前立腺がん関連ーその9ー

 (Medical Tribuneなどから)
(2012年1月~)


米国とスウェーデンの前立腺がん患者 前立腺がんが原因の死亡例は減少傾向 [2012年12月27日(VOL.45 NO.52)]

 ハーバード大学公衆衛生学部(HSPH,ボストン)のMara M. Epstein氏らは「前立腺がんと診断された男性が同がんそのもので亡くなる確率は減少傾向にある。一方,これらの患者が心疾患など主として予防可能な他の疾患で死亡する確率は変化していない」とJournal of the National Cancer Institute(2012; 104: 1335-1342)に発表した。今回の研究は前立腺がん患者の死因を検討したこれまでで最大のもので,前立腺がん管理において健康的なライフスタイルへの変更を奨励することの重要性を示している。

他の疾患による死亡率は不変

 前立腺がんは診断頻度の高いがんである。米国やスウェーデンなどの西洋諸国では,この数十年間で前立腺がん罹患率は著しく上昇したが,新規に診断された男性が前立腺がんで死亡する率は低下している。Epstein氏らは,この原因について前立腺特異抗原(PSA)検査の普及により,低リスクの前立腺がん患者の診断率が上がったためと考えている。
 今回の研究では,米国のSurveillance,Epidemiology,and End Results Program(1973〜2008年,49万341例)とSwedish Cancer Registry(61〜2008年,21万112例)に登録された前立腺がん症例の死因が検討された。
 その結果,2008年までの各調査期間中に,前立腺がんと診断された全患者のうち実際に前立腺がんが直接の原因となって死亡した人は,スウェーデンで35%,米国で16%にすぎなかった。
 いずれの検討集団においても前立腺がんによる死亡数は減少したが,心疾患と前立腺がん以外のがんによる死亡数は変化していなかった。
 前立腺がんによる5年累積死亡率はスウェーデンで29%,米国で11%だった。また前立腺がんで死亡する割合は,高齢で前立腺がんと診断された男性や今回の研究対象期間の早期(特にPSA導入以前)に診断された男性で高かった。
 研究責任者でHSPH疫学科のHans-Olov Adami教授は「今回の研究では,他の疾患による死亡率は不変であったことから,減量,身体活動の増加,禁煙といったライフスタイルを改善してこうした疾患を予防することで,前立腺がん患者の生存期間が大きく延長する可能性が示唆された」と述べている。


前立腺生検「MRIガイでド」【米国泌尿器学】MRI画像を超音波画像と融合し、正確な検査を可能に

 米国泌尿器科学会(AUA)は12月10日、MRIと経直腸超音波(TRUS)の併用で前立腺生検の診断能を高められると示した最新の研究結果を紹介した。学会発行のJournal of Urology誌に掲載している。
 検証したのは、MRIガイドによる生検。あらかじめ撮影したMRI画像を活用。MRIの画像を経直腸超音波(TRUS)の画像と同期させ、前立腺の位置を検査中に分かりやすく表示する。
 カリフォルニア大学ロサンゼルス校の研究グループは、171人の外来男性患者にMRIガイド生検を実施した。106人は検診として行い、このうち65人はPSA(前立腺特異抗原)が高値でありながら、前回の生検では陰性だった患者。PSAの中央値は4.9ng/mL。前立腺体積は中央値で48mLだった。入院は必要なかった。
 結果、171人の対象者のうち90人で前立腺癌が見つかった。
 研究グループは、局所麻酔で簡易な施設でも検査が実施できる点をまず強調。さらに、癌の診断確率が高まる点を挙げた。特にグリソンスコア7以上の進行癌の38%はMRIガイド生検だけで発見できた。このほか、MRIの画像そのものが癌の診断につながっていく側面も指摘している。(平成12年12月)-m3.comから


パーキンソン病患者とその親族で高いメラノーマと前立腺がんのリスク [2012年11月22,29日(VOL.45 NO.47,48)]

 ユタ大学(ユタ州ソルトレークシティー)神経学科のSeth A. Kareus博士らの研究グループは,ユタ州の家系データベースと同州全体のがん登録を用いてパーキンソン病(PD)とがんの関連を検討した結果,PD患者とその親族ではメラノーマと前立腺がんリスクが高く,これらのがん患者では同様にPDリスクが高いことが分かったとArchives of Neurology(2012; オンライン版)に発表した。

PDとがんの遺伝的関連を検討

 PDなどの神経変性疾患は,特定のがんと発症機序を共有することがある。Kareus博士は「PDとがんの遺伝的関連を同定することは,両疾患の背景にある病態生理学的変化を理解する上で重要である。こうした関連を理解することによりPD患者におけるがんリスクを適切に臨床評価できるようになるかもしれない。さらに,患者の親族に対するカウンセリングにも影響を与える可能性がある」と指摘している。
 同博士らは今回,ユタ州の1904〜2008年の死亡届に基づいて,死因がPDと記録されている2,998例を同定し,さらに同州のがん登録からがんと診断された患者10万817例の情報を収集して,PD患者とその親族におけるがん罹患の相対リスク(RR)を推算した。
 その結果,PD患者とその親族ではメラノーマまたは前立腺がんリスクの有意な上昇が確認された。
 同博士らは,観察された関連を検証するため,逆にメラノーマと診断された患者7,841例,前立腺がんと診断された患者2万2,147例,これら患者の親族におけるPD死のRRをそれぞれ推算した。この相互関係を解析した結果,前立腺がん患者とその親族,メラノーマ患者とその親族のいずれでもPDリスクが有意に高いことが分かった。
 死亡したPD患者のうち48例でメラノーマが,212例で前立腺がんが確認された。死亡したPD患者におけるメラノーマ罹患のRRは1.95と高く,逆に,死亡したメラノーマ患者のPD罹患リスクも高かった(RR 1.65)。同様に死亡したPD患者の前立腺がん罹患リスク(同1.71)と前立腺がん患者のPD死リスク(同1.39)も高かった。

スクリーニングの戦略にも影響の可能性

 Kareus博士は「今回の結果は,特定のがんと神経変性疾患の間に遺伝的リスクに関して共通性が存在することを示している。これは同じ遺伝子変異でありながら,ある患者では神経変性疾患を,別の患者ではメラノーマや前立腺がんを発症させるような変異に関して,将来その性質を正確に定義する際の枠組みを提供するものだ。皮膚がんと前立腺がんスクリーニングの戦略にも影響を与える可能性がある」と結論付けている。
 メイヨー・クリニック(ミネソタ州ロチェスター)疫学科のWalter A. Rocca博士は,同誌の付随論評(2012; オンライン版)で「今回の知見とこれまでに得られた知見を総合すると,同じ遺伝的素因を持っていてもPDを発症する患者もいれば,パーキンソニズムや本態的振戦,認知機能障害,認知症,筋萎縮性側索硬化症,不安障害,抑うつ障害を発症する患者もおり,さらにはメラノーマや前立腺がんなどの非神経学的疾患を発症する患者もいることが示唆された」と説明。また「Kareus博士らが指摘するように,その機序が主に遺伝学的なものである場合,患者やその家族の神経変性を加速し,腫瘍形成を促す遺伝子多型を同定できるかもしれない。一方,PDに性的二形(性により異なる反応が起こること)や,個人レベルの多因子性,人口レベルでの不均一性が存在する場合,1個ないし複数の遺伝子多型を探索しても,効率は低いと思われる」と述べている。


第23回日本性機能学会
 前立腺全摘術から5年以後はSFとSBに大きな変化見られず [2012年11月22,29日(VOL.45 NO.47,48)]

 前立腺がんに対する前立腺全摘術を受けた患者の性的QOLについては,世界各国で2年以内の短期報告はあるが5年以上の経過に関するものは少なく,ほぼ後ろ向きの検討である。東北大学大学院泌尿器科学の並木俊一氏は,前立腺全摘術から5年以上経過した患者の性的QOLを前向きに検討し,術後5年以降の性機能(Sexual function;SF)と性負担感(Sexual bother;SB)に大きな変化は見られなかったと東京都で開かれた第23回日本性機能学会(会長=東京歯科大学市川総合病院泌尿器科・丸茂健部長)で報告した。

術後急落も36カ月まで緩やかに回復

 解析対象は,2002年1月〜05年2月に前立腺がんで恥骨後式前立腺全摘術を受け,術前から術後5年までに3回以上のQOL調査が可能で2012年3月の郵送調査に回答した91例(平均年齢64歳)。平均観察期間は102カ月(85〜123カ月)で,性的QOL評価にはUCLA-PCI(Prostate Cancer Index)のSFスコアとSBスコアを用いた(0〜100点)。術式は両側神経温存26%,片側神経温存45%,両側神経切除13%,片側神経切除と腓腹神経移植19%だった。
 SFは手術直後の40点から術後3カ月に7点へ急落したが,術後3年までに15点前後へと緩やかに回復し,術後5年以降も横ばいだった。SFより20点ほど高めのSBも同様に推移した。術前に約60%に認められていた性欲(SD)は手術直後に30%程度まで落ち,その後は30〜40%に落ち着いた。術前に50%弱の勃起能力は一時的に10%以下まで低下したが,36カ月後には10%超まで回復し,その後は横ばいであった。同じく術前に約50%あった性交渉は,術後5年以降も約10%が「ある」と答えた。
 神経温存別の検討では,腓腹神経移植群が,両側,片側の温存群に比べて有意にスコアが高く,並木氏は「腓腹神経移植は,術後長期のSF保持が期待できることが示唆された」との見方を示した。
 以上から,同氏は「前立腺全摘後にSFの障害は残存するものの術後5年以降は大きな上下動は認められず,SBにも大きな変動は見られなかった」とまとめた。


FDA 進行前立腺がん治療に経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤enzalutamidoを承認[2012年11月15日(VOL.45 NO.46)]

 米食品医薬品局(FDA)は,男性ホルモンのテストステロン値を減らす薬物療法などを行っても増殖・再発を来す転移性去勢抵抗性の前立腺がんの治療薬として経口アンドロゲン受容体シグナル伝達阻害剤のenzalutamide(Xtandi®)を承認した。

6カ月以内の迅速承認

 Enzalutamideは今回,抗がん薬のドセタキセル治療歴を有する前立腺がん患者に対する治療選択肢として,FDAの優先審査プログラムにより承認された。同プログラムは,治療に重要な進歩をもたらす薬剤や適切な治療法が存在しない疾患の新規治療薬に対して6カ月で迅速審査を行うものである。FDAの承認審査法である処方せん薬ユーザーフィー法(PDUFA)に基づく,enzalutamide承認の目標期日は2012年11月22日であるが,同プログラムにより,それより3カ月早く承認されることになった。
 FDA医薬品評価研究センター血液学・腫瘍学製剤部のRichard Pazdur部長は「進行前立腺がん患者は新しい治療選択肢を今なお必要としている。enzalutamideは進行前立腺がんに対して患者の余命延長効果が示された最新の治療薬である」と述べている。

プラセボに比べて余命が5カ月延長

 Enzalutamideの安全性と有効性は,ドセタキセル治療歴を有する転移性去勢抵抗性前立腺がん患者1,199例を対象とした試験により評価された。
 今回の試験では,enzalutamide群とプラセボ群で全生存期間が比較され,同期間の中央値は,プラセボ群の13.6カ月に対し,enzalutamide群では18.4カ月であった。
 Enzalutamide群では,一般的な副作用として,脱力感/疲労,腰痛,下痢,関節痛,顔面潮紅,組織腫脹,筋骨格痛,頭痛,上気道感染症,目眩,脊髄圧迫/馬尾症候群,筋衰弱,睡眠障害,下気道感染症,血尿,刺痛,不安などが認められた。
 また,enzalutamide群の約1%で痙攣発作が認められ,同薬の投与を中止した。今回の臨床試験では,痙攣,脳外傷に起因する意識喪失,過去12カ月間の一過性脳虚血発作,脳卒中,脳転移,脳動静脈の還流異常の既往がある患者,痙攣閾値を低下させる可能性のある薬剤服用患者は除外されており,これらの患者におけるenzalutamideの安全性は不明である。


PSAによる前立腺がんスクリーニング
  余命が10年超見込まれ男性では恩恵が得られる可能性も
  ASCOが暫定の臨床的見解を発表
[2012年11月1日(VOL.45 NO.44)]

 米国臨床腫瘍学会(ASCO)は,前立腺特異抗原(PSA)に基づく前立腺がんスクリーニングに関して,エビデンスに基づく暫定的な臨床的見解をJournal of Clinical Oncology(2012; 30: 3020-3025)に発表した。今回の見解では,無症候で余命が10年超見込まれる場合,医師に対し,PSA検査の恩恵とリスクについて患者と話し合うことを推奨しているが,10年以下しか見込めない場合にはリスクが恩恵を上回ると指摘している。恩恵としては,高リスクの前立腺がんを早期に発見できること,リスクとしては過剰診断,不要な生検と治療,治療の副作用などを挙げている。

USPSTFとは異なる見解

 米国予防医療サービス対策委員会(USPSTF)は今年5月に,PSAによる前立腺がんスクリーニングについて推奨しないと発表したが,ASCOの今回のガイダンスは異なる立場をとっている。専門家パネルの共同委員長を務めた,スローン・ケタリング記念がんセンター(ニューヨーク)の前立腺がん専門医Ethan Basch博士は「余命の短い男性に関しては,PSAによるスクリーニングとそれに続く不要な治療に関連した有害リスクが恩恵を上回ると判定できる。しかし,余命が長い男性に関しては,エビデンスを検討した結果,リスクと恩恵のバランスはあまり明瞭ではなく,医師はスクリーニングのリスクと潜在的恩恵についての十分な情報を患者に与え,前立腺がんが発見された場合の適切な管理方法などを話し合うことも無駄ではないと考える」と述べている。
 今回の専門家パネルの共同委員長で,トロント大学サニーブルック保健科学センター(カナダ・トロント)オデットがんセンター泌尿器腫瘍学のRobert Nam博士は「今回実施したエビデンスのクリティカルレビューでは,若年男性集団におけるデータを含めた結果,PSA検査を軽視すべきでないことが示された。PSA議論に決着を付けたがっている向きが多いのはわれわれも認識しており,明確な答えを提示したいと考えているが,そうした答えは存在しない。明確な答えが見つかるまでは,医師と長期の余命が見込める患者は,同検査のエビデンスを網羅的に認識すべきで,それにより情報が得られ,適切な判断を下せるようになる。われわれの目標は,同検査が賢明かつ選択的に施行されることを支援し,必要な患者のみを治療することである」と述べている。

余命10年で線引き

 Basch博士は「ASCOは,前立腺がん患者にカウンセリングと治療を行う医師の代表機関として,スクリーニングが治療判断に与える影響を日々検討している。また,既存データの厳密な分析を行い,治療判断を下す手助けをすることが責務と考えている。今回,われわれは,患者の余命を考慮し,個々の男性の価値観や好みを尊重したバランスの良いアプローチを推奨している。また,エビデンスに基づく意思決定ガイドの使用,スクリーニング方法を改善するための研究,臨床的に重要でないとみられるがんの過剰治療の減少を提唱している」と述べている。
 エビデンスに基づく今回の推奨の要旨は以下の通りである。
(1)余命が10年を見込めない男性には,一般スクリーニングでの前立腺がんに対するPAS検査は推奨しない。これらの男性では,リスクに関するエビデンスが想定される恩恵を上回っていると考えられる (2)10年を超える余命が見込まれる男性では,医師はPSA検査の実施について患者と相談することを推奨する。これらの男性集団では同検査が救命につながる可能性もあるが,がんの増殖が緩慢で,がんにより死亡する可能性が低い場合,不要な生検や手術,放射線治療による合併症などのリスクにも関係している 
(3)ルーチンのPSA検査を行う前に,同検査に関連した恩恵とリスクについて臨床医と患者が話し合えるように,平易な言葉で書かれた情報を準備することを推奨する

最新の長期データも考慮

 今回のガイダンスは,主として,米医療研究・品質管理局(AHRQ)が実施した質の高いシステマチックレビューから得られたエビデンスに依拠しており,腫瘍内科学,泌尿器腫瘍学,放射線腫瘍学,予防・スクリーニング,統計学における専門知識を有する医師9人と患者代表から成るパネルにより策定された。USPSTFが行った推奨もAHRQの解析に依拠していたが,今回の専門家パネルは,臨床試験から得られた最新の長期データも考慮して,若年男性サブポピュレーションに重点的な検討を加え,その解析にUSPSTFとは異なる重み付けを行った結果,PSA検査は,余命の長い男性では前立腺がん死亡リスクを減少させる可能性があると結論付けている。
 今回のパネルは,大規模臨床試験における全死亡率は,PSAによるスクリーニングを行っても低下しないが,余命が10年超見込める健康男性に関しては,エビデンスが不明瞭であること,このサブポピュレーション単独では,PSA検査を行うことで前立腺がん特異的死亡率が低下する可能性があることを見いだしている。
 特にEuropean Randomized Study of Screening for Prostate Cancer(ERSPC)における11年間の追跡データで,55〜69歳のサブポピュレーション16万2,000例以上において,PSA検査により前立腺がん死亡率が約20%低下したことが示され,これが今回の臨床的見解に大きく影響した。また,前立腺がんの家族歴があったり,アフリカ系米国人の家系であるなど,特定の高リスク群では,PSAによるスクリーニングが早急に必要なことを示す優れたエビデンスが存在すると強調している。専門家パネルは,治療を要する高リスクの前立腺がんと経過観察で済む進行の遅いがんを正確に区別できるような新規の検査法など,精度の高い前立腺がんスクリーニング検査を研究していく必要があると指摘している。


USPSTF PSA による前立腺がん検診 一般男性への実施「推奨しない」[2012年9月6日(VOL.45 NO.36)]

 米国予防医療サービス対策委員会(USPSTF)は,前立腺特異抗原(PSA)に基づく前立腺がん検診について,全年齢層の成人男性を対象とした実施を推奨しないとする勧告をAnnals of Internal Medicine(2012; 157: 120-134)に発表した。なお,この勧告は年齢にかかわらず米国在住の一般男性に適用するもので,前立腺がん診断後の経過観察や治療効果判定を目的としたPSA検査については考慮していないとしている。

年齢問わず有害性が便益上回る

 USPSTFは,前回(2008年)の勧告で「75歳以上の男性についてPSA検診を支持するエビデンスはない」としていたが,今回の勧告では2008年以降に発表されたエビデンスを検討し,「PSA検診は年齢にかかわらず有害性が便益を上回る」と結論している。同委員会は今回の勧告を導くに当たり,健康面での便益と有害性を比較検討したが,費用については考慮しなかったと説明している。
 前立腺がん検診の第1の目的は,救命と前立腺がんの発症予防である。同委員会は症候性男性を対象にPSA検診を評価した2件の主要な臨床試験について検討し,PSA検診の救命効果を評価した。米国で実施された第1の試験PLCO※1(対象:55〜74歳,7万6,685例)では,検診による前立腺がん死亡率の低下は認められなかった。また,欧州の7カ国で実施された第2の試験ERSPC※2(同50〜74歳,18万2,160例)では,1人の前立腺がんの死亡を減らすのに1,000人の男性に検診を実施する必要があると見積もられた。この結果は主に2カ国での結果から導かれたもので,残り5カ国では統計学的に有意な死亡率の低下は認められなかった。
 これに対し,PSA検査の有害性に関しては強いエビデンスが存在する。PSA検診で前立腺がんが発見された男性の約90%が早期に手術,放射線,またはアンドロゲン遮断療法による治療を受けるが,前立腺がんで手術を受けた男性1,000人のうち最高5人が術後1カ月以内に死亡している。また,10〜70人は尿失禁,勃起不全,腸管機能不全など生涯にわたる副作用を発現する。

高リスク集団や若年男性は考慮されていない

 泌尿器科学研究基金(URF)の医学責任者であるWilliam J. Catalona博士は,同誌の付随論評(2012; 157: 137-138)で同委員会の勧告に対し,「声明は前立腺がん検診の便益を過小評価し,有害性を過大評価している」と反論。「同委員会のメンバーには泌尿器科医やがん専門家が含まれておらず,今回の勧告のほとんどは追跡期間が十分でない研究に基づいている」と主張している。また,同委員会の勧告は死亡率のみに焦点を合わせており,未治療の進行がんに関連する重大な疾患について考慮していないと指摘している。
 付随論評の共同執筆者でクレイトン大学遺伝性がんセンター(ネブラスカ州オマハ)のHenry Lynch所長は「今回の勧告は高リスク集団や若年男性を考慮に入れていない」と指摘している。同所長らは,今回の勧告は,前立腺がん発見の遅れにつながることになるのではないかと懸念している。さらに,「今回の勧告は,メディケアや他の第三者保険会社にとって極めて重大な意味を持つ。メディケアと保険会社は,男性のリスク集団におけるPSA検査の承認を拒む理由としてUSPSTFによる勧告を利用すべきではない」と注意を促している。
 一方,別の付随論評(2012; 157: 135-136)の筆者で米国がん協会(ACS)医学部門最高責任者のOtis W. Brawley教授は今回の勧告を肯定的に受け止め,「PSA検査に基づく検診の救命効果は過剰診断による見かけの効果だ」と述べている。同教授によると,多くの男性が生涯進行することのない前立腺がんであるにもかかわらず,検査と治療のおかげで助かったと考えている。
 同教授は「多くの人が,がんの早期発見は重要で,がんが発見された場合には必ず積極的に医学的介入を行うものと盲信している。これに対し,検診と医学的介入の有害性については,ほとんど認識されていない」と指摘している。

パブリックコメントでは推奨レベル変更を求める意見も

 同委員会は2011年10月に今回の勧告案を公表し,パブリックコメントを求めている。それによると,同委員会はその時点で,PSA検査を推奨レベル「D:害が便益を上回るため,実施すべきでない」に指定していたが,パブリックコメントでは,このレベルを「C」に変更するよう求める意見が多く出された。推奨レベル「C」は「患者が求めれば実施してもよい」ことを意味する。しかし,新たなエビデンスが得られず推奨レベルは変更されなかった。
 勧告は,PSA検診を提供すべきでないと明確に述べているものの,同委員会は最終的な判断の権限は担当医に委ねられるとしている。
 同委員会の委員長でベイラー医科大学(テキサス州ヒューストン)のVirginia A. Moyer教授は「臨床医と医療従事者はエビデンスを理解する必要があるが,最終的な意志決定は患者と状況によって個別に行う必要がある」と述べている。


前立腺がんへのIMRT 原体照射に比べ低い副作用や骨折の発生率 より効果的な疾患制御の可能性示唆[2012年7月19日(VOL.45 NO.29) ]

 ノースカロライナ大学(ノースカロライナ州チャペルヒル)のRonald C. Chen氏らは,限局性前立腺がん患者に対して行われている3種類の放射線治療〔原体照射法,強度変調放射線治療(IMRT),陽子線治療〕の有効性や副作用を比較した研究の結果をJAMA(2012; 307: 1611-1620)に発表した。原体照射法と比べてIMRTで消化器系副作用や大腿骨頸部骨折の発生率が低く,追加のがん治療を受ける率も少ないが,勃起不全(ED)が多いことが分かった。一方,陽子線治療では,IMRTより消化器系副作用が多いことが判明した。

SEERの2000〜09年のデータを解析

 米国では前立腺がんは男性のがんで最も多く,毎年20万人超が診断され,3万人が死亡している。近年の技術の進歩は,超低侵襲性の根治的前立腺摘出術やIMRT,陽子線治療といった高額な治療法をもたらした。このような技術を採用したことで,医療費は2005年だけでも3億5,000万ドルも増加しており,さまざまな組織が限局性前立腺がん治療の相対的有効性を検討する研究の必要性を訴えていた。Chen氏らは「これらの新しい治療法がもたらす臨床的便益はまだ証明されておらず,異なる放射線治療の相対的有効性の研究も存在しない」と述べている。
 そこで,同氏らは,サーベイランス・疫学・最終結果計画(SEER)の2000〜09年のメディケアデータを用いて限局性前立腺がんに関する住民対象研究を実施。3種類の放射線治療の有効性や副作用を比較した。主要アウトカムは消化器系副作用(直腸出血や下痢)と泌尿器系副作用,ED,大腿骨頸部骨折の発生率とし,疾患再発の指標としてがんに対する追加治療の有無も検討した。

陽子線治療を支持する臨床結果得られず

 プロペンシティスコアで調整した解析の結果(1万2,976例),原体照射法による治療を受けた患者と比べIMRTによる治療を受けた患者では,消化器系副作用や大腿骨頸部骨折の診断率は低いが,EDの診断率は高かった。がんの追加治療を受けるリスクは20%近く低かった。
 プロペンシティスコアでマッチさせたIMRTと陽子線治療(1,368例)の比較では,IMRTを受けた患者の消化器系副作用リスクが34%低かった。他の副作用や追加治療の発生率に関しては,IMRTと陽子線治療で有意差はなかった。
 Chen氏らは「陽子線治療は,高額ではあるが注目されている前立腺がん治療で,2007年以降利用頻度が大幅に増加した。しかし,今回の結果から,前立腺がんに対する陽子線治療の最近の増加を支持するような明らかな臨床上の便益は示されなかった」と述べている。
 同氏らは,原体照射を受けた患者と比べて,IMRTを受けた患者で追加のがん治療を受ける率が低かったという結果は,IMRTの線量漸増治療によるがん制御の改善と一致するもので,このことはランダム化比較試験で実証されていると指摘。「これらを考慮すると,IMRTは,長期の副作用を認めることなく照射量の増加が望める治療法であることが示唆された」と指摘している。


前立腺がん~るホルモン療法の現状と課題 CRPC克服へ新ホルモン剤の期待膨らむ[2012年6月28日(VOL.45 NO.26)]

赤座 英之

 前立腺がんの治療法には手術,放射線療法,薬物療法がある。ステージに応じ,最も適切な方法を選んでいくのが基本だが,日本では早期の段階からホルモン(内分泌)療法が用いられることが多く,手術中心の米国などとは大きな相違がある。こうした実態を踏まえながら,前立腺がんに対するホルモン療法の現状や課題,将来の展望について,東京大学先端科学技術研究センターの赤座英之特任教授に聞いた。

わが国ではホルモン療法が主体
 前立腺がんは進行の程度によって,T1〜T4の4段階に分類される。T1,T2はがんが前立腺内にとどまり,T3は前立腺を包む皮膜を越えて広がるか,もしくはがんが精嚢にまで達する,T4は膀胱など隣接する臓器まで浸潤している状態だ。
 前立腺がんの治療は,ステージに応じ適切な方法が選択される。T1,T2の限局性がんでは,手術療法や放射線療法が主体で,ホルモン療法を組み合わせることもある。一方,T3のように局所進行している場合は,ホルモン療法と放射線療法の併用が標準治療とされ,T4あるいはリンパ節や遠隔転移のあるケースではホルモン療法が中心となる。
 日本の治療実態は,日本泌尿器科学会のデータが示している。局所進行性のT3(T3a,T3b)でホルモン療法が多いのは当然だが,T1(T1c),T2(T2a,T2b)の前立腺内限局タイプでも同療法が40%近くに達する。2000年と2004年の比較でも放射線療法の割合が若干増えているが,ホルモン療法におけるこの傾向はほとんど変わっていない。

欧米と日本で受け止めに差

 限局性前立腺がんの標準治療は手術療法(根治的前立腺摘除術)である。米国では,早期ステージで多くの患者に手術や放射線療法が行われ,ホルモン療法は高リスク患者が対象である。ところが日本では,中リスク患者にも同療法が多く選択されている。赤座特任教授は,この違いについて「ホルモン療法の捉え方の相違が背景にある」と指摘する。
 1つは「性機能障害への恐れ」だ。前立腺がんは男性ホルモンのテストステロンに刺激されて増殖するため,ホルモン療法ではLH-RHアゴニスト単独や抗アンドロゲン剤との併用(CAB)で男性ホルモンの産生を封じる。日本の前立腺がんホルモン療法治療の大規模データベース研究グループ(J-CaP研究会)の調査では,CABの割合が欧米に比べて多く,日本の特徴となっている。
 ホルモン療法は性欲の減退,勃起障害(ED)や骨量の低下,筋力低下など,いわゆる男性ホルモン除去症候群を呈する。米国の男性はこれをとても嫌い,日本人の中にも「最後まで男性でありたい」と願う人は多い。ただ,日本人の前立腺がんの発症ピークは70〜75歳だが,米国人では10歳以上若い。「この年齢の差も,ホルモン療法に対する考え方の違いを生んでいる一因だ」と同特任教授。
 もう1つは,ホルモン療法で心血管疾患が増えるという偏見だ。確かに同療法が始まった1940年代には,特に欧米で心血管疾患による死亡率が高かった。それは当時,高用量のエストロゲンを用いたためだった。現在はLH-RHアゴニストなどによる治療法が主体で,いくつかのランダム化比較試験(RCT)では,同療法は心血管疾患による死亡を増加させないことが証明されている。最近ではメタアナリシスの結果も発表されたが,ホルモン療法と心血管疾患による死亡との関係は否定されている。同特任教授は「にもかかわらず米国では過去の呪縛から解き放たれておらず,ホルモン療法を敬遠する一因になっている」と言う。

早期前立腺がんでも治療成績は手術と変わらない

 一方,進行前立腺がんでは世界的にホルモン療法が第一選択だが,欧米では,治療開始を遅らせようとする傾向が強い。骨転移があっても,痛みなどの症状が出てから同療法を始めるのが一般的だ。赤座特任教授によると,前立腺がんでは治療法の選択に文化的な背景が色濃く反映される。そこが他のがんと異なる特徴であり,また複雑なところだという。
 ではホルモン療法の成績はどうか。日本人の限局性,局所進行性を合わせた前立腺がん患者8,224例をフォローアップしたデータを,日本泌尿器科学会が報告している。5年全生存率(overall survival)は88.9%,疾患特異的5年生存率(cancer-specific survival)は97.7%で,手術療法や放射線療法と変わらなかった。T1b〜T3前立腺がんにホルモン単独療法を行った患者の10年生存率は,一般の人の生存率と差がなかったことも明らかにされている。 内外のガイドラインでは,ホルモン療法は進行した前立腺がんに対する“最後の手段”と位置付けられているが,限局性の早期前立腺がんでの成績も,手術や放射線療法と遜色がない。同特任教授は「わが国でホルモン療法がステージを問わず広く実施されているのは,こうした成績が根拠になっている」と説明する。

最大のテーマはCRPCの克服

 だが,ホルモン療法にも弱点がある。特に,進行がんでは長期使用で次第に効果が失われ,前立腺特異抗原(PSA)の上昇に伴い,病状が悪化する。J-CaPのデータによると,高リスク(J-CAPRAスコア8以上)の前立腺がんは5年で約80%,さらに低リスク(同0〜2)の患者でも約30%で同療法が効かなくなっている〔Akaza H, et al. Jpn J Clin Oncol 2012; 42(3): 226-236〕。このような状態をCRPC(castration-resistant prostate cancer:去勢抵抗性前立腺がん)と呼び,「これをどう克服するかが,ホルモン療法に突き付けられた最大の課題」と赤座特任教授は強調する。
 CRPCのメカニズムは完全に解明されていないが,いくつかの機序が考えられている。1つはアンドロゲン受容体(AR)の活性化だ。LH-RHアゴニスト,抗アンドロゲン剤などを投与すると,精巣由来のアンドロゲンの大部分は除去される。しかし,アンドロゲン全体の5%ほどは副腎から分泌されている。この副腎由来のアンドロゲンが前立腺の組織内で代謝されることで,リガンド依存性のARが活性化し,去勢状態でもPSAが上昇する。CRPCの頻度としては,これが最も多いが,リガンドに依存せずARが活性化する仕組み,さらに,ARを介さないメカニズムも見いだされているという。
 CRPCの治療薬として,現在のところ日本でも使用可能(2008年保険適応)で,延命効果が証明されているのはドセタキセルという抗がん薬だ。これまでCRPCとなった症例には打つ手がなかったため,同薬への期待は大きい。事実,2年以上の延命効果があったとする報告もある。同特任教授も「ある程度,進行を抑える効果はある」と認めるが,「CRPCの克服というテーマからはまだ遠い」というのが実感のようだ。

開発が進む新しいホルモン剤

 しかし希望はある。CRPCに対する新しいホルモン剤が続々と開発され,臨床応用が進んでいるからだ。既に欧米で市販されている「アビラテロン」は,副腎でのアンドロゲンが腫瘍組織内でジヒドテストステロン(DHT)に変換する経路を抑制することから,その有効性が立証されている。同様の作用機序(CYP阻害薬)を持つ「TAK-700」も日本で開発中だ。また,次世代の抗アンドロゲン剤「MDV3100」も大きな期待を集めている。
 赤座特任教授は「CRPCのメカニズム解明や新薬開発は,急ピッチで進んでいる。もし,従来のホルモン剤の宿命ともいえる男性ホルモン除去症候群を克服できれば,手術や放射線療法の役割は激減する。いずれ,そうした時代が来るだろう」と話している。


前立腺がん間欠的内分泌療法 持続的投与に対する非劣性示せず[2012年6月21日(VOL.45 NO.25)]

 前立腺がんに対する内分泌療法として,近年,同療法の施行と休止を間欠的に繰り返す間欠的内分泌療法(IAD)が世界的な関心を呼んでいるが,その効果に関する大規模なランダム化比較試験(RCT)の結果は出ていなかった。6月初旬に当地で開かれた第48回米国臨床腫瘍学会(2012 ASCO)の年次総会では,転移性ホルモン依存性前立腺がんを対象としたIADの持続的内分泌療法(CAD)に対する非劣性を検証する大規模RCT〔SWOG 9346(INT-0162)〕の結果が示され,IADのCADに対する非劣性は証明されなかった。ミシガン大学(ミシガン州アナーバー)のMaha Hussain氏が報告した。

OS評価においてハザード比は1.09

 前立腺がんに対しては古くから内分泌療法(アンドロゲン除去療法;ADT)が行われてきたが,効果は永続的ではなく,数年で患者の多くがホルモン療法抵抗性(去勢抵抗性;CRPC)となることが,進行性前立腺がん治療において最大の課題となっている。そのため,IADとCADの治療成績に差がなければ,IADは治療休止期間中の有害事象の軽減やQOLの改善,コストの削減などのメリットがあり,優位と考えられてきた。
 同試験の対象は新規に診断された転移のある前立腺がん患者で,全身状態(PS)が0〜2,ADT開始前の前立腺特異抗原(PSA)値が5ng/mL以上の症例とされた。
 1995年5月〜2008年9月に3,040例を登録。導入ADTとしてゴセレリン+ビカルタミド併用療法が7カ月施行され,6カ月目あるいは7カ月目にPSA値が4ng/mL以下となった1,535例が,CAD群(765例)とIAD群(770例)にランダムに割り付けられた。
 IAD群では,PSA値を毎月測定し,休止期間に同値が20ng/mL以上に上昇した場合,あるいは登録時の同値が20ng/mL未満の症例で登録時の値まで戻った場合にはADTを再開。また6〜7カ月目にPSA値が4ng/mL以上にとどまった症例については進行が認められるまでADTが継続して行われた。
 患者背景については,年齢中央値が両群ともに70歳,ランダム化時のPSA値が0.2ng/mL以下だった症例はIAD群で35.4%,CAD群で34.9%を占めた。過去にADTの既往歴がなかったのは,それぞれ87%,88%であった。
 その結果,主要評価項目の全生存期間(OS)の中央値がCAD群で5.8年であったのに対し,IAD群では5.1年で,ハザード比(HR)は1.09,95%信頼区間(CI)は0.95〜1.24()。同試験での非劣性の証明は,95%CIの上限が1.20を下回っている場合とされていたことから,非劣性は示されなかった。
 また同試験では,サブグループ解析として,骨転移の範囲が狭いMinimal型(脊椎,骨盤かつまたはリンパ節)と広いExtensive型〔肋骨,長骨かつまたは内臓(肝,肺)〕に分けて検討。その結果,後者のOS中央値はCAD群(362例)4.4年,IAD群(381例)5.0年で,HR 0.96(95%CI 0.80〜1.16)となり,Extensive型ではIADの非劣性が証明された。一方,Minimal型では,OS中央値はCAD群(403例)7.1年,IAD群(389例)5.2年で,IADの非劣性が証明されなかっただけでなく,CADはIADに比べて有意に優れていた〔P=0.034,HR 1.23(95%CI 1.02〜1.49)〕。
 これらの結果から,Hussain氏は「前立腺がんの標準治療としてのCADの位置付けは変わらない」と結論した。

「CADが標準治療と決定付けられる」と評価

 ディスカッサントでマウントサイナイ医科大学(ニューヨーク)のWilliam K. Oh氏は,同試験は対象患者数や試験デザイン,長期にわたる評価などの点で,標準治療を決定付けるには十分なパワーがある試験であると評価。また,これまでにIADを評価する数多くのRCTが実施されてきたが,試験の規模は小さく,IADが前立腺がん患者の予後において優れていることを示した試験はないことを指摘。「全ての転移性前立腺がん患者には,CADが標準治療である。IADが優れているという前臨床試験の結果をこれ以上拡大解釈してはならない」と強調した。

東京大学先端科学技術研究センター・赤座英之特任教授のコメント

 ディスカッサントのOh氏のメッセージはインパクトがあった。IADが前立腺がんの進行を遅延させることは,動物実験(自然発生がんモデルではなく,移植腫瘍モデル)では確認されているが,臨床における明確な抗腫瘍効果の延長は示されていない。前立腺がんに対するADTでは,男性ホルモンの分泌を完全かつ長期間止めることが重要であり,CADのような完全に最初からアンドロゲン作用を抑制することの重要性が再認識されたのではないかと思う。このことは,近年のCRPCに対する新しい薬剤の開発理念とも合致している。またExtensive型でのみIADの非劣性が証明されたのは,転移の範囲が広い,すなわち腫瘍量が多いのでIADでもCADでも効果が十分に出なかったという解釈ができる。結論的には,性機能を中心としたQOL,治療コストおよびOS延長効果のバランスを評価した上で,患者に適した方法を選択することが重要である。


~早期前立腺がん~メトホルミンの有効性を術前補助療法で確認[2012年6月14日(VOL.45 NO.24)]

 メトホルミンの早期前立腺がんに対する腫瘍縮小効果が,同薬を術前補助療法に用い,治療前の生検組織と治療後の切除組織を比較した第Ⅱ相試験(ANIMATE試験)で示された。トロント大学プリンセスマーガレット病院(カナダ・トロント)のAnthony M. Joshua氏が報告した。糖尿病治療薬として広範に用いられているメトホルミンは,腫瘍増殖に対しインスリン依存性の間接的な抑制作用と,非依存性の直接的な抑制作用を有し,疫学調査などではがんの化学予防効果も示唆されている。

非糖尿病患者が対象,忍容性も良好 

 同試験の対象は1つの生検コアの腫瘍占拠率が30%以下の早期前立腺がんで,根治的前立腺全摘除術(RP)が予定され,ECOG分類の全身状態(PS)0〜2(Karnofskyスコアの場合は60%以上)の患者とされ,1型および2型糖尿病で薬物療法を受けている患者は除外された。メトホルミンは最大500mg×3回/日まで漸増し,4〜12週投与した。
 治療を完遂した22例のうち解析が終了した18例の年齢中央値は64歳(53〜73歳),ベースラインの前立腺特異抗原(PSA)中央値は6ng/mL(3.7〜36.11ng/mL),生検陽性コア数中央値は4(2〜8),Gleasonスコア中央値は3(3〜4)だった。治療期間中央値は41日で,全例がRPを施行された。
 主要評価項目である安全性については,主な有害事象はGrade 1の消化器毒性(下痢,悪心,味覚障害,腹部膨満)で,Grade 3の有害事象は認められず,良好な忍容性が示された。
 前立腺がんの増殖を促進するとされる血清インスリン様成長因子(IGF)-1(P=0.02)やインスリン抵抗性の指標である空腹時血糖値(P=0.03),ウエスト/ヒップ比(P<0.01)の他,BMI(P<0.01)も有意に低下したが,Cペプチド値,インスリン抵抗性指数(HOMA-IR),食後血糖値に有意な変化は見られなかった。PSAは低下傾向が認められた(P=0.08)。
 一方,腫瘍増殖の指標であるKi67値は,per patient解析で1.41%(相対減少率28.7%,P=0.015),per tumor解析では1.65%(同32.12%,P=0.002)有意に低下した。
 Joshua氏は「対照を欠くなどの限界はあるが,メトホルミンの直接的な抗腫瘍効果が示唆された」と報告。ディスカッサントでスローン・ケタリング記念がんセンター(ニューヨーク)泌尿器科のHoward I. Scher氏は「この知見は,糖尿病治療薬とは切り離したメトホルミンの有効性を検証する研究の基盤となるもの」と評価し,「今後は,糖尿病を有する患者に対する効果,バイオマーカーの探索,他の治療法との併用効果の検討が必要」と指摘した。


前立腺がんと女性肺がんの増加を予測[2012年4月26日(VOL.45 NO.17)]

第22回日本疫学会

 2025〜29年にわが国のがん罹患状況はどう変化しているか。国立がん研究センター統計研究部の雑賀公美子氏らが将来予測を行った結果,2000〜04年に比べ,男性では前立腺がん,女性では肺がんの罹患数が明らかに上昇することが示されたという。
 同氏らは,国際がん研究機関と北欧のがん登録プロジェクトが共同開発した手法により,年齢,時代,世代(出生年)を考慮したモデルを用いて,2029年までの5年ごとのがん罹患数・率を部位別,性・年齢階級別に予測した。
 2025〜29年の予測罹患数は2000〜04年と比べ,男性では肝臓が減少する一方,胃,大腸,肺,前立腺,膵臓の各がんは増加。特に前立腺がんは約4倍に増加する。2020〜24年以降は,胃がん,大腸がんの増加が見られなくなる。女性では2000〜04年に比べ2025〜29年で乳房,大腸,胃,肺,膵臓,子宮頸の各がんが増加。特に肺がんは約2倍増加する。乳がんは2020年以降増加傾向が見られなくなる。前立腺がん増加と女性の肺がん増加は,罹患率の上昇に,高齢化に伴う増加が加わるためと推測された。


前立腺肥大症治療薬デュタステリドが低リスク前立腺がんの進行を抑制[2012年4月19日(VOL.45 NO.16)]

 トロント大学プリンセスマーガレット病院(カナダ・トロント)のNeil E. Fleshner教授らは「前立腺肥大症治療薬デュタステリドは低リスク前立腺がんの進行を遅らせ,インポテンスや失禁のリスクを伴う侵襲的治療を減らせる可能性がある」とのランダム化比較試験の結果をLancet(2012; 379: 1103-1111)に発表した。

低リスク前立腺がん患者で評価

 米国では男性の5人に1人が生涯に前立腺がんと診断されるが,ほとんどは低リスク(低腫瘍量,低悪性度)のがんである。これらの患者では監視療法(保存的管理)が行われることがある。この場合は直ちに治療は行わず,代わりに定期的に生検などを行って疾患の進行状態をモニタリングする。
 デュタステリドは前立腺肥大症の治療薬として承認されている5α還元酵素阻害薬である。同薬は,テストステロンをジヒドロテストステロン(前立腺がんの発症に関連する男性ホルモン)に変換する酵素を阻害し,ある種の前立腺がんで腫瘍量の減少が認められている。
 今回のREDEEM(Reduction by Dutasteride of Clinical Progression Events in Expectant Management)試験では,低リスクの前立腺がんで監視療法を受けている48〜82歳の男性302例を(1)デュタステリド(0.5mg)を1日1回,3年間投与する群(2)プラセボ投与群—のいずれかにランダムに割り付けた。18カ月と3年の時点で生検を実施し,疾患の進行度を測定。また,疾患による不安を評価するためアンケートを実施した。
 その結果,進行例の割合はプラセボ群の48%に対し,デュタステリド群では38%と低く,デュタステリドが前立腺がんの進行をプラセボと比べて有意に遅らせることが示された。また,プラセボ群に比べてデュタステリド群では,最終の生検で前立腺がんが発見されなかった患者の割合が高く〔23%(31例)対36%(50例)〕,がんに関連した不安を訴える患者の割合も試験期間を通して有意に低かった。
 有害事象の発生率は,両群で類似していた。デュタステリド群では投与関連の副作用(主に性機能に関する有害事象または女性化乳房,乳房痛など)を経験した患者の割合がプラセボ群より高かった(24%対15%)。前立腺がんに関連した死亡と,同がんの転移は1例もなかった。
 Fleshner教授らは「デュタステリドの便益は低悪性度前立腺がんの腫瘍量を減少させることで,高悪性度前立腺がんと診断されるリスクを低下させることではない。低悪性度前立腺がんでは腫瘍量減少の結果,生検で発見可能な前立腺がんが減少し,治療介入の減少につながる。デュタステリドは低リスク前立腺がんに対する1つの治療選択肢を与える」と結論付けている。


低リスク前立腺がんへのデュタステリド投与が進行抑制に有効[2012年4月12日(VOL.45 NO.15)]

 低リスク前立腺がんと診断され,アクティブサーベイランス〔前立腺特異抗原(PSA)監視療法〕を選択した患者に対する5α還元酵素阻害薬デュタステリド投与が進行の抑制に有効であるとするランダム化比較試験(REDEEM)の結果が,カナダと米国の共同研究グループによりLancetの3月24日号に発表された。

 REDEEMには北米の65施設が参加。腫瘍体積が小さく,Gleasonスコア5〜6の低リスクの限局性前立腺がんで,アクティブサーベイランスを選択した48〜82歳の患者302例をデュタステリド群またはプラセボ群に割り付けた。3年間追跡し,18カ月後と3年後に12コア前立腺生検を行った。1次エンドポイントは前立腺がんの進行(生検による確認または治療開始)とした。

 登録後1回以上生検を受けた289例を解析対象とした。その結果,3年間で前立腺がんの進行が認められた患者はプラセボ群の145例中70例(48%)に対し,デュタステリド群では144例中54例(38%)と少なく,有意な進行抑制効果が認められた(ハザード比0.62,P=0.009)。

 有害事象の発現には有意差はなく,性機能の有害事象または女性化乳房・乳房痛はデュタステリド群の35例(24%)とプラセボ群の23例(15%),心血管有害事象はそれぞれ8例(5%)と7例(5%)に見られた。前立腺がんに関連する死亡や転移はなかった。


長期追跡でPSA検診による前立腺がん死亡の減少認められず [2012年2月2日(VOL.45 NO.5)]

 長期間の追跡で前立腺特異抗原(PSA)検診による前立腺がんの死亡の減少は認められなかったとするデータが,米ワシントン大学(セントルイス)などのグループによりJournal of the National Cancer Instituteの1月18日号に発表された。
 今回の報告は,前立腺・肺・大腸・卵巣(PLCO)がん検診試験におけるPSA検査と直腸診による前立腺がん検診の13年間の追跡結果に基づくものである。
 PLCOの前立腺がん検診では,1993〜2001年に10カ所の検診センターで55〜74歳の男性7万6,685例を登録。毎年6年間のPSA検査と毎年4年間の直腸診を行う介入群に3万8,340例,特別な介入を行わないコントロール群に3万8,345例をランダムに割り付けた。コントロール群には任意でPSA検査を受けた参加者が含まれている。
 試験は2006年10月に終了し,追跡7〜10年間の結果は既に報告されている。今回は13年間の追跡中または2009年までの前立腺がんの発症と前立腺がんによる死亡を検討した。追跡率は10年目までが約92%,13年目までが57%であった。
 その結果,13年間の追跡期間中に介入群の4,250例,コントロール群の3,815例が前立腺がんと診断された。1万人年当たりの前立腺がん累積発症率は介入群108.4,コントロール群97.1で,介入群の相対増加率は12%だった。
 1万人年当たりの累積前立腺がん死亡率は介入群3.7,コントロール群3.4で(介入群の相対増加率9%),有意差はなかった。前立腺がんによる死亡と年齢,登録時の併存症,試験前のPSA検査との相互作用は見られなかった。


~前立腺がん~サプリではリスクは低下しない[2012年1月26日(VOL.45 NO.4)]

 EuroMedClinic(フュルト)のBernd J. Schmitz-Dräger博士らが,前立腺がん予防に関する最近の研究結果について,Der Urologe(2011; 50: 1271-1275)に報告。それによると,特定のビタミンサプリメントや微量元素による前立腺がんリスクの低下は確認されなかったという。ただし,食事が前立腺がんリスクに影響を及ぼすことに変わりはないようだ。

プラセボと発がん率に差がない

 前立腺がん予防に関するいくつかの先行研究とメタアナリシスから,ビタミンC,ビタミンB12,葉酸は前立腺がんの発生に影響を及ぼさないことが示されている。また,50歳以上の男性3万5,000人以上を対象としたSELECT(Selenium and Vitamin E Cancer Prevention Trial)ではセレンとビタミンEの前立腺がん予防効果を検証するため,被験者を(1)セレン(200μg/日)投与群(2)ビタミンE(400IU/日)投与群(3)セレン+ビタミンE併用群(4)プラセボ群—の4群に割り付けて5年半投与。その後,1年半の観察を行ったが,4群の前立腺がん発生率に有意差は認められなかった。Schmitz-Dräger博士らは,「喫煙者ではビタミンEの恩恵を受ける可能性もあると考えられるが,同試験のサブグループ解析はまだ行われていない」と述べている。
 そのほか,トマトに含まれるリコピンも前立腺がんリスクを低下させると考えられているが,最近の症例対照研究では,リコピンの血中濃度と前立腺がんとの関連性は確認されていない。ただし,同博士らは「この結果は,トマトやトマト加工品の摂取が前立腺がん予防に有益である可能性を全面的に否定するものではない」と指摘している。実際,こうした特定の物質の有効性が確認されなくても,食事が前立腺がんリスクに影響を及ぼすことに変わりはない。特にアジアや地中海の食事は良いとされ,これには大豆に含まれるフィトエストロゲンやトマトがリスク低下に一役買っていると考えられる。その一方で,乳製品の多量摂取が前立腺がんリスクを上昇させる可能性が示唆され,乳製品に含まれるカルシウムがその原因とされている。
 同博士は「こうした点を踏まえた健康な食生活に加え,禁煙や十分な身体活動が前立腺がん予防に有益であることは間違いない」と強調している。
 また5α還元酵素阻害薬(フィナステリド,デュタステリドなど)の服用により,前立腺がんリスクが約25%低下することが立証されている。悪性度の低い腫瘍に対して,しばしば過剰治療が行われることが問題となっているが,5α還元酵素阻害薬は特にそうした腫瘍に有効であることが示唆されている。ただし,同薬は前立腺がんの一次予防薬として承認されていないため,同博士は「前立腺肥大症など適応症がある場合に限り“利用”できる」と付け加えている。


前立腺がん ADTで心血管死リスクの上昇認められず[2012年1月26日(VOL.45 NO.4)]

 アンドロゲン遮断療法(ADT)を行った前立腺がん患者で心血管疾患(CVD)による死亡リスクが上昇することがこれまで複数の研究から示唆されていた。しかし,ダナ・ファーバーがん研究所,Brigham and Women's病院,ハーバード大学(いずれもボストン)のPaul L. Nguyen助教授らが非ホルモン抵抗性で転移のない前立腺がん患者を対象としたランダム化比較試験(RCT)のメタアナリシスを行ったところ,ADTを受けた患者でCVDによる死亡リスクの上昇は認められず,前立腺がんによる死亡と全死亡のリスクは低下するとの結果が得られた。詳細はJAMA(2011; 306: 2359-2366)に発表された。

11件のRCTを解析

 ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストによるADTは前立腺がん治療の柱の1つだが,最近,CVDによる死亡リスクの上昇と関連することを示す複数の研究が報告されている。これを受け,米食品医薬品局(FDA)はADTの安全性について警告するとともに,関連学会と合同でADTと心血管イベントとの関連性について声明を発表した。しかし,同リスクの上昇は認められないとする研究もあった。
 そこでNguyen助教授らは今回, 転移のない前立腺患者を対象としたRCTのメタアナリシスを行い,ADTとCVDによる死亡,前立腺がんによる死亡,全死亡との関連性について検討した。対象は,GnRHアゴニストによるADT群とADT非施行の対照群を中央値で1年以上追跡したRCTで,心血管疾患による死亡のデータを含む8件(4,141例,追跡期間中央値7.6~13.2年)とした。前立腺がんによる死亡と全死亡の解析には,CVDによる死亡データを欠く別の3件(664例)のデータも用いた。
 その結果,CVDによる死亡率はADT群で11.0%,対照群では11.2%で有意差はなかった(P=0.41)。また,同死亡率は短期試験(治療期間6カ月以下)に限るとADT群で10.5%,対照群では10.3%(P=0.99),長期試験(同3年以上)に限るとそれぞれ11.5%,11.5%(P=0.34)で,いずれも有意差はなかった。
 患者の年齢は結果に影響せず,中央値が70歳未満と70歳以上のいずれの場合にも,ADTとCVDによる死亡リスクに関連は認められなかった。

前立腺がんによる死亡率,全死亡率は改善

 一方,前立腺がんによる死亡率は対照群の22.1%に対してADT群では13.5%と有意に低かった〔相対リスク(RR)0.69,P<0.001〕。また,全死亡についても,対照群の44.4%に対してADT群では37.7%と有意に低かった(RR 0.86,P<0.001)。
 Nguyen助教授らは「ADTはCVDによる死亡リスクを上昇させることなく生存率を改善することが分かった。この結果は,ADTを検討している多くの前立腺がん患者の安心材料となるであろう」と述べている。
 一方で,同助教授らは「今回の結果を解釈する上で留意すべき重要な注意点」として,(1)検討した試験はいずれも併存するCVDで層別化していなかったため,今回の解析では(コントロールされている疾患も含め)CVDを有する患者集団ではADTが同疾患による死亡リスクを上昇させる可能性がある(2)今回の解析では全体的なCVDによる死亡について評価したが,ADTを受けた患者ではADT開始後早期にCVDによる死亡が発生することが指摘されており,その可能性は排除できない—ことなどを挙げている。

合併症リスクの高い患者には適切な二次予防を

 トーマスジェファーソン大学キンメルがんセンター(ペンシルベニア州フィラデルフィア)のWilliam K. Kelly, Leonard G. Gomellaの両教授は,同誌の付随論評(2011; 306: 2382-2383)で「CVDを有し,ADTによる合併症リスクの最も高い患者には,米国心臓協会(AHA)が勧める適切な二次予防(脂質異常症治療,降圧療法,血糖低下療法,抗血小板療法)を行うべきである」と強調。「ADTは数十年来行われている治療法であるが,前立腺がんの治療に当たる臨床医は,この生化学的去勢による短期的および長期的な生物学的影響に関して依然,解明の途上にある。しかし,これらの合併症に関しては理解が深まったといえるであろう」と述べている。


経口避妊薬が前立腺がんの増加と関連[2012年1月26日(VOL.45 NO.4)]

 トロント大学プリンセス・マーガレット病院(カナダ・トロント)のDavid Margel博士らによる研究で,女性の経口避妊薬の使用が男性の前立腺がんの増加と関連することが示された。詳細はBMJ Open(2011; オンライン版)に発表された。

他の避妊法は関連せず

 前立腺がんは先進国の男性で最も多いがんである。一方,経口避妊薬の使用は過去40年間で激増している。
 Margel博士らは,国際がん研究機関(IARC)のデータと,全世界の経口避妊薬使用に関する国連の報告書を基に,2007年の前立腺がんの発症率および死亡率,一般的な避妊法により避妊している女性の割合を算出し,国・大陸別にデータを分析して経口避妊薬の使用と前立腺がんの発症および同がんによる死亡との関連について調べた。
 その結果,子宮内避妊器具(IUD),コンドームなどの避妊具は,前立腺がんリスクの上昇と関連しなかった。しかし,各国の人口全体の経口避妊薬の使用は新たな前立腺がん患者数および前立腺がんによる死亡数と有意に関連していた。この関連性は各国の経済状況とは無関係であった。
 ただし,今回の研究では因果関係は検証されておらず,確定的な結論は得られていない。同博士らは「今回の生態学的研究の結果は推測の域を出ず,さらなる検討を要する」としている。

EDCの環境レベル上昇が原因か

 最近の複数の研究で,エストロゲンへの曝露が前立腺がんリスクを上昇させることが示唆されている。一方で,両者に関連はないとする報告もある。エストロゲンへの過剰な曝露はがんの原因となることが知られており,経口避妊薬の普及は内分泌かく乱化学物質(EDC)の環境レベルを上昇させる可能性が指摘されている。なお,EDCには経口避妊薬の代謝副産物も含まれる。
 EDCは分解されにくいため,尿中に排泄されて飲用水や食物連鎖に入り込み,一般人口が曝露される可能性がある。多くの先進国で見られるホルモン感受性組織のがんの増加傾向は,一般人口のEDCへの曝露による健康への悪影響の一端である可能性が指摘されている。


RANKLを標的とするモノクローナル抗体により前立腺がんの骨転移が遅延[2012年1月19日(VOL.45 NO.3)]

 破骨細胞の形成・活性化に関係するRANKLを標的とする完全ヒト型モノクローナル抗体(denosumab)により,骨転移リスクが高い前立腺がん患者の無骨転移生存期間が延長されることを示す第Ⅲ相試験の結果が,国際共同研究グループによりLancetの1月7日号に発表された。
 骨転移は前立腺がん患者の主要死因となっている。前臨床研究では,破骨細胞の抑制による骨転移予防の可能性が示唆されている。同グループは,denosumabが前立腺がん患者の骨転移または死亡の予防に有効かどうかを検討した。
 試験には30カ国の319施設が参加した。対象は,前立腺特異抗原(PSA)値8.0μg/L以上またはPSA倍加時間10カ月以内の骨転移リスクが高い,去勢術抵抗性の前立腺がん患者1,432例。denosumab 120mgまたはプラセボを4週間ごとに皮下投与する群に1対1の割合でランダムに割り付けた。
 その結果,主要エンドポイントの無骨転移生存期間の中央値はプラセボ群の25.2カ月に対し,denosumab群では29.5カ月と有意な延長が認められた〔ハザード比(HR)0.85,P=0.028〕。また,denosumab群は初回骨転移までの期間も有意に長かった(中央値はプラセボ群の29.5カ月に対し33.2カ月,HR 0.84,P=0.032)。全生存期間の中央値はプラセボ群44.8カ月,denosumab群43.9カ月で有意差はなかった。
 有害事象全体と重篤な有害事象の発現率は,顎骨壊死と低Ca血症を除いて両群で同等であった(顎骨壊死:denosumab群33例,プラセボ群ゼロ,低Ca血症:denosumab群12例,プラセボ群2例)。


局所進行前立腺がんのADT+RT併用療法は生存の改善に有効[2012年1月12日(VOL.45 NO.2]

 局所進行前立腺がんに対するアンドロゲン遮断療法(ADT)と放射線療法(RT)の併用は生存の改善に有効であるとカナダ,米国,英国の共同研究グループがLancetの12月17日号に発表した。
 ADTで管理されている局所進行前立腺がん患者にRTを追加することで,生存が改善されるかどうかは明らかではない。同グループは,局所進行前立腺がんに対するADT+RT併用療法の有効性を検討した。
 対象は1,205例で,局所進行前立腺がん患者と少数の限局性前立腺がん患者が含まれた。602例をADT単独群,603例をADT+RT併用群にランダムに割り付けた。主要エンドポイントは全生存率とした。
 中央値6年の追跡で320例が死亡した(ADT単独群175例,ADT+RT群145例)。7年全生存率はADT単独群の66%に対し,ADT+RT群では74%と有意に良好であった(P=0.033)。グレード3を超える毒性の発現は両群間で大きな差はなかった。


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