本で一番肝腎なのは、もちろん内容です。でも、いくら内容が良くても、読みにくくて、「もうこんなの読めない!」と読者に投げ出されてしまっては、本を出した意味がありません。最近よく聞く「壁投げ本」というのは駄作のことらしいですけど、内容が悪いからではなく、他の理由で読めないという本が存在するのは、ちょっと悲しい気がします。
たとえば、ぱっと本を開いたとき、文字の八〇パーセントくらいが漢字だとしたらどうでしょう。「研究紀要」など資料となるものや、人名や地名がたくさん出てくる歴史ものは仕方ないにしても、どうにかならないのかなあ、惜しいなあと思う本が世の中にはかなりあります。読者のために、もう少しやさしく噛み砕いて書いてあげれば、もっと興味や関心を持って読んでくれる人が増えるのにと、残念でならないのです。
これは、文章の書き方に関することですので、いずれ「文章講座」でも開くことがあれば、その時に解説したいと思いますが、編集的に読みやすい本というのは、どういう本でしょうか。
結論から言うと、文字主体の本なら、ゆったり組んだものです。「組む」というのが「はて、なんのことやら?」と思われるでしょうが、詳しくは後で説明するとして、要するに「見た目」といいましょうか、文字がどんな具合に並んでいるか、ということです。
ちなみに、皆さんが持っている本を何冊か開いてみてください。雑誌などを除き、文字を主体とする単行本はほとんど一段組みになっています。でも、昔の文学全集などは二段組みになっていたりして、しかも文字が小さいことも多いので、視力が衰えてきた読者にはちょっと読むのがキツイですよね。
それから、一ページに何行あるか、それも数えてみてください。本の大きさも関係しますから一概には言えないのですが、小説や随筆など、じっくりと文章を味わいながら読むものは、一六行程度になっていませんか? 多いものだと、二一〜二二行とかのもあります。言うまでもありませんが、行が少なければ少ないほど、行と行の間、つまり行間は広くなります。
では、すべて行間が広ければいいのかと言いますと、そうとも言えず、適当な行間でないと「間のびした感じ」「スカスカした感じ」になりかねません。短いセリフの多い小説なんかがそうですね。
本の内容や大きさに応じて、どれくらいの文字の大きさにするか、どれくらいの行間にするか、どんなフォント(書体)にするかを決めるのは、本を読んでもらう上でとても大切なことです。
それから、紙面で文字や写真などが配置されている部分を「版面(はんづら・はんめん)」と言い、上下左右の空いているところを「マージン」といいます。
よく見ると、上と下のマージンが違う高さになっているものがありませんか? 本には「ノンブル」と呼ばれるページ番号が振られますので、下の方を少し広くしてノンブルを置いたりすることもあります。なかには、ノンブルを左右に置いたり、上に置いたりするデザイン的に凝ったものもあり、それに合わせて高さや幅を変えている場合もあります。
内容にもよりますが、文章には読みやすい文字数というのもあり、私の場合、一行四〇字前後が好みです。それも、文字の大きさと、上下の空きによって決まるわけですね。
今は書体もたくさんの種類があり、レイアウト(写真やイラスト、文字の配置)もしゃれた感じにして本をつくる人がたくさんいます。私は、個人の方が本を出したいというときは、「打ち合わせのとき、ご自分の好きな本、こんなのにしたいと思う本を持ってきてくださいね」とお願いします。それを参考にしながら文字組みとか仕様(体裁)を決めると、比較的スムースに決まることが多い気がします。 |