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最近の練習風景から               

47卒 井手浩一


その@ 東高へ行って第二教棟の中へ入ると、まずハ○プ(もう伏せ字にする必要もないのですが)が目に入ります。去年の六月に初めて届いた時には大騒ぎで、わたしも野次馬になって見に行きましたが、今は当たり前のように辺りの風景に溶け込んでいます。
そのA パーカッションの窪田くん(心優しい空手少年)と「今日も薄着で元気やなあ」「ボクは若いですから」と軽くジャブの応酬をして東へ進むと、ユーフォニアムの上級生の二人と接近遭遇します。いつも仲が良くて、元気一杯です。ある日「イデさん、色気を出すにはどうしたらいいですか?」と尋ねられました。思わずギクッとして「高校生の間はそんなものは出さなくていい」と言ってしまいました。彼女(どっちが言ったかは秘密です)はただ「音楽に色気を出すためには‥‥」と言いたかったらしいのですが。
そのB 更に東へ行くとコントラバスの山中さんに出会います。わたしは未だに千瀬さんと澪さんの区別が付きません。特に楽器を持ってない時は、まるっきり駄目です。先日もテナーサックスの澪さんに注文を出そうと思ったら「この人はどっちかな?」と迷って、そのうちに目の前を通り過ぎられてしまいました。 
そのC 一階の東の端はトロンボーンです。大抵は川原美緒さんと立ち話をします。わたしは彼女を尊敬しています。いつも自然体で明るくて、それでいて思慮があります。ついこの間も「想いが深い」とはこういうことを指すんだというスピーチを聞かせて貰いました。あの涙もろい彼女が(バルトークの時の千羽鶴事件、憶えてますか?)ぐっと感情を押さえて一つ一つ言葉を選んで、でもこれだけは言っておきたい!という気持ちが伝わって来ました。唯一の欠点?は携帯電話の声がとても大きい(耳からかなり離して会話をします)ことかな。それも、彼女の部活にかける情熱の表れのような気がします。
そのD 二階へ上がってすぐの二枚リードの部屋で、ピヨさん(今村早希さん)にご挨拶をします。何故かというと、彼女のこともやはり尊敬しているからです。良く酒井先生と話すのですが、彼女の音楽知識はもう高校生のレベルじゃありませんね。現在の吹奏楽部の理論的支柱です。こんなことを書くと後で抗議される(すごくシャイな性格の持ち主です)かもしれませんが、思った通りを書いています。彼女も、普段は至って天真爛漫なごく普通の高校生に思えます。それがオーボエを構えると雰囲気が一変します。
そのE 階段を上がっている最中からラッパの音がします。「今日もハイドンかあ‥‥」とか思いながら脚を運びます。房田祥嗣くんは典型的な吹きたがりです。浜辺先生が「そこちょっとラッパ押さえて」と言われると、途端に顔がシュンとします。実に分かりやすい男です。対照的に、もう一人の三年生の竹田宗一郎くんは、ラッパ吹きにしておくのは勿体ないくらい(ジョークですよ)謙虚で控え目で、房田くんと足して二で割ったら丁度良い気がします。でも、どちらもすごく真面目です。
そのF 最近は定期的にホルンのところへ通っています。わたしは奏法のことは分かりませんが、ひたすら基本的なことを言い続けています。曰く、四分音符や八分音符の長さを守れ、音は楽譜の指定通りにまっすぐ出せ。木村琴美さんや保木ふみさんとも、二年生たちとも少しずつ話が出来るようになりました。「この八度の跳躍は難しいのかな?」とか馬鹿なことを尋ねながらパート練習をしています。難しいに決まってますよね。それを分かっていて「もっとちゃんと吹け」と言うのには勇気が必要ですが、「英雄の生涯」には欠かせない音だと思うと妥協は出来ません。わたしの無茶な要求にも何一つ不平を言わない(言えない?)彼女たちには深く感謝しています。
そのG クラリネットは現在(六月まで)は本館の四階で練習しているので、第二教棟を西へ縦断して上に行きます。なだらかな半音階の音を聴くとホッとします。自分はやっぱり木管楽器の人間だなと思います。気が許せる分強引に振る舞うことも多く、三年生には辛くあたってしまいます。山内綾乃さんは好奇心一杯で人なつこくって、極端に涙もろくて、池内絢香さんもすぐに目元を赤くするタイプで‥‥というか感情が豊かです。彼女がまだ東高に入学する前にカンダ先生から「今度すごくハートの良い子が行くからね!」と言われてましたが、その通りでした。パートリーダーの菊池理乃さんも、いつもはおっとりしているのにいざとなるとシャキッとして‥‥その後で素に戻ると、後の二人と同じように涙もろい女の子です。そんな素直な彼女たちに、この間はひどいことを言いました。あの時のわたしは確信犯でした。これで嫌われてもいいと思っていました。今はまだ、あやまりません。スケジュールが全て終わった時に、気持ちを話そうと思っています。
そのH 練習が終わる頃になると、第二教棟へ引き返して一階に降ります。ユーフォニアムの増田七恵さんと暫く話をしてから、車に乗ります。今日の練習の感想、このフレーズはどう吹くべきか、「英雄の生涯」はカラヤン/ウィーン・フィルが良い、いやチェリビダッケとシュトゥットガルト放送響もなかなか‥‥なんて話をします。彼女も一見ごく普通の女の子のように思えます。半端じゃないのは、そのひたむきな気持ちです。まだ知らない音楽なら何でも聴いてやろうという、強い意思を感じます。

 わたしは、彼らの作る音楽が聴きたいのです。単にコンクールの勝ち負けという次元でなく、これからこの世に生まれ出ようとしている音楽を、傍に居て聴いてみたいのです。本番に乗る演奏だけを聴く気持ちはありません。音楽作りの最初から最後まで、その一部始終を見届けたいのです。「一緒に普門館へ行こうな」と言った以上、出来る限りのことをするつもりです。自分の専門外のホルンだろうが何だろうが、気になる音には厳しく注文を付けます。冷静に考えれば、ハードルはまだ随分高いところにあります。まずフレーズの長さ(途中で息が切れる)、音の響き方(弱音の芯が薄い)、そしてリズム(音符の基本的な長さが揃わない)。R.シュトラウスは、容易にはシッポを掴ませないと思います。でも、やってみようと思わなければ何も始まりません。
 増田さんから音萌の演奏会で指揮をしたいんです‥‥という申し出を受けた時に、よしやってみようと思いました。彼女には指揮の経験はありませんが、その代わりに、耳に触れる音楽全てを自分のものにする柔軟性があります。今の増田さんを衝き動かしているのは、未知の世界に対する強い憧れだと思います。それが何処からやって来たのかは‥‥分析したって仕方ありません。憧れは感情であって、理屈じゃないですから。
 現役とOBは車の両輪です。両方の力が揃って初めて、東高の吹奏楽に新しい世界が開けるように思います。まず夏のコンクールで素晴らしい演奏を聞かせて貰いたい、全国に散らばっているOBが「これが俺たちの後輩だぞ!」と胸を張れる演奏をして欲しいと思います。増田さんはコンクールも演奏会も、きっと立派にやってくれますよ。彼女は、いつだって全力投球の女の子ですから。十七歳の夏のファースト・ステージを、心から祝福したいと思っています。





  
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