苦土橄欖石

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 2007年、日本地質学会に衝撃が走った。名古屋大学と東京大学の研究チームが、愛媛県宇摩郡新宮村において日本初のダイヤモンドを発見したというのだ。新宮村には黒色片岩を横切るアルカリ玄武岩が貫通しており、その捕獲岩である苦土橄欖石の中からラマン分光によって同定されたという。皆川鉄雄先生の「四国産鉱物種」にも、2008年版から愛媛産ダイヤモンドの概説が「アルカリ玄武岩は地下深部でマグマが発生し、しばしばマントル物質を捕獲していることで知られている。滑川と新宮において、泥質片岩を貫く1m程度の岩脈として露出しており、新宮の岩脈からダイヤモンドが発見された。」とあって、「T.元素鉱物」のNO.1に記載され、2010年版からは、さらに「Diamond group」として「元素鉱物」の中でも独立した分類となった。

 肝心のダイヤモンドは、苦土橄欖石の中の輝石に含まれる60気圧ほどの二酸化炭素の小さな泡の壁面部分から見いだされ、大きさは約1μm、細菌よりやや小さめの結晶体で、光学顕微鏡ではギリギリの分解能のため、視覚的な確認にはおそらく電子顕微鏡が必要となるだろう。今回は顕微レーザーラマン分光という分光学的手法を用いて、ダイヤモンドに特有の 1331cm-1 (カイザー)・・すなわち波長約7.51μmの赤外蛍光ピークを確認したことで同定できたということだ。

 もともとダイヤモンドは、マントルの高温高圧な環境でしか生成しないため、火山活動や急激な地殻変動によって地表に運ばれたものだけが我々の目に留まるので、世界でも限られた地域でしか採取することはできない。おまけにマントルとの距離が近かった造山運動以前の古い地質に多く、比較的地層の新しい日本では存在しないと従来は考えられていた。しかしエクロジャイトなどは、マントル層からなんらかの浮力によって急激に浮かび上がった特殊な岩石なので、日本で最初にダイヤモンドが発見されるとすれば、おそらく愛媛の東赤石山系であろうと素人ながらに思っていただけに、新宮の玄武岩中というのは正直なところ、ちょっと以外でもあった・・

 そういうことを踏まえて、この標本を見てみると、確かに母岩は濃い茶褐色の緻密な構造で、捕獲岩と思われる電気石、石英、ルチルなど多彩な鉱物片を含んでいる。オリーブのような緑色調のガラス質の部分が苦土橄欖石(矢印部分)で、その輝石の一部からダイヤモンドが見つかった訳である。この標本にダイヤモンドが含まれているかどうかはわからないので、さすがに“ダイヤモンド”と銘打って紹介することは憚られるのだが、発見された玄武岩標本と同じ露頭、同じ岩石と言うことで、“宝くじ”のような心躍る“夢”を買いたいと思っている。また、3枚目の写真はルチルと思われる鉱物で、独特の金剛光沢がすぐ上の電気石とは明らかに一線を画している。これがルチルだとすれば、「含チタン斜ヒューム石」の項で述べたように、マントル層の圧力や物質の累帯配列を知る上でも大変興味深いことであろう。ちなみに蛇足ではあるが、同じ玄武岩とダイヤモンドの組み合わせで有名なハワイのダイヤモンドヘッドの名前は、19世紀に山上で見つかった方解石をダイヤと間違って世間に広まったとも、昇る朝日の美しさがダイヤの輝きに似ているからとも云われ、実際のダイヤモンドとは無関係のようである。

 

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                          (発見されたダイヤモンドの参考画像。下記の水上知行博士解説より転載)

 

以上、他人の発見に関する又引きばかりでは心苦しいので、愛媛のダイヤモンドを初めて分析された水上知行博士の紹介HPを含め、IT上の主な解説を以下に列記しておく。これらを一読されれば、今回の発見がいかに素晴らしいかを改めて認識されるだろう。「日本の天然ダイヤモンド」(金沢大学 水上知行) 「日本で初めてのダイヤモンド発見」(東京大学) 「日本で初めて天然ダイヤモンドを発見」(科学ニュース) ・・・・・ さらに国立科学博物館では、2007年にさっそく今回の発見となった分析試料や鉱物標本を公開展示して広く啓蒙に努め、訪れた研究者や一般の鉱物愛好家の絶讃を博したという。素早い中央のタイムリーな対応がこの発見の重要さを如実に物語っているようだ。それに較べると地元愛媛の異常なまでのこの静謐さはどうしたことであろうか??誰もそんなものには関心がない、と言ってしまえばおしまいなのだが、せめて公立の博物館や施設での展示や説明があってもしかるべきではないだろうか・・エクロジャイトとダイヤモンドの存在だけでも、謎の多いマントルの構造や構成物を解明する日本唯一の場所と考えて間違いはないと思うのに、ジオパークや天然記念物に指定されることもなく、産地がいたずらに乱掘による荒廃に瀕している事実は、長年に亘る地方の科学行政の貧困さが招いた当然の帰結というべきかもしれない。地震国であればこそ、中央では巨額の費用を投じた深海調査や、マントルまで到達予定の海底掘削船「ちきゅう」が日本直下の地質構造を明らかにしようとしている昨今、陸に居ながらにしてマントルの探査ができる稀有な四国の宝を、もう少し積極的に活用し研究に資する地元の熱い姿勢があってほしいものである。

 

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                      (映画「センター・オブ・ジ・アース」のフォトギャラリーより

                                 小生にはどう見ても、インディジョーンズの一場面にしか見えない・・)

 

最近、小生は奇しくも、地底のダイヤモンドを扱った映画を、テレビで、2本立て続けに見たので参考までに紹介しておこう。1本目は「ザ・コア」という地球の危機を描いたSFパニック映画である。地球のマントル対流が急に止まってしまったために地球を取り巻く磁力線が弱まって、宇宙から有害な宇宙線や太陽風が降り注ぎ人類が滅亡寸前まで追いつめられるという設定である。核爆発の力でマントルを再び回すために、耐熱型地下探査艇で地底深く下りてゆくのだが、途中で巨大なダイヤモンドの浮遊層にぶつかり船体が少々破損する場面がある。CGの効果も素晴らしく高温のマグマの中を進む船体が超リアルに描かれている。もう1本は、「センター・オブ・ジ・アース」という日本初の3D型SF映画の大作で、原作は「海底2万哩」で有名なジュール・ヴェルヌの「地底旅行」である。父親の消息を求めて、地底を探検するというストーリーで、ダイヤモンドが燦然と輝く坑道を進んでゆく場面がある。地底には巨大な海があって、見たこともない動物や巨大なキノコが登場し、幻想味溢れる19世紀的郷愁を感じることもできる。圧巻はなんといっても地底からの脱出である。マグマの上昇で身に危険が迫るが、周囲の岩が凍ったマグネシウムの塊であることに気づき、たいまつ?でそれを発火させ、その爆発による水蒸気圧で、火口から飛び出て来るという奇想天外な映像にはさすがに笑ってしまった。おまけにそのまま火山の斜面を滑りながら“ブドウ畑”を踏み潰し、最後には畑の持ち主からさんざん罵声を浴びせられるが、ポケットに残っていた地底の大きなダイヤモンドを渡して一件落着になるという喜劇的結末に少々唖然となった次第。些か“お子さま”向き映画だけに、東京のディズニー・シーには、この物語のアトラクションもあるというから驚きだ。双方とも或る程度の科学的根拠には準拠しているそうなので、条件さえ整えばダイヤなど地底ではゴロゴロしているのかもしれない。地球外でも、木星の中心部は金属水素やダイヤモンドで出来ているという説もあるし、水素とヘリウムでできた恒星も老いるに従って、鉄を中心に周期律の軽い順番に向かって元素が層状に並ぶので、温度と圧力の条件によってはダイヤモンドの層ができることが、相対論的な星の圧力平衡公式(トールマン−オッペンハイマー−ボルコフ方程式やチャンドラセカール限界条件など)から導かれるというのだから、案外、宇宙では普通に見いだされる物質なのかもしれない。

 

しかし、ダイヤモンドなんか宇宙では珍しくもなんでもなく、ごくツマらない石ころだと言ってみたところで、世のご婦人の欲望を止める抑止力には到底なりそうにもないのだが・・・地球の、それもダイヤモンドの少ない地表に男性として生まれたことを恨むしかないのだろう!?・・

 

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