水銀安四面銅鉱
別子銅山の稀産鉱物の中でも、まず超弩級といえるのが、この水銀安四面銅鉱(シュワーツ鉱)である。シュワーツ鉱 (schwazite) の名は、中世よりヨーロッパの銀産出地として知られていたオーストリアのチロル州シュワーツで産出したことに由来する。安四面銅鉱または砒四面銅鉱に、少量の水銀を含む亜種名として使用されている。別子銅山では筏津坑で確認され、「住友別子鉱山史」にも記載があるが、当時は「住友金属鉱山非公刊内部資料」として外部発表は控えられていたようだ。「日本地方鉱床誌」には「筏津では含水銀四面銅鉱が層状含銅硫化鉄鉱体の盤際に後期の晶出物としてみられる。また白滝鉱山においては、源坑〜白滝坑の新期断層帯付近の派生断層や亀裂中に辰砂を産出することが明らかにされた。」とやや詳しく記録されている。
さて、この標本であるがキースラガーの表面を、黒光りする安四面銅鉱が覆う形で晶出しており、それ以上の肉眼的特徴はみられない。ところが、下段はホリミネラロジーで蛍光X線分析をしてもらった結果であるが、明らかにHg部分にピークを有しておりシュワーツ鉱であることが証明される。となりには砒素のピークも認められるので安四面銅鉱と砒四面銅鉱の混合物であると考えられる。そうしたことを踏まえた上でなめるようにルーペで観察してゆくと、赤い矢印付近にやや赤みがかった粒状物が付着しているのに気がついた。写真では小さすぎてよくわからないが、「これは辰砂ではないのか??」・・もし辰砂とすれば白滝鉱山と同じ形態ということにもなるのだろうが、さて如何だろうか?また、ご教示いただければ幸甚である。
標本は1cmほどの小さなもので、カッターでの切断面もあり、たぶん分析に用いられた片割れであろう。四国から遠く離れたある鉱山事務所に保管されていたものだという。これも安四面銅鉱と同じくI氏とS氏のご厚意で小生の手元に収まった訳だが、カロール鉱、輝安銅鉱と並ぶ日本を代表する愛媛の稀産鉱物の白眉中で白眉である!!よくぞ愛媛にもどってきてくれたものだと感慨深く想いながら、日々、飽くこともなく慈しんでいる。