定例新居浜小児科医会(平成5年3月以降)

新居浜小児科医会誌
第400回記念
平成13年12月25日発行


平成17年(442回→453回)


第453回忘年会

 
 平成17年12月14日(水)に、第453回新居浜小児科医会(忘年会)が「すし捨」で開かれました。
出席者は11名でした。
                    出席者名
(前列左から) 渡辺敬信、加藤文徳、真鍋豊彦、塩田康夫、松浦章雄
(後列左から) 藤枝俊之、後藤振一郎、小西行彦、山本浩一、矢口善保、久米 綾(敬称略)

第452回

日時
平成17年11月9日(水)
話題提供 「予防接種広域化後の当院の予防接種状況 愛媛労災病院 小西行彦
高橋こどもクリニック 高橋 貢
話題提供 「定期健診の記念にプリクラをとりませんか?」

1. 話題提供

   予防接種広域化後の当院での予防接種状況

        愛媛労災病院小児科 小西 行彦


 平成17年4月から予防接種広域化が実施された。10月までの半年間の当院での予防接種の状況を報告した。
 平成17年度上半期(4~10月)における当院で予防接種(BCG、三種混合、二種混合、麻疹、風疹)の実施総数は673回で、うち22回が広域対象者であった。広域対象者の全体に占める割合は3.3%で、予防接種別に見ると、麻疹1%、三種混合3%、BCG5%であった。広域対象者は8名で、四国中央市6名、西条市2名、全員が当院にて出生した児であった。この期間の当院での出産件数は148件で、うち26件が四国中央市、10件が西条市の妊婦であった。このうち当院で予防接種を行っているのは2名(四国中央市1名、西条市1名)であった。これらの結果から予防接種広域化による利用者はいるものの、その数はまだまだ少数であると思われた。

(解説)
 予防接種広域化というのは、県内であれば、住所地の市町以外でも特別の手続きなしで個別に定期の予防接種が受けられるという制度である。恩恵を受ける対象者は限られるが、あって当然の制度である。日本の予防接種行政は、発展途上国なみの未熟さである。小児科医が驚愕するような接種方法の変更が、突然、厚生労働省から通達される。また、欧米では当然接種されているヘモフィルスインフルエンザbなどのワクチンも、わが国では実施のめどさえ立っていない。日本の予防接種には改善されねばならない問題点が山積している。

2.話題提供

 定期健診の記念にプリクラをとりませんか?

        高橋こどもクリニック        高橋 貢

 近年の少子化や核家族化に伴い、母親の育児に対する不安は大きな問題となっている。そのために、育児について何でも気軽に相談できる機会、特に乳幼児健診は集団および個別ともに重要な役割を担っていると思われる。今回、私たちは個別健診の敷居を低くし、健診を楽しく頻回に利用していただくためにプリクラを差し上げるサービスを試みた。また、健診時にこのサービスに対する簡単なアンケートを施行したので報告した。
 対象は平成17年1月から6月までに当院で健診を受けた乳幼児、およびその保護者。プリクラは、看護師が身体計測時にデジタルカメラを用いて写真をとり、コンパクトフラッシュを移動し、エプソンPM−A870を使用し、専用光沢フィルム(ミニフォトシール)にプリントした。
 平成17年1月から6月までに、予約の上、当院で健診を受けた乳幼児は256名、延べ328回であり、プリクラのサービスを説明したところ全員が希望した。今回の健診までにプリクラをとったことがあったものは184名(72%)で、72名(28%)は初めてで、非常に感謝された。また、大半の人がこの試みは良く、次回にも希望された。

考察

 今回私たちは個別健診をより楽しく、何でも話し相談できる場として頻回に利用していただくために、希望者にプリクラを差し上げるサービスを試みた。保護者からの評価は非常に良好であった。写真撮影からプリント終了までに要する時間は数分で、健診終了時には保護者に手渡すことが可能であった。パソコンを通さず、デジタルカメラ内のコンパクトフラッシュを移動し、プリンタで印字する方法をとったため、写真の加工はできないが、操作が簡単で出来上がりまでの時間も短くなり、誰でも簡単にプリクラを作成することができた。このサービス施行前後の健診数の検討では、今回の健診数は平成16年1月から6月までの健診数とほぼ同数であり、現時点では増加傾向は認められなかった。写真撮影を通し当院スタッフとお母さんとの話が弾み、時には私も赤ちゃんを抱っこして一緒に写真撮影することもあり、健診の雰囲気は大変明るくなった。今後、健診が楽しくなることで、実際に何でも相談でき、育児不安が解消したか否かなどの本質的な検討およびこのサービスで健診数が増加するか、さらに健診が増えることで一般外来患者数も増加するかなどの検討をしたいと考えている。現時点では、個別健診の敷居が低くなり楽しい雰囲気になったことは事実であり、今後ともこのサービスを続けていこうと考えている。

(解説)
 疾病の治療とあわせ、乳児健診、予防接種などは小児科医に課せられた重要な業務のひとつである。これらは一般の診察と違って、受診する子供たちはほとんどの場合みんな“元気な子供”である。よって、診察の中にこういう遊び心があってもいい。健診の方法も、時代の変化につれて変わってゆく。

(文責 加藤 文徳)


第451回

日時
平成17年10月12日(水)
症例呈示 「エルシニア感染により多臓器不全をきたした1例 愛媛労災病院 小西行彦
西条市立周桑病院 岩瀬孝志
話題提供 「『子どもの虐待の臨床』(南山堂出版)を読んで」

1. 症例呈示 

 Yersinia pseudotuberculosis 感染により多臓器不全を来した1例

       愛媛労災病院小児科 小西 行彦

症例:14歳、女児

主訴:発熱、発疹、腹痛、嘔吐
家族歴:特記事項なし 食事歴:井戸水の使用歴なし
既往歴:特記事項なし
現病歴:平成16年3月1日、発熱、腹痛、嘔吐が出現し前医を受診した。症状からインフルエンザと診断されタミフルを処方された。夕方から四肢関節痛、掻痒感を伴う発疹が出現した。翌日になって症状が増強したため再診。血液検査にてCRP・肝逸脱酵素の上昇を認め入院となった。フルマリン、強力ネオミノファーゲンなどが投与されていたが3日朝、血圧低下(収縮期圧50台)、意識障害を来たしたため当院へ紹介入院となった。

入院時所見:


体重:56kg、身長:165cm 体温:39.2℃ 心拍数:108回/分 呼吸数:24回/分 血圧76/40 Torr 意識状態:JCS 20点 咽頭:発赤を認める 肺音:清明 心音:整・雑音なし 腹部:平坦・軟、右側腹部に圧痛、筋性防御なし 肝臓:2横指触知 脾臓:触知せず 皮膚:全身に軽度の浮腫を認める、軽度黄染、下腿に紅斑 リンパ節:触知せず 項部硬直:なし

入院時検査:


<血液検査(静脈血)>WBC 17500 /μl CRP 13.64 mg/dl BUN 39.3mg/dl  Cr4.2mg/dl T.Bil.4.9mg/dl GOT 195 U/L GPT 335 U/L LDH 576 U/L CPK 656(MB28) PT-INR 1.48 FIB 444 mg/dl FDP 6.8 μg/ml
<心エコー> EF36%と壁の運動が低下しており、特に心室中隔の運動低下が著明。
<心電図>V2〜5にかけてSTの上昇を認めた。
<腹部CT>軽度脂肪肝
<培養検査>便(低温増菌培養):Yersinia pseudotuberculosis(1+)
<エルシニア抗体価> (3月5日)×40未満 (4月5日)×80 <抗YPM抗体> (3月3日)陰性 (7日)陰性 (18日)陰性 24日陰性

 心エコー、心電図の所見およびCPKが高値であったことから心筋炎の可能性が考えられたため、循環器内科にコンサルトし、低血圧性ショックに対し輸液および昇圧剤の投与を開始した。結果、速やかに血圧の上昇を認め、その後行った心臓カテーテル検査でも心筋の運動は良好であった。その後も循環状態は良好で、入院3日目にはカテコラミンを中止した。以降も血圧の低下は認めなかった。肝・腎機能も循環状態の改善とともに改善した。感染症に対してはCEZを投与し、γグロブリンを2日間投与した。発熱は入院6日目まで続いた。CRPは徐々に低下し入院7日目に陰性化した。解熱後、全身状態は良好で入院13日目の心臓超音波検査・心電図でも異常認めず入院18日目退院とした。

結語
 Yersinia pseudotuberculosis(以下、Y.pstbと略)感染によって多臓器不全を来した症例を経験した。分離菌からypm遺伝子が検出されたことからYPMの関与も考えられた。Y.pstb感染は、日本では全身症状が見られる率が高いといわれている。腹部症状に加え皮膚症状や腎不全などの全身症状が見られる症例ではY.pstb感染も鑑別にあげる必要があると考えられた。

(解説)
 エルシニアは腸内細菌科のグラム陰性桿菌であり、感染症をひきおこすのはYersinia enterocolitica(以下、Y.entと略)と、Y.pstbの二種である。Y.ent感染症の症状は胃腸炎型がほとんどであるが、Y.pstb感染症の症状は多彩である。主要な症状は発熱、発疹と腹部症状であるが、眼球結膜充血、イチゴ舌などの川崎病の診断基準を満たす症例が一部存在する。さらに腎不全を認める症例もある。エルシニア感染症の診断は、糞便などからの菌分離か血清抗体価の上昇による。菌の検出には、特殊な技術が必要であり、通常の細菌培養では検出されない。よってエルシニア感染が疑われた場合は細菌検査室担当者にその旨を伝えねばならない。YPM(yersinia pseudotuberculosis derived mitogen)はスーパー抗原活性を有する外毒素である。本疾患の症状の多彩さはYPMによるT細胞の過剰な活性化、サイトカインの過剰な産生が関係している可能性が考えられる。エルシニア感染症はまれではあるが、症状が多彩なことから、小児科医にとっては注意を要する疾患のひとつである。

2.話題提供

 『子ども虐待の臨床』(南山堂出版)を読んで

    西条市立周桑病院  小児科 岩瀬 孝志


 子どもの虐待の年間推定発生数は3万5千件を越えており、毎年200人近くの虐待死が確認されている。子どもの虐待を疑った場合には重症度を判定し、初期対応では子どもの安全の確保・維持が必要とされている。虐待を受けた子どもは病院に搬送され、医師は虐待かどうかの判断を求められる。この本は、虐待の臨床像とその時の診断・対応方法について詳しく述べられている。当院でも頭部外傷を受けた児に対応することがあった。この本の第3章「虐待による頭部外傷」で述べられている報告によると、日本の児童虐待による頭部外傷では、以下の項目が共通するとされている。当院のケースもすべてこれを満たしていた。

1、 日本では直接打撲が多くshakingによるものが少ない
2、 年齢は1歳未満が最も多い
3、 病態としては急性硬膜下血腫が多い
4、 来院時の主症状はけいれん、意識障害、呼吸障害である
5、 眼底出血の合併が多い
6、 打撲、火傷などの体表の外傷の合併が多い
7、 重症例では脳の虚血性変化、二次的脳萎縮により知的予後が不良である

 児童虐待では、養育者に虐待という認識が無い場合がある。虐待に対し関係機関が関与しようとしても、虐待が発生したあとでは結末は悲惨な状態が多い。虐待は、それを未然に防ぐ手段を考慮していかなければならないと痛感した。

(解説)
 われわれの生活の中には暴力があふれている。児童虐待がマスコミで報道されても、もはや驚きはなくなった。われわれ医療従事者に求められることは、子供を目の前にしたとき、どんな場合でも虐待を見逃さないことである。さらに、他の関係機関との連携を絶やさず、虐待を未然に防ぐ努力を続けることである。

(文責 加藤 文徳)


第450回記念祝賀会

 第450回記念祝賀会が平成17年9月14日(水)午後7時から、ユアーズで開かれました。記念講演、写真撮影に続き、別室で懇親会がもたれました。出席者は14名でした。
                           出席者名
(前列左から) 篠原文雄、塩田康夫、加藤文徳、真鍋豊彦、渡辺敬信、松浦章雄、
(後列左から) 高橋 貢、大坪裕美、岡本健太郎、矢口善保、小西行彦、後藤振一郎、占部智子、星加 晃(敬称略)
記念講演 「別子銅山の基地、東平・四阪島と赤石山系」 住友別子病院科 加藤文徳
松浦小児科 松浦章雄
しおだこどもクリニック 塩田康夫

 今回の新居浜小児科医会は第450回の記念祝賀会として、「別子銅山の基地、東平、四阪島と赤石山系」のタイトルで、加藤文徳、松浦章雄、塩田康夫の三会員がスライドを交えそれぞれの思い出を語った。

1.四阪島(しさかじま)

      住友別子病院小児科 加藤 文徳


 過去における栃木県の足尾鉱毒事件と、愛媛県の別子銅山の煙害問題は、環境汚染が問題となった公害の原点といわれている。
四阪島は新居浜の沖に浮かぶ煙突の島である。明治38年、その煙害対策として新居浜からこの四阪島へ銅精錬所が移され操業を開始した。私は昭和28年四阪島で生まれ、昭和37年まで二度にわたり足掛け6年間、この島で生活した。昭和51年その銅精錬所の火は消えた。現在、四阪島への一般人の立ち入りは禁止されている。

2.東平(とうなる)

      松浦小児科    松浦 章雄

                   
 450回記念祝賀会ということで、小児医療とは関係の無い話題になった。
 新居浜市は別子銅山とともに発展してきた町である。一方、鉱山の町では、鉱山の盛衰とともに町の消長があり、大きな集落がそっくり無くなってしまうこともある。別子銅山でも、旧別子・東平・四阪島がその例である。
 東平は、別子銅山の鉱脈を擁する赤石山系の北側の中腹で、標高700mの辺りに位置する。明治時代の終り頃から大正時代は別子銅山の中心であった。住友鉄道の終点から徒歩で山道を2時間かかる山中に、3,000人の人が住み、活気ある社会を形成していた。私は昭和16年から21年まで(1歳半から小学校1年生1学期まで)東平に住んだ。想い出話とともに往時の写真などで東平を紹介した。
 東平は、昭和43年(1968年)、銅山の閉山とともに人家全てが無くなり、杉林と化したが、20数年後、マイントピア東平として再開発された。昔の学校跡に宿泊施設「東平自然の家」、坑内電車駅跡に「東平歴史記念館」が出来ている。市民にとって、自分の町の生い立ちを知る遺跡と言えよう。

3.赤石山系

     しおだこどもクリニック 塩田 康夫


 新居浜の背後にそそりたつ赤石山系は、最高峰でも千七百メートルほどだが、四国の他の山域にない大きな特徴を持っている。その1は、別子銅山の産業遺跡を有している。その2は、煙害を克服するため植林したカラマツ林が根づいている。その3は、西赤石にはアケボノツツジ、銅山峰にはツガザクラ、アカモノの大群落がある。その4は、東赤石には多種類の高山植物が群生している。その5は、ニツ岳から東赤石に至る峻険な岩峰群を有している。
 今回演者の属する山岳会の、故人になられた岳友のスライドを中心にこれらを紹介した。

(文責 加藤 文徳)

第449回

日時
平成17年8月10日(水)
症例呈示 「大量鼻出血により重度の貧血をきたし発症した急性リンパ性白血病の1例」 県立新居浜病院 久米 綾
話題提供 「子どもの眠りについてー神山 潤先生の講演を聞いてー」 川上こどもクリニック 川上郁夫
その他 「三歳児健診」の視力について

1. 症例呈示

  大量鼻出血による出血性ショックを呈した急性リンパ性白血病の1例

      県立新居浜病院小児科 久米 綾

 症例は4歳の男児で、主訴は顔色不良と鼻出血、既往歴に特記事項はない。平成17年2月15日から発熱と咳が出現し、近医で咽頭炎と診断され抗生剤を処方されていた。その後も発熱は続き、18日から下肢に紫斑、19日夕方から鼻出血と嘔吐が出現した。出血が続くため同夜急患センターを受診したが、自宅安静を指示された。翌日近医を受診し、顔色不良のため精査加療目的で同日当科に救急搬送された。入院時、HR170/分、BP112/58mmHg、SpO294%、意識レベルはJCS200、皮膚は冷感湿潤でありプレショック状態を呈していた。顔色蒼白、右眼周辺に皮下血腫を認め、肝臓は肋骨弓下に2横指触知、躯幹および下肢に数個の紫斑がみられた。検査所見はWBC4800/μl(Neu2%)、Hb2.8g/dl、Plt8000/μlと、著明な貧血および好中球と血小板の減少、CRP、BUN高値、代謝性アシドーシス(pH7.139)などを認めた。濃厚赤血球輸血を施行しながら愛媛大学医学部付属病院小児科に搬送した。精査の結果、急性リンパ性白血病と診断され現在加療中である。
 急性白血病の初発症状のうち約25%にみられる出血傾向は、大部分が紫斑であり、鼻出血を呈する症例は比較的少ない。かつ本症例のように大量の鼻出血を契機に診断される症例は非常に稀である。鼻出血は一般診療においてはよく経験し、大部分は基礎疾患のないものであるが、持続するものは本症例のような重篤な疾患である可能性もあるため、当然ではあるが注意が必要であると思われた。

(解説)
 白血病の初発症状は多彩である。そのなかで頻度の高い症状は発熱、顔色不良、四肢痛、出血傾向などである。白血病を常に念頭においていれば、いくら初発症状が多彩であるといっても、これを見逃すことはない。また、見逃すことがあってはならない。発表された症例は、出血傾向が激しく重症化している。残念なのは、鼻出血が止まらず医師会急患センターを受診しているのに、見逃されていることである。患者は自宅安静を指示され、その結果プレショックに陥るほど重症化している。注意深い診察があれば、これは防げたかもしれない。

2. 話題提供

 子どもの眠りについてー神山潤先生の講演を聞いてー

     川上こどもクリニック  川上郁夫


 最近、社会環境の変化(コンビニに代表される夜型社会の繁栄)により、日本の子どもの就寝時間がだんだん遅くなってきていることがいろいろな調査で明らかになってきた。そのために、子どもの体調が異変をきたしていると言われている。今回、子どもの睡眠の研究では日本で第一人者の神山潤先生の講演を聞いたので、紹介した。
 ヒトは通常、「夜になると眠り、朝になると目覚める」を毎日繰り返している。これを「睡眠覚醒リズムの周期はほぼ一日である」と表現し、ほぼ一日の周期のリズムを「サーカディアンリズム」(概日リズム)と呼ぶ。身体のなかには、睡眠覚醒リズムの他にもほぼ一日を周期とするさまざまな生体現象があり、代表的なのは体温である。体温は明け方に最低になり、午後から夕方にかけて最高になる。成長ホルモンは寝入ってすぐの深いノンレム睡眠期にたっぷりと分泌され、メラトニンは朝目覚めた後14−16時間してから分泌される。コルチコステロイドは早朝起床時にもっとも多量に血液中に分泌され、その代謝物の尿への排泄量も早朝に増える。このようなさまざまなリズムを統制する機能を担っているのが視交叉上核で、ここに生体時計がある。生体時間の周期は地球の周期である24時間より長く、そのため生体時間を地球時間に同調させる必要がある。生体時計を地球時間に同調させるのに有効な因子は朝の光、食事、社会的環境で、なかでも朝の光による同調作用が最も効果的である。しかし夜ふかしでは朝の起床時間が遅くなり、朝陽を浴び損ね、生体リズム確立に支障をきたす。
 
 夜ふかしの問題点

1. 睡眠時間の減少
  糖尿病や高血圧を介して老化をすすめ、免疫機能を低下させ、さらには知的機能や情緒面にも影響する。
2. メラトニン分泌低下
  メラトニンは脳内の松果体で生合成されるホルモンで、抗酸化作用や性的成熟の抑制作用がある。1‐5歳のころに最も大量に分泌され(メラトニンシャワー浴びる)が、夜明るいと分泌が抑制   される可能性がある。
3. コルチコステロイド分泌パターンの変化
  分泌量が悪くなり、日内変動が乱れ、目覚めに対して身体が準備不足の状態で朝を迎え、昼間イライラを感じる可能性がある。
4. 脱同調(慢性の時差ぼけ状態)
  生体リズムの相互関係が本来あるべき関係とは異なる状態になってしまうことを「脱同調」と言う。症状として不眠、眠気、作業能力率低下、全身倦怠感、食欲不振、意欲低下等の体調不良   を示す。日中の活動量が低下し、脳由来神経栄養因子やセロトニンが低下し、学習力低下・認知能力低下をきたし、攻撃性やイライラ感が増強し“キレ”る可能性もある。
5. 生活習慣病
  就床時間が遅く睡眠時間が少ないことが小児に肥満をもたらす大きな要因であることが疫学的に証明されている。

(解説)
 女性の社会進出が進み、働く母親が増えた。乳幼児期であれば、昼間は子どもを託児所に預け、仕事が終わってからひきとる。結果として、子どもは大人の夜型の生活に引きずり込まれる。一方学童期に入れば、子どもは勉強そっちのけで夜遅くまでテレビゲームに興じ、インターネット、携帯電話での交信に時間を費やす。これでは、子どもは早い時間には寝られない。今後さらに夜型の社会が進んでゆくであろう。この社会で育った子どもたちの健康は、将来いったいどうなるのであろうか。

(文責 加藤 文徳)

第448回夏季懇親会

 平成17年7月13日(水)に、第448回新居浜小児科医会(夏季懇親会)が「天ふじ」で開かれました。
出席者は11名でした。
                    出席者名
(前列左から) 山本浩一、松浦章雄、真鍋豊彦、久米 綾、塩田康夫
(後列左から) 岡本健太郎、藤枝俊之、矢口善保、上田 剛、小西行彦、加藤文徳(敬称略)

第447回

日時
平成17年6月8日(水)
症例呈示 「カルベニンによる薬疹を認めたマイコプラスマ肺炎の1例」 十全総合病院 上田 剛
話題提供 「日本外来小児科学会・春季カンファレンスに参加して」 しおだこどもクリニック 塩田康夫

1. 症例呈示 「カルベニンによる薬疹を認めたマイコプラズマ肺炎の一例」

    十全総合病院小児科 上田 剛

 マイコプラズマ肺炎は、マクロライド系などの適合抗菌薬の効果がおおむね良好な疾患である。我々は、その早期の診断法としてイムノカードマイコプラズマIgM抗体(以下、マイコ抗体と略す)を使用している。今回、治療開始時マイコ抗体陰性の肺炎に対しダラシンSとカルベニンを使用したところ、経過中に発疹と肝機能障害が出現した。最終診断はマイコプラズマ肺炎とカルベニンアレルギーと考えたが、診療上いくつかの反省点があったので報告した。
 症例は7歳女児で、主訴は発熱と咳嗽。家族歴では兄が1月初旬に1週間の発熱と咳嗽があった。患児は1月20日から発熱と咳嗽が持続し近医で加療されていた。抗菌薬は投与されていなかった。1月24日(第5病日)当科受診、胸部レントゲンにて左中下肺野に肺炎を認め入院とした。白血球数 5,400 /mm3、CRP 0.79mg/dl、マイコ抗体陰性であった。異型肺炎の診断でダラシンSを開始した。入院2日目、41℃の高熱と全身倦怠感のため重篤感があり、カルベニンを追加した。以後も高熱持続し、入院4日目に肺炎像の拡大を認めた。ミノマイシンへの変更とステロイド投与を考慮したが、全身状態と咳嗽がやや改善傾向となり、年齢的にミノマイシンの副作用が心配されたため、同じ治療を継続した。しかしその後も高熱持続し、入院7日目に発疹が出現した。入院8日目(第12病日)の検査でマイコプラズマPA抗体の陽性化(1280倍)と肝機能障害(GOT 122 IU/L、GPT 112 IU/L、LDH 1035 IU/L)を認めた。さらに、肺炎像は両側多発性に増悪していた。この時点で、発疹と肝機能障害を合併したダラシンS不応性のマイコプラズマ肺炎と考え、抗生剤をミノマイシンへ変更し、発疹に対しては水溶性プレドニンの投与を開始した。翌日、解熱した。発疹は顔面・頸部・前胸部から全身性に拡大した非古典的多型紅斑であったが、プレドニンの1週間投与で消失した。咳嗽と肺炎像もミノマイシン7日間投与で消失し、入院17日目に肝機能障害も改善し翌日退院となった。退院後に実施した薬剤によるリンパ球刺激試験でカルベニンが陽性薬剤であったので、発疹についてはカルベニンアレルギーによる薬疹と診断した。
 以下が反省点であり、今後の診断治療に役立てたい。
 1)マイコプラズマ肺炎の発症早期(特に1週間以内)におけるマイコ抗体の陰性結果は慎重に判断せねばならず、他の検査法の併用や早めの再検査などが必要である。
 2)適合抗菌薬投与にも拘らず発熱が遷延する重症マイコプラズマ肺炎では、効果が期待できる別の抗菌薬への変更や、ステロイド投与の適応を十分考慮せねばならない。
 3)血液検査などから判断して、マイコプラズマに無効な抗菌薬の併用投与は控えねばならない。

(解説)
 肺炎の診療に際しては、前投薬の内容、臨床経過、理学所見、レントゲン所見、血液検査の結果などから総合的に肺炎の原因菌を推測し、治療に使用する抗菌薬を決定することになる。原因としてマイコプラズマが疑われれば、まずはマクロライド系を選択することになる。一方、マイコプラズマ肺炎の発症には細菌の直接作用だけでなく、宿主の免疫反応を介した間接作用も関係すると考えられている。よって、マイコプラズマ肺炎の治療中に臨床症状の改善を認めない場合、その原因はマイコプラズマに対する抗菌薬が無効なのか、他の細菌の混合感染か、あるいは免疫反応の亢進によるものかを判断する必要がある。その結果で抗菌薬を変更あるいは追加したり、ステロイド剤の使用を検討する必要がある。マイコプラズマに限らず、肺炎の治療において使用される抗菌薬は慎重に選択されねばならない。

2. 話題提供 「日本外来小児科学会・春季カンファランスに参加して」
  (急性上気道炎と関連疾患における抗菌薬適正使用を考える〜ガイドラインの提唱)

  しおだこどもクリニック  塩田康夫

 本邦における耐性菌の現状は深刻である。小児の呼吸器感染症、とりわけ中耳炎の起炎菌として重要な肺炎球菌の耐性頻度は80%程度となり、また小児の髄膜炎起炎菌として最も頻度の高いインフルエンザ菌でも耐性菌が確実に増加している。このような耐性菌増加の原因は、外来診療における抗菌薬過剰使用(とりわけセフェム系)であることが明らかになった。
 欧米では耐性菌の増加を防ぐために国策あるいは学会などの公的な機関の方針として、抗菌薬の使用指針を定める動きが活発である。日本外来小児科学会もこれらを参考にしつつ、ワーキンググループが適正使用ガイドライン作成のため2000年から調査・研究を進め、この5月に発表したので今回そのガイドラインを報告した。以下にその骨子を記すが、当日の資料が残っているので必要な方はご連絡下さい。
 1)感冒に対しては抗菌薬の適応はない。
 2)咽頭炎・扁桃炎の多くはウイルスが原因であり、溶連菌による場合を除いて抗菌薬は必要ない。
 3)急性副鼻腔炎も大部分がウイルスであり、多くは自然治癒する。
 4)急性中耳炎も多くは自然治癒する。経口抗菌薬の第一選択はアモキシシリンである。
 5)気管支炎の原因もほとんどがウイルスであり、基礎疾患のない患児では抗菌薬を使用しない。
 6)高熱の患児では血液検査などでリスク(重症細菌感染症の可能性)を慎重に評価する。
    
(解説)
 今回報告されたガイドラインによれば、小児科外来診療での急性上気道炎とその関連疾患に対する抗菌薬治療の基本的な姿勢は、「原因のほとんどはウイルスである。よって、一部の例外を除いて抗菌薬は投与せず慎重な経過観察とする。細菌感染が疑われ、悪化する傾向があれば抗菌薬を投与する。」というものである。その目的は、安易な抗菌薬の投与を避けることによって耐性菌の増加を防ぐことにある。小児を診療する者は、今以上の慎重さをもって抗菌薬の投与が必要な症例を見極めなければならない。

(文責 加藤 文徳)


第446回

日時
平成17年5月11日(水)
話題提供 「RSウィルス感染症は抗ロイコトルエン薬で軽症化することができるか?」 県立新居浜病院 岡本健太郎
話題提供 「自閉症児とその家族への対応、経過観察をどうしたら良いのか?」 大坪小児科 大坪裕美
その他

1. 話題提供   「RSV感染症に対する抗ロイコトルエン薬の使用経験」

        愛媛県立新居浜病院小児科 岡本健太郎 久米 綾

 RSウイルス感染症に対し、抗ロイコトルエン薬を使用することで臨床症状が軽快するという報告がある。(A randomized trial of montelukast in respiratory syncytial virus postbronshiolitis, Am J Respir Crit Med 2002;167:379-83)
 当科でH16/17の冬シーズンにRSV感染症で入院した児に対し積極的に抗ロイコトルエン薬を使用し、H15/16とで入院期間や臨床症状などを比較した。対象は当科にRSウイルス感染症で入院した児で、H15/16が26名、H16/17が18名であった。H15/16では7.7%の患者に抗ロイコトルエン薬を使用し、H16/17は全例に使用した。
 平均入院日数、ガンマグロブリンの使用率、酸素やステロイドの使用期間、SpO2が96%以上になるまでの期間に差はなかった。喘鳴が消失するまでの期間はH15/16が7.2日、H16/17が6.7日とH16/17が少し短縮していた。対象患者の年齢をみると、H16/17はH15/16と比べ1歳未満の割合が多く(72.2% vs 46.2%)、 H16/17はより重症な患児が多かったかもしれない。しかし、今回の検討では抗ロイコトルエン薬を使用することで、明らかな臨床症状の改善はみられなかった。

(解説)
 RSウイルスは乳幼児期に感染すると細気管支炎、肺炎をひき起こし、呼吸管理を必要とすることもある。さらに感染後も数年間にわたって喘鳴をくりかえし、気管支喘息発症に関係しているとも考えられている。in vitroの研究では、RSウイルスは 気道上皮から種々のサイトカインやケモカインの産生を促進し、さらに好酸球や好中球から産生されるメデイエイターが気道上皮細胞に障害を与えることが明らかにされている。ロイコトリエンは肥満細胞、好酸球などから産生されるメデイエイターの一種であり、これに拮抗する抗ロイコトリエン薬は現在、気管支喘息の長期管理薬のひとつとして使用されている。抗ロイコトリエン薬がRSウイルス感染症の治療薬として有効である可能性は高い。今回の報告では急性期の症状を改善させる効果は明らかでなかったが、抗ロイコトリエン薬の治療を継続することで、反復する喘鳴、ひいては喘息発症を回避できる可能性は高い。今後の研究が待たれる。

2. 話題提供 「自閉症児の家族への対応、経過観察をどうしたらよいのか」

         大坪小児科 大坪 裕美


 自閉症は行動症状によって診断される症候群である。自閉症が疑われる子供を眼前にしたとき、療育援助は可能な限り早期に開始すべきである。両親が前向きに子供と関わることができるように心がけねばならない。自閉症児とその家族に対し、医療機関、行政、教育機関、地域は相互理解を深め、支援、援助を進めてゆく必要がある。今回、経験した症例を報告し、自閉症児への小児科医としての対応の方法について問題提起した。
 症例、現在4歳5ヶ月
 3歳5ヶ月の時、しゃべらないということで受診し、自閉症と診断した。親子ホームへの週1回の通園を開始したところ、3歳11ヶ月ころから不完全ながらしゃべるようになった。通園ホームがこの児にとって力強い発達支援のひとつになっていると考える。

(解説)
 1歳6ヶ月、あるいは3歳児検診などで親から「この子の発達は、他の子と比べて遅い」とか「行動がおかしい」と相談されることがある。また明らかな発達、言葉の障害、行動の異常などを主訴に小児科の外来を受診する場合もある。はっきりとした診断がつかない場合は、「しばらく様子を見ましょう」ということになるが、この中には本当の広汎性発達障害(自閉症など)や、注意欠陥多動性障害などの子供が含まれている。場合によっては専門医療機関へ紹介することも必要である。また同時に、適切な療育を指導することも小児科医の役目である。地域における療育機関の所在地、療育内容を知り、早い時期に適切な療育機関を紹介することが望ましい。

(文責 加藤 文徳)


第445回

日時
平成17年4月13日(水)
症例呈示 「重症乳児ミオクローヌスてんかんの双生児例」 住友別子病院 後藤振一郎
話題提供 「この冬のB・A混在インフルエンザ流行に学ぶ」 マナベ小児科 真鍋豊彦
その他 「新居浜皮膚科会との合同勉強会について」

1. 症例呈示  「重症乳児ミオクロニーてんかんの双胎児例

     住友別子病院小児科 後藤振一郎 藤本尚美 加藤文徳

 重症乳児ミオクロニーてんかんは発熱時の全身けいれんや片側けいれんで乳児期に発症し、幼児期になりミオクロニー発作や欠神発作を伴う極めて難治なてんかんである。最近の報告では50%前後にけいれんの家族歴があるとされているが、二卵性双胎児で同時期にほぼ同様の症状で発症した例は極めて稀である。
 本例は2例とも月齢7ヶ月で入浴後全身の強直間代性けいれんを起こし、それに前後し眼瞼ミオクローヌスが出現した。脳波上てんかん波を頭頂部から後頭部にかけて認め、これは光刺激によって増強していた。また上気道炎などによる発熱に伴いけいれん重積を繰り返した。抗けいれん剤としてバルプロ酸、クロナゼパム、エトサクシミド、臭化カリウムなどの投与、部屋の遮光などによりミオクローヌスは著減したが、発熱により誘発される全身けいれんは現在のところ抗けいれん剤の静脈内投与でしか抑制できていない。
 今後、ミオクローヌスは自然消失する可能性が高いが、けいれん重積は長期間持続することが予想される。また発症後知能発達障害はほぼ全例に認められることが知られており、抗けいれん剤の長期投与、療育が必要と考えられる。

(解説)
 
重症乳児ミオクロニーてんかんは、てんかんおよびてんかん症候群の国際分類で「焦点性か全般性か決定できないてんかんおよび症候群」に分類されている。乳児期に発症する、きわめて難治なてんかん症候群のひとつである。以前から遺伝の関与が疑われていたが、近年、本疾患患者に、染色体2q23-24に位置するNaチャンネルα1サブユニット(SCN1A遺伝子)の変異が高率に検出されている。発表された症例は二卵性双胎児でありながら、同時期に発症しほぼ同様な経過をとっている。この疾患の遺伝性を考える上で興味深い。この症例の遺伝子解析の結果が待たれる。

2. 話題提供 この冬のB・A混在インフルエンザ流行に学ぶ

     マナベ小児科 真鍋豊彦


 平成16年4月、米国予防接種諮問委員会は、乳幼児(月齢6〜23ヶ月)のインフルエンザワクチンを2004/05年シーズンから「奨励接種」を「勧告接種」へ格上げした。その理由は前シーズンの流行時に乳幼児の重症例や死亡例が多く報告されたためであった。一方、日本では昨年末、厚生労働省新興・感染症研究事業「乳幼児におけるインフルエンザワクチン有効性に関する研究2002/03年シリーズ」がまとまったが、2歳未満児では有効性は確認できなかったという。第一線小児科医にとっては紛らわしい情報である。
 米国の「勧告接種」に触発され、2歳未満児、特に乳児インフレンザについて調べた。
 初めに、10年間にわたるHouston Family Studyを紹介した。この研究の調査対象は、145家族、209人の乳児であった。209人中69人がインフルエンザに罹患したが、45%は無症状または無熱性呼吸器疾患であった。69人中26人が6ヶ月までに、43人が6ヶ月以後に罹患した。6ヶ月を境に有症率は高くなるが、生後11日の新生児がpneumonitisで突然死(母親が出生6日後にH3N2に罹患、児の臍帯血から抗体は検出されなかった)した以外は、いずれも軽症であった。不顕性感染を示すデータとして興味深い。
 当院では今季、乳児インフルエンザを7例経験したが、発症当初から観察、診断したのは次の2例であった。他の5例は他院で診断され、抗インフルエンザ薬を投与されていたが、いずれも下気道炎などはみられず、比較的軽症であった。
 第1例は4ヶ月のワクチン未接種児。兄(3歳4ヶ月、ワクチン既接種、他院でB型と診断)からの感染で、前夜から発熱、迅速検査でB型陽性、その後最高39.3℃に達する二峰性の熱型を示したが、機嫌、食慾など全身状態良好であった。抗インフルエンザ薬を投与することなく経過観察し6日目に解熱した。移行抗体価が低かったと考えられるが、母親が罹患しなかったことから発症の機序は説明困難であった。父親も児と同じ日に発熱、他院でB型と診断された。
 第2例はワクチン未接種の7ヶ月児。前夜から姉(2歳、ワクチン未接種)と共に発熱し来院、姉の迅速検査がA型陽性であったので患児を臨床的にインフルエンザと診断し、抗インフルエンザ薬を投与した。2日目に解熱し、機嫌、食欲など良好であった。その後、父、祖母、母親も他院でA型と診断された。
 最後に、「冬季の高齢者死亡を減らすのにインフルエンザワクチンは余り役立っていない」(米国衛生研究所発表、2005年2月)、それに対する米国疾病対策センターの「現段階ではワクチンが最善策」との声明や、「不活化インフルエンザワクチンは6歳以下では有効性が確認できない」(コクラン共同計画、2005年3月)など、米国や日本のインフルエンザワクチン接種推進に、冷や水を浴びせるような最近の衝撃的な結果についても簡単に触れた。

(解説)
 この冬のシーズンには、ワクチンを接種しているにもかかわらずインフルエンザに罹患した子供が多かった。しかも、A型B型の両方に罹患した子供もいた。ワクチンによる発症防止効果は40%から60%といわれている。インフルエンザが流行すればするほどワクチンをしていても罹患してしまう患者の総数は増えるわけで、ワクチンの臨床的な有効性を実感しにくくなる。現行のインフルエンザワクチンは、A型に比しB型の予防効果が低いといわれている。さらにいろいろな報告から判断すると、年齢が低下するにしたがってワクチンの効果が低下することは確かなことのようである。ワクチンの有効性については未だ、議論の途中である。一方抗インフルエンザ薬の治療効果について、現在の使用量ではA型に対するほどB型には有効ではないことが明らかになってきた。また、1歳未
満の乳児に対する抗インフルエンザ薬(リン酸オセルタミブル)の投与の安全性についても解決されてはいない。
 インフルエンザの診療については、迅速診断の開発、抗インフルエンザ薬の登場で新しい時代を迎えている。しかし、新型インフルエンザの流行を見据え、予防接種に関してだけでなく、解決されなければならない問題は山積している。

(文責 加藤 文徳)


第444回(特別講演)

日時
平成17年3月13日(水)
場所 リーガロイヤルホテル新居浜
学術情報提供 「シングレアチュアブル錠 万有製薬株式会社
特別講演 「症例から学ぶアレルギー」 山口大学医学部生殖・発達・感染医科学講座(小児科) 古川 漸教授

第443回 

日時
平成17年2月9日(水)
症例呈示 「Henoch−Schoenlein紫斑病に蛋白漏出性胃腸症を合併した1例」 愛媛労災病院 伊地知園子・矢口善保
話題提供 「小児におけるてんかん発作誘発因子ー特に、光感受性てんかんについてー」 渡辺小児科医院 渡辺敬信
その他 BCGの個別接種について

1. 症例呈示 血管性紫斑病に蛋白漏出性胃腸症を合併した1例

       愛媛労災病院小児科 伊地知園子 矢口善保

 症例は4歳8ヵ月の女児。腹痛、嘔吐、下痢を主訴とし受診した。腸炎と考え外来にて抗生剤投与を行っていたが症状の改善が認められなかった。発症から10日目、下肢、肘部に紫斑および軽度関節腫脹が出現したため入院とした。入院時検査にて、第13因子活性が17%と低値なことから血管性紫斑病と診断した。また、血清蛋白4.0g/dlと低蛋白血症を認めた。尿蛋白は陰性あったが便中α1-アンチトリプシン濃度の上昇を認めたため、低蛋白血症の原因は蛋白漏出性胃腸症と診断した。蛋白漏出性胃腸症の原因には血管異常、リンパ管異常、粘膜異常などがあるが、血管性紫斑病に蛋白漏出性胃腸症を合併することは稀である。
 蛋白漏出性胃腸症は、食事療法、蛋白補充および原因疾患の治療により改善する。本症例においても、蛋白および第13因子の補充、ステロイド剤の使用にて症状は軽快した。

(解説)
 血管性紫斑病の腹部症状は腹痛、嘔吐、血便などである。腹部症状が皮膚症状に先行する例が10〜20%みられ、診断に苦慮することがある。また腹部合併症としては腸重積、腸閉塞、消化管潰瘍、消化管穿孔、消化管出血そして蛋白漏出性胃腸症などがある。いずれも消化管壁の血管炎が原因である。蛋白漏出性胃腸症の診断のためには消化管への蛋白の漏出を証明する必要がある。小児ではその簡便性から、便中α1-アンチトリプシン濃度測定が有用である。蛋白漏出性胃腸症ではこれが上昇する。α1-アンチトリプシンは食事に含まれず、消化管内で殆ど分解されないため蛋白漏出を正確に反映する。ただし消化管出血がある場合、血漿中のα1-アンチトリプシンが便に混入するため正確な評価はできない。

2. 話題提供 小児におけるてんかん発作誘発因子
    「特に光感受性てんかんについて」

        渡辺小児科医院 渡辺 敬信

 てんかん発作のほとんどは誘因がはっきりせず偶発的に起こる。一方、周期的に起こる発作が約20%、反射的に起こる発作も約1%あると云われている。周期的に起こる発作の誘発因子としては、発熱や入浴、睡眠覚醒リズム、性周期、精神的ストレスや疲労、下痢や嘔吐、過呼吸、飲酒、薬物(抗ヒスタミン、アミノフィリンなど)、感覚刺激(光、音、触覚、運動、条件反射などによる反射性てんかん)などがある。テレビゲームてんかん、ポケモン騒動にみられた光感受性てんかんには、光刺激の存在下のみで発作を起こす@純粋光感受性てんかんと、自発性発作をもつA光感受性てんかんがある。Aは一つの疾患ではなく、複数のてんかん症候群にみられる病態である。これらは日常生活の光刺激で発作が誘発される。誘発原因としてはテレビが最も多く、次いでディスコの照明や太陽光線のちらつき(木漏れ日、水面や雪面など)がある。自発性発作も光感受性発作もなく光突発脳波反応のみの場合をB体質性光感受性者と云い、光刺激の種類、方法にもよるが、健常者(1〜16歳)の約7%に認められる。また、光感受性は女性に頻度が高く、遺伝性〔家族性〕、年齢依存性(小児期後期から思春期前期にかけて頻度が高く、20歳代で消失傾向)である。
 予防および治療として、@は視聴環境に関する教育的啓蒙と光に対する対策(青色光学フィルター使用など)で経過観察し、光感受性発作を繰り返す症例では抗てんかん薬も検討する。Aは自発性のてんかん発作に有効な抗てんかん薬に加えて視聴環境に関する教育的啓蒙と光学フィルターを使用する。Bは基本的には視聴環境に関する教育的啓蒙を予防治療の主体とする。

(解説)
 光感受性発作とは、光による視覚刺激によって脳波上光突発反応といわれる発作波が出現し、それに伴って生じるてんかん性発作を意味する。光感受性発作を有するてんかんが、光感受性てんかんである。光感受性発作は純粋光感受性てんかんだけでなく、重症ミオクロニーてんかんや小児欠神てんかんなど、複数のてんかん症候群に伴っても認められる。ポケモン事件の患者の大部分は、おそらく純粋光感受性てんかんということになるのであろうが、てんかん性発作を繰り返さない限り治療は不要である。発作を誘発しうる強い光刺激を避けるようにすれば高率に再発は予防できる。実際、ポケモン事件の光感受性発作の再発率は9%と報告されている。また、純粋光過敏性てんかん以外のてんかん症候群については、脳波上、光突発反応以外のてんかん波が認められれば、正しい病型分類が可能である。

(文責 加藤 文徳)


第442回 

日時
平成17年1月12日(水)
症例呈示 「肝脾腫を契機でみつかった先天性代謝異常症の1例」 県立新居浜病院小児科 岡本健太郎
話題提供 「第54回日本アレルギー学会報告」 住友別子病院小児科 藤本尚美

1. 症例呈示 肝脾腫を契機に見つかった先天性代謝異常症の1例

       愛媛県立新居浜病院小児科 岡本健太郎、久米 綾
       ミシガン小児病院        若本裕之

 症例は1歳3ヵ月男児。6ヵ月健診で2-3cmの肝臓腫大を指摘されていた。10ヵ月時に仮性クループのため入院した際、肝臓の3cm腫大と脾臓の 4-5cm腫大を認めた。一般血液検査ではHb 11.4g/dl, Plt 9.2万/μlと軽度の貧血ならびに血小板の低下を認めた。また酸アルカリホスファターゼおよびアンギオテンシン変換酵素は、それぞれ37.1 U/l、76.2 U/lと上昇がみられた。骨髄検査でゴーシェ細胞を認め、グルコセレブロシダーゼ活性は2mmol/hr/mg proteinと著明に低下していた。以上から、ゴーシェ病と診断した。生後11ヵ月時から酵素補充療法を開始した。酵素補充療法を開始後3ヵ月で、腹部CT上で肝脾大の改善が認められた。神経症状として追視の遅れが認められていたが、けいれんはみられていない。本症例の臨床型はまだ不明であるが、早期の酵素補充療法により神経症状の発現を遅らせている可能性がある。肝脾腫に血小板低下を伴う場合、ゴーシェ病も鑑別に考える必要がある。

(解説)
  ゴーシェ病はグルコセレブロシダーゼの遺伝的欠損や活性低下により、糖脂質であるグルコセレブロシドが体内(主として肝臓、脾臓、骨髄)に蓄積される先天性脂質代謝異常症である。常染色体劣性遺伝をとる稀な疾患であり、愛媛県では3人の患者が確認されているだけにすぎない。臨床症状としては、肝脾腫、汎血球減少(脾機能亢進症状)、けいれんなどの神経症状が出現する。臨床的には、神経症状の有無や発症時期、重症度などから、T型(成人型・慢性非神経型)、U型(乳児型・急性神経型)、V型(若年型・亜急性神経型)の3型に分類される。本報告例は、発症時期からは乳児型と考えられるが、現時点でけいれんなどの神経症状が無い点で、若年型とも考えられる。根治治療としては骨髄移植が唯一の手段であるが、現在、酵素補充療法が第一選択となる。遺伝子組み換えイミグルセラーゼを投与する。早期に診断し治療を開始することで、患者のQOLを改善することが期待される。

2. 話題提供 第54回日本アレルギー学会報告(アトピー性皮膚炎治療法の検証)

        住友別子病院小児科 藤本尚美

 アトピー性皮膚炎の治療法を検証し、エビデンスを整理する試みが近年行われており、そうした流れに基づいてアレルギー学会でもアトピー性皮膚炎治療法について盛んな討議がなされた。アトピー性皮膚炎の治療に関して、治療の中核をなすステロイド外用剤は、一時期のステロイドバッシングの影響もあり、有効な薬剤であるにも拘らず、その使用法に混乱が生じている。一方で、タクロリムス軟膏の登場で新たな不安が喚起され、今後も現場の困惑と患者の不安は続くものと推察される。また、食物アレルギーとの関連や抗アレルギー剤の内服なども含め様々な試みがなされている。現時点ではどの治療にどの程度のエビデンスがあるのか、そして患者の状態に応じた適切な治療を選ぶにはどうしたらよいのかを整理しておくことは大切な課題であると考える。こうした現状を鑑み、アトピー性皮膚炎の治療法のEBMをインターネット上で公開する試みが、九州大学皮膚科学教室で行われている。
  http://www.kyu-dai-derm.org/atopy ebm/index.html(九州大学皮膚科学教室よりリンク)
 ステロイド外用剤はアトピー性皮膚炎治療に強いエビデンスがあり、ガイドラインに沿ったランクの軟膏を適切に使用することにより、急性期炎症を抑えることができる。一方で、ステロイド忌避のために用いられてきたNSAIDS外用剤は全くエビデンスが無く、むしろ接触性皮膚炎などの誘因となるため、用いるべきではない。
 ステロイド外用剤同士の混合は、基剤が違うと合わないこともあるため、十分な知識を持って行うべきである。また、抗生剤との混合には全くエビデンスが無い。ステロイドを用いて炎症をコントロールできた場合、続いて寛解維持目的の治療が必要となるが、ストロングクラス以上のステロイドは長期使用により局所副作用を認めやすい。よって、ストロングクラスのステロイドと同程度の抗炎症力を有するタクロリムス軟膏は、寛解維持療法に適した薬剤といえる。タクロリムス軟膏は開始初期に刺激感が強いことから患者のコンプライアンスを下げているが、最初の数日間はステロイドを使用することにより、そうした刺激感を緩和でき、また急性期の治療も平行して行うことができる。(但し、現在のところ、2歳以上の適応しかない。)
 寛解維持療法のもう一つの提案として、week end therapyがある。これは、平日5日間は保湿剤を塗布し、週末の2日間のみステロイドを塗布することで寛解維持を行う方法であり、優れた成果を挙げている。抗ヒスタミン薬内服は、アトピー性皮膚炎そのものの治療法としてはエビデンスが無いが、増悪因子である掻痒に対してはエビデンスがあり、それまでの治療に追加する薬剤として考慮される。第54回日本アレルギー学会での討議の一部を紹介した。

(解説)
  アトピー性皮膚炎に対する具体的治療法に関して、エビデンスの有無をもとに検証された学会報告である。アトピー性皮膚炎の治療についてはいまだ民間療法が幅を利かしている。それは、アトピー性皮膚炎の患者が現在の治療に満足していないことの裏返しでもある。患者に適切な治療を実践するためには、われわれはその治療に対して、エビデンスに基づいた正しい知識を持たなければならない。

(文責 加藤 文徳)


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