前立腺癌 抗アンドロゲン療法で心疾患死リスクが増大[2007年12月27日 (VOL.40 NO.52)]
ハーバード大学(ボストン)のHenry Tsai博士らは,限局性前立腺癌に対する抗アンドロゲン療法は心疾患死リスクの増大に関係しているとする研究結果を,Journal
of the National Cancer Institute(JNCI,2007; 99:1516-1524)に発表した。
前立腺摘除で有意に増大
抗アンドロゲン療法は高リスクの限局性前立腺癌の治療にしばしば適用される。これまでの研究から,同療法と外照射放射線療法の併用は,進行した局所前立腺癌患者の余命を延長することが示唆されたが,同時に,同療法の施行がメタボリックシンドロームの発症,ひいては
2 型糖尿病や冠動脈疾患リスクの増大につながることも示されている。Tsai博士らは,限局性前立腺癌に対する抗アンドロゲン療法を施行した患者群で心疾患死リスクが増大するか否かを検討するため,前立腺摘除術施行患者3,262例,外部照射放射線療法または凍結療法施行患者1,630例のデータを収集・解析した。このうち約1,000例で抗アンドロゲン療法が併用されていた。中央値で約
4 年の追跡期間中に131例が心疾患で死亡した。心疾患死リスクの増大と相関していた因子は抗アンドロゲン療法と高齢であった。前立腺摘除術を施行された65歳以上の患者では,抗アンドロゲン療法を併用しなかった場合の心疾患関連
5 年死亡率が 2 %であったのに対し,併用した場合は5.5%であった。一方,65歳未満では死亡率はそれぞれ1.2%,3.6%であった。また,放射線療法または凍結療法と抗アンドロゲン療法を併用した患者群でも心疾患死リスクは増大したが,統計学的に有意ではなかった。同博士は「今回の知見は,抗アンドロゲン療法は心血管死に寄与しうるとした見解を支持するもので,限局性前立腺癌患者に対し同療法を開始する前に慎重な心血管系スクリーニングと介入を行うことの重要性を強調している」と述べている。
ランダム化試験による検討必要
ブルークロス・ブルーシールド(シカゴ)のJerome Seidenfeld博士らは,JNCIの付随論評(2007; 99: 1498-1499)で「今回の研究デザインは,抗アンドロゲン療法が心疾患死を増大させるか否かに関して結論を下すには難がある。同療法が前立腺摘除患者にのみこうした影響を与え,放射線療法などの他の治療を施行された患者には与えないということはありそうもない」と指摘している。 また,同博士は「Tsai博士らの論文は興味深い仮説を提示してはいるものの,患者と臨床医は抗アンドロゲン療法施行に伴う心疾患死に関して,後ろ向き解析でなくランダム化試験に基づくより正確なリスク評価を必要とする」と述べている。
限局性前立腺癌 抗アンドロゲン療法に癌転移促進の可能性 [2007年12月20日 (VOL.40 NO.51) ]
ジョンズホプキンス大学(ボルティモア)病理学・泌尿器科学・腫瘍学のDavid Berman助教授らは,前立腺癌に対する標準治療である抗アンドロゲン療法により,中間径フィラメント蛋白質の
1 種であるネスチンの発現が亢進し,前立腺癌細胞の全身への転移が促進される可能性が示唆されたと,Cancer Research(2007; 67:
9199-9206)に発表した。
有効性を否定する知見ではない
前立腺癌はきわめて悪性化することもあるが,今回の知見をもとに,将来的には抗アンドロゲン療法の適応が変更される可能性がある。しかし,Berman助教授は「現段階で同療法を中止するのは時期尚早であり,前立腺癌の増殖遅延に有効であることに変わりはない」と強調している。同助教授らは,実験室で培養したヒト前立腺癌細胞でネスチンをコードする遺伝子が活性化されることを発見し,テストステロン抑制療法にはこれまで疑われもしなかった問題が存在しうることを見出した。In
vivoの前立腺癌細胞でもネスチンが産生されるのかという疑問に興味を持った同助教授らは,手術によって摘出した限局性前立腺癌組織を分析したが,ネスチン遺伝子の発現は認められなかった。しかし,癌が腺外に転移して死亡した患者の癌組織を分析したところ,ネスチン遺伝子の著明な活性化が認められた。同助教授は,両者の相違は抗アンドロゲン療法は通常前立腺癌の悪性度が高くなって転移の可能性が高まった場合にのみ,施行される点にあると推測した。
増殖ではなく転移を促進
前立腺癌の増殖は一般的にテストステロンにより促進されるため,テストステロンの分泌を抑制することで増殖を遅らせて病勢を弱めることができるとされている。Berman助教授によると,前立腺癌の転移により死亡が予期される患者では,ほぼ全例に同療法が施行される。しかし,同助教授らは,アンドロゲンの除去がネスチンの発現にも影響するのではないかと推測。そこで,アンドロゲン依存性の前立腺癌細胞株において,培地中のアンドロゲンを除去する実験を行った結果,ネスチンの産生が増大した。以前から,ネスチン遺伝子が細胞増殖と成長に関与していることが示唆されていたことから,同助教授らはRNA干渉という技術を用いてネスチン遺伝子の発現を減少させたところ,癌細胞は正常なネスチンレベルの細胞とほぼ同様に,他の細胞の周囲を移動したり,他の細胞内に浸潤する能力を失った。また,ネスチン発現を阻害した前立腺癌細胞をマウスに移植したところ,通常の前立腺癌細胞と比べて他の組織への移動が減少した。ただし,これら一連の実験で,ネスチン発現は転移に関して中心的な役割を果たしているようではあるものの,腫瘍増殖には影響していないように思われた。同助教授は「今回の知見から,前立腺癌細胞からアンドロゲンを除去するとネスチンレベルが上昇し,癌細胞の転移が促進される可能性が示唆される」と述べている。今回の研究は米国立衛生研究所(NIH),米国立癌研究所(NCI),Evensen
Family財団,ドイツ癌助成財団の助成を受けた。共同研究者は同大学のWolfram Kleeberger,G. Steven Bova,Matthew
E. Nielsen,Mehsati Herawi,Ai-Ying Chuang,Jonathan I. Epsteinの各博士。
乳癌治療薬が前立腺癌に有効 放射線治療の効果を増強[2007年12月6日 (VOL.40 NO.49)]
ニューサウスウェールズ大学(UNSW,シドニー)の研究者らとプリンスオブウェールズ病院(ランドウィック)のPamela J. Russell教授らは,乳癌治療に広く用いられている癌治療薬は,前立腺癌に対する放射線治療の効果を増強するとの基礎研究結果をProstate(2007;
67: 1630-1640)に発表した。
放射線療法への感受性が上昇
Russell教授らは,ヒト前立腺癌細胞に対するパクリタキセルの前処置が放射線照射の効果に及ぼす影響を検討した。その結果,癌細胞に対する放射線照射単独の増殖抑制効果は,パクリタキセル前処置によって有意に増強された。同教授は「あらかじめ乳癌治療薬を投与することにより,放射線治療に対する前立腺癌細胞の感受性が高くなることを見出した」と述べている。さらに同教授は,抗乳癌薬の投与時期と投与量の重要性も認められたとし,「追加毒性の発生率を低くするため,できる限り低用量を用いたところ,きわめて良好な結果が得られた」と付け加えている。共同研究者で同大学放射線腫瘍学のChris
Milross准教授は「最終的に,われわれは前立腺癌に対するよりよい治療法を探求しており,こうした治療法が臨床試験で検討されることを期待している」と述べている。筆頭研究者で同大学内科のAn
Ling Zhang博士は「今回のデータから,癌抑制遺伝子p53の状態とは無関係に,すべての前立腺癌細胞系で効果が認められたことは特に興味深い」と述べた。ヒトの癌において最も多く変異している遺伝子の
1 つであるp53遺伝子は,癌治療に対する反応性の重要な決定因子とされている。今回の研究は,動物モデルを用いてヒト前立腺癌細胞系で行われた。
再発率高いが悪性度は白人と同等 アフリカ系米国人の前立腺癌[2007年11月29日 (VOL.40 NO.48)]
デューク大学(ダーラム)前立腺センターのStephen Freedland博士らは,アフリカ系米国人は前立腺癌治療後の再発率が高いが,再発癌の悪性度に関しては白人と同程度であるとCancer(2007;
110: 2202-2209)に発表した。
術後の再発率が28%高い
前立腺癌の再発診断法の 1 つに,生物マーカーである血中前立腺特異抗原(PSA)値を測定し,癌の生化学的再発(PSA再発)を調べる方法がある。研究責任者のFreedland博士らは,1988~2006年にShared
Equal Access Regional CancerHospital(SEARCH)データベースにデータを提供している 5 施設で根治的前立腺癌摘除術を受けた白人男性953例とアフリカ系米国人男性659例の医療記録を解析。手術から再発までの期間と血中PSA値から人種との関係を検討した。筆頭研究者で同大学の特別研究員として今回の研究に参加したトロント大学(カナダ・トロント)泌尿器科研修医のRobertHamilton博士は「アフリカ系米国人では再発率が28%高かったが,再発患者のみを比較した場合,癌の悪性度は人種に関係なく同等であった」と述べている。Freedland博士は「今回の研究では,アフリカ系米国人においてPSA再発リスクが若干高いことがわかった。ただし,再発癌の悪性度に関しては,白人と同等であったため勇気付けられた」と述べている。さらに,アフリカ系米国人は,前立腺癌の初回診断時の年齢が低いにもかかわらず,PSA値が高いという傾向もわかった。博士は「このことは,アフリカ系米国人に前立腺疾患の遺伝的・生物学的素因があることを示唆しており,前立腺癌スクリーニング開始年齢を引き下げ,回数を増やす必要があることを示している」と指摘している。
遺伝的人種差に着目が必要
Freedland博士は「今回の研究は,アフリカ系米国人は治療後の再発率が高いことを示唆しており,スクリーニングの改良と癌の早期発見を促進する必要性を指摘している。以前の研究では,アフリカ系米国人男性は診断時に他の人種よりも悪性癌の傾向が高いことが示されており,病期がより進行してから発見されることが示唆されていた」と付言している。スクリーニング技術が以前よりも進歩したのは確かであるが,同博士は「今回の知見は,遺伝的・生物学的な人種差に着目して,予防・治療法をさらに発展させるための努力の基礎となるものである」と述べている。今回の研究は,米国防総省,前立腺癌研究プログラム,米復員軍人局,米国立衛生研究所(NIH),ジョージア癌連合,米国泌尿器学会基金の助成を受けた。また,今回の研究には,カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のWilliam
Aronson教授,スタンフォード大学(カリフォルニア州スタンフォード)のJoseph Presti教授,ジョージア医科大学(ジョージア州オーガスタ)のMartha
Terris教授,カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)のChristopher Kane准教授,アラバマ大学(アラバマ州バーミングハム)のChristopherAmling教授が参加している。研究者らは全員,提携復員軍人局病院での職務を兼任している。
東京女子医科大学「前立腺腫瘍センター」が開設1周年[2007年11月22日 (VOL.40 NO.47) ]
東京女子医科大学は,「前立腺腫瘍センター」の開設 1 周年を期に,メディアセミナーを開催した。同センターは,診療科の枠を越え,患者の年齢,ライフスタイルに合わせた最適な前立腺癌治療を目指して昨年11月オープン。患者が納得できる治療が受けられる先進的な取り組みが注目されている。
豊富な治療選択肢を提供
前立腺癌の患者数は著しく増加傾向にある。日本では十数年後には男性の癌のうち,肺癌に次いで 2 番目に多くなると予想されている。前立腺癌は他の癌に比べて,治療の選択肢が多岐にわたっている。手術療法,放射線療法,化学療法,
内分泌(ホルモン)療法,経過観察などオプションが多彩となっている。また,患者から男性機能を損なわない治療の要望などが出される場合も少なくない。こうした状況のなか,前立腺癌患者にとって最適かつバランスの取れた総合的な診断・治療を行うことを目指して,
2006年11月に同センターは開設された。同センターの永井厚志院長は「多面性のある前立腺癌治療では,診療科の垣根を越えて各専門医が治療方針を検討・協議し,患者にとって最適な治療法を提示することが大切」と開設の意図を述べた。
患者の年齢やライフスタイル,希望に沿った治療法を提示
また,同大学泌尿器科学の田邉一成主任教授は,泌尿器科と放射線科という異なる診療科同士がコラボレートして得られる治療メリットについて,「早期前立腺癌であれば,患者は泌尿器科で手術療法(開腹手術,腹腔鏡下手術),内分泌療法,化学療法などを,放射線科ではさまざまな放射線療法を選ぶことができる」とした。しかし,多彩な治療法が完備している施設は数少ないのが実状。手術あるいは放射線治療が全体の
8 割を占める病院もあり,患者の満足する治療が受けられないこともあるのが現状という。
両診療科が患者をサポート
同センターは,そのような状況を打開するために先進的な取り組みを始めている。同センターの診断までの流れは次の通りである。(1)前立腺癌の疑いのある患者,あるいはセカンドオピニオンを求める患者は泌尿器科の外来を受診し,病理科で精密検査により確定診断を受ける(2)確定診断後,泌尿器科,放射線科(診断部および治療部),病理科の各専門医がカンファレンスを行い,癌の悪性度,進行度,年齢,ライフスタイルを考慮して検討・協議,「ベストオプション」を決定する(3)その後,患者には泌尿器科,放射線治療部門それぞれの診療科を受診してもらい,治療法についての説明を受ける。そして,最適な治療法が提案され,患者との話し合いで最終決定される。「こうした異なる診療科同士の共同作業が非常に重要」という。両診療科のコラボレーションは治療にも及ぶ。例えば,放射線治療中に尿が詰まる,血尿が出るなどといった合併症が起これば,泌尿器科が治療を担う。このように,患者の診療は常に両診療科の支援下で行われる体制が取られている。
手術は腹腔鏡下を推奨
田邉教授は手術の功罪について,「利点としては,癌を完全に切除することで後顧の憂えがなく,合併症も起こりにくい。また,神経が温存できれば男性機能の温存も可能だ。欠点としては非常にまれな例だが,括約筋の近くの切除により尿失禁が起こりうる,癌が広範囲の場合,神経ごと切除しなければならず,男性機能が損なわれることが挙げられる」と述べた。手術法には,開腹手術,腹腔鏡下手術の
2 通りがあるが,同教授が勧めるのは腹腔鏡下手術。「腹腔鏡は出血が少量で輸血の必要がほとんどない。また,カメラを身体の内部に入れて行うので,視野がよい。退院も開腹に比べてはるかに早く,術後
4,5日で退院できる」と言う。
優れた強度変調放射線治療
同大学放射線医学の三橋紀夫主任教授は,同センターの前立腺癌の放射線治療の詳細について次のように述べた。
放射線治療の利点については,(1)切らずに高い治癒率が期待できる(2)高齢患者でも安全に行える(3)「外部照射」は通院で治療が可能(4)前立腺癌の状態や患者の希望により選択肢があるとした。欠点については,前立腺の近くにある膀胱や直腸へも放射線が照射され障害が起こりやすいという。治療後半年ないしは
1 年たってから膀胱や直腸の出血が起こる慢性の放射線障害もあるという。そのため,前立腺癌に放射線を正確に集中させる点が重要。放射線治療には大きく「外部照射」の「
3 次元原体照射」と「強度変調放射線治療」,そして「小線源治療」(「放射性ヨウ素永久挿入術」と「高線量率組織内照射」)に分かれる。同センターではこれらのすべての治療が可能であり,進行度,年齢(放射線治療は身体への負担が少ないので高齢者向き),治療期間や入院が可能か否か(外部照射は通院治療が可能なため),費用(一部,先進医療になるため高額)などを勘案し,患者に方法を選択してもらうという。
2 種類の外部照射法のうち現在,前立腺癌に対して最も優れた治療法は強度変調放射線治療という。まず初めにX線写真を撮影し,前立腺の位置を確認する。この写真をコンピュータに入力。このデータに基づいて治療が始まる。「リニアック(直線加速器)」という治療機器を使って放射線治療を行う。「強度変調放射線治療(IMRT)」は「マルチリーフコリメータ」を使うことで,放射線を患者に照射中でも,数ミリという細かな範囲で照射量を変えることができる。これで,目標箇所に選択的に照射が集中できる。すなわち,膀胱や直腸への照射をできる限り避けることが可能である。しかし,欠点は治療期間。通院で
1 日おき,6 ~ 7 週間外来に通う必要がある。一方,2 ~ 3 日の入院で前立腺全摘手術と同等の高い治療結果が得られるのが「放射性ヨウ素永久挿入術」だ。これは長さ約4.5mm,幅約
1 mmの線源(ヨウ素125)を純チタン製カプセルに入れて,前立腺に80~100個永久的に埋め込むもの。低~中リスクの癌に適用する。また,「高線量率組織内照射」は外部照射の期間を
5 週間に短縮できる方法だ。イリジウムという強い線源をマイクロセレクトロンという装置で一時的に前立腺に挿入し照射するというもので,中~高リスクの癌に適用する。しかし,こうした放射線治療を行う専門医の数が非常に少ないのが現実。「このセンターのようにすべてのオプションがそろい,治療医もそれなりにいる病院はかなり少ない」とし,前立腺腫瘍センターの存在意義を強調した。
限局性前立腺癌の長期生存率は手術療法が最も良好(海外の主要医学誌から)[2007年11月1日 (VOL.40 NO.44) ]
限局性前立腺癌に対する治療法で長期の前立腺癌特異的生存率が最も優れているのは手術療法であると,スイスのグループがArchives of Internal
Medicineの10月 8 日号に発表した。限局性前立腺癌に対していずれの治療法が最善の長期予後をもたらすかは確立されていないため,明確なガイドラインはない。この研究の対象は,1989~98年に限局性前立腺癌と診断された844例。治療法の内訳は前立腺全摘除術158例,放射線療法205例,慎重な経過観察(watchful
waiting;WW)378例,ホルモン療法72例,その他の治療31例であった。
治療選択肢による短期( 5 年間)の前立腺癌特異的死亡率への影響は小さかった。しかし,長期への影響は大きく,10年間の前立腺癌特異的生存率は手術療法群83%,放射線療法群75%,WW群72%で,手術療法群が最も優れていた(P<0.001)。手術療法群と比べて,放射線療法群およびWW群では10年時点の前立腺癌による死亡リスクがそれぞれ2.3倍,2.0倍高かった。
放射線療法とWWに関連した死亡率の上昇は,おもに70歳未満の比較的若年の患者と低分化型癌(Gleasonスコア 7 以上)の患者で観察された。ホルモン療法単独群では,既に
5 年目で前立腺癌特異的死亡率が有意に上昇していた(ハザード比3.5)。この研究ではまた,比較的若年の患者と低分化型癌の患者が,手術により長期の前立腺癌特異的生存が得られる確率が最も高いことが示された。Merglen
A, et al. Arch Intern Med 2007; 167: 1944-1950.
前立腺癌の診断件数が急増 "積極的な監視"の継続が必要[2007年10月25日 (VOL.40 NO.43) ]
前立腺癌と診断される患者の数は,ここ数年間で急増している。しかし,こうして発見される腫瘍の重要性については必ずしも明らかになっていない。そもそも前立腺癌スクリーニングの実施は必要なのか,また,検査結果をどのように活用すべきなのか,これらの点について,エラスムス大学(オランダ・ロッテルダム)のChris
Bangma教授は,欧州泌尿器科学会の第22回年次集会で報告した。
3 割では症状発現もない
欧州 8 か国(ベルギー,オランダ,スペイン,イタリア,フランス,フィンランド,スウェーデン,スイス)で実施されたERSPC(European
ran-domised study of screening for prostate cancer)では,男性22万人のデータが検討され,最長で
8 年間に及ぶ個別追跡調査が行われた。その結果,(1)前立腺特異抗原(PSA)値が1 ng/mL未満であれば,スクリーニングを目的とした次のPSA検査は
5年以上の間隔を空けてよい(2)スクリーニングで発見された腫瘍の半数以上は生命を危険にさらすことはなく,3 割以上は症状発現もない(3)早期発見された腫瘍に"積極的な監視(active
surveillance)"を行った場合,腫瘍が進行して転移を生じるリスクは約 2%である―などが明らかになった。
ERSPCを引き継ぐ目的で設立されたプロジェクト"PRIAS(Prostate cancer research international;
Active surveillance)"では,患者に対する積極的な監視を継続するとともに,医師と患者の積極的な参加を呼びかけている。PRIASへの参加条件は,組織学的に前立腺癌が確認されており,PSA値が10ng/mL未満であることとされている。このほか,経過監視を目的としたアルゴリズムも提案され,3
か月間隔でのPSA検査,6 か月間隔での直腸指診,1,4,7年後の生検が推奨されているが,最終的には低侵襲の小さな前立腺癌患者に対処するためのエビデンスに基づくガイドラインが策定されるべきである。
イソフラボン摂取が前立腺癌予防に有効な可能性[2007年8月23日 (VOL.40 NO.34) ]
海外の主要医学誌から
大豆の胚芽に多く含まれるイソフラボンの摂取が前立腺癌の予防に有効である可能性を示唆するデータが,札幌医科大学など日本の共同研究グループによりJournal
of Nutritionの 8 月号に発表された。前立腺癌患者200例と年齢をマッチさせたコントロールの男性200人を日本の 3 地域から選択し,栄養および他のライフスタイル要因と前立腺癌の有病率との関連を検討した。
解析の結果,body mass index(BMI),身体活動,職業,前立腺癌の家族歴,個人の病歴は,前立腺癌のリスクとは関連がなかった。イソフラボンとそのアグリコン(ゲニステイン,ダイゼイン)は前立腺癌のリスク低下と有意な関連があり,イソフラボン摂取の最低カテゴリー(30.5mg/日未満)と比較した最高カテゴリー(89.9mg/日以上)のオッズ比は0.42で,線形傾向は有意であった(P<0.01)。
多価不飽和脂肪酸(PUFA),n-6脂肪酸,マグネシウムも前立腺癌のリスク低下と有意に関連していたが,イソフラボン摂取を調整後には有意ではなくなった。大豆製品はPUFA,n-6脂肪酸,マグネシウムの含有量が多いため,イソフラボン摂取はこれらの栄養素の摂取と関連していた。一方,これらの栄養素による調整にもかかわらず,イソフラボンは前立腺癌のリスクを有意に低下させた。Nagata
Y, et al. J Nutr 2007; 137: 1974-1979.
根治的前立腺全摘除術後の前立腺癌の再発に医師の手術経験が影響[2007年8月16日 (VOL.40 NO.33)]
根治的前立腺全摘除術後の前立腺癌の再発には泌尿器科医の手術経験が影響していると,米スローンケタリング記念癌センターなどのグループがJournal
of the National Cancer Instituteの 8 月 1 日号に発表した。一般に外科医の経験が増すにつれて手術成績が向上すると考えられているが,この手術の学習曲線を実際の手術データに基づいて検討した研究は少ない。同グループは,1987~2003年に米国内の主要教育医療機関
4 施設の72人の泌尿器科医により根治的前立腺全摘除術を受けた前立腺癌患者7,765人を対象に,腫瘍特性などを調整後の医師の手術経験と術後再発との関係を調べた。前立腺癌の再発は,血清中の前立腺特異抗原(PSA)が0.4ng/mL以上の状態が続いた場合と定義された。
手術の学習曲線の傾きは急で,根治的前立腺全摘除術の経験がおよそ250件に達するまで前立腺癌の再発は低下し,その後,プラトー状態となった。術後
5 年時点での再発の推定確率は,根治的前立腺全摘除術の経験10件の医師が手術した患者では17.9%だったのに対し,経験250件の医師が手術した患者では10.7%と有意差が認められた(P<0.001)。この結果は,PSAスクリーニングが登場した1995年以降に限っても変わらなかった。
~筋蛋白質ミオシン ~ 前立腺癌のマーカーとして有望[2007年7月19日 (VOL.40 NO.29) ]
ジョンズホプキンス大学キンメル癌センター(ボルティモア)泌尿器科学のJun Luo助教授らは,筋蛋白質であるミオシンVIが前立腺癌の進行・増殖に関与していることを初めて指摘する知見をAmerican
Journal ofPathology(2006; 169: 1843-1854)に発表した。
癌細胞と前癌病変で過剰産生
研究責任者のLuo助教授らは,ヒト前立腺癌細胞を用いた一連の実験室研究において,ミオシンVIが前立腺癌細胞と前癌病変において過剰産生されるという意外な結果を確認した。また,癌細胞を遺伝学的に変異させ,ミオシンVIが機能しないように“沈黙”させると,in
vitroでの癌細胞増殖能は低下した。共同研究者で同センター病理学・泌尿器科学・腫瘍学のAngelo M. De Marzo准教授は「今回の知見は,これまでに確認されているほとんどのヒト前立腺癌細胞を悪性化させ,その悪性度を持続させるには,ミオシンVIが重要であることを示唆している」と述べている。
今回の知見は,前立腺癌の診断・治療の改善,治療薬や手術の影響の評価において貴重なものである。Luo助教授は「ミオシンVIを標的とすることは,新しく有望なアプローチ法を意味しており,さらにはそれが新たな前立腺癌治療法の開発に結び付くことになる」と期待している。細胞を動かしたり,筋を収縮させたりするモーター蛋白質は40種類あり,ミオシンもその
1 種である。通常のミオシンはアクチンフィラメントの上をスライドするように単一方向に動くが,ミオシンVIはこれに逆らうような動きをするため,一般的な筋蛋白質とは機能が異なるとされていた。
癌組織で高い発現を確認
今回の実験では,まず,正常組織と癌組織を含む前立腺組織標本59点の遺伝子をDNAマイクロアレイによりすべて同定した。その結果,癌組織ではミオシンVIの発現が正常組織に比べて3.7倍,前立腺肥大組織に比べて4.6倍高いことを突き止めた。次に,前立腺組織標本240点において,ミオシンVIの発現を検討した。ミオシンVIの過剰産生は,前癌状態に当たる高グレードの前立腺上皮内腫瘍(PIN)と増殖性炎症性萎縮の時点から始まっていることを確認した。さらに,一部の癌細胞ではミオシンVIを遺伝的にノックダウンすることで増殖能が低下するだけでなく,癌抑制因子であるチオレドキシン相互作用蛋白質(TXNIP)の発現量が10倍になることがわかった。米国では,男性の 9 人に 1 人が一生のうちに前立腺癌を発症している。血液検査によって前立腺癌特異抗原(PSA)値の上昇が認められた場合には,前立腺針生検により確診される。しかし,Luo助教授は「現在ではPSA検査の普及で,多くの男性で早期診断と治癒の可能性が高まったが,PSA検査は癌の存在を正確に示すほど感度と特異度が高いとは言えない」と指摘。「ミオシンVIなどのマーカーの尿中もしくは血中濃度に基づいた臨床検査法を開発できれば,前立腺癌の検出に有用であろう。ミオシンVIは卵巣癌との関連も示唆されている」と述べている。
~前立腺癌の外照射療法~二次療法なし例で生存率低い[2007年6月21日 (VOL.40 NO.25) ]
モントリオール大学(カナダ・モントリオール)医療センター癌予後・健康アウトカムユニットのClaudio Jeldres博士は,前立腺癌治療に外照射療法(EBRT)施行後に二次療法を行わない患者では生存率が低い,と米国泌尿器学会(AUA)年次集会で報告した。
死亡リスクが4.1倍に
Jeldres博士らは1989~2000年に前立腺癌と診断された患者1万7,570例(平均年齢67.3歳)に関して粗生存率を比較した。そのうち,根治的前立腺摘除術(RP)を受けたのは9,678例で,EBRTを受けたのは7,892例であった。RPの10年生存率は75.3%で,EBRTでは36.7%であった(P<0.001)。診断後に二次療法を行わなかった患者の10年生存率は,RPで81.1%,EBRTでは30.4%であった(P<0.001)。
同博士らは,EBRT治療後の余命が10年を超えることを期待しているが,再発の証拠がないのに根治治療後の生存率が低い場合は,もはやその根治治療を正当化できないことを示している。
この研究では,根治治療以前もしくは治療中ないしは治療後6か月以内に他の治療を受けた男性は除外された。統計学的分析はCharlson Comorbidity
Index(CCI),Kaplan-Meier plot,単変量と多変量コックス回帰モデルによる年齢と併せ持つ疾患の共変量分析に基づいて行われた。多変量コックス回帰モデルで分析したところ,EBRT群は全コホートでは死亡リスク2.9倍(P<0.001),二次療法を行わないコホートでは同4.1倍(P<0.001)と関連していた。EBRT,RPともに受けた男性の一部は十分な余命が得られず,治癒目的の治療を正当化できなかった。EBRTは年齢とCCI調整後も全生存率の有意な低下と関連していた。
同博士は「EBRT候補の選択基準は,根治治療を正当化するには最適とは言えない余命の男性も含めることになっている」と結論付け,「生存率の改善を確実にするには,候補者の選択を改善する必要がある」と付け加えた。
恐怖を取り除き自信を与える高齢前立腺癌患者の検査と治療 [2007年5月31日 (VOL.40 NO.22)]
高齢の前立腺癌患者ではスクリーニングと治療の手順を若年者とは別にすべきとする議論が出ているが,これに関してデューク大学医療センター(ノースカロライナ州ダーラム)泌尿器科学のCharles
D. Scales, Jr.博士らは,高齢患者に対する前立腺特異抗原(PSA)検査は過剰との指摘をJournal of Urology(2006;
176: 511-514)に発表した。また,ミシガン大学(ミシガン州アナーバー)泌尿器科学のDavid C. Miller博士らは,高齢の低グレード癌患者への侵襲的治療施行に対する疑問をJournal
of the National Cancer Institute(2006; 98: 1134-1141)に発表。さらに,コロラド大学保健科学センター(コロラド州デンバー)内科のThomas
D. Denberg博士らは,前立腺癌患者の治療法の選択が感覚的な因子や誤解,周囲の体験談に大きく左右されているとCancer(2006; 107:
620-630)に発表した。
ほとんど恩恵なし
Scales博士らは,米国の40歳以上の男性の家庭医学,内科,泌尿器科クリニックの受診データを全米標本調査から抽出して解析。「75歳以上の男性の平均余命は10年未満であるにもかかわらず,4
分の1以上にPSA検査が施行されていた」と指摘している。同調査では1999~2002年に4,230万人がPSA検査を受けており,そのうち591万人(14.0%)が75歳を超えていた。年齢層別のPSA検査率は,40~49歳が6.1%,50~75歳が26.0%,75歳超が27.8%であった。また,全体的に検査設備を併設している施設のほうが検査施行率は高く,75歳超群では併設していない施設の1.58倍であった。同博士は「75歳超の男性では,前立腺癌の進行は遅く,余命も短く,他の疾患による死亡リスクが高いため,PSA検査を実施してもほとんど恩恵がないことは一般的な合意事項である」と指摘している。今回の知見は,医師に対する質問調査をもとにしているが,これまでにもHealthStat(ニュージャージー州プリンストン)のGrace
Lu-Yao博士らが患者に対する質問調査から同じ問題を検討し,Journal of the National Cancer Institute(2003;
95:1792-1797)に発表している。同研究では,75歳以上のPSA検査率は32.4%であった。Scales博士らの調査では,PSA検査率に影響を及ぼす合併症や結婚の状況,社会経済的地位などの因子に関しては評価できなかった。
高齢者の侵襲的治療に疑問
一方,Miller博士らは,2000~02年に全年齢層の限局性,または局所浸潤前立腺癌患者7万1,602例を対象に治療の質を検討する後ろ向きコホート研究を実施。「過剰な治療を減らすことにより,高齢者の限局性前立腺癌治療の質を改善できると思われる」と報告している。同研究では,7
万1,602例のうち低リスク前立腺癌(臨床病期T2a以下,PSA値10ng/dL以下,Gleason sum 6以下と定義)の患者2万4,405例について初期治療の完全なデータが得られた。そのうち1万3,537例(55%)が初期治療として根治的治療を施行され,81%に放射線療法が施行されていた。同博士によると,低リスク癌患者の初期治療は全例とも注意深い監視(十分に監視しながら待機すること)が適切だと想定すれば,今回の住民ベース標本では,根治的前立腺摘除術(RP)による過剰治療が2,564例(11%),放射線療法による過剰治療が
1万973例(45%)であった。同博士は「過剰治療を減らす努力が臨床と公衆衛生の現場で優先されるべきである」と指摘している。また,上記3種類の治療法の施行率は,年齢により階層化された3群の間で統計学的に有意に異なっていた。すなわち,75歳以上の群では,放射線療法が38.4%,RPが3.7%,注意深い監視の適用が57.9%であったのに対し,70~74歳群ではそれぞれ54.3%,17.3%,28.4%で,65~69歳群では34.3%,16.9%,48.8%であった。
待機療法の安全性を示唆
注意深い監視下での限局性前立腺癌には,進行が緩徐なものが多いことは複数の観察研究で確認されており,この傾向は高齢男性の臨床的に低~中等グレードと診断された癌で特に強い。さらに,そのほかのデータでも,検診受診者ではリードタイムバイアス(早期発見により余命が延長されることにより生じるバイアス)とレングス(期間)バイアス(進行が遅い疾患が速い疾患より頻回に検査され高頻度に発見されることにより生じるバイアス)が生じうるため,PSA検査で発見された癌の臨床動態は,臨床的に発見された腫瘍の場合よりも悪性度が低いことが示唆されている。Miller博士は「致死性の前立腺癌の治療を怠ることは,治療の質の観点から一般的に不適切と捉えられているが,進行の緩徐な癌に対して侵襲的治療を適用することは過剰治療で,最適な処置とは言えないだろう。そのようなことをしていては,患者にはリスクを与えて健康上の利益を提供できないにもかかわらず,医療費を増大させることになる」と述べている。さらに,同博士は「医療を提供する側にとり,注意深い監視を促進していくに当たって重大な障害となっているのは,(癌の管理という点からの)安全性に対する医師と患者双方の疑念であろう。こうした疑念は,特に中等度~高度に分化した癌(Gleason
sum6以下)に罹患する70歳以上の高齢者において,注意深い監視が安全であるというエビデンスが蓄積されつつあることで緩和できると思われる。実際,観察研究において,こうした患者で注意深い監視を選択した症例では,診断から20年以内の死因のほとんどが前立腺癌以外であるという確固たるデータが存在する」と主張している。ウプサラ大学病院(スウェーデン・ウプサラ)泌尿器科のAnna
Bill-Axelson博士らは,最近実施したRP施行群と注意深い監視群で生存率を比較する画期的なランダム化臨床試験の結果をNew England
Journal of Medicine(2005; 352: 1977-1984)に発表。「手術により全体的な生存恩恵が認められたのはほとんどが診断時に65歳未満の患者であることが示されている」と付け加えている。
丁寧なカウンセリングを
もちろん,癌と診断されたのに治療を受けられないことにとまどう患者も出てくるだろう。Miller博士は,これに関して「注意深い監視の適用を予定している場合は,これについての丁寧なカウンセリングを行うことが有用である。最終的な意思決定の補助ツールとしては,例えば,共線図表などが役立つであろう。特に早期乳癌の女性では多次元的な意思決定補助ツールの使用により,治療選択肢や治療法決定に対する納得感や,選択した治療法と患者本人の価値観の一致に関する患者の知識が高まることは,複数の文献で支持されるようになってきている」と述べている。ただし,注意深い監視の恩恵はすべての患者に当てはまるわけではない。同博士は「最初は注意深い監視が有用であった患者でも,将来的に適切な根治的治療を必要とする場合があることを理解すべきである」と付け加えている。このように,注意深い監視は慎重に施行する必要がある。
治療法決定に重要な因子を検討
Denberg博士らは臨床的に限局性の前立腺癌と新規に診断された男性20例を対象に,徹底的な半構造化面接法を用いて患者自身の治療法決定プロセスに重要な因子の検討を行った。同博士は「恐怖心を和らげて早くなおしたいという気持を抑え,前立腺癌とその治療法に関する一般的な強い誤解を払拭し,他人の経験談に依存しすぎないように患者に手を差し延べることで,限局性前立腺癌男性の治療法決定プロセスを改善できるだろう」と述べている。インタビューは,初回カウンセリング時と治療後6~8か月目に実施された。
患者心理を把握した対応を
Denberg博士は「患者はさまざまな臨床予後に関するリスクの数値を慎重に検討して治療法を選択するのではない。恐怖心と不安が募り,早くなおしたいという気持が助長され,結局,治療法の選択は誤った知識と他の癌患者の経験談に大きく影響されていた。誤解は特に前立腺摘除術に対し著しかった」と指摘している。患者の思い込みは根強いが,捉え方はさまざまであった。例えば,確実な治癒を約束してくれるのは前立腺摘除術だと公言する患者もいれば,摘除術は非常に侵襲的な治療法であり,危険だとする者もいた。患者は他人の癌体験談をいろいろ話すことが多いが,こうした話のほとんどはその臨床病態と正しく一致するものではなかった。同博士は「多くの患者は,恐怖を払拭し,不確実要素をできるだけ少なくすることに関心を向けるようだった。さらに,治療から数か月後には,さまざまな影響を受けて,選択した治療法を正当化しようとするようだった」と述べている。同博士は「臨床医は今回の知見に注目し,患者が意思決定をする時期あたりから,カウンセリングも開始すべきである」と指摘。そのカウンセリングで,(1)よくある誤解をはっきりと説明して患者の誤解を正す(2)患者の恐怖心の原因を解明する(3)恐怖心を取り除き,新たな自信を与える(4)前立腺癌に対する考え方と認識を左右した他者の体験談を手短に語らせる−などを行えば,医師は患者本人に他人とは病態が異なることを認識させることができるとしている。
~RRP後の前立腺癌治療~局所進行と断端陽性例ではXRT-HTを[2007年5月17日 (VOL.40 NO.20) ]
ベイルート・アメリカン大学医療センター(レバノン・ベイルート)泌尿器科のMuhammad Bulbul臨床教授は,根治的恥骨後式前立腺摘除術(RRP)後に前立腺癌が病理学的・局所的に進行し,重度の断端(SM)陽性,前立腺外転移(EPE)陽性,Gleasonスコアが高く精嚢侵襲が見られる患者は,直ちに補助体外照射療法とホルモン療法(XRT-HT)を行うことが有効であり,局所的な前立腺癌にとどまりSM陰性,EPE陰性の場合はRRP後の積極的な観察が安全な代替策であると第22回欧州泌尿器科学会(EAU)年次集会で報告した。
SM陽性の程度の重要性を比較
局所的な前立腺癌にRRPを治癒目的で施行した後10年以内に生化学的な再発が患者の30~50%で観察され,52%では病理学的検査の際に前立腺外への転移が確認された。前立腺癌ではSM陽性,EPE陽性,精嚢侵襲が見られること,高Gleasonスコアが再発の危険因子である。この研究の目的の
1 つは,RRP後のSM陽性患者の治療選択に影響する要因を調べることであった。既に 2 件の臨床試験により,これらの患者においてXRTが生化学的・臨床的な無増悪生存率を有意に高めたことが示されていた。しかし,これらの
2 件の臨床試験では観察群の56.2%と38.0%が生化学的な再発を示さなかったこと,また,すべての亜群が補助XRT療法による便益を受けていたが,SM陽性の程度が重要であるかどうかは明らかでなかったことを強調した。そこで,Bulbul教授らは「補助放射線療法の便益を受ける高リスク群を同定し,低リスク群の過剰治療,副作用,コストを減らすことは可能か」という課題に取り組むことにした。同教授らはRRP後にSM陽性である60例を登録し,前立腺特異抗原(PSA)の定期的なモニタリングと直腸指診(DRE)を行うだけの観察群(33例)と補助XRT-HT療法を受ける治療群(27例)にランダム化割り付けした。観察群の基準はGleasonスコアが
8 未満,1 ~ 2 部位で陽性SMが 3mm未満,EPE陰性,前立腺床生検陰性(PBB−)であった。治療群は手術傷を癒すため手術から 3 か月後に前立腺床に68~70
GyのXRTを行い,黄体形成ホルモン放出ホルモン類似体または抗アンドロゲン療法を病理学的報告の後,直ちに開始し 6 か月間継続した。生化学的再発の定義はPSA上昇が0.2ng/mL超で,臨床的再発は生検によるDRE陽性とした。前立腺床生検は前立腺除去後に膀胱頸,後前立腺床などから採取された。
進行性患者は驚くほど改善
観察群はPSAの中央値6.5ng/mLから開始し,中央値 4 年(範囲 2 ~ 8 年)の時点で33例中29例(82%)は疾患のエビデンスが見られなかった。
6 例(18%)で再発が見られたが,いずれも生化学的再発で,中央値は 2 年(同 2 ~ 5 年)でいずれもXRT-HTを受けた。これらの患者のうち
4 例が生存し続け,2 例は間欠的にHTを受けた。治療群は当初のPSA中央値が8.9ng/mLで,27例中22例(81%)は中央値 5 年(同
2 ~ 8 年)に疾患の徴候がなかった。5例(19%)で治療から 6 ~18か月以内に再発が見られ, 2 例は間欠的にHTを受け,2 例はホルモン抵抗性で化学療法を受け,1
例は前立腺癌で死亡した。RRP後に切除辺縁とEPEが限定されている患者は期待が持てるので,直ちにアジュバント療法を行う必要はない。再発は治療すれば高い無疾患生存率が望める。同様に,病理学的・局所的に進行し,有意にSM陽性とEPE陽性,高Gleasonスコア(
8 以上)と精嚢浸潤が認められる患者は,補助XRT-HT後に生化学的・臨床的な無疾患生存率が有意に改善した。これほど短期間のホルモン療法の価値はさらに検討されるべきで,患者の選択には前立腺床生検が有用となる可能性があ
るという。
PSA値と前立腺の大きさが 前立腺癌の再生検の指標に[2007年4月19日 (VOL.40 NO.16) ]
前立腺癌生検は偽陰性率が高いため,初回生検結果が陰性の患者でも将来,悪性度の高い癌を発症する可能性が高く,再生検が推奨される患者を同定する方法が求められている。ポートランド復員軍人局医療センター泌尿器腫瘍学主任で,オレゴン保健科学大学(OHSU)癌研究所(ともにポートランド)泌尿器外科のMark
Garzotto助教授らは,こうした患者の同定に前立腺特異抗原(PSA)値と前立腺の大きさの組み合わせが有効であるとフロリダ州オーランドで開かれた集学的前立腺癌シンポジウムで発表した。
Gleason 7 以上は高死亡リスク
Garzotto助教授は「生検結果が陰性であった患者に対して,さらなるフォローアップや診断を推奨するための明確で一貫性のある方法はこれまで存在しなかった。今回の研究では,高グレード前立腺癌リスクの患者を泌尿器科医が同定できる簡単なマーカーを得ることができた」と述べた。同助教授とOHSU総合内科学・老年医学の研修医,Shane
Rogosin博士らは,1992~2006年に前立腺癌の疑いでポートランド復員軍人局医療センター泌尿器科に紹介された患者511例を登録した。全例とも過去の生検では陰性だった。中央値で3.7年のフォローアップ期間中に延べ1,319回の再生検を実施した。
その結果,前立腺の大きさで調整後のPSA高値は要再生検の指標として活用できること,Gleasonスコアが 7 以上の場合,死亡リスクのある前立腺癌が存在している可能性があり,再生検が推奨されることがわかった。Gleasonスコアは,顕微鏡下の前立腺癌組織知見に基づいて癌の悪性度を階層化するシステムで,スコアは
2 ~10に分類され,癌の増殖リスクの指標となる。同スコアが低い場合,癌組織は正常な前立腺組織に近く,癌は増殖しにくい。一方,同スコアが高い場合,癌組織の状態は正常組織とかなり異なり,癌増殖リスクが高い。癌のグレードが高いほどPSA値も上昇する。
同助教授は,PSA検査時には前立腺の大きさにも注意すべきであることを強調。「われわれの懸案は,どの男性に高グレード癌のリスクがあるかということであったが,今回の知見に基づき数か月後の再生検を指示できるようになった。これで,生検をより正しく判断して実施することができる」と述べた。
過剰診断・治療の低減に貢献
今回の知見は,死亡リスクの高い癌を同定すること以外に,不必要な生検や過剰診断・過剰治療の割合を低減させることにもつながる。前立腺生検は患者に不安と疼痛を与え,出血や感染のリスクに加え,医療費やそれ以外の経費の大幅な増大をもたらす。Garzotto助教授は「今回の研究は長期の大規模研究で,患者を長期間追跡できたため,特に意義深い」と述べた。米国の男性にとって,前立腺癌は皮膚癌に次いで多い癌で,癌関連死の第
2 位を占めている。2007年には21万8,890例が新規に前立腺癌と診断され,2 万7,050例が同癌により死亡すると推定されている。前立腺癌生検は毎年100万回以上施行されており,そのうち陽性と診断されるのは約25%である。しかし,生検結果は陰性であったが,のちに癌が発見される偽陰性が25%存在すると見られている。
進行性前立腺癌 CRPが生存予後を予測[2007年4月12日 (VOL.40 NO.15)]
オレゴン保健科学大学(OHSU,ポートランド)癌研究所内科(血液学・医学腫瘍学)のTomasz M.Beer准教授らは,アンドロゲン非依存性前立腺癌に対する化学療法の予後予測因子として,C反応性蛋白質(CRP)を活用できることを新たに同定したと,フロリダ州オーランドで開かれた集学的前立腺癌シンポジウムで報告した。
生存期間短縮などに関連
CRPは,炎症があると肝臓で大量に産生される特殊な蛋白質である。今回の解析では,CRP高値が前立腺癌患者の生存期間短縮と化学療法に対する反応率の低下に関係していることがわかった。OHSUの前立腺癌研究主任でもあるBeer准教授は,今回の知見について「標準的な血液検査により前立腺癌の特徴についてさらなる情報が得られるため,医師や患者がよりよい判断を下すのに役立つであろう」と述べた。癌が炎症反応を引き起こすことはよく知られており,今回の研究は,炎症が前立腺癌の進行と治療抵抗性の促進に重要な役割を果たしうることを示唆している。同准教授は「炎症が癌の進行を遅らせる場合もあるが,癌が炎症反応を利用しうることに関して,ますます多くのエビデンスが提供されつつある。実際,免疫反応により放出される炎症性サイトカインは,癌の進行を促進するとされている」と説明。「今回の知見で示唆された範囲では,CRPは炎症の全体的な重症度を反映しているという仮説を立てることができる」と述べた。
併用で生存率が49%改善
Beer准教授らは,アンドロゲン非依存性の進行性前立腺癌患者を対象として,高用量カルシトリオールのDN-101/ドセタキセル併用とドセタキセル単剤投与を比較検討する大規模第II相臨床試験のASCENT試験を実施しており,今回の知見は同試験における炎症性マーカーに関する二次解析により得られた。同試験の主要な結果はJournal
of Clinical Oncology(2007;25: 669-674)に掲載されており,最も重要な知見としてDN-101 45μgの併用群では,ドセタキセル単剤投与群と比べて生存率が49%(P=0.035),深刻な有害事象の発生率が34%(P=0.023)改善したことが報告されている。今回の二次解析には,両群の患者が含まれている。解析に当たっては,同試験を助成しているNovacea社から資金提供を受け,今回の結果発表は同社と共同で行われた。同准教授は「CRPが進行性前立腺癌患者の化学療法への反応と生存率の両方に関連していることが確認されたのは今回が初めてで,これを進行性前立腺癌患者に対するルーチンの血液検査として実施する前に,今回の知見を独立したデータセットで検証する必要がある」と述べた。OHSUと同准教授はNovacea社と財政的に重要な利害関係があり,今回の試験結果と技術に関する商業利益は同社が保持しているが,利害の衝突の可能性については既に審議され,OHSUの研究における利害の衝突委員会と規範プログラム監視協議会により承認された管理計画が適用されている。
高齢者のPSA検査 リスクのほうが大きい可能性も なお高いスクリーニング実施率[2007年3月29日 (VOL.40 NO.13) ]
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF,サンフランシスコ)老年病学のLouise C. Walter博士らは,70歳以上の退役軍人59万7,642人を対象としたコホート研究の結果,高齢者では前立腺特異抗原(PSA)スクリーニングを勧める前に,その恩恵を十分に検討する必要があることが示唆されたとJAMA(2006;
296: 2336-2342)に発表した。
臨床因子以外が受診率に影響
Walter博士は「PSAスリーニングは弊害を伴いがちなことが知られており,“余命が限られている”高齢男性では,スクリーニング実施率を現在の慣行よりもはるかに低くすべきである」と述べている。ほとんどのガイドラインは,余命が限られている高齢男性にはPSAスクリーニングを推奨していない。スクリーニングにより想定される恩恵が得られるには数年かかり,リスクのほうが大きいからだ。しかし,現在の慣行では,85歳以上の男性のPSA検査実施率は,非常に健康な患者群で34%,健康状態が最悪な患者群では36%で,こうしたガイドラインの推奨が遵守されていないのは明らかである。これまでの研究では,この年齢層の10年生存率は10%未満であることが示されている。さらに,今回の研究では,多変量解析の結果,既婚か未婚,地域差など臨床因子以外の多くの因子が,健康状態よりもPSAスクリーニングの是非を大きく左右していた。例えば,実施率は未婚男性の49%に対し,既婚男性では58%であった。また,同博士らは米国を
4 地域に分けて解析したが,実施率は西部の50%に対し,南部では59%であった。同様に,年収による 3 分位分析では,PSA実施率は最低所得者層の50%に対し,最高所得者層では61%であった。さらに,アフリカ系米国人の実施率は46%で,白人またはヒスパニック系では57%であった。
健康度と受診率に低い相関
2003年における75歳以上の男性のPSA検査実施率は56%で,5 歳ごとの年齢階層別に見ると70~74歳が64%,75~79歳が56%,80~84歳が45%,85歳以上が36%と加齢とともに実施率が低下していた。しかし,慢性疾患19種類を選択し,死亡率との関連で重み付けをした健康状態の簡易指標であるCharlson
Comorbidity指数により,各階層で健康状態と実施率との相関を検討した結果,健康状態が悪化している男性でも実施率の有意な減少は認められなかった。同指数で,健康状態が“最悪”を意味するスコア
4 以上の男性は全体の15%で,このうち68%に糖尿病,47%にうっ血性心
不全の既往があり,47%には2002年中に入院歴があった。このように健康状態が低下している男性でも,PSA実施率は若干しか減少しておらず,同指数のスコア
0 で58%,1 ~ 3で56%,4 以上で51%であった。これには地理的因子も関係しており,米国南部(ジョージア州からテキサス州まで)では,健康状態が最悪の分類に属する男性の64%で検査が実施されていた。Walter博士は「状況は当初予測していたよりも複雑で,個人の余命を予測することは困難なことを示している。CharlsonComorbidity指数は一般人口で検証されているツールだが,個人の余命を正確に予測できるわけではない」と指摘している。
弊害教育の促進を
今回の研究では,米国の復員軍人局104施設で,70歳以上の男性退役軍人59万7,642人のデータを解析した。前立腺癌,PSA値の上昇,前立腺癌症候の既往のある男性は含まれていない。Walter博士は「いくつかのモデル研究から得られたPSAに関する目覚ましい知見の
1 つでは,70~75歳の男性でスクリーニングにより前立腺癌と診断されても,3 例に 2 例は生涯のうちに癌を発症しないことが示唆されている」と述べている。さらに,同博士は「高齢者ではスクリーニングにより前立腺癌が発見され,治療を受けた場合,尿失禁,勃起不全,腸管障害,大腿骨頸部骨折といった合併症で苦しむことが多く,さらには死亡することもある」と指摘している。PSA検査の偽陽性率の高さも問題である。仮にPSAスクリーニングによる前立腺癌死亡率の減少が実証されたとしても,こうした生存恩恵が得られるのは余命が10~20年と推定される男性のみであることが,lead-time(診断時期が早まったことによる癌死亡時期の見かけ上の延長)の試算や,限局性前立腺癌のフォローアップ研究から判明している。一方,現時点では年齢や余命に関係なく,PSA検査で前立腺癌死亡率が改善されるという決定的エビデンスは得られていないというのが,衆目の一致するところである。余命が限られている高齢男性の多くでPSA検査が現在も実施されているとする今回の知見は,過去に発表された複数の全米調査結果とも一致する。同博士は「これらの調査では,米国人男性の多くが高齢になっても,また健康状態が悪化しても,なおPSA検査を受け続けていることが示唆された」と述べている。同博士は,超高齢者や重度合併症を有する患者のカウンセリングでは,PSAスクリーニングには恩恵よりも弊害のほうが多いことを説明すべきであると提言。「これまでの研究で,PSAスクリーニングに関する教育を行うことでスクリーニングに対する患者の関心が低下し,実施率を減少できることが示されている」と指摘している。
長期試験でも有効性は不明
コネティカット大学保健センター(コネティカット州ファーミントン)泌尿器科学のPeter C. Albertsen教授はJAMAの付随論評(2006;
296: 2371-2373)で,前立腺癌と診断される生涯リスクは16%で,前立腺癌による死亡リスクは3.4%であることを再確認している。しかし,高齢者や不健康な患者が前立腺癌による死を恐れることは当然で,自身の長寿を過度に望む者や治療の有効性を過大評価している患者もいる。同教授は「こうした患者を扱うのは,医師にとって困難なことである」と指摘している。一方,現在進行中の
2 件の大規模ランダム化試験で,PSAスクリーニングにより前立腺癌死亡率が減少するか否かが検討されている〔de Koning HJ, et al.
International Journal of Cancer 2002; 97: 237-244,Gohagan JK, et al. Control
ClinicalTrials 2000; 21( 6 Suppl): 251S-272S〕。いずれの試験も既に12年近く続けられているが,いまだにスクリーニング群の男性で,臨床的に有意な生存恩恵は確認されていない。Albertsen教授は「臨床医と患者は,PSA検査がだれにでも有効だというのは疑わしいことを理解すべきである」と指摘。「公衆衛生政策では,余命が限られている高齢者に対するPSA検査を支持していない。想定される利点は限られており,損失は甚大であるからだ」と結んでいる。
小線源療法で前立腺癌の90%が治癒[2007年3月29日 (VOL.40 NO.13) ]
スローン・ケタリング記念癌センター(ニューヨーク)密封小線源治療サービスのMichael J.Zelefsky主任らは,適切な線量の永久小線源療法を施行された前立腺癌患者の90%以上で,診断から
8 年後には癌が治癒していたとInternational Journal for Radiation Oncology*Biology*Physics(2007;
67: 327-333)に発表した。
単独で早期治療が可能
永久小線源療法では,放射線を発する米粒大のシード(線源)を前立腺内に植え込む。照射域は前立腺内のみで,周辺臓器や組織には影響を及ぼさない。癌治癒効果は非常に高い半面,侵襲性が低く,他の治療法で発生しやすい勃起不全や尿失禁といった合併症も少ないことから,早期前立腺癌に対する治療法として既に広く普及している。Zelefsky主任らは,早期前立腺癌患者に対する永久小線源療法の長期予後を評価するために,米国の11施設で約2,700例の患者を登録し,8
年間追跡した。放射性シードは,前立腺内に正確に植え込むために超音波ガイド下に挿入した。患者はいずれも小線源療法を単独で施行され,化学療法や他の放射線治療は併用していない。同主任は「今回の知見は,手術や外照射放射線療法,化学療法などを併用せずに,小線源療法単独で早期前立腺癌を有効に治療できることを示しており非常に刺激的である。また,良好な結果を得るには線源の正確な植え込みがきわめて重要であることは既に示されているが,今回の結果はこれを追認するものである」と述べている。
高齢者の前立腺癌 低~中等度癌なら積極治療で余命延長 [2007年3月1日 (VOL.40 NO.9) ]
フォックスチェイス癌センター内科腫瘍学のYu-Ning Wong博士らは,ペンシルベニア大学(ともにフィラデルフィア)の研究者らと共同で,Surveillance,
Epidemiology and End Results(SEER)-Medicareのデータベースにおける高齢の早期前立腺癌患者 4 万4,630例を対象に,手術または放射線療法と待期療法(注意深い観察)で生命予後の比較解析を実施。その結果,65~80歳の進行リスクが低度~中等度前立腺癌患者に対する早期の治療導入により,待期療法と比べて余命が延長されることが示唆されたとJAMA(2006;
296: 2683-2693)に発表した。
死亡リスクが30%低減
筆頭研究者のWong博士は「低度~中等度の前立腺癌は進行が緩徐で,癌が全く増悪しない患者も多いことが過去の研究で示されている。しかし,このことが患者や家族にとり治療の判断を複雑なものにしている」と指摘。「今回の研究は,進行リスクが低度~中等度の高齢前立腺癌患者の長期予後に関する既存データの解析で,各群の背景因子の差をすべて調整した後も,前立腺癌診断から
6 か月以内の根治的前立腺摘除術(RP)または放射線療法の施行群では,同時期に治療を受けなかった患者に比べて死亡リスクが30%低減された」と述べている。 さらに,今回の研究では進行リスクが低かったり,患者が高齢(75~80歳)であっても,治療の恩恵が得られることが示唆された。
同博士らは,1991~99年に診断された高分化型(Gleasonスコア 2 ~ 4 )と中等度分化型(同 5 ~ 7 )の小径癌(臨床病期T1またはT2)患者に解析対象を限定した。
4 万4,630例のうち 3 万2,022例(71.7%)が積極治療を受け,1 万2,608例(28.3%)が待期療法を受けた。診断後の
5 年生存率と10年生存率は,積極治療群がそれぞれ88%と66%であったのに対し,待期療法群では78%と51%であった。両群の患者背景や腫瘍の特徴などの差を調整した後も,積極治療による恩恵が認められた。
ただし,今回の研究はランダム化比較試験ではなく,既存データを後ろ向きに解析した観察研究で,生存率に影響する交絡
因子になんらかの群間差があった可能性はある。
これに関して,同博士は「今回のような観察研究では,結果の解釈は慎重であるべきだ。例えば,積極治療群全体や特定の治療法を受けた患者の元来の健康度が,非治療群より高かった可能性もある。治療により恩恵が得られたのは,治療群に健康な男性が多く含まれていたからかもしれない」と述べたうえで,「今回は,こうした差を考慮して広範囲にわたる統計学的調整を行ったが,それでも積極治療と生存期間延長との間に相関が認められた」と付け加えている。
治療選択肢の改善でリスク低減
Wong博士は,前立腺癌は進行が緩徐で,多くの男性にとりフォローアップは妥当な選択であることを強調している。実際,米国における複数の研究で,低リスクの限局性前立腺癌患者にフォローアップを適用した場合の死亡率は
7 ~17%であることが示されている。同博士は「フォローアップか積極治療かを選択する際の検討因子は,生存期間の延長だけではない」と指摘。「より標的を限定して副作用を少なくした放射線療法や,低侵襲性の手術など治療選択肢が改善されたことにより,積極治療のリスクは低減された。しかし,それでも,こうした治療には腸や膀胱,性機能の障害といった副作用が伴うことがある。患者は治療の決断を下す前に放射線,手術,フォローアップのそれぞれに伴うリスクについて医師と話し合うべきである」と述べている。
さらに,同博士は「今回の研究は前立腺癌という特殊で複雑なパズルの 1 片にすぎず,ほかにも異なる生物学的側面と治療法に関して多くの研究が行われている。患者は臨床試験などの治療プロトコルに登録し,前立腺癌進行に関する研究に協力して欲しい。それにより最も恩恵を受けるのは患者自身であるからだ」と結んでいる。今回の研究はSEER-Medicareデータベースを利用しているが,データの解釈と発表内容に関する責任は同博士らにある。
根治的前立腺切除術[2007年2月15日 (VOL.40 NO.7) ]
80歳代でも安全に施行できる
メイヨー・クリニック癌センター(ロチェスター)泌尿器科学のMichael Lieber教授らは,根治的前立腺切除術は80歳代の男性でも患者によっては施行可能な選択肢であるとUrology(2006;
68: 1042-1045)に発表した。今回の知見は,年齢のみを判断基準に80歳以上の患者では手術を避ける従来の一般的な慣行に異議を唱えるものである。
年齢で線引きすべきでない
研究責任者のLieber教授は「平均余命の延長と総体的な心身の快適状態,より安全な麻酔法と侵襲性の低い術式が可能になったことを考慮すれば,これまで手術適用にならなかった超高齢者でも安全かつ有効に手術を施行できる。われわれは年齢を根治的前立腺切除術の適用基準に用いるのは不適切であると考え,今回,患者によっては安全な治療選択肢であることを実証した」と述べている。
米国癌協会(ACS)によると,米国では男性の 6 人に 1 人が生涯に前立腺癌を発症し,2006年には 2 万7,000人以上が前立腺癌で死亡した。進行が緩徐である前立腺癌に対しては,ホルモン療法,化学療法,放射線療法,凍結療法,手術,待機管理(いわゆる注意深い観察)までさまざまな治療法がある。JAMA(2000;
283: 3217-3222)に掲載された2000年の調査では,根治的前立腺切除術は余命10年以上の患者に対して施行し,70~75歳の患者には施行しないというのが慣行であった。また,2005年にNew
England Journal of Medicine(2005; 352: 1977-1984)に掲載された別の研究によると,根治的前立腺切除術の施行は,総死亡率,局所進行率,遠隔転移率を有意に減少させ,ホルモン療法や姑息的放射線治療の必要性の減少とも相関することが示唆されている。
死亡リスクを大幅に低減
今回の研究では,メイヨー・クリニックで1986~2003年に根治的前立腺切除術を施行された80歳以上の男性19例のデータを解析した。同術適用の根拠は患者によりさまざまであったが,患者側から依頼されたり強く要望されたケースが多かった。手術時の平均年齢は81歳(80~84歳)で,前立腺特異抗原(PSA)の平均値は10.2ng/mL(正常値は
0 ~ 4ng/mL)であった。また,全般的な健康度と死亡リスクの指標となる米国麻酔科医学会(ASA)スコア( 5 段階評価)の平均は2.4であった。19例中13例で病理ステージpT3(最も進行はpT4),Gleasonスコアによる腫瘍の悪性度は10段階のうち
7 であった。筆頭研究者で同センターのR. Houston Thompson教授は「これらの患者は非常に悪性度の高い癌に罹患していた」と述べている。
今回,いずれの患者においても根治的前立腺切除術適用の判断は妥当で,術後データもそれを支持していた。19例中14例で禁制が維持され,術後 1
年以内に手術または前立腺癌による死亡例は皆無であった。術後10年間では19例中 3 例が前立腺癌以外の原因で死亡した。10年生存率は根治的前立腺切除術を施行された60~79歳の健康男性の場合と同等であった。
Lieber教授は「加齢の過程は個人できわめて異なる。手術適用の判断は症例ごとに行うべきで,80歳代の限局性前立腺癌患者でも非常に健康であれば手術により好結果が得られる」と述べている。
~前立腺癌の強度変調放射線治療~ [2007年1月25日 (VOL.40 NO.4)]
密封小線源療法より長期副作用少ない
フォックスチェイス癌センター(フィラデルフィア)の研究者らが,前立腺癌に対する強度変調放射線治療(IMRT)に関する 2 件の新知見を米国治療放射線・腫瘍学会(ASTRO)の第48回年次集会で発表した。1
件はAlexander Kirichenko博士らのIMRTと 3 次元原体照射法(3D CRT)との消化器系への副作用の比較で,もう 1 件は放射線腫瘍学部門のThomas
N. Eade博士らによる低リスク前立腺癌に対するIMRTと永久密封小線源療法との比較。IMRTは従来の放射線療法に比べて照射線量は高いが,いずれの研究でも有効性の面で優れ,副作用も少ないことが確認された。
長期の消化器系副作用が少ない
Kirichenko博士らの研究では,IMRT施行患者のほうが3D CRT施行患者に比べて,長期の消化器系副作用が少ないことが確認された。同博士らは,フォックスチェイス癌センターで前立腺癌患者の治療に3D
CRTを施行した928例(フォローアップ期間の中央値63.3か月)とIMRTを施行した489例(同29.9か月)のデータを前向きに比較・検討。前立腺特異抗原(PSA)値,病期,Gleasonスコアにより調整し解析した。
検討対象とした副作用は短期の下痢,長期の腸機能障害,さらに頻尿や尿意切迫といった泌尿器生殖器系の副作用であった。症例数は少ないが,排尿時の疼痛,排尿困難,尿閉といった症状も確認された。現在,アレガニー総合病院(ペンシルベニア州ピッツバーグ)放射線腫瘍科に所属する同博士は「術後早期の消化器系症状に関しては,両群間に差は認められなかったが,期間の経過に伴い3D
CRT施行患者では長期の消化器系副作用が増加した」と述べている。
治療から 3 年後の消化器系副作用発生率は,IMRT群の6.3%に対し,3D CRT群では10.4%であった。一方,泌尿器生殖器系の副作用に関しては両群間で差はなかった。同博士は「放射線療法は消化器系の副作用を伴い,3D
CRT療法ではさらに固有の副作用が発生しうるが,それらを考慮に入れても,特に手術予後と比較した場合,これらの放射線療法で発生した消化器系副作用の程度は,現時点の解析では許容範囲と言える」と結論している。
長期副作用管理に優れる
IMRTと小線源療法とで副作用を比較する研究は目新しいものである。Eade博士らは,低リスク前立腺癌患者374例を,(1)74~78GyのIMRTを施行する群(216例)(2)145Gyの永久密封小線源(I125)療法を施行する群(158例)−に割り付けて比較・検討した。年齢はIMRT群のほうが密封小線源療法群よりも若干高かった(67.6歳対64.7歳)。ネオアジュバントホルモン療法施行患者は除外した。
尿道狭窄を含む重度の長期副作用は,密封小線源療法群で有意に高いことが確認された。術後 3 か月間に導尿カテーテル挿入を必要とした患者は,密封小線源療法群の11例に対し,IMRT群では
3 例のみであった。また,3 か月以降にカテーテル挿入を必要とした患者は,密封小線源療法群の 7 例に対し,IMRT群では 1 例のみであった。同博士は「IMRTを施行された低リスク前立腺癌患者の長期予後に関するデータは,今のところ限られている。いずれの放射線療法の予後も,技術的進歩によりさらに改善されるだろうが,現時点ではIMRTのほうが長期の副作用管理においてより優れている」とコメントした。