1日1杯の赤ワインで前立腺癌リスクが半減2004年12月23,30日号 / Vol.37
フレッドハッチンソン癌研究センター(FHCRC)公衆衛生学部門の研究員で、ワシントン大学(ともにシアトル)公衆衛生・地域医療学部疫学科のJanet
L. Stanford教授らは、1 日 1 杯の赤ワインを摂取することで、前立腺癌リスクを半減でき、その予防効果は悪性度の高い癌ほど大きいようだとする新知見をInternational
Journal of Cancer(2005; 113: 133-140)に発表した。
外果皮の抗酸化物質が有効
研究責任者のStanford教授は「 1 週間に 4 オンス(約118.4mL)のグラス 4
杯以上の赤ワインを摂取していた男性では、前立腺癌リスクが50%減少し、最も悪性度の高い場合は約60%減少した。臨床的に悪性度の高い癌ほどリスク減少効果は大きかった」と述べている。同教授らは、ビールやアルコール度数の高い酒を飲んでも、好影響、悪影響ともに有意な変化はなく、白ワインでは一貫したリスク減少効果がないことを確認した。このことは、赤ワインには他のアルコール飲料にはない有効成分が含まれていることを示唆しており、同教授らは、その成分を抗酸化物質の一種であるリスベラトロールと考えている。リスベラトロールは赤ブドウの外果皮に豊富に含まれる成分だが、白ブドウでは含有量がかなり低い。ピーナツやラズベリーにも含まれており、心血管疾患の予防効果があるとして栄養補助食品にもなっている。
フリーラジカルを排出
リスベラトロールは、癌の進行に重要なさまざまな生化学的経路に影響を与えることが実験により示唆されている。例えば、(1)抗酸化薬として、発癌性のある危険なフリーラジカルを体外に排出する(2)強力な抗炎症因子として、腫瘍進行を促進する特定の酵素を阻害する(3)細胞増殖を抑制することで、癌を誘発したり癌の継続的成長につながる細胞分裂の回数を減少させる(4)細胞のプログラム死であるアポトーシスを促進し、癌性細胞を体内から除去する(5)
エストロゲン様作用も有していると考えられ、 前立腺癌の成長を促進するテストステロンなどの男性ホルモンの血中濃度を低下させる−などの作用がある。
飲み過ぎは逆効果
今回の研究では、週に 1 杯の赤ワインで前立腺癌リスクが 6 %減少することが確認されたが、Stanford教授は「試験では摂取量が適量を超えると、限界効用逓減の法則が働くことが示唆された」と指摘。「全体的な発癌リスクの増大から事故による負傷、社会問題まで過剰摂取に関連した危険を考えると、公衆衛生学的観点から飲酒を推奨することは困難である。しかし、既に飲酒の習慣がある男性にとって、今回の研究結果は、週に
4 オンスのグラスで 4 〜 8 杯という適量の赤ワインを摂取することで恩恵が得られることを示唆している。他の研究で明らかにされているように、この限度を超えると健康に有害な影響があるかもしれない」と述べている。今回の研究では、シアトル地域で新規に前立腺癌と診断された男性753例と、健常対照群男性703例を面接。癌の悪性度(腫瘍グレードや腫瘍ステージなど)に関する詳細な情報は、米国立癌研究所(NCI)の癌登録であるSeattle-Puget
Sound Surveillance, Epidemiology and End Resultsから入手した。
対象は比較的若齢者
Stanford教授は「今回の研究は比較的小規模であるが、結果は非常に興味深く、リスベラトロールが実際に有効な予防薬として関係しているのであれば、赤ワインとリスベラトロールの有効性が示された点で非常に重要である。これは悪性の前立腺癌ほど予防も重要であるからだ」と述べている。今回の研究の長所として特に注目すべきことは、参加者の年齢が40〜64歳(過半数が60歳未満)と比較的若齢なことである。同教授は「高齢者よりも前立腺癌発生率がはるかに低い65歳未満の男性に焦点を当てることで、全年齢層の解析を行うよりも、ワイン摂取量などの特定の環境因子が癌リスクに与える影響を引き出しやすい。これは、特に前立腺癌のように患者の生涯におけるさまざまな遺伝・環境因子の関与が考えられる複雑な疾患を研究する際に当てはまる」と付け加えている。
他のリスク因子も加えて調整
今回の研究のもう 1 つの長所は、生涯飲酒の調査に加えて、食習慣、癌の家族歴、前立腺癌スクリーニング、喫煙などさまざまな前立腺癌危険因子に関する質問を実施し、解析の際にこれらの因子をすべて考慮に入れて調整を行ったことである。これまでの研究の多くは、アルコール飲料全体の前立腺癌リスクへの影響を検討しており、ワインとビール、ワインとアルコール度数の高い酒とで影響を比較したものは少なかった。Stanford教授によると、前立腺癌リスクに対する赤ワインと白ワインの影響を比較した研究は、これまでに
Netherlands Cohort Study1 件しか実施されていないという。同研究では、白ワインおよび赤ワイン摂取と前立腺癌リスクとの関連が検討され、飲酒をしない男性と比べて白ワインと強化ワイン摂取男性では前立腺癌リスクが増大し、赤ワインでは減少することがわかったが、摂取量とリスクとの間に一貫した傾向は認められなかった。興味深いことに、1日に15g(グラス約
1杯半)以上の赤ワインを摂取していた男性では、前立腺癌全体で18%、進行前立腺癌で16%のリスク減少が認められた。同研究は1986年に開始されたが、郵送による自己記入式質問票を用いて、過去
1 年間の飲酒に関するデータを収集している。したがって、同研究は今回の同教授らの研究と異なり、生涯摂取量を検討していないため、結果は最近のワイン摂取との関連のみを反映するものである。
動物実験での検討を予定
Stanford教授は「今回の研究のきっかけの 1 つは、これまでに実施された約17件の研究のほとんどで、飲酒と前立腺癌との間に一貫した関係が示されなかったことである。リスクの増大や減少を示唆する研究もあるが、ほとんどの研究では全く関連が認められていなかった。こうした問題の原因の
1 つとして考えられるのは、患者の生涯にわたる飲酒の影響を酒の種類ごとに分類した研究がほとんどなかったことである」と述べている。同教授らは、さらに大規模な研究でも一貫した結果が得られることを確認するために助成を募る計画である。また、FHCRC臨床研究部門のNorm
Greenberg博士と共同で、リスベラトロールをモデルマウスに投与して、前立腺癌の発生や悪性癌を減らせるか否かを検討する実験を予定している。
薬剤の標的に理想的なヘプシン 2004年12月9日号 / Vol.37 NO.50
前立腺癌の遠隔転移予防に有望
フレッドハッチンソン癌研究センター(FHCRC、シアトル)ヒト生物学部門の副主任研究員Valeri
Vasioukhin博士らは、バンダービルト大学(テネシー州ナッシュビル)の研究者らと共同で、前立腺癌の進行にはヘプシンという蛋白質が重要な役割を果たしていることを見出した。同研究はCancer
Cell(2004; 6: 185-195)のカバーストーリーとして紹介されたが、同博士らは今回の知見が癌転移の予防と、患者の生存期間を延長する新規治療法開発の足がかりとなると考えている。
遠隔転移を起こす
Vasioukhin博士らは、ヒト前立腺腫瘍と卵巣腫瘍で高度な発現が確認されている蛋白質ヘプシンに注目。非進行性の前立腺癌に罹患したマウスでヘプシンが過剰産生されるとどうなるかを検討した。その結果、ヘプシンの過剰産生により、前立腺の腫瘍細胞は周囲の細胞の制御を逃れて前立腺外に浸潤し、骨や肺,肝臓に転移することがわかった。同博士は「プロテアーゼ(蛋白質分解酵素)の一種であるヘプシンは、癌の進行に固有の役割を果たしており、薬剤の標的としてきわめて理想的である。プロテアーゼの阻害は比較的容易で、ヘプシンもプロテアーゼであることから、これを阻害する癌転移予防薬の開発は可能だと考えられる。以前の研究で、ヘプシンは正常細胞にとり重要でないことが確認されており、ヘプシンにきわめて特異的な阻害薬が重度な副作用を引き起こす可能性は低い」と述べている。また、同博士は、FHCRCヒト生物学/臨床研究部門のJulian
Simon博士の研究室と共同で、ヘプシンを阻害できる低分子の同定を計画しており、「将来的にはヘプシンにきわめて特異的な阻害薬を用いて、悪性度の比較的低い前立腺腫瘍が進行性の転移癌に変化するのを阻止したり遅らせたりできると期待している」と述べている。
新しい治療選択肢の提供へ
癌が転移すると患者の生存率は劇的に低下する。前立腺癌患者のほとんどは癌がまだ前立腺内に限局しているときに診断を受けており、この時点で
5 年生存率は100%近い。しかし、癌が遠隔転移(骨転移が一般的)すると、5
生率は約 3 分の 1 に低下する。FHCRCのヒト生物学部門研究員でSeattle Cancer
Care Allianceで前立腺癌患者の治療に当たっているPete Nelson博士は「早期診断により、前立腺癌患者の生存率は劇的に改善したが、進行癌患者に対する有効な治療法は見つかっていない。ヘプシンがヒト前立腺癌において実際に癌の転移を誘発することが確認され、これを阻害する因子が特定されれば、転移癌患者に新しい治療選択肢を提供できる。あるいは、ヘプシンの活性を利用して、このプロテアーゼが高度に発現している腫瘍環境でプロドラッグを局所的に活性化できれば、ヘプシンの発現レベルが低い正常な組織を傷つけなくてもすむ」と述べている。
基底膜破壊機序の解明も
プロテアーゼはあらゆる動物の体内に存在しており、なかには組織や臓器内での正常な細胞成長に重要な役割を果たすものがあるが、その一方で、例えば前立腺癌などの癌性細胞も、細胞の骨格構造として細胞を層ごとに分割している基底膜への接着にプロテアーゼの力を借りなければならない。Vasioukhin博士らは、ヘプシン過剰産生の影響を検討するため、前立腺でヘプシンを過剰産生するマウス系を作製。これらのマウスでは、異なる細胞群を分割する部位である基底膜に欠陥があることを突き止めた。癌転移の前段階が生じるには基底膜組織の破壊と解体が必須であるため、この知見は興味深い。次に同博士らは、このマウスと非転移性前立腺癌罹患マウスを交配し、ヘプシンを過剰産生する癌感受性マウスを作製したが、これらのマウスでは前立腺腫瘍は著明に進行し、肝臓や肺、骨へ転移した。これらの知見はヘプシンが前立腺癌の進行・転移を促進するという強力なエビデンスを示すものである。
高度の発現でも癌の拡散阻止
Vasioukhin博士は「ヘプシンは通常、マウスの前立腺では産生されない。ヘプシンの過剰産生は他の前立腺癌罹患モデルマウスでは認められなかった。今回の実験結果を単純に解釈すれば、前立腺癌の骨転移誘発にはヘプシンの過剰産生が必要ということになる」と述べている。同博士によると、ヘプシンが存在しなければ癌は転移しないようだが、逆にヘプシンが非常に高度に発現している場合も、癌の拡散が阻止されることがヒト前立腺癌の研究で示唆されたという。同博士は「ヒト前立腺癌におけるヘプシンの発現に関しては、矛盾する結果が出ている。非常に低レベルから高レベルまでヘプシンの発現を変化させると、癌の転移は促進されるようだが、非常に高度な発現を見せた少数例では、ヘプシンの高発現が原因となって癌細胞の接着能が有意に破壊され、初発腫瘍の遠隔部位には新しい接着基盤を形成できないようであった」と述べている。同博士の研究室はV
Foundation for Cancer Researchと米国立癌研究所(NCI)から助成を受けており、ヘプシンの阻害因子を同定するだけでなく、前立腺癌の転移におけるヘプシンの作用機序の研究も計画している。特に、ヘプシンが基底膜の破壊を引き起こす機序の特定を進める予定である。
前立腺癌に対する放射線療法後のPSA値「バウンス」現象は生存率や治癒率とは関係せず[2004年11月 (Medscape Medical News)]
約5千人の患者を対象として行われた研究によると、PSA値のリバウンドが見られた患者のほうが癌死する可能性が高いということはなかった
前立腺癌に対する放射線治療後に前立腺特異抗原(PSA)値が「バウンス(変動)」しても、バウンスのない患者と比べてより早期に前立腺癌死するということを意味していないようであるという最新の研究結果が、米国放射線腫瘍学会(ASTRO)第46回年次総会(アトランタ)で示された。
PSAのバウンス現象は、外照射療法・永久挿入密封線源療法のいずれのタイプでも放射線療法を受けた患者の20%以上に起こることが記録されてはいるが、一般にはあまり認識されていない、と主任研究者であるフォックスチェイス癌センター(ペンシルバニア州フィラデルフィア)のEric
M. Horwitz, MDは述べた。
「この現象が初めて認識されたのは、小線源療法を施行した患者において治療から1-3年後にPSA値の一過性の上昇が観察されたことによる」とHorwitz博士はMed
Scapeの取材に答えた。「治療後PSA値は低下した後比較的一定値を保つべきであるので、当初その現象は小線源療法が奏効しなかったためであると考えられていた」
さらに同じ現象が放射線外照射療法(EBRT)を受けた前立腺癌患者にも同等の頻度で起こることが認識された。過去の研究によるとPSA値のバウンスの有無は臨床的意義が無いことは示されているが、このバウンスが長期的な癌の治癒率に影響するかどうかについての研究はこれまで行われていないとHorwitz博士は指摘している。
「研究の結果、前立腺癌の生化学的なコントロールに差があってもそれは直ちに臨床的再発に直結するものではないということがわかった。PSA値のバウンスが見られた患者の方が遠隔転移や局所再発が多いということはなく、さらに、PSA値のバウンスが見られた患者がそうでない患者と比べて前立腺癌死する可能性が高いということもなかった」とHorwitz博士は述べた。
PSA値のバウンスが見られた患者とそうでない患者の間に、生化学的あるいは臨床的な癌の制御に差があるかどうかを決定することを目的として、EBRT単独療法を受けたT1-T2前立腺癌患者4,839人のデータが9つの施設から集積され解析された。
患者はホルモン療法を併用せずEBRT(60グレイ以上)単独による治療を受け、中央値6.3年の経過観察を受けていた。本研究の目的としての治療後のPSA値バウンス現象は「PSA値が前回の測定値と比べて0.2
ng/mL以上増加しその後再び減少すること」と定義された。研究のエンドポイントには生化学的再発(BF)、遠隔転移(DF)、疾患特異的生存率(CSF)、全般的生存率(OS)が用いられた。
治療前PSA値・グリソンスコア(GS)・T臨床病期・年齢・放射線量・リスク分類に基づいて対象患者を階層化した上で解析が行われた。リスク分類は、低リスク群(T1/2a、GS≦6、PSA<10
ng/mL)、中リスク群(T1/2a、GS≦7、PSA=10-20ng/mL、またはT2b/c、GS≦7、PSA≦20
ng/mL)、高リスク群(GS=8-10またはPSA>20 ng/mL)の3群に分類した。3年以上経過観察して臨床的再発(CF)やBFが無い患者を同定するために、単変量解析・多変量解析・ランドマーク解析がPSAバウンス群と非バウンス群との間で行われた。
研究対象患者のうち978人において治療後に少なくとも1回のPSA値のバウンスが観察された。単変量解析の結果、三つの変量(リスクグループ、治療前PSA、年齢)において、その後の経過観察中のPSA値バウンス現象の有無に関して有意な差が見られた。5年の時点でPSA値のバウンスが見られなかった頻度は、高リスク患者群・治療前PSA値20
ng/mL以上の患者群ではそれぞれ67%・63%であった一方、低リスク患者群・PSA値10ng/mL未満の患者群ではそれぞれ76%(p<0.0001)・78%(p=0.0008)であった。70歳未満の患者群では72%の頻度でPSA値のバウンスが見られなかった一方、70歳以上の患者群ではその75%にPSA値のバウンスが認められた(p=0.04)。
ランドマーク解析では、PSA値バウンス現象が認められなかった患者群では10年の時点での生化学的非再発率は72%であった一方、PSA値バウンス現象が見られた患者群では58%であり、そのハザード比(HR)は1.73(p<0.0001)であった。各要素の単変量解析ではGSが8-10の患者群を除く全ての群で、PSA値のバウンスは引き続くBFと有意に相関していた。
PSA値のバウンス現象が生化学的非再発率に及ぼす影響は、他の共変量の影響を考慮して多変量解析を施行してもやはり有意であった(HR1.67、p<0.0001)。DF・CSF・OSに関しては有意な差は認められず、PSA値の変動の中央値は照射線量が70グレイ未満の群(0.8
ng/mL)において70グレイ以上の群(0.7 ng/mL)よりも大きかったが、これはBFの有意な差には帰結していなかった。
「これらの結果の臨床的重要性は、PSA値のバウンス現象が見られても生存率や治癒率において長期的には差がないと言って患者を安心させることができるという点にある」とHorwitz博士はMedscapeの取材に対して述べた。「また、ホルモン療法は確立された治療法ではあるが、PSA値の変動が見られたからといって必ずしもホルモン療法を受ける必要はない。そうでなければ、患者はPSA値の変動の意味を理解する前にホルモン療法を開始され、その副作用にさらされることになるであろう」。
この研究は企業からの財政的援助を受けていない。主任研究者は、本研究に利害関係のある企業等との財政的関係は無いと報告している。出典 ASTRO
46th Annual Meeting: Abstract 171. Presented Oct. 6, 2004.
前立腺癌の生存率が改善 放射線とアンドロゲン抑制療法を併用2004年10月21日号 / Vol.37 NO.43
Brigham and Women's病院(ボストン)のAnthony V. D'Amico博士らは、放射線療法に
6 か月のアンドロゲン抑制療法(AST)を追加することで、臨床的に限局性の前立腺癌患者の生存率を改善できるとJAMA(2004;
292: 821-827)に発表した。
長期ASTの副作用は深刻
D'Amico博士は「これまで、3 年間のASTと線量70Gyの放射線療法との併用で、限局性かつ悪性の前立腺癌患者の生存率が改善できるとされてきたが、高齢者を中心に長期ASTの副作用は深刻であった」と研究の背景を説明している。ASTでは男性ホルモンであるアンドロゲンの分泌を抑制して前立腺癌を治療する。同博士らは、1995年12月
1 日〜2001年 4 月15日の期間に、臨床的に限局性の前立腺癌患者206例を対象に、70Gyの
3 次元原体照射法(3D-CRT)単独施行群(104例)と、これに 6 か月のASTを併用する群(102例)にランダム化割り付けし、生存率に関する有効性を比較した。対象者は、前立腺特異抗原(PSA)値が10ng/mL以上、Gleasonスコア
7 以上、もしくは放射線所見で前立腺外皮に腫瘍が確認された患者。放射線療法終了後、最初の
2 年間は 3 か月ごと、その後 3 年間は 6 か月ごと、さらにその後の死亡もしくは2004年
1 月15日の試験終了までは毎年、フォローアップ検診を行った。
併用群で有意な改善
フォローアップ期間(中央値4.52年)終了後、併用群では単独群に比べて全体生存率、前立腺癌による死亡率、癌再発に対する救済AST不要患者の生存率において、それぞれ有意な改善が確認された。全体の推定
5 年生存率は単独群の78%に対し、併用群では88%であった。また、救済ASTが不要であった患者の
5 年生存率は単独群の57%に対し、併用群では82%であった。さらに、死亡に関しては、単独群で前立腺癌による死亡
6 例、他の死因による死亡17例に対し、併用群では前立腺癌による死亡例はなく、他の死因による死亡が12例あった。同博士は「前立腺癌治療を受ける患者の多くが高齢であり、1
年以上のAST施行には貧血、体脂肪増加に伴う筋量減少、火照り、インポテンスに加えて骨密度減少、記憶・注意力・遂行機能の障害、心電図のQT間隔の延長といった副作用が確認されている。AST施行期間を短縮できれば、こうした影響を最小限に抑えることで患者のQOLが大きく改善する。したがって、今回の研究は放射線療法を施行される臨床的に限局性の前立腺癌患者で死亡率を減少させるには、6
か月のAST施行で十分かもしれないという臨床的に重要な示唆を含んでいる」と結論している。
標準治療とするには時期尚早
ジョンズホプキンス大学(メリーランド州ボルティモア)のTheodore L. DeWeese博士は、付随論評(2004;292:
864-866)で「米国では男性の 6 人に 1 人が前立腺癌の診断を受けている。前立腺癌と診断された男性が癌で死亡する確率は
6 人に 1 人よりもはるかに低いが、それでも2004年中に約 3 万例が前立腺癌で死亡すると見込まれる」と説明。「D'Amico博士らの研究は、臨床的に限局性の前立腺癌患者にASTと放射線療法を併用する場合の生存率に関する恩恵を初めて示した点で特に重要であり、今回の知見は説得力がある」としながらも、これに基づいて、放射線療法とASTの併用は、限局性の中等度〜高リスク前立腺癌患者に対する“標準的”治療法とすることができるか否かについては疑問視している。DeWeese博士は「試験データに関する重要な問題がいくつか不明であることと、今回の試験に用いられた放射線量が他の試験で同様の患者に有効とされている線量よりも低いことを考え合わせれば、臨床的に限局性の全前立腺癌患者に対して同療法が“標準的”であるとするのは、時期尚早であろう」と付け加えている。
前立腺癌に対する放射線療法は診断から治療開始までに時間がかかっても予後に影響しない [2004年10月12日 (Medscape Medical News)]
診断3カ月後に放射線治療を開始しても、診断後すぐに治療を開始した患者と同等の結果
前立腺癌に対する放射線外照射療法(EBRT)は、診断から治療開始まで3カ月かかっても診断後即座に治療を開始した患者と同等の臨床的・生化学的結果が得られるという最新の研究結果が、米国放射線腫瘍学会(ASTRO)第46回年次総会(アトランタ)で発表された。
「癌と診断された場合、可及的速やかに治療を開始すべきであることはいうまでもない」と主任研究者であるStephen
F. Andrews, DOはMedscapeの取材に答えた。「しかしながら高線量EBRT療法を受ける患者に関しては、十分な情報に基づいて治療法を決定するためにたっぷり時間をかけることへの不安が、患者・医師ともにこのデータによって軽減されるであろう」。
Andrews博士によると、前立腺癌は男性で二番目に高頻度な癌であるという事実にもかかわらず、前立腺癌に対する放射線療法の治療開始の遅れに関する情報はこれまで不足していたとのことである。さらに、前立腺癌と診断された患者が選択可能な複数の治療法について十分調べたいと希望するために治療の開始がかなり遅れることもまれではないという。
この研究はフォックスチェイス癌センター(ペンシルバニア州、フィラデルフィア)の研究者らによって行われた。研究対象は20年の期間に通常の放射線照射あるいは三次元原体照射を受けた1,498例の前立腺癌患者である。
診断から治療開始までの期間(TTT)に基づいて、患者は四つの群のいずれかに分類された。すなわち、3カ月以内(589例)、3-6カ月(629例)、6-9カ月(94例)、9カ月以上(67例)の4群である。解析の指標としては全般的生存率(OS)、疾患特異的生存率(CSS)、遠隔転移率(DM)、生化学的非再発率(FFBF)が用いられた。また、治療開始前の前立腺特異抗原(PSA)値・グリソンスコア・T病期分類に基づいて決められた低・中・高リスクの各群ごとにもTTTの影響の解析が行われた。照射線量(72グレイ未満391例、72グレイ以上985例)、年齢(60歳未満182例、60歳以上1196例)、男性ホルモン除去療法(施行1206例、非施行173例)が共変量として解析された。
解析の結果、TTTを連続変数・名義変数のどちらとして扱っても、TTTはOS・CSS・DM・FFBFのいずれの予測因子でもなかった。さらに、TTTをその中間値である3.3カ月で区切った解析でも、リスク群ごとの解析でも有意な差は認められなかった。男性ホルモン除去療法の施行の有無は、治療開始が遅れた場合には結果には影響を及ぼさなかった。しかしながらこの結果は、照射線量が高線量であったため全く予期せぬ結果という訳ではないとAndrews博士は述べている。「この情報はEBRT療法を行う医師にとっても患者にとっても有益と思われる」とAndrews博士は結論づけている。
前立腺の再生、腫瘍生成、転移におけるヘッジホッグシグナル伝達[2004年10月7日 (Medscape)]
転移性の癌は、成長中あるいは再生中の臓器の正常細胞に見られるある種の特性、すなわち増殖能や組織の編成を変える能力を身につけている。今回我々は、発生時のパターン形成に重要な役割を果たすヘッジホッグ(Hh)シグナル伝達経路が前立腺上皮の再生に必要であり、この経路が継続的に活性化されると前立腺前駆細胞が形質転換されて腫瘍形成能をもつことを見出した。Hh経路の活性上昇は、局所的な前立腺癌と転移性前立腺癌の分かれ目となっており、この経路を調節することで癌の侵襲性や転移を制御できる可能性がある。この経路の活性は内在性Hhリガンドの発現によって誘発され、Smoothendの発現によって左右される。Smoothendは重要なHh応答成分で、良性の前立腺上皮細胞では発現されていない。したがって、Hh経路の活性を監視し制御することは、転移の可能性がある前立腺癌の診断や治療を大きく前進させる可能性がある。
前立腺癌に新しい診断キット 尿中の特異的マーカーPCA3を検出2004年9月23,30日号 / Vol.37 NO.39,40
前立腺特異抗原(PSA)を測定する現在の前立腺癌検査法にはいくつかの限界があるが、バル大学外科のYves
Fradet部長らは、「前立腺癌にきわめて特異的な新しいマーカーを用いた分子検査法でこうした限界を克服できるかもしれない」とUrology(2004;
64:311-316)に発表した。
陽性・陰性的中率は80%以上
前立腺癌患者517例を対象とした多施設試験で、uPM3と呼ばれる実験的な分子検査アッセイにより、前立腺癌の陽性・陰性結果を81%の精度で予測できた。同アッセイは、新規の前立腺癌遺伝子マーカーであるPCA3を尿中から検出するもの。一方、今回の研究によると、総PSA値を測定する従来の前立腺癌検査法の全体的な正診率は、カットオフ値の設定により、43%もしくは47%であった。 今回の研究には関係していないジョンズホプキンス医学研究所泌尿器科のAlan
Partin教授は「uPM3検査は、前立腺癌の早期発見に関する重要な決定を下すのに役立つ有望な新しい尿検査法である」とコメントしている。Fradet部長らは、前立腺生検男性517例の直腸指診後に尿サンプルを採取。uPM3検査による診断を行った。その結果、陽性的中率は総PSA値では38%であったのに対し、uPM3検査では75%であった。すなわち、PM3検査は、生検による実際の前立腺癌陽性結果を、75%の確率で的中させたことになる。また、陰性的中率はカットオフ値を
4 ng/mLとした場合、総PSA値では80%であったのに対し、uPM3検査では84%であった。つまり、同検査で陰性であった場合、84%の確率で前立腺癌ではないことになる。
患者の95%でPCA3を過剰発現
前立腺癌病理の専門家として著名なBostwick LaboratoriesのDavid Bostwick医学部長は「PCA3遺伝子がこれまで発見されている前立腺癌特異的遺伝子のなかでもきわめて特異性が高いことは、既に過去の研究で確認されている。前立腺癌患者の95%でPCA3の過剰発現が確認されており、その発現亢進の程度は、隣接する非癌組織と比較して中央値で66倍にもなる。前立腺癌の罹患率は非常に高いが、今回の研究は、男性の尿中生検細胞であるPCA3遺伝子を検出することが、前立腺癌の新たな診断ツールとなることを示唆している」と述べている。
前立腺癌 PSAの経時変化と生存率予測巡り新たな議論2004年9月16日号 / Vol.37 NO.38
ハーバード大学のAnthony V. D'Amico博士らは、前立腺癌の診断前 1 年間に前立腺特異抗原(PSA)値が2.0ng/mL以上上昇した前立腺癌患者は、たとえ根治的前立腺摘除術(RP)を施行しても死亡するリスクが比較的高いと、New
England Journal of Medicine(NEJM.2004; 351:125-35)に発表した。同博士らの研究は、病理ステージ、グレード、RP後の再発時期に関して、従来研究の知見を追認するとともに、診断前のPSA値の経時変化と前立腺癌もしくは他の原因による死亡までの時期との間に相関があるとする新知見を提出するもの。
高PSA患者は生存期間短い
研究では、前立腺癌スクリーニング研究に登録後、ステージT1cもしくはT2の癌によりRPを施行された男性1,095例を解析した。登録患者は、年齢の中央値が65.4歳、71%がステージT1cの癌であった。D'Amico博士は「年間のPSA上昇幅が2.0ng/mLを超える患者では、
2.0ng/mL以下の患者と比較して、前立腺癌や他の原因で死亡するまでの期間が有意(それぞれP<0.001、P=0.01)に短かった」と述べている。また、診断時の高PSA値、Gleasonスコア
8 〜10、腫瘍ステージT2も前立腺癌による死亡までの期間の予測因子であった(それぞれP=0.01、P=0.02、P<0.001)。さらに、年間のPSA上昇幅が2.0ng/mLを超える男性では、診断時のPSA値、腫瘍ステージ、GleasonスコアもRP施行から
7 年以内の前立腺癌やその他の原因による死亡リスクの予測に影響していた。RP後の病理所見を解析に組み込んだ場合でも、PSA値の上昇幅が
2.0ng/mL以下と死亡時期との間に有意な相関が認められた。同博士は「今回の研究は
2 つの臨床的意味合いを持っている。まず、年間PSA上昇幅が2.0ng/mLを超える以外は健康な男性を、RP施行群と全身療法群に割り付けるランダム化臨床試験を実施すべきであること。第
2 にRP施行患者の前立腺癌死亡率が比較的高かったことから、これらの患者群ではフォローアップが最良の選択肢とはならない可能性が示唆された。ただし、これに関しては、ランダム化比較試験で確認されたわけではない」と述べている。
交絡因子の調整をとの意見も
ジョンズホプキンス病院のMario Eisenberger、Alan Partinの両博士は、NEJMの付随論評(2004;
351: 180-181)で「当施設の経験では、前立腺癌初回治療後の生化学的再発患者においてGleasonスコア、再発時期、PSA倍加時間が、それぞれ遠隔転移の可能性の独立予測因子であることが示唆されている。また、新たな解析の結果、PSA倍加時間が他の
2 つの変数に優先することが確認された。Kaplan-Meier法による癌特異的10年生存率を用いた検討では、PSA倍加時間が10か月以上の患者の10年生存率は93%であったが、倍加時間が10か月未満の患者では58%であることが確認された」と述べている。Eisenberger博士らは、D'Amico博士らの研究の意義を認めながらも、いくつかの知見に関して疑問を投げかけている。例えば、2004年の非スクリーニング患者の記録では、ステージT1cの患者が35%と報告されているが、今回の研究ではT1c患者が71%も含まれている。また、
Gleasonスコアが 6 以下の患者の記録は60%であるが、今回の研究では84%となっている。さらに、全身療法患者の治療施行基準の統一について全く情報が開示されていないため、同試験における全身療法の有効性は明らかではない。したがって、これが解析時の交絡因子となっている可能性もあると指摘している。D'Amico博士らは、今回の知見に関する議論で「今回のデータは95%信頼区間が広く、PSA値の経時変化に基づいて個々の患者に関する前立腺癌死亡リスクの度合いを正確に特定することは不可能である」と反論している。
全死因で生存期間の解析必要
前立腺癌診断前のPSA値の上昇率が腫瘍ステージおよびグレードの予測因子となること、そのPSA上昇率とRP施行後の再発までの期間との間に相関があることは、これまでにもいくつかの研究で示されている(ジョンズホプキンス大学のBallentine
H. Carter教授ら、JAMA 1992; 267: 2215-2220;コロンビア大学のErik T. Goluboff博士ら、Journal
of Urology 1997; 158: 1876-1878;北里大学の頴川晋博士ら、Prostate Cancer
and Prostatic Diseases 2000; 3: 269-274を参照)。しかし、D'Amico博士らは「これら従来の研究は、臨床ステージ、針生検標本のGleasonスコア、診断時の血清PSA値の調整後に、前立腺癌による死亡時期と他の原因による死亡時期との多変量解析を行っていないために限界がある」と述べて
いる。カリフォルニア大学ロサンゼルス校泌尿器科のStephen J. Freedland博士らがUrology(2001;
57: 476-80)に発表した知見では、術前のPSA変化と術後の臨床所見およびPSA値に相関は認められなかった。しかし、D'Amico博士らは「Freedland博士らの研究は小規模で、フォローアップ期間も短い。したがって、適切な関連の統計学的な有意性を評価するには検出力が不適切であるかもしれない」と指摘。「前立腺癌は長期の経過をたどる場合があるので、前立腺癌による死亡と他のすべての原因による死亡を長期間にわたって評価することが特に重要である」と説明している。
PSA低値でも前立腺癌罹患の可能性 2004年8月26日号( Vol.37 NO.35)
発見された癌の多くは無害
米国立衛生研究所(NIH)の 1 部門である米国立癌研究所(NCI)とNCIが助成する研究者ネットワーク、サウスウェスト腫瘍グループの研究により、スクリーニングで前立腺特異抗原(PSA)値が正常(
0 〜 4 ng/mL)な男性でも前立腺癌に罹患している可能性があることがわかった。NCI癌予防部門臨床研究副部門長のLeslie
G. Ford博士は「PSA値が正常な男性で発見される癌の多くは悪性度が軽度〜中等度で、臨床的意義は大きくない」と述べている。
PCPTの対照群を研究対象に
通常、PSA値が4.0ng/mL以上になると前立腺生検などの精密検査の対象となり、4.0ng/mL未満は正常とみなされる。前立腺癌が原因で死亡するよりは、前立腺癌に罹患した状態で死亡する男性が多いというのが、専門医らの見解である。最近の剖検研究では、50歳以上の男性の多くで生前に診断されなかった初期の前立腺癌が検出された。初期の癌は臨床的意義のある疾患へと進行する場合もあるが、多くは無害である。
NCIの助成を受けて行われた前立腺癌予防試験(PCPT)で対照群となった2,950例の男性が、今回の研究対象となった。PCPTでは、2003年にfinasterideが前立腺癌罹患リスクを25%減少することが示された。対照群はプラセボを服用し、finasteride群と同様に毎年の
PSA検査と直腸指診(DRE)を 7 年間受けた。被験者はすべて、登録時の年齢が55歳以上、初回のPSA値が
3 ng/mL以下、DREの結果が正常で、試験終了時に前立腺生検を受けるように協力を依頼された。
今回発表された研究報告は、7 年間の試験期間を通じてDREが正常でPSA値が
4ng/mL以下であった前立腺癌低リスクの対照群2,950例に関するものであった。PCPTの結果は
New England Journal ofMedicine(2004; 350: 2239-2246)に発表されている。
1980年代後半から、米国では前立腺癌早期発見のためにPSA検査が幅広く行われている。しかし、PSA検査が前立腺癌による死亡リスクを減少させることは示されていない。PSA検査で発見された前立腺癌がすべて臨床的意義を持つわけではないため過剰診断のリスクを伴い、不必要な手術や放射線療法が行われることもある。このため、PSA検査は世界的に推奨されるスクリーニング方法とはなっていない。現在進行中のNCIの研究では、PSA検査により前立腺癌の死亡リスクが減少するか否かを追究している。
15%が生検で陽性
サウスウェスト腫瘍グループの主任研究員でテキサス大学保健科学センター(テキサス州サンアントニオ)のIan
M. Thompson博士は「PCPTの研究期間を通じてPSA値が 4ng/mL以下でDREも正常であったにもかかわらず、対照群(2,950例)の449例(15%)が試験終了時の生検で陽性であったことがわかり、この研究の最大の成果となった」と述べている。PSA値が
4ng/mL以下であった対照群の男性で悪性度の高い前立腺癌に罹患したのはわずか2.3%であったことも、この研究の重要な結果である。
PSA値が 2ng/mL以下の男性で悪性度の高い癌に罹患したのは1.4%とさらに低い割合となった。悪性度は、顕微鏡検査により腫瘍を
2 〜10の段階に分類するGleason分類で判定された。同分類で 7 〜10という悪性度の高い腫瘍は、悪性度の低い腫瘍と比べ進行が速く転移しやすい傾向がある。PCPTでは同分類の
8 または 9 に該当したのは、参加者のうち 7 例、対照群のわずか0.2%であった。前立腺癌に罹患した男性(449例)のうち349例(78%)が同分類の
5 または 6 であった。
侵襲性が高い癌の予測が重要
Ford博士は「生検はPSA値の低い男性では通常行われないため、今回癌が発見された男性の多くは研究に参加しなければ癌の診断が付かなかった人たちである。進行が緩徐で無害な癌と、より侵襲性が高い癌とを区別するよりよい方法が必要である。PSA値が低い男性の生検を行うようになれば、より多くの癌が発見・治療されるであろうが、臨床的意義の低い腫瘍のために治療を受け、治療に伴うリスクを背負う患者が出ることになる」と考えている。前立腺癌の治療によりインポテンスや尿失禁などが生じ、患者にとって大きな負担となることもある。Thompson博士は「前立腺生検のためのPSA基準値を下げれば、臨床的に重要でない疾患の過剰診断・過剰治療のリスクが上昇するであろう」と述べている。NCIの助成を受けた研究では、侵襲性の高い腫瘍に罹患しやすい男性を特定する方法を模索している。NCI早期発見研究ネットワーク(EDRN)の前立腺共同グループは、前立腺癌の早期発見方法を特定するためにさまざまな戦略を適用している。ゲノミクスやプロテオミクスの新しいツールにより、侵襲性の高い癌に罹患した男性と進行が緩徐な癌に罹患した男性で遺伝子発現パターンや血中の蛋白質がどのように異なるのか調べている研究者もいる。同博士は、腫瘍の悪性度だけでなく、どのような男性が治療を要する前立腺癌に罹患するかを予測する方法が必要だと考えている。前立腺癌は、皮膚癌に次いで男性で最も多く見られる癌である。米国では今年、約23万110人が前立腺癌と診断され、約
3 万人が死亡すると予測されている。
術前の PSA 経時的変化率と根治的前立腺切除後の前立腺癌死亡のリスク[Dr. News Station (vol.620)7月28日)]
背 景
根治的前立腺切除後に前立腺癌で死亡するリスクがある患者を、診断時に得られる情報から同定できるか否かを検討した。
方 法
限局性前立腺癌患者 1,095 例を調査し、診断の前年の前立腺特異抗原(PSA)上昇率(PSA
経時的変化率)、診断時の PSA 値、グリーソンスコア、腫瘍の臨床病期により、根治的前立腺切除後、前立腺癌で死亡するまでの時間とあらゆる原因で死亡するまでの時間を予測できるかどうかを評価した。
結 果
PSA の年間変化率が 2.0 ng/mL 以下の場合に比べ、2.0 ng/mL を超える場合、前立腺癌で死亡するまでの時間(P<0.001)とあらゆる原因で死亡するまでの時間(P=0.01)が有意に短縮した。 診断時の
PSA 値上昇(P=0.01)、グリーソンスコアが 8、9、10 のいずれかであること(P=0.02)、腫瘍の臨床病期が
T2 であること(P<0.001)も、前立腺癌で死亡するまでの時間の予測因子であった。PSA
の年間変化率が 2.0 ng/mL を超える男性では、診断時の PSA 値、瘍の病期、グリーソンスコアも、根治的前立腺切除から
7 年後までの前立腺癌による死亡リスクや全死因死亡リスクの推定値に影響を及ぼした。
結 論
前立腺癌と診断される前年の PSA 値の上昇が 2.0 ng/mL を超える男性では、根治的前立腺切除を受けても、前立腺癌による死亡リスクが相対的に高い可能性がある。(N
Engl J Med 2004; 351 : 125 - 35 : Original Article.)
あらためて関連性認める
ジョンズホプキンスBrady泌尿器学研究所のJ. KelloggParsons講師は、同研究所と米国立加齢研究所(NIA)との合同研究チームを率いて、血中テストステロン値と前立腺癌のリスクの関係を調査し、血中テストステロン値が高い50歳以上の男性では、前立腺癌リスクが高いことがあらためて認められたと米国泌尿器学会(AUA)年次集会で報告した。
遊離テストステロンが関連
これまでの研究でも、テストステロン補充療法の安全性に疑問が投げかけられている。この研究では、ボルティモア縦断的加齢研究により男性759例から
40年間に3,000件近くの血液サンプルが収集され、数種類のテストステロンの測定が行われた。このうち111例が前立腺癌と診断された。研究の結果、テストステロンの一種で、前立腺で消費される活性の遊離テストステロンが、前立腺癌のリ
スク増大と関連することがわかった。Parsons講師は「テストステロン補充療法は血中の遊離テストステロンを増加させるため、この療法を受けているか、または受けようと考えている高齢の男性は、長期的な臨床試験のデータが得られるまでは、前立腺癌との関係について助言を受けるべき」としている。
一方、高齢男性の遊離テストステロンと前立腺癌リスクの関係は、身長、体重、体脂肪率、筋肉量(muscle
maso)とは無関係であった。また、総テストステロン値と、もう 1 つの男性ホルモンである硫酸デヒドロエピアンドロステロン(DHEAS)も、前立腺癌リスクとは無関係だった。なお、性ホルモン結合グロブリン(SHBG)と呼ばれる血中テストステロンを結合する蛋白質は、前立腺癌のリスクを若干低下させることがわかった。
前立腺特異抗原値が4.0 ng/mL 以下の男性における前立腺癌の有病率[Dr. News Station (vol.610)6月23日)]
背 景
前立腺特異抗原(PSA)の正常範囲として、最適とされる上限値は明らかではない。われわれは,前立腺癌予防試験(Prostate
Cancer Prevention Trial)において、PSA 値が 4.0 ng/mL 以下の男性を対象に、前立腺癌の有病率を調査した。
方 法
この予防試験に組み入れられた男性 18,882 例のうち、9,459 例をプラセボ投与に無作為に割付け、PSA
測定および直腸指診を年 1 回行った。これら 9,459 例のうち、2,950 例は PSA
値が 4.0ng/mL を超えず、直腸指診でも異常がみられなかった。これら 2,950
例に最終的な PSA 測定を行い、7 年間の試験終了時に前立腺生検を行った。
結 果
2,950 例(年齢範囲 62〜91 歳)のうち、449 例(15.2%)で前立腺癌が診断された。これら
449 例のうち、67 例(14.9%)の癌はグリーソンスコアが 7 以上であった。前立腺癌の有病率は、PSA
値が 0.5ng/mL 以下の男性では 6.6%、0.6〜1.0 ng/mL の男性では 10.1%、1.1〜2.0
ng/mL の男性では17.0%、2.1〜3.0 ng/mL の男性では 23.9%、3.1〜4.0 ng/mL
の男性では 26.9%であった。悪性度の高い癌の有病率は、PSA 値が 0.5 ng/mL
以下では 12.5%、3.1〜4.0 ng/mL では25.0%と次第に高くなった。
結 論
生検で検出された前立腺癌は、悪性度の高い癌も含めて、PSA 値 4.0 ng/mL 以下の男性でもまれではない。
前立腺癌は早期には緩徐な経過を示すが、やがて侵襲的になる [2004年6月17日 (Med Wave)]
この研究を行った医師らはコホート研究の結果に基づいて早期癌の段階での根治的治療の施行を勧めている。しかし掲載誌の論説では現在進行中の介入試験の長期成績を待ちたいとのことである 。
前立腺早期癌は当初は緩徐な経過を示すものの約15年後にはより侵襲的な性格を示すようになるという長期間のコホート研究の結果が、『JAMA』6月9日号に掲載された。研究者たちはより早い段階での根治的治療の実施を勧めているが、同誌の論説はより保守的であり、現在進行中の介入試験の長期成績を待つことを勧めている。
「被膜内に限局している段階で診断された早期前立腺癌がその後どのような経過をたどるかが判らなければ、患者のカウンセリングや臨床的な方針の決定は難しい。大事なことは過剰治療を避けつつ、長期生存の可能性を最大にすることである」とオレブロ大学病院(スウェーデン)のJan-Erik
JohanssonMD, PhDらは記述している。「早期癌の臨床病期で診断された場合、初期治療を行わなくても、診断後10-15年以内に前立腺癌で死亡する患者の割合はごく一部である。しかしながら無治療経過観察を行って10-15年以上経過した後に病勢がどの程度進行し癌死の危険性がどの程度あるかについてはほとんど知られていない」
研究の対象となったのは、早期癌の段階で診断され当初無治療で経過観察された、連続する223例の前立腺癌患者(スウェーデン中部在住)である。平均21年の経過観察期間で、15年経過時点で49例の患者が存命であり、39例(17%)は経過観察中に遠隔転移を生じた。登録時の病期はT0-T2NxM0であった。病勢の進行に伴い症状を呈した患者は精巣摘除術あるいは女性ホルモンの投与を受けた。
最初の10-15年間はほとんどの癌が緩除な経過を示したが、15年-20年の時点ではより侵襲的な経過を示すようになった。診断後15-20年の5年間に累積無進行生存率(45.0%から36.0%へ)、無転移生存率(76.9%から51.2%へ)、前立腺癌特異的生存率(78.7%から54.4%へ)はそれぞれ大幅に低下し、前立腺癌による死亡率は大幅に上昇した(1000人年当たり15人年[最初の15年間]から44人年[15年後以降]へ、p=0.01)。
「このデータは個々の患者にカウンセリングを行い、臨床的な方針を決定する際に、重要な資料となるかもしれない。前立腺癌が局所進行すると患者はかなりの身体的苦痛を強いられる可能性があるので、生存期間が延長しさえすればよいということにはならない(訳注:本研究では多くの患者が全身への転移が無くても局所進行癌(T3)へと進行していることも示している)」と著者らは記述している。「早期に診断され当初無治療で経過観察された前立腺癌も、長期間経過観察した後には侵襲的で致死的な表現型へと進行する可能性が増すことをわれわれのデータは示している。この知見に基づけば期待余命が長い患者に対しては根治的治療の施行が勧められる」
オレブロ郡研究委員会、オレブロ大学病院研究財団、スウェーデン癌学会がこの研究を支援した。
付随する論説においてコロンビア大学(ニューヨーク市)のAlfred I. Neugut,
MD,PhDとVictor R. Grann, MD, MPHは現在進行中の介入試験の長期成績を待つことを勧めている。彼らが特に言及しているのは、この臨床試験の成果は早期介入が有益か否かを確認するためには約15年から20年の時間的枠組みが必要であることがわかったことにあるということである。
「根治的前立腺全摘除術の施行が生存率を改善するかどうかは長い間、大きな謎であった。この謎は最近スウェーデンで行われた『根治的前立腺全摘除術に関する無作為化比較試験』と現在進行中の『前立腺癌に対する介入対無治療経過観察の比較試験(PIVOT)』で明らかにされるであろう」とNeugut博士とGrann博士は述べている。「結果を得るまでに15年から20年もの経過観察を要する、スクリーニングに関するランダム化比較対照試験の実施を考慮するのは難しい。しかしおそらく、そのような研究こそが前立腺特異抗原(PSA)によるスクリーニングが前立腺癌に及ぼした影響を真に観察するために必要とされているものであろう」。
〜早期限局性前立腺癌〜 [2004年6月3日 (VOL.37 NO.23) ]
摘除術も放射線療法も予後は同等
ニューヨーク前立腺研究所のLouis Potters所長らの研究で、根治的前立腺摘除術(RP)、体外放射線療法(RT)、密封小線源療法(PB、放射性シードの前立腺内への植え込み)のいずれにおいても、早期前立腺癌の予後は統計学的に類似したものとなることがわかった。詳細はRadiotherapy
and Oncology(2004; 71: 29-33)に発表された。
研究結果の信頼性は高い
今回の研究は、クリーブランド・クリニック財団(オハイオ州クリーブランド)の早期前立腺癌患者1,178例とスローン・ケタリング記念癌センター(ニューヨーク)の同641例を対象に
7 年間にわたり行われたもので、前立腺癌とその治療法に関する直接的研究のうち最も大規模なものの
1 つとなった。被験者の腫瘍サイズはT-1〜T-2で、746例がRPを、340例がRTを、733例がPBを受けた。治療開始
7 年後における予後は、いずれの治療法でも統計学的に類似しており、早期前立腺癌患者では治療法にかかわらず、一般的に良好な予後が期待できることが示された。多くの先行研究では、対象者がRPと補助ホルモン療法の併用など
2 種類以上の治療を受けていたため、治療法の選択は難しい作業であった。 今回の研究では、いずれかの単独療法を受けた患者のみを対象としたため、先行研究に比べバイアスが少なく、治療法を直接比較することができた。
納得できる治療法の選択を
Potters所長は「単独療法による治療を受けた限局性前立腺癌患者を対象としたランダム化比較試験のデータは、これまであまりなかったので、今回の研究結果は重要である。治療法の組み合わせによる妨げがなく、各患者群で十分なフォローアップを行ったため、研究結果の信頼性は高い」と述べている。泌尿器科医はRPが標準的な治療法とみなすことが多いが、今回の大規模な研究はPBやRTでも同等のアウトカムが得られることを示した先行研究を支持するものとなった。同所長は「PBの成績は良好で、治療法として確立されたと言える。このため、RPに伴う合併症を避けたい患者は、安心してPBを選択することができる」と述べている。予後は、治療前の前立腺特異抗原(PSA)レベルと生検のGleason分類により評価した。年齢、人種、病期、治療法は再発の予測因子とはならなかった。今回の研究は、限局性の前立腺癌患者は予後と毒性をてんびんにかけ、自らが最も後悔しない治療法を選ぶべきであることを示唆している。
ニューヨーク前立腺研究所は、米国東部初の総合研究所で、最先端の治療法を求める前立腺癌患者に対する治療やセカンドオピニオンの提供に特化した活動を行っている。
「悪性」の遺伝子を特定 前立腺がんで英研究所 [2004年6月10日 (共同通信)]
前立腺がんのうち、悪性度のより強いがんの進行にかかわる遺伝子を英国のがん研究所などのチームが突き止め、9日までに英医学誌オンコジーン(がん遺伝子)電子版に発表した。一般に進行が遅いといわれる前立腺がんの中から、進行が速く、積極的に治療を進めるべきがんを見分けるのに役立つと同チームは説明している。この遺伝子は細胞の増殖にかかわる「E2F3」。チームは細胞の中でE2F3が作るタンパク質の量を測る方法を開発、前立腺がん患者計147人のがん細胞を調べた。すると全体の67%に当たる98人でこのタンパク質が異常に多かった。平均6年間、追跡調査した結果、タンパク質の量が多い患者は死亡率が高いことが分かった。前立腺がんの患者は欧米に多く、日本でも近年増えており、高齢化や食生活の欧米化が原因と疑われている。
ホルモン不応性前立腺癌へのドセタキセル投与、生存期間が2カ月延長し死亡リスクは2割減 [2004年6月9日 (Med Wave)]
進行性ホルモン不応性前立腺癌に対するドセタキセル(一般名、商品名はタキソテール)投与についての治験第3相で、生存期間を2カ月延長し、死亡リスクを20%引き下げる効果があるという結果が出た。これは、米Southwest OncologyGroup(SWOG)による研究結果で、6月7日のプレナリーセッションで、米New York Presbyterian HospitalのDaniel P.Petrylak氏が報告した。ホルモン不応性前立腺癌への化学療法が、生存率を改善することを示した研究結果は、今回の米国臨床癌学会で発表された米Johns Hopkins大学のMario A. Eisenberger氏らの結果に並んで初めて。
SWOGは、進行性ホルモン不応性前立腺癌の患者770人を無作為に2群に分け、一方にはドセタキセルとエストラムスチンを、もう一方にはメトキサントロンとプレドニゾンを投与した。ドセタキセル群のレジメンは、ドセタキセル60mg/m2の毎3週間投与と、エストラムスチン280mgの1日3回5日間投与。メトキサントロン群のレジメンは、メトキサントロン12mg/m2の毎3週間投与とプレドニゾン5mgの1日2回毎日の投与だった。それぞれ3週間サイクルを、最大12回、またはメトキサントロン投与量の累計が144mg/m2になるまで繰り返した。
その結果、メトキサントロン群の生存期間の中央値は16カ月だったのに対し、ドセタキセル群の生存期間の中央値は18カ月と、2カ月の差がみられた。また、ドセタキセル群の死亡リスクは、メトキサントロン群に比べ、20%低下した(ハザード比0.80;95%信頼区間0.67〜0.97;p=0.01)。
また、病気が進行するまでの期間の中央値についても、メトキサントロン群が3カ月だったのに対し、ドセタキセル群は6カ月と長かった。一方、重い副作用の発症率については、メトキサントロン群が34%だったのに対し、ドセタキセル群は54%と高く、主に胃腸と心血管に関する副作用の率が高かった。副作用による死亡は、メトキサトロン群が4人でドセタキセル群は7人だったが、有意差はなかった。
SWOGはこの結果を受けて、ドセタキセルによる化学療法はホルモン不応性前立腺癌の第一選択治療法になるべきだとしている。
非転移性前立腺癌へのGnRH作用薬によるホルモン療法で骨折リスクが約4割増大 [2004年6月8日 (Med Wave)]
非転移性前立腺癌に対するゴナドロピン放出ホルモン(GnRH)作用薬によるホルモン療法では、骨折リスクが約4割増大するようだ。6月5日の一般口演で、米Massachusetts
General HospitalのMatthew R. Smith氏が報告した。同研究グループは、1991〜2001年までのメディケア(米国の高齢者向け公的医療保険)のデータの中から、非転移性前立腺癌の人で、92〜94年に新たにGnRH作用薬による治療を始めた、3887人を抽出した。また対照群として、非転移性前立腺癌でGnRH作用薬による治療を行わなかった7774人を、年齢や人種などに合わせて無作為に抽出した。
両グループについて、1994〜2001年の骨折の発症率について調べたところ、対照群では56%だったのに対し、GnRH群では83%にも上り、GnRH群の骨折リスクは対照群に比べ、1.4倍になることがわかった(ハザード比1.4;95%信頼区間:1.16〜1.70;p<0.001)。
また、骨折リスクの増大はGnRH作用薬の投与期間が長いほど著しく、投与期間が3年超の人は、1年未満の人に比べ、同リスクが1.5倍になることがわかった(ハザード比1.5;95%信頼区間:1.17〜1.93;p<0.001)。
Smith氏は、前立腺癌の患者に対してGnRH作用薬を投与する際には、ビスホスホネートを合わせて投与するか、骨密度を定期的に測定するといった、骨折の予防策が必要だ、と結論付けた。
なお、米国では年間50万人以上の前立腺癌の男性が、GnRH作用薬を服用しているという。
血清PSA値は前立腺癌の生物学的マーカーとしての価値を失いつつある [2004年5月18日 (Medscape Medical News)]
PSA測定の普及に伴い、癌に起因しないPSA値の上昇がより高頻度になりつつある
血清前立腺特異的抗原(PSA)測定はPSAによるスクリーニングの普及に伴い逆にその価値を失いつつあるかもしれないという知見が、米国泌尿器科学会(AUA)年次集会(サンフランシスコ)にて報告された。
「PSAによるスクリーニングが今や日常的に行われていること自体がPSAの信頼性を失わせているのかもしれない」とThomas A. Stamey, MDは示説による発表で述べた。「20年前はPSA値の上昇は前立腺癌と高度に相関していたが、その後その関連性は低下してきており、1998年以後は良性前立腺肥大症(BPH)と相関するのみとなった」。同博士はスタンフォード大学医学部(カリフォルニア州、スタンフォード)の泌尿器科教授である。
Stamey博士らの研究チームの最近の研究によると、米国においては血清PSA値が2.0ng/mLを超えると前立腺生検をおこなうことが多いという。PSA値と前立腺癌の特徴との関係を調べるために、Stamey博士らはスタンフォード大学で1983年以降に施行された未治療前立腺癌に対する根治的前立腺全摘術で得られた全検体の病理組織学的地図を作成し、3mm間隔で作成した切片を用いて癌組織の量を測定した。
研究者たちは連続する1317件の未治療前立腺癌に対する前立腺全摘標本を対象として、血清PSA値と最大の癌胞巣の特徴との関係を、5年ごとの四つの年代に区切って解析した。3mm間隔で作成された連続切片を一人の病理専門医が病理学的に検討し、最大の癌胞巣の容積、グリソングレード4あるいは5の癌が占める割合、およびその他の組織学的諸因子を評価した。
最初期(1983-1988年)の癌では91%の癌が経直腸的に触知可能であった一方、最近の期間(1999-2003年半ば)では触知可能な前立腺癌の割合は17%であった。この両期間の間に患者の平均年齢は64歳から59歳に低下した。前立腺癌患者の平均血清PSA値は最初期では25ng/mLであった一方、最近の期間では8ng/mLであった。指標となる(すなわち最大の)癌胞巣の容積は、最初期では5.3mLであったのに対し、最近の期間では2.4mLであった。
Stamey博士によると、癌の悪性度を評価する方法のひとつである平均被膜外浸潤は、研究対象期間の20年の間に劇的に減少したという。最初期の5年間(1983-1988年)と最近の期間(1998-2003年半ば)とを比較したとき、最初期においては六つの癌の組織学的諸因子はすべて血清PSA値と有意な相関が見られた一方、最近の期間では血清PSA値との相関が認められたのは前立腺の大きさのみであった。「現在、血清PSA値は前立腺癌よりもむしろ良性前立腺肥大症の有無を予測する因子と言える」とStamey博士は述べた。
「前立腺組織の単なる増大である良性肥大症と前立腺癌のいずれにおいてもPSA値が上昇しうることはよく知られた事実である」とJ.
Brantey Thatcher, MDは外部のコメントを求めるMedscapeの取材に対して述べた。
「PSAによるスクリーニングを行うことにより、癌の容積は小さくなりつつある」。同博士はカンザス大学(カンザスシティ)の泌尿器科主任教授である。
典型的な前立腺癌の成長は緩徐であるため、PSAによるスクリーニングの普及の結果、より小さくより臨床的な重要性に乏しい癌が発見されつつあるという懸念がある。しかしながら、前立腺癌による死亡率が低下しつつあることを根拠としてThatcher博士はPSAによるスクリーニングの継続を支持する立場をとっている。
「PSAが前立腺癌のマーカーとしては不完全であることはよく認識されているが、一方現時点ではPSAが最善のマーカーであることも事実である」とThatcher博士は述べた。
「PSAのおかげでより小さい癌を発見しうるとも言えるだろう。1988年にPSAによるスクリーニングが開始されて以来、癌の進行度評価がより正確になってきていることも知られている。前立腺癌による死亡率が有意に低下していることもまたPSAによるスクリーニングのおかげであるという議論もある」。参考文献 AUA
99th Annual Meeting: Abstract 626. Presented May 9, 2004.
前立腺癌の救済療法には、焦点式高密度超音波療法が有望 [2004年4月27日 (Medscape Medical News)]
外照射放射線療法後に局所再発した患者はこの治療法で治癒の可能性が得られ、治療後の罹病率もその他の救済療法で報告されているものより低い
前立腺癌の救済療法には高密度焦点式超音波療法(HIFU)が有望な治療選択肢になるという試験結果が『Urology』4月号に掲載された。
「外照射放射線療法(EBRT)後に再発した患者群は、一般的に予後が非常に悪く、治療選択肢も限られたものしかない」と、エドワール・エリオ病院(フランス、リヨン)のAlbert
Gelet氏らが記している。「EBRT後に局所再発した患者においては、救済療法としてのHIFUで局所の高い癌抑制率が得られる」。
この試験では、EBRT後に再発した患者71例に対して、全身麻酔または脊髄麻酔の下でHIFUを実施した。直腸への障害を避けるために、漸進的に各個人のパラメータを定めていった。HIFU実施前の平均年齢は67±5.86歳で、前立腺の平均体積は21.4±11.1
cm3、前立腺特異抗原(PSA)の平均値は7.73±8.10 ng/mLであった。患者は全員が生検陽性であった。HIFU前のグリーソンスコアは、2-6の患者が24例、7が13例、8-10が34例であった。HIFUによる有害事象は、直腸尿道瘻が6%、3度の尿失禁が7%、膀胱頸部狭窄が17%であった。各個人のパラメータを用いたので、直腸傷害が起きた患者はいなかった。
追跡期間(範囲は6-86カ月間)の平均である14.8カ月の時点で、患者71例のうちの57例(80%)が生検陰性になった。患者71例中43例(61%)において、3カ月内で得られたPSA値の最下点が0.5 ng/mL未満であった。最新の追跡結果では、患者の44%において、癌の進行を示すデータが見られなかった。「HIFUは、(EBRR)後に局所再発した患者にとっては、治癒が望める有望な治療選択肢になると思われる」と著者らは記述している。「HIFU関連の疾患は、その他の救済療法で報告されている疾患よりも少なかったことから、好ましいリスク便益比が得られる」。この試験は、EDAP SA、Apicil-Arcil、Thone-Alpes Futur財団からの助成を受けている。著者らのうち2例は、超音波治療機器と治療用直腸内プローブの発明者で特許を保有している。参考文献 Urology. 2004;63:625-629
若年男性にはPSA上限値は高過ぎる [2004年3月11日 (VOL.37 NO.11)]
現在,前立腺特異抗原(PSA)の上限値は 4ng/mLとされているが,これは若年男性に適用するには高過ぎる値と考えられる。インスブルック大学病院泌尿器科のAndreas P.Berger氏らは「最近行われた研究から,複合型PSA(cPSA)値は明らかに年齢により異なることが示された」とUrology(2003; 62: 840-844)に発表した。今回行われたのは,PSAによる前立腺癌スクリーニング検査の改善余地を検討するための大規模試験で,総PSA(tPSA)値が20ng/mL以下の40〜79歳の健常男性 1 万人以上が参加した。特にcPSA値に注目し,各年齢層の95パーセンタイル値を各年齢層における正常範囲の上限とした。cPSA,tPSAともに年齢と直線的に相関し,遊離PSAの割合も加齢とともに有意な上昇を示した。これは高齢者において前立腺容量が増大することと関係していると考えられる。95パーセンタイル値が最も低かったのは40〜49歳のグループで,この年齢層については 4ng/mLというカットオフ値は高過ぎることがうかがえる。また,数多くの研究から,cPSAのほうがtPSAよりも高い特異性を示すことが明らかになっているため,前立腺癌の早期発見に関しては,cPSAがより適切なパラメータであると考えられる。
前立腺癌の薬剤耐性機序を解明 [2004年2月26日 (VOL.37 NO.9)]
アンドロゲン受容体の変化が原因
ハワードヒューズ医学研究所(HHMI)の研究者でカリフォルニア大学ロサンゼルス校ジョンソン総合癌センター(ロサンゼルス)のCharles
L. Sawyers博士らは,抗癌薬抵抗性の前立腺癌の原因となる驚くほど単純な機序を見出した。また,この研究は前立腺癌における薬剤耐性問題を解決する具体的な方法を示唆している。研究結果はNature
Medicine(2003; 10: 33-39)に発表され,前立腺癌の抗アンドロゲン療法に抵抗する分子的機序を明らかにしている。
耐性癌のみで発現する遺伝子
Sawyers博士は,HHMI研究員でカリフォルニア大学サンディエゴ校(カリフォルニア州ラホヤ)のMichael
G.Rosenfeld博士と共同研究を行い,前立腺癌の薬物療法が,早期には効果があるものの,のちにはしばしば失敗に終わる原因を解明しようとした。現在の前立腺癌治療の標準は抗アンドロゲン薬によりテストステロン濃度を低下させる薬物療法である。同薬は,前立腺癌細胞にあるテストステロン受容体蛋白質の結合部位と競合する。テストステロンがこれらの受容体を活性化すると,受容体は腫瘍の成長を促進する内部細胞機序のスイッチを入れる。
Sawyers博士は「この薬物療法は,通常,年単位の期間ではほぼ全例に有効であるが,患者が薬剤を服用し続けているにもかかわらず効果がなくなる。そのため,患者はこの疾患で死亡する」と指摘している。腫瘍細胞はホルモン不応性,すなわち正常な成長シグナルであるホルモン(アンドロゲン)がなくても,腫瘍細胞は増殖し続ける方法を学習するのである。同博士らは,薬剤耐性をもたらす分子シグナルを突き止める
1 つの方法は,DNAマイクロアレイ技術を利用して,薬剤耐性の前立腺癌細胞でのみスイッチが入る特定の遺伝子を探すことであると判断した。DNAマイクロアレイは,細胞内の相対的な遺伝子発現レベルを測定する。
アンドロゲン受容体の発現のみ変化
薬剤耐性細胞でスイッチが入る遺伝子を探す前に,Sawyers博士らはまず異種移植の技術を利用して,ホルモン感受性のヒト前立腺癌をマウスに定着させた。ヒト腫瘍がマウスに定着すると,アンドロゲン濃度を低下させる処理をマウスに行い,薬剤耐性状態になるよう癌を進行させた。同博士は「この過程は患者で起こっていることを模倣している。遺伝子プロファイリング研究の利点は,ホ
ルモン感受性細胞から直接派生するホルモン不応性細胞が得られることである。それ以外は,これら細胞は遺伝的に一致している」と述べた。DNAマイクロアレイ(遺伝子チップ)を利用して,遺伝的に一致する2
種類の前立腺癌 7 組について遺伝子発現を比較したところ,予期せぬことがわかった。同博士は「マイクロアレイのデータから,すべての移植片について唯一同じ変化が認められた。それはアンドロゲン受容体そのものの遺伝子発現の変化であった」と説明。ホルモン感受性癌およびホルモン不応性癌の差異がたった
1 つであると確認されるとは,全く予想していなかったという。同博士は「一貫した
1 つの変化があるとさえ考えていなかった。移植片により異なる特徴的な発現の相違を見つけようと待ち構えていた」と述べた。
次に,癌細胞においてアンドロゲン受容体遺伝子の変化が,機能的変化をもたらすことを確認する追加実験を行った。その結果,アンドロゲン受容体の遺伝子を過剰発現するようホルモン感受性細胞を改変すると,ホルモン不応性細胞のように振舞うことが示された。反対に,ホルモン不応性細胞の受容体遺伝子発現を低下させると,これら細胞はホルモン感受性細胞のように振舞い始めた。
予想外の機序
また,Sawyers博士らは,過剰発現したホルモン受容体が,ホルモン不応性になるためにはリガンドであるアンドロゲンに結合する必要があることを確認。「この発見がおそらく最も重要だろう。われわれのだれもが受容体を過剰発現させたら,リガンド結合は必要ないと考えていた。リガンド結合を必要とするという事実は予想外で,薬剤探索において非常に重要である。現在の抗アンドロゲン薬は,このリガンド結合部位と競合するため,この発見は,その部位が依然としてよりよい薬剤開発の重要な標的であることを意味している」と述べた。同博士らによると,受容体が依然としてホルモンリガンドを必要とするということは,受容体を過剰発現する腫瘍細胞は,テストステロン濃度を低下させる治療を受けている患者において,低レベルのアンドロゲンにより活性化される可能性があることを意味している。別の実験から,正常な細胞のシグナル発生機序が,依然として癌細胞のアンドロゲン応答に関与していることが示された。
また,この研究から高濃度の受容体は,なぜか抗アンドロゲン薬を変換して,受容体を活性化する作動薬にすることも判明した。Rosenfeld博士は「これは直感に反することで,非常に意外である。現在,なぜこのような変換が起こるのかについては,わずかな手がかりしかない。拮抗薬は作動薬の作用を阻止するため細胞内のDNA結合受容体に対するコリプレッサー機構を補充するが,アンドロゲン受容体の濃度が増加すると,受容体はこれを補充できなくなるのではないかと考えている。耐性における高濃度のアンドロゲン受容体の均一な選別は,増殖を促進するアンドロゲンに対する前立腺細胞の強い感受性により説明できるかもしれない」と述べた。Sawyers,Rosenfeldの両博士は現在,この変換がどのように発生するかを共同で研究しており,それにより得られた情報を利用して,変換現象を回避しながら有効性の高い新世代の抗アンドロゲン薬を特定したいと考えている。
〜早期限局性前立腺癌〜 [2004年2月26日 (VOL.37 NO.9)]
現行の治療法の有効性は同等
この15年間,限局性前立腺癌はさまざまな方法で治療されてきたが,T1またはT2の限局性前立腺癌の最適治療法がいずれかは定まっていない。テキサス大学MDアンダーソン癌センター(テキ
サス州ヒューストン),クリーブランド・クリニック財団(オハイオ州クリーブランド),スローン・ケタリング記念癌センター(ニューヨーク)の
3 医療施設の研究者らは大規模共同研究の結果,その答を特定するうえで機が熟したという結論に達し,International
Journal of Radiation Oncology,Biology,Physics(2003; 58:25-33)に発表した。
bRFSは腫瘍の特徴が左右
今回の研究は,1990〜98年に 3 医療施設のうち 2 施設で治療を受けた限局性前立腺癌患者連続2,991例(クリーブランド・クリニック財団1,973例,スローン・ケタリング記念癌センター1,018例)を対象として,永久的小線源植え込み療法(BT),外部放射線照射療法(EBRT),BT/EBRT併用,根治的前立腺摘除術(RP)の
4 つの治療法について生化学的無再発生存(bRFS)率を検討した。全体のフォローアップ期間の中央値は56か月(12〜145か月)であった。
これまでにも単一施設において同様の研究は実施されているが,今回の筆頭研究者でMDアンダーソン癌センターのPatrick
Kupelian博士は「この研究は,前立腺特異抗原(PSA)時代において,臨床的に限局された前立腺癌に最も多く適用されている治療法を,同時期の患者で比較した研究としては最大のもの」と説明。「今回の知見では72Gy未満のEBRTの場合を除き,7
年bRFS率は特定の治療法よりもむしろ治療施行時の腫瘍固有の特徴に左右されることが示唆された」とし,「この見解は,腫瘍の特徴が患者にとり好ましいか否かにかかわらず当てはまる。以前にも単一施設の連続症例を対象に,RPとEBRT単独とを比較する大規模研究で同様のアウトカムが得られている。今回の研究は,従来の研究の結果をより大規模な患者群に拡大して検討したもので,大規模な患者群でもBTと併用療法の有効性が同等であることが示唆された」と付け加えている。
低線量EBRTは有効率低い
EBRTが高線量の場合,bRFSに関して 4 つの治療法の有効性はほぼ同等であったが,低線量EBRT(72Gy未満)のみ,他の治療法に比べてアウトカムは有意に低かった。
Kupelian博士らによると,今回の研究の主たる限界は,エンドポイントとして転移なし生存率や全体生存率を設定しなかったことであるという。一方,これまでの研究は,アウトカムに影響するとされる治療前PSA値に関する情報が含まれていなかったり,EBRTの標準線量が66〜70Gyの時代に実施されたものである。
タマネギなどが前立腺癌リスクを低減 [2004年2月12日 (VOL.37 NO.7)]
〔米バージニア州ニューポートニューズ〕 当地の独立コンサルタントであるWilliam
Grant博士は,世界保健機関(WHO)により示されている前立腺癌死亡率の数値を用いて新たに多国間調査を行い,動物性食品の摂取が前立腺癌死亡に対する最大の危険因子であることをEuropean
Urology(in press)に報告した。
肉製品や脂質は危険因子
Grant博士は1990年代後半の数値を用い,白人が多数を占める32か国(うち欧州20か国)の調査を行ったところ,肉食が前立腺癌死亡率の高さに関与することが再確認された。食事での脂質摂取量の多さも,死亡率の上昇に関連していた。アルコール飲料摂取は軽微な危険因子であった。一方,最大のリスク低減因子は,タマネギ,ニラ,ニンニクといったネギ科の野菜や穀物,果物,その他の野菜に含まれる複合糖質および抗酸化物質を多量に摂取することであった。トマトに含まれるリコピンは前立腺癌のリスクを低下させると考えられているが,この調査では単独での関連性は認められなかった。同博士は「肉製品や脂質が広く多量に摂取されている米国や北欧では,そうでない日本,香港,イラン,トルコなどと比べて前立腺癌死亡率が約
5 倍高いことから,この多国間食事調査を実施した」と解説。また「今回の食事調査は,総エネルギー摂取量の増加により増大する前立腺癌の重要な危険因子としてのインスリン様成長因子(IGF-1)の役割を示唆するものである」と述べている。
パンチ生検で前立腺癌を確定診断[2004年2月5日 (VOL.37 NO.6)]
前立腺癌が疑われる場合には,パンチ生検を行って診断を確定する必要がある。その成功の決め手となる生検の部位および頻度について,アウグスブルク大学病院(アウグスブルク)泌尿器科のMichael Hamm博士は,クリニックと開業医院のための第 8 回泌尿器科学シンポジウムで解説した。初回生検で約77%の癌発見率前立腺生検の適応となるのは,直腸指診により疑わしい所見を認めるか,前立腺特異抗原(PSA)が上昇しているケースである。複数の研究で,PSAが2.6〜 4 ng/mLの場合に患者の20%以上で前立腺癌が検出されているため,同院では,PSAが 3 ng/mL以上のケースで生検に踏み切っている。進行前立腺癌の新薬を承認[2004年1月15日 (VOL.37 NO.3)]
FDA リスク管理プログラム下で販売
米食品医薬品局(FDA)は,代替療法のない進行前立腺癌の治療薬abarelix(Plenaxis)の販売を承認した。この薬剤は他のホルモン療法が受けられず,去勢手術も拒否した進行前立腺癌患者の治療に適用される。
投与後の観察が必須
今回の試験のスポンサーでもあるPraecis社(マサチューセッツ州ウォルサム)の方針では,投与に関連し,生命を脅かす恐れのある重度のアレルギー反応リスクの上昇が懸念されるため,abarelixは患者の同意を得た自主的なリスク管理プログラム(RMP)のもとで販売され,代替療法のない進行前立腺癌患者への適用に限定される。前立腺癌患者の
5 〜10%が症状を伴う進行癌であり,同薬適応の候補となる。Abarelixはゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)拮抗薬で,前立腺癌のほとんどで増殖の主因となるテストステロン(男性ホルモン)のレベルを下げる効果がある。今回の研究では,症状のある進行前立腺癌患者81例を対象にabarelixの効果を調べた。その結果,少なくとも12週間の投薬により,去勢手術を避けられることがわかった。
また,疼痛や排尿障害の緩和といった他の効果が得られた患者もいた。しかし,被験者のうち
3 例が重度のアレルギー反応を起こし,うち 1 例は意識喪失に至った。このため,FDAとPraecis社は,abarelixの販売を症状のある進行前立腺癌患者のうち,他の治療法が選択できない患者に限定することで合意した。アレルギー反応として血圧低下や意識喪失も考えられるため,医療機関では少なくとも投与後30分間は患者のフォローアップをすることになっている。
また,abarelixは小売薬局での流通は行われず,RMPに参加している医師と病院薬剤部のみに直接供給される。同薬は臀部への筋肉注射により,最初の
1 か月間は 2 週間に 1 回,その後は 4 週間に 1 回投与される。患者によっては治療期間内に同薬の効果が見られなくなることが予想されるため,2
か月に1 回の血液検査を行い,テストステロンのレベルが低く保たれているかどうかをチェックすることになっている。今回の試験で最も頻発した副作用は,ほてり,睡眠障害,背部痛を含む疼痛,乳房の肥大または痛み,便秘であった。
有害事象を厳しくチェック
Praecis社が展開するRMPは,abarelixの使用前に医師と患者がリスクと効果について十分な情報が得られるような構成となっており,医師,患者および病院薬剤部が協力して同薬の効果を最大限に引き出すとともに,リスクを最小限に抑えることに重点を置いている。プログラムの一部として,同社は規定の資格要件を満たし同社のabarelix
PLUS Program(使用者安全プログラム)に参加している医師のみにabarelixを供給することにしている。
また,同社は医師,患者,病院薬剤師に向けたabarelixのリスクと効果に関する教育プログラムを用意している。患者には,治療を受ける前に患者情報冊子を読んだうえで署名することが求められる。有害事象に関する情報を収集し,FDAへ報告するシステムも同時に立ち上げられ,RMPに参加する医師もまた重度の有害事象を同社またはFDAの医薬品安全性情報プログラムMedWatchに報告しなければならない。さらに同社は,abarelixの処方と実際の使用に関する評価を含め,RMPの評価についての研究も行う。
長期・大量喫煙の中年男性で悪性度の高い前立腺癌リスク倍増[2003年10月9日 (VOL.36 NO.41)]
フレ ッドハッチンソン癌研究センター(FHCRC,シアトル)のJanet L. Stanford前立腺癌研究プログラム部長らは,長期にわたりヘビースモーカーであった中年男性の悪性度の高い前立腺癌リスクは,一度も喫煙したことのない男性の
2 倍であったと,Cancer Epidemiology, Biomarkersand Prevention(12: 604-609)に発表した。同研究は,米国立癌研究所(NCI)から助成を受けており,ワシントン大学(シアトル)の研究者らも協力している。
大量喫煙者は確実にリスク増大
筆頭研究者でワシントン大学公衆衛生・地域医療学の疫学教授でもあるStanford部長によると,特に喫煙歴が“40
pack-years”( 1 日 1 箱を40年間,または 2 箱を20年間吸い続けること)以上の65歳未満の男性では,悪性度の高い前立腺癌のリスク増大の確率は100%であり,非喫煙者と比べて
2 倍であるという。また,前立腺癌全体の罹患リスクも,ヘビースモーカーの男性は非喫煙者に比べて60%高く,現在も喫煙を継続している男性は40%高かった。
同部長は「今回の研究は,喫煙が前立腺癌の危険因子であることを裏づける新たなエビデンスを提供するもので,喫煙が致死的な前立腺癌のより強力な危険因子であることを示唆する最近の知見を追認するもの」と述べている。
同部長によると,喫煙と前立腺癌との関係についての研究結果は,これまでさまざまであったが,こうした過去の研究成果や,さらにはジョンズホプキンス大学(メリーランド州ボルティモア)およびハーバード大学(ボストン)の研究者らの最新知見によって,特に喫煙量が多く,長年習慣となっている場合には,喫煙を前立腺癌の重大な危険因子とするエビデンスが蓄積されてきたという。同部長は「公衆衛生の観点からすれば,喫煙に影響される悪性腫瘍の膨大なリストに前立腺癌を加えるだけの十分なエビデンスがそろったと言える」と述べている。喫煙が関与する癌としては,ほかにも肺癌,膀胱癌,子宮頸癌,食道癌,腎臓癌などがある。
若年層対象のため信頼性高い
今回の研究は,シアトル地域の40〜64歳の男性1,450例以上を対象とした。半数は前立腺癌患者(診断は1993〜96年の間)で,残り半数は非患者の対照群である。被験者には詳細な個人面接を行い,喫煙やアルコール摂取,食習慣,職歴などさまざまな因子を検討した。
同研究は,全体的な前立腺癌罹患率の低い若年層を対象としており,特定の危険因子の影響を引き出しやすいことから,信頼性が高いと言える。Stanford部長は「65歳未満の男性を対象としたことで,前立腺癌への喫煙の関与を検出しやすかったのではないか。高齢層ではさまざまな危険因子の蓄積作用で,単一の因子を特定しにくいが,若年層では前立腺癌の絶対リスクが低いからだ」と述べている。
また,同研究は,前立腺癌スクリーニング歴や食物摂取など,ライフスタイルに関する他の因子を考慮している点でも信頼性が高い。データ解析では,こうした因子を考慮しておかなければ,結果に偏向が生ずることがある。
禁煙でリスクは非喫煙者並みに
喫煙はいくつかの機序を介して前立腺癌を進行させる。その 1 つとして,循環アンドロゲン量を増大させ,正常細胞・腫瘍細胞を問わず,前立腺組織の成長を促進することが挙げられる。Stanford部長は「喫煙により,男性のホルモン環境は腫瘍成長を誘発する状態に傾くようだ」と述べている。たばこを重金属カドミウムの取り込み源と捉える説もある。カドミウムは,いくつかの職業病調査で前立腺癌への関与が確認されている。ヒトにおける発癌物質として知られるこの金属は,DNA修復を阻害し,癌細胞の突然変異や増殖を可能にする。同部長は「カドミウムは前立腺での蓄積が確認されており,前立腺に有害な生物学的影響を与える化学物質が喫煙により取り込まれるケースの
1 つだと思われる」と述べている。しかし,今回の研究では,年間の喫煙数に応じて前立腺癌進行の相対リスクは増大するが,その一方で,禁煙すれば10年以内に非喫煙者と同レベルまでリスクを低減できるという結果も出ている。
同部長は「禁煙に踏み切れば,10年もしないうちに前立腺癌のリスクは非喫煙者と実質的に同レベルまで戻る。したがって,ほとんどの男性の場合,今から禁煙すれば間に合う。前立腺癌の環境危険因子はほとんど特定されていないが,そうしたなかで禁煙はリスク低減のために自ら実践できる方法の
1 つと言える」と述べている。
食生活でもリスクは低減
Stanford部長によると,禁煙以外にも前立腺癌のリスクを低減する方法として,FHCRCなどの研究により,以下のライフスタイルの改善が有効であるとされている。
(1)野菜を多く摂取する:野菜に含まれる化学物質には,体内の発癌物質を除去する酵素を活性化する物質が多い。FHCRCの研究では,1
日 3 食の献立に野菜を取り入れるだけで,前立腺癌リスクを約45%低減できることがわかった。キャベツやブロッコリー,カリフラワーなどのアブラナ科の野菜を摂取すれば,さらにリスクを低減できる
(2)脂質摂取を減らす:FHCRCの研究では,脂質を 1 日の摂取カロリーの30%以下に抑えた低脂肪食を取っている男性では,悪性度の高い前立腺癌のリスクが脂質摂取の多い男性の半分であった(3)トマトを多く食べる:トマトの赤色色素であるリコピンという栄養素は,前立腺癌リスクを低減することがいくつかの研究でわかっている。イタリア料理に用いられるマリナラソースのように,トマトを少量のオリーブオイルで調理することで,リコピンが吸収されやすくなる同部長は「前立腺にも心臓にもよいことを実践したいのであれば,禁煙し,脂質摂取を減らし,野菜を食べることだ。これらが害となることは決してない」と述べている。
『前立腺癌診療Q&A』 〜 患者さんの疑問に応えるために 〜
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編集:村井勝 出版社:メジカルビュー社、B5判、128頁 発行年月: 2003年9月 ISBN:4-7583-0553-6、MBN:MJ03076386
(税別)\5,000
昨今、医療を受ける側とそれを担う側が同じ視点で医療を見据える必要性が以前にも増して強くなってきています。そのためには、医療を受ける側に正確な情報を提供する必要があります。泌尿器科領域においては、患者数の増大から前立腺癌の診断・治療の正確な情報を提供する必要性が強くなっています。本書は質問に応える記述形式の解説書とし、患者に説明をする泌尿器科医はもとより、治療の内容を自ら知りたいと思われている患者の方々にも読んでいただける内容となっています。
< 目 次 >
I 前立腺の構造と機能
・前立腺の構造と働きについて教えてください
II 前立腺癌の疫学
・前立腺癌の疫学について解説してください
III 前立腺癌の基礎
・どうして前立腺癌になるのでしょうか
IV 前立腺癌の検査と診断
・前立腺癌をみつけるための検査と診断について解説してください
V 前立腺癌生検と治療方針
・生検結果で前立腺癌であった場合どうしますか
・生検査結果で前立腺癌でなかった場合どうしますか
VI 前立腺癌の治療方針
・前立腺癌の治療方針はどのようにして決めますか
VII 前立腺癌の治療の実際
・無治療で経過を観察する場合について解説してください
・根治的前立腺摘除術(開放手術)について解説してください
・根治的前立腺摘除術(腹腔鏡手術)について解説してください
・前立腺癌の放射線療法について解説してください
・前立腺癌の内分泌療法について解説してください
・前立腺癌の化学療法について解説してください
・前立腺癌の緩和治療について解説してください
・その他の前立腺癌治療にはどのようなものがありますか
VIII 前立腺癌の予後と予後因子
・前立腺癌の予後は何によって決まるのですか
IX 前立腺癌の治療とQOL
・前立腺癌の治療とQOLについて解説してください
X 前立腺癌を征服するには
・検診や人間ドッグなどスクリーニングと前立腺癌について説明してください
・最近の診断技術の進歩について教えてください
・前立腺癌に対する新しい治療にはどのようなものがありますか
http://www.m3.com/tools/Books/new/031009/detail_mail/detail_08.html
前立腺癌治療に凍結切除術が有効[2003年1月30日 (VOL.36 NO.5)]
コミュニティ記念病院(カリフォルニア州ベンチュラ)のDuke Bahn博士らは,「前立腺癌の凍結切除術(cryoablation)は他の治療法と同等以上の有効性があり,かつ長期合併症率は低い」と同学会で報告した。
超音波ガイド下で経皮的に施行
凍結切除術は,1 回以上の凍結・解凍サイクルにさらすことで組織を破壊する治療法で,超音波ガイド下で経皮的に行う。Bahn博士はミシガン州デトロイトの医師らとともに,1993年
3 月〜2001年 9 月に前立腺癌の一次治療として凍結切除術を受けた590例に関する報告を行った。48〜82歳の患者(平均年齢71歳)を,(1)初期前立腺特異抗原(PSA)レベルが10以上(2)Gleasonの腫瘍分類が
7 以上(3)T2b期あるいはそれ以上−の 3 つのリスクファクターによりランク分けした。これらのリスクファクターが全く見られない患者を低リスク群(15.9%),1
つのみが当てはまる患者を中等度リスク群(30.3%),2 つ以上が当てはまる患者を高リスク群(53.7%)とした。
技術的には,同博士らは液体窒素あるいはアルゴンガスで冷やした 4 〜 8 本の凍結探針および
2 回の凍結・解凍サイクルの間尿道を保護するために加温カテーテルを用いた。すべての患者は退院前に病院で一晩観察を受けた。凍結切除術後 1 年目は 3
か月ごとにPSAを測定し,それ以降は 6
か月間隔で測定を行った。また,6,12,24,60か月後に生検を行った。いずれの患者も,凍結切除術術後にほかの癌治療は受けなかった。
再発率と尿失禁率が低い
現在,フォローアップは 6 か月〜 8 年(平均5.43年)で,米国治療放射線・腫瘍学会(ASTRO)の再発基準(PSA値上昇が
3 回連続)によると,低リスク群の92%,中等度リスク群と高リスク群のそれぞれ89%で再発は見られなかった。生検では,低リスク群の98.6%,中等度リスク群の92.6%,高リスク群の77.1%で再発が見られなかった。高リスク群の前立腺切除術後の再発なし
5 年生存率は38%,放射線治療後のそれは26%であった。
凍結切除術後のインポテンス率は,前立腺切除術や放射線治療で報告されているものと同等であった。しかし,尿失禁率については放射線治療が11%,前立腺切除術が31%であったのに対して,凍結切除術では4.3%のみであった。尿道狭窄は凍結切除術例の
9 %で見られたのに対して,放射線治療では 2 %,前立腺切除術では20%であった。一方,凍結切除術例のフィステル率は0.4%,骨盤痛の有病率は11%であったが,ほかの治療法ではこれらの合併症は見られなかった。このように,凍結切除術は退局した前立腺癌,特に局所的に進行した前立腺癌の一次治療として非常に有効な治療法と思われる。しかし,Bahn博士は「この治療法の学習曲線は急カーブで,執刀医の経験が重要である」と述べた。
副作用なく、効果の兆し 前立腺がん遺伝子治療(共同通信2002.12.30)
岡山大病院泌尿器科(公文裕巳教授)が日本で初めて実施した前立腺がんの遺伝子治療で、安全性を確認する第一段階の臨床試験を受けた患者3人に副作用がほとんどなく、がんをたたく効果も認められたことが分かった。近く投与量を10倍にしてさらに安全性を検証し、効果を調べる方針。日本でも急増している前立腺がんの治療法として期待が持てそうだ。患者3人は、従来の治療で効果がない前立腺がんの60〜70代の男性。はじめに抗ウイルス剤の効果を高める酵素の遺伝子をがん細胞に取り込ませ、次に抗ウイルス剤を患者に点滴した。3人とも発熱などの副作用は現れず、がんの活性を示す腫瘍マーカーの上昇が止まったり、低下したりする効果が認められた。がん細胞の中でできた酵素の働きで、薬剤ががん細胞を攻撃し、細胞死に導く仕組みが働いているとみられる。共同研究中の米ベイラー医大の臨床試験でも36中28例でマーカー低下を確認したという。公文教授らは新たに、前立腺から転移したがんの治療として、ある種の生理活性物質の遺伝子を取り込ませ、周辺の免疫細胞に前立腺がんを攻撃させるとともに全身の免疫を活性化して転移がんをたたく治療を計画している。既にマウスの実験で効果を確認しており、近く同科の那須保友講師が渡米。ベイラー医大と今後の研究計画の詳細について打ち合わせる。
前立腺癌のPSA検診はやはり意味がない?、米の長期観察研究結果が発表 (MedWave2002.10.11)
前立腺特異抗原(PSA)を用いた検診は、前立腺癌の診断数や加療数を増やすが、必ずしも死亡数の減少にはつながらないとする観察研究結果が発表された。PSA検診の受診率に大きな差があった、米国内の2地域を11年間追跡調査したもの。PSA検診の有用性をめぐる議論に一石を投じそうだ。研究結果は、BritishMedical Journal(BMJ)誌10月5日号に掲載された。PSAは前立腺癌の腫瘍マーカーで、前立腺癌に罹患していると血中濃度が上昇する。米国では癌の早期発見を目的に、1980年代後半から、中高年男性を対象としたPSAによるマススクリーニングが積極的に行われてきた。その結果、米国では前立腺癌と診断される人が1990年代に急増、それに比例して治療を受ける人も増えた。その後、1995年以降になって、これまで増加の一途をたどっていた前立腺癌による死亡率が初めて減少。「早期発見が死亡率減少につながった」とする声が高まった。しかし、治療手段の改善などによっても死亡率は減るため、「PSA検診が有効だとする根拠は希薄」との声も根強く、論争の的となっていた。そこで、米国HealthStatのGrace Lu-Yao氏らは、1980年代後半に既にPSA検診を積極的に行っていたSeattle地区と、当時はまだ導入が進んでいなかったConnecticut地区を比較する観察研究を行った。前立腺癌による死亡率は白人と黒人とで大きく異なるが、この両地区の人種構成は94〜95%が白人、2〜3%が黒人と極めて似ている。さらに、この2地区は日本の「地域がん登録」に類似した制度である「SEER」(Surveillance, epidemiology, and end results)の実施地域。地区内の住民が癌と診断された場合や、癌で死亡した場合はデータベースに登録されるため、正確な比較が可能になる。Lu-Yao氏らは、1987年における両地区のメディケア(米国の高齢者公的医療保険、65歳以上が対象)受給者21万5521人を11年間追跡し、PSA検診受診率の違いがその後の予後にどのような影響を与えるかを調べた。1988〜1990年の間、Seattle地区でPSA試験を受けた人の比率はConnecticut地区の5.4倍。前立腺生検の実施比率も2.2倍に達した。治療に関しても、1987〜1990年に前立腺を摘出された人の比率には約5倍、放射線療法の実施比率にも約2倍の格差があった。ところが、前立腺癌による1997年までの死亡率推移は、Seattle地区とConnecticut地区でほぼ同一。仮にPSA検診による早期発見が死亡率の低下につながるなら、PSA検診が早期から普及していたSeattle地区の方が先に死亡率が下がり始めるはずだが、そうした“タイムラグ”も認められなかった。以上から研究グループは、「今回のデータは、検診や治療の強化が、前立腺癌死亡率の減少につながるとする仮説を支持しない」と結論付けている。なお、PSA検診の有用性をめぐる議論に決着を付けるには、やはり無作為化介入試験が不可欠。米国では1992年から、前立腺癌、肺癌、大腸癌、卵巣癌の4種類の癌について、PSA検査も含めた血液スクリーニングの有効性を調べる無作為化試験「PLCO」(Prostate, Lung, Colorectal & Ovarian Cancer Screening Trial)が開始された。結論が出るのは数年先と見られている。厚生労働省のがん検診評価委員会が昨年12月にとりまとめた「新たながん検診手法の有効性の評価」では(関連トピックス参照)、PSA検診の有効性に関して判断を保留している。この論文のタイトルは「Natural experiment examining impact of aggressivescreening and treatment on prostate cancer mortality in two fixed cohortsfrom Seattle area and Connecticut」。現在、全文をこちらで閲読できる。(MedWaveから)
前立腺癌 放射線療法無効の原因はp53遺伝子の突然変異[2002年9月19日 (VOL.35 NO.38) ]
〔米ウィスコンシン州マディソン〕 ウィスコンシン大学(マディソン)癌センターヒト腫瘍科のMark
Ritter博士らの研究により、前立腺癌患者のなかに放射線療法が奏効しない者もいるのはp53遺伝子の突然変異が原因であることがわかった。その詳細はInternational
Journal of Radiation Oncology,Biology and Physics(53:574-580)に掲載された。
無反応の53例を検討
研究では、前立腺特異抗原(PS A)値とGleason分類による判定で良好〜中等度リスクグループに入るにもかかわらず、放射線に反応しなかった前立腺癌患者53例を調べた。正常なp53は腫瘍に対する放射線の効果を増すと見られているため、p53の状態を検討した。
このグループの患者では、放射線療法後の統計的な生化学的不成功率が 5 年で35%となっており、全検体の38%はp53の突然変異について10%以上の標識指数(labelling
index)を持っていた。その10%以上の標識指数を持った患者は最も高い放射線療法不成功率を示している。同博士は「治療前の生検によりp53の状態を確認し、放射線療法が適切であるかどうか、あるいは線量を増やしたり手術など他のより積極的な治療法、またはp53を標的にした療法などを考慮すべきかについて、治療チームがより良い判断ができることになるかもしれない」とし、研究の結果を今後の実験で確認したいと述べた。
前立腺癌に関与する新たな遺伝子を特定[2002年8月8日 (VOL.35 NO.32)]
食事との関連解明に道
〔米メリーランド州ボルティモア〕 ジョンズホプキンス大学(ボルティモア)Brady泌尿器科学研究所のWilliam
B. Isaacs教授らは、前立腺癌発癌における,食事と関連する遺伝的要因を新たに特定し、その研究結果をCancer
Research(62:2220-2226)に報告した。同教授によると、前立腺癌から採取した細胞ではAMACR(α-メチルアシル-CoAラセマーゼ)と呼ばれる遺伝子の発現が
9 倍増大しており、「この遺伝子は乳製品や牛肉に含まれるような分岐鎖脂肪酸分子の分解に重要な役割を果たしている」と見ている。
予防手法の特定に可能性
Isaacs教授らによると、AMACR発現の増大と牛肉および乳製品摂取との間に関連があったとしてもそれはまだ明白なものではないが、今後の研究の焦点となる。AMACR遺伝子がつくり出す酵素により代謝される脂肪酸分子は鶏肉と大半の魚では少ない。赤身の肉を多く含む食事を取ることが、前立腺癌のリスク増大と関連していることはいくつかの研究で示されている。共同研究者で同大学の病理学、腫瘍学および泌尿器科学のAngelo
M. De Marzo助教授は「われわれがAMA CRについて学んだことは、前立腺癌の優れた早期マーカーとして役立つのみならず、前立腺癌予防のための新しい食事や化学的手法の特定に結び付くかもしれない」と述べた。
Isaacs教授らは今回の研究で、6,500以上の遺伝子の発現を同時に分析するために総合的「遺伝子チップ」のアプローチを用い、前立腺癌ではAMACR遺伝子が過剰に発現されていることを発見した。迅速に遺伝子発現を評価する組織マイクロアレイを使用して、168例の前立腺癌を調べて確認した。自動化コンピュータ技術を利用して、組織マイクロアレイの表示と、遺伝子と正常細胞および癌細胞の変化との関連性の確認がより迅速にできた。
95%以上が過剰発現示す
分析した腫瘍の95%以上がAMA CR遺伝子の過剰発現を示したため、同遺伝子は前立腺癌の既知の生物学的マーカーとしては最も確実なものの
1 つとなった。また,高分化型前立腺上皮内癌と呼ばれる前癌病変において類似の発現パターンが発見された。筆頭著者であるジョンズホプキンス大学のJune
Luo博士は「正常な組織の大半ではAMACRの酵素的活性は見られないため、同遺伝子は前立腺癌を非観血的に検出する分子プローブの開発において、また有効な薬剤標的として優れた候補となりうる」と述べた。AMACRはこの
2 年間で、Corixa社の研究者により、そしてマサチューセッツ大学(マサチューセッツ州ウースター)で前立腺癌マーカーの候補として存在が明らかにされ、その後、ジョンズホプキンス大学のグループとミシガン大学(ミシガン州アナーバー)の研究チームが別々に同定した。
より優れた前立腺癌診断ツールを求める研究の動機となっているものの 1 つは、前立腺癌の針生検の結果が不正確なことである。DeMarzo助教授は「針生検の15%で結論が得られず、検査を繰り返す必要がある」と指摘。しかし、針生検手順は直腸を介して前立腺に針を刺入することから患者にとって不快なもので、最初の診断の精度を上げられるマーカーが早急に求められているという。ジョンズホプキンス大学の研究グループは現在、AMACRをより一般的な前立腺癌関連遺伝子のp63と組み合わせて用い、前立腺針生検の評価を行う場合の有効性を研究している。
米国で前立腺癌のスクリーニングが増加:[2002年5月16日 (VOL.35 NO.20)]
〔米メリーランド州ベセズダ〕 バージニア大学(バージニア州シャーロッツビル)保健システム内科のJohn
D. Voss,Joel M.Schectmanの両博士は,早期の前立腺癌をスクリーニングするための前立腺特異抗原(PSA)検査が増加しているとJournal
of GeneralInternal Medicine(16:831-837,2001)に発表した。
医学的な理由ではない
プライマリケア医の報告によると,50歳以上の男性に通常の健康維持検査でPSA検査を指示したのは1993年には73%だったのに対し,98年には81%であった。Voss博士は「従来の研究では,PSA検査を行うおもな理由は,積極的な治療やスクリーニングにより死亡率が減少する可能性があるためとしてきたが,われわれの研究結果はそれと対照的である」としている。今回の研究によると,前立腺癌の早期の検出と治療で,死亡率が低下するであろうと考えていたのは,1998年に調査を受けた医師の半数以下にすぎない。医師が通常のスクリーニングを提供した理由は,それを標準的な医療であると考えたことや,もしスクリーニング検査を受けなかった患者が後で前立腺癌を発症した場合,医療過誤訴訟の危機にさらされるであろうと考えたからであった。
死亡数が減少するかは不明
前立腺癌は,米国人男性の癌による死因の第
2 位を占める。毎年,約20万例が新たに診断されている。1993年に,Voss博士らは,ワシントンD.C.のある健康維持組織と契約している176人の一般内科医と家庭医にアンケート調査を行った。質問では,通常の検査で前立腺癌の徴候のなかった男性に対するスクリーニングを,なぜ,どのぐらい頻繁に行ったのかを尋ねた。98年には,176人のうち108人から
2 回目の調査に対する回答を得た。1993〜98年に,43%は症状のない患者に対してPSA検査による前立腺癌スクリーニングを以前よりも頻繁に行うようになったと回答し,13%はPSA検査を以前より指示しなくなったと回答した。また,67%はPSA検査が50歳以上のすべての男性に行われるべきであると考え,75%は40歳以上で前立腺癌になるリスクの高い男性すべてに行われるべきであると考えていた。PSA検査が導入されて以来,症状が発現する前に前立腺癌を検出できるようになったため,早期治療が可能となった。しかし,早期治療が死亡を減少させるかどうかは明らかにされていない。
学会により見解異なる
PSA検査により前立腺癌の死亡率が減少すると証明するデータが不足しているため,米国内科専門医学会,米国予防医療サービス対策委員会,米国予防医学会,米国家庭医学会などは,通常のPSA検査を一律に推薦せず,個別の患者ベースでリスクと恩恵を注意深く検討したうえで,それを選択肢としてのみ推薦している。しかし,米国泌尿器学会は,通常のPSA検査の適用を支持しており,また,米国癌協会は,50歳以上で前立腺癌を発症するリスクが平均的であり,かつ余命が10年以上の男性すべてにPSA検査を勧めている。Voss博士は「前立腺癌は,徴候が発現しない段階で診断できる。しかし,徴候発現前の段階で治療によって患者の死亡率や転帰が改善する場合にのみ,スクリーニングプログラムは効果的であり,前立腺癌の場合,この点が未解決であり,さらに研究が必要である」と指摘した。
大多数の男性は、前立腺特異抗原(PSA)検査を毎年受ける必:ASCO2002(米国臨床腫瘍学会) Clubcarenet学会速報
米国の男性において、前立腺癌は1989年以来最も多く見受けられる癌であり、癌による男性の死亡原因としては、第2位となっている。50歳以上の男性は、前立腺癌早期発見のために毎年PSA検査を受けることが推奨されているが、初回の検査値が低値であった場合、それ以降の検査頻度を減らしても癌発見の確率はほとんど変わりなく、検診内容の見直しによって医療費の大幅な節減に結びつくとの予測が示された。この予測の元となった研究を行ったのは、Colorado大学Health
Sciences CenterのCrawford氏らのグループ。同グループは、National
Cancer Instituteが全米規模で進めるPLCO(P:前立腺癌、L:肺癌、C:直腸癌、O:卵巣癌)
スクリーニング試験の一環として集めた27,863例の男性(55〜74歳)のうち、初回の検査値が正常範囲内(<4ng/mL)であった約90%の男性における5年間のPSA検査データの推移を追跡した。
Crawford氏らは、対象男性をPSA初回検査値別に、0〜1ng/mL、1〜2ng/mL、2〜3ng/mL、3〜4ng/mLの4群に分けて検討を行った結果、最もPSA値
が低かった0〜1ng/mL群の 男性の98.6%は、それ以降の4年間も正常範囲内にとどまっていたことを明らかにした。また、1〜2ng/mL群の男性の98.8%は翌年の検査時も正常であった。0〜1ng/mL群の検査間隔を5年、1〜2ng/mL群の検査間隔を2年とした場合、前者の4年目の累積移行リスク1.4%と後者の1年目の移行リスク1.2%をあわせた2.6%の患者で、発見が遅れる可能性がある。この知見に基づきPSA
が1ng/mL以下の男性ではその後の検査間隔を5年に、1〜2ng/mLの男性では検査間隔を2年にそれぞれ改めた場合、米国における年間のPSA検査数は現在より約55%減少し、検査費用の節減額は年間約10億ドル規模に見積もられるという。その一方で、早期発見の機会を逸する確率はわずか2.6%と予測された。
逆に、初回検査時のPSA値が3〜4ng/mLであった場合は、24%が1年以内に、83%が5年以内にPSA値の異常をきたしていることから、PSA2ng/mL以上、特に3ng/mLを越える場合は十分注意すべきであろうとCrawford氏は述べている。 なお、本試験は現在も進行中であり、PSAスクリーニング自体が予後改善因子であるか否かについては、まだ明らかではない。
前立腺癌 PSA検査は微細針吸引生検で:[2002年4月4日 (VOL.35 NO.14)]
ホルモン治療を受けている前立腺癌患者をフォローアップし,予後判定を容易にするための指針となる検査項目の開発に努力が注がれている。カロリンスカ研究所(ストックホルム)のMirtha
Grande氏は,前立腺特異抗原(PSA)の測定に前立腺の微細針吸引生検で得た微量検体を用いる方法を検討。同法を用いると,患者の経過がより正確に予測されるため,最適の治療法を選択することができると述べた。
実際,前立腺癌に対するホルモン療法を受けている癌患者の前立腺細胞診検体のPSAを測定することで,治療効果をより的確に判定できることが示されたという。
なお,治療効果のモニターとして通常行われるのは血中のPSA定量だが,同法ではどの程度の量のPSAが腫瘍から血中に漏出してくるかが示される。血中PSAは組織中のPSAと逆相関する。
エストロゲンが前立腺癌の治療に用いられるが,このホルモンには前立腺癌の発生にかかわるという側面もある。同氏は,エストロゲンが血管作用因子に影響を与え,本来なら細胞の成長をコントロールしているいくつかの因子のバランスを阻害することにより,前立腺癌の発症にかかわっているとし,「エストロゲンによって前立腺癌が発症する機序は,エストロゲンの持つ血管作用性物質に対する影響に依存する」と述べた。
シルデナフィルが放射線治療後の前立腺癌患者の勃起不全を改善:[2002年2月28日 (VOL.35 NO.9)]
Daniel den Hoed癌センター(オランダ・ロッテルダム)放射線腫瘍部のLuca
Incrocci博士らによると,前立腺癌に対する放射線外照射治療後の勃起不全の治療には,シルデナフィルが有効であるという。詳細はInternationalJournal
of Radiation Oncology Biology and Physics(51:1190-1195,2001)に掲載された。
7〜64%に発生
欧米男性では,皮膚癌に次いで前立腺癌が多くなっている。近年,前立腺特異抗原(PSA)検査の普及により,前立腺癌と診断される患者数が劇的に増加している。それに伴い,前立腺癌の放射線治療後に見られる勃起不全も問題となってきた。放射線外照射によって起こる勃起不全の頻度は
7 〜64%とされている。このような患者にはシルデナフィルによる治療が効果的であるという。
Incrocci博士らの研究では,前立腺癌への放射線治療後に勃起不全を呈した56〜79歳のオランダ人患者60例を対象に,4
週間かけて患者の性機能についての情報を収集した後,12週間にわたる治験を行った。
対象患者の半数には必要に応じて 1 週間に
1 回以上,1 日に 1 回までのシルデナフィルを,残りの半数にはプラセボを投与した。6
週間後,シルデナフィル群とプラセボ群を入れ替えた。その結果,シルデナフィル群の55%,プラセボ群の18%が性交可能となり,重篤な副作用の報告はなかった。
同博士は「前立腺癌への放射線治療後に勃起不全を呈する患者の半数以上が,シルデナフィルの服用により,症状が改善すると同時に性交が可能となった」と述べ,さらに「医師の指示に従って服用する限り,シルデナフィルは重篤な副作用のない安全な薬剤であると言える」と付け加えた。
〜限局性の前立腺癌〜開腹による摘除術はいずれ不要に:[2002年2月21日 (VOL.35 NO.8)]
開腹による根治的前立腺摘除術が岐路に立たされている。局所に限局した前立腺癌に対しては,種々の新しい治療選択肢が登場しており,腫瘍のステージに応じた使い分けも可能で,開腹による前立腺摘除術より低侵襲である。Urologe(A)(40:180,181-184,185-190,191-194,199-206,2001)に掲載された複数の論文は,前立腺癌治療の現況を理解するうえで参考となりそうだ。
腹腔鏡的手技により適応が拡大
医師が前立腺癌の治療法を決定する際には,腫瘍のステージ,患者の年齢,共存症などを参考にする。しかし,患者にとってとりわけ重要なのはQOLであり,それは予想される副作用や合併症により大きく左右され,個々の治療選択肢でかなりの差が認められる。
限局性の前立腺癌に対しては,最近までは開腹による根治的前立腺摘除術が唯一の治療手段だったが,現在では高度の技術を要する腹腔鏡的前立腺摘除術も行われるようになってきた。例えば,シャリテ病院(ベルリン)では,最初の145例に対する成績が非常に優れていたため,恥骨後式前立腺摘除術を腹腔鏡的に行っている。出血量が少なく合併症発現頻度が低いうえ,術後痛も少なく,速やかな回復が見込め,美容的にも優れている。排尿コントロールと性的能力に関しては開腹術と同等の成績であったが,将来は,目標部位以外に傷を残さない手技も開発され,腹腔鏡手術の成績がさらに向上すると期待されている。また,経尿道的前立腺切除術あるいは開腹術が既に行われている患者や中等度の肥満患者に対しても,腹腔鏡的前立腺摘除術の適用は可能である。
密封小線源療法や冷凍外科療法も選択肢に
局所性の前立腺癌に対して好んで用いられるようになってきたもう
1 つの方法は,密封小線源療法であり,小さな線源を腫瘍部に密着ないし挿入する。シャリテ病院泌尿器科のSerdar
Deger博士の説明によると,永続的な放射性同位元素としては125I,103Pd,198Auなどを使用し,一時的な線源としては192Irを使用する。さらに,低線量(LDR)
密封小線源療法と高線量(HDR)密封小線源療法とで使い分けを行う。
密封小線源療法が成果をおさめるかどうかは,患者と放射性同位元素との選択にかかっている。前立腺特異抗原(PSA)の初期値が10ng/mL以下,腫瘍ステージが最高でもT2bおよびG2,Gleasonスコアが
6 以下の低リスク患者に対しては,125Iまたは103Pdを用いたLDR密封小線源療法の単独実施で十分であり,副作用の発生も非常にまれである。腫瘍ステージT3のハイリスク患者に対しては,開腹術や経皮的照射療法を単独で行う代わりに,192Irを一時的に使用したのちに経皮的照射療法を行う。
低侵襲の冷凍外科療法は,確立された標準的治療と競合するまでには至っていないが,特定のケースでは非常に有用である。例えば,同時に複数の疾患に罹患している患者,開腹術を拒絶している患者が同療法の適応対象であり,前立腺摘除術後や照射療法後に局所的再発を生じた患者も検討対象に含まれる。ただし,前立腺の容積が40mL以下という条件をクリアする必要がある。
ケルン大学泌尿器科のFrank Sommer博士は,これまでに局所性の前立腺癌患者57例に対して冷凍外科療法を実施した。その大半は心肺リスクが高いために開腹術が施行できなかった症例であった。PSAの経過,生検所見,合併症の発現などの点から見た短期的成績はきわめて有望で,照射療法に匹敵するほどであった。
HIFUも現在注目の低侵襲治療
ほかにも注目されている低侵襲治療としては,高密度焦点式超音波(HIFU)療法が挙げられる。HIFUでは脊椎麻酔下に経直腸超音波法により前立腺を描出し,治療すべき組織を正確に特定したうえで,治療用エネルギー変換器により前立腺内の個個の病巣を凝固させる。臓器内に限局している前立腺癌患者に対してHIFUを行うと,外科的内分泌療法の実施を先延ばしにすることができ,ホルモン非感受性腫瘍の進行速度が低下する。また,1
回の外来で実施可能であり,治癒のチャンスが与えられるという利点も備えている。
ミュンヘン・ハーラヒンク市立病院のStefan
Thuroff博士とChristian Chaussy教授は,根治的前立腺摘除術の実施が不可能な184例のおもに高齢のリスク患者に対してHIFUを実施したところ,術後の排尿機能は全例で正常となり,術式にもよるが
3 分の 1 から3 分の 2 の症例で性的能力が維持された。しかし,再発率,瘢痕形成による副作用,PSAの上昇などについて結論を下すには,長期的な追跡調査の実施が必要である。
セレンが前立腺癌を予防:[2002年1月31日 (VOL.35 NO.5)]
〔米カリフォルニア州スタンフォード〕 スタンフォード大学(スタンフォード)泌尿器科のJames
D. Brooks助教授らは,血中のセレン濃度が低い男性は前立腺癌を通常の
4 〜 5 倍罹患しやすいことをJournal of Urology(166:2034-2038,2001)で発表した。また,血中セレン濃度が高いほうが前立腺癌リスクが低いことも確認された。セレンは特定の食品に含まれる微量元素で,食事や栄養補助食品により摂取される。
加齢に伴って減少
論文の筆頭筆者であるBrooks助教授は「今回の研究で最も興味深いのは,血中セレン濃度が加齢に伴って減少することであり,これは従来知られていなかった。さらに,セレンが前立腺癌に直接関与していることもわかった。高齢者でも血中セレン濃度が高ければ発癌リスクは低い」と述べた。
研究結果は,ブラジルナッツやマグロなどセレンを豊富に含む食品や栄養補助食品の摂取で,前立腺癌のリスクを低減できることを示している。ただし,同助教授は,栄養補助食品が実際に血中セレン濃度を高める効果があるかどうかの判断は,まだ研究の余地があるとしている。
しかし,同論文は「今回の研究結果はセレン補充が前立腺癌リスクを低減するという従来の仮説を裏づけるものだ」と結論付けている。血中セレンは加齢とともに減少するため,高齢者にはセレンの補助的な摂取が効果的と言える。
今回の研究は,前立腺癌患者52例と非患者96例を対象としている。被験者の年齢の中央値は69歳より若干低かった。被験者の病歴や罹患リスクは,米連邦政府の助成によるボルティモア長期加齢研究の一環として数年にわたり記録されてきた。
同研究は米国立加齢研究所(NIA)からの助成を受けて,Brooks助教授をはじめとするNIA臨床研究室およびジョンズホプキン大学(メリーランド州ボルティモア)による研究チームが行った。
米国癌協会(ACS)によると,前立腺癌は男性の癌のなかで最も多く,癌による男性の死亡率のトップを占めている。現在,スタンフォード大学などの主要医療機関で,栄養補助食品が前立腺癌の罹患率を低減するかどうかを調べる大規模な試験が行われている。
前立腺癌 密封小線源療法の副作用は外照射より多い:[2002年1月24日 (VOL.35 NO.4)]
〔米ミズーリ州セントルイス〕 密封小線源による前立腺癌の近接照射治療では,考えられていた以上に副作用が多い可能性がある。ワシントン大学(セントルイス)放射線腫瘍学のJeff
M. Michalski助教授らによると,最新の外照射治療を受けた患者に比べ,内照射治療を受けた患者は,治療開始後
1 年以内のQOLが低いという。この研究結果は,サンフランシスコで開かれた第43回米国治療放射線・腫瘍学会で発表された。
選択的照射で副作用抑える
Michalski助教授によると,近接照射治療として知られる線源埋め込みによる治療のほうが,完成度の高い原体照射法よりも優れていると考える医師がほとんどであるという。同助教授は「一も二もなく,近接照射には効果があり,癌を撲滅することが可能である。長期的な副作用も妥当な範囲内におさまっている。しかしながら,2
つの治療法を比べたときに,近接照射療法は決定的に優れているわけではない。医師は患者に対して,より新しい外照射に比べ副作用の発現頻度が高いとアドバイスする必要がある」と述べた。
3 次元原体照射法は,外照射治療の改良型であるが,腫瘍に対し放射線のビームを選択的に照射して,健常部分への影響を最低限に抑える方法を取っている。
外来で,毎日20分の照射を週に 5 回の頻度で
7 週間半行った後,3 か月に 1 回の定期検診を受ける。前立腺癌に対する近接照射は,外来での侵襲的治療であり,全身もしくは脊髄麻酔が必要である。75〜125個の小さな放射線源の小球または小塊を前立腺組織に埋め込むが,前立腺の大きさと形によって個数が決定される。
埋め込みから 3 週間後に再診を受けると,その後は
3 か月ごとに定期検診を受ける。パラジウム製の小塊は
6 〜 9 週間放射線を放出し続け,ヨウ素の小塊は
6 〜 9 か月放射能を持つ。
排尿,排便,性交などの問題多い
Michalski助教授らは,182例の男性に近接照射療法を,87例の男性には原体照射療法を行った。いずれの患者も,治療法は患者自身が選んだ。患者の平均年齢は70歳。2
年あまりに及ぶフォローアップ期間中,患者はいくつかの基本的質問に答えたが,それらは,残尿の尺度である国際前立腺癌症状スコア,癌治療後の生活の快適さを表すFACT-P,および性的活動を評価するための質問などである。排尿,排便,性交などの問題点は,近接照射を受けた患者では,外照射治療を受けた患者に比べて有意に多かった。例えば,平均累積国際前立腺症状スコアは,近接照射で12.5であったが,外照射では8.3であった。両群間で,最も顕著な違いは治療後
6 〜 9 か月に見られたが,その後もわずかな違いは
1 年間かそれ以上持続した。近接照射を受けた患者では,尿路の合併症が多かった。また,治療から
6 か月以内に,性的活動を再開する率が低く,外照射を受けた患者に比べて性的活動の頻度が低かった。
同助教授は,その理由を 2 つ挙げた。その
1 つは,線源を埋め込む手技が侵襲的であり,前立腺が腫脹すること。腫脹した前立腺によって不快感が生じ,それが治癒には数か月を要したということである。第
2 に,尿道は前立腺を貫通しているため,内照射である近接照射では外照射より放射線を多く受けることを挙げた。尿道が受ける線量がより多いために,排尿障害が生じている可能性がある。
少ない通院回数を選ぶ
しかし,Michalski助教授によると,治療期間は外照射では
7 週間半かかるところを,近接照射は 1 日であるために,ほとんどの患者が近接照射を選択しているという。多くの患者が,友人や親戚,あるいはインターネットで得た情報に基づいて,近接照射のほうを希望する。
同助教授は「患者が近接照射を希望すれば,私はあえて反対はしない」と述べる。しかし,「近接照射療法によって,なんらかの急性で短期間の副作用が生じる可能性があることを,また
1 年以内に消失するものであることを説明している」とも語った。 同助教授らの次の計画は,さまざまな因子,例えば放射線量の分布,アイソトープの違いや強さなどが,副作用の発現に影響を及ぼすかどうかを調べることだという。
前立腺癌 放射線治療無効例に冷凍手術が有効:[2002年1月24日(VOL.35 NO.04)]
〔米カリフォルニア州アーバイン〕 前立腺癌などを含む前立腺疾患に対する革新的な温度制御治療の開発企業であるEndocare社は,放射線治療が奏効しなかった前立腺癌患者に冷凍手術が安全,有効な治療方法であり,根治的前立腺切除術よりも良い選択肢であると,Journal
of Urology(166:1333-1338,2001)に掲載された新しい研究によって明らかにされたと発表した。
低侵襲のターゲットアブレーションシステムを使用
同研究によると,低侵襲性のEndocare CryoCareターゲットアブレーションシステムを用いたところ,治療に伴う合併症が著しく減少した。また,Kaplan-Meier法から計算された生化学的検査による無再発生存率は,1
年で86%,2 年で74%であった。研究チームのリーダーであるコロンビア大学(ニューヨーク)のAaron
E. Katz助教授は,焼灼治療後の失禁や直腸瘻などの副作用を大幅に減らした最新の冷凍手術に感心したと述べている。「これは,癌が放射線抵抗性で,ほかに治療法のない患者にとって朗報である。この処置は,根治的前立腺切除術よりも侵襲性が低く,副作用もより少ない」と同助教授は言う。
前立腺癌は,米国男性では最も多い癌で,昨年は発症が18万400件,死亡が
3 万1,400件と推測されている。新たに前立腺癌と診断された男性の多くが,外部照射か密封小線源埋め込みなどの放射線治療を受けるであろう,と同助教授らは報告している。しかし,腫瘍が既に放射線抵抗性になっており,再治療には深刻な合併症リスクがあることから,放射線は再発患者にとっては治療手段となりえない。これまでは,根治的前立腺切除術,すなわち相当の副作用を伴う成功率の低い複雑な外科治療か,あるいは内分泌療法が唯一の手段であった。
新しい冷凍手術により,失禁率がわずか7.9%になり,これは括約筋のなかに置いたプローブを通して前立腺内部の温度をモニターできるためである,と同助教授らは述べている。モニタリングにより,患部損傷をさらに防ぐことができる。改良超音波技術と温度モニタープローブを使用したCryoCare技術のお陰で直腸瘻の発生はない。
Endocare社CEOのPaul Mikus社長は「この研究では冷凍手術の有望な他の適応も示されている。それには肺や肝臓,乳房や腎臓の癌治療があり,その臨床試験が進行中である。新しい標的を定めた冷凍手術は,深刻で生命を脅かす各種癌患者にとって新しい希望である。その素晴らしい潜在力の探究は始まったばかりである」と述べている。
前立腺癌治療がアルツハイマー病を誘発かホルモンとアミロイドに関係が:[2001年11月15日 (VOL.34 NO.46)]
〔シカゴ〕 ニューヨーク大学(ニューヨーク)のSam
Gandy博士とウ ェスタンオーストラリア大学(オーストラリア・パース)のRalph
Martins博士らが米国神経病協会年次集会で行った報告によると,前立腺癌の治療としてホルモン除去療法を受けている男性は,アルツハイマー病を発症する下地ができあがっているのかもしれないという。
血漿アミロイド値が2倍に
Gandy博士らは,前立腺癌の治療を受けている
6 例の男性を対象に検討した結果,テストステロンを
6 か月間抑制すると血漿アミロイド値がおよそ
2倍になることがわかった。この研究で観察された,アルツハイマー病を引き起こす最大の原因と考えられているアミロイドの劇的な増加は,アルツハイマー病が高齢になるまで発症しない理由の説明になるかもしれない。遺伝的にアルツハイマー病を発症しやすい人は,男女とも性ホルモン分泌が減少する前にアルツハイマー病を発症する境界域のアミロイド値に達しているのではないか。性ホルモン分泌が減少すると,脳でのアミロイド値が,神経毒と考えられているアミロイドの集積を引き起こすに十分なほど上昇するのかもしれない。
同博士らの雌のモルモットを用いた以前の研究では,卵巣摘出を行った動物でアミロイドの有意な上昇が認められており,ホルモン補充療法を受ければアミロイド値は減少することがわかっている。他の研究者らは,ヒトにおいて血中を循環するアミロイド値が高いとアルツハイマー病を発症しやすいことを発見している。
同博士は,今回対象とした 6 例の男性で,このタイプの痴呆になっているかどうかを調べるために,経時的な認知テストを数年間行う予定であると述べた。この疾患の予防としてホルモン療法を行うことに関して10年間の研究を行い,2003年に
5 年目の中間報告を出す予定だが,その結果が示されるまでは,加齢や治療のために性ホルモンの抑制を受けている男女に対して,アルツハイマー病の予防策としてホルモン補充療法を勧告することは,今のところ早過ぎるかもしれないとしている。
前立腺癌予防の大規模治験を開始ビタミンEとセレンの効果を検証へ :[2001年9月27日 (VOL.34 NO.39)]
〔米ワシントン州シアトル〕 米国立癌研究所(NCI)は前立腺癌予防のための大規模な臨床試験,セレン・ビタミンE癌予防試験(Selenium
and Vitamin E Cancer Prevention Trial; SELECT)を開始したと発表した。この治験は米国,カナダ,プエルトリコの男性
3 万2,400例を対象に,12年間継続して行う予定で,ビタミンEおよび微量元素のセレンに前立腺癌の予防効果があるかどうかを検証することを目的としている。
1億8,000万ドルの巨費投入
今回の臨床試験の中心となる施設はフレッドハッチンソン癌研究センター(FHCRC,シアトル)で,ほかにノースウェスト前立腺研究所(シアトル),ピュージェット湾癌センター(シアトルとエドモンズ),スウェーデン癌研究所,復員軍人局ピュージェット湾医療システム,バージニアメーソン医療センターなどと協力して治験参加者を募る。各施設からのデータはFHCRCに集められ,解析される。また,スポーカンおよびタコマの施設でも参加者を受け付けている(ワシントン州の治験施設に関する詳しい資料は随時請求可能である)。治験担当医らは治験開始から最初の
5 年で被験者を集め,その後 7 年以上にわたり各患者をフォローしたいとしている。
今回の臨床試験では400か所の施設から成るネットワークを通じて被験者を募っているが,これらの施設はいずれもサウスウェスト腫瘍グループ(SWOG)と呼ばれる,腫瘍治療のコンソーシアムに属している。FHCRC公衆衛生科学部にSWOG統計センターを設け,臨床試験で用いる統計学的手法を検討したり,データ管理や分析を行う。
NCIが 1 億8,000万ドルの巨費を投じるこの臨床試験を指揮するのは,FHCRC公衆衛生科学部のJohn
Crowley博士である。FHCRCにはデータ管理および分析のために全資金の20%が提供される。FHCRCからは同博士以外にも統計責任者のPhyllis
Goodman氏(理学修士),栄養疫学のAlan Kristal博士,行動心理学のCarol
Moinpour博士,分子疫学のJanet L. Stanford博士がSELECTに参加する。
他の治験で予防効果を示唆
セレンは穀物,肉,魚に含まれる微量元素で,ビタミンEは植物油,緑黄色野菜,(胚芽を含んだ)全粒穀物などに含まれている。両者とも“フリーラジカル”の作用を中和する抗酸化物質である。フリーラジカルは細胞内の遺伝物質を障害し,発癌をもたらすと言われている。
ワシントン大学公衆衛生・地域医療学部生物統計学の教授でもあるCrowley博士は「セレンが前立腺癌のリスクを低減させるという理論は,アリゾナ皮膚癌治験において提唱された」と述べた。同治験ではセレンが皮膚癌の発生率に何の作用も及ぼさないことが証明されたが,同博士らがデータを詳細に検討したところ,セレンには前立腺癌の発生率を低減させる作用のあることが明らかになった。また,ベータカロチンが肺癌の発生率を減少させる効果があるかどうかを検討したフィンランドの治験では,ビタミンEの作用も検討された。広く普及している通説に反し,ベータカロチンには肺癌のリスクを高める作用があることが示された。一方,ビタミンEには前立腺癌の発生を抑制する効果のあることが判明した。
同博士は「ビタミンE,セレンのどちらも前立腺癌を特異的に予防するが,その機序に関しては研究者らもつかんでいない。しかし,これらの抗酸化物質が腫瘍の成長を遅らせたり阻害したりすることを示した研究はいくつかある」と述べた。ワシントン州の被験者募集の中心であるスウェーデン癌センター内に設けられたSELECT治験センターの責任者である腫瘍学者のGaryE.
Goodman氏は「SELECT治験はビタミンEとセレンの前立腺癌予防作用をそれぞれ単独および併用で直接検討する臨床試験としては最初のものである」と述べた。
FHCRC公衆衛生科学部の協力研究員でもある同氏は「ビタミンEおよびセレンを検討した過去の研究では,これらの栄養素に前立腺癌を予防する効果がある可能性が示唆されているが,確証はなかった。SELECT治験が終了した時点で,ビタミンEおよびセレンに前立腺癌の予防効果があるかどうかが明らかになるだろう」とコメントした。
無作為に4群に割り付け
SELECT治験に参加登録した被験者は,6 か月ごとに地域の治験担当施設を受診する。登録時に被験者は無作為に,(1)セレン200μgとプラセボ(ビタミンEに似せた偽薬)を毎日服用(2)ビタミンE
400mgとプラセボ(セレンに似せた偽薬)を服用(3)セレンとビタミンEの両剤を服用(4)
2 種類のプラセボを服用−の 4 群のいずれかに割り付けられる。同治験の参加者に食事の制限はないが,参加者が複合ビタミン剤の服用を希望する場合は,セレンやビタミンEを含まない特製の合剤が無料で提供される。SELECT治験に参加できる男性の条件は以下の通りである。(1)年齢が55歳以上(アフリカ系米国人では50歳以上)(2)過去
5 年間に前立腺癌や他の癌(非メラノーマ性皮膚癌は例外)の既往がない(3)おおむね健康である
アフリカ系米国人に高い罹患率
米国では,今年だけでも19万8,100例が前立腺癌と診断され,3
万1,500例以上が前立腺癌で死亡すると見られる。ワシントン州だけでも3,400例が前立腺癌の診断を受け,500例が死亡する。前立腺癌のリスクファクターとしては,55歳以上であること,父親や兄弟に前立腺癌の既往があることが挙げられる。アフリカ系米国人は他の人種や民族に比べ,前立腺癌の発癌率が高い。 NCI癌予防部のLeslie
Ford臨床研究副部長は「SELECT治験の被験者にはすべての人種・民族が含まれている点が非常に重要である。アフリカ系米国人は前立腺癌の発癌率が世界で最も高いため,われわれは彼らが治験に参加することを強く呼びかけている」と述べた。また,アフリカ系米国人は若くても前立腺癌に罹患することが多いため,今回の治験の参加基準も他の人種・民族では55歳以上であるが,アフリカ系米国人は50歳以上とした。SELECT治験の参加基準には年齢の上限はない。サンアントニオ癌研究所(テキサス州サンアントニオ)の所長でSWOGの議長を務めるCharles
A. Coltman, Jr.博士は「われわれはSELECT治験に参加してくれる多数の善良な市民を募っている。本治験に参加する男性自身に前立腺癌が発生することを予防できる可能性があるばかりでなく,次世代の男性にとって有益となる知見が得られるだろう。この
2 点からもSELECT治験は重要である」と述べた。
前立腺癌の術後再発リスクをPSA倍加時間で予測:[2001年8月23,30日 (VOL.34 NO.34,35)]
メイヨー・クリニック泌尿器科のMichael
Blute博士らは,前立腺癌のため前立腺摘除術を受けた患者の再発リスクに関して大規模な調査を行い,単一で重要な予測因子として前立腺特異抗原(PSA)倍加時間(PSA値が
2 倍となるまでの時間)が有効とMayo Clinic
Proceedings(76:576-581)に発表した。
倍加時間が短いと再発リスク高い
Blute博士らは,メイヨー・クリニックで1989〜93年に根治的前立腺摘除術を受けた患者2,809例の記録を調べた。予想通り,患者の約
3 分の 1 は術後もPSAが上昇していた。そこで前立腺癌の予測因子としてPSA倍加時間に着目した。
調査ではPSA値の上昇速度が速い患者,つまり
6 か月以内に 2 倍に増えた(PSA倍加時間が
6 か月)患者では62%が再発していた。一方,計算上のPSA倍加時間が10年以上の患者では13%しか再発しなかったうえ,87%が
5 年以上無再発だった。今回の調査対象となった患者の大部分はPSA倍加時間が延長していたため,そのなかで高リスク群を特定することは患者にとっても医師にとっても重要である。
同博士は「術後も引き続きPSAが検出されたとしても,必ずしも前立腺癌が急速に進行していることを意味しない。したがって,患者はPSAが検出されただけでは心配する必要はない」と述べている。
PSA倍加時間が 6 か月以下の患者では,さらに治療を進めることは患者にとってマイナスにはならない。すなわち,PSA倍加時間は積極的な治療に踏み切るための指標となる。また,倍加時間の長い患者では経過観察したり,侵襲性の低い治験に参加したりすることが可能となる。
同博士は「今回の結果により,術後ケアの方針決定に関して医師も患者も心強い指針が得られたことになる」としている。
前立腺癌は米国人男性が最も罹患しやすい癌であり,70歳になるまでには男性の
4 人に 1 人が発症し,毎年 3 万8,000人が死亡している。前立腺を除去する根治的前立腺摘除術により大半の患者は治癒する。癌が消失したことを示す最良の指標は,術後にPSAが検出されないことである。しかし,患者の約
3 分の 1 は術後もPSAが上昇する。
つらい治療を行うか否か判定
Blute博士は「このような患者に対する治療方針としては決定的な選択肢がないため,術後のPSA上昇は最も気になる事象である」とコメントしている。
再発リスクの高い患者に対しては放射線療法やホルモン療法が行われるが,いずれも副作用が強く,QOLは低下する。放射線療法は悪心,脱毛,気力低下をもたらし,ホルモン療法では筋力低下や性欲減退が生じるだけでなく,骨粗鬆症のリスクも高くなる。
同博士は「今回の研究は,PSA値の意義を深く探ろうとしたものである。とにかくわれわれは,術後も積極的治療が必要な患者を見分けるための指標を求めていた」と述べている。今回の調査は,手術を受けた患者に癌が再発するまでをフォローした調査としては最大規模のものである。
GvaxR前立腺癌ワクチンに抗腫瘍活性生存期間が延長傾向:[2001年3月1日 (VOL.34 NO.09)]
Cell Genesys社はホルモン治療に反応しない転移性前立腺癌患者を対象に実施した第
II相臨床試験で,同社のGvaxR前立腺癌ワクチンに抗腫瘍活性が認められたと報告した。
高用量群でより延長
試験に参加したのは前立腺癌患者55例で,このうち34例に治療開始時の骨スキャンで骨転移が認められた。そこで,転移を認めた34例中24例に低用量の,10例に高用量のワクチンを投与した。治療後のフォローアップで,これら34例の患者では,低用量ワクチン投与群よりも高用量投与群のほうが,癌の進行なしに生存期間が延長する傾向のあることが骨スキャンで明らかになった(進行なし生存期間の中央値は85日対140日)。
一方,試験参加時に骨スキャンで転移が認められなかった残り21例の進行なしの生存期間の中央値は179日であった。前立腺癌の骨転移が認められた患者
1 例では,PSA(前立腺特異抗原)と骨スキャン所見が正常化する完全寛解が12か月後も継続している。
GvaxR前立腺癌ワクチンの投与は安全で耐容性も高く,最も多い副作用も接種部位の炎症のみであった。この安全性は,ホルモン療法に反応しない前立腺癌患者に適応できる唯一の治療法である化学療法と比べてそん色がなかった。今回のデータは同社の治験責任医師で
8 つの臨床試験施設の 1 つであるエモリー大学(ジョージア州アトランタ)のJonathan
Simons教授が,カリフォルニア州コロナドで開催された国際癌遺伝子治療会議で発表した。同社の会長兼CEOのStephen
A. Sherwin博士は「これらのGvaxR前立腺癌ワクチンの第
II 相臨床試験の結果は有望であり,この臨床開発プログラムをできる限り早く進める予定である。GvaxR前立腺癌ワクチンはこれまで検査した
5 種類の癌のすべてに対して抗腫瘍活性を示すことが明らかになったため,われわれは臨床試験とワクチンの製造インフラの両方への投資額を増やすつもりである」と述べた。
化学療法との併用を検討
GvaxR前立腺癌ワクチン療法の第 II 相試験は
6 か月間にわたって実施された。最初,患者には“初期”用量を投与し,次に隔週で計12回の“ブースター”用量を投与した。“ブースター”用量は低用量と
3 倍量の高用量のいずれかを使用した。投与中あるいは投与終了後のフォローアップ期間にも,これ以外の癌治療は行わなかった。
同ワクチンは腕と脚へ皮内投与するもので,外来患者にも安全に投与できた。ワクチン投与に伴う重篤な毒性や投与量を制限しなければならないような毒性は観察されなかった。
今回の第 II 相試験で用いた有効性のエンドポイント(骨スキャン測定による病態の進行)は同ワクチンの効果を臨床的に評価するものであった。計画中の第III相試験の開始に先立って,同社はより効果の高いタイプのGvaxR前立腺癌ワクチンの臨床試験を今年中に開始する。さらに,今後の第III相試験ではホルモン療法に反応しない前立腺癌患者に対して化学療法単独と,同ワクチン併用化学療法との比較を行う。
GvaxR癌ワクチンは,ワクチンに対する生体の免疫反応を刺激する重要なホルモン,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)を分泌するように改変された遺伝子組み換え腫瘍細胞である。遺伝子組み換え腫瘍細胞は安全性のために放射線照射を行ってから投与し,腫瘍に対する免疫反応を刺激することで効果を発揮する。同ワクチンは前立腺癌,膵癌,肺癌,腎癌,メラノーマなど,これまで実施されたいずれの臨床試験でも抗腫瘍効果を示すことが明らかになった。前立腺癌や他の癌に対する同社のGvaxR癌ワクチンプログラムでは患者に特異的でない細胞系を用いているため,特注でなく“既製”の製剤として販売される見込み。
前立腺癌に対する新しい免疫療法Provengeで進行抑制とPSA値低下の可能性:[2001年2月22日 (VOL.34 NO.08)]
カリフォルニア大学サンフランシスコ校(UCSF)総合癌センター(サンフランシスコ)泌尿器腫瘍学プログラムのEric
Small准教授らが,Journal of Clinical Oncology(18:3894-3903,2000)に,免疫系を利用して前立腺癌細胞を攻撃し死滅させる新しい治療法,Provengeの第
I / II 相臨床試験の成績を報告。前立腺癌の病態の進行が遅くなり,癌の存在を示す血中蛋白である前立腺特異抗原(PSA)値が下がることがわかったという。
PSA値が50%以上低下も
男性31例を対象にした同試験では,血液中から集めた樹状細胞と,多くの前立腺癌細胞上に現れる抗原の
1 つである合成前立腺性酸性ホスファターゼ(PAP)と試験管内で混ぜた。樹状細胞と合成PAPを組み合わせたこの治療法はProvengeと呼ばれ,Dendreon社(ワシントン州シアトル)が開発した。Small准教授は「合成PAPと混合した樹状細胞を患者に戻し,免疫系が活性化されて前立腺癌が消滅することを期待した」と語った。
樹状細胞は,免疫系に不可欠なもので,細菌やウイルスのような外来性異物を捕捉し,その後,免疫系のもう
1 つの重要な構成要素であるリンパ球と相互に反応してリンパ球に外来性異物を認識させる。その結果,リンパ球は活性化されて体内を循環し,外来性異物を破壊する。今回の試験の目標は,合成PAPで前処理した樹状細胞が,表面にPAPのある細胞を外来性異物として認識して破壊するようにリンパ球を育てることができるかどうかを検討することであった。対象患者には
3 か月の間,月に一度,樹状細胞を注射した。
今回の試験には,進行前立腺癌(前立腺から他の部位に癌が転移し,もはや通常のホルモン療法に反応しない)患者が登録された。
対象患者の年齢の中央値は69歳(48〜83歳)だった。 20例で,治療後にPAPに対する強い免疫応答が見られた。癌が進行もしくは悪化するまでの時間は,免疫応答が弱かった患者では13週だったのに対し,これら20例では34週だった。さらにこのうち
3 例では,PSA値が50%以上低下し,別の 3 例では,同値が25〜49%低下した。この研究によると,ほとんどの研究者が,50%以上のPSA低下を抗癌作用の合理的な指標とみなしている。
前立腺癌の認識が可能に
Small准教授は,この試験の結果に勇気付けられたとし,「今回の試験で免疫系を操作して前立腺癌を認識させることが可能であることがわかった。これまで前立腺癌では不可能と考えられていた,(腫瘍)抗原に対する免疫寛容を壊すことが可能であることが証明された」と語った。
同准教授によると,これまでの研究で,免疫療法はメラノーマや腎臓癌に有効であることがわかっているが,前立腺癌で効果があることが証明されたのは今回が初めて。
「前立腺癌に対する免疫療法は,歴史的にあまり熱心に考察されてこなかった。これは,理由はどうあれ,免疫系は前立腺癌を外来性異物として認めないため,免疫応答が得られないと考えられていたためである。事実はそうではなく,免疫系は癌を攻撃するように十分刺激されていなかっただけだ」と同准教授は語った。
今回の治療法の副作用として最も多かったのは微熱であり,耐容性は高かった。
今回の試験は,それほど重篤でない疾患の患者を対象に,おそらくは他の治療薬と組み合わせて用いるなど,今後の研究に向けた基礎を築くものである。
Provengeの第III相試験には,全米の複数の施設で約240例の進行癌患者が登録されており,同准教授はその試験統括者でもある。
「今回の試験は,今後の研究に向けて広大な領域を開くものである」と同准教授は語った。
米国癌学会(ACS)によると,メラノーマ以外の皮膚癌を除き,前立腺癌は米国男性に最もよく見られる癌であり,男性の癌による死亡原因では肺癌に次いで第
2 位である。医師は,まず前立腺癌を成長させるテストステロンを体内から枯渇させるために,(女性)ホルモン補充療法で進行前立腺癌を治療する。しかし最終的には,すべての患者でホルモンに依存しない疾患が進行する。つまり,テストステロンを減らしたにもかかわらず,癌は進行する。この研究によると,このような患者の生存率の中央値は約
1 年であった。2000年には米国で新たに18万400人が前立腺癌と診断され,約
3 万1,900人が前立腺癌で死亡する,とACSでは推計している。