旭の岩屋

[所在地]愛媛県周桑郡小松町

[登山日]2000.1.9

[参加数]5人

 [概要]愛媛県周桑郡小松町石鎚地区 成薮(廃村)近くの山中にある珍しい鍾乳洞である。これについて記されている文献は極めて少なく、従って訪れる人もないようで、確認するまでに3回の探索を必要とした。山内 浩先生の「愛媛の山と渓谷 中予編」にわずかに「・・北谷を一キロほど登ったところに、愛媛県の鍾乳洞分布上めずらしい旭の岩屋と呼ぶ鍾乳洞があり、昔はここまで足を伸ばして勤行につとめる行者もあったという。」と記載されているに過ぎない。小松町役場に問い合わせても「あるのは知っているが、行ったことがないため詳細不明で、資料もない。」とのこと。周囲は全て三波川帯に属する結晶片岩で、普通では鍾乳洞など想像もできない場所であって、わずかに分布する石灰質片岩に形成された極めてユニ−クな洞窟である。それら地質学的な質問を「日本洞窟学会」に照会したところ、丁寧なご回答を戴いたので別に転載させていただく。洞窟は1mほどの高さで上下2段に分かれ、奥行きは20m余り。足下には湧水が流れ、くるぶし以上の深さがあるので、しっかりした登山靴か長靴を用意のこと。最奥部は2畳ほどの広間となっており、洞内の滝もあり、行場として最適と思われる。ランプを消せば、そこは真の闇。ただ独り、滝に打たれながら瞑想すれば、はたして何分耐えられるだろうか?洞前には祭壇が設けられ、今も信仰の対象となっており、洞内を荒らさないように慎重に行動したい。

[コ−スタイム]

 成薮(12:00)―旭の岩屋(13:00)

[登山手記]平成11年12月の「三ヶ森」登山に続く「旭の岩屋」探索は、時間切れのために無念の涙を呑みました。そのとき、ハンタ−が書いてくれた一枚の地図。それがなければ、まず発見することはかなわなかったでしょう。岩屋まで道標はおろか赤テ−プ一つありません。付近まで道は通じてはいますが、道から洞窟は見えないとのこと。ある目標を抑えることが発見の決め手となります。もったいぶって書いていますが、ここで、それを公開するかどうか迷いに迷いました。しかし、某テレビ局の思慮不足の報道で、今「笹倉湿原」が荒廃に瀕していることを思うと、やはり、無責任に道順を記載するのは控えることにいたします。洞窟には、すでに鍾乳石などは残ってはいませんが、小さな「洞内さんご」や「フロ−スト−ン」などが至るところに見られ、一度、それを荒らしてしまうと、再生には何百年、何千年を要します。さらに洞窟は、今も敬虔な信仰の対象となっているため、本当に「石鎚山」の宝物を拝観させていただく気持ちでお参りされる方々だけに訪れて戴きたいためです。どうしても道順を希望される方は、個別に「山の会」ichirota@shikoku.ne.jpまでご連絡ください。ハンタ−からもらった地図の要点をコピ−してお送りいたしましょう。

 さて、発見出来ず、鬱憤やるかたないメンバ−3人は、暮れも押し詰まった12月29日、仕事納めを利用して、再度、半日をかけて探索しましたが、やはり発見することはできませんでした。急斜面を、こちらの岩場、あちらの岩陰と血眼になって探しましたが洞窟らしいものはありません。岩もすべて結晶片岩で、石灰岩らしい混入もなく、わずかに転石の浅い岩屋が二、三、散在するだけで鍾乳洞には、ほど遠いものでガッカリしてしまいました。「やっぱり、根本的に場所を間違えているようだ。第一、ハンタ−の教えてくれた目標物の○○がここには無い。」・・夕闇迫る頃、ひとり違うル−トを取っていたT君からの無線が入りました。「○○らしき物が見える。ガスがかかって不気味だ。雪で足も滑る。残念だが引き返す!」と。そこは、まだ山道をずっと登った場所で、無線での様子はハンタ−の地図と一致します。クソ〜、時間がない!今度こそ!と思いながらも、肩を落として山を下るしか仕方ありませんでした。

 2000年を迎え、ミレニアム気分醒めやらぬ1月9日。「今年の抱負は?」と聞かれて「旭の岩屋の発見だ!」と答える最強男性軍5名で再々チャレンジです。天候は下り坂で石鎚も暗雲が懸かりつつあるため、急いでT君の確認した○○の場所まで脇目も振らず登って行きます。確かに目標として申し分なく、岩屋はこの付近にあると確信しました。そして5人の眼、5台の無線機を頼りに、思い思いに斜面を登って、遂に岩屋を発見しました。「これは、すごい!」・・・実際に見ていただかないと、この感動は実感されないでしょう。しばらく洞窟の前で立ちつくしてしまったほどです。ここだけは、本当に灰色の石灰岩で、周囲とは岩質がまったく異なります。清水が滾々とわき出ています。内部は狭いながらも人一人がはいっていける余裕があります。おそるおそる進んで行くと、途中、最も狭い場所があり、もうここまでか・・とあきらめかけますが、体を屈しながら、さらに奥の、洞内大滝のあるところまで挑戦してください。コウモリが一匹、冬眠していました。また、冬ではありますが、暖かいので、コオロギのような「ガロアむし」がはいずり回っています。滝は小さな穴から流れ落ちていて、これ以上は進むことができません。ヘッドランプだけでは少し光量不足で、できれば強力なサ−チライトを用意しておきましょう。滝の周囲には、女性の櫛や桶が置かれていて、今でも修行している人がいるのかもしれません。全員で一斉にライトを消すと、まっくら。眼を閉じても開けても、まったく同じです。5人でも不気味な威圧感に襲われ、10分と耐えられませんでした。・・明るいところまで引き返し、壁をよく観察すると、金平糖のような「洞内さんご」や、ろうそくの流れた跡のような「フロ−スト−ン」などが見られ、小さいながらも鍾乳洞の面目を保っているのが頼もしく感じられます。ひとしきり遊んで洞外に出てみると、いつの間にか雨が降り出していました。冷たい驟雨に煙る石鎚山系の山々が正面に望まれ、さすが秘められた聖地としての神秘的な感動に、体が震えるのを抑えることができませんでした。