前立腺がん関連ーその10ー

 (Medical Tribuneなどから)
(2013年1月~)


男性シフトワーカーは前立腺がんの高リスク集団[2013年9月26日(VOL.46 NO.39)]

 シフトワークをしている男性は前立腺特異抗原(PSA)値が高く前立腺がんの高リスク集団であると,米ハーバード大学のグループがJournal of the National Cancer Instituteの9月4日号に発表した。
 これまでの研究結果は一致していないが,サーカディアンリズムの乱れが前立腺がんのリスクを高める可能性が示唆されている。
 同グループは,2005〜10年に行われた3回の米国国民健康栄養調査に参加した40〜65歳の就労男性のデータを統合し,シフトワークとPSA値との関係を検討した。日常的な夜間勤務者,または昼夜の交替勤務者をシフトワーカーとした。
 年齢補正後,非シフトワーカー群と比べシフトワーカー群は総PSA高値(4.0ng/mL以上)の割合が有意に高く〔オッズ比(OR)2.48,P=0.03〕,交絡因子補正後のORは2.62だった(P=0.02)。また,シフトワーカー群では総PSA値4.0ng/mL以上で遊離PSA/総PSA比25%以下の割合が有意に高く(OR 3.13,P=0.01),非シフトワーカー群と比べ前立腺がんのリスクが高いことが示された。


前立腺がんの発がん、進展に絡む受容体、細胞、遺伝子などを探求[2013年9月26日(VOL.46 NO.39)]

ARが種々の働きでCRPCの増殖に関与

 去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)の増殖には,ARが重要な役割を果たしているとされる。千葉大学大学院泌尿器科学の坂本信一氏は,ARを介したCRPCの発生機序について解説。ARの遺伝子異常やスプライシング異型,リガンド非依存的な活性化などがCRPCの増殖に関わっていると指摘した。

ARの機能をFOXA1が制御

 同科の解析によると,ARの遺伝子異常はCRPC症例22例中3例に認められ,異常例121例を対象にした解析から,その分布はリガンド結合ドメイン(LBD)で47.1%,N末端ドメイン(NTD)で38.0%を占めた。この異常が起きると,ARのリガンド特異性が薄れ,ステロイド薬や抗アンドロゲン薬を投与してもその活性化が促進され,細胞増殖が抑制されない状態になるという。
 また,ARのスプライシング異型はこれまで10数種類確認されており,中でもARv567esが転写部位の43%,AR-V7が24%に達したとした。これらの異型はリガンド非依存的,恒常的に活性化されたARを誘導すると考えられ,低アンドロゲン環境下でも,AR-V7は細胞分裂を制御するUBE2Cの発現を介して細胞増殖を促す。
 なお,ARの機能を制御している遺伝子で,パイオニアファクターとも目されるFOXA1は,UBE2Cの転写を活性化させ,アンドロゲン依存性前立腺がん(ADPC)ではインスリン様成長因子結合蛋白質(IGFBP)-3を介して細胞増殖を制御し,CRPCではインターロイキン(IL)-6とともにARの活性化に関与することが示された。
 さらに,アンドロゲンが存在しない環境でも,ARはIL-6やプロテインキナーゼ(PK)Aにより活性化される点も明らかにされた。
 このように概説した坂本氏は,CRPCに対する治療薬として,N末端ドメインに結合しARを阻害するEP-001,002やARシグナル伝達阻害薬MDV-3100を改良したARN-509,性ホルモン代謝肝内酵素CYP17の阻害作用や,ARの阻害,減少効果を有するTOK-001が注目されるだろうと補足した。

MSR陽性細胞数と前立腺がんリスクに負の相関

 さまざまながんの発生に炎症が関与しているといわれ,前立腺がんも例外ではない。大阪大学大学院器官制御外科学泌尿器科の中井康友氏は,前立腺がんの発がんおよび進行における炎症細胞の役割を考察し,マクロファージに発現する膜蛋白であるMSRが陽性の細胞では前立腺がんリスクが低くなるなど,同がんと免疫細胞との関連性を報告した。

肥満細胞が発がんの進行・進展に寄与

 考察では,初回生検時に陰性だった症例を対象とし,再生検時に前立腺がんが検出された群(がん検出群)とされなかった群(非がん検出群)に分け,炎症,マクロファージ,肥満細胞と発がんの関連性を探った。
 まず,初回生検時の炎症の有無と累積がん発生率を検討すると,急性および慢性炎症があった症例の方が発がん率は低かった。しかし,組織破壊を伴う急性・慢性炎症では前立腺特異抗原(PSA)値が上昇し生検へと至るため,炎症と発がんリスクの評価は困難であるとした。
 一方,初回生検時のマクロファージの総数およびMSR陽性細胞数と再生検時のがんの有無を検討すると,マクロファージの総数は再生検時におけるがん検出の有無に影響を及ぼさなかったが,MSR陽性細胞数は非がん検出群で多く,がん検出群では少なかった()。MSR陽性細胞数と発がんリスクを多変量解析すると,両者は負の相関関係にある点も明らかにされた。
 また,初回生検時の肥満細胞数と再生検時のがん検出の有無を解析すると,がん検出群では肥満細胞が有意に多く,肥満細胞数と発がんリスクを多変量解析すると,両者は正の相関を見せた。
 さらに,食肉に含まれる発がん物質であるPhIPを投与したラット群では,前立腺で肥満細胞が増加し,リポ多糖で前立腺炎を惹起すると,その約半数が急性前立腺炎で死亡した。よって,PhIPにより誘導された肥満細胞が前立腺の炎症を促進している可能性も示唆された。
 しかし,肥満細胞欠損ラットにPhIPを投与したところ,細胞の過形成が認められたものの,前立腺上皮細胞が増殖する際高くなる蛋白質Ki67の指標は低かったことから,肥満細胞はがんの発生には関与せず,その進行・進展に関わるとみられた。
 中井氏は「PhIPは,遺伝子変異や上皮の増殖,肥満細胞の増加などを介して,前立腺がんの発がんに絡んでいると考えられる」と述べた。

メタボリックシンドロームも前立腺がんの発症・進展に影響

 これまでに報告された疫学的データなどから,メタボリックシンドロームは前立腺がんの発がんリスクになることが示唆されている。秋田大学大学院腎泌尿器科学講座の成田伸太郎講師は,マウスを用いた研究を紹介し,肥満によって活性化,亢進するサイトカインが前立腺がんの増殖や進展に影響している可能性があると報告した。

TWEAKはがん浸潤能,MCP-1はがん細胞増殖と関連

 前立腺がん細胞株を移植したマウスを使用し,高脂肪食摂取下のがん増殖に関する腫瘍内遺伝子の網羅的解析を行ったところ,Fn14遺伝子が高発現していた。Fn14は炎症性サイトカインTWEAKの受容体であり,TWEAKは脳腫瘍や食道がんなどの増殖,進展に寄与することや,腫瘍で活性化し,さまざまな炎症性サイトカインを誘導することが知られている。
 成田講師は,Fn14,TWEAKともに,アンドロゲン非依存性前立腺がん細胞株で高発現することを報告し,Fn14をノックダウンすると,前立腺がん細胞の浸潤能が低下し,がんの横隔膜転移モデルでFn14を過剰発現させると,細胞の浸潤能が亢進することを見いだした。 一方,がん増殖に関連する食事と血清因子の解析では,高脂肪食(HFD),高炭水化物食(HCD),西洋食(WD)を与えたラット群に分けてさまざまな血清因子の濃度を比較したところ,MCP-1の濃度ががん増殖に伴って変化すると報告した。MCP-1はHFDおよび肥満において亢進し,がん細胞の転移を促進するという特徴を持っている。MCP-1の受容体であるCCR2の発現状況も,HFD群,HCD群,WD群の順に高かった。HFD群では,CCR2を阻害した群は,阻害しなかった群に比べて有意に細胞増殖能が低下したという。 さらに,同講師は,CRPC例ではインスリン受容体(IR)が高発現している点に着目し,IRと前立腺がん細胞株を移植したマウスの研究を概説した。 研究では,非去勢群,去勢群に分けて,IR拮抗薬(BMS)を投与した際の抗腫瘍効果を検証したところ,BMSを投与した去勢群では,がん細胞の増殖が強く抑制されていた。 以上から,肥満はさまざまな経路を介してがん増殖・進展に関わると考えられるが,血液中および脂肪組織から放出されるサイトカインの変動や糖代謝異常,高インスリンに起因する膜受容体発現や細胞内シグナルの変化ががんを増殖,進展させる経路として注目されるとした。 同講師は「前立腺がんとメタボリックシンドロームとの因果関係を探るには,多角的な視点を持つべきで,その機序解明,創薬に向けた研究をさらに積み重ねていく必要がある」とまとめた。


~前立腺がん検診~印刷物とウェブを用いたツールが意思決定時に有効[2013年9月5日(VOL.46 NO.36) ]

 ジョージタウン大学(ワシントン)のKathryn L. Taylor博士らは「印刷物とウェブを用いた意思決定支援ツールはいずれも前立腺がん検診における患者の意思決定に役立ったが,実際の検診率には影響しなかった」とする研究結果をJAMA Internal Medicine(2013; オンライン版)に発表した。

検診率には影響せず

 Taylor博士らは「前立腺がん検診の是非については意見が一致していない。そうした背景から,前立腺がん検診を受けるかどうかの決定時には情報提供などの意思決定支援が重要となる」と説明している。
 同博士らは今回,45〜70歳の男性1,879例を(1)印刷物による意思決定支援を行う群(印刷物群,628例)(2)ウェブによる双方向的な意思決定支援を行う群(ウェブ群,625例)(3)いずれの意思決定支援ツールも用いない通常ケアを行う群(通常ケア群,626例)−にランダムに割り付け,1カ月後および13カ月後に前立腺がんに関する知識,意思決定時の葛藤,决定に対する満足度,および被験者が実際に前立腺がん検診を受けたかどうかについて調べた。
 その結果,1カ月後,13カ月後の調査のいずれにおいても,通常ケア群と比べ印刷物群とウェブ群では前立腺がんに関する知識レベルが高く,意思決定時の葛藤レベルは低かった(いずれもP<0.001)。
 決定に対する満足度は,1カ月後では通常ケア群(45.5%)と比べ,印刷群(60.4%,P=0.03)とウェブ群(52.2%,P=0.001)で有意に高かったが,13カ月後の調査では有意差は認められなかった(それぞれ49.8%,55.7%,50.4%)。なお,13カ月時点の検診率には有意な群間差は認められなかった。
 同博士らは「印刷物とウェブのいずれの意思決定支援ツールも,前立腺検診における意思決定時の葛藤の低減に役立つことが示された。しかし,実際の検診率には影響を及ぼさなかった」と結論付けている。


男性糖尿病患者のメトホルミン使用による前立腺がん減少認められず[2013年8月22,29日(VOL.46 NO.34,35)]

 男性2型糖尿病患者のメトホルミン使用による前立腺がんのリスク低下は認められないとする大規模研究の結果が,カナダのグループによりJournal of the National Cancer Instituteの8月7日号に発表された。
 最近の研究で,メトホルミンの抗腫瘍効果が示唆されている。同グループは,男性糖尿病患者のメトホルミン使用と前立腺がんのリスクおよびグレードとの関係を検討した。
 オンタリオ州の医療管理データベースを用いて,66歳以上の男性2型糖尿病患者11万9,315例のうち前立腺がんの発症が確認された5,306例を症例群,症例と年齢および登録時期がマッチする前立腺がん非発症の各5例計2万6,530例をコントロール群とし,後ろ向き症例対照研究を行った。
 症例群のうち1,104例が高グレード,1,719例が低グレードの前立腺がんとされ,3,524例が生検によりがんと診断されていた。
 解析の結果,メトホルミンの使用による前立腺がん全体のリスク低下は認められず,補正後のオッズ比(OR)は1.03〔95%信頼区間(CI)0.96〜1.1〕であった。また,メトホルミンの使用と高グレード(OR 1.13,95%CI 0.96〜1.32)および低グレード(同0.94,0.82〜1.06),生検による前立腺がんの診断(同0.98,0.84〜1.02)の間にも有意な関係は見られなかった。


前立腺がんへのアンドロゲン遮断療法が急性腎障害リスクと関係 海外の主要医学誌から [2013年8月8日(VOL.46 NO.32) ]

 前立腺がんに対するアンドロゲン遮断療法(ADT)が急性腎障害(AKI)のリスク上昇と関係することを示すコホート内症例対照研究の結果が,カナダのグループによりJAMAの7月17日号に発表された。
 進行前立腺がんへのADT施行による進行遅延が示されている。しかし,ADTと関係するテストステロン抑制は,腎機能に有害な影響を及ぼしうる性腺機能低下につながる可能性がある。同グループは,新規診断前立腺がん患者へのADT施行とAKIとの関係を検討した。
 英国の臨床診療研究データリンクから,1997〜2008年に転移のない前立腺がんと診断された患者を特定。2009年までにAKIを発症した患者と,各症例と年齢,前立腺がん診断年,追跡期間がマッチする20例までを対照とした。
 ADTには性腺刺激ホルモン放出ホルモン作動薬(GnRHアゴニスト)および経口抗アンドロゲン薬の単独または併用,両側精巣摘除術,エストロゲンの他,これらADTの併用が含まれた。
 登録患者1万250例中,平均4.1年間の追跡で232例がAKIを発症し,1,000人年当たりの発症は5.5例だった。解析の結果,ADT現施行群は非施行群と比べAKI発症リスクが2倍以上高く〔オッズ比(OR)2.48〕,1,000人年当たりの発症の差は4.43例であった。
 ADT別のAKIのORはGnRHアゴニストと経口抗アンドロゲン薬併用が4.50,エストロゲンが4.00,他の併用療法が4.04と高く,GnRHアゴニスト単独では1.93だった。


前立腺がん 「BRCA1/2遺伝子変異保有者で生存期間短く転移率高い 経過観察より早期の治療開始 [2013年8月1日(VOL.46 NO.31) ]

 英国がん研究所(ICR,ロンドン)腫瘍遺伝学のRosalind Eeles教授らの研究グループは「BRCA1/2遺伝子に変異のある前立腺がん患者は生存期間が短く,転移率が高いことが分かった。そのため,同変異保有者には経過観察ではなく早期の手術か放射線治療を検討する必要がある」とJournal of Clinical Oncology(2013; 31: 1748-1757)に発表した。今回の研究では,BRCA2遺伝子変異保有者のアウトカムは不良で,同遺伝子変異のない男性に比べ生存期間が有意に短いことも明らかになった。

ガイドラインの内容に疑問を投げかける結果に

 前立腺がんは50歳以上に多く発生する。高齢は前立腺がんの主要な危険因子であるが,それ以外にも前立腺がんの家族歴が大きく影響することが明らかにされている。
 今回の研究では,BRCA1/2遺伝子変異のある男性に発生した前立腺がんは,同遺伝子変異のない男性の前立腺がんと比べて進行が速く,しばしば致命的となることが明らかにされた。
 英国保健サービス(NHS)ガイドラインでは,BRCA2遺伝子変異保有者に対して非保有者と同じ治療選択肢が提示されている。今回の結果は,前立前がんに関するNHSガイドラインの内容に疑問を投げかけるものとなった。

グリソンスコア8以上と診断される率が2倍

 前立腺がんは,診断時点で致死性か否かを見極めるのが難しい場合が多い。早期ステージの前立腺がんに対する治療選択肢には手術,放射線療法があるが,多くの男性は積極的監視を選択し,がんが進行しているか否か経過観察を行っている。
 王立マースデン病院(ロンドン)臨床腫瘍学の名誉顧問でもあるEeles教授らは今回,前立腺がん患者2,019例(BRCA1遺伝子変異保有者18例,BRCA2遺伝子変異保有者61例,両遺伝子変異非保有者1,940例)の医療記録を調査し,BRCA1/2遺伝子変異保有者と非保有者を比較。BRCA遺伝子変異の有無を調べる検査が予後予測に役立つか否かを検討した。
 その結果,BRCA1/2遺伝子変異保有者は,非保有者に比べて進行前立腺がん(TNM分類でT3〜T4)である率(37%対28%),転移がある率(18%対9%)がそれぞれ高かった。診断時点で転移のなかった患者でも5年以内に転移が発見された患者の割合は,BRCA1/2遺伝子変異保有者の方が非保有者よりも多かった(23%対7%)。また,非保有者に比べて保有者でグリソンスコア8以上と診断される率が2倍であった。
 前立腺がん患者のうち,BRCA2遺伝子変異保有者では非保有者に比べて生存期間が有意に短く,平均生存期間は非保有者の12.9年に対してBRCA2遺伝子変異保有者では6.5年だった。一方,BRCA1遺伝子変異保有者では,平均生存期間が10.5年と非保有者より短かったが,この差は統計学的に有意ではなかった。
 同教授は「BRCA遺伝子変異の有無を調べることで,前立腺がんの予後予測ができることが分かった。今後は患者ごとの遺伝子情報に基づいて最適な治療法を考えることが重要となる」と結論。さらに「BRCA2遺伝子変異保有者に発生した前立腺がんは,他のタイプの前立腺がんより悪性度が高いのは明らかだ。このような患者には早期ステージであっても,手術あるいは放射線治療を直ちに行うべきだ。早期に治療を開始することで患者に便益がもたらされるか否かは臨床試験で検証する必要があるが,今回の研究によって早期治療を最も必要とする患者が明らかになり,それが救命につながることを期待している」と述べている。
 今回の研究を受けて,ICRのAlan Ashworth総長は「がん遺伝学に対するわれわれの知識が増えるにつれ,治療法が確立されていく。遺伝性のがん患者には今後,より強力な治療を提供したり,全く異なる種類の薬剤を提供することも可能になってきている」とコメントしている。

個別化治療の促進に期待

 英国がん研究会(CRUK)のJulie Sharp上級科学情報部長は「今回の研究は,BRCA2遺伝子変異を有する前立腺がん患者には経過観察を行うより,早期に治療を考慮する必要があることを示している。BRCA2遺伝子変異を有する男性で前立腺がんの罹患リスクが高いことは知られていたが,今回の研究によって同遺伝子変異保有者では,生存期間が短く転移率も高いことが明らかになった」と指摘している。
 一方,王立マースデン病院臨床研究部のDavid Cunnigham部長は「今回の研究は,前立腺がん患者に対して今後どのように個別化治療を提供していくかを考える上で極めて重要である。BRCA1/2遺伝子変異を有する男性のアウトカムについて詳細な情報が得られ,遺伝子変異が前立腺がんの進行に及ぼす影響についての理解が深まることで,患者は必要な個別化治療を早期の段階で受けられるようになる。それが患者に便益をもたらし,アウトカムの改善にもつながるであろう」と述べている。
 今回の研究はRonald & Rita McAulay財団とCRUKの助成を受けた。


FDA  去勢抵抗性前立腺がんにXofigoを承認 [2013年7月25日(VOL.46 NO.30)]

 米食品医薬品局(FDA)は,症候性の骨転移を有するが既知の臓器転移のない去勢抵抗性前立腺がんに対し,塩化ラジウム223(Xofigo®)注射液を承認した。男性ホルモンのテストステロン値を下げる薬物療法や手術を行った後に転移したがんが適応となる。

骨転移のある去勢抵抗性がんが対象

 前立腺がんは,膀胱の真下で直腸前面に位置する男性生殖器の前立腺に形成され,テストステロンによる刺激により増殖する。米国立がん研究所(NCI)の推算では,2013年に23万8,590人が前立腺がんと診断され,2万9,720人が死亡するとしている。
 FDAは処方せん薬ユーザーフィー法に基づく期限までに薬剤承認申請に対する審査を完了することになっている。塩化ラジウム223注射液の審査完了期限は今年8月14日であるが,FDAの優先審査プログラムが適用されたために予定より3カ月以上早く承認された。同プログラムは,現行の市販製品と比べ治療に重要な進歩をもたらす,または適切な治療法が存在しない疾患に対して安全で有効な治療法となりうる場合に迅速審査を行うものである。
 FDA医薬品評価研究センター(CDER)血液学・腫瘍学製剤部のRichard Pazdur部長は「塩化ラジウム223は,周辺の正常組織を損傷することなく骨転移したがん細胞に放射線を直接送達できる。FDAは過去1年間に,転移を有する去勢抵抗性前立腺がんの治療薬を1剤承認しており,塩化ラジウム223はそれに続くものである」と述べている。
 FDAは2012年8月に,転移を有する去勢抵抗性前立腺がん患者にテストステロン値を最小限に抑制するための薬剤治療や手術を施行しても,なお転移や再発が認められた場合に,アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害薬のenzalutamide(Xtandi®)を承認している。enzalutamideの承認は,ドセタキセル治療歴のある患者が対象となる。

プラセボとの比較で生存期間延長

 塩化ラジウム223の安全性と有効性に関するデータは,骨転移を有するが既知の臓器転移のない症候性の去勢抵抗性前立腺がん男性809例を,標準治療に塩化ラジウム223を上乗せして投与する群(塩化ラジウム223群)と標準治療にプラセボを上乗せして投与する群(プラセボ群)にランダムに割り付けて比較した第Ⅲ相臨床試験ALSYMPCAから得られた。
 主要エンドポイントは全生存期間で,中間解析の結果における生存期間の中央値は,塩化ラジウム223群で14カ月,プラセボ群では11.2カ月であった。
 ALSYMPCA試験の最新の解析結果でもプラセボ群に比べて塩化ラジウム223群で全生存期間の延長が認められた。

 試験中に塩化ラジウム223群で発現頻度の高かった有害事象は,悪心,下痢,嘔吐,下肢・足首・足の腫脹であった。血液検査で発現頻度の高かった検査値異常は,貧血,リンパ球減少症,白血球減少症,血小板減少症,好中球減少症などであった。


~前立腺摘出後の放射線治療法~強度変調放射線治療と原体照射で合併症発生率と再治療率に有意差はなし [2013年7月18日(VOL.46 NO.29) ]

 ノースカロライナ大学(ノースカロライナ州チャペルヒル)放射線腫瘍学のGregg H. Goldin博士らの研究グループは「前立腺がんに対する前立腺摘出後の放射線治療において,最新で高価な強度変調放射線治療(IMRT)と従来の原体照射法(CRT)の間で合併症発生率と再発後の再治療率に有意差はなかった」とJAMA Internal Medicine(2013; 173: 1136-1143)に発表した。

尿失禁や勃起不全の発生率に差はなし

 最近の研究によると,米国では前立腺がんの新しい治療にかかる医療コストが毎年大幅に増加しており,その大部分はIMRTに関連するコストである。
 Goldin博士らは今回の研究で,Surveillance,Epidemiology,and End Results(SEER)データベースのメディケアデータを検索し,2002〜07年に前立腺摘出術を受けた後,放射線療法を施行された患者を同定。IMRT施行群457例とCRT施行群557例を登録し,合併症発生率や再発後の再治療率を比較した。
 IMRTの使用は,2000年には皆無であったが,2009年には全体の82.1%を占めるまでに増加していた。IMRT施行群とCRT施行群の間で,消化管合併症,尿失禁,尿失禁以外の尿路合併症,勃起不全の発生率に有意差は見られなかった。また,再発後の再治療率に関しても有意差は認められなかった。
 同博士は「今回の結果は,前立腺摘出後の放射線治療法の種類別アウトカムに関する現行のエビデンスに重要な新しい情報を追加するもので,患者や医師,他の意思決定者にとって役に立つ」と説明。しかし,「CRTと比較したIMRTの潜在的な臨床上の有益性は不明である。また,IMRTはコストもかかり,前立腺摘出後の放射線治療法としてはCRTに比べ費用効果が高いとはいえないかもしれない。これらの点については今後さらなる研究が必要である」と述べている。


前立腺がんの間欠的アンドロゲン遮断療法 持続的アンドロゲン遮断療法に対する非劣性示されず[2013年7月4日(VOL.46 NO.27) ]

 ミシガン大学総合がんセンター(アナーバー)内科学・泌尿器科学のMaha Hussain教授らの研究グループは,前立腺がんが安定状態になった時点でいったん治療を中断する間欠的アンドロゲン遮断療法(ADT)の効果を持続的ADTと比較した。その結果,間欠的ADTを受けた患者の死亡リスクは相対的に10%高く,持続的ADTに対する非劣性は示されなかった。詳細はNew England Journal of Medicine(2013; 368: 1314-1325)に発表された。

間欠群で死亡リスクが10%高い

 これまでに行われた小規模試験によると,間欠的ADTは生存期間の点で持続的ADTと同等で,しかも休止期間中は患者が治療の副作用から解放されることが示唆されていた。実際,間欠的ADTはほとんどの転移性ホルモン感受性前立腺がんの患者に出現する治療抵抗性の克服に役立つ可能性があると考えられていた。
 しかし,転移性前立腺がん患者1,535例を治療後10年間(中央値)追跡した今回の試験では,それが当てはまらないことが判明。前立腺がんの専門家である筆頭研究者のHussain教授は「間欠的ADTと持続的ADTとの同等性を確認しようとしたが,両者は同等でないことが示された」と述べている。
 同教授らは今回,転移性ホルモン感受性前立腺がんの男性に,標準療法の7カ月のADTによる治療を1コース行った。次に,PSA値が安定するか,カットオフ値の4ng/mL以下に低下した患者を,治療継続群(持続群)または中断群(間欠群)にランダムに割り付け,死亡リスクや生存期間を比較した。PSA値は毎月モニタリングされ,3カ月ごとに医師が評価を行った。間欠群ではPSA値が20ng/mLまで上昇した時点で治療を再開。PSA値に基づいて治療サイクルの中断・再開を行った。
 その結果,持続群と比べた間欠群の死亡リスクのハザード比は1.10で,ランダム割り付け時点からの平均生存期間は持続群で5.8年,間欠群で5.1年であった。

QOL改善は初期のみ

 Hussain教授らは,患者のQOLも比較した。最初の3カ月の時点で,間欠群では持続群と比べてインポテンスと精神機能の有意な改善が見られ,他のQOLについても改善傾向が見られたが,これらの差は時間とともに消失していった。これについて,同教授は「初期に観察された一部のQOLの改善は,治療を再開しなければならなかったので,数カ月後には見られなくなった」と説明。「今後,新規の転移性前立腺がん患者に対しては,持続的ADTが標準療法として推奨される。患者が間欠的ADTを希望した場合,今回のデータに基づき,アウトカム不良となる可能性があることを説明すべきである」と指摘している。
 米国がん協会(ACS)の推計によると,米国では2013年に23万8,590人が前立腺がんと診断され,2万9,720人が前立腺がんにより死亡している。


前立腺がんと関連する23の遺伝子座を新たに同定 遺伝子スクリーニング検査の実現が大きく前進[2013年6月20日(VOL.46 NO.25)]

 英国がん研究所(ICR,ロンドン)腫瘍遺伝学のRosalind A. Eeles教授をはじめとする国際共同研究グループは,前立腺がんの遺伝的危険因子に関するこれまでで最大規模の研究を実施し,「前立腺がんに関連する23の遺伝子座を新たに同定した」とNature Genetics(2013; 45: 385-391)に発表した。同教授らは,この研究により前立腺がんの遺伝子スクリーニング検査の実現に大きく近づいたとしている。また今回の結果を受け,今年中に臨床試験が開始される見込みだという。

16座は最も侵襲性が高い型と関連

 英国では毎年,4万人を超える男性が前立腺がんと診断され,約1万1,000人がこのがんで死亡している。早期発見が可能になれば,より効果的な治療が可能となる。最もリスクが高い男性,特に高侵襲性の前立腺がんリスクを有する男性を同定することが重要なのはこのためである。
 王立マースデン病院(サットン)の名誉臨床顧問でもあるEeles教授らは今回,男性5万例(前立腺がん患者とがんのない対照)を調査し,前立腺がんリスクの上昇と関連する23の遺伝子座を新たに同定した。これで関連する遺伝子座の総数は77となった。特に重要な点として,新たに同定された23座のうち,16座は最も侵襲性が高く,生命を脅かす可能性が高い型の前立腺がんと関連している。
 23座における変異は,いずれも単独で前立腺がんリスクを大きく上昇させるものではない。しかし,複数が組み合わされると,同リスクを著明に上昇させるという。これまでに発見された全ての関連遺伝子座を考慮することで,前立腺がんリスクの高い男性の同定が可能になった。同教授らは,前立腺がんリスクが対象集団の平均と比べて4.7倍高い上位1%の男性を同定できるとしている。遺伝子スクリーニング検査によりこれらの男性が同定できれば,その後慎重にモニタリングを継続することで,治療が容易な早期にがんが発見できると期待される。このようなスクリーニング検査の実施方法,例えば,血液検査と生検のどちらを用いるのかについては,今後の臨床研究の結果を待つ必要がある。
 同教授は「前立腺がんの遺伝的原因を検討したこれまでの研究の中でも,今回の研究結果は特に重要である。今後,複数の遺伝的リスクを持つ高リスク男性を対象に定期検診の有効性を評価し,便益が示されれば,前立腺がんによる死亡を大幅に減少させることができるかもしれない」と述べている。

21万1,155のSNPを解析

 Eeles教授らは今回の研究で,前立腺がん患者2万5,074例から採取した血液試料を用いて21万1,155の一塩基多型(SNP)を解析し,それを2万4,272例の健康対照者と比較した。変異の解析は,Collaborative Oncological Gene-environment Study(COGS)の一環として実施された。このプロジェクトでは今回,前立腺がん,乳がん,卵巣がんの原因について,一連の論文が同時に発表されている。
 ICRのAlan Ashworth所長は「前立腺がんのリスク管理はこれまで十分に行われておらず,リスク遺伝子の評価についても少数の主要なものに限られていた。しかし今回の研究により,前立腺がんにおける遺伝子情報の利用は大きく変わるだろう。多くの新しい遺伝的リスクを同定できたことで,今後,異なるリスク水準の男性を選別できるようになるかもしれない。今回,同時に発表された前立腺がん,乳がん,卵巣がんについての研究は,がんの原因を明らかにし,予防と治療に新たな道を開く上で,遺伝子研究がどれほど有力かを如実に示している」と考察している。
 一方,英国がん研究会(CRUK)の上級科学情報マネジャーであるJulie Sharp博士は「前立腺がんがどのように発生するのか,また侵襲性の高いがんとそうでないがんがある理由については,十分に解明されていない。今回の結果は,高リスク男性の選別に役立ち,緊急に治療を要する男性を特定する新たな手がかりを与えている」と述べている。今回の研究は,CRUKと欧州委員会(EC)から助成を受けた。


アフリカ系米国人の若年性脱毛症と進行前立腺がんリスクに関連[2013年5月30日(VOL.46 NO.22)]

 これまでの研究で,若年性脱毛症が前立腺がんリスク上昇に関連することが指摘されているが,ペンシルベニア大学(フィラデルフィア)臨床疫学・生物統計学センターのCharnita Zeigler-Johnson助教授らの研究で,両者の関連がアフリカ系米国人男性でも確認された。詳細はCancer Epidemiology, Biomarkers & Prevention(2013; 22: 589-596)に発表された。

アフリカ系米国人男性では前立腺がんリスク高い

 Zeigler-Johnson助教授は,今回の研究でアフリカ系米国人男性を対象とした背景について,(1)アフリカ系米国人男性では前立腺がん発症リスクが高く,前立腺がんによる死亡率が米国の他の集団と比べて2倍以上高い(2)アフリカ系米国人男性における前立腺がんの予後は不良であるが,この集団を対象に脱毛症を危険因子として検討した研究はまだ報告されていない−ことなどを挙げている。同助教授らは今回,1998〜2010年にStudy of Clinical Outcomes, Risk and Ethnicity(SCORE)に参加した前立腺がん患者318例と対照群219例を対象に研究を行った。全例がアフリカ系米国人で,脱毛症の程度はさまざまであった。同助教授らは脱毛症のタイプ(なし,前頭部,頭頂部)とその他の病歴に関してアンケートを実施した。

診断時60歳未満の男性で強く関連

 その結果,脱毛症はタイプに関係なく前立腺がんリスクの69%上昇と関連していた。特に前頭部脱毛症のアフリカ系米国人男性では進行前立腺がんと診断される率が対照群の2倍超高かった。この関連性は診断時の年齢が60歳未満の男性で特に強く,高ステージ前立腺がんリスクは6倍超,高グレード前立腺がんリスクは4倍超であった。さらに,60歳未満で前立腺がんと診断された男性では,前頭部脱毛症は診断時の前立腺特異抗原(PSA)高値と強く関連していた。Zeigler-Johnson助教授は「若年性脱毛症は,アフリカ系米国人男性,特に若年男性における前立腺がんの危険因子である可能性がある。今後,今回の結果の再現性が確認されれば,若年性脱毛症をさまざまな男性集団における前立腺がんリスク上昇の臨床上の指標とすることも可能かもしれない」と述べている。


前立腺がん PSA検査は患者と協議の上限定的な実施を 米国内科学会がガイダンス発表[2013年5月30日(VOL.46 NO.22)]

 米国内科学会(ACP)は,前立腺特異抗原(PSA)検査による前立腺がんスクリーニングに関して「PSA検査から得られる便益は限定的で害があることを患者に説明した上で,検査を希望した50〜69歳の男性にのみ実施すべきである」とする内容のガイダンス「Screening for Prostate Cancer: A Guidance Statement from the Clinical Guideline Committee of the American College of Physicians」をAnnals of Internal Medicine(2013; オンライン版)に発表した。

50〜69歳の希望者のみに

 ACPのDavid L. Bronson会長は「医師はPSA検査を実施する前に,スクリーニングで想定される便益と害,個々の患者の前立腺がんリスク,全般的な健康度,検査や評価法の希望について患者と話し合うことが重要だ。またスクリーニングは実施を希望する50〜69歳の男性に限定すべきである。その理由は,ほとんどの男性では害が便益を上回るからである」と説明している。今回のガイダンスには,医師が前立腺がんに対するスクリーニングおよび治療の便益と害について,患者に説明する際に役立つよう話し合いのポイントが盛り込まれている。ACPは今回,他の団体が作成した現行の前立腺がんスクリーニングガイドラインを評価することにより,ガイダンスを作成した。これについてACPは,スクリーニングに関して既に複数のガイドラインが存在するものの,それらの間で意見の一致を見ていないため,そうした状況下で新たなガイドラインを作成するよりも,現時点で利用できるガイドラインを厳格に再評価して医師にガイダンスとして提示する方が有用と考えたとしている。

生検や手術でのリスクを指摘

 ガイダンスによると,前立腺がんスクリーニングと治療に関連する主な害は以下のものがある。
(1)検査結果の解釈に関する問題:PSA値は,がんではなく前立腺肥大によっても上昇することがある。反対に,がんが存在していても低値を示すこともある
(2)前立腺生検を行う際にリスクがないわけではない。生検では複数の針を局所麻酔下で前立腺に穿刺するため,若干の感染症リスクと著明な出血リスク,さらに入院リスクを伴う
(3)がんと診断された場合,手術や放射線治療が施行されることが多いが,これらにもリスクが伴う。例えば,手術を施行しない場合と比べ,施行した場合に若干の死亡リスクと性機能の喪失(約37%リスク上昇),排尿制御の喪失(約11%リスク上昇)などのリスクが存在する

 ACPは今回のガイダンスで,70歳以上と50歳未満の平均的リスクの男性,余命が10〜15年未満の男性では,前立腺がんスクリーニングの害が便益を上回るとしてPSA検査の実施に反対している。また,50歳未満の男性に関しては,なんらかの便益があったとしても,勃起不全や尿失禁といった害が深刻な影響を与える可能性があると指摘している。ACP臨床政策部門のAmir Qaseem部長は「前立腺がんのうち,悪性度が高く死亡原因となるのは少数で,ほとんどのがんは増殖が遅く死をもたらさない。スクリーニングで得られる小さな便益と,尿失禁・勃起不全・ある種の侵襲的治療による副作用の可能性とのバランスを考えることが重要である」と述べている。


リンチ症候群の男性で高い前立腺がんリスク[2013年5月23日(VOL.46 NO.21)]

 ミシガン大学(アナーバー)がん遺伝クリニックの認定遺伝カウンセラーであるVictoria M. Raymond博士らの研究グループは「遺伝性疾患であるリンチ症候群を有する男性では,前立腺がんの生涯発症リスクが高く,発症年齢も通常より若いようだ」とJournal of Clinical Oncology(2013; 31: 1713-1718)に発表した。

スクリーニングの有用性を示唆

 リンチ症候群とは数種類のがんリスク上昇と関連する遺伝性疾患である。罹患者では大腸がんの生涯発症リスクが最大80%であり,子宮内膜がんや胃がん,卵巣がん,尿路がん,膵がん,脳腫瘍の発症リスクも高い。およそ440人に1人が発症原因となる遺伝子変異を保有しており,がんの遺伝的原因としては最も一般的なものの1つである。今回得られた研究結果は,リスク上昇の可能性のある若年男性に対する前立腺がんスクリーニングの是否を考える上で意味を持つ。というのも,最近のガイドラインでは,無症状の男性に対する前立腺がんスクリーニングは施行しないよう推奨されているからだ。Raymond博士は「前立腺がんの遺伝的危険因子を有する男性は,同がんスクリーニングを受けることを考慮するだろう。今回の研究は,リンチ症候群の男性には定期的なスクリーニングが有益であることを示唆している」と述べている。 同博士らは今回の研究で,がん家族歴があり,同大学総合がんセンターあるいはダナ・ファーバーがん研究所(ボストン)の登録に参加している198家系のうち男性4,127人を検討対象とした。

生涯発症リスクは30%対18%

 検討の結果,リンチ症候群の遺伝子変異を有する男性の前立腺がんの生涯発症リスクは30%と推計された。一般人口における同リスクは18%であった。この変異を有する20〜59歳の男性も,一般人口より高い前立腺がんリスクを抱えていた。過去の諸研究でも,リンチ症候群が前立腺がんの発症に寄与している可能性が示唆されていたが,その結果についてはこれまで一貫していなかった。Raymond博士は「前立腺がんが本当にリンチ症候群と関連するか否かを明らかにするのは難しい。前立腺がんは非常に一般的ながんで,家族に前立腺がんが発症したからといって,それがリンチ症候群と関係するか,あるいは散発性であるのかは区別が付きにくい」と述べている。今回の研究では従来よりも厳密な統計学的解析手法が採用され,大規模登録からのデータが処理された。同様の方法で以前に行われた研究では,リンチ症候群と子宮内膜がんおよび膵がんとの関連が明らかにされている。米国がん協会(ACS)によると,米国では2013年だけで前立腺がんの新規診断者数は23万8,590人に上り,死亡者数は2万9,720人と見込まれている。


乳房・卵巣・前立腺のがんリスク、遺伝子で予測 配列の違い特定、健診導入に道

 英ケンブリッジ大などの国際チームは、ヒトの設計図に当たる全遺伝情報(ゲノム)から、乳房、卵巣、前立腺のがんになるリスクを予測できる遺伝子配列のわずかな違い(SNP)を特定した。「リスクが高い」とわかった人には頻繁にがん検診の受診を勧めるなど、早期発見や予防に生かす狙いだ。
 27日付米科学誌ネイチャージェネティクス(電子版)に発表された論文によると、欧州を中心とする34カ国のチームは、がん患者と健康な人10万人ずつのゲノムを調べ、乳がんでは41カ所、卵巣がんでは8カ所、前立腺がんでは26カ所、がんになるリスクを高める配列の違いが起きる場所があることを確かめた。
 がんのリスクを高める配列の違いはこれまでも見つかっているが、がんが多い特定の家系に特有のものなどが多い。今回見つかった配列の違いは、生まれつきの比較的ありふれたもので、1カ所だけ見ると高まるリスクは数%程度。しかし、複数が組み合わさるとリスクは最高で4・7倍まで増加していた。
 欧米人の結果をまとめた研究だが、アジア人でも、乳がんでは、そのうちの半分ほどは同様の配列の違いが確認されているという。
 これらの配列の違いは血液検査で調べられ、費用は大幅に下がっている。将来、健康診断の一部に導入すれば、がんリスクの高い人を見つけて、がん検診の受診や生活習慣の改善を勧めたりできる。
 日本から研究に参加した愛知県がんセンターの松尾恵太郎・分子疫学部長は「さらに研究を進めて、配列の違いが起きる場所をより多く見つけていけば、自分の遺伝情報が持つリスクを知って予防に生かすことができるようになる」と話す。(平成25年3月)-朝日新聞から


去勢術抵抗性前立腺がんへのドセタキセル2週間隔投与で治療成功期間が延長[2013年2月28日(VOL.46 NO.9)]

  海外の主要医学誌から 

 去勢術抵抗性前立腺がんに対するドセタキセル2週間隔投与は3週間隔投与と比べ治療成功期間(TTF)が長く,有害事象の発現頻度も低いとする試験結果が,北欧の共同研究グループによりLancet Oncologyの2月号に発表された。
 去勢術抵抗性前立腺がんの標準治療としてドセタキセルの3週間隔投与が行われている。同グループは,ドセタキセル2週間隔投与は3週間隔投与より忍容性が良好であるとの仮説を立て,有効性と安全性を比較する多施設第Ⅲ相ランダム化試験を実施した。
 対象は,外科的または内科的去勢術に抵抗性を示す化学療法歴のない進行前立腺がん患者361例。177例をドセタキセル50mg/m22週間隔静注群,184例を75mg/m23週間隔静注群に割り付け,全例にプレドニゾロン10mg/日を経口投与した。主要エンドポイントはTTFとした。
 解析対象は2週間隔投与群が170例,3週間隔投与群が176例だった。その結果,TTFは3週間隔投与群の4.9カ月に対し,2週間隔投与群では5.6カ月と有意な延長が認められた(ハザード比1.3,P=0.014)。
 好中球減少症(53%対36%),白血球減少症(29%対13%),発熱性好中球減少症(14%対4%)を含め,グレード3〜4の有害事象の発現頻度は2週間隔投与群より3週間隔投与群で高かった。また,3週間隔投与群では好中球減少性感染症がより高い頻度で観察された(24%対6%,P=0.002)。


チロシンキナーゼ阻害薬のcabozantinibが骨転移のある前立腺がんの進行抑制[2013年2月21日(VOL.46 NO.8)]

 ミシガン大学(アナーバー)内科・泌尿器科のDavid C. Smith教授らは,骨転移のある前立腺がんに対しチロシンキナーゼ阻害薬のcabozantinibが著明かつ迅速な効果を示したとJournal of Clinical Oncology(2013; 31: 412-419)に発表した。

68%で画像上の改善

 今回の試験では,cabozantinib治療を受け,骨スキャン評価が可能であった患者116例の68%でスキャン画像上の改善が見られ,うち12%で骨転移を示す骨への放射性トレーサーの取り込みが完全に消失した。骨スキャンを行うことにより,骨へのがん転移の程度を評価でき,スキャン画像上の改善はがんが薬剤に反応していることを示す。筆頭研究者のSmith教授は「骨スキャンにおけるcabozantinibの有効性は,前立腺がん治療として非常に優れたものであった」と述べている。
 ホルモン療法に抵抗性の前立腺がんは,極めて治療困難な場合が多く,主に骨に転移する。cabozantinibは,前立腺がんの増殖と転移に関連する2つの重要な経路を標的とするように設計されているが,今回,骨転移した腫瘍に対し高い効果が認められた。
 また,cabozantinib治療により,骨スキャン上の改善が見られただけでなく,骨痛を訴えていた患者の67%で疼痛管理が改善され,麻薬性鎮痛薬投与患者の56%で薬剤の減量・中止が可能となった。

生命予後評価の指標への影響は不明

 今回の試験では,ホルモン療法に反応しなくなった去勢抵抗性の前立腺がん男性171例が登録された。当初は,全例にcabozantinibを12週間投与し,疾患の安定が見られた一部の患者のみを同薬継続群とプラセボ群にランダムに割り付けるデザインで開始された。しかし,同薬継続群で骨スキャン上の劇的な変化が認められたのに対してプラセボ群ではがんが非常に速く進行したため,ランダム化による治療は早期終了となった。ランダム化された31例におけるがん進行(中央値)は,cabozantinib継続群で23.9週後,プラセボ群で5.9週後であった。
 Smith教授は「ランダム化の中止は,よくあることではない。進行前立腺がんでは,がんの自然経過において疾患が安定することはまれで,今回の疾患安定は,薬剤の効果によるものである」とした上で,「今回の研究結果は有望であるものの,cabozantinibが生命予後評価の主要な指標にどのような影響を与えるかはまだ不明である」と付け加えている。
 米国がん協会(ACS)によると,米国では,2012年に24万1,740人の男性が前立腺がんと診断され,2万8,170人が同がんにより死亡している。


乳がんと前立腺がんに発現する抗原結合するT細胞受容体(TCR)のクローニングに成功[2013年2月14日(VOL.46 NO.7)]

 ウプサラ大学のMagnus Essand教授らの研究グループは「前立腺がんと乳がんに発現する抗原に結合するT細胞受容体(TCR)のクローニングに成功した」とProceedings of the National Academy of Sciences, USAPNAS,2012; 109: 15877-15881)に発表した。 このTCRを発現するT細胞は,前立腺がんと乳がんの細胞を特異的に死滅させることができるため,今後のがん治療への応用が期待される。

前立腺がんと乳がんの新しい治療法に道

 遺伝子組み換えT細胞は最近,いくつかの進行がんの治療で極めて有効であることが示されている。この方法ではまず,患者自身の血液細胞からT細胞を分離する。次にこのT細胞に,腫瘍細胞上の抗原を認識する別のT細胞受容体の遺伝子を導入する。そして得られたT細胞を培養し,患者に投与する。これらの組み換えT細胞はいったん体内に取り込まれると,転移した腫瘍や個々の腫瘍細胞を探し出し,排除する。
 2011年秋,この治療法は,ペンシルベニア大学(米ペンシルベニア州フィラデルフィア)の研究者らがそれまで不治とされていた白血病の根治に3例中2例で成功したことによって世界中のメディアから注目された(Kalos, et al. Science Translational Medicine 2011; 3: 95ra73, Porter, et al. New England Journal of Medicine 2011; 365: 725-733)。
 また,メラノーマの治療でも,米国立がん研究所(NCI)で臨床試験が実施され,一定の成果を上げている(Morgan, et al. Science 2006; 314: 126-129)。
 Essand教授らの研究グループは今回,有望なこの治療法を公衆衛生上重要な前立腺がんと乳がんにも応用するため,最初の一歩を踏み出した。

前立腺に発現する蛋白質に対するTCRのクローニングは世界初

 Essand教授らはこれまで,新しいがん治療法として2つの有望な方法を研究しており,組み換えT細胞はその1つである。同教授らはTCRをクローニングし,それががん細胞殺傷能を持つことを証明するまで約3年を要した。
 博士課程での研究の一環としてプロジェクトに参加した同大学のVictoria Rashkova氏は「前立腺に発現する蛋白質に対するTCRのクローニングに成功したのは今回が世界で初めてである。今後,この受容体を導入したT細胞について,臨床試験が行われることが望まれる。その実現のためには,米国中の研究者の協力が必要であろう」と今後の研究に期待を寄せている。
 全てのT細胞はそれぞれ固有のTCRを持つ。それらはそれぞれに適合した外来抗原を認識し,例えばウイルス感染した細胞を死滅させる。T細胞は腫瘍細胞も認識し殺傷するが,その数は通常,固形腫瘍を消滅させるには不十分である。しかし,腫瘍細胞が発現している抗原が分かれば,その抗原と結合するTCRをクローニングすることができる。そして,そのTCRをがん患者のT細胞に導入することにより,治療として利用できる。


前立腺がんの悪性度予測に役立つ遺伝子シグネチャーを同定[2013年1月24日(VOL.46 NO.4)]

 前立腺がんの悪性度予測に役立つ可能性を秘めた2つの遺伝子シグネチャー(genetic signatures)を英国と米国の別々の研究グループが同定し,Lancet Oncologyに発表した。いずれもRNAのパターンの明瞭な違いを明らかにしたもので,今後,前立腺がんの予後予測や治療成績の大きな改善につながるものと期待される。

去勢抵抗性前立腺がんの予後の層別化が可能に

 前立腺がんの予後や症状は患者による変動が大きく,症状が全く現れない人もいれば,治療反応性の良好な人,治療抵抗性となり進行する人などさまざまである。標準的なアンドロゲン除去療法に反応しない去勢抵抗性前立腺がん(castration-resistant prostate cancer)も同様で,患者により生存期間は大きく異なるが,その理由は明らかでない。
 現在,前立腺がんの悪性度を判定する検査は存在するものの,その精度はせいぜい中等度である。前立腺がんの悪性度をより正確に判定できれば,現在よりも正しい予後を患者に伝えられるだけでなく,新薬開発のための臨床試験も改善される可能性がある。悪性度の高い患者群と低い患者群を,より効果的に層別化できるようになるからだ。
 最初の論文(2012; 13: 1114-1124)はがん研究所と王立マースデン病院(ともにロンドン)のJohann de Bono教授らによるもので,同教授らは患者のがんが去勢抵抗性であるか否かを予測できる遺伝子パターンを同定した。RNAシグネチャーから9つの明瞭な遺伝子パターンを同定したところ,そのパターンを有する高悪性度前立腺がん患者の紹介後の平均生存期間が9.2カ月であったのに対し,この遺伝子シグネチャー検査が陰性だった患者では21.6カ月であることが明らかになった。
 一方,マウントサイナイ医科大学(ニューヨーク)Tischがん研究所のWilliam K. Oh教授らは, de Bono教授らが同定したものと同様の予測特性を有する別の遺伝子セットを発表した(2012; 13: 1105-1113)。Oh教授らはダナ・ファーバーがん研究所(ボストン)の患者62例を対象に,悪性度の高い前立腺がんに特徴的な6つの遺伝子セットを同定した。その遺伝子シグネチャーによって患者を2群に分けたところ,生存期間(中央値)は,高リスク群の7.8カ月に対し,低リスク群は34.9カ月超であった。同教授らは140例のコホートを対象に検証を行い,この遺伝子シグネチャーの予後予測精度を確認している。

さらなる生物学的機序の解明に期待

 これまでにもさまざまな種類のがんで遺伝子シグネチャーが同定されているが,それらは分類目的にしか使用されていなかった。今回の2つの研究は,遺伝子シグネチャーの予後予測手段としての可能性を初めて示した研究である。従来,この種の遺伝子検査は摘出された腫瘍検体から得られた遺伝子材料に基づいて実施されていたが,このような材料の入手は容易ではない。また,患者の予後はがんの生物学的性質だけでなく,がんに対する患者の反応性にも依存することが証明されており,予後の全体像を示すことができていなかった。今回の2つの論文で報告されたような全血から得られる遺伝子シグネチャーは,簡単な検査によって検出できることから,今後,前立腺がん患者の予後予測精度が格段に上がる可能性がある。
 オーフス大学病院(デンマーク・オーフス)のKarina Dalsgaard Sørensen博士は,同誌の付随論評(2012; 13: 1067-1068)で今回の知見を歓迎し「予後予測マーカーの不足が,去勢抵抗性前立腺がんの臨床管理上,大きな課題となっている。今回の2つの論文は,患者の全血から検出される幾つかの遺伝子セットによって,アウトカムの予測を著明に改善できる可能性のあることを示唆するものである」と記している。さらに,同博士は「今回の予後予測シグネチャーはこの種のものとしては初めて同定されたものであるが,これらの生物学的関連性についてはほとんど不明で,今後,根底にある生物学的機序がさらに解明されれば,われわれの理解も大きく前進するであろう」と述べている。


前立腺がん
   術後放射線療法により10年後の生化学的無増悪生存が改善[2013年1月17日(VOL.46 NO.3)]

 アルベール・ミシャロン大学病院(仏グルノーブル)のMichel Bolla教授らの研究グループは「前立腺全摘除術を受けた前立腺がん患者に術後直ちに放射線療法を行った場合,経過観察を行った場合と比べ,生化学的無増悪〔前立腺特異抗原(PSA)値が0.2μg/L以下〕生存に対する便益が治療開始から長期経過後も依然として有意に大きかった」との欧州がん研究治療機関(EORTC)22911試験の長期追跡結果をLancet(2012; 380: 2018-2027)に発表した。10年時点の生化学的無増悪生存は,術後直ちに放射線療法を受けた患者では61%だったのに対し,経過観察患者では41%だった。

生化学的無増悪生存が長期経過後も優れる

 研究を率いたBolla教授は「今回,前立腺全摘除術後に放射線療法を行った場合の長期アウトカムについて評価し,術後放射線療法の便益と安全性が長期間維持されていることが確認できた」と説明している。また,「この治療による便益が最も期待できるのは,若年患者と断端陽性患者であること,逆に高齢患者(70歳以上)では,同治療は有害な影響を及ぼす可能性があることも示唆された」と付け加えている。
 前立腺がんに対する主な治療法の1つは前立腺切除であるが,転移している場合には10〜50%が局所制御に失敗し,アウトカム改善のために術後放射線療法が施行されることが多い。
 同教授らは今回,高リスク前立腺がん患者1,005例を10.6年間(中央値)追跡し,術後直ちに(4カ月以内)放射線療法を実施した群(術後照射群502例)と,術後,再発の徴候(0.2μg/Lを超えるPSA値の上昇)が最初に認められるまで慎重に経過観察を行った群(経過観察群503例)を比較した。
 その結果,術後照射群では10年後も依然,生化学的無増悪生存が経過観察群より有意に優れ,重度(グレード3)の副作用に関しては,両群に有意差はなかった。術後照射群では局所制御も実質的に優れており,長期施行した場合に副作用が問題となるホルモン療法の実施率が低かった。
 しかし,臨床的無増悪(臨床検査または放射線検査で増悪あるいは転移が認められない状態)生存に関しては,5年の時点で見られた術後照射による有意な改善が10年の時点では認められず,遠隔転移率と全生存率にも影響していなかった。

実施の判断には集学的検討が必要

 マサチューセッツ総合病院(ボストン)のJason A. Efstathiou博士は,同誌の付随論評(2012; 380; 1974-1976)で,術後に放射線療法を実施すべき患者と実施すべきでない患者を判別する指標や,また最適な実施時期に関するエビデンスの存在について考察している。同博士は「実施の判断には集学的な考察が不可欠である。術後放射線療法について患者と話し合い,照射を行う場合にはその最適な時期を決め,行わない場合にはその根拠を明確にすることは,いずれも泌尿器腫瘍学チーム(外科,放射線科,内科)の責任である」とコメントしている。


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