前立腺がん関連ーその6ー

 (Medical Tribuneなどから)
(2009年1月~)


前立腺体積の増大だけでは前立腺がん発症を予測できない[2009年12月24,31日(VOL.42 NO.52,53) ]

 メイヨー・クリニック(ロチェスター)泌尿器腫瘍学のRodney Breau博士らは「前立腺特異抗原(PSA)値と前立腺体積との関連を長期間検討した結果,1年ごとの定期検査で前立腺体積の増大が認められても,必ずしも前立腺がんの発症を予測できない。しかし,PSA値が急上昇した場合の前立腺がんの診断には,前立腺生検が適切であることが示唆された」と第83回米国泌尿器学会(AUA)北部中央支部年次集会で発表した。

生検の判断基準にすべきでない

 今回発表された研究は,ミネソタ州オルムステッド郡の住民男性を対象に泌尿器症状と健康状態を追跡した大規模コホート研究Olmsted County Study of Urinary Health Status among Menから,前立腺疾患歴のない40~79歳の男性616例をランダムに抽出。隔年でPSA値測定,超音波による前立腺体積計測などの検査を17年間実施し,前立腺疾患の変化を評価したもの。
 研究責任者のBreau博士は「参加者を17年間以上追跡したことで,前立腺の肥大度とPSA値の変化,前立腺がん発症との間の長期的な関連を評価することができた」と述べた。
 616例中58例(9.4%)が前立腺がんを発症したが,これらの男性のPSA値上昇率は年間6%と,発がんしなかった男性の3.3%に比べ高かったものの,前立腺体積の増大率は両群で同等であった(年間の変化率の中央値2.2%)。
 同博士は「今回の知見は,前立腺がんか否かにかかわらず,前立腺の肥大度は同等であることを示している。PSA値が急上昇した場合,前立腺生検により発がんの有無を同定する必要があるが,前立腺体積の変化のみで生検の是非を判断すべきではない」と述べた。


前立腺がん関連するレトロウイルスを発見 診断・予防・治療の可能性を期待[12月24,31日(VOL.42 NO.52,53]

 ユタ大学(ユタ州ソルトレークシティー)病理学部のIla R. Singh准教授らは,前立腺がんの発症と強く関連するレトロウイルスを発見したと,Proceedings of National Academy of Sciences, USA(2009; 106: 16351-16356)に発表した。この発見は,前立腺がんの診断に役立つ新しいマーカーの開発,さらには抗レトロウイルス薬やワクチンを利用した前立腺がんの予防や治療の可能性につながるものと期待される。

XMRVが検体の4分の1以上に
 前立腺がんは米国人男性の6人に1人が罹患する。近年の研究で,前立腺がんにおいて,xenotropic murine leukemia virus-related virus(XMRV)と呼ばれるウイルスが同定され,特定の遺伝子(RNase L)変異を有する一部の男性では,ウイルス感染に対して脆弱であることが明らかにされている。
 レトロウイルスは,感染しようとする細胞の染色体に自らのゲノムのDNAコピーを挿入する。細胞増殖を調節する遺伝子の近傍に挿入が起きると,正常な細胞増殖が阻害され,細胞が急速に増殖を開始して最終的にはがんが発生する。一般にこのような発がん機序は,ガンマレトロウイルスによってもたらされる。Singh准教授らは,XMRVと前立腺がんにも同様の機序が関与しているか否かを追究している。
 同准教授らは,XMRVの性状,シーケンス比較,既知のレトロウイルス蛋白質との類似性をもとに,このウイルスをガンマレトロウイルス属に分類した。
 ガンマレトロウイルス属は,白血病や肉腫の原因となることが多くの動物種で知られているが,ヒトでがんを引き起こすかどうかはまだ明らかにされていない。
 同准教授らは,334例の前立腺がん切除検体を検討した結果,サンプルの6%でXMRVのDNA,23%でXMRVの蛋白質が検出された。
 同准教授らによると,XMRVは悪性度の高いがんに存在する率が高く,ウイルス蛋白質は悪性細胞に発現していた。このことは,XMRV感染が腫瘍形成に直接関係する可能性を示唆している。
 過去の研究では,RNase L遺伝子の変異を有する特定集団でXMRVの保有率が高いことが示されていたが,今回の研究では感染がRNase L遺伝子の変異とは独立して起こっていた。この知見によって,標的となる“高リスク集団”は,遺伝的な素因を有する特定集団からすべての男性へと拡大されることになる。
 今回の研究によりXMRVに関する重要な疑問が解決されたが,その一方でXMRVは(1)婦人科系のがんにも関与するのか(2)性感染するのか(3)一般人口における有病率はどのくらいか(4)前立腺以外の組織のがんの原因にもなりうるのか-といった新たな疑問が浮上した。同准教授は「これら多くの疑問は,今後の研究課題として取り組むに値する」と述べている。
 また同准教授らは,子宮頸がんを引き起こすヒトパピローマウイルスに対する処置と同様,前立腺がんの予防や治療に,抗レトロウイルス薬やワクチンを活用できる可能性が期待できると結論している。


低侵襲性の前立腺摘除術 一般メディアは利点のみを強調[12月24,31日(VOL.42 NO.52,53]

Brigham and Women's病院(ボストン)のJim C. Hu博士らは,近年有意に増加しているロボット支援などを用いた低侵襲性手技による根治的前立腺摘除術(RP)には,入院日数の短縮,呼吸器と手術合併症の減少という利点がある一方で,尿失禁や勃起不全(ED)などの合併症増大の可能性があるとする新知見を,JAMAの外科治療特集号(2009; 302: 1557-1564)に発表した。

消費者への直接広告が助長
 ロボット支援手術に代表される低侵襲性RP(MIRP)の施行数は,2001年にはRP全体の1%だったのに対し,2006年には40%に達している。しかし,施行数の急激な増加に反して,アウトカムに関するデータは限定的である。
 また,開腹手技では下腹部を切開し,骨盤内の恥骨後面に位置する前立腺を摘出する恥骨後式RP(RRP)が一般的であるが,MIRPはRRPと比べて費用が高い。
 Hu博士は「さらに,MIRP技術習得の初期にはさまざまな課題が存在し,最適なアウトカムが得られないことを詳述した研究結果が複数報告されているにもかかわらず,米国ではロボット支援MIRPに関する消費者への直接広告が行きわたり,その利点がけん伝されていることにより,このような研究とは逆の報道が助長されている。ロボット支援MIRPの有効性が比較試験により実証されるまでは,限局性前立腺がんに対する外科治療のゴールドスタンダードは開腹式RRPである」と述べている。

社会経済的地位と関連
 Hu博士らは,MIRPを施行した男性1,938例とRRPを施行した男性6,899例のアウトカムデータを,サーベイランス・疫学・最終結果計画とメディケアのリンクデータベースから抽出した。対象期間中,2003年のMIRP施行率は9.2%であったのに対し,2006~07年には約5倍の43.2%に増加していた。
 解析の結果,MIRP群では,RRP群と比べて入院期間が短縮され(中央値で2.0日対3.0日),輸血の必要性が低く(2.7%対20.8%),術後の呼吸器合併症(4.3%対6.6%),さまざまな手術合併症(4.3%対5.6%)の発生率が低かった。
 しかし,MIRP群では,RRP群と比べて泌尿器生殖器系の合併症が多く(4.7%対2.1%),尿失禁やEDの診断率も高かった。追加のがん治療の必要性はMIRPと開腹術で同等であった。
 今回の解析では,MIRPに対する保険請求がRRPよりも多い地域は,教育・収入面で社会経済的地位の高い地域であることが確認されている。このことは,社会経済的地位の高い男性利用者が多いインターネット,ラジオ,印刷媒体などを通じたロボット支援MIRPの販促活動が非常に成功した結果であると考えられる。
 同博士は「今回の知見は,社会経済的地位の高い男性は,確立されたゴールドスタンダードに対する優越性を示すデータが不十分であっても,ハイテクを用いた選択肢を選ぶことを示している。MIRPに関連したアウトカムが一貫していないことを踏まえれば,こうした選択は,直接・間接的に医療費を増大させている新技術に夢中になっている社会や医療制度を反映していると言えよう。しかし,新技術の適用初期には,宣伝されているような便益も潜在的な恩恵もいまだ一貫して示されていない」と結論している


前立腺がん原因遺伝子の形成機序が明らかに[12月24,31日(VOL.42 NO.52,53]

 ミシガン大学(ミシガン州アナーバー)探索病理学ミシガンセンターのRam-Shankar Mani博士らは,アンドロゲンを引き金とする一連のシグナルが,前立腺がんのおよそ50%で見つかる「融合遺伝子」の形成を促進しているとScience(2009; オンライン版)に発表した。

遺伝子融合の確率を上げる
 2つの異なる遺伝子配列を含む遺伝子を融合遺伝子と言うが,一部のヒトがんでは遺伝子融合を引き起こす染色体異常が決定的な役割を果たしている。
 慢性骨髄性白血病の場合,フィラデルフィア染色体として知られる染色体の転座によって形成される融合遺伝子BCR-ABLが発症原因であり,この融合遺伝子の特徴が標準的治療薬イマチニブ(メシル酸イマチニブ)の開発につながった。
 造血器腫瘍では融合遺伝子が特徴となる例は多いが,固形腫瘍ではほとんど知られていなかった。固形腫瘍で初めて発見された融合遺伝子の1つが,ヒト前立腺がんで高頻度に見られるセリンプロテアーゼをコードするTMPRSS2遺伝子と,転写因子ETSファミリーのメンバーであるERGをコードする融合遺伝子TMPRSS2-ERGで,バイオマーカーと治療標的として研究が進められている。
 しかし,発がん性融合遺伝子が生じる機序はまだ十分解明されていない。Mani博士らは,今回の研究を行うに当たり,アンドロゲン・シグナルがTMPRSS2ERGの遺伝子融合を容易にするという仮説を立てた。
 同博士らはこの仮説を証明するため,前立腺がん細胞をアンドロゲン受容体と結合する分子ジヒドロテストステロン(DHT)で処理して,アンドロゲン・シグナル伝達を誘発させた。その結果,2つのパートナー遺伝子(そのうちTMPRSS2はアンドロゲンで制御される)を含む染色体領域が近くに移動することを見出した。その後,放射線で処理しDNA二重鎖切断を促したところ,TMPRSS2ERGの融合を確認することができた。
 同博士らは「われわれは,アンドロゲン・シグナル伝達によって遺伝子融合パートナーの5'と3'末端が接近し,その後にDNA二重鎖切断をもたらす化合物にさらされたときに遺伝子融合を来しやすい状態になると推測している」と述べている。
 TMPRSS2の発現は前立腺特異的かつアンドロゲン誘導性で,アンドロゲン・シグナル伝達系は特に前立腺組織に一般的に存在する。以上のことから,これらの知見はこの融合遺伝子がなぜ前立腺腫瘍で見つかり,他の腫瘍タイプでは見つからないのかを説明する助けになるだろう。

日本泌尿器科学会策定前立腺がん検診GL追補版刊行へ[2009年12月3日(VOL.42 NO.49)]

 前立腺がんによるわが国の死亡者は,年間およそ1万人にのぼるが,前立腺がん特異抗原(PSA)検診の累積受診率が低いことから,転移がん発生比率は30%に達しており,深刻な状況である。東京都で開かれた第7回日本泌尿器科学会プレスセミナーでは,群馬大学大学院泌尿器科学の伊藤一人准教授が,同学会が定めた前立腺がん検診ガイドライン(検診GL)の2008年版を一部改定した追補版を刊行する意向を示した。追補版のポイントは,PSA検診による同疾患の死亡率低下効果を検証した欧州と米国の2つの臨床試験の評価を盛り込む点だという。


局所限局性前立腺がんに対する根治的治療経尿道的前立腺切除術ー術後の尿失禁などが起こりにくく、年齢制限もない[2009年12月3日(VOL.42 NO.49)]

 局所限局性前立腺がん(臨床病期:T1~T2NOMO)に対する根治的治療としては,前立腺全摘除術と放射線治療が主体となっているが,術後に尿失禁などの合併症が起こりやすい。また,手術侵襲が大きいため,75歳以上は適応から除外される。こうない坂医院(高知県)の森田勝院長,松原徳洲会病院(大阪府)泌尿器科の松浦健部長らは,局所限局性前立腺がんに対し根治的経尿道的前立腺切除術(RTUR-PCa)を試みている。この手術は,術後の尿失禁などの合併症が起こることが少ないうえ,75歳以上にも適応が可能である。さらに,前立腺特異抗原(PSA)値の再上昇に対し複数回の手術を行うことができる。

clodronate/進行前立腺がん患者の全生存期間を延長
 -限局性には効果見られず[2009年10月22日(VOL.42 No.43]

英国医学研究評議会(MRC,ロンドン)臨床試験ユニットのMatthew R. Sydes氏らは「MRC PR05およびPR04試験の結果から,経口骨粗鬆症治療薬のsodium clodronateにより進行前立腺がん患者の全生存率は改善するが,限局性の場合には死亡リスクは減少しないことがわかった」とLancet Oncology(2009; 10: 872-876)に発表した。

長期観察結果の詳細を発表
 前立腺がんは骨に最も転移しやすいため,clodronateのようなビスホスホネート系薬が進行前立腺がん患者のアウトカムを改善する可能性が示唆されてきた。1994年に,進行性または限局性の前立腺がん患者に対するclodronateの効果を検討すべく,英国主導の2件の臨床試験(MRC PR05,MRC PR04)が開始された。
 PR05では,骨転移がありホルモン療法(標準ケア)を開始していたか,またはそれに反応していた進行前立腺がん311例を,clodronate群またはプラセボ群にランダムに割り付け,最長3年間投与した。PR04では,標準ケア(通常の放射線療法,ホルモン療法またはその併用)を受けていた限局性前立腺がん508例を,clodronate群またはプラセボ群にランダムに割り付け,最長5年間投与した。
 この試験の初期結果は6年前と3年前に発表され,進行前立腺がんで症候性骨転移の進行抑制と全生存率に若干の改善が認められたが,限局性の患者では全生存率の改善またはがん転移の遅延は認められなかった。今回の研究では,両試験に参加した患者のそれ以後の長期生存アウトカムが報告されている。その結果,進行患者ではclodronate群の死亡リスクはプラセボ群に比べて23%低下し,5年後の全生存率はclodronate群で30%,プラセボ群で21%,10年後ではそれぞれ17%,9%だった。一方,限局性患者では,5年後の全生存率はclodronate群で78%,プラセボ群で80%,10年後は48%,51%と,clodronateの便益は認められなかった。
 Sydes氏らは「PR05は,ホルモン療法を開始しているか,それに反応している前立腺がん患者の骨転移において,標準的ホルモン療法に加えて経口投与されたビスホスホネートによる全生存率での便益を示した初の試験である。しかし,clodronateは非転移性前立腺がん患者にとってなんらかの便益があるというエビデンスは得られなかった」と述べている。

denosumabで前立腺がん患者の骨折リスクが低下[2009年10月15日(VOL.42 NO.42]

 マサチューセッツ総合病院がんセンター(ボストン)のMatthew Smith准教授らは,denosumabを年2回投与する国際多施設試験を実施し,アンドロゲン抑制療法(ADT)を受けている前立腺がん患者で骨損失の防止と骨密度の増加,さらに脊椎骨折が予防できることをNew England Journal of MedicineNEJM,2009; 361: 745-755)に発表した。この研究はADTを受けている男性患者で骨折リスクの低減を実証した初の報告である。

脊椎骨折リスクが62%減少
 Denosumab HALT前立腺がん研究グループの一員としてこの研究を率いたSmith准教授は「ADTは局所進行,再発,転移前立腺がん患者に対する標準治療法であるが,この療法が奏効して元気を取り戻した多くの活動的な患者は,骨折に悩まされる。今回の結果は,何千もの前立腺がん生存者のQOLを改善するうえできわめて重要である」と述べている。
 米国では現在,前立腺がん患者200万人のうち約3分の1がテストステロンの分泌を抑制するADTを受けている。ADT関連の骨量減少は,ビスホスホネートなどの骨粗鬆症治療薬で緩和できることが,いくつかの初期小規模試験で証明されているものの,いずれも骨折リスクの低下を立証するには至っていない。
 Denosumabは,正常な骨再生過程において骨を分解する破骨細胞の活性を阻害する完全ヒト型モノクローナル抗体で,骨粗鬆症女性患者に対する骨折予防効果の試験も進んでいる。
 北米と欧州の156施設で非転移性前立腺がんのためADTを受けている男性を対象に,denosumabまたはプラセボを6か月おきに3年間注射投与する群にランダム化割り付けした。被験者にはカルシウム剤とビタミンD剤を期間中,毎日服用するよう指示した。
 その結果,900人以上が試験を完了し,denosumab群では腰椎および全股関節や大腿骨頸部を含むすべてのモニター部位で骨密度が有意に増加し,新規脊椎骨折リスクが62%減少した。また前腕の橈骨の骨密度も増加したが,これは他の骨粗鬆症治療薬には見られない効果だった」
 Denosumab投与に伴う副作用はほとんど認められず,ビスホスホネートの少数の服用患者で報告されている顎骨壊死もなかった。
 同准教授は「denosumabの投与は,前立腺がん生存者の骨折を防止する重要な新療法である。現在,前立腺がんで最も多い骨転移をdenosumabが防止するか否かを検討する臨床試験が進行中である」と述べている。

サルコシンが前立腺がんの新マーカーに[2009年7月16日(VOL.42 NO.29]

 ミシガン大学(ミシガン州アナーバー)病理学科のChristopher Beecher博士は,サルコシンは前立腺がんの検出だけでなく,悪性度の評価にも優れたマーカーであると,欧州泌尿器学会(EAU)で報告した。

尿検査で判定可能
 Beecher博士は,筆頭著者で同大学のArun Sreekumar博士らと前立腺がんに関連する1,000種類以上の分子を検討した結果,アミノ酸の1種,グリシンのN-メチル誘導体であるサルコシンが,前立腺に腫瘍特性を付与するだけでなく,腫瘍の悪性度にも関与していることを見出した。
 Beecher博士は,サルコシンは尿から検出可能なため,現在広く活用されている血液による前立腺特異抗原(PSA)検査に比べて,はるかに簡便な検査法になるだろうと指摘した。
 同博士はまた,PSA値は前立腺がんにおいてしばしば上昇するが,それが直ちに腫瘍の存在を示すものではなく,その悪性度を示唆するものでもないと指摘。「健康な男性の血中にも微量のPSAが存在することも,この検査を複雑にしている要因だ」と述べた。
 今回の研究では,前立腺良性疾患,早期前立腺がん,進行前立腺がんの男性から42個の組織検体と血液検体を入手し,検討した。前立腺がん患者の検体から10種類の代謝産物が大量に検出されたが,そのなかでもサルコシンの量は突出していた。
 今回の研究結果は,同博士によるEAUでの発表に加え,Sreekumar博士によりNature(2009; 457: 910-914)に発表されている。

Topics from Europe
 低リスク前立腺がんの手術に拡大リンパ節は不要
[2009年7月2日(VOL.42 NO.27)]

〔スウェーデン・ストックホルム〕サンラファエル生命・保健大学(伊ミラノ)のAlberto Briganti博士らは,低リスク前立腺がん患者に対する拡大骨盤内リンパ節郭清術(ePLND)は,生化学的無再発生存率に影響を与えないため,この手技の省略は可能であると欧州泌尿器科学会(EAU)第24回年次集会で報告した。

病理解析と無病生存率に有意差なし
 研究責任者のBriganti博士は「低リスク前立腺がんにおけるPLND施行は,最近の複数の試験で疑問視されていたが,いずれの試験もリンパ節除去が不完全で,病期診断の精度が低かった」と述べた。
 今回の大規模多施設試験では,根治的前立腺摘除術を予定していた低リスク前立腺がん患者905例をePLND施行群(553例)とePLND非施行群(352例)に割り付けた。そのうち,手術時の年齢(10歳ごと),術前前立腺特異抗原(PSA)値,生検におけるGleason sum(スコア5と6),追跡期間(6か月ごと)において正確な一致が可能だった348例(ePLND施行群198例,ePLND非施行群150例)でePLNDの有効性を検討。低リスク前立腺がんは,PSA値10ng/mL未満,生検でのGleasonスコア6未満,臨床病期T1cと定義した。ePLNDは閉鎖・外腸骨・下腹リンパ節の切除を含むものとした。
 全解析症例の手術時の平均年齢は63.5歳,平均術前PSA値は5.9ng/mL,生検におけるGleason スコアは6が82.8%,病理病期はpT2が85.9%,病理Gleasonスコアは5〜6が64%であった。ePLND施行群の平均切除リンパ節数は15.8個で,リンパ節浸潤率は2%であった。
 ePLND施行群とePLND非施行群の病理解析結果を比較したところ,病理Gleasonスコアは,2〜6が61.8%対63.3%,7が37.1%対36.7%,8〜10が1.1%%対0%(P=0.43),病理病期はpT2が89.6%対80.7%,pT3aが7.3%対12.7%,pT3bが3.1%対6.7%(P=0.07)で,いずれも統計学的有意差は認められなかった。同様に,Kaplan-Meier法による生存予後の解析で,生化学の結果から判断された無再発2年生存率と5年生存率のいずれにも有意差は認められなかった(2年生存率99.4%対98.8%,5年生存率98.0%対95.6%。log rank検定P=0.4)。
 同博士は「今回のデータでは,根治的前立腺摘除術にePLNDを併用するか否かによる差は認められず,低リスク前立腺がん患者にePLNDは必要ない」と結論した。


進行前立腺がんに”第2世代”抗アンドロゲン薬[2009年7月2日(VOL.42 NO.27)]

〔ワシントン〕スローン・ケタリング記念がんセンター(ニューヨーク)のChris Tran博士らは,アンドロゲン受容体をブロックする新薬MDV 3100は,進行前立腺がんに対する有望な治療薬となる可能性が示唆されたとScience(2009; 324: 787-790)に発表した。
 進行前立腺がんに対しては,がん増殖を促進するテストステロンなどの男性ホルモンの活性を阻害するために抗アンドロゲン薬がしばしば投与される。こうした薬剤の多くはアンドロゲン受容体をブロックし,がん細胞増殖の調節に働くが,腫瘍はやがてアンドロゲン受容体の発現を亢進させ,薬剤抵抗性を獲得する。
 同博士らは,"第2世代"の抗アンドロゲン薬MDV3100を開発した。同薬は培養細胞とモデルマウスにおいて,アンドロゲン受容体の発現亢進後も受容体結合能を失わず,抗がん活性を維持する。その作用は,受容体の核内移動阻害と転写活性抑制の両方に基づくと思われる。
 現在,進行前立腺がん患者を対象とした臨床試験が進行中で,がん増殖マーカーとなる血中前立腺特異抗原(PSA)値の有意な低下が確認されている。


~前立腺がんの腹腔鏡手術~開腹術より多くの経験が必要[2009年7月2日(VOL.42 NO.27)]

〔ロンドン〕スローン・ケタリング記念がんセンター(ニューヨーク)疫学・生物統計学部門のAndrew J. Vickers博士らは,低侵襲性の腹腔鏡手技(いわゆる鍵穴手術)による前立腺がん手術に関して,外科医の経験とがんの再発リスクの相関をもとに技術習得に要する手術件数を検討。その結果,腹腔鏡手術は従来の開腹手術よりも技術習得に多くの手術経験が必要で,特に,開腹手術の経験を積んでいる医師ほど技術習得が困難であることが示唆されたとLancet Oncology(2009; 10: 475-480)に発表した。

3倍の手術件数が必要
 腹腔鏡を用いれば従来の手術と比べて術創がはるかに小さくてすみ,回復・入院期間が短縮され,感染症発症率と術後疼痛を低減できる。今回の知見は,経験の浅い外科医が執刀した場合,がんの再発率が高いことを示唆しており,各医師が1〜2種類のがんの治療に特化しているようながん治療専門センターで治療を受けることが推奨される。
 また,今回,従来の前立腺がん手術の技術を習得している外科医のほうが腹腔鏡手術に必要な技術の習得が困難だった。以上から,Vickers博士は「こうした結果が追認された場合,開腹手術に習熟した医師は,やむをえない理由がない限り腹腔鏡手技への変更は行うべきではない」と指摘している。
 同博士らは,従来の前立腺がん手術の学習曲線を以前に算出しており,執刀医の経験に比例して術後の再発率が減少し,約250件の手術を経験後に横ばい状態となることを確認している。しかし,今回の研究では,前立腺がんの術後再発率を約250件の開腹手術経験後と同等までに下げるには,約750件の腹腔鏡手術を経験しなければならないことが示唆された。
 さらに,開腹手術の経験を積んでいる医師が腹腔鏡手術に変更した当初の再発率は,腹腔鏡手技で行った医師の再発率に比べて,有意に高かった。同博士は「腹腔鏡術後の患者アウトカムは,開腹手術から切り替えた場合,改善に時間がかかるようだ。腹腔鏡下での根治的前立腺がん摘除術には,開腹手術での経験を生かせない技術を伴うと思われる」と指摘。「技術を習熟する過程でのマイナス面が治療に影響しないように,臨床,教育,研究面それぞれからの取り組みが必要である」と結論している。

血清イオン化カルシウム濃度で前立腺がんの予後を予測 [2009年5月21日(VOL.42 NO.21)]

〔米オハイオ州クリーブランド〕前立腺がんを発症した患者の大半はそれにより死亡するが,非致命的な患者もいる。ウェイクフォレスト大学(WFU,ノースカロライナ州ウィンストンセーラム)内科のGary G. Schwartz准教授らは,血中のカルシウム(Ca)濃度を調べることで,致死的前立腺がんか否かを予測できる可能性があるとCancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention(2009; 18: 575-578)に発表した。

最高三分位では死亡リスクが3倍
 これまで,この問題に真正面から取り組んだ研究はなかった。今回Schwartz准教授らは,診断前のイオン化Caの血清濃度と予後との関係を調べたところ,この値が最高三分位の患者では,最も低値の患者に比べて,前立腺がんによる死亡リスクが3倍強高いことが判明した。同准教授の説明によると,血清中の総Caの約2分の1は生理的に不活性で,イオン化Caのみが生理作用を示す。
 筆頭研究者でウィスコンシン大学(ウィスコンシン州マディソン)のHalcyon G. Skinner博士は「現状では治療すべき患者とそうでない患者の鑑別ができていないため,多くが不必要な治療を受けている。今後,今回の知見が確認されれば,血清イオン化Ca濃度が正規分布の下位に属する患者が前立腺がんにより死亡するリスクは,上位に属する患者の3分の1ということになる」とコメントしている。さらに「このような患者では治療開始を遅らせたり,あるいは治療を完全に中止することができるかもしれない。また,薬剤治療によってイオン化Ca濃度を下げ,前立腺がんによる死亡リスクを減少させることが可能になるかもしれない」と述べている。しかし同博士は,血清イオン化Ca濃度と前立腺がんによる死亡リスクとの関連性が数例で認められたからといって,牛乳を飲むのをやめたりする理由にはならないと指摘。「血清Ca濃度は,むしろ遺伝的にコントロールされており,生涯のほとんどの期間は安定している」と述べている。

尿中サルコシン/前立腺がんの進行・浸潤マーカーとしての有用[2009年4月23,30日(VOL.42 NO.17,18]

ミシガン大学(アナーバー)ハワードヒューズ医学研究所(HHMI)のArul M. Chinnaiyan博士らは,前立腺がん患者の尿中サルコシン濃度は,がんの進行と浸潤を示す新たな生物マーカーになりうるとNature(2009; 457: 910-914)に発表した。

1,000種類強の代謝産物を検討
 今回の実験では,前立腺がんの進行により前立腺細胞で発現亢進が見られる10種類の代謝産物が同定された。そのうちの1つサルコシンは,がん細胞の周辺組織浸潤の判定に有用であることがわかった。
 Chinnaiyan博士は「前立腺がんの発症および進行に際して,サルコシン濃度はがん細胞と尿中のいずれにおいても上昇するため,サルコシン測定を非侵襲的な前立腺がん診断に活用できる可能性が示唆された。また,サルコシン経路を標的とした薬剤の開発により,前立腺がんの進行を抑制できる可能性もある」と説明している。
 ヒトの腫瘍に発現する代謝産物1,000種類強の値を解析した研究は今回が初めてである。がんが発症・転移する際には細胞に複雑な変化が起こることが知られている。同博士の研究室では,これまでにも,前立腺がん関連遺伝子や蛋白質がこうした変化にどのようにかかわっているかを広範囲にわたり検討しており,同博士は「代謝産物の特徴を解明することで,起こっている分子的変化の全体像をさらに詳しく把握できるのではないかと考えた」と述べている。
 同博士は「今回の知見は発がんの体系的な把握につながるもの」と指摘。「われわれは,治療法や生物マーカーの研究と,生物学自体の理解のために,遺伝子と蛋白質マーカーの解析も行っている。これがどのように展開していくかはまだわからないが,用いる技術に関しては枠にはまった考え方はしていない」と述べている。

メタボローム解析の意義示す
 Chinnaiyan博士らは,化学物質をその質量と構造の電荷特性に基づいて同定するマススペクトロメトリー技術を用いて,健康人の前立腺組織と臨床的に限局性の前立腺がん,転移前立腺がんにおいて,1,126種類の代謝産物の値を比較した。腫瘍細胞において,健康人の前立腺組織には存在しない代謝産物60種類が確認され,そのうち約10種類の分子の発現が,がん進行に伴い著明に亢進することが確認された。同博士は「今回の研究は,侵襲的な前立腺がんや緩徐に増殖する前立腺がんについて,それぞれと相関する代謝産物の一群を同定できるという概念を検証したもの」と述べている。
 同博士らは,がんの進行に伴う"メタボローム的"な特徴の変化を予測可能な方法で示したのち,さらに対象を絞り込んだ解析,すなわち生物マーカーまたは治療標的として利用できそうな代謝産物を検索した。サルコシンに注目したのは,その発現が臨床的に限局性のがんで亢進しており,転移がんでは著明に亢進していたからである。
 同博士らは,別の組織標本セットにおいてもサルコシン発現の著明な亢進を追認し,さらに前立腺がん患者の尿中には健康人の尿中よりも多くのサルコシンが排泄されることも突き止めた。
 次に,サルコシンが実験室培養した前立腺がん細胞の動きに与える影響を検討。培養細胞にサルコシンを添加したり,細胞の生化学経路を操作することで,サルコシン産生量を増大させると,正常な前立腺細胞が侵襲的ながん細胞に変化することを確認した。一方,がん細胞のサルコシン産生を阻害することで,その侵襲性を抑制することができた。
 同博士は「今回の知見は,細胞ががん化する生物学的な過程にサルコシンが関与していることを実証するものである。サルコシン代謝に影響を及ぼす薬剤は,前立腺がんの治療に有用であることが示唆された。今回の培養細胞における知見を,さらに動物モデルで検証する必要がある」と指摘している。
 さらに「今回,一緒に同定された他の9種類の生物マーカーについても同様の実験を実施することが,次の重要な一歩である。侵襲的ながんを確実に診断するには,単一の代謝産物ではなく複数の代謝産物を組み合わせて用いる必要がある」と付け加えている。

~ホルモン難治性前立腺がん~新しいアンドロゲン受容体変異株を同定[2009年4月23,30日(VOL.42]

 前立腺がんに対してはアンドロゲン遮断療法が有効な場合もあればそうでない場合もある。ジョンズホプキンス大学(メリーランド州ボルティモア)Brady泌尿器学研究所のJun Luo助教授らは,巨大データベースを探索した結果,これまで同定されていなかった7種類の核酸DNA配列を見出したとCancer Research(2009; 69: 16-22)に発表した。これらのDNAの配列は,前立腺がん患者のアンドロゲン受容体に通常認められるものとは異なるものだという。

アンドロゲン遮断がむしろ細胞増殖を促進
 今回,Luo助教授らが前立腺がん患者124例の遺伝子配列を調べたところ,ホルモン遮断療法に反応しない患者では珍しい核酸DNA変異株が過剰産生されていることがわかった。さらに同助教授らは,実験株AR- V7に産生されているある変異株が,その時点でアンドロゲンが皆無であったにもかかわらず,活性にアンドロゲンを必要とする20個の遺伝子のスイッチをオンにしていることを明らかにした。
 同助教授らは以上の知見に基づき,DNA変異株であるAR-V7やおそらくはそれに近い変異株が前立腺がん患者に存在する場合,アンドロゲン遮断療法はむしろがん細胞の増殖を促進する可能性があると示唆している。
 同助教授は「今回の研究結果から,このアンドロゲン受容体変異株を検出するアッセイを開発できる可能性が見えてきた。もしアッセイの開発が実現すれば,どの患者がホルモン遮断療法の候補として適しているかを見分けることも可能となり,既にこの治療法を受けている患者に対しては,疾患の進行を監視する方法を提供することができるかもしれない」とし,「アンドロゲン受容体変異株同士の違いを検討することは,この疾患に対する新薬の開発にも役立つであろう」と述べている。


海外の主要医学誌から/Journal Scan
 前立腺がんに対する葉酸の影響は複雑
[2009年4月16日(VOL.42 NO.16]

 葉酸の前立腺がんへの影響は複雑でサプリメントはリスクを高めるが,食事による葉酸の摂取はリスク低下の方向に働くと,米南カリフォルニア大学などのグループがJournal of the National Cancer Institute の3月18日号に発表した。
 今回の報告は,Aspirin/Folate Polyp Prevention Studyのサブ解析に基づくもので,10.8年間の追跡で葉酸摂取と前立腺がんとの関係を検討した。その結果,プラセボと葉酸補充にランダムに割り付けた男性643例における10年間の前立腺がん診断の推定確率はプラセボ群の3.3%に対し,葉酸群では9.7%と高かった(年齢補正ずみハザード比2.63,P=0.01)。一方,補正後には有意差はなかったものの,マルチビタミン非使用者の登録時の食事からの葉酸摂取量と血中葉酸値は前立腺がんと負の相関を示した。
 同グループは「この結果は,前立腺がんに対する葉酸の複雑な役割を示唆するものである」としている。

  Figueiredo JC, et al. J Natl Cancer Inst 2009; 101: 432-435.
TOPICS from EUROPE
 ~進行性前立腺がんのホルモン療法~放射線療法との併用で死亡率半減 [2009年3月26日(VOL.42 NO.13]
 ウメオ 大学放射線科学・腫瘍学のAnders Widmark教授らの研究によると,高リスク前立腺がんである局所進行前立腺がん患者では,前立腺放射線療法と従来の内分泌(ホルモン)療法の組み合わせにより死亡率が半減できることから,両者の併用を新しい標準治療とすべきであるという。詳細はLancet(2009; 373: 301-308)に発表された。

新たな標準治療に
 今回の第III相ランダム化試験では,局所進行前立腺がん患者を3か月間の抗アンドロゲン療法後,(1)フルタミドによるホルモン療法単独継続群(439例)(2)同ホルモン療法と放射線療法併用群(436例)―の2群に割り付けた。
 平均7.6年の追跡期間後,ホルモン療法単独群では79例,併用群では37例が前立腺がんで死亡した。10年間の前立腺がんの死亡率は,単独群では23.9%で,併用群(11.9%)の2倍であった。全死亡も,単独群(39.4%)に比べ併用群(29.6%)で低かった。
 前立腺特異抗原(PSA)陽性により判断した10年間の前立腺がん累積再発率は,併用群(26%)に比べ単独群(75%)では約3倍高かった。5年後の尿,直腸,性的問題の頻度は,単独群に比べ併用群でやや高かった。
 Widmark教授らは「今回の研究は,局所進行前立腺がん患者において,ホルモン療法単独よりも放射線療法との併用のほうがはるかに優れていることを示している。併用療法は,前立腺がんの死亡率を大幅に低減させた。この差は10年で12%に達したため,全生存率も9.8%改善された。QOLと放射線療法の副作用プロフィールは許容できる程度である。したがって,われわれはホルモン療法と放射線療法の併用を新たな標準治療にすべきだと提案する」と結論している。
 がん研究所(英サットン)のChris Parker,Alex Tanの両博士は,同誌の付随コメント(2009; 373: 274-276)で「今回の研究は重要で,前立腺がんの一次治療において総生存率に対する放射線療法の有用性を初めて証明した」と評価し,「この結果は現在の治療法を変えるもので,長期的なホルモン療法+放射線療法が局所進行前立腺がん患者の標準治療になるだろう」としている。

~前立腺がんの密封小線源療法~家族歴は予後と無関係[2009年3月12日号(VOL.42 NO.11]

 ノースイースト放射線腫瘍センター(ペンシルベニア州ダンモア)放射線腫瘍学のChristopher A. Peters博士らは,前立腺がん患者では第1度近親者家族歴があっても,密封小線源療法のアウトカムに影響はなく,全く家族歴のない男性と比べ臨床的特徴と病理学的特徴はほぼ同じであることがわかったとInternational Journal of Radiation Oncology*Biology* Physics(2009; 73: 24-29)に発表した。この種の研究では初のものである。

散発性疾患の患者と同じ結果
 筆頭研究者で研究実施時はマウントサイナイ医科大学(MSSM,ニューヨーク)のチーフレジデントであったPeters博士は「この情報は,医師にとっても新たに診断を下された患者にとっても,複雑な治療決定を迫られた際に重要となる。前立腺がんの家族歴がある患者でも,選択した治療法に関係なく,散発性疾患の患者と同じ結果が得られると安心することができる」と述べている。
 米国がん協会(ACS)によると,前立腺がんは男性では皮膚がんに次いで多く,患者の多くがある種の前立腺がんの家族歴を有している。家族歴のある男性では前立腺がんを発症するリスクが高いが,家族歴がどのようにアウトカムに影響するかに関しては相反するデータが存在する。
 今回の研究は,臨床的に限局性の前立腺がん患者に関して,前立腺がんの家族歴があること(一家族内に症例の集積があると定義する)が,密封小線源療法を受けた男性の予後に影響するか否かを明らかにすることを目的とした。
 同博士らは,前立腺がん患者1,738例を6か月間(中央値)追跡。そのうち187例には第1度近親者に前立腺がんの既往歴があった。密封小線源療法を受けた患者の場合,低リスク群,中リスク群,高リスク群とも,家族歴の有無は予後にほとんど影響しないことがわかった。外部放射線照射療法または根治的前立腺摘除術を受けた前立腺がん患者を対象に実施されたこれまでの諸研究でも,ほぼ同じ結果が得られている。

~ホルモン療法抵抗性前立腺がん~化学療法前後のCTC数が予後予測に有用~[2009年4月9日(VOL.42 NO.15]

 スローン・ケタリング記念がんセンター(MSKCC,ニューヨーク)のHoward Scher教授らは,血中腫瘍細胞(CTC)数の変化が進行前立腺がん治療後の患者生存と治療反応の予測に有用であることをLancet Oncology(2009; 10: 233-239)に発表した。

PSA値を上回る予測価値
 前立腺がんは男性では最も多いがんの1つで,特に欧米では発症率が高い。通常は50歳を超えてから発病し,ホルモン療法が奏効しなくなるとホルモン療法抵抗性の進行がんと診断される。こうしたがんの進行やがん化学療法に対する反応を予測することは非常に困難であった。
 Scher教授は第一選択薬によるがん化学療法を開始した前立腺がん患者164例において,治療前後のCTC数と生存予後との相関を解析し,前立腺特異抗原(PSA)値の変化やベースライン時の乳酸脱水素酵素(LDH)などの因子についても検討した。CTC数は米食品医薬品局(FDA)の承認を受けたCell Searchシステム(Veridex社)により測定した。
 その結果,治療前の高CTC値と高PSA値はいずれも死亡リスク増大と相関していたが,治療後4,8,12週間での測定値では死亡リスクと著明な相関が認められたのはCTC数だけで,PSA値は限定的な相関しか示さなかった。今回の検討により,第一選択薬によるがん化学療法を開始した患者では治療前のCTC数測定によって生存予後が予測でき,さらに疾患状態,治療反応のモニタリングも可能であることが確認された。治療前と治療後のいずれにおいても,PSA値よりCTC数のほうが予測因子としての価値は高かった。
 同教授は「CTC数は疾患状態の監視に利用でき,臨床試験における生存評価の中間エンドポイントとして有用であると言える。生存に関する中間エンドポイントや代用エンドポイントとしてCTC数を活用すれば,新薬承認までの期間短縮につながるであろう。ただし,バイオマーカーの使用方法の手引きとなるエビデンスを,複数の前向き試験において確立する必要がある」と指摘している。さらに「治療前のCTC数とLDH値,治療後のCTC数変化をすべて考慮に入れることで,最も生存予測の確度が高まった」と付け加えている。


FDA/進行性前立腺がん治療薬を承認[2009年03月05日号(VOL.42 NO.10]

 米食品医薬品局(FDA)は,進行性前立腺がんに注射投与が可能なdegarelixを承認した。前立腺がん治療薬としては数年ぶりの新薬となる。

投与直後からテストステロン値が低下
 Degarelixは,進行性前立腺がん治療薬のうち,ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)受容体拮抗薬と呼ばれる薬剤クラスに属する。このクラスの薬剤は,前立腺がんの持続的成長に重要な役割を果たすテストステロンを抑制することにより,前立腺がんの成長と進行を遅らせる。
 一般に,前立腺がんのホルモン治療では,テストステロン値が低下する前にテストステロン産生が上昇することがある。このホルモン受容体に対する初期の刺激は,腫瘍の成長を抑制せずに,一時的に促進してしまう可能性があるが,degarelixにはこのような作用がない。
 FDA医薬品評価研究センター(CDER)抗がん薬部のRichard Pazdur部長は「前立腺がんは,米国男性のがんによる死因で2番目に多いことから,治療選択肢の増加が求められている」と説明している。
 前立腺がんは,米国で最も一般的に診断されるがんの1種で,2004年にはおよそ19万人の男性が前立腺がんと診断され,2万9,000人が死亡している。
 前立腺がんには病期によって観察,前立腺切除,放射線療法,化学療法およびGnRH受容体に作用する薬剤によるホルモン療法などいくつかの治療選択肢が存在する。

テストステロンの増加はない
 Degarelixの有効性は,進行性前立腺がん患者に同薬またはホルモン療法に現在用いられているleuprolideを投与した臨床試験で立証された。degarelixを投与しても,GnRH受容体に影響する他の薬剤のようにテストステロン値が一時的に増加することはなかった。事実,いずれの薬剤を投与した患者でもほぼ全員でテストステロン値は外科的精巣切除後のレベルにまで低下した。臨床試験で最も一般的に報告された有害反応は,注射部位の反応(疼痛,発赤,腫脹),顔面潮紅,体重増加,疲労,一部の肝酵素の増加であった。DegarelixはRentschler Biotechnologie Gmbh社(独Laupheim)が製造し,Ferring Pharmaceuticals社(ニュージャージー州パーシッパニー)が販売している


~ビタミンC,E~前立腺がんなどでリスク低減効果ない[2009年03月05日号(VOL.42 NO.10]

 Brigham and Women's病院(BWH)とハーバード大学内科(ともにボストン)のJ. Michael Gaziano准教授らは,約1万5,000例の医師を対象とした大規模がん予防研究を行い,ビタミンEまたはCのサプリメントを長期間摂取しても,前立腺がんやそのほかのがんのリスクは低下しないとJAMA(2009; 301: 52-62)に発表した。

男性医師を対象に検討
 これまで,いくつかの観察研究では,ビタミンEとCの摂取量の増加または血中レベルの上昇はがんリスクの低下と関連することが示されている。しかし,Gaziano准教授らは「ビタミンEとCが全がんリスクまたは特定のがんリスクを減らすという決定的証拠は,大規模ランダム化試験で検証しなければならない。いくつかの試験は,がん予防におけるビタミンの潜在的役割の解明を目的としているが,これらの試験で一致した結果は得られていない」と指摘している。
 研究の背景情報によると,長期的な健康維持効果は確認されていないにもかかわらず,米国の成人の半数以上はビタミンサプリメントを摂取しており,なかでもビタミンEとCが最も普及している。
 同准教授らは,前立腺がん発症リスクおよび全がん発症リスクに対するビタミンEおよびCの効果を検討するため,ランダム化プラセボ対照試験Physicians' Health Study IIを行った。この研究には,登録時点で50歳以上の米国男性医師1万4,641例が組み入れられ,うち1,307例にがんの既往があった。対象は,プラセボを摂取する群,400IUのビタミンEサプリメントを1日おきに摂取する群,500mgのビタミンCサプリメントを毎日摂取する群にランダムに割り付けられた。
 平均8.0年の追跡期間中,1,943例になんらかのがんが確認され,そのうち1,008例は前立腺がんであった。ビタミンE群,C群とも,プラセボ群と比べて前立腺がんおよび全がん発症に対する予防効果は認められなかった。また,両ビタミン群とも,結腸直腸,肺,膀胱,膵臓を含む特定部位のがんへの有意な予防効果も認められなかった。
 以上から,同准教授らは「中高年男性のがん予防を目的としたこれらのサプリメントの使用は支持できない」と結論している。


局所進行前立腺がんには内分泌+放射線療法を標準治療に[2009年2月5日号(VOL.42 NO.6]

 局所進行前立腺がんに対する治療として内分泌療法に放射線療法を併用することにより,内分泌療法単独と比べて前立腺がんによる死亡と全死亡が有意に減少することを示す北欧での第III相試験の結果が,Lancetの1月24日号に発表された。
 ハイリスクの局所進行前立腺がんに対する放射線療法の有効性を検討したオープンの第III相試験にはノルウェー,スウェーデン,デンマークの47施設が参加。1996〜2002年に登録した875例を,3か月間の完全なアンドロゲン遮断後にフルタミドによる内分泌療法単独群439例と内分泌+放射線療法併用群436例にランダムに割り付けた。症例の78%がT3でリンパ節および遠隔転移はなく,前立腺特異抗原(PSA)値は70ng/mL未満であった。
 中央値7.6年の追跡で,内分泌単独群の79例と放射線併用群の37例が前立腺がんにより死亡した。10年間の前立腺がんによる累積死亡率は内分泌単独群の23.9%に対し,放射線併用群では11.9%と有意に低かった〔相対リスク(RR)0.44,P<0.0001〕。10年間の累積全死亡率は内分泌単独群39.4%,放射線併用群29.6%であった(RR 0.68,P=0.004)。また,10年間の累積PSA再発率も放射線併用群が有意に低かった(25.9%対74.7%,P<0.0001)。5年後の治療による尿路や直腸,性機能の合併症は放射線併用群でわずかに多く見られた。試験実施グループは「ハイリスクの局所進行前立腺がんには内分泌+放射線療法を標準治療とすべきである」と結論している。(海外の主要医学誌から)


前立腺がん 遺伝子の活性化状態で診断[2009年1月1,8日号(VOL.42 NO.1,2]

 遺伝子工学に基づく新たな診断法により,前立腺がんの疑いのある男性患者に対する腫瘍細胞の探索が改善され,前立腺生検を繰り返し行う必要がなくなりそうだ。ドイツがん研究センター(DKFZ,ハイデルベルク)のHolger Sültmann博士らは,ドイツ国立ゲノム研究ネットワーク(NGFN)の助成のもとで研究を行い,特定の遺伝子の活性化パターンから確実な診断の手がかりが得られることを突き止め,ドイツ教育研究省(BMBF)のNewsletter(2008; 39: 8)で報告した。
 これまで,全症例の3分の1では,腫瘍が小さすぎたり,細い生検針で腫瘍組織の採取に失敗したりしたために正しく診断が付けられていなかったが,この新しい方法を用いれば,たとえ採取組織標本にがん細胞が含まれていなくとも十分に診断が可能だという。採取した前立腺細胞のなかで,今回同定された5個の遺伝子が活性化しているかどうかが決定的な判断材料となる。
 同博士らは,まずマイクロアレイ技術と文献調査を通じて,がん患者と健康者の正常な前立腺細胞中で活性化状態が異なっている29個の遺伝子を同定した。次に,病理学的検査では腫瘍細胞が認められなかったがん患者の組織標本で調べたところ,腫瘍の大きさや種類,患者の年齢や血中PSA濃度とは関係なく,がん患者の前立腺中により多く見出される5個の遺伝子を同定することができた。
 この新たな診断法の臨床的有用性については,NGFN-Plusの研究事業の一環として行われる今後3年間の研究を通じて検証される。実用化されれば,前立腺がんが現在よりもはるかに確実かつ早期に発見できることになると期待されている。


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