たいていの人はそうだと思うが、私は本を出す前、出版に対してものすごくビビっていた。子どものころからたくさんの本を読んで感動し、崇拝する作家もいたりしたから、自分の書いたものを本にするなど、恐れ多いと思っていた。
それがなぜ変わったかというと、少々後押しをされたからで、「Atlas」を廃刊したとき、あの続きは読めないんですかと何人かが残念そうに言ってくれたのが、私の書いていた「兵頭(ひょうどう)精(ただし)、空を飛びます!」という日本初の女性パイロットの物語だった。本になれば絶対買います、とまで断言した人がいたので、単純な私は一念発起し、連載の続きを書いて出版したのである。
この本は題材が良かったせいか、出版後いろいろなマスコミで取り上げられ、賞もいただき、のちにはNHKの朝の連続ドラマ「雲のじゅうたん」でヒロイン役を演じた浅茅(あさぢ)陽子(ようこ)さんが、テレビの番組で私に会いに来てくれたりもした。まるで絵に描いたようなビギナーズラック(初心者が得る幸運)にあずかった私は、「そうか、出版ってそんなにビビらなくても良かったんだ」と思ってしまった。
面白いことに地方の出版物を見ると、私のように思った人が多いのか、一度出版をした人は立て続けに本を出す傾向がある。わけがわからないまま怖がっていた出版というオバケが、出してみると、なーんだ、と正体が見えてしまい、ひとつのテーマで何年も調べている人などは、次々と本を出すことになる。
ただ、出版にオバケの要素がまるでないかというと、実はある。どれだけ売れるかまったくわからないという点で、自信過剰は山のような在庫となり、財布もプライドもぺちゃんこになる。
それでも出版し続けるのは、本を出すことでそれまでにない世界が広がっていくからで、よく私は「本が一人歩きする」というのだが、この世に生まれ出た本は、思わぬ場所で思わぬ人に出会い、ときに反響となって作者のところに戻ってくる。そういう出版の醍醐味があるからこそ、書くというしんどい作業を乗り超えられるわけで、それは書いた人しか味わえないご褒美なのである。
(2012.11.16掲載) |