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夕凪、螢、向日葵、水母、短夜(好きな夏季語)

打楽器パート 森 美菜子(H28年卒)

じゃんけんで負けて螢に生まれたの (『空の庭』より)
 ピーマン切って中を明るくしてあげた (同上)
恋文の起承転転さくらんぼ (同上)

 初めて自分の本棚に置いた句集は池田澄子でした。買った日は一句ずつ指でなぞり、付箋を貼り、抱いて寝ました。柔らかで、愛に満ちていて、おちゃめで、けれど第三者として確固とした目を持っている俳句。初めは作者のことを何も知らずに俳句を楽しんでおりましたが年齢を知ってさらに好きになりました。
御年八十一歳とのこと! 俳句を始めたのも三十代半ばと少し遅めな彼女の、視点の持ちように惹かれました。
 いい俳句は読者に驚きと共感を与えてくれます。固定概念に囲まれて過ごす中、十七音で新しい世界の捉え方を教えてくれるところで私は俳句が好きです。
たとえば、文頭で紹介させていただいた螢の句について。なぜ「じゃんけん」で「負ける」と螢になったのでしょうか。和歌などにも記載されているように螢には恋のイメージが根強くあります。じゃんけんで負けたという偶然の産物として恋をしなければならない自分、恋の苦悩も前世のじゃんけんで負けたからかもしれませんね。一方で、恋とは関係なく命の短さについて解釈する人もいます。周囲を照らして魅了しつつも短い命を終える螢は、美しいと見られる一方で損な存在でもあるのです。じゃんけんという偶然によって螢の命の輝き、重み、はかなさが変わってくるように思います。現役の皆さんにも興味を持っていただけるように口語現代仮名遣いで作られた俳句を中心に選びました、いかがでしょうか(大物俳人にたいしてこんな未熟者が評を書いていいものなのか、汗が止まりません)。これを機に彼女のファンが一人でも増えると嬉しいです。

 「森さんの好きなようにしてください」
 またこっちでも言われるのか!なんて思いながら音萌会議に出席しました。大学や俳句甲子園でもこの言葉に悩まされました。「失敗したら?」「新しい発想が湧かないときは?」「また最近の若者は、って言われる?」何度も逃げ出したくなりました。各方面から色々とお仕事をいただくたびに、自分の計画性や実行力、発想力の無さに悩みましたし、恥ずかしながら涙を流す時もありました。好きなとはいえスケジュール帳の休日が吹奏楽や俳句で埋まっていくのを見て、何度も叫びたくなりました。そういったときに何度 先輩方に救われたかわかりません。
「若者ができないから大人が」ではなく「若者ができるように大人が」という姿勢でいつも背中にいてくださり、支えてくださったこと。忘れません、本当にありがとうございます。何代下の後輩にも伝えていけるよう私のペースでお仕事を覚えつつ、よりよい方向へ変えていけたらと思います。





 

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