閃亜鉛鉱
千原鉱山産の閃亜鉛鉱である。別子銅山からも形態さまざまな亜鉛鉱を産するが千原鉱山の場合は、やや趣を異にするようである。皆川先生は、「愛媛石の会」会誌第5号(1994年)の中で「千原鉱山:石灰質片岩中に粒状をなす閃亜鉛鉱。一種のスカルンであり、紫外線で黄色の蛍光を発する。赤鉄鉱、黄鉄鉱も多産。また河床にはカラミが散在。」と述べられている。この写真の通りである。確かに、小生がいままで別子鉱山や大久喜鉱山で見てきたキースラガーに混在している産状とは違い、白っぽい母岩中に半ば結晶状に散在する粒状の閃亜鉛鉱は、一度融解して再結晶したことをそのまま物語っているようにも思われる。
これとよく似た産状を呈する鉱山としては、越智郡朝倉村の朝倉鉱山が有名である。ここは典型的なスカルン鉱床で、戦前、戦中に亘って小規模に稼行されていたようである。「愛媛の地学」には、「このあたりは高縄山を中心としたみかげ石でできているのですがところどころにこのみかげ石の上にあった古生代の岩石が残っていて、そのたい積岩とみかげ石の境(接触部といいます)から鉱石が出てきます。その中でも石灰岩のある所に多いのが目立ちます。・・石灰岩が熱のためとけて、かこう岩(あるいは別子のような鉱脈の上に、とも述べられています。管理人註)の中にあった黄銅鉱や黄鉄鉱、方えん鉱やせんあえん鉱のとけたものがこのすき間に入ってちんでんしたのだろうといわれています。このように接触してできた朝倉鉱山のようなのを接触交代鉱床といわれています。・・」(越智勇先生)と記載されている。昔から「金山」と呼ばれている場所で、明治以前にも採掘されていたのかもしれないが詳細は不明である。今は何も残っていないようで、朝倉村在住の登山家「なべちゃん 自然の中へ出かけよう!」の訪問記にその詳細が記録されていたが、この貴重なホームページも最近、閉鎖されてしまった。有名な「こたろう博物学研究所」にも簡単な説明が載っているので参考にされるとよい。
確かに、千原鉱山も「黄銅鉱」の項で述べたように、鉱床が結晶片岩と花崗岩の接触部にあたっていて、朝倉鉱山と同じような特殊な産状であることは充分に納得できる。標本に破断された緑色片岩の一部がくっついているのも面白い。白っぽい母岩も石灰岩由来であることが塩酸テストで証明されている。ただ惜しむらくは、標本がズリからの採集品で閃亜鉛鉱表面の酸化が著しいため、ミネラライトを当てても蛍光が観察されなかったことである。新鮮な標本では、橙色〜黄褐色の美しい蛍光がみられるそうである。
高縄山系の、花崗岩体の接触部位からは良質の温泉が湧くことが多い。「伊予の三湯」と賞賛される道後温泉、鈍川温泉、本谷温泉など、体がヌルヌルするような良質の単純性アルカリ泉が各所に湧出して巨大な花崗岩塊を取り巻いている。当の亜鉛も微量ながら温泉成分表には含まれているようである。ここ千原鉱山付近にも、「道前渓温泉」が国道11号線沿いにあって地元では人気を博している。そんな素朴な閑静な風情に浸りつつ、採集の疲れを癒しながら、地元の人達との語らいの中に鉱山や鉱物情報を聞き出すのも、また一興であろう。