タバコ戦争、狙いは子ども

 -小児科医の果たす役割とは-

愛媛県小児科医会副会長

真鍋 豊彦

 センセーショナルなこの表題は、JAMA日本語版(1994年5月号)からとったものです。米国では、子どもにとって魅力的なタバコ広告やタバコ販売促進グッズが氾濫していると言われています。タバコ型キャンディ−、本物っぽいおもちゃのタバコ、プラスチック製のタバコ玩具などが売られています。


 これは米国タバコ産業の大戦略の一つで、子どもたちを喫煙者予備群として、幼い頃から、タバコに親しませようとするものです。
 子どもたちは、これにより、いつの間にか、タバコが日常生活の中で単なる嗜好品の一つに過ぎないと思うようになります。恐ろしいことです。この幼児作戦は米国で成功しており、やがて日本もその戦場になるのではないかと危惧されています。


 小児科医は子どもの病気の治療だけでなく、病気の予防、健康の保持増進に努めなければならないことは言うまでもありません。米国タバコ産業の大戦略は、乳幼児の心を言わば蝕むものであり、今から重大な関心をもって見守り、その上陸作戦阻止に専門家の立場からぜひとも協力していただきたいと思います。


 また、米国では青少年や若い女性を標的にした各種のタバコ広告が、色々なメディアを用いて活発に行われていることは周知の事実です。米国は、禁煙活動の最も盛んな先進国の一つであり、タバコ産業の戦略に決して手を拱いてはいませんが、今のところ有効な対抗手段は案出されていないようです。 


 一方、わが国の子どもの喫煙習慣予防対策の現状はどうでしょうか。 従来、わが国における子どもの喫煙対策は、”喫煙習慣予防”対策ではなく、子どもの喫煙を反社会的な問題行動として捉え、生活指導に重点をおいた”喫煙は駄目だ!”対策に過ぎませんでした。
 喫煙による健康障害が明らかになった今も、この傾向が強いように思われてなりません。


 平成元年3月、新学習指導要領に初めて、「喫煙、飲酒、薬物乱用と健康に関する指導」が明記され、中学校では平成5年度から、高等学校では平成6年度から新しい教科書にこれが採用されました。文部省もやっと重い腰をあげたことになります。
 現場の教職員は、否応なく児童生徒を対象に「喫煙と健康障害」について教育せざるを得なくなりました。喫煙教職員の多い学校現場で、喫煙教職員はどのような教育をしているのでしょうか。恐らくジレンマに陥っているのではないかと思います。 


 ところで、医療の現場ではどうでしょうか。 医師の喫煙率は現在30%前後であります。一般成人(喫煙率60%)や他の業種の喫煙率に比べると医師の喫煙率は確かに低いのですが、社会から、医師は”お医者さん”として、日常生活において”健康的な行動”を期待されていることを考えますと、喫煙率30%は決して誇れる数値ではありません。
 成人病の一次予防が広く認識され、各科において禁煙指導が行われている現在、喫煙医師は、患者指導に当たり、恐らく教職員と同じジレンマに陥るであろうことは想像に難くありません。


  小児科医の場合、患者は乳幼児であり、直接患者に禁煙指導をする機会はほとんどありませんが、父母を相手に受動喫煙の害を説明し、家庭における分煙を勧めたり、禁煙の意義を強調することはできます。 
 幸い、小児科医の喫煙者は比較的少ないようです。 


 平成元年3月、愛媛県小児科医会の総会において、”タバコの煙から子どもたちを守ろう”という表明案が採択され、関係機関などに送付されました。平成6年12月の理事会で、この表明をポスターにし、医療機関の受付窓口や待合室などに掲示していただくことになりました。また、愛媛県医師会学校医会が実施している”たばこってなーに?”基金への協力も決められました


 これら一連の行動は、現在の乳幼児や児童生徒が、生涯にわたり一人でも多く健康な生活を送って欲しいという小児科医会からのメッセージであります。

 

 ”自未度先度他=じみどせんどた” 


  自らは未だ悟り得ず、彼岸に渡ることはできないが、他人を先ず悟りに導き、彼岸に渡らせる、という教えと理解しています。喫煙が健康に良くないことを自覚している医師であれば、自らは未だ禁煙できなくとも、他人に喫煙の害を説き、禁煙に導くことは仏の教えに通じるのではないでしょうか。


 最後に、非喫煙者(禁煙者)の会員の皆様に「日本禁煙医師歯科医師連盟」へのご加入をお願いいたします。この会は、医師および歯科医師の広範な連携によって、人々の健康をタバコの害から守ることを目的として設立されました。
 1994年10月現在、全国の会員数は616人で、愛媛県からは僅か3人しか加入していません。年会費は5千円です。 


 お問い合わせ先は、日本禁煙医師連盟事務局(TEL/FAX:03-3239-1805)です。

(愛媛県小児科医会会報NO29−1995年3月号巻頭言から)


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