高越山

[所在地]徳島県麻植郡山川町

[登山日]1999年1月15日

[参加数]2人

[概要]一つの山でも、違う季節(いや、違う日でも良い)、違うル−トで登れば、それは、もう別の山である。わずか二ヶ月前に登った山とは思われない冬山の静寂がそこには在った。ヴァ−ジンスノ−を踏みながら静かに進んでゆくと、神様の国に迷い込んだような錯覚に陥ってしまうが、本当に神様の国に行ってしまわないように注意しなければならない・・。今回の楽しみの一つは「薬師岳」と呼ばれる”鎖の行場”を見つけることである。「高越の里」を経て車で登った場合は、駐車場と寺の途中にあるので見逃すこともないが、「表参道」を経て登山した場合は、山門の左手に続く水平道を10分ほど寄り道しなければならない。小さな新しい鎖場だが、垂直に垂れる鎖の昇降は思ったより難しい。

[コ−スタイム]

 登山口(8:40)―覗き岩(10:00)―中の郷(10:15)―赤門(11:25)

 ―薬師岳―高越寺(12:40)―高越山頂(12:50)・・昼食・・発(14:20)

 ―登山口(16:00)

 

[登山手記]二ヶ月前の登山の時、途中でリタイアしたお母さんがいました。今年に入って、なにか落ち込んでいるようです。聞くと友人が重い病気とのこと。どこかでお守りでも求めて授けてあげたいと涙ぐんでいます。「それじゃあ、あの高越山にもう一度登って一緒にお参りしてこようじゃないか。」と無理に誘って今回の登山となりました。一月はなにかと会員も忙しくて結局、参加は二人だけとなりましたが慣れた道なので意気揚々と山川町役場を出発です。しかし天気は最悪で山上は暗雲が垂れ込めて雪が降っているようでちょっと不安です。風も強く手袋を着けていないと指先が凍えてしまいそうです。しかし、願掛けのお参りにはこれくらいの厳しさが望ましいのかもしれません。ここ高越山は、毎月登山している「月参り」の信者も多いとのことで、続けて二回ほど登ったところでわれわれなどはまだまだヒヨッコに過ぎません。中の郷に到着する頃から大粒の雪に変わり、あっという間に積もり始めました。「万代池」も凍り付いて寒々とした風景が拡がっています。「覗き岩」も降りしきる雪の中で恐いほど静かな佇まいを見せていました。あとはしっかりした登山道を黙々と登っていくのみですが、周りの巨木の見事な樹氷のえも言えぬ美しさにはしばし唖然となりました。順調に「赤門」11:25着。下の旧女人堂や、門の脇の監視小屋など女人禁制の過去の遺跡を彼女に説明すると「そんな女性蔑視はもってのほかだよ!潰れてしまって当然」と納得していましたが、すぐ上に新しい「新女人堂」があるのを知ると「結局は何も変わってないじゃない!」と私に噛みついてきました。とんだとばっちりですが、「すいません。」と謝るしかありませんでした。

 さて、山門の大きさに再び感嘆の声をあげ、山門の横に続く水平道を進んで行きました。新雪がくるぶし付近まで積もり、そのフワフワの感触をゆっくりと楽しみました。今日は、車での参拝者もさすがにおらず、お互いの話が途切れるとまったくの静寂があたりを包みます。そうこうしていると、道の右側に立派な薬師如来が祀られ、その傍らに太い鎖がぶら下がっています。ここが「薬師岳」です。「岳」というからには小山でもあるのかと思っていましたが、岩の露出した急斜面で、一番上には不動明王が鎮座し、そこまでほとんど垂直に鎖がつながっています。高さにして十数メ−トルに過ぎませんが結構、腕力が要求されます。お互い挑戦しましたが、雪で岩と鎖が滑りまくって途中で挫折してしまいました。「今日のコンディションでは無理だ。」と言い訳しましたが、最近の運動不足によるお尻の重さが第一の原因であることは言うまでもありません。「薬師岳」といい「覗き岩」といい(さらに赤門付近に「せり割り岩」があるそうですが未確認です)さすがに「西の吉野山」とよばれる修験道のメッカだけのことはあると真に感心してしまいました。

 山門にもどり、そこを抜けると「高越寺」境内です。雪化粧した本堂や錫杖塔が神秘的にそびえ、二ヶ月前の雰囲気とはまったく異なって恐ろしいほど気高い霊気を感じます。多くのお堂の前で、覚えたての般若心経をお唱えして友の病気平癒をお祈りしました。そして、前と同じように鐘楼の脇から頂上を極めましたが、毅然とたたずむ弘法大師様も雪をかぶってこころなしか厳しい表情をしておられました。入峰道を回ってお寺に帰り、立派な休憩所の中で、おうどんを食べましたが、スト−ブにも火がはいっていて暖かく、ただただ感謝するばかりでした。外は風が出て吹雪のようになっているのでなおさらでした。ゆっくりと体を温めてから14時20分、下山。あれほど山上を吹き荒れていた吹雪も下りるにつれて小雪となり、ふもとでは小雨に変わり、たかだか1000メ−トルあまりとは思えない孤高の山の厳しさを感じることができました。そして最後に山川町役場から、あいかわらず暗雲が垂れ込めている高越山に一礼してから新居浜に向かいました。

 追:「高越大権現」の霊験のおかげか、その後、彼女の友達も快方に向かいつつあることを付記して筆をおきます。