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指揮者自らの曲解説。文の長さは思い入れの強さでしょうか。

3rd STAGE

<曲目紹介>
▼アルルの女第一組曲、第二組曲よりファランドール  (G・ビゼー 作曲)
アルルの女は現在ではフルオーケストラ版の第一、第二組曲が有名ですが、原曲はドーデの原作に基づく戯曲の劇音楽として1872年に作曲されました。
サクソフォンを取り入れた曲としては歴史的にも価値がある曲です。この編成はおそらくビゼーが積極的に選んだのではなく上演当時の劇場のピットの大きさとかそのときに雇えたミュージシャンの都合などで決まったのでしょうが、その制約を乗り越えてむしろこの編成が必然であったような、見事なオーケストレーションとして仕上がっています。
そもそも作曲という作業は、楽器(または声)の機能的制約や、演奏するロケーションの空間的制約が必ず付きまとい、それを如何にクリアーしながら自己のイデオロギーを表現してゆくかが作曲家にとっていつも問題になるものです。
優れた作曲家はこうして与えられた《不自由》の中をかいくぐって自己の精神を解き放つ自由さを見つけたときほど優れた作品を書くのではないでしょうか。『アルルの女』はそういった意味でも優れた作品です。例えば、前奏曲の後半に現れるサクソフォンのテーマは、劇音楽の中にも弦楽四重奏で現れますが、無限旋律的なこのテーマは旋律の美しさ、和音の巧みさが聞く人の心を強く惹きつけます。このテーマの後ろでクラリネットが単調なテーマを複雑な転調にもかかわらず文字どおりオスティナート《執拗に》で繰り返すところは、和声的にもかなり大胆で、心を引き裂くような音楽を作り上げています。劇場的には当然何かを物語っているのでしょうが、そもそもこの戯曲の台本は紛失したまま現在に至っていると聞きますので、どういった場面でどの音楽が使われたかは残念ながら想像の域を出ません。
 戯曲の不成功をよそにビゼーは、前奏曲、メヌエット(あの有名なフルートとハープのそれではなくもう1曲の方)、アダージェット、カリヨンの4曲をコンサート用フルオーケストラに書き直し成功を博します。この書き直しは時代的な通例としてこういった編成にせざるを得なかった部分があるのではないかと思います。この書き直しによって得た名声の代わりに、この音楽の持っている本質的な凄さも、どこかで失われたような気がしてなりません。
 ビゼーはこの3年後の1875年にわずか36歳でこの世を去ります。第一組曲の成功に気を良くした出版社は、ギローに第二組曲の編曲を依頼し、ギローはビゼーの別のオペラからメヌエット(これが前述のメヌエット)を挿入するなどし、コンサート用の華やかな曲に仕上げます。しかしこの劇音楽全体が持っている悲劇性はこれと同時に失われてしまいます。とはいえ第一級の名曲だけに、こうして組曲だけが一人歩きするようになったのも頷けない訳ではないのですが。

▼シャコンヌ(無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ第2番より)
(J・S・バッハ作曲)
 「シャコンヌ」は16世紀末のスペインで発生した、特定の低音及び和声進行を繰り返すオスティナート・バスを用いた曲の呼称である。「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」とはJ・S・バッハの作曲した合計6曲の作品群を指し、古今のヴァイオリン独奏曲の中でも傑出した存在として知られている。
 「パルティータ第2番」は257小節に及ぶ長大な「シャコンヌ」を終曲に持ち、この曲集の頂点の一つを形成している。冒頭の4小節に現れる低音の主題が「シャコンヌ主題」であり、種々の変型を繰り返しながら(原曲では実に64回繰り返される)壮大な音の伽藍を組み立てて行く。
 今夜演奏する「シャコンヌ」は作曲者ラリー・デーンの言葉を借りればブゾーニによるピアノ編曲版から自由に題材を取り、吹奏楽用に再構成したものである。シャコンヌ主題は、冒頭と中間部と終結部にそれぞれ表情を変えて現れる。
 明るい音楽か?いや、ハッキリ言うと暗い。ただ、何か重い運命に抗うような、押さえても押さえ切れない激情のほとばしりは、実に魅力的である。嘆きも悲しみもつかの間の平安も、何もかもが変奏曲の一本の糸によって紡がれていく。バッハの音楽は常に真率であって、何処にもためらいがない。
 たった一人のヴァイオリン奏者による「シャコンヌ」も、今夜のように60人余りの大編成の吹奏楽で演奏される「シャコンヌ」も曲の本質において差はない。そこにはただ一つの音楽しか存在しないとは驚きである。

【追記】この曲は2年前の東高音楽部の定期演奏会(毎年3月開催)で、浜辺英夫先生の指揮によって演奏されました。筆者はその時以来「シャコンヌ」の魅力に取り付かれ、何時か自分の手でも演奏してみたいと思い続けて来ましたが、今回希望が実現することになって心より喜んでいます。当時の2年生がこの春の卒業生であり、今夜のステージにも多数参加してくれています。ただ、感謝あるのみです。




 


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