菖蒲峠〜高森

[所在地]愛媛県西条市

[登山日]1998.12.19

[参加数]3人

[概要]「荒川山」と「東の川」の境界をなす高森。すぐ南の「カゲチの頭」と綺麗な双耳峰をなす。西条市方面からは瓶ヶ森の手前に割と近く認識される。菖蒲峠は古くからの往還で、「西条誌」には「東の川と、荒川山の境界なり。荒川山より菖蒲迄の間二里程あり。・・これを登れば、いわゆる菖蒲峰にて・・右に行けば東の川山、左に登れば、御滝竈,竈が森を経て、瓶が森の絶頂に至るなり云々」と記載がある。菖蒲峠は下津池方面から林道が延びて車で快適に上れるが、今回は東の川からの旧道を歩いてみた。今はほとんど使用されることもなさそうだが、しっとりとした静かな良い道である。菖蒲峠から林道を少し辿ると索道場のところに「高森」への小道があるが、こちらは伐採地の中で消えてしまっている。あとは茨と倒木の中をひたすらヤブコギしてゆくのみ。

[コ−スタイム]

東の川(8:40)―菖蒲峠(10:30)―林道登山口(11:10)―高森(12:20)

 ・・昼食・・発(13:30)―菖蒲峠(14:40)―東の川(16:00)

[登山手記]「新雪が少しでもあるといいね。」と期待して結構、重装備で準備したのに、なんのことはない。ほとんど秋山の風情で雪のかけらもありません。最近の暖冬傾向は確かに異常で、これもエルニ−ニョの影響なのでしょうか。それとも「地球温暖化」が本当に現実になってきているのでしょうか。もし後者なら恐ろしいことですよネ・・・。などと議論しながら順調に「東の川」着。石鎚山系の最奥の村として、そして長宗我部氏残党の伝説の村として、わたしたち自称山男、山女のこころのふるさとの一つです。まだ人が住んでいるのも頼もしく感じます。集落の石段道を登って行くと、すこし平坦になったところに「瓶ヶ森へ」の白い標識がありますが、よく見ると手書きで「菖蒲峠へ」となぐり書きされています。気がつかないと瓶ヶ森に進んでしまいますので注意が必要です。私たちも最初は行きすぎて、あわてて帰ってきました。その方面に進むと、最初はガレた暗い斜面でお墓があるのも気を重くします。道があるのだろうかと不安になります。喘ぎながら細道を10分ほど登って行くと小さな尾根の突端にでますが、ここからは道の様子が一変します。落ち葉に覆われた幅の広いしっかりした山道は、何百年にもわたる人々の行き来を物語るものでなんともいえぬ安心感をわたしたちに与えてくれます。整然とした植林地帯ですが、ブナなどの自然木も豊富に残っていてしっとりとした本当に良い道で嬉しくなってきます。登るにつれて右手に長い稜線が見えてきますが、これが「菖蒲尾根」で瓶ヶ森に続いています。以前は「日の出鉱山」をはじめとして多くの小鉱山が稼業されていたそうですが、今は想像することもできません。そこで体験した「天狗倒し」の恐い話が伊藤玉男氏の「山のはなし」(環境庁長官賞表彰受賞記念祝賀会事務局 発行 1994年)に載っているのでご覧になってください。道はゆったりと、次第にスズタケが生い茂り、私たちの靴音以外聞こえるものはありません。道の傍らに大きな穴があるところを過ぎますが、あれは古い間符(坑道跡)なのかもしれません。なにか出てきそうで女性は気味悪がっていました。

 木々の高さが低くなり、空が広くなってくると、突然、場違いの広い林道に飛び出しました。菖蒲峠です。ダンプカ−でも充分、方向転換できるような広場にはちょっと失望してしまいましたが、ここから東に拡がる黒森山から笹ヶ峰、寒風山までの大パノラマは圧巻です。瓶ヶ森方面にも林道が延びていますが、ここから見る石鎚山はまさに一幅の絵のようでした。今度は、もう少し早めに出発して菖蒲尾根沿いに瓶ヶ森へ縦走したいと思っています。峠の片隅にはお地蔵様が祀られていますが、「石鎚連峰と面河渓」(秋山英一著 昭和10年)には「・・一時間程進むと菖蒲越に着く。ここでは五ツの道が落ち合っている。・・南を向いて道の右側にぶなの老樹がある。二かかへ半もあらうか、すぐ側に石地蔵がある。・・此の峠から石鎚山が見える。西の川の人家も、土小屋の笹原も、岩黒山も。」とあり、ぶなの大木亡き今は唯一、昔日を偲ぶよすがとなっています。さて、林道を左手に進んで尾根を回り込むと「高森」の頂上が目前にみえます。索道場があり、おじさんが山仕事をしていたので聞くと、「そこが登山口だ。」と教えてくれました。なるほど、索道を過ぎてすぐのところにジグザグの小道がついています。しかし伐採地の急斜面で50mほど登ると道はなくなってしまいました。あとは稜線をめざして適当に斜面を這い上がっていきますが、日当たりの良い伐採地=茨道、というのはこの辺の常識です。手袋なしでは、まず耐えられないでしょう。今日はハンガロンを用意していたので問題はありませんでしたが、ツル性の植物に足を取られ、倒木が交錯して意外に時間がかかってしまいました。稜線に出ると、なんと赤テ−プと小道があるではないですか。菖蒲峠から「カゲチの頭」を越してくる稜線沿いの道があるのかもしれません(お地蔵様の脇に確かに道の痕跡がありました)。さすがにここだけは自然の灌木と露岩が趣をつくる深山の風情が残っていました。そして、振り返ると「瓶ヶ森」が紺碧の空の中で美しく輝いていて、今日の最高の景色に巡り会うことができ満足でした。稜線の行き着く先が「高森」のピ−ク。12:20極めることができましたが、三角点標はあるものの展望もなくひっそりとしていました。木々の間を透かして新居浜方面も見えましたが労災病院を見つけることはついにできませんでした(病院からははっきりと高森の頂上が見えているのにな〜、残念!)。それでも静寂の中で、楽しくラ−メンの昼食のあと、元来た道を引き返しました。稜線を伝って「カゲチの頭」に登り返すのも面白そうでしたが、今回はしませんでした。伐採地の下りはふたたび大変でしたがすぐ下に林道がみえているので安心です。視界がないときはちょっと不安になると思います。そして、あいかわらず仕事をしているおじさんにお別れを言ってから、のんびりと菖蒲峠までダベりながら歩いていきましたが、すでに頭の中は、次の菖蒲峠から瓶ヶ森への計画の虜となっていました。

 追:「高森」はガイドブックにはほとんど記載がないので、位置がわかりにくいかもしれません。「新版・空撮登山ガイド 四国・九州の山々」(山と渓谷社 1996年)15ペ−ジの瓶ヶ森を中心とする空中撮影をみていただくと、だいたいのところがおわかりいただけると思います。)