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内容が薄いとのことで急遽足された原稿。本人の意思を尊重し無記名です。
「AとB」

 今年の春先、三月の定期演奏会が終わった時点で、東高吹奏楽部には48名の部員がいました。そして四月になって、ピカピカの一年生が34人も!合計82名の大所帯になりました。
 ところが、コンクールのA部門の出場制限は50人です。どんな名門校でも大規模校でも一律に50人です。そこで、32名もの一年生をどうするかという問題が勃発しました。例年ならコンクールに出られない一年生は、夏のこの演奏会まで野球応援くらいしかすることもなく、後は自主練習という名前の長いブランク、これはあまりに勿体ない、そこでB部門にも出る流れになったのはある意味で自然なことでした。
 方針は定まったものの、問題は山積しています。まず練習場、次に楽器、そしてトレーナーと、どれも初めての課題ですから、簡単なことではありませんでした。一度使命が終わって戸棚の奥に仕舞われていた古いホルンやサックスやクラリネットを引っ張り出し、OBや他校の打楽器を拝借に行き、AとB両方の練習場所を確保して、ということで、本格的な体制が整ったのはもう六月に入っていました。
 その頃、初めての一年生チームの合奏を聞きました。何しろ全員が一年生ですから、お互いに顔を見合わせて、誰かちゃんと吹いて‥‥ね‥‥どうする?という間に演奏が終わってしまった感じでした。これはいかに粘り腰の浜辺先生、熱血指導の酒井先生をもってしても難しいかも、と思っていたら、さすがに東高ですね、六月の終わり頃から、みるみるうちにアンサンブルが整って来ました。多分、この状況では自分たちで考えて練習しないとどうにもならないことが分かったのだろうと思います。
 AとB両方に出るか、どうするかという議論を部内でした時、賛否両論があったそうです。反対論の根拠はそれぞれ別の曲を練習することになるから、部員の一体感が失われるのではないかということでしたが、日に日に充実していく一年生バンドの音を聞いて、二三年生の表情が変わりました。これは、うかうか出来ないという顔でした。その一方で、一年生は自分たちのために練習場を空けてくれる上級生に感謝の念を抱きました。
 このようにして、一足先に本番を迎えたBチームは素晴らしい演奏をしてくれました。客席で聞いていた上級生たちがみんな泣いていたことが、何よりの証明です。今年の一年生は比較的経験者に恵まれましたが、中には高校へ入って音楽を始めたメンバーもいますし、他の楽器にコンバートされた奏者もいます。それでも、一つのチームとして一体感のある演奏が出来たことに拍手を送りたいと思います。
 AチームとBチームとは編成も違いますし、曲も対照的です。それなのに、市民会館のステージで響いたのは、どちらも紛れもなく「東高サウンド」でした。不思議でした。荒々しさや逞しさはこれから身に付けていくとしても、決して粗野にならない、歌心を大切にする演奏をこれからも受け継いでいって欲しいと願っています。





   
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