定例新居浜小児科医会(平成5年3月以降)


平成12年(383回→394回)


第394回

忘年会・一ノ瀬洋次郎先生送別会(於寿司善)
平成12年12月13日

 平成12年12月12日に、忘年会と一ノ瀬洋次郎先生の送別会が開かれました。会に先立ち、山内製薬KKから「ファロム錠・ドライシロップ」について説明がありました。出席者は18名でした。(星加晃先生:中座)
                     出席者名
(前列左から)渡辺敬信、大坪裕美、三崎 功、一ノ瀬洋次郎、宮田栄一、真鍋豊彦、中野直子、松浦章雄
(後列左から)山本浩一、山岸篤至、若本裕之、塩田康夫、加藤正隆、磯川利夫、藤枝俊之、上田 剛、加藤文徳(敬称略)

第393回

日時
平成12年11月8日(水)午後7時ー
症例呈示 「当院で経験した川崎病について」 住友別子病院 磯川利夫
症例呈示 「入浴剤の誤嚥により気管支けいれん、無気肺を来したと思われる1症例」 愛媛労災病院 橋本和幸

1)症例呈示:「当院で経験した川崎病について」
     住友別子病院小児科  礒川利夫、加藤文徳


 当院で平成12年度に川崎病を6例経験した。入院時には川崎病の症状がそろわず、診断に苦慮した。
 症例1は、7ヶ月女児で、発熱と頸部リンパ節腫脹と口唇紅潮を認め、川崎病の診断基準のうち3項目を充たす(以下3/6)の不全型の川崎病と診断した。
 症例2は、5ヶ月男児で、発熱と口唇紅潮と硬性浮腫と頸部リンパ節腫脹を認め4/6の不全型と診断した。
 症例3は、1歳6ヶ月女児で、発熱と頸部リンパ節腫脹と硬性浮腫を認め、3/6不全型と診断した。
 症例4は、11ヶ月女児で、発熱と頸部リンパ節腫脹と口唇紅潮と硬性浮腫を認め、4/6で不全型と診断した。13日目の心エコーで左冠動脈が、3.6mmに拡張を認めた。
 症例5は、2歳2ヶ月男児で、発熱と頸部リンパ節腫脹と口唇紅潮と硬性浮腫と眼球結膜充血を認め、5/6で川崎病と診断した。
 症例6は、7歳7ヶ月女児で、全ての症状を認め6/6で川崎病と診断した。
 原田のスコアを参考に6例ともγ-グロブリンを使用し、5例で合併症を認めなかった。不全型の川崎病の診断は難しく、冠動脈瘤の合併を認める事もあるので、適切に診断し、治療を実施するかが重要であると考える。(以上 発表者抄録)

コメント発病初期には川崎病の診断基準がでそろわなかった不全型の症例が多く、その確定診断に苦慮したが、γ−グロブリン投与により6例中5例は合併症もなく治癒、1例のみ心エコー上3.6mmの左冠動脈拡張(4mm以上が心カテをするかどうかの目安)をみとめたため経過観察中とのことであった。
 そして川崎病の治療としてのγ−グロブリンの投与量は、不全型の場合は1g/kgをまず投与し、必要ならさらに1g/kgを追加、診断確定例の場合ははじめから2g/kgを投与するのが目安であるとのことであった。
 川崎病は症候群である。経過とともに出現する臨床症状を組み合わせることにより診断する。発病初期に臨床症状がそろわない症例も多い。そして困ったことに非常に重大な合併症である動脈瘤、特に冠動脈瘤を引き起こす疾患である。このような特別な合併症がみられるため、また適切な治療を選択することによりその合併症の発生頻度を減らすことが可能であることがわかっているため、非常に難しいことだが「いかに早く確定診断を下し、そしてより適切な治療をどの時点で開始するか」という判断が強く求められる。
 実際の臨床ではもっと厳しく、「発病初期の川崎病では、その疑いがあれば診断基準を充たさなくとも、特別な治療をいつ開始するか」との決定が小児科医に毎日突きつけられている疾患である。この報告は、病初期に臨床症状がそろわなかったため確定診断の難しかった川崎病症例を、適切に診断し適切な治療を実施したといえる。

2)話題提供:「入浴剤の誤嚥を契機に気管支けいれん、無気肺をおこしたと思われる一例」
       愛媛労災病院小児科    橋本和幸



症例は11歳、女児。現病歴:6月28日夜、入浴剤入りの湯を誤って鼻から吸い込み、咳き込んだ。
 その後、咽頭痛と咳が続き、6月30日から易疲労感がみられた。同日深夜から胸痛が出現した。
 7月1日朝から呼吸困難を認めたため同日近医受診。胸部レ線にて右無気肺、縦隔の著しい偏位を認めたため、入院となった。
 入院時現症:体温.36.4℃、顔色蒼白、咽頭軽度発赤、呼吸数 20/min、聴診上右肺音ほとんど聴取せず。SpO2 90〜95% ( room air ) 、血液検査所見:白血球10200 (好酸球 8.7%)、IgE 1113.1 U/ml、RAST ハウスダスト、ダニ 強陽性、CRP 0.53 mg/dl。
 経過:入院後ヘリカルCT、 MRI 施行したが気管支内に明らかな占拠性病変はみつからなかった。気管支ファイバーにて気管支のスパスムを疑わせる所見を認め、インタール、ベネトリンの吸入、ネオフィリン点滴を開始。次第に呼吸症状が改善し、胸部レ線上も無気肺が改善した。本症例はもともと Asthmatic な素因をもっており、入浴剤による刺激が何らかの機序で気管支のスパスムをおこし無気肺を呈したものと思われた。(以上 発表者抄録)

コメント:非常に日常的なものが刺激となり発症した無気肺の症例である。入浴剤のどの成分が刺激になったかの検討はされていないとのことであった。入浴剤の入っている風呂に入浴したら発症したというのではなく、たまたまある程度の量を誤嚥してしまったためにこれらの症状が引き起こされてしまった症例であろう。
 しかし、現実には大変重症な病態に陥っている。この症例が教えてくれることは、「ごく日常的なものの誤嚥でも、誤嚥による刺激は数日間注意深く観察しなければいけない」ということであろう。めずらしいことかもしれないが、このようなことが実際に起こっているのだから入浴剤のようなものでも「成分表示をもっと丁寧に細かく」して欲しいと思う。

 3)その他:
  1. 「風疹予防接種の接種率の驚くべき低さについて」の報告 
 保健センターがまとめた「平成12年4月から9月までの風疹予防接種の接種率」が出ています。それによると中学2年生:男=8.6% ,女=15.2%(計=11.9%)、中学3年生:男=36.1%,女=47.9% (計42.1%)です。
      山本小児科クリニック    山本 浩一

 <新居浜市の風疹予防接種率の驚くべき低さが判明し、このところ社会問題にもなりつつあるこの話題について大いに議論が交わされた。以下にその要点をまとめる。>
 風疹の予防接種は自分が発病しないために受けるという意義もあるが、みんなで予防接種を受けて風疹の流行をできるだけ少なくし将来の病気を持って生まれる不幸なこどもたち(先天性風疹症候群)の発生を社会全体で防いでいこうとする意義のほうが大きい予防接種である。
 この目的を達成するためには、まず第一に出産可能な年代全体の接種率を上げておく必要がある。「現在の中学3年生の女性」が出産するようになるのは、早ければ5年後であり、その後はどんどんと出産するようになる。その時に風疹が流行すると、「風疹予防接種率の低い現在の中学生の女性」が先天性風疹症候群のこどもを出産することが懸念される。
 現在新居浜市では、風疹の予防接種は中学3年生まで定期接種で受けることができる。(しかしその後は自分で希望して、任意接種として受けなければならない。)すなわち中学を卒業すると、風疹予防接種の必要性を自覚していなければ、風疹の予防接種をしないということになる。したがって接種率を上げるためには、中学を卒業するまでのもう数ヶ月しか残されていないことになる。風疹予防接種率が今のままなら、「現在の中学3年生の女性」は、将来妊娠したのち多くの心配をしながら出産に臨むことになる。「なぜ風疹の予防接種が必要か」を地域住民に正確に伝えるという行政の責任もあるが、このような状態の解決策は「接種率の上がる具体的な予防接種の実施方法を考えて、そしていかに早く実行するか」との実施方法の問題になってきていると考えられる。
 実際に実施する側(医師)の責任としては、先天性風疹症候群のこどもたちがいかに悲惨かを知っているだけに、将来生まれてくるこどもたちに対する責任を全うするためにも大きな社会的問題として取り組む時期に来ていると考える。行政に対する働きかけをすぐにでも始めようではないか。      

(文責 山本浩一


第392回

日時
平成12年10月11日(水)午後7時ー
話題提供 「アセトアミノフェンによる溶血性貧血の1例」 愛媛労災病院 早川星朗
話題提供 「病診、診診連携について」 高橋こどもクリニック 高橋 貢

1)話題提供:「アセトアミノフェンの内服を契機に発症した溶血性貧血の1例」
       愛媛労災病院 小児科  早川星朗、橋本和幸


 症例は3歳、女児。現病歴:平成12年6月2日の夕方より発熱あり、近医を受診し、感冒と診断され、リカマイシンドライシロップと幼児用PL顆粒を処方され、内服にて様子を見ていた。6月3日も40度の発熱、6月4日になり発熱続き、顔色悪いため当院の時間外外来受診した。
 来院時理学的所見:体温39.5℃。眼球結膜黄染、眼瞼結膜蒼白。皮膚色軽度黄疸を認めた。咽頭軽度発赤、呼吸音清明。心音収縮期雑音を聴取。肝臓1cm触知、脾臓も1cm触知した。腹部は平坦で軟。
 血液検査所見:末梢血液像では球状赤血球が認められ、正球性正色素性貧血を認めた。また、白血球増加を認めた。間接ビリルビン優位の高ビリルビン血症を認めた。直接クームス試験陽性で、ハプトグロビンの低下を認めた。自己赤血球上に補体成分C3dが検出され、IgGは検出されなかったため、冷式自己免疫性溶血性貧血と考えた。
 経過:プレドニゾロンの投与で溶血性貧血は改善した。市販薬中のアセトアミノフェンで肝臓障害と溶血性貧血をきたした成人例があったため、薬剤起因性溶血性貧血の可能性を考えた。本症例ではアセトアミノフェンのリンパ球幼若化試験陽性で、これによる薬剤起因性溶血性貧血と考えられた。 アセトアミノフェンは小児科領域では座薬あるいは内服で比較的安全であるといわれているため解熱鎮痛剤の第一選択薬剤であるが、その投与には十分な問診、薬剤アレルギーの有無の確認が必要と思われた。(以上 発表者抄録)

コメント:小児では、解熱が必要な時の第一選択の薬剤はアセトアミノフェンである。他にはイブプロフェンが小児の解熱剤として認められている。インドメサシンは小児では使用すべきでないとされる。以前からアスピリンとReye症候群の関係が推定されており、最近では「インフルエンザ脳炎・脳症の重症化にジクロフェナクナトリウムおよびメフェナムサンとが何らかの関連がある」可能性が示唆されている。小児の解熱剤について、このような認識がある中でアセトアミノフェンによる副作用が報告されることは小児科医として非常に困った問題と捉えられる。あたりまえのことかもしれないが、安全だといわれる薬剤でも薬剤である限りその使用には細心の注意をすべきということだろう。

2)話題提供:「当院における病診・診診連携について」 
        高橋こどもクリニック(西条市)  高橋 貢


 入院設備や大きな検査機器を持たない私どものような小児科単科の診療所においては病診・診診連携は非常に重要です。開業後約2年の時点で当院から他院に紹介した患者さんの状況を調べ、当院からみた病診・診診連携について検討しました。
 対象は平成10年12月2日から平成12年8月31日までに当院から他院を紹介した140例の患者さんです。方法はファイルメーカープロ3.0を用い、紹介患者について、性別・紹介日時・年齢・紹介病名・最終病名・病診、診診別紹介科・紹介病院(診療所)・入院or外来・その後の経過などを調べました。その後の経過は退院以後3回以上来院している者、1-2回、0回と分けて検討した。
 結果
1) 性別では男78名、女62名でやや男児に多い傾向でした。
2) 病診・診診別では117名(83.6%)が病院紹介で、診療所への紹介は23名(16.4%)でした。
3) 地域別紹介先では西条市の病院、診療所が41.1%。新居浜市が32.8%でその他25.8%でした。
4) 紹介患者さんの年齢分布では、1歳、0歳、2歳の順で年少児が多くなっていました。
5) 月別紹介患者数では、インフルエンザが流行する時期にほぼ一致して多くなり、平成12年では夏場もやや多くなっていました。
6) 紹介患者の科別検討では、小児科が約半数で以下耳鼻科、整形外科、眼科の順でした。
7) 小児科紹介の際の入院・外来別では、71名の小児科紹介のうち転居のための紹介であった12名を除くと83%が入院でした。病院では西条中央病院が最も多く、次いで新居浜の各病院、周桑病院の順でした。愛媛大学にも糖尿病性ケトアシドーシスの子どもさんの入院をお願いいたしました。
8) その後の受診状況では全140名から転居のための紹介であった12名を除く128名の検討では、その後3回以上来院している者は73.4%、1-2回の者は10.2%、紹介以後1度も来院していない者は21名(16.4%)でした。
9) 時間外での紹介患者状況では、ウイークデーの時間外紹介が8名、土日休日の紹介が8名でした。疾患では気管支肺炎3名、仮性クループ1例、喘息重積1例、腸重積2例、インフルエンザ+熱性けいれん4例、川崎病1例、虫垂炎1例、嘔吐症1例、サルモネラ腸炎1例、無熱性けいれん1例でした。現在は全員元気です。
考案
 当院の紹介患者数は全国の小児科医264名を対象にしたアンケートの結果と比較しますと、病院への紹介はほぼ同数でしたが、診療所への紹介は少なかった。私が西条地区の診療所の把握が十分でないためと思われます。色々な活動にも参加して、他科の先生方とも親交を深めたいと思います。最後に、時間外にもかかわらず快く入院をお受けして頂きました、各病院の諸先生に深謝致しします。(以上 発表者抄録)

コメント:病診,診診連携の実情を紹介してくださった貴重な報告である。「開業医から病院への時間外紹介が大変申し訳なく感じる」との意見から、病診連携のうち紹介とくに時間外の病院への紹介についての議論が活発になされた。病院へはどのような紹介方法をとったらよいかとの質問に病院の先生方の答えは、紹介状だけ持たせてくだされば・・・・(A病院)、当直医へ連絡していただければ・・・・(B病院)、いつでも小児科医へ・・・・(C病院)、病室が確保できればいつでも・・・・・(D病院)と表現の違いはあるがどの病院も「時間外も遠慮なくご紹介ください」と心強いものであった。新居浜医療圏の小児科開業医にとって、これは非常に感謝すべき受け入れ体制である。

3)その他
  1、現在新居浜小児科医会には、西条・新居浜・宇摩各区の小児科専門医を中心に31名の会員が所属していてなにかと連絡が不十分になったり、さらには意思の疎通がうまくいかないことが出てきた。このため加藤 文徳先生(住友別子病院小児科)に幹事就任をお願いした。今後の会の運営がさらに強化されるようにと、松浦・山本そして加藤の3人が新居浜小児科医会の「世話役としての幹事」を担当することになった。

(文責 山本浩一)



早川星朗先生・太田雅明先生送別会(於ユアーズコープ「興慶」)
平成12年9月20日
平成12年9月20日に、早川星朗先生・太田雅明先生の送別会が開かれました。
出席者は12名でした。
                     出席者名
(前列左から)真鍋豊彦、大串春夫、早川星朗、太田雅明、麻生恵子
(後列左から)山本浩一、上田 剛、松浦章雄、高橋 貢、一ノ瀬洋次郎、塩田康夫、若本裕之(敬称略)

第391回

日時
平成12年9月13日(水)午後7時ー
症例呈示 「愛媛労災病院小児科時間外外来の現状」 愛媛労災病院 早川星朗
話題提供 「予防接種法の見直しの主要な事項について」 三崎小児科 三崎 功

1)症例呈示:「愛媛労災病院小児科時間外外来の現況」
                愛媛労災病院 小児科  早川星朗、
橋本和幸   

 平成11年度に愛媛労災病院小児科の時間外外来を受診した1853名を対象として臨床的検討を行った。休日の来院患児数は一日平均5.1名であった。患児の年齢分布は1歳児がもっとも多く、ほぼ年を経るにつれて減少した。来院時間は20時前後がもっとも多かった。疾患は呼吸器疾患がもっとも多かった。喘鳴を伴う気管支喘息または喘息様気管支炎の患児は10月にもっとも多く、10月には受診患児の38.8%をしめた。25名がそのまま入院となったが、投薬や処置を必要とせず、診察のみで帰宅した患児は443名(24%)であった。外来での死亡例はなかった。
 多数の軽症患児が時間外に受診しているが中には重症患児が存在する。小児救急医療に対する社会的ニーズに対応するためには地域の病院間の提携、行政の支援、保護者の教育、啓蒙活動が必要と思われた。(以上 発表者抄録)

*追加発言*
 「昭和46〜48年当時の休日・時間外診療の実態について」
      ー新居浜小児科医会誌(第100回記念)からー
                マナベ小児科   真鍋豊彦

 昭和46年から47年代といえば、子どもが増え続けている時代でした。当時、新居浜地域には、住友別子病院に病院小児科があるだけでした。そのため、休日、時間外患者は開業医に集まり、また、そうするのが当たり前の時代でした。
 休日診療は輪番制で、46年4月から47年11月までに6回当たりましたが、一日当たり最低70人から最高131人、平均92名でした。診療時間(午前9時から午後5時30分)を過ぎてからの時間外患者は、最低5人、最高25人で、一日平均16人でした。48年1月2日の正月当直は、179人を数えました。
 また、昭和47年7月から48年6月までの1年間の時間外患者数は、毎月37〜90人、平均66人でした。
 往時を振り返りますと、私は未だ40歳前でしたが、輪番制に組みこまれた他の内科小児科の先生方は、皆さん私より年長の方ばかりでしたし、時間外患者も夫々の診療所で殆ど対処していました。
 新居浜地域の病院小児科の先生方には、現在、大変なご負担をおかけしております。私たち開業医も、医師会の休日夜間急患センターに出務し、その責務を果たしておりますが、これもかなりな負担ではあります。
 改善策として、夜間一次救急はセンターのみを窓口にし、病院はその紹介患者のみを受けつけることにする、との早川先生のご提案ですが、平日の外来診療に比較的重点をおいている病院と、それに呼応するかのように進む患者の病院指向、このような現状を考えるとき、病院が夜間や時間外を制限するということは、中々実行できないことではないでしょうか。
 私は、むしろ今のような状態が益々進むのではないかと危惧しております。(以上 発表者抄録)

コメント:新生児医療の問題、輪番制の問題など、さらに真鍋先生から「昭和46年から48年当時の休日・時間外診療の実態について」の追加報告もなされ、盛りだくさんの内容になった。当時も今も小児の時間外診療については変わりなく大変であることが改めて示された。毎夜同じような状況が際限なく続くことが、病院小児科勤務医にとって大変なストレスになっている。現在病院小児科がおこなっている救急医療におけるマンパワーの不足は、この報告を見るまでもなくもはや明らかなことである。時間外勤務は一日あたり平均2時間とのことであった。もう小手先の手段では解決しないところまで来ているのであろう。最近の東予地区の実態については、県立新居浜病院小児科田内先生の愛媛県小児科医会での報告がある。それによると平成10年度の県立新居浜病院小児科の時間外受診者数は2731人であった。この中で田内先生は、女性の社会進出や核家族が今後ますます小児の時間外診療に対する需要を増やすだろうと指摘している。さらに病院では、小児医療の不採算性から小児科医師の削減が行われ、その結果生じる過酷な時間外労働がベテランの小児科医を退職開業に追いやり、小児医療が病院開設者にとっても魅力的なものにならなければ小児の救急医療の問題は解決しないと指摘した。最近やっと小児救急医療についていろいろな提言、指摘が活発におこなわれるようになった。医療界全体にこの声が届くことを期待する。

2)話題提供:「予防接種法の見直しの主要な事項について」 
               三崎小児科  三崎 功
   

 平成6年度の予防接種法改正から5年を経過した今日、この度日本医師会公衆衛生委員会が予防接種法の見直しを求めた。以下の内容である。
(1)インフルエンザ対策と新たな予防接種制度の創設
 我が国は、平成6年度の予防接種法改正でインフルエンザ予防接種が、定期接種から任意接種に変更された結果として、インフルエンザ予防接種の接種率の著しい減少をもたらした。接種率の高い諸外国に比べ、わが国の現状は特異的な現象と言わざるを得ない状態である。
 この度日本医師会公衆衛生委員会は、インフルエンザ対策と新たな予防接種(推奨接種)制度の創設を提言している。即ち予防接種法改正の趣旨である個人の理解と自らの意思によって接種を受けるという理念に基づいた新しい予防接種概念である。
 インフルエンザ予防接種を受けるかどうかは、個人自らが決めることであるが、接種費用を公費負担とし、健康被害発生には国が責任をを負うというものである。なかんずく、高齢者、特に老人ホーム等での集団生活をしている高齢者、種々の疾病を
持って生活している高齢者への配慮が最も重要である。
 そのためには、予防接種を受託する医療機関または接種医師が、安心してインフルエンザ予防接種業務に従事できる体制の整備が不可欠である。従ってこうした接種対象者の健康被害発生に対応する為、成人、高齢者を対象とした健康被害救済制度の創設を提唱している。
(2)新しく定期予防接種に組み入れられるべき予防接種には、流行性耳下腺炎と水痘が取り上げられている。    
 流行性耳下腺炎は、髄膜炎、難聴等の合併症の頻度が高いという問題があり、水痘についても、罹患すると隔離期間が長くなること、またネフローゼ症候群、白血病、その他副腎皮質ホルモン等の免疫抑制剤を使用している子ども達の感染は、致命的となることから、全ての子どもから水痘を未然に防ぐことがもとめられている。
その他には
(3)予防接種の啓発と接種率向上の対策
(4)予防接種チェックシステムの創設
(5)予防接種センターの設置
等を提言している。日本医師会公衆衛生委員会答申(以上 発表者抄録)

コメント:インフルエンザ予防接種は高齢者が対象になった。小児では、インフルエンザであるがゆえに特有であるワクチンの効果をうまく証明できていない。また病気の重さもさることながら、治療が非常に困難なインフルエンザ脳炎・脳症の問題がある。今いかにこの病気と戦っていくか、予防接種を含めて何が治療法のベストかをさぐっているところである。先進国では自然感染の流行性耳下腺炎では髄膜炎が高頻度に合併するため、あたりまえのように接種されている流行性耳下腺炎の予防接種が日本では以前、他の先進国と同様にMMR(麻疹、流行性耳下腺炎、風疹)としてやっていたが、この予防接種では流行性耳下腺炎の予防接種が原因と考えられる髄膜炎が約1200人に1人みられたため中止された。麻疹と風疹は、別々の予防接種となり継続されている]、定期予防接種からはずされて中止されたままになっている。不思議なことに単独で施行した流行性耳下腺炎の予防接種では、問題になるほどの髄膜炎の発症がない。是非とも予防接種をしておきたい病気である。水痘は、日本でつくられた非常に副反応の少ない予防接種である。米国では、すでに定期予防接種に組み入れられている。
3)その他:
  1. 県小児科医会の報告
                   松浦小児科    松浦章雄

  
  2、入会:藤枝 俊之先生(藤枝小児科=伊予三島市)
    異動:太田雅明先生(県立新新居浜病院)、9月一杯で県立今治病院へ。後任は石丸愛幸子先生。                                                      (文責 山本浩一


第390回

日時
平成12年8月9日(水)午後7時ー
症例呈示 「構音・嚥下障害が急性発症した16歳男児例」 県立新居浜病院 若本裕之
話題提供 「咽頭外傷による化膿性髄膜炎の1例」 住友別子病院 加藤文徳

1)症例呈示:「構音・嚥下障害が急性発症した16歳男子例」
         県立新居浜病院小児科    若本裕之


 本症例は急性腸炎の一週間後に“喋りにくさ”と“飲み込みにくさ”を来し入院した、Cranialpolyneuropathy の一例である。神経学的所見として入院時に咽頭反射の減弱、舌の左方へ偏位、左側軟口蓋の低下を認め、入院翌日には眼瞼下垂と顔面神経マヒが出現した。経過中、筋力や感覚は正常、深部腱反射正常、病的反射なく、小脳症状も認めず、反復して行った頭部MRIやMCV、F波などの電気生理学的検査にも異常はなかった。便培養は陰性であったが、血清中の抗キャンピロバクター抗体と抗ガングリオシド抗体(GD1a、GT1b)が陽性であった。
 入院翌日から免疫グロブリン大量療法による治療(400mg/kg/日×5日間)を行い、神経症状の進行は押さえられ、約6ヶ月で完全に回復した。Cranial polyneuropathy は思春期以降に発症する脳神経に限局したギランバレー症候群のまれな一亜型で、予後は比較的良いと言われている。
 しかし、本症例のように球麻痺症状を呈した場合はギランバレー症候群に準じた免疫グロブリン大量療法が望ましく、キャンピロバクター感染関連性では軸索障害を伴っていることが多いため完全回復までは時間を要し、早期に適切な治療がなされない場合は脳神経マヒを残すことも考えらる。(以上 発表者抄録)

コメント:球麻痺症状に眼瞼下垂と顔面神経麻痺が加わった、「脳神経症状だけのギランバレー症候群」という稀な症例の発表であった。キャンピロバクター感染は、ギランバレー症候群や溶血性尿毒症症候群の原因として知られている。そしてギランバレー症候群には脳神経症状を伴う症例がみられ、そのような症例はFisher症候群と呼ばれるようになってきている。
 このような知識は広く受け入れられている。しかし、この症例のように脳神経だけの症状を示す症例をみて、ギランバレー症候群を思いうかべることは非常に難しいことであろう。しかも急性腸炎の原因検索で、発症後1週間もたってはいるが、便培養陰性でキャンピロバクター感染を否定された状態で、その血清抗体価を測定しようとすることもキャンピロバクターの便培養が比較的難しいこと(偽陰性になりやすい)を知っていなければあきらめていたことであろう。原因を追求する姿勢は、大変参考になる。

2)話題提供: 咽頭外傷による化膿性髄膜炎の一例
           住友別子病院小児科    加藤文徳


 誤って食事中に箸が口の中に刺さり、化膿性髄膜炎を発症した一例を報告した。症例は6歳の女児で、刺さった箸を母が抜いた後当院救急外来を受診した。当初、特別の症状無く一度帰宅するも、受傷後2時間で頭痛、嘔吐が出現し再受診した。髄液検査で血性髄液が得られ細菌培養の結果肺炎球菌が検出された。化膿性髄膜炎として治療し後遺症無く治癒した。
 一方、先端がとがったもの(鉛筆、歯ブラシ、玩具の一部など)を口にくわえて転倒し、軟口蓋や口蓋扁桃付近を刺傷した結果、内頚動脈閉塞症が生じることがある。これをPencil injuryと呼ぶ。解剖学的に、この部位の背後には薄い筋層を介して内頚動脈が走っているため、非貫通性外傷でも、内頚動脈は局所的に過伸展、捻転される。
 その結果、動脈の攣縮、あるいは内膜、中膜の断裂が生じ、そこに、血栓が形成される。結果として、動脈閉塞による脳梗塞が生じる。受傷から症状出現までは3時間から3日間の潜伏期間があり、発症すると、片麻痺、けいれん、脳ヘルニア、などを生じ、致死率も約20%と高い。
 よって、口腔内外傷では、中枢神経への異物の侵入が無いかどうかの検索はもちろん必要だが、このPencil injuryの存在を念頭において治療を進めることが重要である。(以上 発表者抄録)

コメント:ほんの少し前、「救急外来での対応が問題になった割り箸による脳障害事故」がマスコミで報じられたことを思い出す。話題提供であるが、この症例はその報道の前(平成11年2月)に加藤先生が経験された症例である。幸いにこの症例は、事故後の対応が良くその後の経過も良かった。
 この事故の困るところは、受傷直後は本人も元気であり、軟口蓋の傷は観察可能であるが、MRIでもどの程度の障害があるか、そして貫通性か非貫通性かのは判断は困難なところにあるようだ。しかも受傷早期にはもし心配なら経過観察か、ルンバールで血清のリコールを確認する以外に事故の程度を判断する手段はない。
 また、pencil injuryのように受傷が深部まで到達しなくても(非貫通性の場合でも)脳梗塞のおこる可能性があるので、受傷後3から4日の経過観察が必要で、可能なかぎり入院させて必要な検査をしながらの経過観察が望まれるとのことであった。
 最後のまとめは、「子供は物をくわえたまま転ぶものであり、その場合重篤な疾患が発症しうることを養育者に啓蒙することが必要である」であった。

3)その他:
 < 意見交換 >
  1. 予防接種の「皮下注射の部位に対する公開質問に対する返答」について
     --上腕以外の皮下注射部位(特に大腿外側)--
               マナベ小児科  真鍋豊彦     
  2. 「無菌性髄膜炎」に対して、学校が発行している伝染性疾患に対する「非公式の診断書」を書いて良いものか?
               住友別子病院小児科  加藤文徳
  3.膿痂疹の治療法(特に外用剤)について
               松浦小児科      松浦章雄
  4.三種混合(DPT)の副反応が強かった場合、次回注射への対応について
               しおだこどもクリニック  塩田康夫                                                 

(文責 山本浩一)


第389回

日時
平成12年7月12日(水)午後7時ー
場所 リーガロイヤルホテル新居浜 松の間
学術情報 「オノンドライシロップ」について
懇親会 恒例夏季懇親会



(平成12年7月12日、於リーガロイヤルホテル「龍鳳」)

 平成12年7月12日(水) 午後7時から「学術情報」のあと、恒例の夏季懇親会が開かれました。
出席者は次の16名でした。
                      出席者氏名

(前列左から)真鍋豊彦、加藤文徳、一ノ瀬洋次郎、磯川利夫、太田雅明、若本裕之、塩田康夫
(後列左から)山本浩一、上田 剛、松浦章雄、三崎 功、篠原文雄、大坪裕美、多々見年光、麻生恵子、宮田栄一(敬称略)



長屋聡一郎先生送別会(於ユアーズコープ「興慶」)
平成12年6月21日
平成12年6月21日に、長屋聡一郎先生の送別会が開かれました。
出席者は12名でした。(早川星朗先生:中座)
                出席者名
(前列左から)三崎 功、真鍋豊彦、長屋聡一郎、篠原文雄、松浦章雄
(後列左から)山本浩一、渡辺敬信、塩田康夫、上田 剛、一ノ瀬洋次郎、若本裕之(敬称略)

第388回

日時
平成12年6月14日(水)午後7時ー
症例呈示 「MRIにより化膿性骨髄炎とおもわれた1例」 十全総合病院 一ノ瀬洋次郎
症例呈示 ポリオワクチン接種後に脳炎・脳梗塞をきたした乳児(6ヵ月)例 県立新居浜病院 太田雅明
話題提供 「カテーテル・インターベンション(catheter intervention) 県立新居浜病院 太田雅明
その他 ポリオ予防接種について

1)症例呈示:「MRIにより、化膿性骨髄炎とおもわれた一例」
     十全総合病院小児科   一ノ瀬洋次郎、上田 剛

 
 化膿性骨髄炎の早期診断は骨シンチグラムが有用とされてきたが、近年、MRIの有用性が報告されている。今回我々は臨床経過とMRI所見により化膿性骨髄炎と考えられる一例を経験した。
 症例は、5歳、女児。H12年4/14の朝、右足首の痛みが出現し近医受診。レントゲンにて異常を認めず、経過観察とされた。同日午後から発熱が出現し、右足首痛の増加および同部の腫張も認められたため、当院小児科・整形外科を受診。アキレス腱周囲炎と診断、湿布、固定を行った。その後も発熱持続し、4/17小児科再診。化膿性骨髄炎の疑いにて入院。
 理学的に右足関節から膝蓋骨下端まで圧痛および腫張を認め、圧痛の最強点は足関節部であった。痛みにより右下肢を自発的には動かそうとはしなかった。WBC10000/μl (Seg 62%、Sta 2%)、CRP 5.54mg/dl、ESR 88mm/1hと炎症反応を認めた。右下肢X-Pでは骨膜反応は認めなかった。血液培養は陰性であった。4/19の下肢MRI所見で、右脛骨の骨髄では骨幹、遠位骨幹端および骨端において脂肪抑制T2にてhigh signalあり。同部位は、Gd造影脂肪抑制T1でenhanceされた。また、この骨病変に近接する筋肉および筋膜も同様の所見があり、炎症の広がりが示唆された。
 入院後CEZ、ABPCの静注を開始し、4/20に解熱し右下肢痛も4/24には消失した。5/6の下肢MRIでは遠位骨端部の所見は4/19とほぼ変わらず認められたが、他の部位の異常所見は改善もしくは消失した。
 5/6に退院し、再燃や合併症無く治癒している。(以上 発表者抄録)

コメント:「抗生剤の選択はどのように考えてしたのか。」「経過が良好であるが他の鑑別診断は何が考えられるか。」「菌の証明に局所の穿刺をすべきだったか。」「外傷はどこにもなかったのか」などの議論があった。シンチグラムと同等かより早い段階で骨病変をとらえることが可能といわれているMRIの画像を、その臨床経過とともに呈示して説明してくださった。
 近年、画像診断の進歩により、以前は早期に診断することが困難だった病気が比較的早くしかも簡単に診断されるようになってきた。骨髄炎の診断がMRIでされるようになると、レ線で診断していた時よりははるかに早く診断され、このため治療も速やかになされるため、早く治癒するようになるのだろう。
 一方早く治療が開始でき、このため病変部からの細菌の証明ができないことも起こってくる。しかも以前のように単純レ線での骨膜反応(発症後2週間以降で見られることが多い)が証明される前に治癒してしまうことも考えられる。これは喜ぶべきことであるが、原因の証明ができない。今後このような病気では、画像診断が確立して、確定診断の基準が変化してくるのであろう。
 現在はまだ診断には画像診断より臨床症状が先であり、画像に表れた所見が臨床症状を説明可能であれば、その画像は病気の原因を証明したといえるのであろう。いずれ診断が画像だけでなされるようになるのであろうか?

2)症例呈示:ポリオワクチン接種後に脳炎・脳梗塞をきたした6ヶ月乳児例
     県立新居浜病院小児科   太田雅明、中野直子、若本裕之


 症例は6ヵ月男児。主訴は発熱と眼球の右方偏位で、左側深部反射の亢進を認めた。6日前にポリオワクチンを接種していた。 頭部CTで両側大脳半球の浮腫と右側に広範な低吸収域を認めた。MRAではウィルス動脈輪の狭窄像を認めた。
 上記所見と髄液細胞数の上昇より脳炎に伴う脳梗塞と診断した。髄液よりのウィルス分離は陰性であったが、便・及び咽頭よりポリオウィルス1型を分離した。血清では、ポリオウィルスの抗体価上昇を認めるのみであった。患児は現在、左側の不全
麻痺を残しているが、全身状態は良好である。今後も病因の更なる究明が必要であると思われる。(以上 発表者抄録)

コメント:ポリオワクチン(ロット番号39)で、H12.5.16.に日本じゅうがパニックにおちいった。これは福岡県で、ポリオワクチン接種後急性脳症例と無菌性髄膜炎が相次いで報告されたからである。さいわいに新居浜市は、安全がすでに確認されていたロット番号38でのポリオ予防接種であった。
 しかし、新居浜市でもポリオワクチン(ロット番号38であるが)接種後6日目に、このような症例が発生していた。
「ワクチンと因果関係がない」というには、あらゆる面から現在起こっているこの病気が「予防接種のワクチンウイルスによって引き起こされた病気でない」と否定していかなければならない。当然経口的に飲んだポリオウイルスは咽頭と腸管で増える。したがって、咽頭と便にはポリオウイルスは証明される。髄液でのポリオウイルスは幸いに分離されなかった。
 このような症例では、病気を引き起こした原因を特定することも大変難しく、加えて「病気とポリオワクチンとの因果関係はない」との証明も大変難しい。このような症例を受け持った先生の苦労は「推して知るべし」である。当然ながら、「いつ公にすべきか」との行政間(市と県の間で)のやり取りもあったようだ。このような状況の中できちんとした検査結果や診断を示して、行政への対応をなされた先生の態度は是非とも見習いたいものである。

3)話題提供:「カテーテル・インターベンション(catheter intervention)」
    県立新居浜病院小児科   太田雅明


 近年の心臓カテーテル検査・心血管造影法・カテーテル治療の発展・普及に伴い経皮的に治療される疾患が増加している。カテーテル治療は低侵襲であり、瘢痕も残さず、疾患によっては外科的治療に代わりうる有効な治療法であると考えられる。呼吸器症状を主訴とする体肺動脈側副路の1例を中心にその診断過程・治療について呈示した。(以上 発表者抄録)

コメント:器具の発達とともに、小児科領域でもカテーテルを使用したいろいろな術式が開発され実際に利用されるようになってきた。今後どんどん確立された術式となっていくことだろう。

4)その他:
  1. 新居浜市にこの度結成された「禁煙推進医師の会」の規約および禁煙を呼びかけるステッカーについての紹介をした。
        マナベ小児科  真鍋豊彦     
  2. 県小児科医会の「報告事項」と「議事内容」についての報告。
        松浦小児科   松浦章雄                               

 (文責 山本浩一)


第387回

日時
平成12年5月10日(水)午後7時ー
話題提供 「国際保健の話題から」
1.Female genital mutilation-女性性器切除
2. Emergency contraception-緊急避妊法
マナベ小児科 真鍋豊彦
話題提供
LDについて 川上こどもクリニック 川上郁夫
その他 日本小児科学会報告 十全総合病院 上田 剛
住友別子病院 磯川利夫
松浦小児科 松浦章雄

1)話題提供:「国際保健の話題から」
                               マナベ小児科  真鍋豊彦

 (はじめに)
 国際保健ML(メーリングリスト)で、自治医科大学産婦人科(医師:小原ひろみ)から報告された話題2つを紹介する。

1.Female genital mutilation(FGM)

 FGM(女性性器切除)は、アフリカ28カ国や中近東諸国、マレーシア、あるいは先進国の移民社会(ヨーロッパ、アメリカ、カナダ、オーストラリア)など、多くの国や地域で実施されている秘儀(?)である。WHOの推定によると世界で1億2000万人、女性の24人に1人、年間に新たに200万人がFGMを受けているという。年齢は、地域や部族による違いがあるが、生後6日目から11歳(月経前)が普通である。
 分類は現在4つのタイプに分けられており、一番多いのが、タイプ2(約80%)の「陰核切除+小陰唇部分切除+縫合」である。タイプ4は「その上に、大陰唇切除+大陰唇切除面の縫合」で、尿、経血のための小さな孔を残すだけである。
  FGMを行う理由は迷信としか言いようがないが、地域の人にとっては文化であるという。FGMは主にTBA(Traditional birth attendants)が行い、麻酔はなく、非衛生的で、剃刀、キッチンナイフ、鋏、ガラス片などで切除縫合される。そのため、大量出血 、出血による死亡、ショック、激痛、感染症、尿道、肛門の損傷など、急性及び慢性の合併症を来す。また、分娩に際しても重度裂傷、遷延分娩、膀胱膣瘻などリスクが多い。
 医学的には、FGMは女性のreproductive health を阻害し、全く不必要なことであり、1993年に、FGM禁止を求める国際文書を国連総会で決議、また、UNICEF子供の権利条約で、FGMを人権侵害と位置付け、1995 年の世界女性会議 で、FGMを健康破壊、女性への暴力と宣言し、国際的、国家的、地域レベルで、FMG廃絶へ向けた具体的な対策がとられている。

2.Emergency contraception(EC)

 EC(緊急避妊法)は、性交後避妊法(Postcoital contracetion)と呼ばれているが、一般には余り知られていない。一番用いられている方法は、中用量ピルを用いる方法で、Emergency contraceptivepills(ECPs) と呼ばれ、Unprotected intercourse(コンドームが破れたり、避妊しなかったり、レイプだったり)から72時間以内に中用量ピルを2錠服用し、12時間後に再度2錠服用するというものである。
 中用量ピルは、日本でも多くの産婦人科で容易に手に入る(商品名はドオルトン、ロ・リンデオールなど)。ECPsは、中絶薬ではなく、その効果は、妊娠の可能性のある排卵期に用いた場合、約74%の妊娠が防げるとされている。世界中で1年間に5000万件の妊娠中絶が行われている。
 アメリカでは、広く緊急避妊法が行き渡れば、年間100万件の人工妊娠中絶を予防し、200万件の意図しない分娩を避けるこたが出きると試算されている。アメリカ産婦人科学会は、女性は手元に常に中用量ピルを4錠持っておくように、一般人向けのパンフレットを出しているという。(性交後72時間は効果があることになっているが、なるべく早く治療開始した方が効果が高い、また、休日ですぐに処方してもらえない可能性があるため)日本でも、レイプのあとなどに用いているが、この方法自体が一般の人に知られていないため、産婦人科の門戸をたたく人が少ないのが現状である。
 このような方法が、多くの人に知られれば、中絶や望まない分娩を予防し、女性の健康を守る一助になる。この方法で、失敗し妊娠してしまったとしても、母体と胎児に対して悪影響が及ぶという証拠はない。
 国際保健の分野でも、緊急避妊対策は重要であり、コソボでUNFPAなどがレイプ被害者の女性に緊急避妊薬を配り、それに対して、バチカンが非難した、ということがあったようである。

(おわりに)

 国際保健MLにご関心のある方は、下記のURLにアクセスして下さい。(以上 発表者抄録)
        http://www.ihp.m.u-tokyo.ac.jp/page51.asp
                                                                           
コメント:FGMの話題は、少しだけびっくりした話題提供であった。とにかく自分たちの理解を超えた話題だったので、なぜこのような話題提供になったかはじめは分からないまま聞いていた。世界が時間的に狭くなりそしていろいろな国の人たちと一緒に生活するようになると、お互いの国の習慣・文化・常識というものが理解を超えたものであっても、ごく身近な事実となって日常の生活の中に顔を出してくるようになる。医師の世界では、おそらくさらにもっと身近に、FGMを受けている女性のお産やこの特異な外性器の手術に伴って起こってくる病気にすぐにでも出会う可能性がある。特別な話題のように思えるが、21世紀ではこのような特別なことに思えることでも現実に行われていることとして理解していくようにしないと、医者も勤まらないということなのかも知れない。ECについては何人かの先生が、すでに知っていた。しかし、なぜこのような簡単な方法がもっと医者以外の人の知るところとならないかが不思議である。ピル服薬後、たとえ妊娠しても胎児には影響がないようである。どう考えても人工妊娠中絶よりは、ECの方が身体への影響が少ない。小・中学生から教えていくべき方法ではないだろうか。

話題提供:「 LD(Learning Disabilities)について 」
                               川上こどもクリニック(川之江市)
   川上 郁夫

 LD(学習障害)は「中枢神経系の機能障害に基づく、非常に多彩な症状を表す複雑な状態像」を指す言葉と理解され、「落ち着きがない」、「集団になじめない」、「漢字や算数が苦手」などが認められるが、一人一人症状は異なる。出現率は総人口の2〜5%で、男子が女子に比べて4〜6対1程度で多く現れる。
 LD児をよく理解し、本人がなまけているとか、努力がたりないとか、親の教育や躾が悪いなどの偏見をなくし、その子どもにあった早期の個別援助が二次的な障害をおこさないためにも必要である。(以上発表者抄録)

コメント:LDはいざ診断するとなると、非常に診断しにくい病気・病態である。それはいろいろな症状が必ずしもすべてそろっているわけではなく、ある人は1つだけ、ある人はいくつもあるというように症状の数もそしてその症状の程度も一人一人異なるためである。いろいろな病気が混ざっているのか、それとも一つの病気として特定の病因が明らかにされるのか未だ不明な病気・病態である。ただ彼らがどのように言葉や図形や字を理解しているかが少しずつ明らかになってきて、彼らをどのように理解し、どのように接していかなければならないかが分かってきた。そしていま彼らへの教育の仕方について、普通学級を中心としていかになされるべきかが試行錯誤されている。教育の方法について、「彼らを健常者と差別する方向に進まないことを願う」との意見が多く出された。

その他:1)「平成12年度風疹の予防接種」実施についての報告
                              山本小児科クリニック
   山本 浩一

 中学生の風疹予防接種率が極端に落ち込んでいることから将来の先天性風疹症候群の発生が懸念されているが、新居浜市ではこの問題を解決すべく平成12年度は、従来どおりの 「 1)90ヶ月未満、2)中学2年生 」 に加えて「 中学3年生の接種希望者 」にも接種券を発行して個別接種を勧奨することとなった。非常に喜ぶべき改正である。
 
    2)日本小児科学会報告    
                                十全総合病院小児科    上田  剛
                                住友別子病院小児科    礒川利夫
                                松浦小児科         松浦章雄
「以下 、報告内容について」

1、子育てを科学する。2、感染症の登校基準。 3、川崎病のガンマグロブリン投与方法について; 200mg〜400mg/Kg/回 から1g/Kg/回〜2g/Kg/回へ、開始時期は発症後7日以内。4、アトピー性皮膚炎では治療上のステロイド軟こうの意義と非常に大切なこととして皮膚を清潔にすることが強調されていた(例:学校でもシャワーを)。5、一次救急について和歌山県の場合の現状および問題点。6、「今後の医療には倫理が重要・・・・・」 、子育ての倫理・しつけや道徳の重要性についての強調。このような発表の目新しい点についてまとめて下さった。 (以上 上田 剛先生の報告)

1、川崎病について。
  会頭講演では、病因として、A群レンサ球菌のスパ抗原であるレンサ球菌発熱性外毒素が重要な役割を果たしている。サテライトシンポジウムでは、「川崎病の冠動脈瘤をつくらない診断とこつはあるのか」について話し合われていた。それらの具体的内容(治療や検査値による冠動脈異常の発生頻度推定、ガンマグロブリン投与量、時期、アスピリン・ウリナスタチンの使用など)について要点をまとめて下さった。(以上 礒川利夫先生の報告)
1、サテライトシンポ「保育園のための感染症対策ーー登園基準について」
  乳幼児の場合、消化管伝染病については(手洗いなど)学童と同様にはいかないことが指摘された。しかし、より合理的、現実的な案もなく、結局「学校での登校基準に準ずる」が、とりあえずの結論であった。また、感染症から職員を保護することも必要というのが新しい観点に思えた。(以上 松浦章雄:発表者まとめ)
                                                                 
その他に、
2、一次救急については、その地域その地域での一番良い方法を見つけて行くことが必要。 3、ロタウイルスワクチンで、約8%の腸重積の発生がみられ現在中止になっている。 4、水痘の皮膚病変部への劇症型溶連菌感染が発生。ゾビラックスは使うが抗生剤は使わない現在の水痘治療の盲点か。 5、神経芽細胞腫のマススクリーニングでみつかった症例(通常は予後良好例が多いといわれている)で、手術などの治療上の合併症が、手術そのもので10%、化学療法で5%、放射線療法で11%あったなどと主な報告について要点を報告して下さった。 (以上 松浦章雄先生の報告)                                  

文責 山本浩一


第386回

日時
平成12年4月12日(水)午後7時ー
症例呈示 マススクリーニングで発見された、乳児神経芽腫の3例 住友別子病院 加藤文徳
話題提供 ネフローゼ症候群の疾患特異的遺伝子の検索 十全総合病院 一ノ瀬洋次郎
その他
「予防接種のお知らせ」の記載の変更について マナベ小児科 真鍋豊彦

1)症例発表 「マススクリーニングで発見された乳児神経芽腫の3例」
                                住友別子病院小児科     加藤文徳


 マススクリーニング(以下 マス)で発見された乳児神経芽腫の3例を報告した。1例は国際病期分類3期で化学療法を実施、2例は病期1期で手術のみで治療終了しいずれも経過良好である。マス発見例の予後は極めて良好であり、摘出された腫瘍の生物学的特性に予後危険因子がほとんど無いことから、現在治療の軽減化を図るべく新しい治療プロトコールが進められている。 一方、神経芽腫のマスは1985年に開始され、5000人に1例の割合で神経芽腫が診断されている。しかし、マスにより神経芽腫の発生率は約2倍になったにもかかわらず1歳以上の症例の明らかな減少は観察されていない。また、神経芽腫の死亡率が低下したという全国規模のデータもない。現行のマスは自然消退する運命にある腫瘍を診断し、不必要な治療を加えている可能性が極めて高く、マスの有効性は疑問視されている。現在厚生省によるマスの再評価が進められている。(以上 発表者抄録)

コメント:先生の発表された第1例は、まさにこのマススクリーニング(以下マス)で発見された乳児神経芽細胞腫の不思議な一面(予後良好)を示す症例である。マス検査がなされる以前は発見された神経芽細胞腫が反対側にまで浸潤している場合は、その症例は大変予後不良であった。しかしマスで発見されたこの第1例は反対側にまで浸潤し、十二指腸を巻き込んでいて手術不能例であったにもかかわらず、化学療法で腫瘍の消失が確認され経過良好とのことであった。今までの研究で、マススクリーニング(以下マス)によって発見された乳児神経芽細胞腫の大部分は非常に予後良好であることが明らかとなっている。日本の不幸は、すべての乳児がマスに参加しているところにあった。検査をしていない群としている群との比較試験が正式には出来ていない。したがってこのマスが歓迎すべきものだったのか、そうではなっかたのかの結論が出せないでいる。世界中で乳児全員にマスをしている国は日本だけであり、しかも壮大な研究の結果は非常に予後良好な腫瘍を必要以上に発見し、不必要な処置(手術、化学療法など)をしていることがもはや疑う余地がないほどとなった。現在大掛かりなこの比較試験がカナダでなされている。もう数年でこの比較試験の結果が判明するものとおもわれる。このような事実を踏まえての先生の発表であった。したがって、症例に対する質問というよりもマス検査および制度そのものを疑問視する意見が多く出された。先生の発表なされた意図もまさにこの点にあったと思われる。マスで発見される症例のほとんどが予後良好例であるにもかかわらず、「元気な子がある日突然尿検査陽性で悪性腫瘍が心配されます」と診断され、それから再検査・腫瘍の発見・手術・化学療法と振り回される現状が、家族にとってもはや好ましい制度と呼べないのではないか。このまま続けるならば、「はじめから予後良好な腫瘍の可能性が高いと公表して検査すべきである」などが主な意見であった。タイムリーな発表で、このマスの問題点を再認識するとともに、悪性腫瘍を扱う多くの専門病院が現在このマスで発見された乳児神経芽細胞腫をどのように扱うようになっているか改めて確認することができた。

話題提供 「微小変化型ネフローゼ症候群(MCNS)の候補遺伝子の検索」
                               十全総合病院小児科  一ノ瀬洋次郎


 MCNSの原因は、T細胞の機能異常の関与が示唆されており、その機能異常の結果リンパ球が産生するサイトカインが糸球体陰性荷電を減少させ、蛋白尿が出現する機序が推測されている。しかし、詳細については未だ不明である。これまでに糸球体透過性亢進因子(GPF)としての可能性のある数種類のサイトカイン(VPF、SIRS、VEGFなど)が報告されており、MCNS患者の末梢血リンパ球もしくは末梢単核球培養上清にはGPFの存在が推測されるが、単離同定はされていない。そこでその遺伝子検出方法として、新潟大学第二内科はPCR-coupledサブトラクション法を、我々岡山大学小児科ではdigoxigeninを用いたPCRサブトラクション法を用いて、ネフローゼ症候群発症時の末梢リンパ球が産生している因子の遺伝子を検出し、分子レベルで単離同定しようと試みている。この研究により、MCNSの病因物質として、新潟大学第二内科は、heat shock protein86など既知の遺伝子5つと未知の遺伝子2つを検出し、我々の実験ではHuman chromosome X YAC 878a5cosmidなど既知の遺伝子に相同性の高いもの3つ、未知の遺伝子6つを得ている。今回得られた蛋白遺伝子が、真の病因物質であるかどうかはまだ判定できないが、今後この蛋白の全長を解析し、その物質が本当に蛋白尿を発生させるのか検討する必要がある。(以上 発表者抄録)

コメント:ネフローゼ症候群では、麻疹の時緩解したり、治療に免疫抑制剤が有効であることから、その発症には免疫学的な異常、とくにT細胞の異常から疾患特異的な液性因子がリンパ球から発生するといわれている。このような事実をもとにネフローゼ症候群の緩解期と再発時のそれぞれのリンパ球から抽出されたm-RNAを比較して、再発時に何か特異的なm-RNAがあるか、またそれがどのような蛋白なのかをみつけだし疾患の発症に関係する物質を見つけ出すことが目的であるとのことであった。方法の難しさもあるがたとえ見つかっても疾患の発症原因なのか、結果なのかはまた次のステップのアイデアが必要となるかもしれない。リンパ球を扱うため、一人でやると1検体の処理に1ヵ月を要し非常に時間のかかる実験であるとのことであった。

その他:1)「予防接種のお知らせ」の記載変更について
                                マナベ小児科   真鍋 豊彦


 いままで「予防接種手帳」と「予防接種のお知らせ」とのあいだであった予防接種の施行に関する記載の不一致が、真鍋先生から保健センターへ指摘していただいて平成12年度版の「予防接種のお知らせ」の記載を変更することにより予防接種手帳と同じ記載となった。どのように変更になったかを説明してくださった。
コメント:この中で特別な問題点が指摘された。集団接種から個別接種になってから現在全国的に中学生の風疹の予防接種の接種率が極端に落ち込んでいる。このため各地区で接種率の向上をめざしいろいろな努力がなされているが、新居浜市ではいまだに最低の基準で集団接種の時と同じ中学2年生の1年間だけ有効な接種券が交付されている。そして予防接種の意味を生徒および家族に十分伝えているとはいえず、忘れている人が多く風疹の接種率が約50%以下と落ち込んでいる。このままでは将来先天性風疹症候群の赤ちゃんが生まれる心配が多くなる。一方宇摩郡では、法律で勧められている12歳から15歳まで有効な接種券がすでに交付されている。すなわち中学生の3年間有効な接種券である。新居浜市でも早急に対策をたてなければこの年代の風疹抗体保有率が低下し、妊娠初期ににもし風疹にかかってしまうと大変な心配をしなければならなくなる。この緊急事態を認識し、新居浜市医師会地域保健部に伝えて新居浜市と交渉していただき、「新居浜市でも中学生が接種できる期間を長くして、接種率を向上させる努力をすべきである」との見解から医師会への要望を早急にすべきということになった。
     2)第385回定例会で「たばこに関して、喫煙を減らしていこうとのスローガンがたばこ議員によってうやむやにされそうだ」とのことで小児科医会参加者で署名運動を行ったが、その運動のおかげで21世紀における国民健康づくり運動(健康日本21)のたばこ対策分科会報告文に、「喫煙率半減をスローガンに、喫煙率の減少が大幅に進むよう努める」との一文がなんとか残った。「ありがとうございました」とその文書のコピーを示して真鍋先生より報告があった。                                            
  (文責 山本浩一)

第385回

日時
平成12年3月8日(水)午後7時ー
症例呈示 低身長、日光過敏、易感染性を示す11歳兄と8歳妹の兄弟症例 愛媛労災病院 早川星朗
症例呈示 Cytosine arabinoside(Ara-C)大量療法によりAcral erythemaを認めたAMLの1例 住友別子病院 磯川利夫
その他
健診会場について 山本小児科クリニック 山本浩一
1)症例発表
   「 易感染性、日光過敏、低身長の11歳兄と9歳妹の兄妹例 」
                           愛媛労災病院小児科      早川 星朗


 11歳兄と9歳妹の兄妹例。現病歴は低出生体重児、易感染性、日光過敏、低身長。検査所見はIgG、IgMの低下を認めたが、内分泌系の異常は認めなかった。また、染色体検査ではBreakageを認めた。姉妹染色分体の検査では正常の10倍以上の頻度でSCEが出現した。以上の結果からBloom症候群と診断された。
 Bloom症候群は出生時よりみられる小柄な体型、日光過敏性紅斑、免疫不全、高率な癌腫の合併を伴う常染体劣性の遺伝性疾患である。近年、この Bloom症候群の病因遺伝子が明らかにされBLMと命名された。
 BLMはDNAヘリカーゼと高い相同性をもち、実際にDNAヘリカーゼの活性を持つことも証明されている。DNAヘリカーゼは二本鎖DNAを一本鎖に巻き戻す蛋白で、DNAの修復などのうえで重要な機能を担っている。Bloom症候群では、このDNAヘリカーゼ機能が破綻し、DNAの修復ができず、発癌すると考えられている。(以上 発表者抄録)

コメント:Bllom症候群という非常に稀な疾患の呈示であった。日本では1999年までに16例の報告があり、そのうちの2例の報告である。(過去愛媛県でも2例の報告がある。そのうちの1例は愛媛大学小児科からの報告で、県病の若本先生が関与された症例とのことであった。)染色体不安定性と免疫不全とがあいまって、悪性腫瘍が高頻度に発生する大変予後不良な症候群であり、この2症例もすでに亡くなっているとのことであった。確定診断の方法で、染色体の不安定性、特に sister chromatid exchange(SCE)=姉妹染色分体交換についての説明は非常に興味あるものであった。

2)症例発表:「 Cytosine arabinoside (Ara-C)大量療法によりAcral erythema を認めたAMLの一例 」
                           住友別子病院小児科      礒川 利夫


 Cytosine arabinoside(以下Ara-C)の大量療法により生ずるacral erythema については、本邦では4報告を認めるのみである。症例は7歳の女児で、主訴は、発熱、咳嗽、鼻閉。12/28、37度台の発熱出現し、近医を受診し、WBC 37,300/mm3、myeloblast を認め、当科紹介された。骨髄検査では、細胞数36.3万、Blast72.6%。FAB分類でM2で表面マーカーは骨髄性のマーカーが上昇していた。染色体は、46,XX, 8;21の転座で、AML(M2) low riskと診断し、1/5AML-99 Pilot Protocol の寛解導入療法Aにて治療開始した。HD-Ara-C の1日投与量は20〜30倍も大量になる。Ara-C大量療法の副作用は、骨髄抑制、発熱、悪心、嘔吐、下痢等の消化器症状、蕁麻疹様の紅斑性皮疹、有痛性紅斑、 acral erythema、口内炎、結膜炎等の皮膚粘膜症状、間質性肺炎、シタラビン症候群である。急性白血病の化学療法特にAra-C大量療法中に手掌足蹠に発症する有痛性肢端紅斑をacral erythemaという。病理組織学的所見は、表皮のアポトーシスを伴った海綿状態と真皮の軽度の浮腫、血管拡張と小円形細胞浸潤などの非特異的炎症を呈する。エックリン汗腺アポトーシスを示すことから、化学療法剤による汗腺上皮に対する直接毒性によって発現するといわれている。治療としては、ステロイド剤の投与である。acral erythemaは、Ara-C大量療法の使用頻度の増加している現況では今後留意すべき副作用の1つである。(以上 発表者抄録)

コメント:治療により出現する痛みを伴う肢端紅斑であった。Ara-C投与毎に出現して、投与を中止すると4から5日で消失する。そしてステロイド投与により、その症状の改善がみられた。「注意して観察していくと、もっと頻度が多い副作用ではないだろうか」とのご意見であった。

その他:1)健診会場について
                                山本小児科クリニック   山本 浩一

 1歳6カ月の健診会場で、診察がプライバシーを全く保てない大広間でなされたことから、その改善を保健センターへ申し入れた。この出来事は、普段の健診会場である保健センターが改修工事で使えず、ウイメンズプラザで健診がなされたことから起こった。病気がすでに経過観察されていることが多い最近の健診では、育児や病気に関してのプライベートな相談が多くなされることを考えるならば、健診に対してもう少し実施する行政側の「親と子に対する配慮」があって当然と考えられた。
                                                                     (文責 山本浩一


第384回

日時
平成12年2月9日(水)午後7時ー
症例呈示 気管支炎を反復後、膿胸を合併した8ヵ月男児例 県立新居浜病院 若本裕之
話題提供 先天性サイトメガロウィルス感染症の難聴について 県立新居浜病院 中野直子
1)症例発表
   「 気管支炎を反復し、 肺膿瘍を合併した8カ月男児の1例 」
              県立新居浜病院小児科      若本裕之、 中野直子、太田雅明


【症例】8カ月の男児
【主訴】発熱と左耳漏
【家族歴】特記すべきことなし。
【既往歴】生後4カ月時に当科で気管支炎の入院治療を行った。また、 外来通院していた耳鼻科で中耳炎の耳漏からMRSAが検出された。
【現病歴】平成11年5月1日より発熱、 左耳漏、 咳嗽が出現したが、家庭で様子を見ていた。5月4日から咳が増え、 発熱も続くため同日当科外来を受診し入院した。
【入院時現症】咽頭発赤と左鼓膜発赤を認めるのみで、 呼吸音にラ音なくその他にも特記すべき異常所見はなかった。
【入院時検査】WBC 17,700/mm3、 CRP 8.28mg/dl、 ESR65/hr、GOT 62IU/l、 GPT 55IU/l、 ツ反陰性、 検尿 正常。胸部X-P上左下肺野に陰影あり。細菌培養:咽頭、 常在菌;喀痰、 ブドウ球菌;血液、 陰性;耳漏、 MRSA。免疫系検査には異常を認めなかった。
【経過】カルベニン投与で中耳炎は治癒したが、 左下肺野に膿瘍を合併した。部位的に胸部ドレーンは出来ず、 そのため正確な起炎菌同定はできなかったが、 おそらくMRSAによるものと考え、 バンコマイシンに変更し、 血液検査上でも炎症反応陰性を確認したあと 6月9日軽快退院した。
【退院後経過】外来で定期的に診察していたが、 7月18日から発熱と咳嗽が出現し、 19日に当科に再入院した。
【入院時検査】WBC 14,400/mm3、 CRP 11.8 mg /dl、 ESR 30/hr、 GOT 59IU/l、GPT 64IU/l。入院後、 バンコマイシンとガンマグロブリンを投与したが効果なく、 7月26日から抗生剤をハベカシンに変更。一時的な解熱傾向がみられたのみで、 症状と血液検査に改善がなかった。7月26日に肺分画症を疑いMRIで栄養血管の同定を試みたが見つからなかった。しかし、 本症が最も疑わしいまま、 治療として左下肺野の切除を行い、 病理診断で肺葉内肺分画症と診断された。
【まとめ】特に乳児において左下肺野に反復する感染巣を認めた場合は肺分画症を疑うこと。近年では血管造影以外に造影CTやMRIで栄養血管の同定が可能であるが、 我々の症例のように同定ができないことも稀ではなく、そのような場合は除外診断を行い手術に持っていくことが大切である。(以上 発表者抄録)

コメント:はじめから「基礎疾患を、あえてふせての症例呈示」であった。気管支炎で入院治療をした既往がある症例が、中耳炎にて治療中に耳漏からはMRSAが検出されている。この症例が肺炎になった。しかも膿瘍になり治療に非常に抵抗している。軽快退院したものの、また同じ部位に膿瘍を形成していた。普通は治療に抵抗するのはMRSAによる膿胸のためかと考えたくなるが、解熱傾向もみられず、内科的治療が困難で確定診断がつかなかったが肺分画症が強く疑われるため手術になった症例であった。経過中のX線写真、CT、MRIなどを呈示して、徐々に診断していく過程を追っての症例呈示であった。うまく証明はなされなかったが、なぜこのような検査を計画していったか意図がはっきりしていて、治療経過と診断が密接に絡み合っている臨床のおもしろさを感じさせてくれた。したがって、主な質問は「どうして肺分画症を強く疑ったか」であった。もろもろの間接的な証拠もあろうが、先生がこの病気を強く疑ってかかったことが診断への第一歩だったようだ。

話題提供:「 先天性サイトメガロウイルス感染により高度難聴を来した一例 」
                      県立新居浜病院小児科      中野直子


 高度難聴を来した5ヶ月の女児を経験した。患児は軽度の精神発達遅滞を認め、血清学的に先天性サイトメガロウイルス感染によるものと思われた。先天性サイトメガロウイルス感染症児の90%以上は無症候性で長期予後は良好と考えられていたが、新生児期に無症状でも将来感音性難聴や知能障害を合併する可能性があり、さらに聴力の悪化を来すものも少なくはない。先天性サイトメガロウイルス感染症児に対しては、聴力障害の早期発見とその進行の可能性を念頭に置いた治療教育と、慎重な聴覚管理が必要であると思われた。(以上 発表者抄録)

コメント:症例を呈示しての話題提供となった。発達の遅れと音に対しての反応が乏しいことより検査して、ABR、血清抗体価(母、児)などにより診断された症例であった。通常この難聴をきたすサイトメガロウイルス感染は、無症候性である。したがってこの症例でも難聴の原因に対する検査としてのウイルス抗体検査が生後5ヶ月の時期になされたが、母児の血清抗体価による診断だけで先天性のものと診断するのはいかがかとの議論があった。従来90%以上だった妊婦のサイトメガロウイルスの抗体保有率が低下してきているため、今後このウイルスによる(胎内および)先天性感染の増加が懸念されている。さらにこの無症候性先天性サイトメガロウイルス感染症による聴力障害は、生後さらに進展する可能性がある。正確な診断が極めて難しいウイルス感染症であり、出生後速やかに先天性サイトメガロウイルス感染症の診断をして、その後の慎重な経過観察をするためには、「現在おこなわれている風疹やATLの抗体検査と同じように、妊娠時の母親のサイトメガロウイルス抗体価の検査が是非とも必要である」とのご意見が強く印象に残った。この疾患が重症なだけに、是非とも妊娠時のルーチン検査になって欲しい検査である。

その他:1)厚生省の「健康日本21のたばこ対策について」進めていただくよう、署名運動をしよう。
                                             マナベ小児科    真鍋 豊彦
  <出席者全員が署名する。>

      2)礒川 利夫(いそかわ としお)先生が本年1月7日付けで住友別子病院小児科へ赴任された。
      3)報告
       1.県小児科医会(3月12日)の内容について
       2.日本小児科医会の法人化の問題について
         「法人化には会員の増員が必要なので、是非加入を」とお願いする。
       3.虐待は児童相談所へ連絡を
           ・・・これは近い将来、診察した医師の報告義務が法的に課せられる予定である。
                                               松浦小児科   松浦 章雄

第383回

日時
平成12年1月12日(水)午後7時ー
症例呈示 後天性サイトメガロウィルス肝炎の1例 十全総合病院 上田 剛
話題提供 「子どもの心研修会、前期(平成11年6月26日、27日)」に出席して 大坪小児科 大坪裕美
その他
集団食中毒(土居町)についてー第1報ー 鈴木医院 鈴木俊二
1)症例発表
    「弛張熱、肝脾腫を呈した後天性サイトメガロウイルス(CMV)肝炎の疑われた1例」
                    十全総合病院小児科   一ノ瀬洋次郎、 上田剛

 症例は12歳男子。平成11年9月24日から続く発熱、咳嗽を主訴に9月27日外来初診。咽頭発赤を軽度認めるのみで他に異常所見なく、咽頭炎として内服薬で加療した。その後、発熱、咳嗽が持続し9月28日当科入院。入院時体温40度で咳嗽あり、咽頭発赤を認めた。心肺腹部に異常なく、発疹も認めなかった。入院時検査では白血球数7100/ulで、杆状核球は23%と増加し、異型リンパ球は認めなかった。CRP 6.4mg/dl、赤沈1時間値51mmと中等度の炎症反応を認め、GOT 53 IU/l、GPT 46 IU/l、LDH 1213mU/ml、T-Bil 0.3 mg/dlと肝機能障害が疑われた。以上のように特異的な所見がなく気管支炎として抗生剤と去痰剤を投与した。しかし高熱が持続し、入院3日目から肝腫大出現、入院6日目には肝6cm、脾1cm触知した。その後、肝脾腫、炎症反応、肝機能は徐々に改善傾向を示し、入院10日目に解熱した。経過中、発疹、関節痛は認めなかった。血液細菌培養は陰性で、腹部CTでは肝脾腫を認めるのみであった。血清学的検査は、CMV-IgM抗体は陽性で感染急性期を示し、その他、HA-IgM抗体・HBs抗原・HCV抗体、Q熱抗体は陰性、EBV抗体・HSV-1抗体は既感染パターンであった。したがって本症例は、悪性腫瘍、膠原病が否定的であり、検索しえた感染症のうち、CMVのみが感染急性期と考えられ、後天性CMV肝炎が疑われた。今後、急性期血清からPCR法によるCMV-DNAを検索する予定である。(以上 発表者抄録)

質疑・討論:小児の不明発熱の鑑別診断では、大きく分類すると悪性疾患・膠原病・感染症があげられる。この中で感染症では、以前からの疾患に加えて欧米でQ熱が重要な疾患となっている。ペットから感染するリケッチャによる人畜共通感染症であるQ熱は、一般小児およびネコ、イヌなどのQ熱抗体価の調査から日本でも広範囲に浸淫していることが推定されており、日本の小児の不明発熱の原因としても十分に注意すべき疾患となっている。この症例は、通常の抗体検査およびPCR法でQ熱は否定された。しかしサイトメガロウイルスのIgM抗体陽性で、通常の健康な小児では不顕性感染で終了するサイトメガロウイルスの初感染が、肝障害を引き起こしためずらしい症例の可能性があるとのことであった。診断の確定にはやはり肝生検が必要だろうとのことで討論が終了した。

2)話題提供
  「子どもの心研究会前期(H11.6.26〜27) 」に出席をして 
              大坪小児科(伊予三島市)    大坪 裕美 
 
前期および後期(H11.7.10〜11)の研修を受けると、日本小児科医会より「子どもの心」相談医と認定(5年間)される。実際の現場に対応、また会員の資質向上が趣意でできた制度で、全国で452名、県下7名が今回認定された。
  教育講演:前期9題
 講演内容:子どもの心(3歳まで)、その母子関係、親子関係、子どもの心の発達、問題行動など。
 講師:小児科医、発達心理学、臨床心理学などの専門家による教育講演。
                        詳細は、日本小児科医会ニュース No27.No28.参考。 (以上 発表者抄録)

コメント:子どもの心の問題は、今の医学部の講義では全くといってよいほどに不十分な対応しかされていない分野である。一方少子化・高学歴の現代社会の中で、あらためて大きな問題になっていることでもある。そして今「子どもの病気の専門家」である小児科医が、「子どもの心の問題の相談」にのることが出来るかが問われている。すなわち地域に密着した小児科医による「子どもの心の専門家」が必要とされているわけである。そのために日本小児科医会が、日常の診療の中で気軽に相談できる「子どもの心の専門家」を育てていこうとして行ったのがこの研修会である。大坪先生が紹介した、「子供には、私はあなたの味方で、しかも安全地帯であると思えるように接していくべきだ」との講演内容がこの研修会の姿勢を如実に表しているように思えた。

3)その他:
 「集団食中毒(土居町)について ー 第1報 ー 」
            鈴木医院(土居町)      鈴木 俊二
 平成11年11月の土居町食中毒(サルモネラ・エンテリティディス(S.E)による)の経過を報告した。11月2日に卵をミサーにて攪拌し、11月5日のごまあえ、11月8日の厚焼き卵が原因食品と断定され、11月11日より学校給食が停止された。総数2153人(全生徒数2010人及び教職員)、有症者は調査開始日の11月11日503人、調査終了日11月20日までの合計は有症者930人、発病者(医療機関受診者)311人、入院者数15人(4歳〜15歳)だった。又、欠席者数は第2週に通常(60〜80人)の約3倍になっていた。(以上 発表者まとめ)         
11月6日 11月7日 11月8日 11月9日 11月10日 11月11日 11月12日 11月13日
欠席者数 40 95 199 230 229 248
総数 2010 2010 2010 2010 2010 2010 2010
2% 5% 10% 11% 11% 12%
有症者 503 771 888
発病者 230
入院数 3 14 14
11月14日 11月15日 11月16日 11月17日 11月18日 11月19日 11月20日
欠席者数 205 153 134 121 103 85
総数 2010 2010 2010 2010 2010 2010
10% 8% 7% 6% 5% 4%
有症者 888 888 904 916 928 929 930
発病者 230 243 266 311
入院数 15 15 14 12 9 8 5

コメント:ある日突然予期せぬ病気の渦中に放り込まれた診療所の生の声を聞いて、今後起こるかもしれない新居浜市でのパニックに備える会となった。サルモネラ食中毒の初期症状は、単なる発熱のことが多く初めの1日から2日間は何か「特別なかぜ」が流行したのではないかとの印象だったようだ。その後に食中毒の可能性に気づき(11月9日)、医師会へ・さらに土居町へ連絡(11月10日)、そして医師会を通して保健所へ連絡(11月11日)、その後すぐにTV報道(11月11日)された。その後診療に追われる毎日となったが、情報を知りたくても情報が得られずTV報道が唯一の情報源となり、診療現場が全くの”つんぼ桟敷”となってしまったようだ。菌検査の結果も提出者よりも保健所の方が早く知っている事もあり、どのように情報が混乱したかは推して知るべしである。このようなパニックが起こった時に、医療側に情報の管理者がいないと自分たちの情報を提供するだけで、集められた情報を全く利用できないままに診療に当たらなければならないのが現実のようだ。校医と学校(養護教諭)、校医と医師会、そして医師会と市および保健所それぞれが双方向の情報の流れをつくることが必要である。医師会としては、情報を管理し、医師会員への情報の提供に努める何らかの機関をすぐに機能するよう用意していくべきであろう。今からでも遅くない。他山の石として、土居町の食中毒事件を何らかの機会を作って学ぶ姿勢があって当然のような気がする。

                                              (文責 山本 浩一)



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