新居浜工業高等専門学校での講演から

   

(平成7年12月7日)
於新居浜工業高等専門学校
1.はじめに 2.タバコの恐ろしさ 3.タバコと健康障害 4.タバコ病 5.間接喫煙 6.おわりに

児童生徒の喫煙習慣予防教育は成人病の一次予防として最も効果的です!


1.はじめに

 本日は若い皆さんにタバコについてお話しさせていただくことになり大変喜んでおります。
 過日、新居浜高専ロボット研究会がドリ−ムタワ−大賞を獲得したと大きく報道されていましたが、関係者の皆さん、おめでとうございました。
 ご紹介の中にありましたように、私は新居浜生まれで、新制中学校を卒業するまでの15年間、黒島に住んでいました。 その頃は、皆さんの学校は今と同じ”新居浜高専”として親しまれていました。
 戦後のどさくさの時代、私の学んだ新制多喜浜中学校に高専出身の方が何人か臨時教員として赴任して来られました。 英語や数学、理科などを教えてくれたことを思い出します。 これらの先生方は、1ー2年の内にそれぞれ進学したり、新しい職場にと去って行かれましたが、残念ながらその後の消息は耳にしていません。
 学制改革により、高専は一時愛大工学部になった時期がありましたが、また高専となり、そんなことで、新しい”高専”でお話しできるのも、これも因縁だなと思っております。


2.テーマ”タバコの恐ろしさ−転ばぬ先の杖(進む)(戻る)


 さて、本日は”タバコの恐ろしさ−転ばぬ先の杖−”と題してしばらくお話しさせていただきますが、私の専門は小児科であります。 私はタバコ問題の専門家でも、今はやりの禁煙運動家でもありません。ただ、小児科専門医として、タバコの煙から子どもたち、若い人たちを守りたい、と言うだけのことです。


 タバコの煙から若い人たちを守ることが、将来の日本を救うことになる、と信じているからです。ちょっと大げさかも知れませんが。
 その理由は簡単です。
 タバコの煙には多くの有害物質が含まれており、それを毎日毎日吸い続けると、やがて成人になった時、タバコ病という恐ろしい病気に必ずなる、それを未然に防ぐことはそれほど難しいことではない、と信じているからです。


 オウムのサリン事件以来、今まで耳にしたことのなかったサリンが有毒物質であることは、小さな子どもでも知っています。 ところが、タバコの煙が有害である、言われるようになったのは随分昔のことですが、子どもたちはそのことを知らず、無神経な喫煙者は子どもたちの前で平気で有害な煙をまき散らしています。 
 これがタバコ公害と言われるゆえんであります。タバコの煙に含まれる有害物質は、考えようによればサリンと同じ有毒物質です。サリンのように猛毒で、少量吸うだけで死んでしまうことはありませんが、長い長い時間をかけて人体を蝕んでゆく毒物がタバコの煙の中に多く含まれています。
 このことを、ある専門家は、タバコは毒の缶詰であると言っておりますが、まさに至言であると思います。そのことについては、後程お話しいたします。


 皆さんは高齢社会という言葉を知っていらっしゃいますね。

 人口に占める高齢者の比率が高い社会を高齢社会と言います。みんなが長生きして、老後生活を健康で豊かに過ごすことができれば、言うことはありませが、今でさえ、高齢者対策が大きな社会問題になっており、今後高齢者の数が急速に増えて参りますと大変なことになります。 国全体でみますと、現在の壮年の方々の老後を誰が看るか言うと、今の児童生徒であり、学生の方々です。
 ところがです。問題は子どもの数が年々減ってきているということです。 
現在、二十歳(はたち)の人口はどれだけか知っておられる方は手を挙げてくださいませんか。時々、眠気ざましのために質問させていただきますが、あてずっぽうで結構です。お答えください。


 はい、180万人です。男女合わせてです。20年後には、これが120万人に減少します。確実に今の三分の二に減少いたします。なぜなら、最近1年間に産まれる子どもの数は、120万人に過ぎないからです。 
 最近は女性の結婚が段々遅くなる晩婚化と、結婚してもすぐには子どもを作らず、せいぜい1人か2人しか産まないため、少子化(子どもが少なくなる)は今後も進むと考えられます。このまま推移しますと、二十一世紀の初頭には超高齢社会に突入してしまいますね。若者が少なく、年寄の多い社会、つまり養われる人が多く、養う人が少ない社会が来るということです。大変な世の中になってしまいそうです。


 皆さんもやがて結婚されますが、結婚したら1人でも2人でも多く子どもを作ってくださいね。それも早くお願いしますね。これは冗談でもあり、本気でもあります。 
 この対策として、国も、若い人たちが子どもを産み、育てやすい環境づくりに積極的に取り組んでいますが、価値観の多様化した現代、おいそれとは行きません。 


 そこで小児科医の出番です。もともと、小児科医は、子どもの数そのものを増やしたり、調節したりすることはできません。 多く産まれようと、少なく産まれようと、産まれてきた子どもたちが1人でも多く健康に育ち、元気な若者に成長し、健康な青年、壮年になるように手を差し伸べるのが使命です。


3.タバコと健康障害(進む)(戻る)


 前置きが随分長くなりましたが、タバコの話に入らせていただきます。
 私が、タバコ問題に首を突っ込みましたのは、今から約10年ほど前の昭和61年(1986年)でした。当時、私は愛媛県医師会にある学校医の会の世話役をしていましたが、タバコによる健康障害が盛んに言われ出した時期でした。
 私はかねがね、タバコを吸う学校医や学校の先生が、学校で児童生徒にタバコの害を説いても十分効果が挙がらないのではないかと考えておりました。 
 そこで、学校医会のその年の事業計画のテーマとして、
 「喫煙と健康障害−学校保健関係者の意識変容をめざして−」を採り上げました。
 それ以来6年間に亘り、著名な学者を招いてタバコ問題に関する研修会を開いたり、各種の調査研究を次々と実施いたしました。(愛媛県医師会員約2000人を対象にした意識調査、愛媛県下の中学校23校、高等学校24校の児童生徒約1850人とそれぞれの保護者を対象にした意識調査、さらに、教師2400人を対象にした意識調査など) 

 その結果、児童生徒の喫煙習慣予防教育は、家庭、学校、地域が一体となって最優先に取り組まなければならない課題であるが、とりわけ、学校現場において、視聴覚教材などを用いて、喫煙と健康障害について教えることが最も効果的である、との結論に達しました。 


 そこで、平成2年に喫煙習慣予防教材、漫画本”たばこってなーに?”を作成しました。
最初はこのようなB5版でした。 
 これを県下のモデル小中学校などで2年間に亘り、実際に使っていただき、児童生徒や教師、それに保護者からもかなり反響がありました。これに意を強くして、それじゃ、この漫画本を県下の中学校1年生全員に無料で配布し、教材の一つとして毎年活用していただこうではないか、ということになりました。
 しかしながら、印刷原価が1冊90円しますので、県下の中学生2万人に配布すると180万円もかかります。 それで、平成5年9月、これの二分の一の縮小版を作りました。これならば、1冊20円でできます。 とは言いましても、毎年40万円、送料を含めますともっとかかりますので、医師会の中に”たばこってなーに?”基金を設け、医師会員や一般の方々からの寄付金などによって賄うことにしました。
 その際、ここに持って参りました”基金箱”を作製し、医療機関の窓口などに置いてもらい、患者さんなどから醵金をお願いしております。 
 本年7月、初めて県下の中学校1年生全員に無料でこれを配布しましたが、評判は予想以上に良いので、この調子で、来年以降も是非続けたいと思っております。


 昨年10月、本校の学校医である武田勝美先生が、この”たばこってな−に?”を1年,2年,3年生の数クラスの生徒さんに配布し、その読後感を書いて貰ったと言って見せてくれました。従って、一部の方々は、すでにお馴染みの漫画本ですね。 もう一つお配りしている資料は、私の属している愛媛県小児科医会の会報に掲載した巻頭言(たばこ戦争、狙いは子ども)のコピーです。 これからお話しする内容はほとんどこの資料に出ていますので、放課後のスポ−ツで疲れた方で、眠い人はどうぞご遠慮なくお休みください。


 さて、最近は、テレビなどでも知的なクイズ番組が多くなっております。 それに倣って、最初にクイズを差し上げます。眠気覚ましと思って答えてください。
@日本人成人男子の喫煙率は先進国で最高である。
A日本人の喫煙開始年齢は年々若くなっている。
B日本人女性の喫煙率は年々高くなってきている。
Cタバコに含まれるニコチンに発ガン性(ガンを起こす作用)がある。
D日本人の場合、タバコと最も関連の深いガンは肺ガンである 
Eタバコを吸っている人は狭心症や心筋梗塞で死亡する率が高 い。
F喫煙は老化を5年早める 
Gタバコを吸っている母親から産まれる子どもは巨大児(大きな子ども)が多い。
Hタバコの習慣性はニコチンの作用である。
Iタバコのテレビコマーシャルが許されているのは先進国では日本だけである。


 10問中5問以上正解の方は手を挙げてください。 5問以上正解の方には、私の話は少し物足りないかも知れませんが、暫くの間ご辛抱ください。 正解が3問以下の方は、これを機会にタバコ問題に関心を持っていただければ幸いです。 


今から申しあげる話は、ただ今のクイズに関連したものでありますが、大きく2つの柱に分けて進めさせていただきます。
●第1は、タバコの恐ろしさ、喫煙の恐ろしさの本体について 
●第2は、タバコ病について 
  お話しさせていただきます。


 タバコ(喫煙)は緩慢な(ゆっくりとした)自殺行為であるだけでなく、
慢性的な(急性・慢性の)他殺行為であり、
その最大の犠牲者は
無抵抗な胎児(お腹の中の赤ちゃん)や幼児である


 これは、川野正七という人の”恐るべきタバコ”という本の一節です。 私は、タバコと健康障害について、これほどセンセーショナルでしかも的を射た表現はないと考え、いつも紹介させていただいております。 
 また、アメリカの最も権威のあるJAMAという医学雑誌の論説にも次のような言葉が出ていました。


 タバコはあらゆる場所で毎日合法的な殺人を犯しているのと同然である。
罪を負うべきはタバコ耕作者に始まり、
タバコ会社はもちろん、
喫煙器具製造者、
広告を載せるマスメディア、
さらにタバコ会社がスポンサ−になりプレ−するスポ−ツマンにまで及ぶ。 


 こんなことを言いますと、「そんな馬鹿な」、「大げさな事を」と笑われるかも知れませんが、これを肯定する調査結果が次々と報告されております。 喫煙が喫煙者のみならず、その周囲の人たちの健康を害する悪習慣であることは、今日世間の常識になっております。
 一歩下がっても、タバコは身体に良くないことは今や常識になっていると言っても過言ではありますまい。 にも拘らず、一方ではタバコ礼賛者がおられまして、タバコは無害であるばかりでなく、有益である、タバコのない人生なんて考えられないと、言う人もいます。 実は、このことがタバコの恐ろしさを端的に示しているのであります。 


タバコの恐ろしさとは、一言で言いますと、その耽溺性(タバコに溺れる)にあります。 
別の言葉で言いますと、その依存性、習慣性、中毒性、にあります。 


 皆さんのご家庭のお父さまが、タバコを嗜んでいらっしゃる方はちょっと手を挙げてくださいませんか。 その方々は、きっとお若い時にタバコを吸い始めたと思いますが、当時はタバコが有害である、などとは殆ど言われていませんでした。 今頃になってタバコは身体に悪いと言われても、今更やめることなどできはしない、と言われる人が多いようです。 


 それは、タバコの耽溺性、依存性、習慣性、中毒性のためです。


 やめようにもやめられないのですね。 この耽溺性は、タバコに含まれるニコチンの所為でして、ニコチンの耽溺性、これはアルコールの6−7倍とも言われています。 そのため、ひとたび、タバコの味を覚えると、もう生涯に亘ってタバコを手放すことができなくなるのです。
 タバコの煙の中には、人体に有害な物質が2−3百種類含まれています。中でも皆さんよく知っているニコチン、タール、C0は悪の三役ですね。 
 このように有害物質を含むタバコを、自分の意思とは無関係に20年も30年も毎日吸わざるを得なくなる、これがタバコの恐ろしさなのです。 有害物質を少しずつでも毎日吸っていますと、やがてタバコ病と言われる色々な病気が出てくるのは誰が考えても分かることだと思います。 


タバコの恐ろしさのもう一つは、喫煙習慣の大多数が十代に始まるということです。


 未成年者の喫煙は法律で禁止されていますね。この法律は明治33年、1900年に施行され法律ですが、今も生きています。 皆さんの中にも、この法律を犯し、喫煙している人がかなりいるようですね。 もう、常習喫煙者になっている人は、自らを省みてください。
 恐らく、好奇心などからタバコに手を出し、気づいたときにはタバコの耽溺性のために、もう止めることができなくなっているのではないでしょうか。 
 皆さんはスポ−ツマン、チャンピオンという言葉から何を想像されますか。実は、これは外国のタバコの商品名の一つです。 たくましく、エネルギ−に満ちあふれた若者、人々に特別な夢を与えてくれるようなイメ−ジではないでしょうか。 
 もともと、タバコにはそんなイメ−ジは全くないのですね。むしろ、ダサイ、臭い、汚い、といったイメージですが、タバコの害が叫ばれるようになり、アメリカではタバコを吸う人が減ってしまいました。アメリカのタバコ産業はすべて株式会社です。株式会社というは、営利を追求するのが目的ですから、喫煙率の低下によるタバコの売り上げの低下は、会社の死活問題です。 
 そこで、子どもたちや女性を喫煙予備群と考え、なりふり構わず宣伝に躍起になっているのです。 アメリカ国内で売れないので、海外にその販路をのばし、日本もその標的に1つになっているのです。 
 東南アジア、特に中国、それに東欧諸国やアフリカなども標的になっています。 


 嘘か本当かわかりませんが、アメリカのあるタバコ会社が、ジェット機壱機分のタバコをアフリカのある村に無料で配り、村民を常習喫煙者に仕立てあげたという話があります。 
 日本でも、最近、外国タバコの売り上げが急増し、そのシェアは20%に達しております。 テレビのタバココマ−シャル1分間でタバコの売り上げが100万本増えると言われており、あの手この手の宣伝は実に恐ろしいばかりです。 その宣伝に若者たちはいつの間にかまんまと乗せられ、気付いたときはもう手遅れの常習喫煙者になっているという訳です。 


 先日、ある雑誌にこんな記事が出ていました。 外国のタバコ会社の幹部は誰もタバコを吸わないそうですね。


 「我々は、ただ作るだけさ。馬鹿な、おかしな奴が、それを買うのさ。」と。


 このように、喫煙習慣が十代に始まりますが、「十代の児童生徒や学生は、喫煙を続けることが良いか悪いかという正しい意思決定ができない。十代を過ぎてからでは、タバコの耽溺性のため、自由な意思決定ができない。」、これがタバコの恐ろしさの第2点です。
 以上のことから、喫煙という悪習慣に陥らせないように、子どもたちを今のうちから教育し、タバコにとにかく手を出さないように導くことが、私たち大人の責任ではないか、と私は心底から思っています。


4.それでは第2の柱のタバコ病についてお話しさせていただきます。(進む)(戻る)


 先程来、お話しして参りましたように、タバコの煙には2、3百種類の有毒物質が含まれています。タバコの煙には、主流煙と副流煙の2種類があることはご存知でしょう。 
 タバコの悪の横綱であるニコチン、タール、C0いずれをとってみても副流煙の方にこれらが多く含まれています。 ニコチン、タ−ルは2−3倍、COは4.7倍、その外、アンモニアは46倍、発がん物質のニトロサミンは52倍、ベンツビレン3.7倍などで、このように副流煙の方に有害物質が多く含まれていることは皆さんもうご承知のことと思います。
 ニコチンは、タバコの恐ろしさのところで述べましたように、タバコの耽溺性、依存性、習慣性の原因物質ですが、同時に血管を収縮させる作用があり、その結果血液の流れを悪くいたします。
 タールは”やに”のことですが、この中には多くの発ガン物質、ガンをを起こさせる物質が多く含まれています。
 今から約80年前の1915年に、山極勝三郎という学者が、石炭のタ−ル、つまりコ−ルタ−ルを兎の耳に塗り続け、世界で初めて人工的にがんを作ることに成功しました。ノーベル賞はその15年前の1901年に設けられていました。どうして受賞しなかったのかよく分かりませんが、これはがん医学の分野では世界的な大発見でした。 今では、このタバコタ−ルの成分が分析され、多くの発がん物質の存在が証明されています。

 タ−ルと言えば思い出すことがあります。 皆さんはかなり以前に、NHKの科学、娯楽番組でウルトラアイというのがあったことを覚えていませんか。山川アナウンサ−の担当であったのですが、覚えている人はちょっと手を挙げてください。 この山川アナウンサ−がその番組製作の一つとして、寿司屋でタバコの煙の実験をしました。 とろの握り寿司にタバコをふっと吹きかけ、特殊な顕微鏡で拡大してみますと、とろの表面にタ−ルの粒子がべったりとついていた、それ以後、寿司屋でタバコを吸っている人がいると、そのことを思い出し、気持ちが悪くて仕方がない、と何かに書いていました。

 

 C0は、ご承知のように炭火による一酸化炭中毒などでよく知られている物質で、血液中のヘモグロビンと結合し、酸素不足を招く物質です。 因みに、主流煙中のCO濃度は空気中の1万倍、1−4%(空気中:1−4PPM)も含まれています。 


 タバコの煙にはこの外にも多くの有害・有毒物質が含まれていますね。先程述べましたアンモニア、ニトロソアミン、ベンツピレン、さらにフェノ−ル、クレゾ−ル、ホルムアルデヒド、シアン化水素、ウレタンなど皆さんご存知の物質が多く含まれていますね。 従って、タバコを長く吸い続けるとこれらの有害、有毒物質のため色々な病気になるであろうことは、ちょっと考えればわかることです。 


 タバコと言うと肺がん、肺がんと言うとタバコと言われるくらいタバコと肺がんの関係が知られていますね。 若い皆さんにとっては、タバコを吸っていると肺がんにかかる恐れがあると言ってもピンと来ませんね。もともと、がんは壮年以降の病気ですから、他人事のように思うのは当然です。 


 ところが、若い皆さんにもタバコを吸うと直ぐに現れて来る由々しい症状があります。それを一般には自覚しないだけのことですけれどもね。 それは勉強の意欲を失わせ、物事への集中力を低下させることです。スポ−ツマンは、日頃からトレ−ニングに励み、筋力の向上などに努めていますが、タバコを吸うとその効果は減ってしまします。 その理由は簡単です。
 先程も述べましたように、タバコの煙には、ニコチンやC0が多く含まれていますが、これらは血管を収縮させたり、血液の流れを悪くします。その結果、脳や筋肉などへの酸素や栄養分の運搬効率が低下し、障害が出て来るのです。
 人間、特に若い人は、その障害を自覚しないだけですが、科学的な検査をしてみますと、喫煙者と非喫煙者では大きな差が出て来ます。 長い間には、それが目に見える症状として現れて来ます。 
よく知られているように、成人以降になると、脳梗塞、心筋梗塞、高血圧、動脈硬化などにかかる訳です。これらの病気で急死したり、半身不随になったり、言葉が全くしゃべれなくなったりしては大変ですね。


 最近の調査によりますと、30歳代の心臓病による急死者は殆ど喫煙者であるということです。また、
14歳以下で喫煙を開始し、常習喫煙者になった人は、50歳代に心筋梗塞などの心臓病で死ぬ人が、そうでない場合の10倍も多いことが分かっています。
 50代と言えば、人生の最も充実した時代ですが、そのときに急死しては大変です。タバコを吸わなければ、そんな恐ろしいことにはならないのです。 このことから、タバコは成人病の重大な危険因子として、児童生徒や学生にはタバコに手を出さないように、既に喫煙している人には禁煙を勧めている訳です。 
 それ以外にも、胃潰瘍や十二指潰瘍、その他、糖尿病や腎臓病などを悪化させたりして良いことは何一つありません。 また、若い人の気管支炎や気管支喘息の原因になったり、悪化の原因になったりもします。
 また、タバコは美容の敵でもあります。美容というと、直ぐ若い女性のことを考えますが、男性も同じことです。 タバコを吸っていますと、唇の色や歯の色が悪くなり、皮膚は弛んで来ますし、その上、いやな口臭、さらには衣服の臭いがひどくなります。全く、ダサイですね。


 成人になったとき、最も恐れられる病気はがんです。皆さんのご家庭やご親戚、近所の方で最近がんでなくなられた人はいませんか。


 先程も言いましたように、タバコというと肺ガンと言われるくらい有名ですが、確かに最近肺ガンにかかる人が急増して来ています。
 タバコが原因の全てではありませんが、肺ガンのうちのへん平上皮ガンとの因果関係は証明されております。 
へん平上皮ガンは肺門部、つまり気管が気管支に枝分かれするところで、胸のレントゲンを撮っても心臓と重なり、異常がわかりにくい部位の肺ガンです。
 喫煙本数と喫煙年数が関係すると言われており、1日50本以上のヘビースモーカーはタバコを吸わない人の30倍も肺がんにかかると言われています。


 ところで、タバコと最も関係の深いガンは喉頭ガンです。今ではタバコを吸う人だけが喉頭ガンになる、逆に吸わない人は殆ど喉頭ガンにはならない、と言われるくらいタバコと関係があるようです。


 その他、タバコは、舌ガン、食道ガン、胃ガン、肝臓ガン、大腸ガン、子宮ガン、膀胱ガンなど全てのガンと多少なりとも因果関係が認められています。恐ろしいことですね。 そんな馬鹿な、と言われるかも知れませんが、最近の研究によりますと、タバコを吸い続けますと、体内に活性酸素が大量に発生し、これが遺伝子、特にガン抑制遺伝子に作用し、ガンを発生させることがわかって参りました。 
 人間には生まれながらにして、ガンを発生させるガン遺伝子とそれを抑えるガン抑制遺伝子の両方を持っております。自動車のアクセルとブレ−キに譬えると分かりやすいと思います。 健康な人間では、アクセルとブレ−キが正常に作動していますが、タバコを吸い続けると、ブレ−キが故障し、自動車が暴走し事故を引き起こすのと同じようにがんが発生するということです。 人間の両方の遺伝子はうまくバランスがとれていて、若い間、つまり新車の間は、ガンは発生しないのですが、年をとるにつれて、中古車になるにつれて、そのバランスが崩れ、ガンが否応なしに発生してきます。 この遺伝子のバランスを崩す要因は色々ありますが、その大きな要因の一つがタバコということです。


 タバコとガンの発生との因果関係についてはこれくらいにいたしますが、人間はいずれ死にます。 びっくりされるかも知れませんが、4人のうち1人は必ずガンで死にます。二十一世紀の超高齢社会になりますと、3人に1人ががんで死ぬ時代が来るかも知れません。
 このように、タバコを吸うと、頭のてっぺんから足の先まで良いことはない、タバコには安全な吸い方だとか、安全な量などはない、ということです。 ただ、喫煙している人でも、禁煙しますと5年から10年もしますと、タバコを全然吸わない人と同じような状態にかえることが分かっておりますのが、せめてもの救いだな、と思っています。


.最後に、間接喫煙の害について述べさせていただきます。(進む)(戻る)


 先程も述べましたように、タバコには主流煙と副流煙があり、副流煙の方に有毒物質が多く含まれています。 
タバコを吸っている人のそばにいますと、否応なしに副流煙を吸わざるを得ません。自分自身はタバコを吸わないのに他人の鼻や口から出るタバコの煙、つまり副流煙を吸う、或いは吸わされると言った方が適切かも知れませんが、これを間接喫煙とか受動喫煙と呼んでいます。
 また、これを強制喫煙と表現している人もいるくらいです 副流煙は空気で薄まりますが、密閉した部屋や自動車の中などでは相当の量になります。特に、夫婦の場合、長い長い共同生活ですから、将来、かなりの影響が出ることを覚悟せねばなりません。 
喫煙者を夫に持つ妻の肺がん発生率は、そうでない人の2倍であることも、世界的に認められています。アメリカや日本でもそのことでタバコ会社が訴えられていますね。
 小さな子どもさんがいる家庭では深刻な問題です。気管支喘息や気管支炎の発生頻度が高く、病気になると治りにくいことも分かっています。


 最近、若い女性の喫煙者が多くなりましたが、これは社会的にも大問題です。本人はもちろんのこと、結婚し、妊娠した場合、胎児への影響が必ず出て参ります。流産や早産、それに体重の少ない子どもが生まれることは証明済みです。


6.おわりに (戻る)


 以上で私の話は終わりますが、最初にご紹介しましたように、喫煙は本人にとっては、ゆっくりとした自殺行為であり、他人に対しては無意識的な他殺行為であります。


 ”転ばぬ先の杖”という格言の意味を今一度考え、これからの夢多き人生を、健康で心豊かに、精一杯生き抜いて行かれますよう心から期待して、私のつたない話を終わらせていただきます。


はじめに戻る
禁煙医師連盟へ
スクラップ帳6へ
マナベ小児科ホームページに戻る