定例新居浜小児科医会(平成5年3月以降)


平成13年(395回→406回)

第407回

日時
平成14年1月9日(水)午後7時ー
症例呈示 「季節はずれのお話し」 愛媛労災病院 山岸篤至
話題提供 「母子感染の概要」 渡辺小児科 渡辺敬信

第406回(忘年会)

第406回新居浜小児科医会
忘年会
平成13年12月12日
平成13年12月12日(水)に、第406回新居浜小児科医会(忘年会)がリーガアクアガーデンで開かれました。
出席者は17名でした。
                        出席者名
(前列左から) 藤枝俊之、宮田栄一、真鍋豊彦、三崎 功、麻生惠子
(中列左から) 高橋由博、塩田康夫、加藤文徳、松浦章雄、山本浩一
(後列左から) 中野直子、井上恭子、若本裕之、加藤正隆、磯川利夫、山岸篤至、鈴木俊二(敬称略)

第405回

日時
平成13年11月14日(水)午後7時ー
症例呈示 「HHV−6による突発性発疹解熱発疹期にけいれんを認めた1例」 県立新居浜病院 高橋由博
話題提供 「1ヵ月健診について」               住友別子病院 磯川利夫

症例呈示:「HHV-6による突発性発疹解熱発疹期にけいれんを認めた1例」
           県立新居浜病院小児科     高橋由博

 
 症例は1歳0ヶ月男児、主訴はけいれんである。平成13年10月1日から熱発があり、10月2日には間代性けいれんを認め近医を受診し、熱性けいれんと診断されていた。10月5日から解熱・発疹を認めたがぐったりして反応に乏しいため近医を再受診したところ、左上肢に間代性けいれんが出現し、当院を紹介受診・入院した。来院時両側膝蓋腱反射の亢進あり、両側頭頂部〜後頭部に頭部CTでLDA、MRIでT2highの所見を得た。突発性発疹CNS合併例と考え脳浮腫軽減と、抗けいれん剤・抗生物質など投与した。10月7日四肢強直性けいれんを認めたが投薬なく止まり、以降けいれんは認めなかった。その後一時的に左半身の軽度運動麻痺を認めたが、全身状態は改善し麻痺は軽快した。CT・MRI所見も改善し、脳波異常もなかったため10月30日退院した。入院時髄液からHHV-6 DNAが検出されHHV6脳症と診断した。
 考察:HHV-6感染でのCNS合併(熱性けいれんを含む)は8-13%に認める。髄液中のHHV-6DNAは一部の熱性けいれん合併患者と脳炎/脳症患者全例から検出され、ウイルスの中枢神経系への直接侵入がCNS合併に関わっている可能性が示唆されている。脳炎/脳症例では、発達遅延・けいれんなどの後遺症を残した報告もあり今後の経過観察が必要である。(以上 発表者抄録)
コメント:突発性発疹は、日本で原因ウイルスが確定された疾患である。すなわち1988年、日本の山西らがHHV-6による急性感染症が突発性発疹であることを見出した。その後の研究で多くのヒトは乳児期にすでにこのウイルスに感染していることが判明している(年齢による抗体保有状況から、感染は生後6ヵ月以後に起こり18ヶ月頃にはほとんどのこどもが感染すると想像されている)。そして他のヘルペス属のウイルスと同様に、HHV-6も潜伏感染し、おそらく生涯ヒトに感染し続けていると考えられている。そして免疫状態が低下すると再活性化し、成人では新たな病気の原因ウイルスとして注目されている。臨床的には、突発性発疹は比較的多く熱性けいれんを併発する疾患として考えられている。しかしその中にはこの症例のように、脳症を思わす症例があるので注意されたいとの発表であった。

話題提供:「1ヵ月健診について」
          住友別子病院小児科        礒川利夫

 勤務医の場合は現在小児科医が児の1ヵ月健診をするのが普通になっていますが、 開業医の場合は母体の1ヵ月健診と一緒に産婦人科で児の1ヵ月健診を済ませてしまう場合が多いのが現状です。今後、児の1ヵ月健診は小児科医がするべきだと考えています。個人的に産婦人科に新生児の回診をするなどの方法もありますが、現実的なのは医師会等から保健所や県や市などの行政に訴える方法で、他の月齢の乳児健診と同様に予算化できれば小児科医が児の1ヵ月健診をできると考えています。小児が初めて小児科医を受診するのは多くの場合乳児健診に際してなので、個別乳児健診は新規のかかりつけ患者となるため、今後力を入れていくべき分野であると言えます。1ヵ月健診後の乳児健診や風邪等も産婦人科を受診して、産婦人科医とホームドクターの関係になっている母親もいます。
 1ヵ月健診の実際は、まず母子手帳により妊娠時と出生時と出生後の情報を得て、ハイリスクインファントかをチェックします。次に身体計測をして母子手帳の身体発育曲線にプロットし、成長をチェックします。そして、問診表で栄養法と排便等をチェック し、育児相談を行います。それから診察を行いますが、泣く可能性のある診察はできるだけ後にします。当院では承諾書を得て無料で、腎エコースクリーニングを行っています。最後に外科的疾患の特に紹介する時に重要な手術時期等について話題提供しました。(以上 発表者抄録)
コメント:総合病院では、生まれた新生児は病気があろうとなかろうとすぐ小児科医が管理し、そのまま小児科医が出生後を診ていくことが自然の流れとして行われている。したがって、1ヵ月乳児健診は小児科医が行っているのが普通である。さらに今や小児科医の関与は、特に病気が考えられる場合は、出生後からでなく出生前から関与していくことが常識となっている。一方では、そんなあたりまえのことが行われていないという状況がある。その問題点を改めて指摘してくれた話題提供であった。どのくらいの時間をかけてやっているのか、ビタミンKシロップの投与対象をどのように決めているのか、病気の発見にはどのようなことを気をつけて診察しているのか、育児上の注意などはどのように説明しているのかなどの質問がでた。1ヵ月健診を小児科医がすべて行っている自治体(高知県南国市)があることも紹介された。

その他:
  1)新居浜小児科医会記念誌(100回、200回、300回)のCD化完成。
  2)感染症サーベイランスの報告を週末に必ずして下さい。
  3)保健所から「小児救急体制についての調査」への協力依頼あり。
  4)松浦章雄幹事勇退、新しく会長職を設けた。「会長:真鍋豊彦、幹事:山本浩一、加藤文徳」の体制となる。                     

(文責 山本浩一)


第404回(特別講演会)

日時
平成13年10月10日(水)午後7時ー
場所 リーガロイヤルホテル新居浜
1)製品紹介 キプレスチュアブル錠 杏林製薬KK 稲岡敏郎
2)特別講演 座長:県立新居浜病院小児科               若本裕之部長
講師:福井医科大学小児科  眞弓光文教授
演題: 「小児アレルギー疾患の病態と治療」

2)特別講演
   座長 県立新居浜病院小児科  若本 裕之

「小児アレルギー疾患の病態と治療」
    福井医科大学小児科教授 眞弓光文(マユミ ミツフミ)先生

講演要旨
 アレルギーマーチ
 小児アトピー性皮膚炎患者の7割程度は乳児期に発症し、気管支喘息の発症は1〜3歳にピークがある。乳児のアトピー性皮膚炎患者の8割以上で卵白を中心とする食物抗原に対する特異IgE抗体が検出されるが、ダニ特異IgE抗体陽性者は10%程度に過ぎない。しかし、アトピー性皮膚炎患者におけるダニ特異IgE抗体陽性者の割合は幼児期に急激に上昇し、幼児期後期には80%以上に達する。逆に、食物抗原特異IgE抗体陽性者の割合は幼児期から学童期にかけて次第に低下する。一方、小児気管支喘息患者ではダニ特異IgE抗体が90%程度の患者で検出される。
 このように、小児のアトピー性疾患患者では、アトピー性皮膚炎から気管支喘息へ、卵白を中心とした食物抗原アレルギーからダニを中心とした吸入抗原アレルギーへと、変遷が見られる。小児気管支喘息患者の少なくとも半数はまずアトピー性皮膚炎で発症しており、乳児期にアトピー性皮膚炎を発症した児の40%程度が幼児期に気管支喘息を発症する。
 近年の小児アレルギー疾患患者の割合の増加を考えると、発症の危険性の予測に基づいて発症予防のための方策を講じることが最も重要である。残念ながら現時点において小児のアレルギー疾患の発症を効率よく予測する方法は確立されていないが、今後、遺伝子研究等、この方面の研究の進展が期待される。

 小児気管支喘息の治療・管理、患者教育
 小児の喘息は成人に至るまでに自然に寛解・治癒することがあるが、重症になるほどこの可能性は低下する。気管支喘息は気道のアレルギー炎症であり、喘息発作が繰り返されると気道のリモデリングが起こり、気道反応性の亢進を来たし、喘息の重症化・難治化の原因となる。したがって、小児の喘息の治療にあたっては、発症早期から非発作時にも適切な長期管理を行って、可能な限り新たな発作の出現を防ぎ、気道のリモデリングが起きるのを防いで、早期に寛解・治癒に導くことが重要である。長期管理のための薬物療法は、過剰であってもいけないし、過小であってもいけない。そのためには、各患者ごとに重症度の判定をきちんと行い、重症度に応じて適切な長期管理薬を選択する。さらに、各患者で喘息発作の推移を十分に観察し、それに応じて治療内容をアップしたりダウンしたりする。喘息の本態がアレルギー炎症であることから考えると、少なくとも中等症以上の患者では、炎症を抑える治療薬(吸入ステロイド薬)をベースにし、他の治療薬を適宜組み合わせることが良いと考えられる。喘息が軽症であったり、逆に吸入ステロイド薬を大量に使用しないと発作がコントロール出来ないような症例では、抗アレルギー薬、徐放性テオフィリン薬、β2刺激薬の使用または併用が有効と考えられる。吸入療法は内服薬に比べて薬物量が少なくてすみ、ほぼ効かせたいところだけに薬を効かすことが出来るなどの有利性がある。一方、吸入療法は内服とは異なり、正しく吸入されないと効果が極めて悪い。したがって、患者に対して正しい吸入法の指導を十分に行う必要がある。また、吸入薬は往々にして服薬率が悪いので、服薬状況の確認がしばしば必要である。
 患者は発作時には医者の言うとおり服薬するが、発作がしばらく無いと服薬を勝手に止めてしまうことがよく認められる。その結果、再度喘息発作を来たし、当初の目標が達成されない事態となる。これを防ぐために、少なくとも軽症持続型以上の患者に対しては、喘息は発作が起きれば起きるほど治りにくくなるため、喘息の治療においては非発作時を含めた長
期管理が最も重要であること、また、長期管理は長く続ける必要あることを、繰り返し十分に教育することが必要である。
 
 略歴:昭和23年生まれ。昭和48年京都大学医学部卒業、同小児科研修医。昭和55年京大医学部小児科助手。平成元年京大医学部小児科講師。平成4年京大医学部小児科助教授。平成9年福井医科大学小児科教授。1980年ー1982年 米国アラバマ大学腫瘍研究所研究員。
 所属学会:日本小児科学会(代議員)、日本アレルギー学会(評議員)、日本小児アレルギー学会(理事)、日本小児感染症学会(編集委員)、日本感染症学会(評議員)、日本免疫学会、日本血液学会など。研究分野:アレルギー疾患、免疫不全症、膠原病、Bリンパ球の刺激伝達機構、T細胞の機能的分化とその調節機構、好酸球の増殖・分化。

コメント:小児のアレルギーの特徴を、乳児期の食事抗原アレルギーから幼児期以降のダニを中心とした吸入抗原アレルギーへと変化していく様を分かりやすく解説してくださった。小児のアレルギー性疾患を理解する上で、また治療をしていく上で、このアレルギーマーチを理解することが重要であることを丁寧に説明してくださった。これは主な病態で説明すれば「アトピー性皮膚炎から気管支喘息」への変化である。気管支喘息の治療では、その本態が気道のアレルギー炎症であることから吸入ステロイド薬の使用を躊躇しないよう、しかしその実施にあたっては十分な説明と指導が必要なことを強調された。また長期の管理・指導が必要になるため、「患者および家族のQOLまで考えたきめ細やかな対処が望まれている」ことを強く訴えた実際の臨床に添ったご講演であった。 (文責 山本浩一)


第403回

日時
平成13年9月12日(水)午後7時ー
症例呈示 「ミトコンドリア脳筋症(MERRF)の1例」 住友別子病院 磯川俊夫
話題提供 「小児科医に期待される禁煙指導」 かとうクリニック 加藤正隆
その他 意見交換

症例呈示:「ミトコンドリア脳筋症(MERRF)の1例」
       住友別子病院小児科     礒川利夫 、加藤文徳

 
 症例は28歳女性で、主訴は、不随意運動、嚥下困難、発熱である。家族歴として、妹も同疾患で、母が保因者である。昭和58年(小学5年生)頃から、書字や食事中に手足の振戦が見られ、時に転倒した。昭和62年1月当科初診し、昭和63年9月血液中の乳酸ピルビン酸高値を認め、平成元年5月筋生検により、ragged red fiber 陽性でMERRF と診断した。 平成12年6月頃から、嚥下困難を認め、1 0月31日から食欲不振、11月1日から発熱を認め、5日に胸部レントゲンにて肺炎を認め、入院となった。酸素と抗生剤にて治療開始した。6日酸素投与下で、酸素飽和度80%前後となり、呼吸器管理となった。抜管困難の為、気管切開となり、嚥下困難の為、経管栄養となった。平成13年5月27日退院し、在宅看護、リハビリにて外来フォローしている。
 ミトコンドリア異常症は、ミトコンドリアの機能異常に起因する疾患であり、ミトコンドリア脳筋症以外に多彩な病型を含有している。呼吸によるエネルギー依存度の高い中枢神経系、骨格筋、心筋に症状を呈することが多い。MERRFは、進行性ミオクローヌス癲癇の一つで、ミオクローヌス、小脳失調、筋力低下を主徴とするミトコンドリア脳筋症の代表的疾患である。遺伝子変異の検出には、ミスマッチプライマーを用いてPCRを行う。治療法は確立されておらず、予後は一般に不良である。(以上 発表者抄録)

コメント:11歳から経過観察して16歳で筋生検で確定診断し、28歳時に嚥下障害から誤燕して治療に難渋したMERRFの症例の臨床経過を示して、ミトコンドリアの一次的な機能障害に基づく疾患であるミトコンドリア異常症の全般とその1病型であるMERRFを解説してくださった。嚥下障害はプリンやジュースの経口摂取が出来るまで改善したとのことである。母系遺伝をするとされている。診断方法や、今回嚥下障害が改善していることから進行性と考えられるこのような病気でも症状が改善することがあるのかとの質問がでた。治療ではコエンザイムQ10(商品名ノイキノン)大量療法の有効性が言われている。診断が可能になっても進行をいかに防ぐか、そしてまた出現した症状にいかに対処していくか、今後が非常に厳しい疾患である。

話題提供:「小児科医に期待される禁煙指導」
       かとうクリニック       加藤正隆


 喫煙者が禁煙を考える過程は、無関心期・関心期・準備期・実行期・維持期の5段階と考えられており、それぞれの段階に合った介入をする必要がある。外来・健診・往診などは、無関心期喫煙者に対する禁煙動機付けの絶好の機会であり、禁煙の必要性という健康管理に必須の情報を提供することは医師の責務である。
 家族の喫煙状況は受動喫煙状況の把握に必須であるが、愛媛県小児科医会は既に診療録に家族喫煙状況の記載を予定している。質問事項は、「誰が吸うのか?」、「どこ(家の外・中)で吸うのか?」、「朝目覚めてから吸うまでの時間は?」、「1日に何本吸うのか?」が受動喫煙状況やニコチン依存度を推定するために必要と考えられる。その場にいない無関心期と推定される喫煙者対策としては、禁煙指導ツール(県医師会発行の「たばこってなーに?」など)を家族に渡し、禁煙の重要性への「気づき」を促す。
 喫煙介入のための「5A approach」とは、Ask(喫煙状況を尋ねる。)、Advise(喫煙者に禁煙を強く促す。喫煙既往者には再発予防を指導する。)、Assess(積極的に禁煙する気があるかどうか確かめる。)、Assist(禁煙を支援する。具体的に禁煙計画、カウンセリング、ニコチン代替療法を実施。)、Arrange(フォローアップを予定する。)である。実施の際は、はっきり、強く、メッセージを出すこと。曖昧なメッセージはかえって禁煙する気持ちをくじいてしまうので禁句。指導時間は限られているのでAssessまでは必ず全員に実施し、Assist以後は禁煙希望者のみに行うか禁煙外来を紹介する。(以上 発表者抄録)

コメント:いまや喫煙は悪である。禁煙は個人の問題ではなく(きっと「故人の問題ではなく・・・」と表現するのであろう)、人間が生きる上での基本的なマナーとなった。禁煙に関して悪とするデータが明らかにされ、良しとするデータは見当たらず反論すべき根拠はない。しかも依存性があるために、一度喫煙者になると禁煙することは多くの人にとって個人の努力だけでは困難なことである。禁煙は大変なことと認識すべきである。「喫煙を開始する前にたばこについての正確な知識を伝えること、そして喫煙者が禁煙できるようにサポートすること」が、日常の医療で実践すべきこととして大いにクローズアップされている。平成13年9月に、ニコレット(ニコチンガム)がOTCとなり禁煙に対する社会のサポートが進んでい
るが、どのような使われ方をするのか関心を持って見つめていくべきであろう。また、「こどもでは大人と違う禁煙指導のアプローチがあるはず」で、そこを研究すべきだとの意見がみられた。これは思春期の心理として、中学生・高校生に大人と同じようなアプローチをしても反発を招き失敗するだけだとの貴重な意見である。

その他:
  1)10月定例会(10月10日)は、午後7時からリーガロイヤルホテル新居浜にて特別講演会:福井医科大学小児科教授 眞弓光文先生による「小児アレルギー疾患の病態と治療」、座長:県立新居浜病院小児科 若本裕之。                   

(文責 山本浩一)


第402回

日時
平成13年8月8日(水)午後7時ー
症例呈示 「不登校の1例」 愛媛労災病院 井上恭子
話題提供 「児童相談所からの報告」 松浦小児科 松浦章雄
その他 愛媛県小児科医会生涯教育集会(9月2日)について

症例呈示:「不登校の1例 : ポストモダン・アプローチ」
         愛媛労災病院小児科     井上恭子

 症例は中学2年生の男子。平成13年6月、母親から不登校の息子のカウンセリングを希望する電話が入った。現在週1回のペースでこの親子の面接をしている。20世紀の精神療法はメディカルモデルに大きな影響を受けていた。問題が起こるとき、そこには何らかの機能不全があるとされ、セラピストは科学的な観察を通して正常と異常を判断し、原因をつきとめ、然る後に適切な介入を行うことで問題を解決する人であった。しかしながら、このようなモダンなアプローチは次第に行き詰まりを見せ始め、これに代わって、現実は社会的に構成されるとする社会構成主義の台頭とともに、セラピストよりもクライエント(患者)の持つ能力に焦点をあて、会話や多角的なものの見方を通して彼らをエンパワーすることによって問題の解決ないし解消を図ろうとする、ポストモダン・アプローチが広がりをみせつつある。代表的なものとしては、ソリューション・フォーカスト・アプローチ、ナラティヴ・セラピー、コラボラティヴ・アプローチ、リフレクション・チームなどがあげられ、本症例ではこれらのポストモダン・アプローチの視点を取り入れた面接を試みている。(以上 発表者抄録)

コメント:いま「こどものこころ」の問題が、社会でも小児科でも大きくクローズアップされている。くだいた言い方になるが、以前はこのような症例があると、セラピストはいろいろと本人または家族から聞き出して、問題がどこに潜んでいるか推論し、そしてついには「このようにしたら解決するからと方向性を指し示して」と自分が治療の中心に座っていた。ポストモダン・アプローチをどのように理解していくかは大変に難しいことだが、あくまでもクライエント自身の考えを大切にしている点が以前の治療と根本的に違うことであろう。セラピストの役割は、当の本人が「どの程度まで困ったと感じていたかを気づかせ、そしてその状況から今はどのぐらい自由になったかを気づかせていくこと」であり、セラピストの役割はそれ以上でもそれ以下でもなく、「クライエントの考える上での空間を出来るだけ広げてあげて、その後はクライエント自身が上手くいった時のことを土台にして次の解決方法を見つけていくことを補助すること」だという。セラピストが、表立って指導するこどを我慢し、「クライエントが自分を取り戻していくことを、あるいは先に進もうとする気持ちをつくりあげていくことをじっと補助していくこと」は、セラピストにも大変な訓練が求められることだろう。不登校のカウンセリングでは、確実に自分を取り戻して将来が描けるようになるまで誰かが補助していくことが望まれる。このようなアプローチの今後の経過報告を期待しているのは、一般の小児科医だけではないであろう。

話題提供:「児童相談所からの報告」
       松浦小児科    松浦 章雄

 発表者が嘱託医をしている東予児童相談所の相談内容の概要を紹介した。近年、虐待を扱う事例が増加して対応に追われている。(東予児童相談所は24時間対応をしている)平成12年度にあった26件の中から、身体的虐待・性的虐待・ネグレクト・心理的虐待の事例をそれぞれ紹介した。 医療サイドからの虐待の発見・通告をお願いしたい。また緊急時の入院にご協力いただきたい。日常診療の場では、risk groupへの対応・サポートが予防に結びつくと思われる。(以上 発表者抄録)

コメント:最近、特に大きな社会問題として浮かび上がってきた「こどもへの虐待」がテーマであった。児童相談所への相談事例の中に、残念ながら医療機関からの申し出が1例も無かった。「夜間の外来に訪れることが多いので小児科以外の科の先生方に虐待を視野に入れた診察をお願いして欲しいこと、虐待は守秘義務よりも通告義務が優先されること、虐待での受診は次々と病院を変えていくので初診で見つけなければ見逃してしまうこと、そして疑いがあればこどもの保護が必要なのでその場の処置としては入院が必要なこと」など注意すべき点を示してくれた。以前は行政に相談を持ちかけてもなかなか介入してくれなかったため不満がみられたが、最近はその対応も児童相談所が24時間体制であたり、市町村の児童福祉課も相談にのっている。多くは親子の問題になり、解決にはいろいろと複雑な面を持つため、事後処理の対応はグループであたっているようだ。はっきりしていることは、「虐待を受けているこどものいのちの安全が第一」であるということだろう。医者が一人で解決できる問題ではない。当然ながら虐待を受けているこどもには、行政を含めた地域全体の保護が必要と考えられる。
その他:
  1)県小児科医会(9月)の予定  松浦小児科   松浦章雄
  2)10月定例会(10月10日)は、リーガロイヤルホテル新居浜にて特別講演会:福井医科大学小児科教授  眞弓光文先生による「小児アレルギー疾患の病態と治療」に決定。                    

 (文責 山本浩一)


第401回

日時
平成13年7月11日(水)午後7時ー
症例呈示 「先天性気管支狭窄を伴った左肺動脈起始異常の1例」 住友別子病院 加藤文徳
話題提供 「小児の胆石症について」 十全総合病院 上田 剛
その他 400回記念誌について

症例呈示:「先天性気管狭窄を伴った左肺動脈起始異常(Pulmonary sling)の1例」
         住友別子病院小児科  加藤 文徳


 左肺動脈起始異常(Pulmonary sling)は左肺動脈が右肺動脈から分枝し、右主気管支を乗り越え、食道と気管の間を通過してから、左肺にいたる稀な先天異常である。気管、気管支形成異常を高率に合併する。新生児期から喘鳴、咳、呼吸困難を呈し血管輪の一群と考えられる。今回私たちは本症例を経験したので、報告した。症例は生後3ヶ月の女児。在胎34週4日、2038gで出生し、生後2ヶ月頃から吸気性喘鳴が増悪した。診断には、胸部ヘリカルCT、造影CTが有効であった。兵庫県立こども病院にて根治手術を受け経過良好である。合わせて、血管輪について説明した。(以上 発表者抄録)

コメント:先天性気管狭窄症は、左肺動脈起始異常を合併することが多いのかという質問があったがこの場合はその逆である。左肺動脈起始異常を認めた場合、合併する気管気管支の異常を見落とさない注意がいる。即ち、喘鳴の原因が血管系の異常ではなく、合併した気管、気管支の異常に起因することがある。この場合当然のことながら、血管系のみ治療をしても喘鳴は改善されない。診断は、ヘリカルCTを駆使することで、専門的な心エコーの知識、血管造影、気管支造影などの侵襲的方法を用いなくても可能である。

話題提供:「ロセフィンによる偽胆石の症例と小児胆石症について」
        十全総合病院小児科  上田 剛

 小児胆石症は稀な疾患であり、原因として溶血性疾患、肝胆道疾患、回腸切除、IVHが知られているが不明のことも多い。今回われわれは、ロセフィンによる偽胆石と考えられた症例を経験したので、この症例の報告とともに、アメリカにおける小児胆石症の治療指針などについての話題を提供した。症例は8歳男児、主訴は腹痛。2日前に右上ならびに右下腹部痛が出現し、右下腹部痛が持続したため虫垂炎の疑いで入院。体温37.5℃、臍右側の腹痛と右下腹(McBurney点よりやや上方)の圧痛を認めた。黄疸、肥満はなかった。白血球数14400/mm3(好中球86%)、CRP1.64mg/dlと急性炎症反応を認めた。貧血、肝機能異常、高ビリルビン血症を認めず、便培養陰性であった。ロセフィン0.5g×2、その後0.9g×2/日で治療し、解熱し腹痛も軽減したため虫垂炎は否定された。原因検索のために施行した入院6日目の腹部CT検査ならびに入院7日目の腹部エコー検査にて、胆嚢内に直径1〜2mm大の結石を多数認め、ウルソを投与した。しかし臨床経過上、これが腹痛の原因とは考えがたく、原因不明の腸炎として入院11日目に軽快退院した。腹痛の再発なく、約2カ月後のエコー検査で胆石は認められずロセフィンによる偽胆石と考えられた。アメリカのFrederickは小児の胆石症、胆嚢炎、総胆管結石に対する治療指針を以下のように報告している。症候性胆石症と胆道ジスキネジーに対して腹腔鏡下胆嚢摘除術(LC)が一般的に普及している。(1)新生児と乳児:無症状の胆石は経過観察、石灰化した症候性の胆石は胆嚢摘除術。新生児期の総胆管結石に対しては、無症状なら経過観察、症候性なら胆嚢造瘻チューブ+胆管造影+灌注、これが不成功なら総胆管造瘻術+結石除去あるいは経十二指腸的乳頭括約筋形成術。(2)溶血性疾患における胆石:鎌状赤血球症では症候性ならLC、無症候性に対する予防的LCは賛否両論。遺伝性球状赤血球症では症候性で脾摘の既往があればLCを推奨。(3)総胆管結石:自然に軽快する可能性があり、胆汁性膵炎の軽快後にLC。完全閉塞が持続する時、乳頭括約筋切開術+内視鏡的逆行性胆管造影。(4)無症状胆石は大部分経過観察のみ。本邦における小児のLC症例はまだ少数であるが、今後増加してゆくと予想される。(以上 発表者抄録)

コメント:本症例は、ロセフィンによる一過性の胆石症であった。多分、ロセフィンを使用している医師の多くは、このことを知らないかもしれない。最近、ロセフィンの添付文書にこの合併症が大きくはっきりと記載された。我々小児科医も注意して使用する必要がある。ただ、本症例の場合、ロセフィンの使用を開始してから、胆石が証明されるまで、わずか4日間であった。他の原因による胆石の可能性はないか、との質問があった。これまでの報告では、ロセフィン投与後、最短4日での胆石発症の報告はある。

 3)その他:
  1.「三種混合(DPT)ワクチンに関する日本医事新報の記事」についての報告
       山本小児科クリニック  山本浩一

 日本医事新報No.4023、2001年(平成13年)6月2日発売、質疑応答欄「小児科」のところに掲載された「DPTワクチンの追加接種時期:聖マリアンナ医大小児科教授、加藤達夫」の内容について、発売当日に異議を申し立てた。「いろいろな事情はあるが、DPT1期初回接種3回終了後、1期追加接種を通常1年から1年半後にするとなっているところを6ヵ月過ぎに実施してしまった。何か問題があるか」という質問に対する答えの中に、「予防接種法上は許可されていない接種方法であるから、偶然対象者が体調を崩した場合などは、健康被害の認定を受けることは厳しい可能性が高い」との一文が記されていた。これは予防接種法上、間違った接種をしたと言っているわけで、大変な重大な発言である。この発言が事実として認定されてしまえば、実施する我々は大変な制約を受けることになる。なぜなら6ヵ月以上たって実施された1期追加接種は、厚生省通達による標準的な接種年齢は「1期初回接種3回終了後1年から1年半後とされている」が、予防接種法での接種年齢は、「6ヵ月以上あけて1回追加接種をする」とされており、予防接種法上なんら問題のない接種法と考えられるからである。したがって質問に対するこの答えは、不適当であると考えられたため、「予防接種法上なんら問題のない接種法と考えられるので、健康被害が起こっても健康被害の認定を受ける権利があるはずである」と異議を申し立てた。いろいろと紆余曲折はあったが、間違いを全面的に認めてくだされその訂正記事がNo.4026、2001年(平成13年)6月23日に、「DPTワクチン追加接種時期(訂正)」として掲載された。 影響が大きいと考えられる方が書いた原稿であり、しかも医事新報は実際に予防接種を実施している方が主な読者と考えられる。しかし発売はじめの週には、異議申し立て者が1人であった。このため交渉は難航した。No.4023の発売とともに異議申し立てをして、訂正文が載ったのがNo.4026である。このことを早いとみるのか情けないとみるのか。交渉の細かいことを書くスペースは無いが、解決には約3週間も要した。医事新報の担当者は実に素早く対応してくれたのだが、異議申し立てに対する「回答者の訳のわからない回答」が数日後にあり、この時点では「異議申し立てに対する訂正はできないとの正式回答」があったことを付け加えておく。(以上 報告者抄録)

  2.400回記念誌の原稿を、まだいただけていない方がいますのでよろしくお願いします。
 
  3.記念誌復刻については、とりあえず100回記念誌のみ30部復刻する
       松浦小児科   松浦章雄

                                                                                               (文責 加藤文徳)

第400回記念会




第400回新居浜小児科医会記念会
平成13年6月13日
平成13年6月13日(水)に、第400回新居浜小児科医会記念会がユアーズコープで開かれました。
出席者は20名でした。
                        出席者名
(前列左から) 松浦章雄、宮田栄一、真鍋豊彦、篠原文雄、三崎 功、星加 晃
(中列左から) 磯川利夫、鈴木俊二、高橋 貢、大坪裕美、井上恭子、塩田康夫、山本浩一
(後列左から) 加藤正隆、山岸篤至、河合伸泰、藤枝俊之、加藤文徳、上田 剛、若本裕之(敬称略)

第399回

日時
平成13年5月9日(水)午後7時ー
話題提供 「この冬のインフルエンザ」 しおだこどもクリニック 塩田康夫
話題提供 「最近報告された小児のHelicobacter pylori感染」 山本小児科クリニック 山本浩一
その他 400回記念について 松浦小児科医院 松浦章雄
1)話題提供:「この冬のインフルエンザ」
      しおだこどもクリニック  塩田康夫

 H13年1月第3週から4月4週までに、インフルエンザと診断した児214名(男児117名、女児97名)について検討した。 年齢別患児数では0〜2歳39名、3〜6歳115名、7〜13歳70名(延べ224名)であった。1月3週3名から始まり、3月3週35名、4週32名がピークだったが、4月4週になっても8名が罹患した。例年に比し発症の時期も遅く、爆発的な流行とならなかったが、だらだらと長引いて発症する傾向が顕著だった。2月はB型が多く、それ以降はA型が多い印象だった。A型と診断した117名にアマンタジンを3r/kg、3日間投与したが、年齢に関係なく約7割には有効で、副作用は5名に経験した。ワクチン接種済みで罹患した児は13名で、A型と診断した児に対するアマンタジンの効果は良かったが、それ以外(B型.不明)では軽く済んだという印象はなかった。またこの冬に2回罹患した児は10名であった。(以上 発表者抄録)

*追加報告*
      松浦小児科   松浦 章雄

1.本院で今季インフルエンザワクチンを接種した人の罹患調査。
 追跡できた82名中罹患した者21名(25.6%)、罹患せず58名(70.7%)、不明3名であった。
2.本院で今季インフルエンザと診断(臨床診断・迅速検査を含む)した者は185名。このうち、ワクチン接種者は19名(10.3%)であった。
3.迅速検査インフルAクイックで陽性を示し、A型インフルエンザと診断した94名につき検討した。
 ワクチン接種者は10名(10.5%)であった。A型に2回罹患した者が3名いた。94名97回の罹患中の発熱期間は平均3.01日。うち、アマンタジン服用群(75回)は平均2.71日。アマンタジン非服用群(21回)は平均4.24日だった。(以上 発表者抄録)   

*追加報告*
     マナベ小児科   真鍋豊彦

 @今期インフルエンザの流行時に、松浦、山本、渡辺先生のご協力を得て、臨床的にインフルエンザと診断した患者のワクチン歴を調べることにした。また、それぞれの診療所で実施したワクチン接種者のインフルエンザ罹患調査をお願いした。4医院の合計患者数は445人、そのうちワクチン接種者は30人(6.7%)であった。
 Aインフルエンザは急性感染症の中では特異な病気である。小児に対するワクチン(皮下注射)の効果についてはっきりとしたデータはない。私は、昨年も本年も子どもたちにワクチンを実施しなかった。開業のころは勧奨接種、その後、義務接種になり20年ちかく幼稚園や学校で多くの子どもに毎年ワクチンを実施したが、個人防衛の効果も、流行阻止の効果もあったとは到底思えなかったからである。抗原変異があったからだ、とそのつど無理に自身を納得させてきたが、釈然としないものがあった。 幸い、平成6年に任意接種になり、ほっとした。それが、昨年からまた、ワクチンの製法や性質は以前のものと基本的には変わっていないのに、ワクチンが足りなくなるほどの騒ぎである。こんなとき、文芸春秋3月号(平成13年)に”インフルエンザワクチンを疑え「解熱剤は危険。だからワクチン」でいいのか?”と題する近藤誠氏の記事が出た。これを読み、私のそれまでの疑問がある程度解けたので、皆様に紹介させていただいた。この記事に対する反論を期待したい。(以上 発表者抄録)

コメント:今年のインフルエンザの流行の特徴は、小規模の流行であったがだらだらと長い間続いたことだろう。新居浜市では1月の末からB型を主とした局所的な流行からはじまり、徐々にA型が主となったが小規模の流行にとどまり3月中旬から下旬にピークがみられ、4月に入ってもだらだらとみられ、5月に入っても散発していた。また小児の患者に対する治療の面での変化は、簡単な検査で診断がつくようになりA型インフルエンザについては積極的に治療するようになったことであろう。一方検査ができるようになってより明らかになってきたことは、爆発的な流行と非常に重い病気の代名詞であったインフルエンザが、散発すること、しかも考えられないほど軽い症例がいくらでもあることなどである。そんな状況の中で、今年の実際の臨床報告が3題とワクチンの効果へ疑問を投げかける文章の紹介があった。ついで議論に入ったが、新居浜小児科医会のような少人数の会でもインフルエンザについてはいろいろな考え方がみられ、なかなか議論がかみ合わないのが現状であった。しかし現段階での小児科医の願いは同じで、インフルエンザは発症してしまうと重症化する可能性がある病気であり、A型もB型も治療できる薬があるのだからそれを小児でも使用できるようになることであろう。

2)話題提供:最近報告された「小児のHelicobacter pylori 感染」につい
      山本小児科クリニック    山本 浩一

 日本小児栄養消化器病学会での最近のトピックスは、ヘリコバクター・ピロリ(Hp)感染症の報告が多いことであろう。学会では平成11年が10題、平成12年には招待講演で韓国からの報告、ワークショップで「Helicobacter pylori 除菌療法の現状―成人と小児―」として取り上げられ、さらに9題が報告されている。成人と同様に、小児でも胃・十二指腸疾患ではHp感染の有無を検査し、いかにその感染を治療するかが重要な課題とされるようになった。日本小児栄養消化器病学会誌では、最近2年間に3題がまとめられ報告されている。「アセチルサリチル酸の短期投与により急性胃粘膜病変を発症したHelicobacterpylori 感染症の女児例」の報告では、「NSAIDsとHp感染との関連は明らかになっていないが、Hp感染を有する小児でのNSAIDsの投与は短期間であれ慎重に行うべきである(NSAIDsで胃粘膜障害を誘起された小児に対しては、Hp感染の有無を検索する必要がある)」ことが示唆された。他の2題では感染の診断に有用であると考えられるようになった血中抗体について、「年少児ではIgAがIgG抗体より早期に陽転することから、IgA抗体は小児期のHp感染診断に有用であると思われた。(幼少児では、IgA抗体はIgG抗体より診断価値が高いと考えられた。)」と報告されている。小児でも、いかに診断しそして治療するかを考えなければならなくなったHp感染症について、Hpの発見から、成人でわかってきたHpの性質・特徴およびその感染症の診断・治療などHpについて一般的なことをまとめるとともに、最近の小児科での報告についてまとめた。(以上 発表者抄録)
コメント:成人での治療適応者、そして治療方法、除菌成功と治療効果などを星加晃先生が追加解説してくださった。小児の実際の診療では、潰瘍患者が少ないこともありヘリコバクター・ピロリ感染を考慮しなければならない場合は少ないと考えられる。しかし小児の潰瘍は診断が困難なために見逃されている可能性が多いと考えられ、いつも外来診療においては念頭において診察すべき病気である。小児ではすぐに胃透視や内視鏡検査ができない時が多い。小児でこの菌がどのような病気に関与しているかは今後判明してくるであろう。少なくとも頑固な腹痛や嘔吐、さらに下血、吐血などの消化管の症状を示す患者には、病初期にヘリコバクター・ピロリの感染の有無だけでも検査しておくことが必要になってきたと考えられる。
3)その他:
 1.人事情報:退会<垣生診療所、大串春夫先生(平成13年5月)>、入会<愛媛労災病院小児科、井上恭子先生(平成13年5月)>
  2.400回記念祝賀会(平成13年6月13日)および記念誌について
  3.秋に喘息関係の講演会を予定                          

  (文責 山本浩一)


橋本和幸先生・石丸愛幸子先生送別会(於興慶)
平成13年4月25日

 平成13年4月25日(水)に、橋本和幸先生と石丸愛幸子先生の送別会が、ユアーズコープの興慶で開かれました。出席者は9名でした。
                                 出席者名
(前列左から) 真鍋豊彦、石丸愛幸子、橋本和幸
(後列左から) 中野直子、松浦章雄、山岸篤至、藤枝俊之、塩田康夫、山本浩一(敬称略)

第398回

日時
平成13年4月11日(水)午後7時ー
症例呈示 「早老症の1例」 十全総合病院 河合伸泰
話題提供 「診療所のアメニティ−」 藤枝小児科 藤枝俊之
その他 風疹予防接種について 山本小児科クリニック 山本浩一
1)症例呈示:「早老症の1例」
   十全総合病院病院小児科     河合 伸泰

 易骨折性により診断された早老症の1例を報告した。症例は11歳、男児。1歳頃から著明な低身長と精神運動発達遅延が認められていたが、8歳時に下垂体性小人症と診断され、成長ホルモン治療を開始されていた。H7年頃から骨折を繰り返していたが、きもだめしで驚いて体をひねっただけで左大腿骨骨折したのを機に、骨系統疾患が疑われ岡山大学小児科へ紹介となった。理学所見:身長 -4.9SD,頭囲 -4.9SDと著明な低身長と小頭症であった。顔貌は、老人様で皮膚の皺が多く、頬部に日光過敏症による色素沈着があり、毛髪は薄く粗。また両側の白内障も指摘された。検査所見:血液・生化学検査に特記すべき異常なく、各種ホルモン検査(甲状腺、下垂体、副腎、性腺)は思春期レベルであった。頭部CTでは、両側の大脳基底核と小脳テント上に石灰化と、側脳室の拡大がみられた。骨年齢は11歳で年齢相当であったが、脊椎は魚椎状で圧迫骨折による切痕を認め、腰椎骨密度の低下が認められた。早老症候群と診断され、骨粗鬆症の治療が開始となった。早老症候群は、本来加齢に従って出現する皮膚の硬化、痴呆、白髪、骨粗鬆症、悪性腫瘍などが若年から発症しやすい疾患として位置づけられる。今後、悪性腫瘍の発生などに注意しながら、成長ホルモンおよび骨粗鬆症の治療を進めていく予定である。(以上 発表者抄録)
コメント:非常に稀な症例の発表であった。またこの症例を、Cockayne症候群ではないかと考えているとのことであった。早老症を研究することは老化の研究に繋がる。老化というは非常に大きなテーマであったが、一つの遺伝子の異常で部分的な老化が早く進んでいることがわかってきている。すなわち老化症候群では、原因遺伝子の検索から、「2本鎖DNAをほどくような作用を持つ、ヘリケース蛋白を保持していることが部分的な老化の原因と判明している」との説明であった。このまま研究が進めば、体全体の老化が解明される日が来るのであろう。
2)話題提供:「診療所のアメニティー」
   藤枝小児科(伊予三島市)   藤枝俊之

 我が国は、疾病構造の変化、および社会構造の変化による少子高齢化社会の到来に伴い、小児医療の転換期を迎えた。「成育医療」の時代である。今後は、診療所の医療においても、成育医療を柱とする医療福祉教育分野のネットワーク構築を考え、個々の診療所が担う役割を考え運営しなくてはならないと考える。子どもの心身ともに良好な発育を支援する施設として、診療所のアメニティーが子どもや社会に与える影響を考え、これを充実させていく意義は大きいと思われる。現在、私共の施設では、設計段階からこのような思想を持ち、新しい診療所を建設することを計画中である。子どもが育つ、子どもを育てるための医療・社会環境を整えるためには、医学・建築学のみでなく様々な領域の視点が必要となってくる。行政の在り方も見直されなくてはならない。
 また、アメニティーを具現化していくには多くの課題や問題が生じるので、十分時間をかけた取り組みが必要になる事を認識しておく必要があろう。民間の小さな診療所の取り組みゆえ、理想の環境を実現するには程遠いものではあるが、医会において、我々の施設におけるアメニティー創造プロセスを紹介する事で、各地で、子どもにより良い医療・社会環境が提供される一助となれば幸いである。(以上 発表者抄録
コメント:今後開業小児科は、アメニティーをこのように考えて診療所の建築をすべきであると熱っぽく語ってくれた。当然のことだが「いわゆる器(診療所)を造るのに、より多くのコストをかけることが必要かそしてコストをかけることが可能なのか」との質問がでた。経営ということを考えると、凝ったつくりにすればするほど、費用がかさむはずである。いま医療の中で小児医療が、病院小児科に代表されように経営が困難なほどの不採算を指摘される状況であることを考えると、なおさら疑問符がついてしまう。しかし、演者が考えて実行しようとしていることは経営を無視しているかのようにみえるが、今後の開業小児科の目指すべき道を指し示しているように感じた。演者が指摘するように、診療所が「病気を治療するところ」から「子どもの心身ともに良好な発育を支援する場所」に進化していくことが求められているのであろう。まだ実際の図面がまだ書きあがっていないため、目でもそして概念としても残念ながら確認できない。演者の理念が実を結び、実現し、そして我々の前に形を成して、その建築が教材として私達に教え示してくれることを期待する。
3)その他:
 1.中学3年生の集団風疹予防接種、および定期予防接種の改正点について
   山本小児科クリニック   山本浩一

 中学3年生の臨時で緊急に行われた風疹予防接種(集団)により273名の接種者があり、今年の中学3年生は3月中旬までに対象者1417名中943名(66.5%)が風疹予防接種を受けたことになる。今後4月から16歳未満まで接種対象期間が延長されたためもう少しの接種者の追加が見込まれる。
 また、新居浜市は今年4月から、対象年齢を予防接種法に決められているように拡大させた(予防接種法の実際の実施方法は、各自冶体にまかされているため今までは接種対象年齢が、予防接種法で示されている年齢よりも狭く制限されていた)。三種混合(DPT)ワクチンの2期接種にあたる二種混合(DT)が11歳から12歳、風疹の中学生で実施されているものが12歳から高校1年生(16歳未満)まで拡大、そして日本脳炎の1期、2期、3期の対象年齢を今一度確認して欲しい。ただ標準的接種年齢は、「今までどおり」であることを考慮して実施していただきたい。
 2.400回記念祝賀会(平成13年6月13日)および記念誌について                           

 文責 山本浩一)


第397回(特別講演会)
日時
平成13年3月21日(水)午後7時ー
場所 リ−ガロイヤルホテル新居浜
特別講演 「呼吸器感染症の外来治療と耐性菌」 川崎医科大学
呼吸器内科
 講師
二木芳人先生
           座長 住友別子病院小児科部長  加藤 文徳
特別講演
「急性呼吸器感染症の診断と治療」
    川崎医科大学 呼吸器内科 講師  二 木 芳 人先生

はじめに
 この十年程の間に、急性呼吸器感染症は大きく変貌しつつある。それらは幾つかの要素に分けて考えるべきものであり、1)耐性菌の増加、2)病原菌の多様性、3)治療薬開発の遅れなどが主要な項目として挙げられる。これらが相まって、従来比較的容易に治療できていた急性感染症の治療が、比較的難しくなりつつあるようである。これらを受けて呼吸器感染症診療ガイドラインなども公表されるようになっているが、本講演ではこの内の幾つかを取り上げて現状を解説し、またそれらにどう対応していくかも考えてみたい。
 1)耐性菌の増加:現在最も話題性の高い耐性菌は肺炎球菌であろう。ペニシリン系を中心に従来良好な有効性を示していたセフェム系やマクロライド系にも、高頻度に耐性がみられるようになっている。加えて、肺炎球菌に次いで重要なインフルエンザ桿菌にも新たな耐性菌、すなわちβ−ラクタマーゼ非産生アンピシリン耐性株(BLNAR)なるものが出現し、急速に増加しつつある。これらの急性感染症での主要病原菌は、本来抗菌薬に対する感受性は良好で、治療に苦慮することは少なかったと言って良い。しかし近年では、治療不成功例も稀にではなくみられるようになっており、その主因はこの耐性化である。
 2)病原菌の多様性:本来急性呼吸器感染症の病原菌は細菌からウィルス、マイコプラズマなどと多彩である。近年ではさらにクラミジアやコクシエラ(Q熱)感染症など新しい病原菌も追加認知され、その頻度も思った以上に高いことも明らかにされつつある。さらに、複数の病原菌の関与する急性呼吸器感染症も多いとする報告などもあり、適切な治療計画を立てる上でも、その認識と病原診断の重要性は高まりつつある。
 3)治療薬開発の遅れ:このような状況下にあるにもかかわらず、新しい抗菌薬の開発は近年停滞傾向にある。一つには既存の抗菌薬の焼き直し程度の新薬では、新しい耐性菌や新しい病原菌に十分対応できないことがあり、今一つには従来のように1〜2の広域抗菌薬を用いれば大抵の感染症に対応できると考えることに無理が生じていることがその理由として挙げられる。すなわち感染症の治療の原則に立ち戻って感染原因菌を明らかにした上で、それに最も有効な狭域抗菌薬を選択するという姿勢が抗菌薬を開発する側にも臨床医にも求められるようになっているということである。そうすることによって、既存の抗菌薬もまだまだ十分出番が考えられるし、新しく登場する抗菌薬もより長く臨床で役立つこととなる。
 4)ガイドラインについて:以上の点を背景として、昨年3月にわが国で初の感染症治療ガイドラインとなる「成人市中肺炎診療の基本的考え方」が呼吸器学会から公表された。これは前述の耐性菌や特殊病原菌感染症の増加と対策の必要性、あるいは抗菌薬の選択と使用の基本的理念を広く啓蒙するために作られたものである。今回は成人の肺炎に限ってのガイドラインだが、各科領域に共通する問題が解説されており有用と思われる。本年春には厚生労働省のガイドライン(全科)も公表の予定である。これらを利用して、正しい感染症の診療姿勢を考え直す時期であるとも言えるのではないだろうか。(以上講師抄録)
コメント:講演は、まず呼吸器学会の作成した市中肺炎の診断と治療のガイドラインを呈示することから始まった。日本の肺炎球菌の現状について、約80%以上がPC耐性でしかも多剤耐性となりつつあり、治療は注射剤ならなんとかなるが経口剤では困難になりつつあることが紹介された。特に日本ではセフェムの汎用やマクロライド少量長期投与などが行われた結果、これらの経口剤に対して肺炎球菌の耐性が進んでいるとのことであった。保険制度の差もあるが、抗生剤の使用方法の差(主には使用される抗生剤の違いと使用量の差)から「日本と米国の現在の耐性菌の出現に差があること」を実に分かりやすく解説してくれた。米国ではある抗生剤に通常量での耐性菌が出た時、すぐにより効果的な別の抗生剤に変えるのではなく、その投与量を増量して治療をするようにして一つの抗生剤を大切に使用してきた。一方日本ではこのような投与量による解決方法が保険上困難であった。インフルエンザ菌では、BLNARについて、そしてクラミジアやマイコプラズマ感染については症例を呈示しての説明であった。細菌感染グループとその他のクラミジア・マイコプラズマ感染グループを鑑別するキットの開発が進んでいることや、Q熱がもっとあるのではなどと実際の外来診療での注意点なども示してくれた。最後に、ご自身が作成に参加なされた厚生労働省の市中肺炎の診断と治療のガイドラインに触れられ、ここでも日米のガイドラインの違いを説明してくださり、「現在のガイドラインは日本のほうがきめ細やかに作成されているが、その理由は決して誇れるものではなく、今までの抗生剤の使用方法の違いから耐性菌の出現に日米の差があるために日本ではより細やかに作成する必要があったこと」を分かりやすく解説してくださった。いま抗生剤の使用が、「より根拠をもってなされるよう」求められているといえよう。(文責 山本浩一)

第396回

日時
平成13年2月14日(水)午後7時ー
学術情報 「セフェム系薬剤の抗菌活性」 富山化学工業KK 中野譲二
症例呈示 「頭蓋内胚細胞腫の1例」 県立新居浜病院 中野直子
症例呈示 「染色体22q11.2欠失症候群」 愛媛労災病院 山岸篤至
その他 風疹予防接種について 山本小児科クリニック 山本浩一
1)学術情報:「セフェム系薬剤の抗菌活性」
      富山化学工業(株) 中野 譲二

コメント:肺炎球菌、インフルエンザ菌、B.カタラーリスなどにたいするセフェム系抗生剤の抗菌活性についての話であった。特に肺炎球菌では、PRSPの問題、インフルエンザ菌では、BLNARの問題などが中心の話題となった。最近の富山地方で検出されたこれらの菌の分析から、経口投与の限界についても述べて下さった。日常の小児の感染症でも、これらの耐性菌を視野に入れた投薬が考慮されるべき時代になった。特に反復する感染症では、これら耐性菌による感染症の確率が高いとのことであった。

2)症例呈示:

1.頭蓋内胚細胞腫の1例         
   県立新居浜病院小児科  中野直子 石丸愛幸子 若本裕之
   県立今治病院小児科   太田雅明

 症例は7歳の女児。主訴は全身倦怠感、嘔吐、頭痛。平成11年12月下旬から頭痛、嘔吐が出現し、当科外来を受診。輸液と投薬にて軽快したが再び全身倦怠感、嘔吐が見られるようになった。平成12年2月29日頭部CTにてトルコ鞍上部のmassとそれによる非交通性水頭症を認めた。
 入院時、-1.28SDの低身長と多飲多尿を認めたが脳下垂体ホルモンは正常であった。腫瘍はGd-MRI上比較的境界鮮明なmassとして認められ、下垂体茎部を中心に前方ではトルコ鞍内に達し、後方には視床下部からほぼ第三脳室を充満するまで進展していた。3月3日に両側脳室ドレナージ術および腫瘍生検を施行したところ、髄液細胞診は陰性、病理はpure germinomaであった。一方腫瘍マーカーはHCGの上昇を認めたためgerminoma with STGCと診断した。
 治療はBEP療法(Cisplatin、Etoposide、Bleomycin)を3クール施行し、放射線療法(局所および全脳室に左右対向2門、24Gy)の後さらにICE療法(Cisplatin、Etoposide、Ifosphamide)を3クールにて終了し11月20日退院。現在無病生存中である。また、治療前と比較し、IQの低下、下垂体機能の変化は認められていない。
 頭蓋内胚細胞腫に対する放射線単独治療は優れた腫瘍制御率を示すが高率に知能障害と汎下垂体機能低下症が出現し、晩期放射線治療障害の危険性もあるため、化学療法を併用した低線量放射線治療の試みがなされている。今回、当科にて初めて集学的治療を施行し良好な結果が得られた。
 今後は特に播種再発の有無に加え、身体成長、知的成長、生殖機能などについても十分な経過観察が求められる。(以上 発表者抄録)
コメント:県立新居浜病院小児科で初めて行われた集学的治療の症例発表であった。「治療がどの程度まで可能かとの質問」について、「移植が必要な程の治療は大学で」と考えているとのことであった。高度の治療がスタッフ数人の施設で行われるようになってきた。それを可能にしているのはやはり情報がリアルタイムで日本全国から得られるようになってきたからであろう。その時に「どこまでが自分達の施設でできるかを決める基準のようなもの」が各施設に必要になってくるのではないだろうか。

2. 染色体22q11.2欠失症候群
   愛媛労災病院小児科     山岸 篤至

 DiGeorge症候群・円錐動脈幹異常顔貌症候群、軟口蓋心臓顔貌症候群などにおいて染色体22q11.2の欠失が明かとなり、先天性心疾患の原因として染色体22q11.2が脚光を浴びてきている。一方で心疾患を伴わない副甲状腺機能低下症において染色体22q11.2の欠失を伴う症例が多数報告されてきており、広い臨床的スペクトラムを有する事がわかってきた。今回、心疾患を伴わない染色体22q11.2欠失症候群2例を報告した。
 症例1は3か月女児。軟口蓋裂を認め、左手・両下肢のけいれんを主訴に入院。頭部CT・MRIにて右大脳半球の萎縮、石灰化部位を認めた。生化学検査では低カルシウム血症を認めず、またPTHは正常であった。異常顔貌・脳内石灰化・特異顔貌から染色体22q11.2欠失症候群を疑い、FISH法を行ったところ22番染色体の1本で同部位の欠失を認めた。
 症例2は12歳男児。8歳時無熱性全身痙攣を認め近医受診、脳波所見からてんかんと診断され、バルプロ酸の内服を行っていた。10歳から転居のため県立岐阜病院に紹介された。12歳時無熱性全身痙攣あり、Ca低値を認めたため精査目的に入院した。頭部CTでは松果体および、脈絡叢の石灰化を認めたが、大脳基底核の石灰化は認めなかった。PTH低値、Ellsworth-Howard試験にてリン酸化反応・cAMP反応を認め、原発性副甲状腺機能低下症と診断した。FISH法で染色体22q11.2の欠失を認めた。
 染色体22q11.2欠失症候群はCATCH22(C:心疾患、A:異常顔貌、T:胸腺低形成、C:口蓋裂、H:低カルシウム血症)として知られているが、その1/4は心疾患を有しない。口蓋裂・異常顔貌・低カルシウム血症などから本症を疑うことが大切である。(以上 発表者抄録
コメント:ほんの少し前まで、特異な顔貌と同じような奇形や病気を伴う一群は「臨床的にまとめられて何々症候群」として呼ばれていた。このような症候群が、詳細な染色体検査が可能になったことにより「染色体の異常部分を同じくする症候群」としてまとめられ、その疾病の原因が判明しようとしている。原因が判明すれば治療も可能になるわけで今後の発展が望まれる。同じ染色体の異常を示す一群でも、先天性心疾患を併発している一群と併発していない一群があるようだが、その原因まではまだ分かっていないようだ。もう少しの解析が進めばと期待される。
3)その他:
  1.風疹予防接種について:平成13年1月の定例会で緊急議題として取り上げた、「いっこうに改善しない風疹予防接種の接種率を改善すべく実施する緊急な施策」を医師会および行政に働きかけました。その時決議していただけた「集団接種の時に必要なら小児科医会会員が全面的に協力する」ことを、医師会担当理事および保健センターに伝えて提案を開始いたしました。その結果、風疹予防接種の接種率改善に向けて「緊急の集団接種を行うとの方向」で現在交渉が行われています。            山本小児科クリニック 山本 浩一
追記:いっこうに回復しない風疹予防接種の接種率の改善策として、新居浜市では医師会と行政・学校・教育委員会が協力して今の中学3年生に限って、学校で「学校医による風疹予防接種の集団接種」を実施することになった(平成13年2月22日)。この「緊急の風疹予防接種の集団接種の実施」は、「現行の個別接種では中学3年生が接種を受ける最後のチャンス」であり、「今春に中学を卒業してしまう今の中学3年生では接種率の改善が事実上不可能」と考えられたからである。これほどスムースに、そして異常なほど短期間で集団予防接種の実施が決定されたことは、将来の不幸な子どもたち(先天性風疹症候群)の出生を案じる気持ちがすべての関係者にあったからであろう。新居浜市以外でこのような決定がなされたとの報告は、いまだ聞いていない。新居浜市医師会が大義を一番に考え実行したことは、とっても誇らしいことである。行政および教育委員会との交渉をして下さいました地域保健部担当理事宮田栄一先生、学校医部担当理事三崎功先生、そして直接実施の決定にかかわって下さいました教育委員会委員千葉陽三先生に感謝申し上げます。そして限られた期間(高校受験が終わって卒業までの間と制約された期間)に、急に決定した実務を担当して下さいました各中学校の学校医の先生方に深謝申し上げます。

2.提案:「健康えひめ創造プラン2010」での「成人の喫煙率半減を目指す」に賛同を表明しよう。 
      マナベ小児科   真鍋豊彦
  「参加者全員異議なし」と賛同する。

3.3月の県小児科医会について:メインテーマ「虐待について」講演とシンポジウムが予定されている。
 「虐待についてのパンフレット」が作成される。
      松浦小児科    松浦章雄   
      マナベ小児科   真鍋豊彦
4.麻疹の流行状態について:1月末からの麻疹(5名)の発生状況について報告
      十全総合病院小児科  上田 剛

5.新任紹介:十全総合病院小児科 河合 伸泰(平成5年岡大卒)、平成13年1月中旬着任。

6.「アレルギー疾患に対する医療の実態調査」についての提案:新居浜小児科医会でのアンケートデザイン作成と調査について
      藤枝小児科(伊予三島市) 藤枝俊之
                                               文責 山本浩一

第395回

日時
平成13年1月10日(水)午後7時ー
症例呈示 「肺分画症の1例」 十全総合病院 上田 剛
症例呈示 「臍帯血移植の4例」 県立新居浜病院 石丸愛幸子
1)症例呈示:「肺分画症の1例」
     十全総合病院病院小児科  上田 剛、一ノ瀬洋次郎

 今回私達は、肺炎で発症し、CT検査とMRI検査にて異常血管が同定され、安全に摘出手術がおこなわれた肺分画症の1例を経験し、これらの画像診断が肺分画症の診断と治療に有用であったので報告した。 
 症例は6歳の女児。肺炎やアレルギー疾患の既往症はなかった。平成12年2月気管支炎に罹患したが、胸部レントゲン写真に特別な異常を認めず、すぐに軽快した。同年5月24日から発熱と咳嗽が出現し、内服治療が無効で、5月29日に右下肺野に肺炎像を認めたため入院となった。入院時現症では38度の発熱と咽頭発赤を認めるのみであった。血液検査で白血球数増多(17100/μl、好中球66%)、CRP強陽性(17.55 mg/dl )、赤沈亢進(1時間値55mm)を認めた。抗生物質の点滴静注、吸入療法、去痰剤内服で治療を開始した。6月2日レントゲン上、右下肺の肺炎像に鏡面像を伴う気腫像が出現していた。同日の胸部CT検査では横隔膜に接して右後下肺に肺炎像と腫瘤像を認め、その内部に鏡面像を呈する比較的大きな2個の気腫を伴っていた。さらに造影CTでは右胸腔後下部に、椎体前部から右後方に向かって水平に走行する異常血管が認められた。以上から分画症が強く疑われ、6月12日ヘリカル造影CTにて血管を3D再構成し、腹腔動脈から分枝し椎体前方を上行する異常動脈を鮮明に描出できた。次に6月16日の胸腹部MRI検査で、この異常動脈が椎体前方を上向し、横隔膜を越え胸腔に入った所で右後方に向かって水平に走行していることを確認し、分画肺の栄養動脈であると判断できた。7月10日当院外科で、右開胸下に右下葉切除術が施行され、栄養動脈は術前に想定していた場所に容易に確認でき、出血量もわずかであった。術後経過良好で、7月24日元気に退院した。病理診断では、気管支軟骨の発達は未熟で、炎症細胞の混じった多量の粘液貯留を伴った著しい気管支拡張像と軽度の気管支炎像を認めた。
 肺分画症において、近年進歩したヘリカルCT検査、MRI(MRA)検査などの非侵襲的な画像診断は、侵襲的な血管造影検査を避けうる可能性があり、有用であると考えられた。(以上 発表者抄録)

コメント:小児の外科的疾患では、少ない検査で、しかもできれば非侵襲的検査で診断し、さらに安全に手術ができる状態であるかをいかに把握していくかが強く要求される。以前この会で県立病院(若本)から報告された乳児例は、この病気の診断は「まず疑うことが大切である」ことを教えてくれた。今回の幼児例の報告は、最近の画像診断の進歩をいかんなく示してくれた。CTで病気を疑い、ヘリカルCTで確認しえた異常動脈(栄養動脈)を3D画像として描出し、MRIでさらに異常血管の腹腔と胸腔との関係を明らかにしている。特にヘリカルCTでの血管の3D再構成画像は、血管相互の位置関係を明確にし、非侵襲的検査のみで診断を可能にし、さらにMRI検査を組み合わせることで手術前検査をも済ましてしまうほどであった。通常このような症例では手術前検査として血管造影検査が必要とされるが、この検査は小児では全麻下で行われる検査である。このような検査では、検査自体が手術に匹敵するリスクを伴っている。画像診断の進歩が今にもましてさらに先へと進むことが期待されている。

2)症例呈示:「臍帯血移植の4例」
     愛媛県立新居浜病院小児科 石丸愛幸子

 愛媛大学病院小児科では、1999年8月以降4例の非血縁者間臍帯血移植を行った。<症例1> Omenn症候群1歳3ヶ月 男児。TBI、TT、CPM、ATGにて前処置後移植を行った。移植臍帯血はHLA2抗原不一致で、細胞数は16.3×10の7乗/kgであった。Day16に生着し免疫能の回復を認めている。<症例2> 急性骨髄性白血病(M2)初回寛解導入不能 13歳 男児。3回の寛解導入を試みたが不能であり、TBI、CY、VP16にて前処置後移植を行った。移植臍帯血はHLA2抗原不一致で、細胞数は2.06×10の7乗/kgであった。Day22に真菌性の肺胸膜炎のため死亡した。<症例3> 乳児白血病 10ヶ月 女児。生後4ヶ月発症のMLL陽性のALLで、第1寛解期にTBI、CY,VP16にて前処置後移植を行った。移植臍帯血はHLA1抗原不一致で、細胞数は8.9×10の7乗/kgであった。Day17に生着し、現在無病生存中である。<症例4> 慢性活動性EBウイルス感染症 5歳 女児。2歳時に血球貪食症候群(VAHS)で発症し、CYA、DEX、VP16で治療を行ったが2回VAHSを再燃したため、BU、CY、VP16にて前処置後移植を行った。移植臍帯血はHLA1抗原不一致で、細胞数は3.73×10の7乗/kgであった。Day21に生着を確認したが、移植後合併症にて肝腎不全のためDay45に死亡した。
 現在骨髄バンクからの提供を受けることのできない血液、免疫疾患の小児や、緊急に移植を必要とする小児にとっては、非血縁者間臍帯血移植は大きな治療手段となっている。(以上 発表者抄録)

コメント:臍帯血バンクは四国にはない。北海道および東海臍帯血バンクから臍帯血の提供を受けたとのことであった。移植を必要とする疾患に罹患している小児にとって、特に緊急に移植が必要な小児にとって非血縁者間臍帯血移植が大きな治療手段となっていることが喜ぶべきことなのか悲しむべきことなのかの議論の前に、移植医療の実施段階での困難さと現実のきびしさを報告してくれた貴重な報告である。臍帯血移植の現状報告とうけとめられる。移植の方法や手段を含めて今後の追加報告がどのように変わっていくか興味津々である。

3)その他:
  1.風疹予防接種について:将来の不幸な子どもの出生を案じるあまり、いっこうに回復しない風疹予防接種の接種率の改善策について多くの意見が出された。                   
(文責 山本浩一)

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