ルチル2(五良津)

   

 

 

 小生手持ちの、愛媛県宇摩郡土居町五良津産ルチルの中で元も最も美しいと自負する一品!長さ約4cm、端面はないものの条線を有する四角柱状結晶が石英の中に延びている。当地におけるルチルについての概略は、ルチル(国領川)ルチル1(五良津谷)をご参照いただきたい。概して母岩が硬いので、ハンマーを入れる際に内部に含まれるルチルが一緒に砕けて破断面の多い標本になるのは仕方ないが、それゆえに、こうした条線の整った、大きさもまずまずの標本は、ルチルの大産地と言えども結構少なく採集者に尊ばれている。また、関川下流の広い河原の転石を注意深く探せば、ある程度の大きさの標本も得られるが、今度は“川流れ”の摩耗品となって標本価値がこれまた半減してしまい参考品程度の扱いに甘んじなければならない。やはり、大きく立派な標本を得るためには、「征木の滝」に到る分岐を左に見て、住友林業の事務所が残る「河又」を過ぎ、河床が浅くなる砂防堤付近を隈なく歩いてハンマーを入れるしかない。・・とは言うものの小生も埼玉に来て8年が経ち、その間、一度もこの産地を訪れたことはないので現状がどうなっているのか知る由もないのだが、五良津は大雨の度に刻々と谷筋の地形や転石の位置が絶えず変化し、鉱物の供給が途切れることはないので、今も多くの鉱物マニアが訪れ、新たな発見と喜びの大産地で有り続けているのを率直に喜ばなければならない。

 

 ここで採集した面白いルチルを下に2,3挙げておこう。

   

 

 上左写真は、ルーズな石英の空隙の中で比較的自由に成長した結晶。条線はほとんどないが、奇妙に曲がった形が面白い。端面も見ることができる。上中央は、条線の整った美しい柱状結晶だが長さは1cm前後、ハンマーで母岩から砕け散った小さな分離結晶である。産地で一日粘ってこれくらいの結晶が採れれば、まあ上出来だろう。上右は、曹長石角閃岩の石英脈の沿って延びる細い結晶。この程度のルチルは、石英脈を注意深く観察して回ると結構発見できるのだが、どれくらい綺麗に取り出せるかは、採集者の腕の見せ所と言えよう。小生も15年間、ことあるごとに現地に出かけ採集に努めたが、今、こうして見るとまだまだ満足できる標本を得たとは言い難くお恥ずかしい次第である。新居浜市立郷土美術館に展示されるK氏の標本や、S氏の秘蔵標本など、見る者誰しもを唸らせるような標本をこの手にできる日を夢見て今後も頑張りたいと思っている。

 

 下に、「鉱物採集の旅 −四国・瀬戸内編−」(宮久三千年、皆川鉄雄 築地書館 1975)より、関川、五良津で採集できる鉱物目録を転載させていただいた。データが少し古く、現在ではさらに金雲母やコスモクロアなどの珍しい鉱物種も加わっているが、初めての方には充分、採集の参考になるだろう。日本でこれほど多彩な岩石・鉱物類を採集できる場所は他になく、オンファス輝石と藍晶石だけでも、天然記念物や“ジオパーク”の条件には充分当てはまると思うのだが、何も指定されることなく放置され荒れるに任せているのは全く信じられない事実である。日本列島創成の謎を解く大きな鍵は、関川の石の中に秘められていると小生は信じて疑わないのだが・・・