装幀とは「本を綴じて表紙をつける作業」のことです。もう少し詳しく言うと、カバー、表紙、見返し、扉、帯、外箱などをデザインしたり、使用する紙の選定なども含めた造本の一連の工程を指します。
これには、よく「装幀」の文字が使われ、「装釘」「装丁」とも書きますので、なにか違いがあるのかと「広辞苑」で調べてみましたら、本来は、装い訂(さだ)める意の装訂が正しい用字で、「幀」というのは掛け物のことだとありました。だから書物の場合は「装釘」か「装丁」の字の方が正しいという人もいるそうで、必ずしも一定ではないようです。知りませんでしたねえ。こういう機会でもないと、なかなか知り得ないことです。
ところで当社には、ときに電話で出版に関する問い合わせをしてこられる人がいます。ほとんどは「出版するとしたら、どれくらい費用がかかりますか」というもので、開口一番、それを尋ねる方もいます。こちらが「ページ数とか、どれくらいの部数をつくるかにもよりますから」と答え、それとなく「原稿はもうできているんですか」と尋ねますと、たいていは「いや、まだ……」と、ちょっと照れたように声が小さくなります。きっと出版に夢ふくらませ、電話してこられたんでしょうね。具体的なことを言わなければ費用もわからないことに気づき、がっかりした感じで電話を切られます。
でも、たまに「まだ書いてないけど、大体でええんよ。ざっくり言ってどれくらい?」などと言われる威勢のいい方もいます。ざっくりなど答えようがないのでこちらも困ってしまうのですが、そういうとき思うのは、出版のことというのはほんとに一般の人に知られていないんだなあ、ということです。
たとえば、本づくりは家づくりに似ているとよくいわれますが、建築会社に「家つくるのにいくらかかる?」といきなり聞く人は、まずいません。二階建てなのか平屋なのか、材料を吟味した豪華な家にするのか、それともこぢんまりとした質素な家でいいのか、広さや部屋数はどれくらいか、内装や設備はどうするのかなどなど、一口に家といっても千差万別で、当然、それらによって費用も変わってくることは常識としてほとんどの人が知っています。それは本も同じで、どんな体裁(装幀)の本にするのかによって費用が変わるのです。
編集者は設計士?
編集の仕事は「企画」から始まる、とよく言われます。出版を漠然ととらえている人から、どんな本を、どんな目的で出したいのかを具体的に聞き、決めていくのです。いうなれば、建築設計をする人が施主さんの希望を聞いて、どんな家にしたらいいかを考え、設計をするのとよく似ています。
最初に決めるのは、本の大きさですかね。これを「判型」といいます。詳しい大きさについては、また別の機会にご説明したいと思いますが、本の種類によって使い分けることが多く、一般的に、文芸書・学術書・専門書・ビジネス書などの書籍にはA5判、B6判、四六判などがよく使われます。美術書、ムック、写真集、雑誌などはB5判やA4判が多く、週刊誌とかはほとんどがB5判です。ハンディーな本として知られる文庫本や辞書はA6判で、新書は規格外の判型です。
上にする? 並みにする?
本には製本の違いもあります。
製本とは、印刷物を糸や針金、接着剤などで綴じ、表紙をつけて一冊の本に仕上げる作業をいいます。製本の種類には、上製本と並製本があり、ハードカバー、ソフトカバーとも呼ばれます。文字通り、表紙の硬い軟らかいで区別します。鰻重(うなじゅう)ではないので、上だから良い、並だから悪いというわけではなく、それぞれの特徴を知って、自分がつくりたい本のイメージに合わせて製本を選べばいいのです。綴じ方も、糸かがりにしたり、接着剤で綴じたり、ホッチキスで綴じたりといろいろです。
用紙も、表紙カバー、見返し、本文用紙、帯などにいろいろな紙を使います。いつ見ても、いつ手にとっても、「いいなあ」と惚れ惚れするような本づくりをしようとすれば、デザインだけでなく、紙にも当然こだわりが出てくるはずです。
表紙カバーは〝本の顔〟
本は、内容や題(タイトル)も大事ですし、書店で売る場合は価格も売れ行きを左右する大事な要素です。でも、書店で本を手に取らせるパワーといえば、なんと言っても本の外見、印象を左右する「表紙カバー」です。
表紙カバーは、書店などで販売するとき表紙が傷んだりするため、交換できるように巻いたものです。ですから、紙の表面にフィルムを貼って光沢感を出し、より保存性も高めたものもあります。そのフィルムにもいろいろな種類があり、光沢感を出すクリアPP、マット感を出すマットPPがあります。
表紙カバーは、いうなれば〝本の顔〟で、内容を表すものでなければなりません。ですから私なども表紙カバーには結構こだわり、デザイナーさんにあれこれ注文をつけてきました。表紙案は最低でも、三案は出してもらいます。
売る本でなくても、表紙カバーにはつくる人のセンスが現れます。写真やイラストを入れず、タイトルと著者名の文字だけで勝負する本もあります。どんな書体で、どんな大きさにし、どこに配置するか、デザイン力が問われる方法です。
本体表紙というのは、カバーを剥いだときに現れる、本文をくるんだ厚手の紙を言います。カバーが巻かれていてほとんど目に触れることがないため、タイトルだけ印刷しとけばいいと簡単に考える人もいますが、見えないとこに凝る、という人ももちろんいます。カバーや表紙、見返し、別紙の本扉、帯などの紙質、色などが上品なデザイン(上品でなくてもいいですが)でうまくコーディネートされているのを見ると、「ああ、おしゃれ!」と感嘆してしまいます。
電子書籍が進むと、本はやがて美術工芸品になるのではないかと言う人もいますが、それはさておき、本をつくる過程で一番楽しいのは装幀を考えるときだと思います。それは家でもおんなじで、機能より、外観を考えるときの方が楽しいですよね? |