前立腺がん関連ーその8ー

 (Medical Tribuneなどから)
(2011年1月~)


前立腺がん小線源療法による2次発がん増加は見られない[2011年12月22日(VOL.44 NO.51)]

 前立腺がんに対する小線源療法(ブラキ療法)に2次発がんのリスク上昇は見られないと,オランダのグループがJournal of Clinical Oncologyの12月1日号に発表した。
 同グループは,前立腺がんに対してヨウ素125による小線源療法を受けた1,187例の2次原発がんのリスクを,前立腺摘出術を受けた701例および一般集団と比較した。中央値7.5年の追跡による2次発がんは223例だった(小線源療法群136例,前立腺摘出術群87例)。
 すべてのがん,膀胱がん,直腸がんの標準化発症比(SIR)は小線源療法群が0.94,1.69,0.90,前立腺摘出術群が1.04,1.82,1.50で,両群間に統計学的有意差はなかった。また,95%信頼区間下限はすべて1.0未満で,一般集団における発がんリスクとの差もなかった。


第22回日本性機能学会 前立腺全摘術(RP)後に性機能、性的欲求が低下[2011年12月1日(VOL.44 NO.48)]

 東北大学大学院外科病態学講座泌尿器科学分野の並木俊一氏は,RP単独療法による性的欲求(sexual desire;SD)への影響,および性機能(sexual function;SF)や性負担感(sexual bother;SB)の変化を前向きに調査した。その結果,「RP後はSFだけでなくSDも低下し,5年経過後も回復していなかった。その一方で,術前にはSDなしであったにもかかわらず,術後にはSDありとなる患者群の存在も明らかになった」と倉敷市で開かれた第22回日本性機能学会(会長=川崎医科大学泌尿器科学教室・永井敦教授)で報告した。

SDあり群のSBは術後上昇

 対象は2002~05年にRP単独療法を施行した244例で,術前から術後60カ月までのSD,SF,SBの変化をUCLA PCI調査票を用いて検討した。回答率は全調査期間を通じて95%以上であった。検討に際しては,術前のSDの有無により患者をSDあり群(127例)とSDなし群(117例)に分けて比較した。患者背景で,両群間で有意差が認められたのは,手術における神経温存の割合と術後のPDF-5阻害薬内服の割合で,いずれもSDあり群の方が高かった。
 まず,SDの経時的変化を見ると,術後はSDなしの割合が約70%に増え,特に術前SDあり群では約半数が術後にSDが消失し,術後5年が経過しても改善が認められなかった。その一方で,術前SDなし群の約2割が,術後にはSDありと回答していた。並木氏は「RP前後のSDを検討した欧米の研究では術後のSDの上昇は報告されておらず,これは欧米との性に対する受け止め方の違いを示すものかもしれない」とコメントした。
 次に,術前SDの有無でSFとSBの変化を検討したところ,術後のSFは両群とも有意に低下したが,術前SDあり群の方が術前後を通して高い傾向にあった。しかし術後のスコアの低下率は述前SDあり群の方が大きかった。一方,術後のSBスコアは術前SDあり群の方が低く推移する(SBは高い)傾向にあり,術前SDなし・術後SDありの症例でも同様の傾向が認められた。
 最後に,術後2年間のSFとSBの回復に有用な因子を重回帰分析により検討したところ,SFでは神経温存,PDE-5阻害薬内服,術前のSFが,SBでは術前SBが有意な因子だった。


第22回日本性機能学会~前立腺全摘術後の陰茎リハビリテーショ~患者の約半数が希望[2011年12月1日(VOL.44 NO.48)]

 前立腺全摘術(RP)後の勃起機能回復を目的とする陰茎リハビリテーション(以下リハビリ)という概念が登場しているが,術後勃起障害(ED)は患者からは訴えにくい問題でもある。そこで,筑波大学臨床医学系泌尿器科の末富崇弘講師は,患者が望む最善の治療選択肢を考察すべく患者アンケートを実施。患者の約半数が陰茎リハビリを希望している実態を,倉敷市で開かれた第22回日本性機能学会(会長=川崎医科大学泌尿器科学教室・永井敦教授)で紹介した。

2割が「予想以上に深刻」と回答

 対象は,筑波大学とその関連施設2施設で2009~10年の2年間にRPを施行した153例。方法は郵送法による自己記入式とし,国際勃起機能スコア(IIEF)のEF domain score(IIEF-EF),治療希望の有無や問題点などに関するオリジナルの質問票を使用した。
 アンケート回収率は74.5%。解析対象は114例(年齢50~76歳,中央値68歳)。術後期間の中央値は17カ月で,神経温存は片側21例,両側8例であった。
 術前には約8割が,EDについても「考えたが治療優先」と考えていた。しかし,術後はEDについて「生活に支障なし」,「予想通り」が全体の約4分の3を占めていた一方で「予想以上に深刻」との回答が約2割あり,術後ED治療に関する医療者側からの積極的な働きかけの必要性を示唆していた。
 陰茎リハビリを希望するとの回答は47.4%で,リハビリ希望群では神経温存の割合,術後IIEF-EFスコアがともに高い傾向にあった。試みたい治療法を,現在施行不可能な方法も含めて尋ねたところ,大半が内服剤や塗布剤の使用を希望し,尿道内注入や注射を含む侵襲的治療を回避する傾向にあった()。陰茎リハビリの問題点としてはコストの高さ,治療に伴う疼痛,インターネットでの治療薬購入は困難などが挙げられた。
 末富講師は「対象症例のうち実際に陰茎リハビリ施行中はわずか2例にすぎず,術後陰茎リハビリという概念を広く浸透させる必要がある」と提言した。


前立腺がん治療後の勃起機能予測モデルを開発 2年後の予測に有効[2011年12月1日(VOL.44)]

 ベス・イスラエル・ディーコネス医療センターとハーバード大学(ともにボストン)のMehrdad Alemozaffar博士らは,前立腺がん患者の治療前の性機能,患者背景,治療因子などの変数を加味した予測モデルを開発。前立腺摘除術,体外照射療法,小線源療法などによる治療から2年後の勃起機能の予測に有効であることが確認されたとJAMA(2011; 306: 1205-1214)に発表した。

外部妥当性をコホートデータで検証

 早期の前立腺がん患者の大半は治療後も生存するため,健康関連QOL(HRQOL)にかかわるアウトカムが,治療決定における重要な要因として注目されている。勃起障害は前立腺がんの治療後に現れることが少なくなく,HRQOLに重大な影響を及ぼす。前立腺がんの治療によって一般的に障害される排尿,排便,生命力,性機能にかかわるHRQOLのうち,治療前に性機能を維持していた男性にとって,性機能は最も障害を受けやすい機能で,アウトカムの満足度と強く関係する。しかし,治療前の患者背景と治療因子の組み合わせが,個々の患者の性機能アウトカムとどのように関連しているのかについては,これまで情報が不足していた。
 そこでAlemozaffar博士らは,早期前立腺がんに対する一般的な治療後の患者の性機能アウトカムを,ベースラインの患者背景と治療計画を基に正しく予測できるかどうか検討する研究を実施。治療前の患者背景や性機能のHRQOL,治療内容の詳細などに関する情報を学術研究の多施設コホート(登録は2003~06年)から入手し,治療から2年後の勃起機能を予測するモデルを開発した。そして,同モデルの外部妥当性を1995~2007年に登録された住民ベースのコホートであるCaPSUREのデータで検証。米国の学術研究と住民ベースのコホート集団が治療前にHRQOLを評価され(1,201例),前立腺摘除術,体外照射療法,小線源療法後の追跡調査を実施した。2年の追跡調査を完了した1,027例の性機能アウトカムを活用して勃起機能予測モデルを作成し,その外部妥当性を,住民ベースのコホート1,913例を対象に検証した。

機能維持率を10%以下~70%以上の範囲で予測

 検討の結果,治療から2年経過した時点で,1次治療として前立腺摘除術を受けた511例中177例(35%),体外照射療法を受けた229例中84例(37%),小線源療法を受けた247例中107例(43%)が,性交を行うのに十分な勃起機能を維持していると報告した。
 また,治療前の性機能HRQOLスコア,年齢,血清前立腺特異抗原(PSA)値,民族/人種,BMI,施行した治療法などが,2年後の勃起機能と関連していた。勃起機能を予測する多変量ロジスティック回帰分析モデルでは,患者背景や治療法により,2年後に勃起機能を維持できる確率を10%以下~70%以上の範囲で予測でき,CaPSUREコホートの患者を対象とした外的検証において,勃起機能を予測できることが確認された。
 Alemozaffar博士らは「今回,治療前の性機能,患者背景,治療法を基に,早期前立腺がん患者の前立腺摘除術,体外照射療法,小線源療法後の勃起機能の回復を予測できる臨床的に応用可能なモデルを開発した。住民ベースのコホートでは外部妥当性の検証によって,この予測モデルによる知見が一般化でき,前立腺がんの1次治療後の勃起機能に関して,患者個々の期待値を設定するのに有用であることが示唆された」と結論している。

意思決定に患者の参加が重要

 マサチューセッツ総合病院(ボストン)のMichael J. Barry博士は,同誌の付随論評(2011; 306: 1258-1259)で,主観的現象に関する客観的測定値をルーチンに収集することを,最適なアウトカム予測を得るための研究にとどめることなく,日常診療の一部とする必要があると強調している。
 同博士は「さらに重要なことは,患者に選択肢を伝え,意思決定に参加させる良い方法を見いだし広めることである。重要な選択肢やアウトカムに関するすべてのデータは,意思決定に直面するさまざまな男性にとって有用なものとなるよう統合する必要がある。採用した治療選択肢によりアウトカムが大きく左右される疾患に対して,意思決定プロセスを支援する患者用意思決定ツールのランダム化比較試験をメタアナリシスした結果,これらのツールを使用することによって意思決定の質が改善されることが示されている。運命を決定するような大きな意思決定においては,それを支援する医療従事者が必要かもしれない」とコメントしている。


前立腺摘除術中のトラネキサム酸投与で輸血の必要が減少[2011年11月17日(VOL.44 NO.46)]

 前立腺がんに対する前立腺摘除術中に止血薬のトラネキサム酸を投与することで輸血の必要が大幅に減少することを示す試験結果が,イタリアのグループによりBMJの10月29日号に発表された。
 同グループは,根治的恥骨後式前立腺摘除術を施行する前立腺がん患者200例を対象に,術中の低用量トラネキサム酸投与の輸血率への影響を検討した。100例をトラネキサム酸投与群,100例をプラセボ(生理食塩水)投与群にランダムに割り付けた。トラネキサム酸は術前20分間の負荷用量を500mgとし,術中は250mg/時間で持続点滴した。
 全例が治療を終了した。その結果,輸血を必要とした患者はトラネキサム酸群34例(34%),コントロール群55例(55%)で,トラネキサム酸群の輸血の絶対減少は21%,相対リスクは0.62,輸血を1例防ぐための治療必要例数は5例だった。
 術後6カ月間の追跡で死亡例はなく,両群の血栓塞栓イベント発症に差はなかった。
Crescenti A, et al. BMJ 2011; 343: d5701.

前立腺がん 2種のバイオマーカー併用で予測制度向上[2011年11月3日(VOL.44 NO.44)]

 ミシガン大学(アナーバー)ミシガントランスレーショナル病理学センター所長で同大学病理学のArul M. Chinnaiyan教授らは,前立腺がんの早期発見と治療決定に役立つ2種のバイオマーカーを用いた新たな尿検査法を開発したとScience Translational Medicine(2011; 3: 94ra72)に発表した。

TMPRSS2:ERGとPCA3を検査

 この検査法は,前立腺特異抗原(PSA)上昇に基づくスクリーニング結果を補助するもので,一部の患者で前立腺針生検を遅らせたり,回避可能にする一方で,臨床的に重要な前立腺がんリスクが最も高い患者の同定に役立つ可能性がある。
 前立腺がん全体の約半数に,2つの遺伝子が融合したTMPRSS2:ERGという異常が認められ,これが前立腺がん発症に関与していると考えられている。ただし,前立腺組織に関する複数の研究により,この融合遺伝子が認められれば,前立腺がんがほぼ100%存在するが,この融合遺伝子は高グレードの前立腺上皮内腫瘍組織の15%からしか検出されない。そこで,研究責任者でハワードヒューズ医学研究所(HHMI,アナーバー)の研究員でもあるChinnaiyan教授らは,TMPRSS2:ERGとは別の前立腺がん遺伝子マーカーであるPCA3の両者を検出する検査法を開発。これにより各マーカー単独と比べ,がんの予測精度が向上した。
 筆頭研究者で同大学保健システム病理学の研修医,Scott A. Tomlins博士は「TMPRSS2:ERGとPCA3を検査することにより,前立腺がんの予測能は有意に改善される。この検査法は,PSA値が高い男性に生検が必要か,それとも生検を遅らせて引き続きPSA値と両マーカーを監視すべきかを判断する際に役立つツールになると考えている」と述べている。

生検前の中間検査として有用

 今回の研究では,3教育医療施設と7地域病院で,PSA値が高い男性1,312例の尿検体を採取して,TMPRSS2:ERGとPCA3を検査した。そのスコアから前立腺がんリスクを低,中等度,高に層別化した。その後,全例に生検を行い,その結果を尿検査結果と比較した。一部の患者は,さらに前立腺摘出術を行った。
 生検によってがんが発見されたのは,尿検査結果が低,中等度,高スコアの群のそれぞれ21%,43%,69%であった。尿検査スコアとがんの悪性度(腫瘍径と組織学的な細胞異常の尺度であるGleasonスコアにより評価)との間に相関が認められた。低スコア群で悪性腫瘍が見つかったのは7%のみであったが,高スコア群では40%であった。
 Chinnaiyan教授は「PSA値が高い男性は,実際にがんである男性よりも多く,生検をせずにがんであるか否かを判断するのは困難な場合がある。今回の検査はその点において有用で,生検を施行する前の中間検査となることが期待される」と述べている。
 前立腺の針生検は,患者にとっては不快でリスクを伴う検査である。さらに,生検では前立腺全体からランダムに組織を採取するため,生検を行っても確実に全体を把握できるわけではない。
 TMPRSS2:ERGとPCA3の併用検査は,まだ前立腺がんスクリーニングツールとして臨床利用できないが,同トランスレーショナル病理学センターは同技術のライセンスを持つGen-Probe社とともに製品化を進めており,2011年内に同大学の患者への提供を見込んでいる。現在,同大学ではPSA値が高い男性に対して,PCA3単独による追加スクリーニングを実施している。


短期アンドロゲン除去療法と放射線療法の併用 中等度リスクの早期前立腺がんで生命予後改善[2011年10月20日(VOL.44 NO.42)]

 サクラメント放射線協会(カリフォルニア州サクラメント)のChristopher U. Jones博士らの放射線治療腫瘍学グループ(RTOG)は「早期前立腺がん患者に短期間ホルモン療法と放射線療法を併用することにより,放射線療法単独と比べ生存期間が延長した」との研究結果をNew England Journal of MedicineNEJM,2011; 365: 107-118)に発表した。ただし,併用療法の恩恵は中等度リスクのがんに限定され,低リスクがんでは認められなかった。

10年全生存は併用群で改善

 今回の研究はこの種のランダム化比較試験としては最大規模で,米国とカナダの212施設で低~中等度リスクの前立腺がん男性約2,000例を登録して,放射線療法単独群と放射線療法/短期アンドロゲン除去療法(ADT)併用群にランダムに割り付け,治療後9.1年(中央値)にわたり健康状態を追跡した。登録患者は全例が転移のない限局性前立腺がんで,血清前立腺特異抗原(PSA)値は20ng/mL以下であった。血液検査と骨スキャンの結果は正常で,PSA値が20ng/mL以下の場合,がんのリスクが低~中等度であることを示している。ADTでは,前立腺がんの増殖を促進するホルモンである内因性テストステロンの作用を薬剤を用いて強力に低下させる。
 解析では,両治療で生存期間が延長されるか否かを比較検討するだけでなく,前立腺がん死や他の原因による死亡,遠隔転移などのアウトカムに関する群間比較も行った。さらに,低リスクのがん群と中等度リスクのがん群に分けて結果を分析した。リスク評価には,Gleasonスコア(生検により採取された組織標本を1人の病理医が分析したがんのグレード分け),PSA値,臨床病期など複数の評価基準を用いた。中等度リスクの男性では,GleasonスコアとPSA値,臨床病期がいずれも低リスク男性と比べ高かった。
 解析の結果,10年全生存率は,放射線療法単独群と比べて短期ADT+放射線療法併用群で有意に高かった(57%対62%)。また,前立腺がんの疾患特異的死亡率は放射線療法単独群よりも短期ADT+放射線療法併用群の方が低かった(8%対4%)。
 筆頭研究者のJones博士は「今回の研究から,早期前立腺がん患者のうち短期ADTから恩恵が得られる患者群に関して強力な科学的エビデンスが得られた。このことは医療資源の最適な利用と日常診療の改善の両面において重要である」と述べている。

人種間でADTの便益に差なし

 アフリカ系米国人の前立腺がん発症率は,他の人種・民族集団と比べて高い。今回の試験では約400例のアフリカ系米国人を組み入れ,人種別のサブグループ解析も行った。10年全生存率と疾患特異的死亡率,ADTによるPSA値低下後の再上昇に関して短期ADTから受ける便益は,白人とアフリカ系米国人で同等であった。今回の研究は少数派人種を多数登録しており,今後も異なる集団に対して同併用療法が与える影響を詳細に解析することが可能だとしている。
 低リスク前立腺がん男性では,短期ADTによる10年全生存率の改善と疾患特異的死亡率の低下は,ほとんど見られなかった。低リスクがん患者に対する恩恵を確認するには,さらに長期の追跡が必要かもしれない。しかし,短期ADTが火照りや勃起不全の増悪など患者のQOLに重大な影響を与えること,放射線療法単独群における低リスクがん男性の疾患特異的10年死亡率が1%であったことを考慮すれば,今回の知見は低リスク前立腺がん患者に対する短期ADTの追加を支持していない。また,新たな高線量放射線療法により,低リスク患者へのADT適用の必要性も低下している。
 米国立衛生研究所(NIH)の一部である米国立がん研究所(NCI)がん治療評価プログラムのJeff Abrams副主任は「この種の試験は,単独療法と併用療法のいずれで有効性が高いかを証明する際のゴールドスタンダードで,NCIは将来,この種の試験をさらに実施していく予定である。臨床試験に十分な患者を登録するのは常に困難を伴うが,今回の知見は多くの前立腺がん患者に恩恵をもたらす重要なものと考えている」と述べている。
 今回の研究は,NCIの助成を受けた。


骨転移を有する去勢抵抗性前立腺がん 放射性医薬品が予後を有意に改善[2011年10月13日(VOL.44 NO.41]

 The 2011 European Multidisciplinary Cancer Congress(EMCC2011)が,9月23~27日の5日間にわたり当地で開催された。第16回欧州がん学会(ECCO),第36回欧州臨床腫瘍学会(ESMO),第30回欧州放射線腫瘍学会(ESTRO)の合同による欧州最大のがん領域の同学会における注目演題のトップ(LBA1)には,骨転移を有する去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)に対する新たな放射性医薬品alpharadin™(塩化ラジウム223)の効果を検証した国際二重盲検ランダム化臨床第Ⅲ相試験(ALSYMPCA)に関する演題が選ばれた。王立マースデン病院(ロンドン)のChris Parker氏が報告した。

試験途中で高い有効性を確認

 骨転移は,進行性CRPCの90%以上に認められるとされる。alpharadinは,α線を放出する塩化ラジウム223を用いた放射性医薬品で,体内カルシウムと類似した作用を持つため,骨転移巣に集まりやすい。骨転移した腫瘍細胞に選択的に集まった塩化ラジウム223がα線を放出することで,微細な腫瘍細胞に局所的なダメージを与える。
 ALSYMPCA(ALpharadin in SYMptomatic Prostate CAncer)では,2個以上の骨転移巣が認められ,他臓器への転移は認められないCRPC(ドセタキセル投与後,投与前のいずれの症例も含む)が対象とされた。19カ国から922例が登録され,標準治療に加えてalpharadin 50kBq/kgを投与する群(alpharadin群)と,標準治療とプラセボの併用投与の群(プラセボ群)に2対1にランダムに割り付けられた。6回投与を4週ごとに実施し,1次評価項目は全生存期間(OS),2次評価項目は骨関連事象(SRE)発症およびアルカリホスファターゼ(ALP)と前立腺特異抗原(PSA)の増悪までの時間やALPの変化,安全性,QOLなどとされた。
 その結果,同薬の有効性は試験途中で確認されたとして,独立データモニタリング委員会(IDMC)の勧告により今年6月3日に中断。今回は,中間解析の809例(alpharadin群541例,プラセボ群268例)の解析結果が示された。両群の患者背景は同等で,alpharadin群,プラセボ群の平均年齢はそれぞれ70.2歳,70.7歳,登録時のPS(ECOG分類スコア)1以下が86%,85%,転移巣6個未満が16%,12%,転移巣6~20個が44%,48%,転移巣21個以上が40%,40%だった。

全生存期間を2.8カ月延長

 OS中央値の結果はプラセボ群11.2カ月に対し,alpharadin群で14.0カ月と有意な延長を示した〔ハザード比(HR)0.695,95%信頼区間(CI)0.552~0.875,P=0.00185〕。SRE発症までの期間も,プラセボ群8.4カ月に対し,alpharadin群では13.6カ月と有意な延長を示した(HR 0.610,95%CI 0.461~0.807,P=0.00046)。
 また,骨転移が生じると上昇するALPの変化については,30%の減少がプラセボ群の3%に対し,alpharadin群では43%と高率に認められた(P<0.001)。ALPとPSAの増悪までの時間も,HRがそれぞれ0.163(95%CI 0.121~0.221),0.671(同0.546~0.826)とalpharadin群で有意に良好だった。

 さらにALP値,登録時のPS,ビスホスホネート製剤使用の有無,ドセタキセル投与歴の有無によるサブグループ解析では,いずれのサブグループでも,alpharadin群のプラセボ群に対する優位性が認められた。

新たな標準治療となりうる可能性も

 有害事象については,グレード3/4の有害事象がalpharadin群で51%,プラセボ群で59%に認められ,有害事象による投与中止例はそれぞれ13%,20%だった。血液学的有害事象は,グレード3/4の貧血がalpharadin群で11%,プラセボ群で12%に認められるなど,両群でほぼ同様だった。非血液学的毒性についても,グレード3/4の骨痛はプラセボ群の23%に対し,alpharadin群では18%であったなど,同薬による特別な有害事象は認められなかった。
 これらの結果からParker氏は,自身の見解であるがと前置きをした上で,「alpharadinは骨転移を有するCRPCの新たな標準治療となりうる可能性がある」と報告した。

予後改善の効果を示唆した初めての放射性医薬品

 同報告を受け,ディスカッサントでラートボウト大学ナイメーヘン医療センター(オランダ・ナイメーヘン)のWim J. G. Oyen氏は「従来の放射性医薬品はすべて骨転移によるがん性疼痛を緩和するものだったが,alpharadinは予後改善の効果を示唆した初めての放射性医薬品である」と評価。α線はβ線に比べて半減期が短く,細胞の中ではごく短い距離しか飛ばない。そのため,その間に大きなエネルギーで細胞のごく局所的にダメージを与え,副作用も少ないと考えられる。
 同試験でも同薬の毒性が低かったことを評価し,同氏は「今後は他の化学療法との併用や術後補助療法,維持療法などに関する検討も期待される」と指摘した。


前立腺がんPSA再発後の救済放射線療法はPSA倍化時間に関係なく有効[2011年9月8日(VOL.44 NO.36]

 根治的前立腺摘除術(RP)を受けた前立腺がん患者の前立腺特異抗原(PSA)値上昇による生化学的再発(PSA再発)に対するサルベージ放射線療法(救済RT)は,PSA倍化時間(PSA DT)に関係なく死亡リスクを低下させると,米デューク大学などのグループがCancerの9月1日号に発表した。
 RP後にPSA再発が認められたPSA DT6カ月未満の患者では,救済RTによる生存ベネフィットが観察されている。同グループは,PSA DTが6カ月以上の患者でも同様のベネフィットが見られるかどうか検討した。
 対象は,1988〜2008年に同大学でRPを施行した前立腺がん患者4,036例のうち,PSA再発が認められた519例。PSA再発時の年齢,前立腺がんの予後因子,循環器系併存症を補正し,PSA DT6カ月未満と6カ月以上の患者に対する救済RTと全死亡との関係を調べた。
 PSA再発後の中央値11.3年の追跡で195例が死亡した。解析の結果,救済RT非施行群と比べ施行群ではPSA DTの期間に関係なく全死亡の有意な減少が認められ,PSA DT6カ月未満と6カ月以上の患者のハザード比は0.53(P=0.02)と0.52(P=0.003)であった。再発時に併存症があった患者でも,救済RTによる生存ベネフィットが観察された。


前立腺がん診断時に喫煙していた男性で死亡リスク高い[2011年8月25日(VOL.44 NO.34]

 ハーバード大学公衆衛生学部(ボストン)のStacey A. Kenfield博士らは「前立腺がん診断時に喫煙していた男性では全死亡,心血管死,前立腺がん特異的死亡リスク,前立腺がん再発リスクが高い」との研究結果をJAMA(2011; 305: 2548-2555)に発表した。

10年禁煙で非喫煙者と同等に

 Kenfield博士らは,Health Professionals Follow-Up Studyの登録者のうち1986~2006年に前立腺がんと診断された男性5,366例を対象に紙巻きたばこの喫煙と禁煙の実行,全死亡,前立腺がん特異的死亡,心血管死,前立腺がんの生化学的再発との関連を検討する研究を実施した。

 対象者のうち計1,630例が死亡し,うち524例(32%)が前立腺がん死,416例(26%)が心血管死であった。生化学的再発を来したのは878例(54%)であった。解析の結果,診断時に喫煙していた男性では喫煙歴が全くない男性と比べ前立腺がん死,心血管疾患死,全死亡,生化学的再発リスクのいずれも高かった。総喫煙量(pack-years)の多さは,前立腺がん死,心血管死,全死亡の増大と相関していたが,生化学的再発とは相関していなかった。一方,10年以上禁煙を続けていた男性の前立腺がん死リスクは,喫煙歴が全くない男性と同等であった。

因果関係には複数の説

 Kenfield博士は「たばこの煙に含まれる発がん物質による腫瘍促進や,一部の喫煙者における血中総テストステロン値と遊離テストステロン値の上昇など,前立腺がんの進行に対する喫煙の直接的影響は生物学的に説明できそうである。また,用量依存的な関係や,現在の喫煙者におけるDNAの異常なメチル化(悪性疾患と相関する因子)などの後成的変化,ニコチンによる血管新生,毛細血管増殖,腫瘍の増殖などを指摘している研究もある」とコメントしている。

 同博士は「これらの結果をまとめると,前立腺がん診断時の喫煙は全死亡と前立腺がん死,前立腺がん再発の著明な増大と相関しているといえるが,10年間禁煙した男性では喫煙歴のない男性とリスクが同等になる。今回の知見は,喫煙は前立腺がん死リスクを高める可能性があるという従来の報告を追認するものである」と結論付けている。


~前立腺手術後の尿失禁~1対1の骨盤底筋訓練に優越性認めず[2011年8月25日(VOL.44 NO.34]

 前立腺切除の直後には尿失禁がよく見られるが,アバディーン大学(アバディーン)のCathryn Glazener教授らは「前立腺手術を受けた男性を対象に,1対1の骨盤底筋訓練を実施しても,生活習慣に関する簡単な助言と小冊子を与えるだけの標準ケアを上回る効果は得られなかった」とLancet(2011; 378: 328-337)に発表した。

12カ月時点の失禁率に有意差なし

 Glazener教授らは今回,前立腺切除後6週間の時点で失禁が認められた英国の男性を対象に,2件のランダム化比較試験を実施。一方の試験(試験1)は,前立腺がんで根治的前立腺摘除術(RP)を受けた男性,もう一方(試験2)は,前立腺肥大で経尿道的前立腺摘除(TURP)を受けた男性を対象とし,理学療法士による3カ月間4回の骨盤底筋訓練セッション(介入群)と,助言と小冊子のみの標準ケア(対照群)を比較した。

 解析の結果,試験1における12カ月時点の失禁率は,介入群76%,対照群77%と有意差は認められなかった。試験2でも,両群の12カ月時点の失禁率に有意差はなかった(65%対62%)。介入群の患者1人当たりの平均費用は対照群と比べて試験1で180ポンド,試験2で209ポンド高くなったが,コストに見合った質調整年(QALY)の改善は認められなかった。

 同教授らは「骨盤底筋訓練に関する情報が容易に入手できる状況では,RPやTURP後に尿失禁のある男性に1対1の保守的な理学療法を提供しても,高い有効性や費用効果が得られる可能性は低いと考えられる。そのようなサービスに割り当てる資源があるなら,別の用途に回した方がよいかもしれない。今後,RP後に重度の尿失禁が持続する多くの男性のために,どのような管理を行うのが最適か,特に手術の場合の場所については研究が必要である。同様に,TURP後に尿失禁が持続する男性の最適な管理法についても研究が必要である」と結論付けている。


~前立腺がん~スクリーニングの便益認められず~[2011年7月21日(VOL.44 NO.29]

 カロリンスカ研究所(スウェーデン・ストックホルム)のGabriel Sandblom准教授らは,前立腺がんスクリーニングにより前立腺がんによる死亡が低減するか否かについてランダム化比較試験(RCT)で検討。20年間の追跡の結果,スクリーニングの受検者と非受検者で前立腺がんの死亡率に有意差は認められなかった。詳細はBMJ(2011; 342: d1539)に発表された。

受検の有無で死亡に有意差なし

 前立腺がんは世界的に男性で最も多いがんの一種で,多くの国で広範にスクリーニングが実施されている。しかし,その便益が過剰な診断や治療によるリスクおよびコストを上回るか否かについては一致した見解が得られていない。
 Sandblom准教授らは今回,1987年にスウェーデンのノルチェピング市に居住していた50~69歳の全男性9,026例を対象にRCTを行った。対象のうち,出生データリストから6番目ごとに抽出した1,494例をスクリーニング群に,残りの7,532例を対照群に割り付けた。
 スクリーニング群では1987~96年に3年ごとにスクリーニングを実施。1・2回目(87年と90年)は直腸診のみとし,3・4回目(93年と96年)には前立腺特異抗原(PSA)の測定も行った(カットオフ値4μg/L)。4回目の受検者は試験登録時に69歳以下であった男性のみとした。受検率はそれぞれ78%(1,161/1,492例),70%(957/1,363例),74%(895/1,210例),74%(446/606例)であった。
 その結果,2008年までの前立腺がん診断数はスクリーニング群で85例(5.7%),対照群で292例(3.9%)であった。スクリーニング群では対照群と比べて小径で限局性の腫瘍が多い傾向にあった。対照群と比べたスクリーニング群の前立腺がんによる死亡リスク比は1.16〔95%信頼区間(CI)0.78~1.73〕で,Cox比例ハザード解析によるハザード比(HR)は1.23(95%CI 0.94~1.62,P=0.13)と有意差はなかったが,年齢で調整したところ,HRは1.58(95%CI 1.06~2.36,P=0.024)と高くなった。

悪性度の鑑別に照準を

 以前の研究では,スクリーニングで検出されたがんを治療することにより,前立腺がんによる死亡が最大で3分の1低減することが示されている。しかし,即時の治療を必要としないがんまで発見されたり,不快で有害な過剰治療を施行されたりするリスクが高まることも分かっている。また,前立腺がんによる死亡を1例減らすには1,410例をスクリーニングし,48例を治療しなければならないとした研究結果もある。
 Sandblom准教授らは「スクリーニング前に,治療に伴う有害事象や検査結果が偽陽性となった場合の心理的影響について受検者への説明を徹底すべきである」と指摘。さらに,「今後の前立腺スクリーニングは診断的検査の感度を最適化することよりも,緩徐進行型腫瘍と高リスク腫瘍の鑑別方法,および緩徐進行型腫瘍に対する低侵襲性治療法を見いだすことを目標とすべき」としている。


スタチン使用者は高グレード前立腺がんの発症が少ない[2011年6月23日(VOL.44 NO.25)]

 スタチンの使用が前立腺がん,特に分化度の低い高グレード(高悪性度)前立腺がんの発症リスク低下と関係することを示すデータが,米ハーバード大学などのグループによりJournal of the National Cancer Instituteの6月8日号に発表された。
 同グループは,退役軍人局ニューイングランド・ヘルスケアシステムの電子管理ファイルから,降圧薬またはスタチンを服用している男性5万5,875例を特定。年齢と多変量補正済みCox比例ハザードモデルを用いて,スタチン使用群(4万1,078例)の前立腺がん発症ハザード比(HR)を降圧薬使用群(1万4,797例)と比較した。
 その結果,降圧薬使用群と比べスタチン使用群は前立腺がん発症リスクが31%低かった(HR 0.69)。スタチン群のリスク低下は低グレードのがんでは14%にとどまったが,高グレードのがんでは60%と大きかった。総コレステロール高値は前立腺がん全体(HR 1.02)および高グレードのがん(HR 1.06)の発症と関係したが,低グレードのがんとの関係は認められなかった。


第25回札幌冬季がんセミナー
  ~高齢者前立線がん~がん治療の基本姿勢を問う
[2011年5月19日(VOL.44 NO.20)]

 高齢者のがん治療においては,より低侵襲な選択肢を考慮する必要があり,その治療選択が本当に有意義かどうかといったことを生命予後との兼ね合いで検討することも重要である。高齢者に対する前立腺がんの治療について概説した聖路加国際病院(東京都)泌尿器科がん診療特別顧問の鳶巣賢一氏は「高齢者の前立腺がんに対する治療を考えることは,がん治療の基本姿勢を問うことにほかならない。最も低い侵襲で,健康余命を長くする治療法を考えることになる」と述べた。

早期がんでは無治療も有望な選択肢

 前立腺がんは,加齢とともに増えてくるがんの代表であり,70歳以上の男性の20~40%に発生する。しかし,多くが無症状であり,ゆっくりとした進展速度であるため,発見されず(潜在がん)に天寿を全うする。しかし近年,前立腺特異抗原(PSA)による診断方法の普及,および高齢者人口の増加とともに,同がんの罹患率は急上昇している。
 鳶巣氏は,PSA検診では受診者の1~2%に前立腺がんが発見されており,その多くが早期がんであることを報告。「高齢者の早期前立腺がんが増える傾向が続くことは間違いない」と指摘した。
 また同氏は,前立腺がんの治療においては特に早期がんの治療が問題であり,早期前立腺がんに対する治療法は,手術,放射線治療,ホルモン療法,待機療法(無治療)など多岐にわたることを概説。現在の早期がん治療については,積極的な治療をしているきらいがあるともいえると指摘し,「早期がんの場合では,期待余命を考慮して,無治療で観察するのも有望な選択肢となる」と述べた。特に高リスクとされる低分化がんを除くと,積極的治療の選択肢は第一選択とは言い難いとした。
 さらに同氏は,十分な説明,理解の下に,治療の方針を決めることが大切であると強調。患者にとっての最適な治療法を,多職種で一緒に考え,遂行することが重要であり,個々のがん疾患の個性により,その判断は異なる。実際の年齢だけでなく,糖尿病,心・脳血管障害,他のがん疾患などの状況を考慮した「期待余命」と,患者の希望の両者を考慮して治療方針を考える実例として,早期前立腺がんは最適な対象であると紹介した。


前立腺がん検診の受検者と非受検者の間で前立腺がん死に有意差なし[2011年5月12日(VOL.44 NO.19]

 前立腺がん検診を受けた男性と受けなかった男性の20年後の前立腺がんによる死亡率に有意差はないことを示す試験結果が,スウェーデンのグループによりBMJの4月23日号に発表された。
 同グループは,前立腺がん検診により前立腺がんによる死亡が減るかどうかを検討するランダム化比較試験を行った。対象は,1987年にスウェーデンのノルチェピング市に居住していた50〜69歳の全男性9,026例。そのうち,出生データリストから6番目ごとに抽出した1,494例を検診群に割り付けた。
 検診は1987〜96年で3年ごとに実施。1・2回目(87年と90年)は直腸診のみとし,3・4回目(93年と96年)は前立腺特異抗原(PSA)の測定も行った(カットオフ値4μg/L)。4回目の受検者は69歳以下のみとした。受検率はそれぞれ78%(1,161/1,492例),70%(957/1,363例),74%(895/1,210例),74%(446/606例)であった。
 その結果,2008年までの前立腺がん診断は検診群が85例(5.7%),コントロール群が292例(3.9%)だった。コントロール群と比較した検診群の前立腺がんによる死亡リスク比は1.16,Cox比例ハザード解析によるハザード比(HR)は1.23と有意差はなかったが,試験開始時の年齢を調整するとHRは1.58と高くなった。


~局所進行前立腺がん~放射線療法+短期ADTで死亡率低下[2011年5月5日(VOL.44 NO.18)]

 ニューカッスル大学(オーストラリア・ニューカッスル)のJames W. Denham教授らは,局所進行前立腺がん患者を対象に,放射線療法にネオアジュバント療法として短期のアンドロゲン抑制療法(ADT)を併用することで進行の抑制と死亡率の低下が得られるか否かについて検討したランダム化比較試験,TROG(Trans-Tasman Radiation Oncology Group)96.01試験の結果をLancet Oncology(2011; オンライン版)に発表した。同試験では,10年間にわたって追跡した結果,放射線療法単独と比べて6カ月間のADTと放射線療法の併用により前立腺がんによる死亡率が半減することが示された。

放射線療法単独と比較

 アジュバント療法またはネオアジュバント療法としてのADTは,局所進行前立腺がん患者の生存期間延長に有効であることが示されているが,長期の治療により勃起不全(ED),火照り,疲労,骨粗鬆症,高コレステロール血症,貧血,心臓死などの重大な副作用が発現したとする報告がある。
 今回の試験では,1996年6月~2000年2月に登録された局所進行前立腺がん患者818例を対象に,放射線外照射のみを行う放射線療法単独群と,放射線療法に加えて3カ月または6カ月の短期ネオアジュバントADT(NADT)を併用する群のいずれかにランダムに割り付けた。
 2005年の中間報告ではNADT併用による前立腺がん特異的生存率の上昇が示されたが,NADTの至適期間については依然,一致した見解が得られていなかった。
 Denham教授らは今回,NADTの期間として3カ月と6カ月のいずれが優れているかを見極めるため,長期アウトカム(追跡期間の中央値10.6年)について解析した。

6カ月で長期アウトカム改善

 その結果,6カ月間のNADT併用群では,放射線療法単独群と比べて10年前立腺がん特異的死亡率(11%対22%,P=0.0002)および全死亡率(29%対43%,P=0.0005)が有意に低かった。
 一方,3カ月間のNADT併用群では,遠隔転移率,前立腺がん特異的死亡率,全死亡率のいずれについても放射線療法単独群との間に有意差は認められなかった。
 Denham教授らは「今回,局所進行前立腺がんに対する6カ月間のNADTと比較的低線量の照射を併用した治療法の安全性および有効性が示された。この併用療法は今後しばらくの間,有効な治療選択肢となるであろう。特に,リンパ節転移のない患者や,長期ADTによる悪化の可能性がある代謝系の併存疾患がない患者で有効性が高いと考えられる」と結論付けている。


PSA上昇速度を活用した前立腺がんスクリーニング/不要な生検に繋がる可能性[2011年4月14日(VOL.44 NO.15]

 全米総合がんネットワーク(NCCN)や米国泌尿器科学会(AUA)によるガイドラインでは,前立腺特異抗原(PSA)値が急激に上昇した男性では,同値が正常範囲内かつ直腸診で異常がなくても,生検を受けることが推奨されている。しかし,スローン・ケタリング記念がんセンター(MSKCC,ニューヨーク)のAndrew J. Vickers博士らは「PSAの上昇速度(PSA velocity)と呼ばれるPSAの経時的変化率は,前立腺がんの予測指標として優れたものではなく,むしろ不要な生検を増やす可能性がある」とJournal of the National Cancer Institute(2011; 103: 462-469)に発表した。

高まらない予測精度

 PSAの上昇速度が,前立腺がんリスクと相関することは以前から知られている。しかし,PSAの上昇速度について,他の指標に追加することにより予測精度がどの程度高まるのか,また,患者や医師の生検実施の意思決定にどれほど役立つのかについては,ほとんど知られていない。また,PSA値が高くない,もしくは直腸診が正常な者において,PSA上昇速度の値だけを生検の基準とした場合の成績を検討した試験はこれまで実施されていなかった。
 そこでVickers博士らは今回,Prostate Cancer Prevention Trial(前立腺がん予防試験)でプラセボ群に割り付けられた5,519例(55歳以上)を対象に,PSA上昇速度がどの程度,がん(生検陽性)の予測に役立ったかを評価。対象は試験開始時に(1)前立腺がんの既往歴なし(2)直腸診異常なし(3)PSA値3.0ng/mL以下—の者で,その後7年間追跡された後,PSA値などの所見とは関係なく全例で生検が実施された。
 解析の結果,PSAの上昇速度と生検のアウトカムとの間に統計学的に有意な相関が認められた。しかし,年齢,人種,PSA値,直腸診の所見,家族歴など他の指標を調整したところ,この相関は有意ではなくなった。
 以上から,同博士らはPSAの上昇速度について「PSA値や他の既存因子に追加したとしても,予測精度が高まることを示すエビデンスはほとんど得られなかった」としている。
 また今回の研究では,「PSAの上昇速度が一定値を超える男性に関しては,PSA値が低く,他の異常所見がなくても,生検を実施すべき」とするガイドラインの推奨についても検証。その結果,PSAの上昇速度のみが一定値を超える男性では,確かにがんリスクは上昇していた。しかし,PSAの上昇速度を基準値とした場合よりも,PSA値を基準値にした場合の方が感度は高く(19%対23%),この傾向はグレードの高いがん(グリソンスコアが7以上)でより顕著に見られた(25%対41%)。
 また,PSAの上昇速度のみが高い男性は7人中1人に認められることから,PSAの上昇速度だけを基に生検を実施することは,不要な生検につながる可能性が示唆された。

ガイドラインから削除すべき

 Vickers博士らは,臨床医に向け「現在用いているPSA値の閾値では感度が低過ぎると感じるならば,その閾値を下げてみるべきで,PSAの上昇速度など別の指標を生検実施の判定基準に採用する必要はない」とした上で,「PSA上昇速度は前立腺がんスクリーニングのガイドラインから外すべきだ」と結論している。
 ニュージャージーがん研究所(CINJ,ニュージャージー州ニューブランズウィック)のSiu-Long Yao,Grace Lu-Yaoの両博士は,同誌の付随論評(2011; 103: 450-451)で「今回の知見は,PSAの上昇速度によるスクリーニングが,医師にとっても患者にとっても意思決定の助けになるものではないことを示すものである」とVickers博士らの知見に同意している。
 Yao博士らは「PSA上昇速度に情報価値がほとんどないことが分かった。同値の測定には時間を要することから,その測定を省くことで,患者は次回の診察まで必要以上に待たなくて済むかもしれない。さらに,検査に関連した不安もある程度軽減される可能性がある」と指摘。また「今回の研究結果から,前立腺がんスクリーニングツールにおけるPSAの使用にはまだ改良の余地があることをあらためて思い知らされた」と付け加えている。


前立腺がんや陰茎がん 放射線療法後のリンパ浮腫に注意 5年経過後に発症する場合も[2011年4月7日(VOL.44 NO.14]

 デュッセルドルフのプライマリケア医Jessica Männel博士は「前立腺がんでは,根治的前立腺摘出術を受けた患者だけではなく,シード線源を前立腺内に挿入する密封小線源療法や外照射療法を受けた患者でも,最大45%の患者で下肢のリンパ液がうっ滞し,リンパ浮腫を発症する。しかし,その進行は極めて緩徐であるため,治療から5年経過した後でも発症しうることを忘れてはならない」とドイツ泌尿器科学会の第62回集会で指摘。適切かつ早期の診断と治療によりリンパ浮腫の慢性化,重症化を予防できるとした。

早期発見には的確な問診が重要

 リンパ浮腫の発症率は,精巣がん患者では7%であるが,陰茎がん患者では最大で50%と極めて高い。このため,リンパ浮腫の早期発見と予防が重要である。Männel博士は「浮腫は,初期には可逆性であることが多く,気温の高い日中に発現して,夜間に消失する傾向にある。したがって,こうした症状がないか患者に的確に尋ねることが大切である」と説明。なお,触診により初期には柔らかく,指で押すと圧痕ができる浮腫を確認できるという。
 また,同博士は「浮腫が見られる場合は,その進行を阻止するために,患者に下肢をできる限り頻繁に挙上させ,熱い湯船に漬からないように指導することが望ましい」とした。
 なお,同博士の講演後に行われた質疑応答では,これに対して聴衆から「医療体操指導者の多くはサウナに入らないよう,初回のリンパ節切除後の段階で忠告しているが,やはりサウナも禁止する必要があるのか」との質問があり,同博士は「さほど厳格に禁止する必要はなく,可逆性浮腫の場合,状態が半年間安定していれば,低温での発汗(5~10分間のバイオサウナを1~2回程度)は構わない」と回答した。
 ただし,「スチームサウナは絶対に避けるべき」としたほか,患者が注意すべき点として,(1)日光浴をしない(2)窮屈な衣類を着用しない(3)外傷を負わないよう注意する(4)重い荷物は持たない(5)新しい靴は慎重に履き慣らしていく(6)皮膚のケアを入念に行う—などを挙げた。さらに,家庭医には浮腫領域に注射や鍼治療を行わないよう注意することが求められるとした。

3カ月の治療で79%軽減

 不可逆性リンパ浮腫では,患肢と健常肢の皮膚をつまみ上げようとしても患肢ではつまみ上げられない(Stemmer Sign)のが特徴で,指で押しても圧痕ができなくなる。このような状態に至っている場合には,(1)用手的リンパドレナージ(2)圧迫療法(3)運動療法(4)スキンケアを柱とする複合的理学療法—を行う必要があるという。両側性の場合は,リンパドレナージを1週目にはできれば毎日,その後は週に1~2回のペースで,リラックスした状態で1時間(片側性の場合は30分)行うのがよい。
 圧迫療法では弾性ストッキング(場合によっては片脚だけ着用したり,ガードル付きのものを利用する)の着用で十分な圧迫が得られるが,重度の浮腫の場合にはリンパドレナージの後に弾性包帯を使用する。さらに,浮腫は丹毒の侵入口となる可能性があるため,その予防として1日2回スキンケア(場合によっては抗真菌療法も実施)を行い,患者の可動性に応じた自宅での運動療法や病院での理学療法を行うことが重要である。ある研究では,これらの治療により浮腫が3カ月以内に79%軽減されたという。
 そのほか,Männel 博士は「2%塩酸プロカインによる神経ブロックで,浮腫が軽減することが示されている」と説明。また,丹毒の既往歴を有する患者に対してセレンを投与することで,丹毒の再発率の低下が期待できるという。


前立腺がん 全摘術前のストレス管理は免疫機能を高める[2011年3月31日(VOL.44 NO.13]

 テキサス大学MDアンダーソンがんセンター(ヒューストン)総合腫瘍学・行動科学のLorenzo Cohen教授らは「前立腺がん手術の前にストレス管理の訓練を行った患者では,気分障害が減少するだけでなく,身体の免疫反応が活性化された」との研究結果をPsychosomatic Medicine(2011; オンライン版)に発表した。

心理的ストレスで免疫力が低下

 同センターの統合医療プログラム責任者でもあるCohen教授らは以前,根治的前立腺摘除術を受ける前立腺がん患者を対象に,ストレス管理訓練の効果を検討した。その結果,ストレス管理を行った患者では,気分障害が有意に少なくなり,1年後のQOLも向上していた。今回,同教授らにより同様の心理学的介入が免疫機能に及ぼす影響について初めて調べられた。
 同教授は今回の研究結果について「前立腺摘除術を受ける患者は,手術と術後のQOL低下に関する不安から,強いストレスを感じることが多い。手術による身体的ストレスと心理的ストレスはいずれも免疫系にとって有害で,術前のストレス管理は,たとえ短時間なものでも,術後の心理面と免疫系の回復に良い影響を与える」と説明している。
 手術による身体的ストレスは手術部位近辺と全身に強力な炎症反応を引き起こし,このとき,炎症反応と免疫反応を調節する情報伝達蛋白(サイトカイン)が分泌される。心理的ストレスはこれらの炎症性サイトカインの機能を狂わせ,ナチュラルキラー(NK)細胞の機能を低下させて創傷治癒を遅らせる。
 炎症性サイトカインの増加は長期間持続した場合には有害だが,術前と術後の短期間であれば,創傷治癒と身体回復に有益な免疫反応を伝達する。

介入レベルの異なる3群で比較

 今回の試験では,根治的前立腺摘除術を受ける早期前立腺がん患者159例が,以下の3群のいずれかにランダムに割り付けられ,各群で免疫機能に及ぼす影響が検討された。
1) ストレス管理(SM)群
 (1)手術の1~2週間前に心理学者からセッションを2回受け,手術の不安について話し合うとともに,認知療法について指導を受ける
 (2)手術の影響に対処するため,深呼吸と誘導イメージ療法について学習する
 (3)イメージトレーニングにより手術と入院に備える
 (4)ストレス管理の手引きと,自分でストレス管理ができるように,その方法を説明した録音テープが配られる
 (5)手術当日の朝,担当心理学者から簡単な追加セッションを受ける
 (6)リラクゼーションとストレス対処法の強化のため,手術48時間後に簡単な追加セッションを受ける
2) 支援・配慮(SA)群
 (1)手術の1~2週間前に心理学者とのセッションを2回受ける(各セッションは患者の心理的支えとなることを目的とし,半構造化面接による病歴の聴取が含まれる)
 (2)患者に共感し,患者が不安について話せる励ましとなる環境を提供する
 (3)手術当日の朝,簡単な追加セッションを受ける
 (4)手術48時間後に簡単な追加セッションを受け,手術を受けるまでと入院中の経験について話し合う
3) 標準療法(SC)群
 この群の患者にはルーチンの診療が実施され,心理学者との面会は行われない
 全患者に対し,手術の約1カ月前と48時間後に採血を行い,手術の約1カ月前,1週間前(心理学者による介入後),そして手術当日の朝に,気分プロフィール検査(Profile of Mood States;POMS)を行った。

心理学的介入は免疫力強化に有効

 検討の結果,手術2日後の時点で,SM群では(1)SA群と比べてNK細胞の細胞傷害能と炎症性サイトカイン〔インターロイキン(IL)-12p70,IL-1β,腫瘍壊死因子(TNF)-α〕の血中濃度が有意に高い(2)SC群と比べてNK細胞の細胞傷害能と血中IL-1β濃度が高い(3)免疫パラメータの値が,SA群とSC群では低下あるいは一定であったのに対し,上昇している—ことが分かった。SM群では術前の気分障害も少なかったが,これは免疫機能検査の結果とは相関が認められなかった。

 Cohen教授は「今回の結果は,他の研究によるエビデンスとも相まって,急性ストレス前の心理学的介入が患者にとって有益であることを示している。これは,ストレス管理が心理学的効果だけでなく生物学的効果ももたらすことを意味し,疾患のさまざまな側面がこれによって影響を受けるようだ」と説明。「このことから,強いストレスを受ける時期,特に術前には,なんらかのストレス管理を行うことが重要と考えられる」と述べている。

 今回の参加男性のほとんどは既婚で高学歴の非ヒスパニック系白人で,前立腺がんも早期がんに限られていた。そのため,同教授らは今後,より多様な母集団を対象とした試験や進行がんも含めた試験を実施する必要があると指摘している。

 同教授は,今後の研究として「ストレス管理による効果が最も高いと考えられる患者,特に最も辛い立場にあり,最低レベルの社会的支援しか受けられない患者を対象に効果を検討する予定だ」とし「この研究は,ストレス管理による最大の効果を引き出すためにも,医療保障制度の限られた資源を有効に利用するためにも有益だ」と説明している。


ディベート 前立腺がんPSA検診の有効性と今後の課題[2011年3月24日(VOL.44 NO.12]

 日本総合健診医学会では,前立腺がんの前立腺特異抗原(PSA)検診の有効性をテーマとしたディベート(司会=田内氏,林部長)も企画された。PSA検診の有効性,すなわち前立腺がん死亡率の低下は,欧州の大規模試験などから,少なくとも泌尿器科医の間ではコンセンサスが得られつつある。ディベートを行った埼玉県立がんセンター泌尿器科の影山幸雄部長,埼玉医科大学総合医療センター泌尿器科の川上理准教授も,有効性に関して一致。その上で,検診を今後どう進めるべきかについて考えを述べた。

有効性証明したERSPCを支持

 わが国では前立腺がんの患者数や死亡数が急増している。患者数は胃がんに次ぐ第2位。死亡数は2000年から20年間で2.8倍増えると予想されており,がんのトップ。死亡率の上昇をいかに阻止するかが喫緊の課題で,PSA検診はその対策として最も注目されている。
 最近,欧州で行われた大規模な前向き試験(ERSPC)で,PSA検診により前立腺がん死亡率が約20%低下する成績が報告された。一方,米国ではPSA検診導入後,前立腺がん死亡率が40%近く低下したが,ERSPC試験と同時に発表された米国の試験(PLCO)では,死亡率の低下は認められなかった。
 影山部長は,試験方法の信頼性という面から,ERSPC試験の結果は高いエビデンスになるとし,PSA検診の有効性はほぼ疑いないとの考えを強調した。群馬県で進められている質の高いコホート研究で,死亡率の減少を示唆する中間データが得られており,わが国でも有効性を確認できる可能性は高いとも述べた。さらに「死亡率だけでなく,転移がんの減少も臨床医の切実な願いだ」として,前述の群馬県コホート研究で,検診受診率の上昇に伴って転移がんの割合が著明に低下したデータ()を提示。「PSA検診の普及に伴い,転移がん減少を臨床で実感している」と結んた。
 川上准教授も,ERSPC試験の結果を支持した。理由は,既にPSA検診が広く普及している米国で試験を実施しても有効性を示す結果は期待できないこと,欧州は受診率が低いという点で日本と類似することなど。わが国でも欧州と同様に,PSA検診が有効と出る可能性が高いと指摘した。

40歳前後で測定しリスク選別

 ただしERSPC試験では,前立腺がん死亡を1人減らすために,1,410人のスクリーニングと48人への治療が必要であることが示された。前立腺がんは,診断されても治療を必要としない症例が少なくないのが特徴。「治療を要するがんを根治可能な段階で診断し,正確にリスク評価をして,過不足のない治療を行うことが求められる」(川上准教授)が,そこまでの道のりはまだ遠い。過剰診療への懸念から,PSA検診に消極的な風潮も根強い。今後,どのようなPSA検診が望まれるのか。
 影山部長は「過剰診療を起こさず,費用効果の高い形での普及が望まれる」。方法として,前立腺肥大や高齢といったPSAを上げる要因のない40歳前後で測定し,高リスク群を選別する,あるいは検診費用を税額控除の対象にして受診率を高めるなどが考えられると述べた。
 川上准教授も,前立腺がんの死亡率上昇を阻止するには,効率的なPSA検診の普及が最大のポイントだとし,PSA測定を遅くとも50歳時,家族歴がある場合は40歳時に行うことを推奨した。基準値は年齢に応じて設定する。基準値を超えたら精密検査の対象になるが,侵襲のある生検の対象は慎重に決定しなければならない。そのために,PSAとそれ以外の諸因子を総合的に評価し,不必要な生検を回避できるようなシステムづくりも必要だと訴えた。


前立腺がんのPSA検診 BRCA遺伝子変異を持つ男性で有益性高い[2011年2月17日(VOL.44 NO.7]

 前立腺がんの遺伝的素因として既に知られているBRCA1/2遺伝子変異を有する患者を対象とした初の多国間研究の予備的結果によると,これらの遺伝子変異により前立腺がんリスクが上昇している男性では,定期的な前立腺特異抗原(PSA)検診から得られる便益が大きいという。詳細は王立マースデンNHS財団トラスト(ロンドン)のRosalind Eeles教授らがBritish Journal of Urology International(2011; 107: 28-39)に発表した。

高悪性度の前立腺がん検出率78%

 BRCA1/2遺伝子の変異など前立腺がんリスクを高める遺伝的要因のいくつかは解明されている。BRCA1/2遺伝子変異の発生頻度は高くないが,その影響は極めて大きく,65歳未満の男性の前立腺がんリスクをBRCA1遺伝子は最大2倍,BRCA2遺伝子は最大7倍にまで高める。
 主任研究者のEeles教授らは,BRCA1/2遺伝子変異を有する男性に的を絞ったPSA検診が前立腺がんの早期診断につながるか否かを検討するIMPACT(Identification of Men with a genetic predisposition to ProstAte Cancer:Targeted screening in BRCA1/2 mutation carriers and controls)試験を行っている。最終的に1,700例の男性を少なくとも5年間追跡する予定で,最初に登録された男性300例の予備的結果が今回発表された。
 BRCA1またはBRCA2遺伝子に変異が確認された男性205例とこれらの遺伝子変異がない男性95例に毎年,PSA検査を施行。PSA高値の24例にフォローアップ生検を施行した結果,遺伝子変異保有者の方が非保有者より前立腺がんが検出される割合が高かった(3.9%対2.1%)。PSA検診の陽性的中率(生検施行数に対する検出がん数)は一般人口に比べて今回の試験の男性で高かった。
 同教授は「まだ予備的結果にすぎないが,PSA検診は遺伝素因のために前立腺がんリスクの高い男性では,悪性度の高い前立腺がんの可能性をかなり高い精度で予測できることが示された。今回の研究によりBRCA遺伝子変異を有する男性における定期的PSA検診の理論的根拠が裏付けられた」と述べている。


前立腺がんの集学的ケアで予後と患者満足度が著明に改善[2011年2月10日(VOL.44 NO.6)]

 トーマスジェファーソン大学キンメルがんセンター(KCC,フィラデルフィア)泌尿器科のLeonard G. Gomella教授らは,同センター内に開設された集学的泌尿生殖器がんクリニック(MDGUCC)における前立腺がんケアに関する約15年間のデータを解析した結果,全米データと比べて患者の予後がより良好であったとJournal of Oncology Practice(2010; 6: e5-e10)に発表した。

週1回の集学的評価の機会を提供

 米国では前立腺がんが男性におけるがん死亡の2位を占めている。2010年には約21万8,000人が前立腺がんと診断され,約3万2,000人がこのがんで死亡すると推算されている。
 限局性前立腺がんに対する標準治療法としては,一般的に積極的サーベイランス,手術,放射線療法,凍結療法,それ以外の治験中の治療法が挙げられる。治療レジメンを決定するに当たって,患者には各治療法のリスクと便益に関する情報を提供する必要がある。意思決定の過程では,各領域の専門家が治療選択肢に関する最新情報を患者に提供し,治療の影響は個々の患者で異なることを認識していなければならない。
 MDGUCCは,米国立がん研究所(NCI)の指定を受けて1996年にKCC内に設立された。以来,新規に前立腺がんと診断された患者と追加相談を必要とする患者に対し,週1回の集学的な疾患評価が行われてきた。同クリニックの医療チームは,患者と紹介医師との協力の下,個々の患者の必要性に合わせて個別化した治療計画を策定する。この週1回の評価が目標とするのは,最先端のケアの実現と,患者やその家族,研修医に対して教育的資源としての役割を果たすことである。
 Gomella教授は「MDGUCCの前立腺がんに対する取り組みの主要な目標は,関係するすべての臨床専門家が一堂に会して,バランスの取れた情報を提供することである。専門の異なる者たちが各治療法のリスクと便益についてリアルタイムに話し合い,共同で意思決定を行うことにより,患者の苦悩を和らげ,患者が治療を後悔することも少なくなるであろう」と説明している。

患者の90%で高評価

 今回の研究では,同大学の腫瘍データサービスにある限局性がんの治療データと関連変数を解析し,6項目の質問票を用いて単純盲検法により患者満足度を評価。さらに,得られたデータをNCIの全米疫学予後調査プログラムSurveillance, Epidemiology and End Results(SEER)における2006年の前立腺がん予後データと比較した。
 その結果,集学的アプローチがステージ3ないし4の局所進行前立腺がんの治療に好影響をもたらすことが示された。これらのがん患者で10年間のデータを比較したところ,生存率はKCCがSEERを大幅に上回っていた。ステージ1および2の前立腺がんでは,10年生存率が100%近くまで改善されていた。
 また,質問票による調査の結果,集学的アプローチに対する患者満足度は高く,患者の90%がMDGUCCでの治療を「非常に良い」,「良い」と評価していた。
 過去15年間に,KCCではロボット支援による腹腔鏡下根治的前立腺摘除術への移行が進んだ。また,放射線療法では,外照射放射線療法に比べ密封小線源治療の施行率が若干減少していた。
 KCCのRichard Pestell所長は「われわれのクリニックの患者本位モデルに対する満足度は極めて高かった。集学的クリニックでは,すべての治療選択肢に関する組織的なアプローチを通じて予後の改善を目指す。このクリニックモデルは,患者とその家族に対する教育ツールとしての役割も果たし,臨床試験への登録促進にも役立つ」と述べている。
 共同研究者の1人で,KCC放射線研究・トランスレーショナル生物学のプログラム主任を務める同大学放射線腫瘍学部門のAdam Dicker部長は,今回の研究について「前立腺がんに対する治療は,高度に組織化された集学的アプローチを通じて行われるのが最良であることが示された。泌尿器科,放射線腫瘍科,臨床腫瘍科,放射線科,病理などの各領域の専門家たちが積極的にコーディネーターと連携することが,このような患者本位プログラム成功の鍵となるであろう」と述べている。


前立腺がん治療薬に警告文の追加を要求[2011年2月10日(VOL.44 NO.6)]

 米食品医薬品局(FDA)は,主に前立腺がん患者の治療に用いられるゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH)アゴニストのラベルに,新たな警告文を追加するよう製造業者に求めた。
 この警告は,これらの薬剤による治療を受けている男性の心疾患と糖尿病の潜在的リスクに対して,患者と医療従事者に注意を呼びかけるものである。
 FDAは昨年5月,予備的な継続中の分析でGnRHアゴニストを服用している患者は糖尿病,心筋梗塞,脳卒中,突然死リスクがわずかながら増加していたことが分かったと発表した 新しいラベルには,これらの潜在的リスクについて,警告と使用上の注意の項目に最新情報を含める予定だ。
 GnRHアゴニストは,前立腺がんの増殖に関与するホルモンであるテストステロンの産生を抑制する薬剤である。この種の治療は,アンドロゲン遮断療法(ADT)と呼ばれている。テストステロンを抑制することで前立腺がんが縮小,あるいは増殖が遅くなることが明らかにされている。

尿中蛋白質と前立腺がんリスクに強い相関 簡便で高精度の尿検査開発に希望[2011年1月27日(VOL.44 NO.4) ]

 英国がん研究会(CRUK)ケンブリッジ研究所(ケンブリッジ)泌尿器腫瘍研究グループのHayley C. Whitaker博士らは,CRUKの助成を受けた英国がん研究所(ICR)との共同研究で「精液中に含まれ尿中にも存在する蛋白質microseminoproteinβ(MSMB)が前立腺がんリスクの強力な指標になることが示唆された」とPLoS ONE(2010; 5: e13363)に発表した。

PSAは不確定要素が多い

 Whitaker博士らは,以前のゲノムワイド関連の研究結果を踏まえて,今回,前立腺がんリスクにかかわる遺伝的変異と尿中MSMB濃度の有意な低下の関連を確認した。今回の研究では,前立腺がんと非がんの男性350例超を対象に,組織と尿を分析してMSMBの値を測定し,遺伝子変異を同定した。MSMBは正常な前立腺細胞により産生され,その細胞死を調節する蛋白質で,前立腺がん発症リスクの増大と関連付けられている。
 同博士らは,これまでに前立腺がん患者と非患者を含む男性数千人のゲノム全体の交叉試験を行い,前立腺がん発症リスク増大と強力に相関するMSMBの産生スイッチを入れるDNA部位に微細な変異を同定している。この遺伝子変異は頻繁に見られ,欧州男性では約30~40%が保有していた。MSMBは精液中に含まれる蛋白質の中では前立腺特異抗原(PSA)に次いで濃度が高く,尿中に混入する。
 前立腺がん検診に活用されている血清PSA値と異なり,MSMB値は前立腺肥大による影響をほとんど受けない。しかも,前立腺がん治療の種類によってはホルモン値が変化することがあるが,MSMBはホルモンの影響も受けないことがこれまでの研究で示唆されている。一方,PSA値はもともと人によって異なり,前立腺肥大など前立腺がん以外の病態によっても値が上昇したり,前立腺がんであっても上昇しなかったりするため,PSA検査を全国的な検診プログラムで使用するには不確定な部分が多過ぎる。

PSA検査との併用も

 今回の研究は,尿中のMSMB蛋白質の濃度が,前立腺がんリスクの高い男性を同定するための新たな検査法となりうることを示唆している。また今後,前立腺がんの検出や進行の監視の精度を改善するためにPSA検査との併用も考えられる。
 Whitaker博士は「遺伝子変異とMSMBの関連を確認できた意義は大きい。MSMBは尿中に存在するため検出が容易で,前立腺がん発症リスクが最も高い男性を同定するための簡便な検査に利用できるだろう」と述べている。
 共同研究者でICRと王立マースデン病院(サットン)のRosalind Eeles教授は「今回の研究により,前立腺がんリスクが高いことを示すリスクアレルを検出する簡便な検査を開発できると期待している。今のところ,PSA検査が最善の前立腺がん検出法だが,限界も多く,MSMBのように検診や診断に利用できる新たな生物マーカーの開発は急務である」と強調している。
 英国では,前立腺がんは男性のがんの中で最も多く,新規に診断される男性がんの4分の1を占め,2006年には3万5,000人超が診断を受け,毎年約1万200人が同がんで死亡している。
 今回の研究責任者でCRUKケンブリッジ研究所の前立腺がん専門医David E. Neal教授は「前立腺がん発症リスクが最も高い男性を同定するために,信頼性が高く簡便な検査は長らく望まれており,非常に必要とされていた。今回の研究は,その開発に役立つ非常に重要な研究である。さらなる研究で,同マーカーが臨床に適用できることが分かれば,これは画期的な発見になるだろう」と述べている。


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