明神岳〜国見山

[所在地]高知県長岡郡大豊町、本山町、香美郡土佐山田町

[登山日]2001年12月8日

[参加数]4人

[概要]このコースを歩くにあたっては、ぜひ2万5千分図「繁藤」をご用意願いたい。長大な1000m級の尾根歩きが一目瞭然に理解される。縦走途中の展望も、広い伐採の影響で概して良好である。「国見山」は土佐山内のお殿様が参勤交代の山越えをした由緒ある山。「明神岳」は頂上付近に巨岩が屹立する信仰の山である。最近は、四方八方から開発の林道が頂上まで迫りつつあるので縦走路も前半は林道歩きに終始するが、後半はまだまだ静かな山道を満喫できる。「三郷越」は縦走路の北部、まさに大豊郷、本山郷、(土佐)山田郷の三郷の境界に位置する峠で、近くの境界点の無名峰を「三傍示山」とも言う。昔は吉野川の流木を本山から引き上げ、山道に板を敷き、猫車を用いて多くの人が引っ張りながら三郷越を越え南の高知方面に送り出していたという。(「本山郷土史」(長野徳治氏著)、「土佐の峠風土記」(山崎清憲氏著)など)吉野川の下流がすべて阿波に流れているので仕方なかったのであろうが、膨大な労力を要したことは想像に難くない。そんな庶民の安全を見守ってきたお地蔵様だけが昔を静かに語りかけている。(写真は三郷越のお地蔵様)

[コースタイム]

  明神岳登山口(8:00)―明神岳(8:10)―三郷越(10:40)―

   ―国見山(11:50)・・休憩・・発(13:00)―登山口(16:00)

[登山手記]11月の「石鎚山系縦走」登山は悪天候のため中止。二ヶ月ぶりの登山となるため気象情報に気を揉んでいましたが、なんとか好天のようで一安心。6時に集合して高知自動車道を「大豊」インターで下り、国道32号線を高知方面に向かいます。しばらく進み、角茂谷駅手前、JAのガソリンスタンドを過ぎたところの道路壁面に「明神岳登山口」の表示があります。「これが車道か?!」と思うほど狭い道なのでちょっと緊張します。しばらく車道を登り詰め、ほとんど9合目まで達したあたりのNTT鉄塔下に車デポ。ここは道が5差路となっています。ネイチャーハント(NH)ガイドブックをご参照ください。8時、颯爽と登山開始。少し林道を行ったところから5分ほど登ると巨大な岩峰が行く手を遮りました。「天之御柱」と大きく刻まれています。以前はロックの修行場だったらしいのですが、ご神体にされてはもう安易には登れないですネ。剣山頂上の「宝蔵石」も以前は登山者の恰好の甲羅干し場だったのですが、今は登っていると神主さんに叱られます。さて、岩峰を過ぎると鉄塔の下に「明神岳」の頂上標識着。所要時間わずか10分。さすがNH初級コース。ま、こんなもんでしょ。微笑ましく貴重なNH点数となる記念写真に納まった後、「国見山」に向けて縦走開始。

 「天之御柱」まで戻り、縦走路を探すのですがよくわかりません。適当に稜線沿いに斜面を北へ下っていくと、左手に荒れた林道が並行しているのがわかります。しばらくは林道を進むことにします。今は使っていないようで、道にはカヤや背の高い雑草が生い茂りイバラも多く少々不快です。我慢しながら741m峰を回り込むと行く手の小ピークに向かって、まっすぐ防火帯がせり上がっているのが見えます。「あれを直登するのかな〜?ちょっとシンドイな。」と思いながらも進んで行くと、林道は終点となり、作業場の廃墟とおぼしき骨材が散乱している場所から山道に入りました。防火帯は通らず、ピークを迂回するように登り道が続いています。深く掘れこんだ古い道で、展望こそありませんが、心が和んできます。100mほど登りきって水平道に移行すると再び林道に飛び出しました。この林道は新しく立派なものです。帰りのため、この飛び出す場所をよく覚えておいてください!赤テープも指導標もなにもありませんから・・。もし不安ならば赤テープを用意しておくと良いでしょう。帰りに気づかず林道をそのまま進んだ場合、どこへ行ってしまうかは未確認です。くれぐれも注意してください。

 林道からは展望がすこぶる良好で、正面に国見山のやさしい山容が私たちを招いています。南に眼を転じると、眼下には「穴内ダム」の湖面が深く沈み、その向こうには広大な香長平野、さらにその向こうには茫々たる太平洋がどこまでも霞んでいます。双眼鏡を用いると特徴的な三宝山の「キャッスル展望台」もきれいに見ることができ、付近の伐採された明るい雰囲気とも相まって、のんびりとお弁当でも拡げたいハイキング気分がよく似合います。林道を辿って、878m峰を捲いてしまうと4本の林道の交錯するゆったりとした鞍部に到着。傍らに「皇太子殿下ご成婚記念」の標柱があります。さて、どの道を選択するか?・・正解を言えば、2本の林道の間に、斜面を直登する広い山道があるのですが、これを登れば赤テープに導かれながらススキの原を突っ切って、951m峰付近から地図に記された旧道をそのまま進めたのですが、安直にもっとも左側の林道を選択してしまいました。国見山まで林道が続いているような錯覚があったからです。しかし、その期待はもろくも崩れてしまいました。斜面を回り込んだ所で、林道はすぐに途絶えてしまったからです。「ああ、やっぱりネ。」とは思ったのですが後の祭り。また、引き返すのも面倒で、周囲の伐採斜面をいいことに稜線まで適当に直登することにしました。イバラが多く悲鳴を上げながら悪戦苦闘すること15分あまり。やっと樹林帯に這い上がると、稜線付近の立派な山道に巡り会うことができました。

ここから「三郷越」までは素晴らしい幅広い水平道が続きます。ピークも全て捲いているのでとても楽です。昔の生活道であったというのが良く理解できます。大木を引っ張っていたと伝えられるのも納得できます。おまけに落葉樹が多く、落ち葉を踏みしめる心地よさは何ともいえない快感です。みんなに再び笑顔が帰ってきました。一投足で「三郷越」10:40着。大岩の上に明治十五年建立のお地蔵様が迎えてくれました。やさしい良いお顔をされています。小休止後、90度方向転換して国見山に向かいます。頂上まで道は、はっきりしているものの灌木が多く、小枝がせり出してきていて半分は薮道です。夏場はかなり繁って不快であろうと思います。ところどころ境界標の赤いポールがありますので、確認しながら稜線を外さないように進んで下さい。展望は木の間越しに望める程度、はっきり言って大展望は、ただ一ヶ所を除いて無いに等しいと言えるでしょう。その一ヶ所は帰りの楽しみに取っておくとして、まず、ひたすら頂上に向かいます。以前は縦走路として整備されていたのでしょうが、また灌木が茂りつつあるのは遺憾です。NHガイドブックで縦走路の紹介をしているからには、もう少し刈り込みをして指導標などを整備してほしいと思いました。自分がする訳ではないので余り大きなことは言えませんが・・などと、ブツブツ言いながら登り切って11:50、国見山頂上着。傍らに古い展望台がありますが、登ってみても周囲の灌木が大きくなりすぎて南側しか展望は利きません。もし、北側が見えれば、お天気も最高なので石鎚山まで遠望できたのではないかと、とても残念です。「国見山」というからには、名前負けしないように360度の大展望を持ちたいものですよネ。北側もまだまだ土佐国の一部ですから・・。ぜひ大きくなりすぎた周囲の灌木を刈っていただきたいと重ねて当局の方々にお願いする次第です。よろしくお願いいたします。・・・まあ、それはともかく、結構長い縦走路、よく頑張ったネ!とお互いの健闘を讃え合い、頂上でのんびりとウドンを作り、誰もいない静かな時間を過ごしました。

13時、頂上発。下りはじめは注意してください。バカ尾根のため方向を間違えると、とんでもない南斜面に迷い込んでしまいます。私たちもうっかり違う斜面を下るところでした。稜線を外さないよう忠実に来た道を引き返してください。さて、北側の大展望が得られる地点は、国見山山頂と三郷峠とほぼ中間点、眼下に牧場のような大きな建物が望めるあたりです。ちょっとした岩場の縁を通る場所があるのですが、その岩に登ってみて下さい。素晴らしい、本当に素晴らしい展望が北に開けています。正面には白髪山、西は遠く沓掛、笹ヶ峯まで屏風のように四国の脊梁がそそり立っています。あそこも登った、あの山にも行ったね!とお互いの思い出を訪ねる感慨に浸ることができます。ぜひ、お見逃しなく!・・三郷越からはのんびりと稜線の道を辿っていきました。951m峰付近のススキの原は本当にいい雰囲気です。「今度は彼と二人で来たいね。」「女房、子供と遊びに来よう。」という声を背中に聞きながら、私はふと有名な次の句を思い出しました。彼のこころにある原風景も、きっとこんな場所なんだろうな〜としみじみ思いつつ、黄金に輝くやわらかな日差しの中を静かに下っていきました。

            遠山に日の当たりたる枯野かな   虚子