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第3部 <曲目紹介>


▼組曲「動物の謝肉祭」から
「序奏と堂々たるライオンの行進」「象」「水族館」「化石」「白鳥」「終曲」(サン・サーンス作曲)

 フランス音楽を形容するのに、エスプリ〔esprit〕という語がしばしば用いられる。これは精神、才気、粋といった意味であるが、サン=サーンスの『動物の謝肉祭』はまさにそうした精神に溢れている。
  この作品は、サン=サーンスの作品の中でも、最も気楽に作られたものであり、民謡、自作曲、先人の作品などさまざまなメロディがごく自然に引用されている。そのことは、芸術性を低めるどころか、この曲の自由気ままな魅力をさらに強調している。
  全曲は14曲からなる組曲だが、本日はその中から6曲を演奏する。
   1、序奏と堂々たるライオンの行進
      ファンタジーの世界の入口のような序奏。そのトンネルを抜けると、ファンファーレに導      かれた百獣の王ライオンの行進に出くわす。途中、ライオンの鳴き声を描かれる。
   5、象 
       象がその巨体には最も不釣り合いであろう、ワルツを踊る。必死に軽やかに踊ろうと      するが、ぎこちなく何ともコミカルだ。
   7、水族館
       水族館とはいうものの、作曲者のそれにはイルカやジンベエザメは不在のようだ。そ      こにいるのは、ギラギラと不気味な光を放つクラゲや深海魚といったところだろうか…。
   12、化石
       果たして動物なのだろうか?この曲で描かれるのは、音楽の化石だ。大胆不敵にも      作曲者にとっては、ロッシーニのアリアも、民謡『きらきら星』も、すでに過去の遺物であ      るようだ。
   13、白鳥
       この組曲で最も音楽的発想が豊かな作品。ピアノが湖の穏やかな波紋を描き、一羽      の白鳥がその中を優雅に泳いでいく。作曲者がこの組曲の中で、生前の公開演奏を許      した唯一の作品。
   14、終曲
       なんとも賑やかな一曲である。ロバ、カンガルー、にわとりなどさまざまな動物が顔を       のぞかせ、祭りにさらに華をそえる。最後はすべての動物が入り乱れユーモアに溢れ       た一大ファンタジーは幕を閉じる。


▼「カヴァレリア・ルスティカーナ」間奏曲          (マスカーニ作曲)
   1888年、マスカーニはオペラのコンクールで第1位を受賞したことで一躍有名になりました。「カヴァレリア・ルスティカーナ」はその受賞作品です。今回は、もっとも有名である間奏曲をお届けします。
   次の「ラ・ボエーム」が純愛オペラだとしたら、「カヴァレリア〜」は三角関係でドロドロ。ラストのシーンは決闘と、まさに昼ドラです。
   しかしこの間奏曲には、そのようなストーリーを一切感じさせません。心が洗われるような旋律は1度聴いたら病みつきになること間違いなしです。

▼「ラ・ボエーム」第2幕 クリスマス・シーン       (プッチーニ 作曲)
  「トスカ」、「蝶々夫人」、「トゥーランドット」と並んでプッチーニの四大傑作オペラとして知られているのが、この「ラ・ボエーム」です。
   オペラの舞台は1830年ごろのパリ。偶然同じアパートに住んでいた、詩人のロドルフォとお針子のミミ。2人は恋に落ちますが、ミミは肺の病気を患っています。そのため2人は本心からではない別れと、その後の再会を経て、最後は恋人の傍らで、ミミは亡くなってしまうという悲劇です。
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   第2幕のクリスマス・シーンはロドルフォとミミが街に出かけてクリスマスを満喫します。プレゼントを買ったり、食事をしたり…。2人の幸せな様子がきっとあなたの目にも映るはずです。嫉妬しないでね。
▼ボレロ                          (ラヴェル 作曲)
 モーリス ラヴェル(1875〜1937)は『ダフニスとクロエ』、『クープランの墓』など色彩感豊かなオーケストラ曲を数々発表し、《管弦楽の魔術師》と称された作曲家である。 この『ボレロ』もその例に漏れず、18世紀スペインで起こったボレロという三拍子の舞踊をベースにしながら、音楽史上稀にみる、独創的な作品になっている。
 そもそも西洋音楽は、提示したモチーフや主題をもとに、それを変形、展開し、あたかも建造物のように構築していくことにその美意識を見いだしていた。ところが、この『ボレロ』は、旋律、和声、リズム、テンポはすべて不変であり、ただひとつ変化するのは、始めから終わりまで伸びる一つの大きなクレッシェンドのみである。このような大胆は着想に踏み切ったのは、形式化された西洋音楽へのアンチテーゼと捉えることもできるが、何よりもラヴェル自身の「オーケストレーションのみで一曲完成させることができる。」という自信の表れだったのだろう。
 今回演奏する吹奏楽版は、そのような楽曲の性格上、弦楽器群が無いことに物足りなさを感じられるかもしれない。しかし原曲とは一味ちがう、吹奏楽ならではの『ボレロ』として、今日の演奏をお聞き頂きたい。



「ボレロ」について

ボレロはとってもおもしろい曲です。はじめは小太鼓がこの曲全体の基本となるリズムを叩きます。そしてフルートのソロ。ここでメロディー1がでてきます。次にクラリネット。3番目はバスーン。これがメロディー2です。そして順番にE♭クラリネット、オーボエ・ダモーレ、フルート&トランペット、テナーサックス、ソプラノサックス、ピッコロ&ホルン&鍵盤打楽器、木管楽器群、トロンボーン、木管楽器群、木管楽器群、木管楽器群、フルート&オーボエ&トランペット、木管楽器群&トロンボーン、フルート&サックス&ピッコロトランペット&トランペット、フルート&サックス&ピッコロトランペット&トランペット&トロンボーンと同じメロディーを繰り返しながらだんだんと楽器が増えていき、340小節の曲が少しずつ変化していきます。大きく曲が変化するのは327小節目。ここで初めて転調し、フルート&サックス&ピッコロトランペット&トランペット&トロンボーンによるメロディー3が出てきます。そして怒濤のクライマックスを迎えます。
 映画「交渉人 真下正義」で、ボレロのコンサートのシーンがあります。シンバルを使った緊張感あふれる場面ですが、劇中で描かれている最後の最後に一発だけ鳴るシンバル。それにひきかえ小太鼓は最初から最後まで叩きっぱなし。ひじょうに疲れるのです。
 同じリズム、同じメロディを繰り返しながらいかに曲に表情をつけられるか、音萌のボレロに注目です。
 ちなみに冒頭がよく似ている水戸黄門もテーマソング「ああ人生に涙あり」は4拍子。ボレロは3拍子です。そんなに長くない曲なので、指揮者気分で三角形を340回空中に描いてみてはいかがでしょう。