[所在地]徳島県麻植郡山川町
[登山日]1998.11.15
[参加数]6人
[概要]徳島県中部に位置する山川町と穴吹町にまたがる名山で、その秀麗な容姿は「阿波富士」の異名をとる。頂上直下には高越寺が鎮座し、西の吉野山である意味の「西山上」の名とともに巨刹の名にふさわしい偉容を誇っている。この近辺を千数百年前に開拓した「忌部氏」の氏寺でもあり、近隣の人々がもっとも大事にしている象徴の山である。登山道は山川町役場に車を置いて南下し川田橋を渡って道なりに進むと一の鳥居があり、ここから頂上まで「表参道」と呼ばれる立派な山道がえんえんと続いている。途中の「中の郷」には、万代池と呼ばれる池塘があって疲れた体を癒してくれる。近くにある「覗き岩」に行ってみるのも面白い。後は巨木の林立する自然林をつづら折れに登り切ると、突然、巨大な山門がわれわれを威圧する。そして門をくぐると壮大な境内が眼前に展開する。頂上は高越寺の鐘楼脇から少し登った高越神社の高台にある。修行姿の弘法大師様が、やさしくわれわれを待っていてくれている。
[コ−スタイム]
山川町役場(8:00)―一の鳥居登山口(8:30)―中の郷(10:00)―高越寺(12:00)―高越寺頂上(12:30)・・昼食・・発(14:00)―登山口(16:00)
[登山手記]お天気も最高で暑いぐらいの陽気に、嬉しさがこみあげてきます。山川町役場の広い駐車場に車を置かせてもらい、車道を南下して、「阿波和紙会館」の標識の先にある三叉路を右折します。ほどなく川田川にかかる川田橋を渡り直進して懐かしい酒屋(今でも升酒を飲ませてくれそうな雰囲気です。上戸の方はここで燃料を補給してもよい。わたしたちの一人も補給完了!)を過ぎると、ふたたび四差路に突き当たります。さらに直進して狭い里道を道なりに進んでゆくと集落の奥まったところに「一の鳥居」がそびえ、そこがすなわち登山口です。以前のガイドブックには、鳥居が遠望できるように記されていますが、新しい家が増えて近くまで行かないと見えませんので注意してください。ここまで標識など皆無なので、わからないときは人に尋ねた方が早いでしょう。鳥居の横には高越寺住職の立派な邸宅があり観音堂に参拝してから、いよいよ登山開始です。
「表参道」とよばれ古代から踏みしめられてきた道は、頂上まで迷うようなところもなく黙々と登ってゆくのみです。阿波富士の名の通り富士山型の山なので、行きの登り一方と帰りの下り一方の登山道は、標高差1000mあまりとはいえ、かなりキツく最後は「キテル、キテル!」の連発となるでしょう。登り初めてしばらくは掘り割りのようなうっとうしい道。しだいに露岩の混じる植林地帯となると山川町から吉野川まで展望が開けてきます。この付近は雨が降ると滑りやすそうなので要注意。これを登り切ると尾根に沿うようになり、高圧線の下を過ぎるとほどなく広い林道に飛び出し「中の郷」に到着です。右に進むと新しい鳥居があって、万代池のほとりでゆっくりと休憩しました。付近はなにか造成地のように整地され、やや違和感がありますが広場から北の展望は最高です。悠々たる吉野川の流れは特に印象的でした。さて、ガイドブックによると近くに「覗き岩」と呼ばれる行場があるとのことなので、「行ってみよう。」と池の周囲を探しますがよくわかりません。ウロウロしていると地元の登山者が登ってきて親切に教えてくれました。ラッキ−でした。まず、池の東(登山道脇の小さな祠を過ぎたところ)から見下ろすと、すぐ下に林道が走っているのが見えるはずです。古い木の階段を伝って林道に下り、左手に200mほど進むと「覗き岩入口」と書かれた標識が見つかります。ガ−ドレ−ルの切れ目から藪道を20mほど進むと「覗き岩」に到着です。畳二畳ほどの平岩ですが、向こうは十数メ−トルの断崖となっていて、遙か下の「高越の里」や紅葉に輝く山頂が一望できました。そして何よりも目を見張ったのは、岩の二カ所に鉄梯子が取り付けられていることです。おそるおそる下をのぞくと、途中で曲がってオ−バ−ハングになっていて、ちょっとこれを下りて行く勇気はありませんでしたが、身の軽い方は上り下りしてみるのも面白いかもしれません。ただし、命の保証はありませんのでご了承ください。
満足して登山道に戻り、ここから再びつづら折れの山道が続きます。呼吸を整えながらゆっくりと登ってゆきますが、参加していた女の子が急に足の痛みを訴え、お母さんと一緒に途中でリタイアする事態が起こりました。どうするか悩みましたが2人で下で待っている、とのことなのでお母さんに一任して、他のメンバ−は登山を続けることになりましたが、後から思うとちょっと冷たかったかもしれません。少なくとも男性一人は2人に付き添って下山すべきだったかも。もっと深い山では全員の行動中止も念頭にいれなければならないでしょう。楽しい登山を中断することはガックリすることですが、それをすることが、山内先生のいう「お互い助け合い親切にして、思い出に残るいい山登り」の一つなのだと思うと、赤面の至りでした。なかなか行い難しであると反省しています。このなんともいえない後ろめたい気持ちはいつまでも残ってしまいますものネ!
さて、自然林に囲まれた幅広い登山道を一時間あまりで高越寺の「赤門」に到着。いかめしい西洋風の門は、昔は女人禁制の象徴であったようで、女人結界の境界でもあったわけです。門の傍らには禁を犯して入山する女人をチェックするための番小屋も崩れかけて残っています。すぐ下の古い女人堂とともに、そんな古い風習は永遠に朽ちてゆこうとしています。赤門を過ぎると寄進石が建ち並び、すでに境内を思わせます。そして道が緩くなると突然、巨大な山門が目の前に現れました。見上げる角度にも関係しているのでしょうが「うわ〜、なんだ〜!」と思わず叫んでしまう巨大さが、この山門にはあります。石段を登り切って山門をはいると高越寺境内です。錫杖塔が金色に輝き荘厳な雰囲気で、ゆっくりと参拝の後、鐘楼脇の木の鳥居から頂上を極めます。途中、高越神社のかたわらに巨大な杉の古木があって圧巻です。そして12時30分、やっと1122mの山頂に至りました。弘法大師様が秋の風の中に静かに佇んでおられて高越山にふさわしい頂上でした。頂上からは「入峰道」と呼ばれる岩場の混じる行者道を通ってお寺に帰ってきましたが、途中、落ち葉に一面覆われた奥の院付近の静かな佇まいは忘れがたい美しさでした。お寺には立派な休憩所が設けられ寒いときは本当にありがたいのですが、今日はすがすがしい日よりなので、戸外のベンチでおうどんの昼食を摂りました。ここからの展望は山川町方面だけでしたが、双眼鏡を用いると山川町役場に停めてあるわが愛車も認識できて、とても楽しいひとときでした。お寺にはお守りをはじめ、高越山の詳しい解説書も用意されているので、興味ある方は求められると良いでしょう。ゆっくり休憩の後、14時、下山にかかりました。先に下りた二人のことも気になるので、途中「中の郷」で小休止しただけで一気に下りましたが最後は膝が笑って仕方ありませんでした。「一の鳥居」から役場までは疲れた足にはかなりこたえて、トボトボと歩いて行きましたが、川田橋のところまで二人が車を移動してくれていたのでとても助かりました。再会を喜び合い、詫びを言ってから「土柱休養村温泉」でゆっくりとお風呂に入りました。ここの湯舟からは高越山がことに美しく望まれるのでみんな大喜びでした。そして夕闇に包まれる頃、新居浜に向けて帰路に就きましたが、高越山上に点るエメラルドグリ−ンの美しい灯びが、遠く静かに私たちを見送ってくれました。