定例新居浜小児科医会(平成5年3月以降)

新居浜小児科医会誌
第400回記念
平成13年12月25日発行


平成19年(466回→)


第476回

忘年会
(平成19年12月13日、於どんたく)


平成19年12月13日(水)に、忘年会が「どんたく」で開かれました。
出席者は9名でした。
 (前列左から) 真鍋豊彦、加藤文徳、松浦 章雄、塩田康夫
 (後列左から) 星加 晃、岡本健太郎、山本浩一、後藤振一郎、中村 彩(敬称略)

第475回

日時
平成19年11月14日(水)
特別講演 「小児気管支喘息の最新治療」 にしかわクリニック院長 西川 清先生

第474回

日時
平成19年10月10日(水)
症例呈示 「硫酸アトロピン静注療法を行った肥厚性幽門狭窄症の一例」 住友別子病院小児科 加藤文徳
話題提供 「新居浜市医師会内科・小児科急患センター 平成18年度受診状況についてー特に小児の受診状況についてー」 山本小児科クリニック 山本浩一

1.症例呈示

    硫酸アトロピン静注療法を実施した肥厚性幽門狭窄症の一例

         住友別子病院小児科 加藤 文徳

 肥厚性幽門狭窄症に対する硫酸アトロピン静注療法の方法を次に示す。
(方法)
 硫酸アトロピン0.1 mg/kg/日を分8に均等分割して、哺乳10分前に緩徐に静注する。嘔吐が24時間消失すれば硫酸アトロピンを0.2 mg/kg/日の経口投与に変更する。経口投与は2週間継続し、治療終了とする。
症例は生後21日目の男児。この方法にて、治療開始から5日目に嘔吐が消失し治癒した。過去、肥厚性幽門狭窄症に対しては外科治療を選択することが多かったが、硫酸アトロピン静注療法は外科治療に代わる有効な治療法と考えられた。

(解説)

 以前から、肥厚性幽門狭窄症の治療としては外科治療(Ramstedt幽門筋切開術)と硫酸アトロピン内服療法のどちらかが選択されてきた。ただ、硫酸アトロピン内服療法は治療に時間がかかり、かつ効果が不確実であるため外科治療が選択されることが殆どであった。1996年に硫酸アトロピン静注療法の有効性が報告されて以来、肥厚性幽門狭窄症の最初の治療として硫酸アトロピン静注療法が選択されることが多くなっている。

2.話題提供

   新居浜市医師会内科・小児科急患センター平成18年度受診状況

   特に平成15年度からの小児受診者数の変化について

      山本小児科クリニック  山本 浩一

 ここ数年で新居浜市の小児救急体制は急激に変化した。その結果、今後の小児救急がどうなるのか心配される状況にまでなってきた。平成16年に新居浜市医師会内科・小児科急患センター受診者の平成15年度集計(平成15年4月から平成16年3月まで)を、新居浜市小児科医会で報告した。当時、小児の一次救急をしていた病院が新居浜市には住友別子病院、十全総合病院、県立新居浜病院、労災病院と4病院あった。今は基本的に住友別子病院だけになった。そこで平成18年度集計(平成18年4月から平成19年3月まで)と平成15年度集計とを比較して、特に小児の受診者数がどのように変化しているかを検討した。
 新居浜市医師会内科・小児科急患センターは、休日(休日診療)は午前9時から午後5時まで、休日以外(夜間診療)は午後8時から午後11時まで医師二人体制で運営されている。平成18年度の受診者総数(休日および夜間の合計)は、4,651人、そのうち成人(16歳以上)が1,494人、小児が3,157人であった。月別受診者数の比較では、例年同様に冬期に受診者が増加していたが、平成18年度集計で特筆されることは、昨年11月から小児の受診者数が右肩上がりの様相を呈していたことであった。平成15年度の受診者総計は、4,371人、成人が1,508人、小児が2,863人であり、平成15年度より平成18年度は280人の増加があり、その増加のほとんどは小児受診者の増加であった。
 次に休日診療と夜間診療に分けて集計した。
 休日診療受診者総数は、2,970人(H15:2,765人)、成人が979人、小児が1,991人であった。1日平均43人で、小児が約2/3を占めていた。月別受診者の年齢分布を検討すると毎月5歳以下の受診者が全体の約半数を占めていた。また月別受診者数は、昨年11月から上昇カーブを描いて12月から急増した。総数で、平成15年度より205人の増加であった。
 夜間診療の受診者総数は、1,681人(H15:1,606人)、成人が515人、小児が1,166人であった。一日平均5.6人で、休日診療と同じように小児が約2/3を占めていた。受診時間は、準夜帯にあたる10時までで、約80%が受診していた。月別受診者の年齢分布を検討すると毎月5歳以下の乳幼児が半数を占めていた。また月別受診者数は、昨年10月から受診者数が急に増えて休日診療と同じ傾向を示した。総数で、平成15年度より75人の増加であった。
 急患センターでは月別受診者を年齢別に検討すると、休日診療・夜間診療とも毎月5歳以下が全体の約半数を占めているが、主に急性疾患を扱うため、ウイルス性の胃腸症やインフルエンザが流行する12月から3月は毎年受診者数の増加があり、いつもより小・中学生や成人の受診者数の増加がみられる。
 次に後送患者についてまとめた。総数は、87人。これは全体の1.8%であった。そのうち小児は48人で、これは小児全体の1.5%であった。小児後送患者の後送先(ほとんどが市内の4病院であった)は、小児科が39人、その他外科が3人、耳鼻科が3人、眼科が1人、泌尿器科が2人であった。なお平成15年度の後送患者数総数は、65人で全体の1.5%であった。そのうち小児の後送患者は41人で、これは小児全体の1.4%であった。疾患としては、内科系37人、外科系4人であった。小児受診者の中の後送患者は、数も割合も平成15年度と18年度では大きな変化はなく、急患センター受診の小児の多くは軽症であり、一般外来のような状況であることが推定された。
 長期にわたっての受診者数の変化はどのようなものであるか検討してみた。集計記録が残る平成6年度の受診者総数は、4,343人であり、そのうち成人は1,746人、小児は2,600人であった。そして平成18年までの成人と小児の受診者数の変化をみてみると、成人は漸減し、小児は徐々に増加していた。すなわち平成6年度から平成18年度にかけて、成人受診者は252人減少し、小児受診者は557人増加、総数では305人の増加であった。

まとめ:

新居浜市では、平成18年4月に労災病院小児科が小児科常勤医不在になったために、そして平成18年10月には十全総合病院が小児科医一人体制になったために、病院としての小児救急への対応が困難であるとしました。この後、平成18年11月頃から急患センターへの小児受診者の急増がみられました。急患センターは、急性疾患を主とする施設です。したがって一時的な特定の疾患の流行(例えばインフルエンザの流行など)で受診者数は大きく変化することがあります。しかし、昨年11月頃からの小児受診者数の増加は急であり、特別な疾患の大きな流行というよりも、小児救急に対応していた4病院のうち2病院が対応できなくなったことが大きく影響したと考えられました。
 そしてさらに平成19年6月には、救命救急センターを持つ県立新居浜病院が、小児科医一人体制となったために小児救急は一次も二次も小児科医が当直をしている日だけは対応できるが、その他の日は受け入れが基本的に困難であるとしました。この後、小児患者を抱える保護者からの急患センターへの問い合わせや小児受診者数の増加がはっきりしてきました。さらに、病院での小児救急体制が崩壊していく中で、困ったことに内科医が主力である急患センターに乳児の受診が増えています。
 この数年間で新居浜市の小児救急体制は激変しました。小児救急に対応している病院は、住友別子病院(一次救急には小児科医以外の先生方が、二次救急には小児科医が対応)だけになってしまいました。新居浜市医師会内科・小児科急患センターは、小児救急に対応できる時間が限られています。しかも今の急患センター出務医師数(35人)では、これ以上の対応が非常に困難であると推定されます。一方、新居浜市周辺の西条市や四国中央市の病院は必ずしも小児科医が対応しているわけではありませんが、基本的には病院として小児一次救急に対応しています。このような近隣他市の状況をみると、住友別子病院以外の新居浜市内の病院の小児救急への対応は残念であります。
 また新居浜市では、国や小児科学会が推し進める公的病院への小児科医の集約化が中途半端な形で行われたと言わざるを得ません。本来は公的病院にこだわらず小児科医を集約化して、1次、2次の小児救急に対応できる小児救急拠点病院の整備が必要なのです。本当の集約化には一つの病院に最低6人、できれば10人以上の小児科医が集約されることが望まれます。しかし集約化すべき小児科医の不足があり、さらに今の大学医局の現状を考えるとすぐに解決する問題でないことは一目瞭然です。
 したがって今は、その地域に構築可能な体制を整備することが望まれます。あくまでも小児一次救急の特殊性(多くは救急というよりも通常外来診療、しかも24時間いつでも受診する)が混乱の主な原因ですが、現在小児救急に対応してくれている病院の医師が疲弊しないようにするためにも、病院間の話し合いが持たれることを願っています。

(解説)

おそらく、新居浜市の病院小児科の崩壊はこれからも進み、小児救急医療については、だれもが予想しなかった困難な状況に追い込まれる。もはや、一人一人の小児科医の努力で解決できることではなくなった。

(文責 加藤 文徳)


第473回

日時
平成19年9月12日(水)
症例呈示 「不登校児に対する小児科での対応
           不登校診療ガイドブック(簡易版)の利用」」
住友別子病院小児科 中村 彩
話題提供 「地域活動”渚のベースキャンプ事業”の紹介」 ふじえだファミリークリニック 藤枝俊之

1.症例呈示

   不登校児に対する小児科での対応−不登校診療ガイド(簡易版)の利用−

        住友別子病院小児科 中村彩

 不登校とは「何らかの心理的、情緒的、身体的あるいは社会的要因や背景により児童生徒が登校しない、あるいはしたくともできない状況にある」こととされている。診断ではなく状態であるため背景にはさまざまな要因があり、その初期には心理的ストレスから身体症状が発生しやすく、小児科を受診することが多い。このため、小児科医には不登校児への初期対応が期待されるが、時間的制約もあり対応に苦慮することが多い。日本小児心身医学会から配布された小児科医のための不登校診療ガイド(簡易版)では、まず不登校の存在を疑うことから始まり、ガイドが適応できるかを検討し、その後不登校として捉え、親子に治療方針を説明し、専門機関との連携や経過観察を行うという対応の流れが示されている。今回、このガイドを利用して経過をみた症例を報告した。

(解説)以下に、不登校診療ガイドのなかの一文を転載する。
 “誰も不登校を「治す」ことはできません。不登校状態から抜け出し、再スタートを切るのは子ども自身です。周囲ができるのは、そんな子どもを温かく見守っていくことだけなのです。小児科医の役割は、子どもを見守るメンバーの一員として、身体症状に付き合うことを通じ、根気良く子どもと関わっていくことです。劇的な変化を期待してはいけません。あきらめずに見守り続けることによって、子どもは少しずつ心を開いてくれます。そして、そのような関わりが、いつか子どもに再スタートを切る勇気を与えていくのです。”

2.話題提供

  地域活動『渚のベースキャンプ事業』について

       ふじえだファミリークリニック  藤枝俊之     

 2007年夏1ヶ月にわたり寒川豊浜海浜公園「ふれあいビーチ」において補助金制度を活用し『渚のベースキャンプ事業』を行った。地域に心の癒し空間を創設、団体・世代・地域・官民の垣根を越えた交流を図ることを目的に事業を行った。新しくできた人工海岸に交流拠点となる基地を設営し、浜辺の遊びを通じ市民の心の癒しを図る企画を海岸利用者と共に自由な発想のもと考え、実現可能なアイデアを協働で随時実践した。また、海岸の防犯美化意識向上を目的に夜間の見回り活動を期間中毎日実践した。

 事業効果(まちづくりの視点から)

(1)市の自然の中で、自由な雰囲気・楽しい雰囲気の空間を創出し、市民の心の癒しを図るとともに市民活動に無関心な市民・行政の関心を引き出すことができた。
(2)長期開催事業で、市民・行政を招き入れることにより、住民自治に必要な市民サービス利用者から企画者・管理者への意識変革をもたらした。市民の自由な意見を積極的に組み入れることで新しい発想の協働参画型事業を創出展開できた。
(3)市民・行政が一体となり行政管理区域(海岸)の利用しやすい運用ルール創出のきっかけを作った。
(4)オリジナリティー溢れる個性豊かな海岸のありかたを提示することで、市民に親しまれ、他の場所にはない観光スポットとして、市内はもとより市外からも集客効果を見込める市の新名所に相応しい海岸整備実現の礎を築いた。
(5)無人海岸において毎晩の監視を実施することで防犯・美化に貢献ができた。 小児科医が病院・医院を離れて活動を行うことにより、現代・地域社会における親子関係や子育て環境を知ることになり、その結果、日常診療における患者・家族への関わりや医院運営に変化をきたすことになり、患者家族の社会生活への理解・支援にもつながる。また、一見小児医療と関係のないことに見える行政の関与する地域活動にも継続的に参画し、対話のプロセスを通じ小児科医の存在感を示し続けることで、行政・市民の小児科への関心を引き出すことにつながる。その結果、地域において小児保健活動の啓蒙や小児に対する行政施策へ小児科医の視点を盛り込むことが可能となる。
 近年、子どもを取り巻く様々な問題がメディアを通じクローズアップされている。我々もその責任の一端を担っている。小児科医は当事者として社会に関心を示し、社会変革のためにそろそろ行動を行う時期に来ているのではないか。そのために各種補助金制度を活用するのも有効である。

(解説)

医師も地域のなかで多くの人とかかわりながら生活している社会の一員であるから、社会活動に参加することは大切なことである。そこでは医師としてではない一人の人間としての自分がある。医療のなかでは経験できないことがある。ただ残念ながら、そのために我々に許される時間はあまりにも少ない。

(文責 加藤 文徳)


第472回

夏季懇親会
(平成19年7月11日、於天ふじ)


平成19年7月11日(水)に、夏季懇親会が「天ふじ」で開かれました。
出席者は9名でした。(後藤振一郎先生は中座されました。)
 (前列左から) 渡辺敬信、真鍋豊彦、中村 彩、塩田康夫
 (後列左から) 山本浩一、松浦 章雄、加藤文徳、岡本健太郎(敬称略)

第471回

日時
平成19年6月13日(水)
症例呈示 「クローン病の一例」 住友別子病院小児科 後藤振一郎
中村 彩
加藤文徳
話題提供 「西条保健所管内の病原体定点からの結果報告(18年度)」 高橋こどもクリニック 高橋 貢
その他 ・年長児へのMRワクチン接種券発送について
・医会の今後の運営について

1.症例呈示

 クローン病の一例

     住友別子病院小児科 後藤振一郎

 症例は14歳の男児。前医にて貧血を指摘され鉄剤治療を受けたが軽快しないため紹介された。受診時、身長は164cmと標準身長であったが、体重は43kgと−20%のやせを認めた。また1日10回程度の下痢便と便潜血を認めた。血液検査では赤血球数397×10/mm3Hg7.7g/dlであった。腹部CT検査で小腸、横行結腸の壁肥厚を認め、さらに小腸透視にて縦走潰瘍を認めたためクローン病と診断した。治療として成分栄養とメサラジン内服を開始し一時症状は軽快した。しかし、その後肉眼的血便が頻回となったためプレドニゾロン投与を開始した。これにより血便は消失した。症状軽快して2週間後の大腸内視鏡検査では、直腸中心に小潰瘍が多発し血管透過像の減少を認めた。臨床的には活動性は鎮静化していたものの、局所の炎症は残存していると考えられた。プレドニゾロンは症状安定後2週間毎に漸減した。現在1/4量まで減量し、低残渣食、成分栄養を併用しているが、再燃の兆候はみられていない。

解説)

潰瘍性大腸炎やクローン病は小児でもまれではない。遷延する消化器症状をみればこれらを疑うことは難しくないが、クローン病は成長障害によって気づかれることがある。クローン病の診断に関しては粘膜病変が腸管の長軸方向にできる、いわゆる縦走潰瘍が特徴的である。厚生労働省研究班の定めた診断基準に従って診断し、重症度に応じて治療することになる。栄養療法に加え薬物治療の第一選択はメサラジンで、次にステロイド剤である。寛解後も治療は長期にわたるため、原疾患による合併症の有無、薬剤による副作用の発現に注意する必要がある。

2.話題提供

 西条保健所管内の病原体定点からの結果報告

   高橋こどもクリニック  高橋 貢

はじめに

 五類感染症定点把握疾患の届出のために全国で約3000の小児科が定点機関となっている。愛媛県では各保健所管内にそれぞれ、四国中央3、西条6、今治5、松山15、八幡浜4、宇和島4つの小児科が定点機関となっている。また、定点医療機関の約10%が病原体定点に指定され、検体を衛生研究所に提出している。病原体定点数は四国中央1、西条1、今治1、松山3、八幡浜1、宇和島1である。当院は平成18年4月から西条保健所管内の病原体定点となった。平成18年の愛媛県全体(東予・中予・南予)および当院のウイルス分離状況を報告する。

結果

平成18年のウイルス検出状況

 1)東予地区3病原体定点
 検査数は162件、病原体検出数(延べ数)は140件(検出率86.4%)で、多い順からインフルエンザA(H3) 25件、ノロ 5件、ムンプス 19件、ロタ 11件、インフルエンザA(H1) 11件、エンテロ71 11件、コクサッキーA4 9件、その他であった。

 2)中予地区3病原体定点
 検査数は548件、病原体検出数(延べ数)は211件(検出率38.5%)で、多い順からノロ 77件、ロタ 25件、サポ 13件、RS 9件その他であった。

 3)南予地区2病原体定点
  検査数0件。

 4)当院
  検査数29件、病原体検出数19件(65.5%)で、多い順からインフルエンザA(H3)5件、ロタ 4件、ノロ 3件、エンテロ71 3例、その他であった。疾患と検出率との関係では、インフルエンザ(7/8)、感染性胃腸炎(7/8)、手足口病(3/4)では高く、発疹症では(1/6)と低かった。 
まとめ

 東予の3病原体定点の1つが当院であるため、当院の結果は東予地区のウイルス分離状況と同様であった。中予地区では、検査数および検出数も腸管系ウイルスが圧倒的に多く、検体提出の偏りが見られた。南予地区からは検体の提出が見られず、病原体定点を変更するなどの必要があると思われた。また、小児科定点についても適正数や機関の見直しも検討する必要があると思われた。

(解説)

愛媛県では37の小児医療機関から感染症の報告がなされ、そのうち8医療機関が病原体分離のための検体を提出していることになる。感染症の流行状況把握のための病原体分離は、疾患の偏りなく全地域から検体が提出されてはじめて意味がある。病原体定点の医療機関に課せられた責任は小さくない。

(文責 加藤 文徳)


第470回

千坂 綾先生の送別会
(平成19年5月9日、於「寿司勝」)


平成19年5月9日(水)に、上田 剛先生の送別会が「寿司勝」で開かれました。
出席者は7名でした。
 (前列左から) 真鍋豊彦、千阪 綾、松浦 章雄
 (後列左から) 塩田康夫、加藤文徳、山本浩一、後藤振一郎、(敬称略)

第469回

日時
平成19年4月11日(水)
症例呈示 「当科におけるステロイド吸入用懸濁液の使用について」 県立新居浜病院小児科 千阪 綾
岡本健太郎
話題提供 「先天性難聴と人工内耳」 川上こどもクリニック 川上郁夫

1.症例呈示

  当科におけるブデソニド吸入用懸濁液導入患者の検討

       県立新居浜病院小児科 千阪 綾

昨年、乳幼児喘息患者に対する吸入ステロイド剤としてブデソニド吸入用懸濁液(Budesonide Inhalation SuspensionBIS)が発売された。今回、当科での導入から約半年間の経過を検討した。
 対象は平成189月から12月の4ヶ月間にBISを導入した気管支喘息の患者12例であった。現在まで継続できている症例は9例、中止例は3例であった。BIS継続例においては、治療開始前後で外来受診回数および入院回数が減少していた。また併用薬も、気管支拡張剤を中心に減量もしくは中止できている症例が多かった。BISを中止した症例は、ネブライザー吸入が困難であった症例と、他の吸入ステロイド剤からの変更で症状が増悪した症例であった。後者においては、BIS導入前の吸入ステロイド投与量に比較してBIS投与量が不十分であったことが症状増悪の原因と考えられた。
 今回の検討で、BISは乳幼児喘息患者のコントロールに有効と考えられた。ただし、他の吸入ステロイド剤からの変更時などは投与量を十分検討する必要があり、またネブライザー吸入が困難な患児においては吸入方法を工夫する必要があると考えられた。

(解説)

小児気管支喘息治療・管理ガイドライン2005では、5歳以下の乳幼児でも重症度によっては長期管理の初期治療薬として吸入ステロイド薬が推奨されている。乳幼児の場合、これまではエアゾール製剤をマスク付き吸入補助具を用いて吸入するしかなかったが、ブデソニド吸入用懸濁液はネブライザーを用いて使用できる。ただ、ネブライザー吸入は吸入に時間がかかるため、幼児では吸入に飽きて最後まで吸入ができない症例も多い。適切な吸入指導が必要である。

2.話題提供

  
先天性難聴と人工内耳


    川上こどもクリニック 川上郁夫

症例1S.M.H6.3.21生)1歳頃、母親が音に反応 がないのが心配で受診。県立新居浜病院の耳鼻科に紹介し、高度難聴と診断された。その後香川県のこだま学園に通院し補聴器を装着。 H10年に香川医大で人工内耳の手術をした。

症例2:N.M. (H12.6.15生)症例1の妹。兄が難聴だったので検査をしたところ同じく高度難聴と診断され、H15年に人工内耳の 手術を受ける。

疫学調査によれば高度難聴児は出生1000人に1人の割合で生まれてくるとされ、先天性代謝疾患などの他の先天性疾患に比較しても極めて頻度が多く(クレチン症は4600人に1人)、現在多くの施設で新生児聴覚スクリーニングが行われ始めている。先天性難聴の少なくとも50%は遺伝子の関与によるものと推測され、これに後天性あるいは進行性の遺伝子難聴を合わせると、遺伝子変異による難聴は頻度の高い疾患である。現在数十から100種類ほどの難聴遺伝子が想定され、徐々にその全貌が明らかになっており、その結果なぜ難聴になるのかといったメカニズムも分かるようになってきた。また人工内耳を装着する児は年々増えている。

(解説)

聴覚障害は発見が遅れると言語発達のみならず、認知、社会性、感情、行動、注意力、学習能力などさまざまな面での発達に悪影響を及ぼす。よって早期発見、早期介入が必要である。現在、自動聴性脳幹反応(AABR)あるいは耳音響放射法(OAE)を使った新生児聴覚スクリーニングが可能である。ただ、検査が有料のため、すべての分娩取り扱い機関で実施されているわけではない。特に、愛媛県は全国に比べてスクリーニングを受けている新生児の比率は低い。今後、先天代謝異常検査などと同じく自治体の補助事業として新生児聴覚スクリーニングが実施されることが期待される。

(文責 加藤 文徳)


第468回

日時
平成19年3月14日(水)
症例呈示 「肝機能障害を伴ったノロウイルスによる急性腸炎の4例」 住友別子病院小児科 津下 充
後藤振一郎
加藤文徳
話題提供 「小児の急性中耳炎の治療法をめぐって」 しおだこどもクリニック 塩田康夫

1.症例呈示

   肝機能障害を伴ったノロウイルスによる急性腸炎の4例

         住友別子病院小児科 津下 充

 ロタウイルス腸炎に肝機能障害が合併することはしばしば報告されるが,ノロウイルス腸炎において肝機能障害を合併することは一般に知られていない。今回我々は、肝機能障害を伴った急性腸炎を2006年11月〜12月にかけて4例経験し、全ての症例でRT-PCR法により糞便からノロウイルス(genogroupU)を検出した。ノロウイルス腸炎による肝機能障害では、胃腸炎症状を認める急性期にはトランスアミナーゼの上昇は軽度であるにもかかわらず,症状が消失した後に肝機能障害が悪化し遷延する傾向を認めた。さらに、発症から肝機能が最も悪化するまでが約13日,発症から肝機能が正常化するまでの期間は約27日と、症例毎でほぼ同じ日数であった。肝機能障害時には全症例で無症状であり,理学的所見に異常はなかった。そのため,胃腸炎症状が改善し退院した後に血液検査を施行して,初めて肝機能障害が明らかになる傾向があった。
  病初期に胃腸炎症状と共に軽度のトランスアミナーゼの上昇を認めた場合は,その推移について症状が消失した後もフォローする必要があり,肝機能障害が遷延した場合は,鑑別診断としてノロウイルス感染の可能性を考慮し,PCR法による糞便のウイルス学的検索を行うことが重要と考えられた。

(解説)

平成18年秋から冬のシーズンにノロウイルスによる急性腸炎が全国で大流行し、ノロウイルスは国民に広く知られるウイルスとなった。本疾患は、入院治療を必要とするような重症例以外、診断治療のためにあえて血液検査をすることはない。肝機能障害は腸炎重症例に生じやすいとも考えられるが、報告された4例のうち1例は腸炎が軽症に経過している。よって腸炎軽症例でも、そのなかには肝機能障害を伴っているものが存在する。特に、肝機能障害は腸炎症状が軽快した後にさらに悪化するため、注意が必要である。

2.話題提供

   小児の急性中耳炎の治療法をめぐって
   
(第16回日本外来小児科学会での寺本典代先生講演内容の要旨)

      しおだこどもクリニック   塩田康夫      

 近年、小児の中耳炎の難治化、重症化が論議されているが、開業医と勤務医では扱う中耳炎の病態に差異があると思われる。病院にはひとにぎりの難治例が繰り返し受診することが多いが、一度きりで繰り返さない中耳炎や、医療を必要とするまでもなく自然に軽快する中耳炎などが、開業医の日々の臨床では圧倒的に多いと感じられる。寺本医院の統計では、中耳に貯留液が継続せず速やかに改善する中耳炎が約70%を占める。残る30%は比較的長期間中耳に貯留液を伴うが、その70〜80%が3〜6ヵ月以内に治癒し、3〜5年遷延するものは小児受診者全体の2,5%である。長引くように見えても半年以上遷延する中耳炎は、中耳炎全体の約5%であり、3〜5年の長期に遷延するものは非常にまれである。ただ長期に亘るものに対しては、保護者に、何歳ぐらいまでどのような症状が続き、予後はどうであるのか、どういうスケジュールで治療を進めるのかなど、長期計画を説明し協力をあおぐ必要がある。
 また、近年、耐性菌の存在を中耳炎の難治化の原因として捉える論文が多いが、開業医の臨床では、耐性菌が検出されても、かならずしも難渋せず比較的簡単に治癒する中耳炎や、耐性菌を保有しつつ無症状で経過する中耳炎をしばしば経験する。寺本医院では、肺炎球菌が検出された小児の中耳炎で、PSPの占める比率では0歳は77、8%と、他の年齢層との比較では著しく高く、集団保育との密接な関連が窺われた。しかし0歳の中耳炎は半年後の改善率が高く、1年後には軽快して耐性菌も検出されないことが多い。乳児期から幼児期にかけての免疫能の改善によると思われる。
 更に、勤務医開業医10名にヒアリングを行った。

 1)抗生剤の適応について

 ヒアリングでは全員がAMPCを処方している。しかし抗生剤投与の目的は中耳の細菌を徹底的に根絶することではない。疼痛その他の耳症状がおさまれば耳漏や貯留液は自然に消失することが多いことから、延々と抗生剤を継続投与する必要はないと指摘する意見も多い。演者はウイルス感染が主体と思われる急性中耳炎も多いため抗生剤は必須ではないと考えている。

 2)鼓膜切開術について

 その必然性や適応要件は、ヒアリングでも医師によって意見が多岐に分かれたが、近年鼓膜切開件数が10年前に比べて10分の1以下に減少している現状が明らかにされた。 

3)チューブ留置術の適応

 ヒアリングによればチューブ留置適応件数も年々著しく減少していることが明らかになった。しかし成人するまで遷延する一握りの難治例は依然として減少していないことから、中耳炎の難治例の予後を決定するものは、治療法の優劣よりも小児の体質かもしれない。

(資料が残っていますので、必要な方は塩田までご連絡ください)

(解説)

日本耳科学会、日本小児耳鼻咽喉科学会、日本耳鼻咽喉科感染症研究会が主体となって作成した小児急性中耳炎診療ガイドラインなるものがある。エビデンスに基づいた、小児急性中耳炎に対して推奨される治療法である。
 乳幼児は気道感染症に罹患すると中耳炎を合併しやすい。必然、小児科と耳鼻科の両方で治療を受けることになる。小児科医も小児急性中耳炎診療ガイドラインの内容を知っておく必要がある。

(文責 加藤 文徳)


第467回

日時
平成19年2月14日(水)
症例呈示 「急性硬膜下血腫の一例」 愛媛県立新居浜病院小児科 岡本健太郎
千阪 綾
話題提供 「おしゃぶりと指しゃぶり」 大坪小児科 大坪裕美

1.症例呈示

  急性硬膜下血腫の一例

        愛媛県立新居浜病院小児科 岡本 健太郎、千阪 綾

症例は7ヶ月男児。母子家庭で第2子。家庭環境が複雑で、第1子を祖母が、第2(本児)を母親が養育している。隣室にいた母親が‘ゴン’という音を聞いた。母親が抱き上げたところ、全身けいれんがみられ救急車で来院した。頭部CT検査にて左急性硬膜下血腫と診断し、血腫除去術を施行した。術後、部分けいれんが頻発し、複数の抗けいれん剤の投与を必要とした。現在はけいれんなく、外来にて抗けいれん剤の内服を継続している。 虐待の可能性も考慮しながら、地域の保健師と連絡をとり外来にて慎重に経過を観察している。

(解説)

乳児の急性硬膜下血腫では、疾患に対する治療と合わせ常に虐待の可能性を念頭に置いた対応が求められる。古い皮下出血、打撲の痕跡などがあれば、虐待と考えることは難しいことではない。ただし、これを傷害事件として立証するのは難しい。それで、虐待を疑う殆どの場合は、児童相談所と連携を取りながら再発を防止すべくこどもを見守っていくことになる。ただ残念ながら、児童相談所が介入しているにもかかわらず、不幸な結果を引き起こす例は後を絶たない。虐待が疑われる場合は、事情聴取だけであっても、早い時期から警察が介入することが再発防止には有効であると考える。

2.   話題提供

   おしゃぶり、指しゃぶり

        大坪小児科 大坪 裕美

おしゃぶり、指しゃぶりの幼児に与える影響と対応に関して、小児科および小児歯科検討委員会の統一見解に関して解説した。
  平成17年の調査によると、二歳児でおしゃぶりを使用している幼児は男児6.6%女児6.0%、指しゃぶりは男児20.5%女児27.1%であった。三歳児ではおしゃぶりを使用している幼児が男児0.9%女児1.1%、指しゃぶりは男児17.4%女児24.1%であった。
  これらが咬合に及ぼす影響については、二歳を超えておしゃぶりを使用している幼児では上顎前突、開咬、乳臼歯交叉咬合の発現率が高い。また指しゃぶりでは同様に、上顎前突、開咬、片側性交叉咬合が見られ易い。これに伴い舌突出癖、口呼吸、構音障害が起こりうる。
  対応について、おしゃぶりはできれば当初から使用しないことが望ましい。使用していても、遅くとも二歳半までに中止する。指しゃぶりは、四歳を過ぎて頻繁に続くようなら、小児科、小児歯科、臨床心理士らと相談し積極的に対応する。

(解説)

おしゃぶりを使うことの利点は、泣いているときこれを使うことで泣き止んだり、入眠がスムースになったりなど、育児面での効果である。一方、指しゃぶりは本来生理的な人間の行為であるので、おのずから対応方法は異なる。指しゃぶりは、3歳までは特に禁止する必要はない。指しゃぶりをする幼児に対しては、子供の生活リズムを整え、外遊びや運動でエネルギーを十分に発散させ、手や口を使う機会を増やすようにする。

(文責 加藤 文徳)


第466回

日時
平成19年1月10日(水)
症例呈示 「重症筋無力症の一例」 住友別子病院小児科 加藤文徳
話題提供 抄読:「頑固な咳をする学齢小児の百日咳」 マナベ小児科 真鍋豊彦

1.症例呈示

  重症筋無力症の一例

     住友別子病院小児科 加藤 文徳

 症例は10歳の男児、複視を訴え眼科医院を受診した。原因不明の眼球運動障害として経過観察中であった。2ヵ月後、日内変動を有する眼瞼下垂、嚥下障害、筋力低下で小児科を受診した。理学所見で甲状腺腫を認めた。テンシロンテストが陽性であり、血液検査で抗アセチルコリンレセプター抗体陽性、F-T4上昇TSH低下を認めた。甲状腺機能亢進症を伴う重症筋無力症(全身型)と診断した。抗コリンエステラーゼ剤、ステロイド剤、抗甲状腺剤の内服治療により寛解した。
  小児の重症筋無力症は眼球運動障害、眼瞼下垂などの眼症状で発症することが多く、小児科ではなく眼科を受診することがある。眼科での初期診断が重要と考えられた。

(解説)

 重症筋無力症の好発年齢は一般的に
2030歳であるが、本邦では5歳以下に最大のピークを有する二峰性のパターンをとる。初発症状は眼症状であることが多い。さらにこれらは午前中症状が軽く、午後や夕方になると症状が増悪する日内変動がある。これに注意すれば、重症筋無力症を疑うことは難しいことではない。

2. 話題提供

   抄読:頑固な咳をする学齢小児の百日咳
        
        マナベ小児科 真鍋 豊彦
 
 Whooping cough in school age children with persistent cough:prospective cohort study in primary care

 Anthony Harnden et al:BMJ 2006;333:174-177

目的:頑固な咳をする学齢小児を選び、血清学的に百日咳感染を証明する

調査期間:2001年10月から2005年3月まで

対象:オックスフォードシャー州の一般開業医を受診した患者のうち咳が14日以上続き、血液検査に同意した5〜16歳児172人

調査結果と結論:血清学的に百日咳感染が証明できたのは、64人(37.2%)であった。このうち、55人(85.9%)はワクチン接種ずみであった。
 百日咳感染群は百日咳非感染群に比し、特有の咳、嘔吐、喀痰などの頻度が高かった。また、百日咳感染群は発症後2ヵ月経っても咳が続き、1日に5回以上の咳発作がある頻度なども高く、両親の睡眠障害の原因になっていた。
 米国の調査によると成人の頑固な咳患者の20%は百日咳であったという。百日咳は百日咳罹患やワクチン接種歴があっても終生免疫は得られない。
 頑固な咳が続く場合は、たとえワクチン接種済みであっても百日咳を考慮しなければならない。百日咳が確実に診断できれば、以後の不適切な検査や治療を回避することができる。

当院の症例

 小児科医にとってDPT未接種児の百日咳診断は比較的容易であるが、年長児や成人の場合は難しい。
 昨年4月から8月までに5人の百日咳患者を診断したが、その内、乳児(9ヶ月:ワクチン未接種)は1人で、その他は年長児1人(12歳10月:ワクチン接種済み)、成人3人であった。成人1人は患児の母親で感染源と考えられたが、DPT接種歴不明であった。他の2人(ワクチン接種済み)は頑固な咳を訴え他科で加療中であったが、百日咳の診断は受けていなかった。
 因みに、10年ほど前に新居浜地区で百日咳の小流行があった。
 平成7年5月から平成8年3月までの11ヶ月間に、当院で診断、治療した百日咳患者は30人であった。内訳は、0歳2人、1歳〜2歳未満10人、2歳〜10歳未満8人、10歳から15歳未満8人、成人2人であった。(既報:第337回 平成8年3月27日)

(解説)

百日咳は小児だけの疾患ではない。また、百日咳であっても典型的な痙咳発作や白血球増加を認めない症例も多い。DTP既接種の事実は百日咳を否定する根拠にはならない。小児であれ成人であれ、長引く咳の患者に接したときに百日咳を疑うことが、診断への第一歩である。一般臨床の場での百日咳診断は、百日咳凝集素価(東浜株、山口株)の測定による。文献上、DTP未接種者では山口株凝集素価10倍以上、DTP接種者では1)単血清で山口株凝集素価320倍以上、2)単血清で山口株/東浜株比が4倍以上、3)ペア血清で山口株凝集素価が4倍以上上昇、が診断の基準となる。

(参考文献:千葉県君津郡市で流行した百日咳症例の臨床的検討、小児感染免疫;183773832006

(文責 加藤 文徳)


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