「喫煙率半減」の目標、見送り=健康日本21中間報告修正−厚生省検討会(平成12年2月17日)

朝日新聞社説 愛媛新聞社説 四国新聞社説 南日本新聞社説

参考
Healthy People 2000”(米国)から

新居浜小児科医会の話題(平成10年3月18日)

たばこ半減――「健康日本」の名が泣く(朝日新聞)

 たばこだから煙のように消えた、ではすまない話である。
 厚生省の「健康日本21」計画から、「成人の喫煙率と1人当たりのたばこ消費量を2010年までに半減する」という目標が削除された。たばこ業界や自民党農林部会などの強い反発で撤回を強いられた。
 国民の健康を守るという目標は、肝心な点で有名無実化したというほかない。
 たばこに関して代わりに掲げられるのは、「知識の普及」「分煙の徹底」「禁煙支援プログラムをすべての市町村で受けられるようにする」といった項目である。
 いずれも重要な課題だが、目標達成の手段にすぎない。数値を列挙した「健康日本21」の中ではいかにも不自然だ。
 「健康日本21」は、21世紀の国民健康づくり運動の指針と位置づけられる。達成目標を数字で示し、10年後にきちんと評価できるようにしようという基本理念の下で、1年半かけてつくられてきた。
 朝食を食べない20、30歳代の男性の割合を15%以下にする▽成人の平均歩数を1日1000歩増やして、男性9200歩、女性8300歩にする▽1日に3合(日本酒換算)を超える多量飲酒者の数を2割以上減らす▽果物を毎日食べる人を6割以上にする▽野菜の1日平均摂取量を350グラム以上にする、といった目標を掲げた。
 どのようなライフスタイルを選ぶかは、基本的に個人が決めることだ。「健康日本21」は、その決定に際し、参考となる指標を掲げ、実現に向けて公的機関も側面から支援していこうという発想に基づく。病気になる人が減れば、個人としても助かるし、医療費も余計にかからずに済む。
 世界の公衆衛生政策の目標は20年あまり前から、「病気を予防する」から「健康を増進する」へと変わってきた。その実現には、個人の生活改善
だけでなく、社会環境の改善もしていかなければならないことは、先進国の共通認識になっている。
 米国や英国、カナダは、こうした考えに立って健康増進戦略を策定している。「健康日本21」は、その流れを受けて厚生省が初めてつくった目標志向型計画だ。
 65歳未満での早死にと、病気の後遺症による高齢障害者を減らすことを狙いに、肥満や高血圧などの危険因子を抑えるための具体的な数値目標を設定した。
 この中で、目玉として掲げられていたのが、「たばこ半減」だった。
 がんや心臓病、脳卒中、胃かいようや十二指腸かいようは、たばこを吸う人を減らせば減ることがわかっている。先進国で医療費を減らすのに一番有効なのはたばこ追放だというのが、世界の常識である。
 計画を決める企画検討会では、禁煙指導に当たっている人々から、「わかりやすくてインパクトのある数値目標が絶対に必要だ」という声が相次いだ。ところが、「反発されるものを入れるのは得策ではない」「実をあげることが大事だ」という、現実重視の主張が大勢を占めた。
 背後に、葉タバコ生産農家の生計や税収確保を重視する農水省や大蔵省、関係議員たちの意向が働いていたことは間違いあるまい。国民の健康よりも、目先の利害を優先させたのは明らかだ。
 日本では、多くの国で実施しているたばこ税の大幅値上げや広告の全面禁止、自動販売機の設置制限などの抜本対策も進んでいない。いつになったら、この状態から抜け出すことができるのだろうか。


たばこ対策 厚生省の腰くだけは情けない (愛媛新聞)

 厚生省のたばこ規制方針がぐらついている。
 二〇一〇年までの長期的な健康づくり計画「健康日本21」に数値目標を出したが、反対意見が多いので削除する、というのだ。
 不可解な動きであり、これでは計画全体の信頼性、実効性も失われかねない。方向の再確認と原点に返っての論議を求めたい。
 計画策定検討会に出されていた原案では、(1)未成年の喫煙をなくす(ゼロにする)(2)成人の喫煙率を全体として半減させる(3)十五歳以上の人口一人当たりのたばこ消費量を半減させる―の数値目標を掲げていた。
 ところが、厚生省自ら撤回。新たに提示した三つの修正案では、未成年の喫煙をなくす目標こそ維持したものの「消費量半減」をすべての案から除いた。「成人喫煙率の半減」も第一案だけで残し、かわりに「禁煙、節煙希望者への支援」を盛り込んだ。
 厚生省は昨年、初めて喫煙の実態調査を実施し、成人男子喫煙率は五二.八%(女子一三.四%)で米国の二倍に近い、という結果を得ている。半減目標は、これが根拠となっていたはずだ。
 腰くだけの理由について、厚生省は「たばこ業界を中心に反対意見が殺到した」と説明する。
 果たしてそれだけなのか。他の省庁の介入や政治的な圧力もからんでいるのではないか。
 たばこ生産農家の生活や税収減は、農水省や大蔵省が常に持ち出してきた問題だが、それは別の場で論議すればよい。厚生省が安易に同調していては国民の生命と健康を守れるはずがない。
 日本のたばこ規制策は、やっと実績を上げ始めた。飛行機の全席禁煙、車両・公共の場での分煙へと進んだ。テレビのCMも姿を消した。それでも欧米に比べればまだまだ甘い。
 さきごろ来日した世界保健機構(WHO)のブルントラント事務局長は、日本の対策が数十年遅れている、と指摘した。広告禁止、禁煙スペースの拡大、法整備が進んでいない、というのである。
 米国は新年度会計予算案で、十八歳未満の喫煙者を二〇〇四年までに半減させる目標を掲げた。その推進策を業界に求め、もし達成できない場合は、喫煙者一人当たり三千ドルの懲罰税を業界に課すという徹底ぶりである。
 カナダ政府は、喫煙でむしばまれた肺や心臓の写真を箱に印刷させる方針を打ち出した。これもまた未成年者の喫煙増に頭を痛めての対策である。
 欧州連合は ▽タールなどの量を厳しく制限 ▽箱に「喫煙は命を奪う」という警告文の印刷 ▽「ライト」「マイルド」など誤解を招く用語の規制―の検討に入った。
 喫煙による健康破壊はいまさら言うまでもないが、最近は受動喫煙の害も指摘されている。米国の研究所は、肺がん、心臓病のほか子供の気管支炎、肺炎にもかなりの割合で影響していることを突き止めた。
 「たばこの煙には四十種類以上の発がん物質、発がん促進物質が含まれている」 「母親の喫煙本数が多いほど生まれてくる子供の体重と身長が小さい」 「たばこに起因する医療費と死亡によって失われる国民所得を合わせると年間四兆円」 これらはすべて厚生省やその関連組織が発表したものだったことを忘れてはならない。
 WHOは「たばこ規制に関する枠組み条約」の二〇〇三年の調印へ動いている。先進各国の流れが固まるなか、日本だけ抵抗するつもりなのだろうか。


喫煙率半減目標維持を(四国新聞)

 二〇一〇年を目標に今年四月から新しい健康づくり運動を進めようとする厚生省の「健康日本21」が、策定の土壇場でぐらついている。たばこについて「喫煙率半減」とした数値目標の維持が、微妙になってきた。厚生省は喫煙率半減目標をなくす案を専門家の検討会に提出した。この弱腰は誠に情けない。
 たばこ生産農家や業界、大蔵省、自民党の一部が、強く反発しているためだ。これまで有効なたばこ抑制策をとってこなかった怠慢のつけとも言える。たばこ対策は中身があるほど風当たりが強まる。
 社会や人々の理解を得る努力は必要だが、ここは喫煙率半減目標の旗を降ろすべきではないと考える。政府内の調整不能を理由に、肝心のたばこの目標をあいまいにするようであれば、健康日本21への信頼は崩れる。二十一世紀の健康づくり運動は、地域や国民から支持されなくなるだろう。
 厚生省は健康日本21で初めて、たばこや酒、食生活など約五十項目について数値目標を掲げた。具体的な数値を示すことで、達成度を判定し、健康を増進しようとするのが狙いだ。欧米で始まった手法を取り入れたもので、多くの専門家が最新の研究報告を基に論議を重ね、喫煙率半減など、日本に合った数値目標を提案し、公表してきた。
 もっとも、酒や食事など生活習慣は人の好みにかかわる問題である。最後は個人の選択にゆだねられる。健康日本21は、より健康に暮らすにはどうしたらよいか、その科学的根拠を数値目標で表した点が新しい。
 たばこは単一の要因として、がんや循環器系疾患など健康被害を飛び抜けて多くもたらしている。たばこの税収より経済的損失の方が大きい。
これらの事実は内外の膨大な研究で十分に証明されている。たばこが原因で約十万人が毎年、国内で死んでいると推定されている。犠牲者は身近にいる。この健康被害を減らしていくことは重要課題だ。
 日本は、国民一人当たりのたばこ消費量が先進国で最も多く、たばこ対策で欧米より三十年立ち遅れている。米国でがんが一九九〇年代にはっきり減少に転じたのは、禁煙運動が効いてきたためだ。他の先進国でも、たばこ対策に早く乗り出した国では、肺がんの減少が始まっている。
日本は今も肺がんが増え続け、がん死亡の一位になり、死者は年間五万人を超えた。
 愛知県がんセンター研究所の富永祐民所長の推計によると、喫煙率半減が達成されれば、男女合わせて肺がんの四分の一が予防できる見込みだ。がんの減少には二十、三十年かかるが、脳出血や心臓発作など循環器系疾患への効果は一、二年で出る。健康日本21の各項目の中で、これほど健康に役立つものはない。
 厚生省の実態調査によれば、成人の男性五三%、女性一三%の喫煙者のうち、半分以上が「禁煙したい」と望んでいる。禁煙率半減の目標は、世論の支持を得られるはずだ。
 日本政府はこれを機に、総合的なたばこ対策に乗り出すべきだ。米国では、たばこ会社に政府が損害賠償を請求するほど激しい「たばこ戦争」を経て、たばこ抑制を進めてきた。有効な手だてはある。世界銀行は昨年まとめた「たばこ流行の抑制」で、需要削減策として(1)たばこ税引き上げ(2)広告の禁止(3)禁煙のためのニコチン代替療法普及―などを挙げている。
 その場しのぎに歳入増を狙うたばこ増税ではなく、禁煙を促すためなら、議論に値する。それによる増収は、たばこ生産農家の転作支援などに充てればよい。二十世紀に大流行したたばこから抜け出るには、こうした思い切った対策が必要だ。
 「たばこによる死者は二〇三〇年には、年間一千万人になる」。世界保健機関(WHO)はこう予測し、二〇〇三年に「たばこ対策枠組み条約」採択を目指している。日本がこれ以上立ち止まるのは許されない。
 健康日本21の喫煙率半減目標は、たばこに依存してきた日本の社会を転換する一歩として大事にしたい。


喫煙率半減の堅持を/健康日本21(南日本新聞)
 2010年を目標に4月から新しい健康づくり運動を進めようとする厚生省の「健康日本21」がぐらついている。「喫煙率半減」としたたばこの数値目標を維持できるかどうか微妙になってきた。
 厚生省はここへきて喫煙率半減目標を削除したいようだ。この弱腰は情けない。タバコ生産農家や業界、大蔵省、自民党の一部が強く反対しているからだ。これまで有効な抑制策をとってこなかった怠慢のツケといっていい。
 社会や人々の理解を得る努力は必要としても、喫煙率半減目標の旗は降ろすべきではない。政府や関係者間の調整不能を理由に目標をあいまいにするようであれば、健康日本21への信頼は崩れてしまう。
 厚生省は健康日本21でたばこや酒、食生活など約50項目について数値目標を掲げた。たばこや酒は人の好みにかかわる問題だが、より健康に暮らすにはどうしたらいいか。数値を示すことによって達成度を判定できるようにし、健康を増進するのが狙いだ。
 たばこは単一要因として、がんや循環器系疾患などの健康被害を飛び抜けて多くもたらしている。たばこの税収より健康面の損失は大きいといえる。国内ではたばこが原因で毎年10万人が死んでいると推定されている。この健康被害を減らしていくことは重要だ。
 日本は国民一人当たりのたばこ消費量が先進国で最も多く、たばこ対策は欧米よりも30年立ち遅れている。米国でこの10年間にがんが減少に転じたのは、禁煙運動が効いてきたからだ。他の先進国でもたばこ対策に早く乗り出した国では、肺がんの減少が始まっている。
 厚生省の実態調査によると、成人の男性53%、女性13%の喫煙者のうち、半分以上が「禁煙したい」と望んでいる。
 政府は総合的なたばこ対策に乗り出すべきではないか。米国では政府がたばこ会社に損害賠償を請求するほど激しい「たばこ戦争」を経て、抑制を進めてきた。
 有効な手だてはある。世界銀行は抑制策として(1)たばこ税引き上げ(2)広告の禁止(3)ニコチン代替療法の普及−などを掲げている。
 その場しのぎの歳入増を狙う増税ではなく、禁煙を促すためなら、議論に値すると思う。それによる増収はタバコ生産農家への転作支援などに充てるのも一考だ。


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