定例新居浜小児科医会(平成5年3月以降)

新居浜小児科医会誌
第400回記念
平成13年12月25日発行


平成14年(407回→418回)

第419回新居浜小児科医会

第419回

日時
平成15年1月15日(水)午後7時ー
症例呈示 「当院で経験した新生児麻疹の1例」 愛媛労災病院 岩瀬孝志
話題提供 「HepatitisB typeAについて」 山本小児科クリニック 山本浩一

第418回

忘年会

平成14年12月11日(水)に、第418回新居浜小児科医会(忘年会)がコープ会館で開かれました。
出席者は15名でした。
                        出席者名
(前列左から) 山本浩一、久米 綾、篠原文雄、中野直子
(中列左から) 加藤文徳、塩田康夫、真鍋豊彦、松浦章雄、渡辺敬信、
(後列左から) 矢口善保、岩瀬孝志、星加 晃、藤枝俊之、加藤正隆、若本裕之、(敬称略)

第417回

日時
平成14年11月13日(水)午後7時ー
症例呈示 「気管支分岐異常の1例」 県立新居浜病院 中野直子
話題提供 「プレーパーク(冒険遊び場)について」 藤枝小児科 藤枝俊之

症例呈示 : 先天性気管支分岐異常の1例 
       愛媛県立新居浜病院小児科 中野 直子
 
 症例は7ヶ月の男児。生下時から哺乳後や激しい啼泣後に吸気時喘鳴が出現することがあった。平成14年1月23日頃から咳が出現した。1月25日ワクチン接種目的で当科外来受診時に喘鳴を指摘された。胸部レントゲン写真上、右肺門部の異常陰影に気付かれ、胸部CT上、右肺門部にmassを指摘され精査加療目的で入院した。血液検査上軽度の炎症所見を認めたのみで、尿検査とも明らかな異常はなく、ツベルクリン反応は12×15mm(5ヶ月時にBCG接種済み)であった。また、AFP、NSEなどの腫瘍マーカーの異常は認めず、マイコプラズマ抗体陰性、寒冷凝集反応も陰性であった。心臓超音波にて肺動脈からの異常血管なども認めなかった。造影CTでは、右肺門部に直径3cm高さ5cm大の造影効果のほとんど認めない充実性陰影と、その周辺部の気管支壁の肥厚と内腔の狭小化および気管狭窄と肺門、縦隔リンパ節の軽度腫脹を認めた。炎症に対し、抗生剤の静脈内投与を2週間続けたところ、睡眠中や安静時の喘鳴は消失したが肺門部の陰影の大きさは不変であった。しかし、気管支壁の肥厚や内腔の狭小化が改善したことに加え、当初と比べて病変部をさらに薄く撮
影することにより、気管から直接右上葉枝と中葉枝が分岐し(気管気管支)、陰影は右上葉の一部の無気肺または炎症性変化であると思われた。先天性気管支分岐異常ではほとんどは無症状で経過するが、反復性肺炎、気道症状(喘鳴、呼吸困難、咳嗽)で発見されることがある。また気管狭窄を伴うことが多く、本例でも喘鳴は気管狭窄によるものであると思われた。最狭窄部の内腔は3mm程度と極めて細いが、現在まで異常なく保存的に経過観察中である。(以上発表者抄録)

コメント:たまたま予防接種目的で来院し、その時喘鳴が見られたため撮影した胸部写真上右肺門部に陰影が見つかり、この精査から診断が判明した症例であった。陰影は無気肺であり、胸部CTで主気管支の狭窄と気管支分岐異常が診断された。狭窄部は、直径3mmしかなくこれが喘鳴の原因と考えられたとのことであった。この狭窄を手術すべきか、対症的に対処し発育を待つかは、臨床経過良好か否かで決めることになる。生下時から喘鳴があり、しかも全身状態は良好で、経過観察することになったとのことであった。乳児の喘鳴は、一般に経過良好のものが多い。このため特別な呼吸困難、そして咳発作などの臨床症状の重さや胸部所見に左右差がなければそのまま経過観察することが多い。このような特別な症例もあるため、注意深い経過観察が必要なことを改めて示してくれた。

話題提供 :プレーパーク(冒険遊び場)について 
                      藤枝小児科(伊予三島市)      藤枝 俊之


 現在、心身に諸問題を抱える子どもの増加が叫ばれており、その解決に向けた取組みが各地でなされる必要がある。子どもをとりまく環境(家庭環境・地域環境・遊び環境)や都市公園における課題を踏まえた上で、子どもの内的欲求を満たすような自由で豊かな遊びや多様な体験ができるための条件整備を行うこともその一つである。これは、都心部だけの問題ではなく、地方においてもその必要性は同じである。各地でさまざまな取組みがなされる中、注目を集めている取組みにプレーパークがある。プレーパークは「冒険遊び場」とも呼ばれ、「自分の責任で自由に遊ぶ」をモットーに、遊びを通じて地域の住民の力で子どもを育てていこうとする場所・活動のことである。その歴史は古く、1930年代に北欧に始まったこの活動は、少子化が進む中、子どもたちがたくましく育つための施策の一つとして盛んになり、イギリスやドイツ、アメリカ、オーストラリア、日本へと広がった。近年では住民参加型まちづくりの手法としても注目をされている。ここでは、プレーリーダーと呼ばれる大人の存在が子どもの遊びの支援をしており、その役割は次の通りである。
 @子どもの代弁者としての役割 A遊び環境デザイナーとしての役割 B相談相手としての役割 C注意を払える大人としての役割 Dドクター、ジャッジとしての役割
 小児保健、地域保健活動の一環として我々医師がこのような活動を行い、または支援していくことは、今後の日本の将来を考える上でも重要なことと考える。(以上 発表者抄録)

 コメント:行政が造る児童公園に対して、住民が主体となって造った「子どもたちのための遊び場」がプレーパークです。児童公園では、いろいろな禁止条項が見られます。すなわちボール投げはだめ、サッカーはだめ、自転車遊びはだめなどです。都市では自由に遊べる場所がなくなり、子どもたちが児童公園にも集まらなくなっています。今では地方都市でも同様なことが起こっています。遊ぶ場所がなく、子どもたちは家にこもりがちになっています。プレーパークでの遊びは、「自分の責任で自由に遊ぶ」ということがモットーです。基本的に遊びには、予測可能な危険(リスク)と予測不可能な危険(ハザード)がついて回ります。だから遊びが面白いのですが、このためプレーパークでは「事故は自分の責任」という考えが基本になるとのことです。このように、公園での自由な遊びを目指し、地域住民とプレーリーダーが中心になって、行政の協力(資金など)を得ながら運営されているとのことでした。このような自由な遊びの場であるため、発表者は医師として特に事故の初期対応などで協力しているとのことでした。そしてこのプレーパーク運動は、地域住民のお互いの協力によってなりたっていくため、今では強力な町おこしにもなっているようです。週休2日となった今の子どもたちのために、「子どもの遊び場というものを、そこを利用する子どもの立場にたって造っていくことを本気で考えなければならない時代になった」と感じさせてくれる話題でした。

その他 :

 1)新居浜市で、成人麻疹の流行が10月初めから見られる。小児の感染も見られるようになった。20名を超える成人麻疹が確認される状況は異常であり、今後乳幼児の流行が考えられる状況となったため、小児科医会のつかんでいる情報を早急に各方面へ発信し、危険な状況を認識すべきである。「直ちに医師会、行政へ連絡して乳幼児・学童への予防接種の必要を訴えよう」ということになった。
(文責 山本浩一)

第416回

日時
平成14年10月9日(水)午後7時ー
症例呈示 「Diffuse neonatal haemangiomatosisの1例」 愛媛労災病院 岩瀬孝志
話題提供 「臍炎を伴った尿膜管遺残の1例」 住友別子病院 後藤振一郎

症例呈示 : 「Diffuse neonatal haemangiomatosis」の1例
     愛媛労災病院小児科 岩瀬 孝志

 症例は、在胎39週1日、3240g、Apgar score 8/9で自然経膣分娩にて出生。呼吸状態は安定していたが、全身に径5mm前後の血管腫を多数(約170個)認めた。Plt17.2万、PT30.3秒、APTT53.5秒で出血傾向は特に認めなかった。皮膚所見からDiffuse neonatal haemangiomatosisが考えられ精査施行。超音波にて、頭部、心臓、腹部所見は特に認めなかった。頭部MRIも異常は認められなかったが、腹部CTおよびMRIにて、肝左葉、右葉部位に多数の血管腫と思われる所見を認めた。日齢12 心不全状態を認めず、全身状態良好であったため外来にての経過観察とした。しかし、経過中皮膚血管腫の増加、眼内血管腫の出現、出血傾向を認めたため、日齢37に入院しステロイド内服治療(プレドニン2mg/kg/日)を開始した。治療開始1ケ月で出血傾向は消失、以後外来フォローとした。皮膚血管腫、肝内血管腫は徐々に消失し、生後9ケ月に内服中止となる。その後は血管腫の所見は認めず、全身状態も安定している。(以上 発表者抄録)

コメント:血管腫には、Sturge Weber症候群(顔面半側の三叉神経第1枝領域の血管腫、脳軟膜の血管腫による神経症状、ぶどう膜の血管病変による眼症状)やKasabach-Merritt症候群(巨大血管腫と血小板減少)など乳児期早期から注意をしなければならないものがある。一般的には、小さな血管腫だけであれば予後良好なことが多く、経過観察することになる。この疾患は、血管腫が生下時から皮膚に多発し、他の臓器にも多発する。この血管腫は、イチゴ状血管腫の特異な型と考えられ、通常は自然治癒傾向があるとされている。発表症例では、全身皮膚に小血管腫がびっしりと見られた。そして急に数が増えてきたことと、眼内血管腫の出現や臀部血管腫からの出血があり治療に踏み切った。治療後の経過は良好のようだ。早期発見、早期治療が好結果をもたらしたと考えられる。臨床上の問題として「いくつぐらいの血管腫が皮膚に観察された時に他臓器での血管腫の存在を検索すべきなのか」との質問がでたが、数十個の報告もあるとのことであった。ある程度皮膚の血管腫の数が多く、治療をすべきかどうかまようような症例では、その治療適応を考える上でも他臓器の検索をしたほうが良いということであろう。

症例呈示 :「 臍炎を伴った尿膜管遺残の1例 」
   住友別子病院小児科 後藤 振一郎

 症例は日齢20日男児。生下時から臍は湿潤で膿の付着も時々みられていた。平成12年4月3日朝から機嫌悪く、哺乳量低下を認めていた。翌4月4日入浴後臍及びその周囲の発赤、腫脹、硬結、38℃の発熱出現。出生した産婦人科医院受診し、紹介入院となった。入院時血液検査ではWBC13300/μl、CRP13.3mg/dlと炎症反応高値を示した。抗生剤カルバペネム投与、途中臍培養からMRSA分離されバンコマイシンを追加した。入院5日から解熱、発赤も改善した。臍培養の際に盲嚢様の組織を認め造影CTを施行。臍から膀胱にかけ管状の構造物が認められ、尿膜管遺残(尿膜管臍洞)と診断した。臍炎治癒を確認し外科にて摘出手術を行った。尿膜管遺残は1000〜7000出生に1例の頻度とされているが、臍からの分泌物がないと無症状に経過するものが大半で、本症例のように炎症をおこして発見されることが多い。診断法として超音波、瘻孔造影CT、単純レントゲン等が有用である。治療法としては外科的に臍下正中切開し臍を温存し尿膜管のみを摘出する方法が一般的のようである。(以上 発表者抄録)

 コメント:生後20日で臍炎が発症し、腹壁への発赤・腫脹が急激に広がり、浸出液からはMRSAも検出され、治療に抵抗した症例である。臍との交通がみられる尿膜管遺残の型診断には、通常水溶性造影剤による瘻孔造影が行われる。この症例では、造影剤を注入後CT撮影をして膀胱との交通がないことを診断していた。臍炎が重症であり臨床経過が難治であったことも確定診断に至った重要な因子であるが、母親が訴えた「急にお腹が赤くなった」という臨床経過が、すなわち「臍炎が急に発症し、しかも炎症が腹壁へ急激に拡大したという訴え」が、診断を考える上で重要な鍵になった症例と考えられた。患者の訴えに真摯に耳を傾けることが、診断や治療に重要であることを改めて教えてくれた発表であった。
その他 :
 1)来年度のツ反・BCGは、「乳幼児のものは従来どおり、小学生・中学生のものは全面的に中止となる予定」との情報がはいった。したがって乳幼児のツ反・BCGは、今までと同様に実施される予定。 
 2)日本は、米国から麻疹の輸出国と名指しされた。事実先進国の中では飛びぬけて多い麻疹の流行が見られる。現在小児科医が中心になって、麻疹撲滅運動を展開中である。このような状況から、予防接種の既往歴を何とか確認して、麻疹などの予防接種の接種率を上げる方法がないかが議論された。米国で実施されているように、入学時(幼稚園・保育園・小学校など)に確認することができれば対応策が考えられるのだが、今の予防接種の制度(勧奨接種)の中で、どの程度の指導が可能か疑問が投げかけられた。しかし現実には接種率が上がらないと、集団で生活している乳幼児・学童はいつも流行の危険性と隣り合わせの生活をしていることになる。早急の対策が待たれる。このような状況を打開しようと松山市では、既往歴や予防接種歴、その他の健康上の注意すべき点が簡単に確認できるアンケート式の調査票を園医会が作成した。この調査票を用いて、入園時の健診や予防接種の指導に役立てようとしていることが紹介された。                                
 3)人事消息
  愛媛労災病院小児科  岩瀬 孝志(入会)                             

文責 山本浩一)


第415回

日時
平成14年9月11日(水)午後7時ー
症例呈示 呼吸困難で発症したLangerhans cell histiocytosisの1例」 十全総合病院 占部智子
話題提供 「夫の死後、凍結精子による体外受精で出生した子が戸籍を獲得するまで」 高橋こどもクリニック 高橋 貢

症例呈示 : 「 乳児期に呼吸困難で発症したLangerhans cell histiocytosis の1例 」
     十全総合病院小児科 占部智子

 症例は生後2ヵ月男児。主訴は呼吸困難と発疹。発疹は生下時からみられたが、近医で脂漏性湿疹として経過観察されていた。生後1ヵ月半頃からミルクの飲みが悪くなり、初診時にはチアノーゼを伴う呼吸困難を認めた。胸部X-Pにて著明な間質性肺炎像を認め、全身の微小血管腫様発疹の合併からLangerhans cellhistiocytosisを疑い、皮膚生検を行った。皮膚組織からS-100染色陽性で、Birbeck顆粒を持ったLangerhans組織球の増殖が確認され、Langerhans cell histiocytosisと診断した。全身検索の結果、頭部X-Pにてpunchedout legionも認められ、病変部位は皮膚、肺、骨の3臓器と考えられた。本症例は生後2ヵ月の若年発症であり、呼吸困難という致命的ともなりうる症状を有しており、化学療法にて治療を行った。VP-16、ステロイドパルス療法を行ったところ、呼吸状態は著明に改善し、発疹も消失したが、治療間欠期に皮膚病変の再発を認めたため、MTX、VBLの週一回投与とプレドニンの内服で治療を続け、発疹の再発も無〈なり、間質性肺炎像も消失した。若年発症で、かつ臓器不全を伴っている例は一般に予後不良であるが、比較的早期に治療を開始できたため、治療が著効した例と思われた。乳児期に全身に播種性に脂漏性湿疹様の発疹を認め、他臓器に病変を認めた場合、Langerhans cell histiocytosis も鑑別に加える必要がある。(以上 発表者抄録)

コメント:Langerhans cell histiocytosis (LCH)の旧Letter-Siwe病にあたる症例の呈示であった。生後2ヵ月ですでに皮膚・肺・骨に病変が認められ、LCH病期分類でStageV と考えられ、すぐに治療(化学療法)を行ったとのことであった。入院のきっかけは、肺炎様の所見であった。入院精査となり、その時に皮膚の異常に気づき、生検を実施したことにより早期に診断がついた症例であった。皮膚病変に気がつかなければ、診断が困難だった症例とも考えられた。したがって、皮疹が他の湿疹(脂漏性湿疹やアトピー性皮膚炎)とどのように違うのかとの質問がでた。皮疹の初期はこの症例のように脂漏性湿疹と診断されている例もあるが、「ある程度進行すると脂漏性湿疹との違いが明らかになり、通常の湿疹とは何か違うようだと判断できるのでは・・・」とのことであった。LCHでは、自然治癒するまたは良性に経過する症例がある一方で、非常に急激に経過する予後不良な症例がある。その予後不良な症例を的確に診断して、早期に治療することが大切であることを示してくれた。 

話題提供 :「 夫の死後、凍結精子による体外受精で出生した子が戸籍を獲得するまで 」
    高橋こどもクリニック  高橋 貢

  父親の死後に体外受精を行い、出生した子どもと関わった。出生前から現在までの経過を通し、母性と法律のギャップ、生命の重さなど医療従事者の一人として考えさせられることが多々あった。今後もこの母子を支援していくとともに同様な境遇の子ども達のために少しでも役立つことを願い発表する。父親は27歳時、慢性骨髄性白血病と診断された。寛解し34歳で結婚。35歳時骨髄移植が決定したため、将来の子どものために精子を冷凍保存した。移植後の経過は良好であったが、平成11年9月水痘罹患し、永眠(享年36歳)した。母親はそのショックのためか体外受精は成功したが流産した。夫との間に子どもが欲しく、祖父母の強い希望もあり、再々度体外受精を施行し平成13年5月本児が誕生した。出生届けを提出したが受理されず、病気罹患時も健康保険がないため自費診療となった。平成13年12月、国民健康保険を得、平成14年1月予防接種および健診も無料で受けられることとなった。戸籍については父親の子どもとは認定されず係争中である。(以上 発表者抄録)

 コメント:複雑な事情で、民法上嫡出子と認められる期間(死後2年以内)後に、凍結保存した夫の精子を使用して妊娠し、そして出生した子についての話題提供であった。ただ直接体外受精を実施した医師の意見や、夫の死後もその保存した凍結精子による体外受精を繰り返して子をもうけようとした事情が、充分に確認できていなかった。このため、何故このような体外受精が実施されたのか私達の理解を超えていた。「純粋に愛した人との子をもうけようとしただけ」との説明があったが、現在の法律では多くの問題があることを知ったうえで敢えて実施したとなると、この出生児に対する体外受精実施医や親である母親の責任はどのようなものになるのであろうか。法律はできるだけみんなに平等であらねばならないと思うが、少なくともこの出生は現時点ではルール破りのような気がした。しかし、現実にはこの特別な体外受精によって出生した子が実在する。今後も希望すれば、進歩した技術は特別な出生を可能にする。したがってこのような子どもが、いろいろな制約を受けないで社会生活を営めるような対応が今の日本の社会に求められているのであろう。戸籍の獲得、健康保険への加入、学校への通学などの基本的問題は一応解決したようであるが、今後も多くの困難が待ち受けているように感じた。「子どもの権利は、親の責任とは別の次元で考えるべきだ」と、強く訴えている話題提供であった。

その他 :
 1)人事消息<住友別子病院>後藤振一郎(入会)、礒川利夫(退会)  
 2)愛媛県小児科医会による「未就学児の医療費無料化についての署名運動」についての協力依頼
                              

  (文責 山本浩一)


第414回

日時
平成14年8月14日(水)午後7時ー
症例呈示 「巣状分節性糸球体硬化症の1例」 住友別子病院 加藤文徳
話題提供 「小児てんかんの長期予後」 県立新居浜病院 若本裕之

症例呈示 : 「 巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)の1例 」
   住友別子病院小児科     加藤 文徳


 症例は4歳のネフローゼ症候群の男子。発症当初はステロイド感受性であったが、頻回再発のあと発症から2年を経て、ステロイド抵抗性を示した。腎生検により、FSGSと判明し、シクロスポリンを使用し、寛解した。ステロイド抵抗性ネフローゼ症候群を伴うFSGSは、先天性の腎尿路奇形に次いで、小児末期腎不全に陥る疾患の約2割を占めている。発症から10年で約4割が、最終的には約半数が末期腎不全に陥る。しかし、FSGSに対して長期間有効な治療法はまだ確立されていない。シクロスポリンでさえも、長期的な予後の改善効果は明らかとはいえないが、完全寛解率は改善している。よって、シクロスポリンはFSGSに対する第一選択薬と考えられる。ただ、長期大量使用は腎毒性の問題があり、厳重な血中濃度の管理が必要である。(以上 発表者抄録)

コメント:巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)は、小児原発性ネフローゼ症候群の約7%を占める難治性の疾患である。治療としてステロイド剤、サイクロフォスファマイド、メチルプレドニゾロンのパルス療法などが試みられるが、どれも長期的予後を改善していない。シクロスポリンも同様であるが、完全寛解率が増加しているのは事実である。今回の症例は、頻回再発のため2年間、中等量以上のプレドニゾロンを使用していた。シクロスポリンの使用によって寛解し、プレドニゾロンの減量にも成功している。シクロスポリンは患者のQOLを改善させるためには有効な治療法である。しかし、薬剤による腎毒性は無視できず、低い血中濃度での維持が必要であり、投与期間も制限されている。シクロスポリン中止後の治療については、まだ、課題として残っている。 

話題提供 :「 小児てんかんの長期予後 」
  県立新居浜病院小児科    若本 裕之

  
 一般人口における小児てんかんの長期予後を明らかにする目的で、愛媛県南予地区の155名のてんかん児を成人になるまで長期追跡し、医学的(てんかん発作、精神症状、死亡率)、教育的(教育、学歴)、社会的(就職、結婚、運転免許証取得、生活の場)な側面からその長期予後を検討した。また, てんかんとその予後に関して患者と親がどのような認識を持っているかについても調査した。 そして、平均18.9年の追跡期間の後、患者全体の予後に関して以下のような結果を得た。 (a) 発作の5年間寛解率 62.8%、 (b) 発作の再発率17.4%、(c) 精神症状の合併率 2.7%、 (d) 死亡率  2.7 %、 (e) 義務教育期間中での普通学級在籍率  71.6%、 (f) 高卒率  65.5 %、(g)就職率 67.4%、 (h) 婚姻率 23.0%、 (i)自動車免許取得率 54.7% 。また、 患者全体を精神遅滞のない患者群と精神遅滞のある患者群に分けて予後を考えた場合、それぞれ以下のような結果であった。 (a) 75.8 % と36.7%、 (b) 10.7% と44.4%、 (c)0% と8.2%、 (d) 0.6% と12.2%、 (e)100% と14.3 %、 (f) 96.0% と6.1%、 (g) 95.2% と20.4%、 (h) 33.3 % と2.0%、 (i) 77.8% と4.1% 。
 てんかんについての意識調査では、約40%の患者が自分の正確な病名を知らず、約40%の親が未だにてんかんの予後に不安を抱いていた。したがって、てんかん児全体の予後に関しては、てんかん発作の予後は未だ満足すべきものではなく、生命予後、学校教育のレベルや学歴などの教育的予後、就職、結婚, および自動車免許取得などの社会的予後も不良であった。しかし,精神遅滞のない患者群の予後については、若年層での低い婚姻率と自動車免許取得率以外には一般人口と同等の教育的、社会的予後を得ていることが分かった。(以上 発表者抄録)

 コメント:一般病院におけるてんかん患者の長期予後について検討した、貴重な報告である。精神遅滞を伴った症例とそうでない症例の予後に差があることは予測されることであるが、精神遅滞を伴わないてんかん患者の予後が一般人口と大差ないという結果は、これまでほとんど報告されていない結論である。ただ、予後についての家族の不安をいかに解消するか、また社会の、てんかんに対する差別、偏見をどう無くするかなど、残された問題は多い。
その他 :
 1)人事消息<愛媛労災病院>矢口善保(入会)、山岸篤至(退会)、井上恭子(退会)、野見紅実子(特別参加)  
 2)第38回愛媛県小児科医会(平成14年9月8日開催、県医師会医学研修所にて)、会長:真鍋豊彦

(文責 加藤 文徳)


第413回

夏季懇親会

(山岸篤志先生、井上恭子先生、高橋由博先生、礒川利夫先生送別会)
平成14年7月10日(水)に、第413回新居浜小児科医会(夏季懇親会と送別会)が割烹天ふじで開かれました。
出席者は18名でした。
                        出席者名
(前列左から) 占部智子、井上恭子、山岸篤至、磯川利夫、高橋由博
(中列左から) 上田 剛、塩田康夫、三崎 功、真鍋豊彦、松浦章雄、渡辺敬信、山本浩一
(後列左から) 中野直子、若本裕之、加藤文徳、高橋 貢、藤枝俊之、星加 晃(敬称略)

第412回

日時
平成14年6月12日(水)午後7時ー
場所 新居浜市医師会館
症例呈示 「性成熟障害の3例」 愛媛労災病院 山岸篤至
話題提供 「保健室登校等の現状」 三崎小児科 三崎 功

症例呈示 : 「性成熟障害の3例」
  愛媛労災病院小児科       山岸 篤至


 思春期早発症2例・思春期遅発症1例を経験した。
 症例1は6歳6ヵ月の女児、2歳時箸が右眼瞼から視床下部・中脳大脳脚まで及ぶ外傷を受けた。その後3歳に乳房発達、6歳5ヵ月で陰毛発生をみたため精査目的に入院した。LH・FSHともに基礎値高値であり、LH-RH負荷試験にて過大反応を示した。その後初経を来したが、LH-RHアナログの皮下注により抑えられている。
 症例2は9歳女児4歳時てんかん発症、7歳頃から発作頻度の増加、7歳4ヵ月乳房発育、8歳4ヵ月で初経をみた。LH-RH負荷試験にてLH・
FSHともに過大反応を示した。てんかん発作後LHは上昇し60分で頂値となった。
 症例3は26歳男児、下垂体性低身長のため10〜17歳時GH治療を受けた。平成12年11月左大腿骨頭すべり症の手術をうけ、抜釘のため骨端線閉鎖目的に当科紹介となった。LH・FSHともに基礎値は低値であり、LH-RH負荷試験でも反応はなかった。hCG負荷試験ではテストステロンの上昇を認めなかった。テストステロンの投与を行い、抜釘となった。現在週2回のhCGの筋注を行っている。(以上 発表者抄録)

コメント:中枢性性早熟症の2例「外傷後の症例(3歳で乳房のしこり、6歳5ヵ月で陰毛発育)、てんかんに合併した症例(7歳4ヵ月で乳房腫大、8歳4ヵ月で初潮)」、そして成長ホルモン分泌不全症と二次性徴発現の遅れを伴った症例「大腿骨頭すべり症の治療にあたり、26歳で骨端線が閉じていないため治療が必要となった症例」について負荷試験による診断、治療そして経過などを呈示してくれた。そして、てんかんに合併した症例ではてんかん発作による性ホルモンの分泌亢進、成長ホルモン分泌不全と二次性徴発現の遅れを伴った症例では治療により速やかに骨端線が閉じて大腿骨頭すべり症治療後の抜釘が可能になったことなどを紹介してくれた。質問は、外傷後の症例については受傷後著しい身体発育があるがなぜか(=満腹中枢の障害が推定された)、成長ホルモン分泌不全症と二次性徴発現の遅れを伴った症例について染色体は異常なかったか(=未検査)などであった。それぞれ非常に特徴的な性成熟障害症例の呈示であった。

話題提供 :「保健室登校の現状」
   (平成13年度健康相談活動支援事業事業報告書から)
      三崎小児科      三崎 功

  
調査の目的
 近年、学校に登校しても授業に出席できない保健室登校者がでてきていると言われているが、本県においてはどのような状況になっているのか、また保健室登校者を抱えた学校が保健室登校児童生徒に対してどう対応し、その事例から何を学び、何を必要としているかについて調査を行った。
調査対象
  県下の全公立小学校、中学校、高等学校。
調査結果の概要
1 保健室登校児のいた学校は、小学校15%、中学校45%、高校で19%であった。
2 男女比は男子:女子=約3:7で、どの校種においても女子が多い傾向にある。
3 保健室登校のきっかけは、本人の希望が48.6%と圧倒的に多く、学年が進むに従ってその傾向が顕著である。
  小学校では養護教諭の働きかけ(20.4%)中学校では担任からの働きかけ(17.4%)高校では保護者と専門機関からの働きかけ(各18.2%)がそれに続くきっかけとなっているのが特徴的である。
4 保健室登校の主な背景には、友人、先輩との問題(55.9%)家族の問題(55.5%)といった人間関係や家族関係が関わっていることを示している。
5 保健室登校を受け入れるにあたっては、保護者との面接により、共通理解を図り、保健室の受入環境づくりも重要である。
6 養護教諭は、担任との連携を中心に保護者、管理職と連携をとっている。しかし管理職や校内組織との連携が図れてなく、校内体制づくりが充分できていない学校が3割以上あるという状況は見逃すことはできない。
7 保健室登校によって児童生徒に改善が見られた事例は全体の7割となっており、保健室登校の意義を確認することができた。(以上 発表者抄録)

 コメント:平成13年度健康相談活動支援事業報告書からの話題であった。これは登校拒否についての調査ではない。登校はしているが授業に出席できず、「常時保健室にいるかもしくは主として保健室にいる状態」である保健室登校についての調査報告である。愛媛県下の全公立小、中、高校が調査対象となった平成12年4月から平成13年3月までの調査結果とその概要および今後の課題についての話題であった。保健室登校は、女子に多く(3:7)、複数回答での集計であるがそのきっかけは本人の希望によるものが圧倒的に多く(48%)、背景には友人・先輩との問題(55%)や家族の問題(55%)があることが紹介された。保健室登校により、児童生徒に改善が見られた事例が全体の約7割でその意義を確認できたとするまとめであった。この調査の依頼は厚生労働省で教育委員会が実施したとのことであったが、小学生の保健室登校のきっかけが本人の希望(46%)となっていたり、保健室登校の主な背景(複数回答)がまとめられていたが誰(養護教諭、担任、校医など)がどのように個々の背景を推定したのかあるいは判断したかはっきりせず、そのような調査結果をもとに児童の変化が評価(改善=約70%、変化なし=約20%、その他=約10%)されていたため、この調査結果をどのように理解すべきか判断に困るものであった。今では授業に参加できない児童生徒に対する解決策のひとつとして重要なものになってきている保健室登校なので、行政が行った調査結果であったが、誰がどのような基準で評価したかについての根拠を挙げて示して欲しいと感じた。個々の症例の本当のきっかけや背景が分かっているなら保健室登校への対策が充分にたてられるべきである。しかし、判明した保健室登校のきっかけや背景が、本当に正解であるかが分からないから未だ解決策がたてられていないと考えるのは誤りであろうか?衆知の集結を期待する。

その他 :
 1)インフルエンザ迅速診断キットの偽陽性・偽陰性について 
   検査が陽性に出た時の信頼度は高いものがある。一方、検査して家族内の状況、集団の状況からインフルエンザと臨床上考えられた症例でも陰性の場合(偽陰性)がみられ、かえって診断および治療に混乱を生じた場合が多く報告された。したがって、インフルエンザの診断にどうしても必要なものとは考えられず、流行の発生の確認(ある施設、ある地域から市内全域へと拡大していく状況)や全体の流行が見られなくなった時の散発的な流行の証明などに有効な検査と考えるべきではないかとの意見が大勢を占めた。具体的に述べると、家族内で明らかなインフルエンザの発症がすでに検査で確認されていれば、次の家族内発症者に検査することは意味がなく、またある施設での流行がすでに検査で確認されていれば同じような症状の人は臨床的にインフルエンザの診断を下してすぐに治療を開始すべきとの意見である。     
        
  2)四国小児アレルギー研究会報告
     川上こどもクリニック(川之江市)  川上 郁夫

  思春期喘息と成人持ち越し例についての特別講演では、心因性の関与がある場合そして飲酒や仕事が忙しい場合などに喘息死の危険が高いこと、また引き続いて小児科で経過観察されている症例があるが内科への転向は喘息以外の合併症が見つかった時点で考慮すべきであるとの指摘があった。
   小児の気管支喘息治療で記念すべき「DSCG+β2適応第1症例」が、残念ながら仕事に慣れかけた矢先に突然死を起こしたこと。そして、その症例を通して難治喘息の治療の困難さを指摘した発表があった。
  
 3)四国小児アレルギー研究会報告
     しおだこどもクリニック    塩田 康夫

   乳児喘息におけるテオフィリン薬の至適薬用量の検討で、有効血中濃度である10μg/mlにするためには、アミノフィリン 0.6〜0.8mg/kg/hrの点滴、テオドールDS 14〜20mg/kg/dayの内服が必要であったとの報告があった。
  注意:最近の他の報告では、痙攣誘発もありうるので投与量は少なめにすべきとの報告が見られる。まだ専門家の中でもまとまった見解がないようだ。 
  
 4)入会(平成14年5月):村上記念病院(西条市)小児科 松浦 聡
   入会(平成14年6月):十全総合病院小児科 占部 智子                    

(文責 山本浩一)


第411回

日時
平成14年5月15日(水)午後7時ー
場所 リーガロイヤルホテル
製品紹介 三種混合ワクチン (財)化血研:学術部
特別講演 『国内外におけるワクチンの開発状況』 (財)化血研:研究室長 城野洋一郎先生

1)製品紹介
    「三種混合ワクチン」     化血研 学術部
2)特別講演
   座長 愛媛労災病院小児科部長  山岸 篤至

「国内外におけるワクチンの開発状況」
    (財)化学及血清療法研究所 第2研究部第1研究室室長
          城野洋一郎(きのよういちろう)先生

講演要旨

「はじめに」
 200年以上前にジェンナーにより開発された予防接種は、大きく発展し、人類の公衆衛生に貢献してきている。その間、より安全で有効なワクチンあるいは新しいターゲットに対するワクチンを開発すべく、多大な努力が払われてきている。
「開発の方向」
 AIDS やマラリア等に対する新しいワクチンの開発以外にも、@現在あるワクチンの混合化、A投与ルートの変更、B初感染予防から治療や再発の予防を目指した新しい適用の模索、Cより安全なワクチンを目指した添加剤の除去や変更、等の試みがなされている。
「混合化」
 不活化ワクチンではDTaPワクチンを基盤に、不活化ポリオ、インフルエンザb型菌、B型肝炎を混合したワクチンが欧州ですでに実用化されている。一方生ワクチンでは、MMRに水痘ワクチンを加える試みが米国でなされている。また、日本では、MRワクチンが検討されている。
「投与ルートの変更」
 インフルエンザワクチン、麻疹ワクチンは現在注射によるワクチンであるが、それぞれ継鼻接種ワクチンを開発する試みが進んでいる。麻しんの場合は、通常の生ワクチンを継鼻接種する試みであるが、インフルエンザに関しては、低温順化生ワクチン、種々のアジュバントやリポソームなどを応用した不活化の継鼻接種ワクチンが検討されている。また、ワクチン抗原をバナナ等の植物に発現させて、食べるワクチンと使用する試みも全くの夢物語ではなくなってきている。
「ワクチンの新しい適用」
 水痘ワクチンは、水痘の予防を適用としているが、高齢者における帯状疱疹の予防に水痘ワクチンが有効であるかの大がかりな臨床試験が、米国で進行している。まだ結果は出ていないが、帯状疱疹の予防あるいは軽症化が期待されている。また、B型肝炎ワクチンを慢性B型肝炎の治療に使用する試みも行われており、ウイルスDNAの消失が認められる場合があるなど、実績を上げつつある。
「より安全なワクチンを目指した添加物の除去、変更や培養基質の変更」
 T S EやC J D問題あるいはワクチン接種後のアナフィラキシーを考慮して、ワクチンから動物由来原料、アレルギーの基になると考えられる物質を除去したり、安全な組み換え産物へ変更する試みが続けられている。特にアレルギーの原因となる可能性があるゼラチンは完全に除去されたか、低反応性の加水分解物へ切り替えられた。また、ヒト血清アルブミンも、完全除去されたか遺伝子組み換え品への切り替えが検討されている。チメロサールも低減量化が検討されており、すでに全く保存剤を含まないワクチンも登場してきている。
 また、ウイルス抗原の培養に生体材料を使用している日本脳炎やインフルエンザワクチンでは、培養基質を培養細胞へ変えようとする試みも進んでいる。
「新しいターゲットに対するワクチン」
 これまでに開発されたワクチンにより感染症はコントロールされてきたが、新興・再興感染症あるいはこれまでにワクチンが開発されていなかった疾患に対するワクチン開発も精力的に行われている。ウイルスワクチンではAIDS、 Rota、 ヘルペス属ウイルス、RSV、デング熱等の開発が進められている。ウイルスワクチンでは、通常の方法で作出されたワクチン以外に、DNAワクチン、サブユニットワクチン、ペプチドワクチン、遺伝子工学的な弱毒生ワクチン、ライブベクターワクチンなどが検討されている。細菌ワクチンとしては、溶連菌、下痢症、黄色ブ菌などに対する新しいワクチンが開発されている。細菌ワクチンとしては、糖鎖抗原を基にしたコンジュゲートワクチン、遺伝子工学を応用したトキソイド、サブユニットワクチン、遺伝子工学的な弱毒ワクチンが検討されている。
 海外ではすでに認可され広く使用されているが我が国では認可されていないワクチンとして、コンジュゲート型のインフルエンザb型菌ワクチン、肺炎球菌ワクチンがある。
「終わりに」
 感染症を撲滅するためには、高い予防接種率を維持する必要がある。残念ながら、接種率という点では我が国は遅れていると言える。より高い接種率を得るためにワクチンの改善改良を進めて行かなくてはならない。また、現在ワクチンがない感染症に対しても、ワクチンを開発し、公衆衛生に寄与することは重要である。

略歴:1980島根大学大学院農学研究課終了。(財)化学及血清療法研究所入所。1980〜1983九州大学医学部ウイルス学教室研究生。1991JICA派遣ケニア国立中央医学研究所専門家。1992米国ミシガン州立大学客員研究員。1992〜1995宮崎医科大学微生物学教室研究生。1994医学博士。開発テーマ:MMR(TM)U、Vero細胞由来日本脳炎ワクチン、MDCK由来インフルエンザワクチン。
コメント:ワクチンの精製化、DPTワクチン、MRワクチンやB型肝炎ワクチンをベースにしてさらに多くのワクチンの混合化、投与ルートを経鼻や経口(食べる)へ、そしてワクチンを予防から治療へ応用することなどワクチンの可能性を明解に呈示された。そして、添加物の除去や培養基質の変更(生体材料からVero細胞やMDCK細胞へ)などワクチン製造に関して非常に基礎的な問題や今後期待されるワクチンについての展望を解説された。そして最後には、米国のMMRやポリオワクチン、さらにクラミジアへのワクチン療法の可能性やHBワクチンなどについての質問に答えてくれた。ワクチンの今と今後を、多岐にわたって実に丁寧にご教示下さったと感じられたご講演であった。                    

(文責 山本浩一)


第410回

日時
平成14年4月10日(水)午後7時ー
症例呈示 「地域性に群発したEBウィルス感染症」 県立新居浜病院 高橋由博
話題提供 「post-infection fatigue syndromeとQ熱について」 川上こどもクリニック 川上郁夫
その他 保育園の投薬依頼書 マナベ小児科 真鍋豊彦

話題提供 1 : 「地域性に群発したEBウイルス感染症」
     県立新居浜病院小児科    高橋 由博

<症例1>6歳 男児。
<現病歴>平成13年11月25日から発熱あり、11月28日近医を受診した。頸部リンパ節腫脹・肝腫大および白血球増多・肝機能異常11月29日当科に紹介入院した。
<入院時検査>WBC:10700/μl A-ly:11.0%GOT:67IU/l GPT:147IU/l CRP:0.40mg/dl CMV IgM(+) IgG(±) EBV VCAIgM80倍 IgG640倍 EBNA<10倍 Paul‐Bunnell反応(−)
<症例2>3歳 男児。
<現病歴>平成13年11月20日から両頸部の腫脹、21日から発熱、22日には咽頭痛を訴え、頸部リンパ節腫脹・肝脾腫があったため同日当科に紹介入院した。
<入院時検査>WBC:23300/μl A-ly:6.0%T.Bil:0.31mg/dl GOT:516IU/l GPT:759IU/l LDH:747IU/l CRP:1.9mg/d  EBV VCAIgM80倍 IgG160倍
<症例3>4歳 男児。
<現病歴>平成13年11月19日から発熱あり、頸部リンパ節腫脹も認め20日当科外来を紹介受診した。肝腫大(-)
<来院時検査>WBC:14500/μl A-ly:6.0% GOT:37IU/l GPT:19IU/l CRP:1.69mg/dl CMV IgM(+)IgG(±) EBV VCAIgM80 IgG160倍
 いずれの症例も伝染性単核球症の典型的臨床症状・血液検査を示し、抗体検査でEBV VCAIgMの上昇を確認した。各症例とも対症療法により軽快した。特徴として3症例は同一市町村に在住の患者であったが各患者間での濃厚な接触歴は見出されなかった。(以上 発表者抄録)

コメント:特別珍しい疾患でもないが、非常に短期間に同じ地区で、発熱と頸部リンパ節腫脹から診断されたお互いに接触歴がないEBウイルス感染症の報告であった。たまたまなのか、または流行なのかとの議論になったが、この地区に多く発生したことだけは確かなことである。日常の診察では、発熱と頸部リンパ節腫脹があれば末梢血検査と肝機能検査をしてEBウイルス感染を推定し、その後抗体価の検査となる。しかし発熱期間が短ければ、経過観察するだけでなかなか抗体価まで検査しないのが普通である。検査をすれば、もっと多くEBウイルス感染症と診断できる症例があるのではないかということになった。

話題提供 2 :「Post-infection fatigue syndrome とQ熱について」
   川上こどもクリニック(川之江市)  川上 郁夫

  
 慢性疲労症候群の原因は不明なことが多いが、何らかの感染症に引き続いて、微熱、高度の易疲労性、筋肉痛、頭痛、咽頭痛、食欲不振などが長期間持続するものを、Post‐infection fatigue syndromeという。病因はEBウイルス、HHV6、Borna病ウイルスなどが注目されているが特定なものはない。
 9歳の女児で、高熱が4日続いた後、微熱と全身倦怠が約1年間続いている症例を経験した。マイコプラズマ抗体、EBウイルス抗体(ELISA法で)とQ熱の原因であるC.burnetiiの抗体の上昇が認められた。
 Q熱は世界中に見られる人畜共通感染症であるが、わが国の実態はほとんど把握されておらず、最近注目すべき感染症の一つである。(以上 発表者抄録)

コメント:微熱と全身倦怠感から、約4ヵ月間もの不登校に陥った症例の紹介であった。この症例では、マイコプラズマ、EBウイルス、Q熱など原因として考えられた感染症は、それぞれの抗体価の上昇から推定された診断であった。これらの疾患は、いずれの疾患も慢性疲労症候群の原因としてあげられている感染症である。そして、特にQ熱が最終の原因として考えられたとのことであった。Q熱は、日本では今まで稀な疾患と考えられてきたがその抗体保有率は一般の健康者で3から17%もあり、ウシ・イヌ・ネコ・などの動物では10から20%、特に野良猫では69%にもおよび、最近ではもっと多くの発症者があっても不思議はないと考えられているとのことであった。それぞれの抗体価の推移から、この症例ではどの疾患が最も重要な原因と考えられるかいろいろと議論がなされたが、結論はでなかった。そして慢性疲労症候群という診断もさることながら、抗体価の推移だけでその原因感染症を推定することの難しさを感じさせた症例の呈示であった。

その他 :
  1)保育園の投薬依頼書          マナベ小児科   真鍋 豊彦
 ある保育園児の母親が、保育園作成の[[投薬依頼書」を持参した。保育園で薬を飲ませてもらうために必要である、とのことであった。「投薬依頼書」のコピーを提示し、同様な事例があるかどうか、どう対処すればいいかなど、問題提起した。すでに、日本保育園保健協議会学術委員会は、「保育園とくすり」と題し、基本的な見解を示しているが、その中に、[連絡票」(保護者記載用)の見本を提示している。今回持参の「投薬依頼書」はそれを参考に作られたものと思われる。
 小児科医会としては静観することになった。
  2)頭しらみ(成虫)の標本呈示    山本小児科クリニック  山本 浩一
  3)400回記念誌会計報告
 400冊で諸経費合計147万円となった。その後協議の結果、400回記念誌の会員購入価格を1冊3000円と決定した。
  4)予防接種実施の広域化対策について   山本小児科クリニック    山本 浩一
「新居浜市在住児童の他市町村への実施依頼」および「他市からの実施依頼」に関する手続きについて説明した。新居浜市は他市町村からの実施依頼については、これを受け入れているのでこの制度を利用してください。
  5)5月定例会      
 5月15日、午後7時からリーガロイヤルホテル新居浜にて、「国内外におけるワクチンの開発状況」とのタイトルで、(財)化学及血清療法研究所 第2研究部 城野洋一郎氏による特別講演会(藤沢薬品工業KKと共催)と決定。
  6)愛媛県予防接種センター(愛媛県立中央病院内)の利用法について   マナベ小児科    真鍋 豊彦
 「予防接種要注意者について県予防接種センターへ依頼する時は、市町村を介さず直接医師が県予防接種センターに紹介するようになる」とのことである。 

(文責 山本浩一)


第409回

日時
平成14年3月13日(水)午後7時ー
話題提供 「米国のHealthy People 2010について」 マナベ小児科 真鍋豊彦
話題提供 「吃音について」 大坪小児科 大坪裕美

話題提供 1:「米国のHealthy People 2010」について
      マナベ小児科       真鍋 豊彦


 第361回例会で(1998年:平成10年3月18日)で、”Healthy People 2000(米国)から”と題し、その概要と中間点である1995、1996年のReviewを紹介した。2000年までの総括が発表された後、続く2010年までに達成すべき新たな”Healthy People 2010”が策定、施行された。それによると、健康増進と疾病予防の重要性が、10項目と28の重点領域に分けて明記され、夫々に具体的な数値目標が設定されている。
 今回は、そのうちから、乳幼児保健、予防接種と疾病、タバコに関する項目について紹介した。因みに、目標値として、胎児死亡率を6.8から4.1に、周産期死亡率を7.5から4.5に、麻疹患者を74人から0人に、ムンプス患者を666人から0人に、風疹患者を364人から0人に、水痘患者を4百万人から40万人に、成人喫煙率を24%から12%に、と設定している。なお、日本においては、2000年4月、国の”健康日本21”が施行されたが、その中の1項目である「成人の喫煙率半減目標」の数値が削除され、社会問題になったことは耳新しい。2001年4月、愛媛県の”健康実現えひめ2010”が施行された。(以上 発表者抄録)

コメント:「健康な国民」と題した米国の国家的プロジェクトである。内容は、「予防によって健康を増進するための取り組み」である。これは1990年に策定された。予防医学(タバコ問題など)をライフワークとされる発表者の問題意識を通して見据えたその後のReviewを、いち早く1998年にこの例会で紹介してくれた。当時は話題を聞いても、何故いまさら予防医学なのかとあまり理解できなかった。今回は、今後の10年間の新たな取り組みをトピックスとして紹介してくれた。米国では、予防医学が確実に実践されている。その評価も実に分かりやすい。「Healthy People 2010」では、より具体的にそしてより的を絞った取り組みがなされようとしている。目標達成度が簡潔に示され、今や米国での健康に対する取り組みが、今後の予防医学のひとつの指標になろうとしている。そしてまた、この米国の取り組みを模して、日本でも「健康日本21」、そして愛媛県でも「健康実現えひめ2010」として具体的な取り組みがなされ、具体的な数値目標が示されるようになったとの紹介でもあった。日本でも、遅ればせながら予防によって健康を増進するという医学の本質が広く理解され、実践されようとしている。

話題提供 2:「吃音について」
     大坪小児科(伊予三島市)    大坪 裕美


 吃音児を3例経験した。症例1は、2歳男児、第1子(兄弟は無く)で、母親は妊娠7ヵ月。3世代同居家族であった。過保護で過干渉、さらに知的に高水準を要求されていると考えられた。症例2は、3歳男児、第2子(8歳の兄がいる)で、両親は共働きであった。祖父母により養育されていて、知的に高水準を要求されていると考えられた。症例3は、3歳5ヵ月女児、第1子(1歳の妹がいる)で、両親は児が3歳頃に離婚している。家族は祖母、母、妹で、母親は口数が少なかった。それぞれの症例で、経過観察中に母親が気がついたことは、症例1では「お兄ちゃんと連呼していたのを止めるようにした」、症例2では「兄と比較しないようにした」、症例3では「子どもにもっと話しかけ、遊び相手になることを心がけた」とのことであった。臨床経過は、症例1と症例3が1年未満で治癒した。
 吃音の出現率は、幼児期4〜5%、学童期0.7〜1%、成人0.3〜0.7%。自然治癒は50%前後で、男子は女子の3〜5倍の出現率といわれている。原因には、環境、言語発達の時期的な問題、子どもの心理的・情緒的な問題、親の過干渉や注意などがあげられている。また養育者が知的に高水準を要求し、能力以上のことをさせたり、忙しくゆとりをもって最後まで話を聞ける状態にないことなどが指摘されている。
 治療は、環境調整、遊戯療法が主に行われている。最近は子どもの原体験が貧困であり、そのことが子どもにとっては大変厳しい現実となっている。また一方、「我が子に対しての夢、希望、期待がどこまでなら許されるのか?そしてそのような要求がなぜいけないのか?」、子どもだけでなく親にも悩める問題が山積している。「あたりまえに普通に育つ」、この言葉の意味の難しさを痛感した症例でした。(以上 発表者抄録)

コメント:時々遭遇する疾患ではあるが、その対応はまだ充分に確立されていない。比較的身近な話題であるためか、「吃音以外の症状はなかったか?」「吃音だけの場合とその他の症状を持っている場合との違いは?」「素質なのか?それとも環境要因なのか?」「心身症とのオーバーラップするところは?」など質問は広範囲に及んだ。症例の紹介では、家庭環境を詳しく観察し、それぞれの家族との話し合いをして問題点を明らかにしていったことを報告してくれた。家庭医としては当然かも知れないが、実に踏み込んだ対応をなさっていると感じた。そして吃音に対して、「保護者への指導が必要であること」、「心身症的な側面を持つこと」、「専門的な指導者の養成が必要なこと」などを指摘された。日常診療でも時間を作ってこのような児童に対応することの大切さを改めて教えていただいたように思う。

その他:
  1)県小児科医会報告  
          松浦小児科   松浦章雄

(1)日本小児科医会の法人化に伴い、愛媛県小児科医会は日本小児科医会の支部となった。このため愛媛県小児科医会の組織がこの4月から新しくなり、新会長に真鍋豊彦先生が就任された。今後会長、副会長は、選挙により選出されるようになる。
(2)県小児科医会生涯教育集会(3月10日)は、「結核」をテーマに取り上げて行われた。
(3)日本小児科医会の要請で、予防接種歴の調査を新居浜市・伊予三島市で実施する。これは全国的調査である。今までの統計でははっきりしなかった母集団を、「1歳6ヵ月児健診および3歳児健診を受けた児童」と限定したところが注目すべき点である。
  2)新居浜小児科医会記念誌の図書館(県および市)への寄贈について 
         マナベ小児科   真鍋豊彦
 出席者で協議の結果、今回は寄贈しないこととなった。
  3)時間外救急の対応(保険点数改正に関連して)について
         藤枝小児科(伊予三島市) 藤枝俊之

 (文責 山本浩一)


第408回

日時
平成14年2月13日(水)午後7時ー
症例呈示 「ステロイドパルス療法を実施した、アデノウィルス感染症の1例」 住友別子病院 加藤文徳
話題提供 「要介護認定について」 鈴木医院 鈴木俊二
その他 1)退会について 2)400回記念誌について

症例呈示:「ステロイドパルス治療を実施したアデノウイルス感染症の1例」
           住友別子病院小児科       加藤 文徳

 
 アデノウイルス(Ad)は49の血清型があり、小児の上気道炎、咽頭結膜熱、肺炎などの原因となるポピュラーなウイルスの一つである。今回我々は、肺炎を合併したAd感染症の1例にステロイドパルス治療を実施し、有効であったので報告した。
 症例は2歳の女児。発熱、咳嗽が5日続き入院した。胸部レントゲン上肺炎を認めたが、CRPの上昇がなく、抗生物質治療も無効であった。第8病日、咽頭粘膜でのAd抗原迅速検査(チェックAD)が陽性であったことから、Ad感染症と診断した。同日、胸部レントゲン上、肺炎の悪化が認められたため、ガンマグロブリン投与と合わせ、メチルプレドニゾロンのパルス治療を1クール(3日間)実施し、第10病日に解熱し以後順調に治癒した。
 近年Ad7型による重症肺炎が相次いで報告されている。Ad7型肺炎の治療としては副腎皮質ステロイド剤の使用が考慮される。その投与基準は、LDH高値(1000 IU/L 以上)またはフェリチン高値(1000 mg/ml 以上)のどちらかを満たす場合とされている。ただ、7型以外のAd肺炎に対するステロイド剤の使用については、検討されていない。
 本症例は、最終的にはペア血清でのAd7型に対する中和抗体の上昇は認められず、Ad7が原因とは考えられなかった。また、LDH 956 IU/L 、フェリチン 163 mg/mlであった。
 今回の我々の症例のように7型以外のAd肺炎に対するステロイド剤の投与が許されるかどうか、今後の検討を待ちたい。(以上 発表者抄録)

コメント:アデノウイルス感染症は、小児では通常経過良好な疾患ではあるが、高熱が持続する厄介なウイルス感染症でもある。そのうちアデノウイルス7型が、乳幼児で致命的な肺炎を引き起こすことが知られている。今回は2歳で肺炎を伴い、高熱が持続し、チェックAD陽性でアデノウイルス感染症と考えられ、強くアデノウイルス7型感染症が心配された症例の呈示であった。現在、アデノウイルスの何型かを診断する方法は抗体検査によるため病初期での確定診断は困難であり、臨床的により強くアデノ7型が心配される症例であるかを判断し、どの時点で特別な治療に入るかを決めることになる。抗生剤無効で、CRPの上昇が無く、LDHが高値で進行する肺炎からアデノウイルスによる重症肺炎を心配し、ステロイド投与に踏み切ったとのことであった。アデノウイルス感染症を診断する迅速キットの「チェックAD」の有用性、そしてアデノウイルス7型感染症でのステロイド剤の投与基準などについて
解説があった。
 ごく最近アデノウイルス感染症を病初期に診断可能な「チェックAD」が発売された。臨床での恩恵は計り知れない。しかしまだアデノウイルス7型感染症との確定診断ができない。今回のような症例が積み重ねられ、「アデノウイルス感染症では、何時ステロイド投与など特殊な療法を開始するか」の基準が確立していくのであろう。

話題提供:「要介護認定について」
           鈴木医院(宇摩郡土居町)      鈴木俊二


 愛媛県の高齢化率は、平成11年10月現在31万人(21%全国11位)、10年後25%、20年後30%と予測されている。平成12年9月要介護者は40273人(12.5%)、施設入所者は要介護度が高く、在宅者は低かった。ケアプラン作成者(在宅)は21914人/30912人(71%)。介護保険制度における要介護認定の流れは、申請者(65歳以上の一次被保険者と40歳以上の二次被保険者(15項目の特定疾患))が市町村に申請すると、主治医意見書・調査員による特記事項・基本調査(85項目)→コンピュータ一次判定が行われる。この三種類の資料から二次判定(要介護認定)が1ヵ月以内に決定される。要介護度は要支援・要介護1〜5に分けられ、要支援が週2回の通所リハビリが利用できる水準。要介護5が早朝、夜間の巡回訪問介護を含め、一日3〜4回程度のサービスが利用できる水準。それぞれ介護の手間として要支援が一日25分以上30分未満、要介護1が30分以上50分未満、要介護2が50分以上70分未満、要介護3が50分以上70分未満、要介護4が70分以上90分未満、要介護4が90分以上110分未満、要介護5が110分以上である。平成12年9月の要支援者が6211人(15.4%)、要介護1が10866人(27%)、要介護2が6888人(17.1%)、要介護3が5141人(12.8%)、要介護4が5708(14.2%)、要介護5が5459(13.6%)だった。現行制度では痴呆や問題行動を呈す患者が軽く判定されているため一次判定方法が改良され、導入は2003年4月頃である。その間2次判定で3カテゴリーに分類して、一次判定の推定ケア時間に加算し(20分、30分、45分)二次判定とするように日本医師会から提案されている。(以上 発表者抄録)

コメント:まず「介護保険制度による県内情勢」を紹介された。それによると65歳以上の人口が約20%を占め、要介護者の発生率は65歳で3.5%、そして5歳ごとに約2倍になっていくとのことであった。さらに介護保険制度における要介護認定のしくみから、状態像の考え方、要介護認定基準について解説してくれた。一次判定(コンピューターによる推計)での痴呆の取り扱いの改善、主治医意見書の重要性などにも言及してくれた。望まれてこのような制度が出来たのであろうから、より客観的なそして公平な判定基準が出来上がることが望まれる。
その他:
  1)退会について                   
    今までは異動のための退会であったが、今回出席が困難になったための退会者が出た。そのため会として、その取り扱いをどのようにするのか検討した。その結果、今までの退会者と同じように取り扱い「元会員」とすることになった。
  2)記念誌完成報告      山本小児科クリニック   山本浩一
    会として公式に配布した数は約200部。会員および元会員以外の主な配布先は、新居浜市医師会A会員、新居浜市医師会、特別講演講師、日本小児科医会、日本小児科学会中国四国地区資格認定委員会、県医師会など。
  3)インフルエンザ測定キット(インフルABクイック)の注意点について 
                    藤枝小児科(伊予三島市)  藤枝俊之                                                

 (文責 山本浩一)


第407回

日時
平成14年1月9日(水)午後7時ー
症例呈示 「季節はずれのお話し」 愛媛労災病院 山岸篤至
話題提供 「母子感染の概要」 渡辺小児科 渡辺敬信


症例呈示:「季節はずれのお話」
           愛媛労災病院小児科     山岸 篤至
 

 平成13年に便培養でサルモネラ・カンピロバクターが検出された細菌性腸炎症例を検討した。カンピロバクターが検出されたのは8例でのべ9回検出された。検出時期は7・8月が多かったが7〜12月にわたっていた。8例中入院を要した者は1例のみであった。5例において抗生剤が投与された。サルモネラが検出されたのは6例で、うち4例がSalmonella enteritidis、臨床上検出されなかったがサルモネラが考えられた症例が1例あった。検出時期は7・8月とくに、8月上〜中旬に集中していた。サルモネラが検出された6例中4例およびサルモネラが考えられた1が入院を要した。抗生剤投与がされたのは4例であった。カンピロバクター腸炎に比し、サルモネラ腸炎の方が一般に症状が重く、季節的な偏りがみられた。 (以上 発表者抄録)

コメント:冬には少ないが・・・・・というタイトルである。小児細菌性腸炎の代表的原因菌であるカンピロバクターおよびサルモネラ感染症の実際の経過についてまとめたものを紹介してくれるとともに、それぞれの感染経路、臨床症状、治療、合併症などを説明してくれた。同じように血便を呈するが、大まかにいえばやや軽いカンピロバクター腸炎、比較的重症感があり菌血症という腸管外感染が懸念されるサルモネラ腸炎ということになろう。またサルモネラ菌の感染は除菌にてこずり、数か月にわたり便中に排菌されることがしばしばである。いつものように抗生剤の使用の基準、除菌の確認などについての議論があった。また9か月の乳児例があり、感染経路などについて質問があったが不明であった。一方最近は、食事の内容に季節感がなくなり、外国産のものも多くなり、数は少ないが冬でもウイルス性胃腸炎にまぎれて、この細菌性腸炎があることを肝に銘じておくべきであろう。

話題提供:「母子感染の概容」
        渡辺小児科           渡辺 敬信


 妊婦では胎児という半移植片を許容すべく細胞性免疫能の低下がみれ、病原微生物に対する感染防御能が抑圧された状態にある。一方胎児は卵膜や胎盤がバリアとして働き、機能的には母体からIgGを受けているが、胎児・新生児の免疫系は未熟であることから、感染に対するリスクが大きい。母体に感染している微生物が妊娠、分娩、授乳を通じて胎児(胎芽)、新生児に感染することを垂直感染、母子感染と呼ぶ。近年、母子感染の診断技術の進歩により新しいウイルスが次々と発見され又一部治療薬が開発されその治療も進歩してきている。そこで、最近のトピックスを加え、母子感染の主な病原微生物とその感染経路、胎児・新生児への影響、診断、管理治療、予防対策等についての概容を報告した。(以上 発表者抄録)
コメント:母子感染を引き起こす病原微生物、感染時期や感染経路による母子感染の分類、そして感染した胎児、新生児の状態についての詳しい説明があった。妊娠中に母体へのある微生物の感染が確認された時、妊娠初期ならば妊娠を継続すべきかどうか、後期では胎児や新生児の発症の心配および分娩方法の選択など母子感染全般にわたる話題であった。当然の事ながら、接種率の落ちている風疹が話題になった。実は昨年11月インフルエンザの予防接種が老人へ公費で行われることが決まったが、同時に風疹の予防接種も「昭和54年4月2日から昭和62年10月1日までの間に生まれた14歳以上の者を対象とし、この対象者は平成15年9月30日までの適用とする」とされた。すなわち14歳以上の風疹予防接種未接種者が特別措置として期間限定ではあるが、公費での接種が可能となった。具体的には今実施されている風疹予防接種の「幼児および学童」以外に、期間限定ではあるが「以前に予防接種を受けていない14歳以上22歳の方が、保健センターへ申し出れば公費での風疹の予防接種が可能」ということである。先天性風疹症候群の悲惨さを知っている医師が使命感を持って、「是非とも予防接種を受けるように」と該当する方々に知らせて欲しいと願う。
その他:
  1)県小児科医会(3月10日、県医師会医学研修所)は、「結核」を主題として開催予定。
  2)5月定例会に、特別講演会「予防接種」を予定中。
  3)多々見年光先生(大生院診療所)、宮田栄一先生(宮田内科)、平成13年12月をもって退会。
  4)400回記念誌1月中に完成予定。                                                                                                                 

  (文責 山本浩一)
 
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