、外を見ると、予想に反して星も見えず、山はガスに覆われ、なんか天気悪そ〜!・・・また女性軍がうるさいぞ、と覚悟して集合場所に急ぎました。案の定、ひとしきり小言を頂戴した後、高速に入り、高知自動車道「大豊」インターから一般道を本山町方面に進みます。まったくの霧の中で小雨もパラついています。ガイドブックでは帰全山からの登山が記されていますが、大元神社付近までは舗装された林道のため車で上がり、さらにダーティ路を耐えていくと、やがて「白髪山、きびす山登山口」と書かれた大きな看板があり、ここに車デポ。路面が、案外悪いので4WDでなければちょっとキツいと思います。普通車は大元神社付近に停められることをお勧めします(この場合は1キロほど林道歩きとなります)。さて私は、ここでいきなり「大キジ」を撃って女性軍の大顰蹙をかってしまいました。一人だけすっきりした気分で登山開始!15分ほど横掛け道を行くと細野からの林道に飛び出し、「きびす山登山口」の標識を横目で見ながら進むと、再び林道の分岐があって、右手の荒れた方を選択します。一応、小さな指導標がありますので見落とさないように注意してください。林道とは名ばかりの荒れようでイバラが多いので不快そのものです。やっと植林帯に入ると立派な登山道に変わりヤレヤレ。岩の間から清水がしたたり落ちていますので喉を潤してゆくとよいでしょう。少し小径を辿ったところからジグザグの上りとなります。このあたりから、ようやく雲の上に出て快晴の空が拡がりました。広大な雲海を隔てて、遠く梶ヶ森が美しく輝いているのが望まれ、3人でしばらくうっとりと眺めていました。急坂を登り切ったところに大きな指導標がありますが、植林の間伐による影響で道がわかりにくくなっています。道は標識の左手に続いています。標識の後ろ側に進まないように注意しましょう。それでも迷った時は、そのまま斜面を適当に直登してみてください。再び立派な登山道に行き会うことが出来るはずです!尾根を回り込むように登っていくと小さな沢を横切ります。北側には1089m峰が覆い被さるように迫っています。ほとんど水平道となり気を良くしながら進むと、突然、立派な林道に飛び出しました。大田羅集落から延びているもので、まだ建設途上のようです。林道のおかげで西側の展望はすこぶる良く、手前には昨年登った鎌滝山が鋭く聳え、遙か彼方には石鎚や手箱、筒上山まで認めることができました。北には、今から辿る白髪山がその全容を露わにして山上の白骨樹も認識されます。もう大感激で、何枚も何枚も写真を撮りました。

 ここで登山道はプッツリと無くなってしまいます。一旦、林道に下りて100mほど進むと、右手に、木道の懸けられた新しい登山口が発見できる筈です。ここは素直に林道を歩きましょう。かたくなに斜面を猛進するとスズタケの生い茂る緩斜面に迷い込んで道を見つけるのに難儀することになります。再び登山道に戻ると、しばらくは林の中の一本道です。高低差もなく遊歩道といった感じですが、次第に急斜面の横掛けになりますので、足下には充分注意してください。一部、ガレて道も崩れています。このコースを辿る登山者が減ったせいで、次第に道が荒れつつあるのは寂しい限りです・・。そして一気にジグザグの上りとなりますが、長くは続きません。息が切れてくる頃、ゆったりとしたコルを過ぎ、尾根の東側に回り込みます。そして1227m峰までは植林帯の緩急の繰り返しとなりますが、ここは頑張りどころです。痩せ尾根の急登を登り切ると風景が一変します。スズタケのなかにブナの大木が散在して、物音一つ聞こえず、幽玄な雰囲気があたりを支配しています。七戸分岐を過ぎると、まもなく「冬ノ瀬」分岐となります。ガイドブックの通りに、行川コースに合流するべく水平道を選択しました。広大な原始林の中を恐る恐る進みます。巨木が生い茂り、シャクナゲ群落が苔に覆われた巨岩にまとわりついて実に神秘的です。恐れにも似た厳粛な気持ちで、黙々と歩いていきました。ここのカンラン岩帯の特異な植生は、全国に誇れるものです。かって私たちの赤石山系も同じ様な原始林に覆われていた筈ですが、別子銅山の木材需要の為、全て伐採され今は残っていません。「ここは昔の赤石なのだ。」と思うと愛しさ百倍です。30分のほどの森林浴を楽しんで行川分岐に到着。近くに珍しい風穴がありますので見学していくと良いでしょう。昔の蚕繭の貯蔵庫?の廃墟となっていて一寸危険ですが・・。最後の200mの上りは、とにかくキツい。石段状の岩、岩、岩の連続です。いい加減ウンザリする頃、大きな一枚岩の横を過ぎ、展望が一気に拡がります。岩は「天狗岩」と呼ばれています。岩上で休憩するのも一興ですが、頂上まで、あとわずか。頑張って登り切って、12:00、遂に白髪山を極めました。

素晴らしい風景が、私たちをやさしく迎えてくれました。東の剣山系は遮るものは何一つない大展望です。矢筈山、黒笠山、丸笹山、剣山(双眼鏡を用いると山頂ヒュッテも確認できます)、三嶺、天狗塚、綱付森、白髪山、石立山、土佐矢筈山、小檜曽山・・と最近登った全ての山が静かにこちらを見つめています。南は太平洋がどこまでも霞み、西には手箱、筒上山まで、重畳たる四国の脊梁が続いています。4時間かけて登ってきた疲れも吹き飛んでしまいました。山に登れて本当に幸せだな〜、と心の底から感じることのできるひととき。特に、今回は20世紀最後の登山です。山が笑ってくれて本当によかったと、お互い喜び合いながら楽しい語らいの時間を白髪山の神様と心ゆくまで過ごしました。