定例新居浜小児科医会(平成5年3月以降)

新居浜小児科医会誌

第500回記念号 (平成22年12月1日発行
第400回記念号 (平成13年12月25日発行
平成26年(541回→)


訃報:12月18日(木)に渡辺敬信先生が逝去され、21日(日)に葬儀が執り行われました。心からご冥福をお祈りいたします。合掌


第549回
新居浜小児医会
忘年会
(26年12月10日、於:花山椒)

平成26年12月10日(水)、忘年会が「花山椒」で開かれました。
 出席者は11名(含:牧野 景、中矢隆大)でした。(敬称略)
(前列左から)塩田康夫、村尾紀久子、手塚優子、松浦章雄
(後列左から)山本浩一、真鍋豊彦、加藤文徳、竹本幸司、加賀田敬郎

第548回

日時
平成26年11月12日(水)
症例呈示 「痙攣重積型脳症を発生したソトス症候群の一例」 住友別子病院小児科   牧野 景
 話題提供   「サイトメガロウィルス、トキソプラズマの先天感染について」 こにしクリニック  加藤 文徳
 その他 第550回記念会実施要領概要など

1.症例呈示

    痙攣重積型急性脳症を発症したソトス症候群の一例

           住友別子病院 小児科 牧野 景、中矢隆大、竹本幸司 

【症例】3歳男児
【主訴】発熱、痙攣重積
【現病歴】平成26131日、630分頃から眼球の右方偏位、両側上下肢の痙攣が出現し、38.5℃の発熱も認めた。20分経過したが痙攣は治まらず、7時20分頃に当院に救急搬送された。受診時も痙攣は持続していたが、ダイアップ挿肛、ドルミカム静注施行し痙攣は頓挫した。同日精査加療目的で入院した。
【既往歴】ソトス症候群、熱性痙攣、症候性てんかん疑いでバルプロ酸内服中。
【入院時現症】体温37.7
SpO2 93%、心拍数159/分、呼吸数72/分、JCS:300(ダイアップ、ドルミカム使用後)、肺音:やや粗、心音:整、その他特記所見なし。
【検査所見】(血液検査)WBC 10970 /μL, Hb 14.9 g/dL, Plt 16.2×10^4  /μL, CRP 0.16 mg/dL, AST 41 IU/L, ALT 14 IU/L, LDH 236 IU/L, BUN 19.7 mg/dL, Cre 0.62 mg/dL, Na 140 mEq/L, K 4.8 mEq/L, Cl 101 mEq/L, Ca 10.1 mg/dL, CPK 77 IU/L, NH3 532μg/dL, (血液ガス)pH 6.628, pCO2 142.6 mmHg, pO2 30.3 mmHg, HCO3 14.6 mmol/L, BE -25.5 mmol/L, Glu 166 mg/dL(迅速検査)インフルエンザA(-),B(-)(頭部CT) 頭蓋内に明らかな病変なし。(胸部CT) 両肺に広範囲にすりガラス様の濃度上昇を認め、炎症性変化が疑われた。
【入院後経過】痙攣重積、肺炎に対して、適宜抗痙攣薬、抗生剤を使用し、原疾患の可能性のある疾患に対し、ラピアクタ、ジスロマックの投与も行った。痙攣は治まったが、意識の状態の明らかな改善は認めなかった。入院翌日以にはDIC、ショック肝を認め、ヘパリン製剤、FOYにて加療を行った。入院3日後の頭部MRI拡散強調画像にて皮質下白質の高信号を認め、脳波所見はほぼ平坦であった。痙攣重積型急性脳症と診断し、適宜γグロブリン、マンニトール、ラジカット、ビタミンB6、五苓散内服等の加療を適宜行った。入院5日目頃から遅発痙攣を認めた。その後眼球上転や四肢の不随意運動を認め、適宜抑肝散、ランドセンなどの治療を行った。後遺症としては、運動面では、四肢の痙性麻痺、不随意運動、体幹支持困難を認めた。栄養面では胃チューブからの注入栄養がメインとなった。また半年以上経過し、てんかん発作が出現し、現在も治療継続中である。
【結語】
意識障害の遷延する痙攣重積、群発症例では、本疾患を積極的に疑い、早期診断、治療を行うことが重要と考えられた。

 2.話題提供

       サイトメガロウイルス、トキソプラズマの母子感染について
   
           こにしクリニック小児科 加藤文徳

サイトメガロウイルス(CMV)、トキソプラズマは、いずれも母子感染(先天感染)をおこす原因となる。これらの先天感染に対しては今の日本には認可の降りた治療薬、あるいは感染を防ぐためのワクチンは存在しない。よって、妊娠中はこれらに感染しないことが重要である。それぞれの感染予防対策について解説した。

≪サイトメガロウイルス≫

以前は成人でのCMV抗体保有率は90%以上であったが、現在では衛生環境が良くなったことなどにより若年層での抗体保有率が低下している。現在、妊婦の抗体保有率は約70% といわれている。
 報告によれば先天性CMV感染の発生頻度は0.31%で、新生児1/320人が先天感染する。感染児の24%が新生児期に典型的な臨床所見を呈し、9%は頭部画像にのみ異常が見られた。よって新生児の約1/1000人が症候性先天性感染児である。先天感染児の64%には同胞がいて、感染児と同胞のウイルス株が85%で一致した。即ち、母親への主要感染ルートは同胞の排泄する尿、唾液であることが判明している。  

妊婦のCMV感染予防対策

以下の行為の後には石鹸で1520秒間手洗い

     こどものオムツ交換
    こどもの食事
    こどもの鼻汁やよだれを拭く
     こどものおもちゃに触れた
     こどもと飲食物、食器を共有しない
     こどもと歯ブラシを共有しない
     こどものおしゃぶりを口にしない
     こどもとキスをするとき、唾液に触れない
     こどもの尿や唾液で汚染されたこどものおもちゃや箇所を清潔に保つ 

≪トキソプラズマ≫

トキソプラズマに対する抗体を持たない妊婦が経口摂取したトキソプラズマが、腸管壁から血管内またはリンパ管内に移動後、さらに胎盤を介して胎児に感染する。生肉、内臓(不十分な加熱処理のブタ、ヒツジ、ウシ、ニワトリの肉やレバーなど)の摂取、初感染ネコの糞に多量に含まれるオーシストが庭いじりした土壌や生野菜に付着したものを通じて経口摂取されたのち感染する。
 妊婦の初感染率(0.13%)と出生数から推測すると年間1,00010,000人の妊婦が初感染し、年間1301,300人の先天性トキソプラズマ症児の出生が推定されるが、実際の統計データは存在しない。
 妊婦での抗体陽性率は近年低下傾向にあり7.1%との報告がある。妊娠初期検査で抗体陰性の妊婦は妊娠中に感染しないように注意する必要がある。

妊婦のトキソプラズマ感染予防対策
     
     ネコ対策
      ネコを飼わない。野外ネコに接触しない
      ネコを飼っている場合は、野外では飼わない
     ネコの糞尿は他の人に処理してもらうか、手袋をして早期に
処理する。(オーシスト排泄直後は感染性がない)
     土壌からの摂取注意
      土を触る場合は手袋を着用する
      果物、野菜はよく洗う
  
   海外旅行では飲料水に気をつける
      肉からの摂取注意
      食肉に触れた後はよく手を洗う
      食肉はよく火を通して調理する
      生肉は摂取しない

 サイトメガロウイルス、トキソプラズマともにその先天感染を防ぐために最も必要なことは感染予防であり、そのためには医療従事者による妊婦への十分な啓発活動が必要である。


第547回

日時
平成26年9月10日(水)
症例呈示 「父子感染によるHBV関連腎症の一男児例」 愛媛県立新居浜病院
小児科
  手塚優子
 話題提供   「四国中央市における小児救急医療啓発ビデオの紹介」 ふじえだファミリークリニック  藤枝 俊之

1.症例呈示

   父子感染によるHBV感染腎症と思われる一男児例

       愛媛県立新居浜病院小児科  手塚 優子

 B型肝炎ウイルス(HBV)は持続性感染となることが多いため、免疫系が賦活され腎炎を起こすとされる。最も多いのは膜性腎症であり、ついで膜性増殖性糸球体腎炎の報告が多い。以前は、小児の膜性腎症の原因疾患として重要であったが、ワクチンの普及により、最近の発症は著しく減少している。
 周産期および乳幼児期にHBVに感染すると、90%以上が持続感染し、小児では約75%seroconversionSC)を起こす。B型肝炎母子感染予防事業により、小児のHBVキャリア率は事業開始前の0.26%から、事業開始9年後には0.024%と低下した1)一方で、水平感染とくに父子感染が問題となっている。父親がキャリアであると、約25%に感染がみられ、約10%がキャリアとなる2)。今回、父親からの水平感染により、HBV関連腎症を発症したと思われる男児を経験したので、報告する。
【症例】 411ヵ月 男児 (現在6歳)
【現病歴】H255月(4歳)幼稚園検尿で、尿蛋白・尿潜血陽性であり、A病院受診した。父親がHBVキャリアとの家族歴あり、精査施行され、HBs抗原陽性、HBe抗原陽性と判明した。AST 75 IU/lALT 87IU/lと軽度の肝機能障害がみられた。H265月(5歳)の幼稚園検尿で、尿潜血(3+)、蛋白(+)であり、緊急受診対応児として、当科を初診した。活気、食欲は良好であり、肉眼的血尿や乏尿はみられなかった。
【既往歴】特記事項なし。HBワクチンの接種歴はない。
【家族歴】父親:H18年に人間ドックで偶然、HBVキャリアであることが判明、H249月に急性増悪に伴う全身症状出現した。現在はエンテカビルにて治療中。Genotype C
        母親:H18年の家族内精査でHBs抗体陽性。H19年妊娠中の検査では、HBs抗原陰性。
        姉(H17年出生、現在9歳):H181歳時に、水平感染予防としてHBワクチン接種を受けた。
【現症】体格は年齢相当、血圧108/44mmHg、浮腫や皮膚の黄染なし、心・肺所見に異常なし、腹部は平坦で肝を1.5cm触知、脾触知せず、リンパ節腫大はなかった。
【検査所見】尿検査では、比重1.031、蛋白+、潜血3+、糖-、ケトン-RBC100/HPFWBC1-4/HPF、病的円柱認めず、U-pro/Cr=0.23U-Ca/Cr=0.10U-β2MG 154μg/lU-NAG 6.5U/l24時間尿蛋白 0.44g/dayであった。血液検査では、WBC 8000 /μl(分画正常)、Hb 11.9 g/dlPLT 26.8/μlPT 83.8%AST 391 IU/lALT 506 IU/lLDH 295 IU/lALP 917 IU/l、γGTP 56/IU/lT.Bil 0.31mg/dlTP 6.0g/dlALB 3.3g/dlBUN 13.0mg/dlCr 0.24mg/dl、シスタチンC 0.69mg/lCRP 0.01mg/dl、電解質正常、CH50 35.5U/mlC3 121mg/dlC4 13mg/dlIgG 994mg/dlIgA 154mg/dlIgM 106mg/dlASLO 42 IU/mlANA 40倍、CMV-IgM 陰性、EBV-VCA IgM 陰性であった。肝炎ウイルス関連検査では、HBs抗原(CLIA 2820 IU/ml:陽性、HBs抗体:陰性、HBe抗原 0.67:陰性、HBe抗体99%:陽性、HBc抗体 11.6:陽性、HBV-DNA 7.6Log copy/mlであった。腹部エコーでは異常所見はみられなかった。
 以上から、HBVキャリアの急性増悪(肝炎)期、HBV関連腎症と考えられ、seroconversionSC)が起こりつつある時期と思われた。
【経過】小児HBVキャリアにおいては、肝機能障害出現後3年以内に約50%SCを起こして、肝炎は鎮静化し、腎症はSCにより自然に軽快するとされており、原則として、3年間は自然経過を観察する、とされる3)。したがって、本症例においても、まずは無治療での経過観察とした。初診1週間後に、AST 549 IU/lALT 591 IU/lと肝機能障害は増悪したが、2ヵ月後にASTALTともに100台まで低下した。尿RBCは持続しているが、U-pro/Crは初診1週間後の0.67をピークに低下し、3ヵ月後に0.22となった。全身状態は良好に経過している。このままSCにより、検査値は自然に改善してゆくことが期待されるが、初診後3ヵ月の時点で、HBV-DNA 8.8 Log copy/mlHBe抗原2.09と陽性化しており、ウイルス量、ウイルス増殖力は依然強い状態である。今後も注意して経過をみてゆく必要があり、ウイルス量や肝機能障害の程度、およびその持続期間により、インターフェロンや抗ウイルス薬を要することもありうる。
 HBV関連腎症について、日本腎臓病学会の診断の手引き4)では、「血中HBs抗原やHBc抗体陽性などのHBVの感染を持続性に認め、いずれの組織像であっても、HBV関連抗原が免疫グロブリンや補体成分と同様の沈着パターンで糸球体へ沈着していることが証明されれば、HBV関連腎症と診断する。HBV関連抗原を糸球体に検出できなかった場合でも、HBe抗原からHBe抗体へのseroconversionに伴い尿所見が正常化した例も、HBV関連腎症と考えてよい。」とある。今回は腎生検による組織診断を行っておらず、HBV関連腎症の確定には至っていないが、HBVキャリアの急性増悪(急性肝炎)期にあわせて、尿所見が増悪し、他の腎炎を思わせる血液検査異常がないことから、HBV関連腎症の可能性が高いと考えられる。今後、完全にSCが成立し、尿所見が改善すればより確定的となる。小児では大多数の患者が、SCにより5年以内に自然寛解するとされる。ステロイドや免疫抑制剤は、HBV感染症を増悪させるため、原則として使用しない。今回も無治療で経過観察としているが、ACE-IARBを用いて蛋白尿をコントロールしたという報告5)もあり、蛋白尿の程度によってはその使用も考えられる。
 HBV感染はワクチン接種により、防ぐことのできる疾患のひとつである。1992WHOは一般新生児全員へのHBワクチン定期接種(Universal vaccination)を勧告し、現在180ヵ国で実施されているにもかかわらず、本邦では未だ定期接種となっていない。HBV母子感染予防事業により、明らかに小児の感染率は減っているが、母子感染対策だけでは、家族内や園での水平感染を防ぐことはできない。
 20141月、日本小児科学会は母子感染予防以外のHBワクチン接種についても 「乳幼児期に3回接種、乳児期に接種していない児は水平感染予防のため、10歳以上で接種」を推奨した。しかし、母子感染予防以外は、一部の自治体を除き任意接種であり、一般社会でのHBワクチンに対する認識は乏しい。子どもを持つすべての家族への啓蒙のために、例えば産科や小児科でのポスターの掲示、予防接種手帳にHBワクチンについての情報記載などを行うなどして、ハイリスクと考えられる児に対して確実にワクチン接種ができるような体制づくりが必要である。何よりもHBワクチンの早急な定期接種化が望まれる。
参考文献
1)白木 和夫、厚生省心身障害研究分担研究 平成8年度研究報告書 1997
2)広田ら、肝臓198728
3)田尻 仁ら、日本小児科学会雑誌 2007111949-958
4)山辺 英彰、日本医師会雑誌 20071362)より引用
5)林 篤ら、日児腎誌 200518(2)

2.話題提供

   四国中央市における小児救急医療啓発ビデオの紹介
     ふじえだファミリークリニック 藤枝俊之

 小児救急医療の問題が叫ばれて久しい。小児人口減少時代にあっても小児科は過酷な労働環境にあるが、医師の都市部への流出・集中により、地方の小児救急医療は一層の崩壊危機にさらされている。小児時間外診療を担う医師の減少・高齢化は、当地域においても切実な問題で、医療・行政・住民・企業が小児医療の現状を理解し、診療時間内外の適切な支援・受診行動が行われることにより小児救急医療が維持できるよう配慮を求められている。
 当院のある四国中央市では、宇摩地救急医療研究会を立ち上げ、医療機関・行政・消防が協議連携を計り、救急病院への症患者の集中を緩和しつつ、市民が安心して子育てできる環境を目指す取り組みを行っている。
 市・保健所においては、従来より救急医療に対する出前講座を行っているが、参加家庭は限定的で、単発事業のため、小児救急医療崩壊防止に対しては一部の効果しか得られていない。そこで、平成26年度、地元ケーブルテレビと行政の協力により、小児救急医療啓発ビデオを作成した。

 視聴覚教材を活用することにより、①視聴者の印象に残る②現実的な場面の提示ができる③家庭看護のポイント説明を加えることで相乗効果が得られることが期待され、④必要な部分だけを利用することもできる⑤保管などの取り扱いが容易なため、場所・時間を問わず、同じ講座を繰り返し・同時に開催できるため、より多くの市民・幅広い年代層に対し啓蒙効果が期待される。
 一方、⑥ 目的や意図・細かなニュアンスを伝えにくい⑦集中が続かない⑧ 医療側・患者相互のコミュニケーション不足の発生⑨ 教材作成の労力が必要⑩著作権への配慮に注意が必要である。
 ビデオは、前半は小児救急医療にまつわる啓蒙・教育に関して、後半はよくある症状について救急受診のタイミングと家庭看護のポイントの説明と二部構成からなる。

 視聴率を高めるために、地元劇団に協力をあおぎ寸劇形式とし、わかりやすく、親しみやすい内容となるよう、また、映像の時間にも配慮した。
 今後、各種メディア、救急医療現場だけでなく、あらゆる機会に継続的にビデオを放映活用、バージョンアップすることにより、家庭看護力・社会の看護力を高めていただき、それが世代を超えて継続され地域の看護力向上につながることを願う。
 おわりに
 
軽症患者の時間外受診による小児医療崩壊危機の責任を、患者にのみ転嫁するのは誤りであり、医療従事者を含む患者家族を取り巻く環境がそれを助長させているとも考える。患者・家族・社会に対する啓蒙・支援なき医療は日本の地方医療情勢の中では救急医療崩壊を助長させるとも考える。この取り組みは、時間外対応が必要な真の救急患者が適切に医療を受けられる社会となるよう願うものである。診療科勤務形態を問わず、日常診療の中において医師は、(小児)救急医療を意識した診療に務める必要がある。


第546回新居浜小児医会
夏季懇親会 
 (平成26年7月9日、於常富寿司)

平成26年7月9日(水)、夏季懇親会が「常富寿司」で開かれました。
 出席者は13名でした。(敬称略)
(前列左から)村尾紀久子、徳田桐子、手塚優子、松浦章雄、
(中列左から)塩田康夫、竹本幸司、加藤文徳、真鍋豊彦、
(後列左から)加賀田敬郎、牧野 景、星加 晃 、山本浩一、中矢隆大
 

第545回

日時
平成26年6月11日(水)
症例呈示 「先天性胆道拡張症の一例」 住友別子病院
小児科
  牧野 景
 話題提供   「当院におけるてんかん診療の状況」 高橋こどもクリニック  高橋 貢
 

1.  症例呈示

   胆石を伴った先天性胆道拡張症の一例

       住友別子病院小児科  牧野 景

先天性胆道拡張症は、総胆管が嚢腫状あるいは紡錘状に拡張した原因不明の疾患であり、膵胆管合流異常を高率に伴う疾患であるが、今回胆石を伴った先天性胆道拡張症の一例を経験したので報告する。
(症例)2歳女児
(主訴)皮膚黄染、下痢
(現病歴)2014223日夜間から機嫌不良、食欲低下あり、24日、白色の下痢便を頻回に認めた。25日顔色黄染、白色便を指摘され、26日近医総合病院を受診し、胃腸炎と診断された。同日午後から、皮膚や眼球の黄色調が強くなり、27日前医を再診した。血液検査にて肝酵素、膵酵素の上昇、高ビリルビン血症を認めたため、当院を紹介され受診し、精査加療目的で入院した。
(既往歴)特記事項なし
(家族歴)曽祖父が膵臓癌
(身体所見)体温:37.7℃、心拍数:130/分、眼球結膜黄染、皮膚黄染、心音、肺音異常なし、腹部:平坦、軟、腸蠕動音正常、圧痛はっきりせず、肝:1.5cm触知、脾腫なし
(血液検査所見)WBC 11600 /μl, Hb12.7 g/dl, Plt 42.7×10^4 /μl, CRP 0.61 mg/dl, AST 253 IU/l, ALT 330 IU/l, LDH 318 IU/l, ALP 4285 IU/l, γ-GTP 956 IU/l, T-Bil 5.87 mg/dl, D-Bil 4.09 mg/dl, AMY 895 U/l, リパーゼ 2643 U/l, T-Chol 341 mg/dl, LDL-Chol 261 mg/dl
(経過)腹部CTを施行し、すべての胆道系拡張を認め、その拡張端に小さな高濃度が複数あり、結石が疑われた。絶食、輸液管理のもと、FOY、ウリナスタチン、ファモチジン静注にて加療を行った。経過中、明らかな腹痛は認めず、入院翌日の血液検査にて肝酵素、膵酵素は改善傾向であった。同日腹部MRIMRCPを施行し、主膵管と総胆管は十二指腸壁外で合流していた(Todani分類 -A)。膵管胆管合流異常を原疾患とした総胆管結石に伴う閉塞性黄疸・胆管炎が考えられ、結石解除の処置のため、大学病院に転院した。228日 転院し、保存的加療を継続し、34日根治術施行、病理にて腫瘍所見なく、術後経過は良好であった。14MRCP再検にて結石の遺残がないことを確認し退院した。
(考察)
先天性胆道拡張症の小児期発症例には、胆石、胆砂、胆泥が合併する例が多い。膵胆管合流異常に合併する胆道結石は17.9%に認め、成人24.1%、小児9%に認められ、胆管結石が多い。経過、治療において、画像検査、術中の胆道・膵管・合流部の状態の確認、拡張部の完全な摘除、狭窄部の拡張形成、的確な肝管腸管吻合が大切である。本症例も早期に分流手術を行い経過良好であるが、長期追跡、特に今回のような術前有石例では、術後結石等の合併症についてエコーなどによる長期フォローが必要である。 

2.  話題提供

   当院におけるてんかん患者診療について

        髙橋こどもクリニック 髙橋 貢

(はじめに)
  多くの小児科開業医は多忙な一般外来の中で、アレルギー、内分泌、腎、神経などの専門性を生かした特殊外来も併行して行っている。
 今回、当院のてんかん患者診療状況を明らかにするために、開業前の病院勤務時代からのてんかん患者(継続群)と開業後の新規てんかん患者(新規群)に分類し初発年齢、初診時年齢、てんかん分類、現在年齢、治療薬剤、転帰などを検討し、キャリーオーバー、一般外来でのてんかん診療の経済性などの問題点について報告する。

(対象及び方法)
 対象は平成1012月から平成253月までに当院で治療した87例のてんかん患者で、前病院からの継続患者が42例(男24例、女18例)、開業以後の新規患者が45例(男17例、女28例)である。てんかんの分類は国際てんかん連盟(ILAE)の「てんかん、てんかん症候群および関連発作性疾患の分類(1989)」1を用いた。症例に応じて35年間発作抑制された場合に治療終了した。

(結果)
1.てんかんの初発年齢は継続群では5.0±4.0 歳、新規群は6.6±3.8歳であり、継続群で発症が早い傾向があった。
2.てんかん分類には 大きな差は認められなかったが、新規群には症候性全般てんかん症例はみられなかった。
3.治療薬剤数ではともに単剤の症例が多かったが、継続群、新規群それぞれ1.5±0.7剤、1.1±0.4剤であった。
4.治療薬剤では両群ともにVPACBZが多かった。
5.87症例の転帰では現在治療中が57例、治療終了が25例、無断で中断した症例が4例、1例は治療せずに経過観察中であった。現在治療中の57例のうち44例が当院、13例が他院治療中であった。13例の内訳は転居症例が4例、他院治療を希望された症例が6例、セカンドオピニオンを求めて当院を受診した症例が3例であった。
6.継続群、新規群別の転帰では継続群では発作消失していない症例が多かった。転居、中断、他院希望例数はほぼ同様であった。
7.継続群の現在年齢は23.4±6.0歳であり、19例中14例が20歳以上、新規群では現在年齢13.4±5.2歳、26例中4例が20歳以上であった。全体の40%がキャリーオーバー症例であった。20歳を過ぎ、発作が存続している症例では成人科受診をすすめているが、ほとんどの症例が希望されず当院で治療継続している。
8.知能障害の合併では全体の26%、継続群、新規群ではそれぞれ29%、24%で差は認められなかった。
(考察)
  谷内らの報告2によると小児神経科医師へのアンケート結果から成人てんかん患者の割合は平均27%で、患者の最高齢は30-40歳代をピークに80歳代まで分布しており、小児科医師は成人てんかんだけでなく一部には高齢てんかんも診療していることが判明した。当院での最高齢は37歳でありキャリーオーバー率もほぼ同様の傾向であった。
 当院が開院した平成10年以後2年毎のてんかん診療に関わる主な診療料の推移を調べた結果、この16年間にほとんど変化はなかった。平成26年では脳波検査600点、睡眠賦活等加算250点、判断料180点、てんかん指導料250点、特定薬剤管理料470点であり、特に判断料はインフルエンザ等の迅速検査の判断料とほとんど差がないという状況である。約2時間かけて脳波検査をした後説明し、指導料、管理料すべて算定しても1750点であり、また3歳未満児包括診療であれば再診料のみの算定となる。

 キャリーオーバー症例を円滑に成人科(神経内科、精神科、脳神経外科)に移行するためには成人科診療医の中でてんかん診療医を増やし、さらに神経内科、精神科、脳神経外科でてんかん専門医を育成して、成人した難治てんかんを受け持ってもらうことを早急に行う必要がある。日本小児神経学会と日本てんかん学会が、日本神経学会、日本精神神経学会、日本脳神経学会の3学会に協力要請を行うこと、5学会が合同しててんかん学の知識を共有すること、年齢と診療科を超えた診療ネットワークを構築することが肝要である2。レベルの高いてんかん診療を維持するためにもてんかん診療に関する報酬の引き上げが望まれる。

 しかし診療報酬の引き上げや5学会の協力は早急には実現は難しく、現時点では須貝3の指摘の通りキャリーオーバーしたら神経内科、精神科にお願いできるものはお願いして、ほかは精神症状や成人病、就労や結婚への対応は得手ではない、という限界をわきまえつつ、小児科、小児神経科が主治医となって、必要に応じて他科と連携していく、というスタイルにならざるを得ない。てんかん診療のみならず全ての小児慢性疾患患者の移行期医療が円滑に行くことが望まれる。

(参考文献)
1)岡 鉠次.てんかん、てんかん症候群分類(1989)の問題点.小児内科 19952712451251
2) 谷口 豪、渡辺雅子、渡辺裕貴、岡崎光俊、村田佳子.てんかんのキャリーオーバーについての研究報告-小児神経科医師へのアンケ ート結果— 脳と発達201244311314
3) 須貝研司.小児神経疾患.小児科20064714701476


第544回

日時
平成26年4月9日(水)
症例呈示 「利尿剤負荷試験では診断に不十分で、遺伝子診断で確定診断し得たGitelman症候群の1例」 愛媛県立新居浜病院
小児科
  桑原 優
 話題提供   「私の経験した印象深い小児血液疾患」 愛媛県立新居浜病院
小児科
 徳田桐子
 その他  「550回記念会について」 ・  ・ 

 

1.   症例呈示

       利尿剤負荷試験では診断に不十分で、遺伝子診断で確定診断し得たGitelman症候群の1

                 愛媛県立新居浜病院小児科 桑原 優  

(症例)
 
6歳 男児。菊池病の精査加療目的で入院した際、Na血症(130mEq/1)、低K血症(2.1mEq/1)を認めた。補正後も改善に乏しく、低Mg血症(1.6mg/dl)、尿中Ca/Cr低値(0.12)、さらに正常血圧であったが血漿レニン活性は2ng/ml/hr、血漿アルドステロン値は55.6 ng/dlと高レニン活性、高アルドステロン血症を認めたため、遺伝性塩類喪失性尿細管機能異常症を疑った。
 フロセミド負荷試験とハイドロクロロサイアザイド負荷試験を施行した。
 フロセミド負荷試験はBartter症候群ではFeNaの上昇を認めず、ハイドロクロロサイアザイド負荷試験はGitelman症候群ではFeClの上昇を認めないとされている。
 本症例では、フロセミド負荷試験では負荷前FeNa1.2%、負荷後FeNa1.9%であり、⊿FeNa 0.7%と軽度上昇。ハイドロクロロサイアザイド負荷試験で負荷前FeCl 0.6%、負荷後最大値FeCl 1.6%であり、⊿FeCl 1.0%(正常反応は2.3%以上)と低値であった。そのため、Gitelman症候群、もしくは3Bartter症候群が鑑別として考えられた。

(方法)
 
確定診断のため遺伝子検査を施行。患児の父親に説明し、同意を得て、ダイレクトシークエンス法によりNCCTCLCNKBの遺伝子解析を行った。
 NCCTの蛋白コード領域にR642CV677Mの変異を認め、患児はこれらの変異をコンパウンドヘテロ接合性に有していることが判明し、Gitelman症候群と確定診断ができた。
(考察)
 難治性の低K血症が持続する場合、Gitelman症候群を含む遺伝性塩類喪失性尿細管機能異常症を疑い、検査を行うことが重要であると再認識した。また、現時点では血液検査や利尿剤負荷試験ではGitelman症候群と3Bartter症候群との鑑別は困難であり、その診断には遺伝子検査が必要であると考えられた。

2.話題提供

    私が経験した印象深い小児血液疾患

                愛媛県立新居浜病院小児科  徳田桐子

小児血液腫瘍疾患に携わってきた立場から、これまでに経験した印象深い症例を呈示する。確定診断に至るまでの手がかりは一般検査の中にあることも多く、呈示する症例には少し注意すれば容易に診断にたどり着けたと思われる例も含まれており、反省も含めて紹介する。さらに、リサーチマインドを持つことの必要性を認識させてくれた症例も紹介する。
 (症例1)カ月男児。サイトメガロウィルス感染症による溶血性貧血。乳児期早期の溶血性貧血では、感染徴候がなくても感染症の関与を念頭に置く必要がある。
 (症例2)カ月男児。βサラセミア。小球性低色素性貧血をみた場合、MCV/RBCで求められるMentzer indexにも注目する必要がある。
 (症例3)12歳女児。鉄欠乏性貧血(IDA)と特発性血小板減少性紫斑病(ITP)を合併したHelicobacter pylori (H.pylori) 感染症。小児においてもIDAITPでは、H.pylori感染症の関与を考慮する必要がある。
 (症例4)2歳男児。X連鎖血小板減少症。血小板減少時には、MPV(平均血小板容積)にも着目することが重要である。
 (症例5)10カ月女児。新生児期に血球貪食性リンパ組織球症を発症。生後2カ月時に特徴的な染色体異常の出現から悪性リンパ腫と診断したが、その後治療中に芽球性形質細胞様樹状細胞腫瘍(BPDCN)を発症した。CLTC-ALK融合遺伝子が原因と考えられたが、CLTC-ALK融合遺伝子はこれまでリンパ系の腫瘍でしか報告されていない。骨髄性腫瘍であるBPDCNを発症した過程を様々な解析手法を用いて検討したところ、原因遺伝子は胎生期に形成されclonal evolutionにより骨髄性腫瘍へ進展したことが示唆された。症例を詳細に検討することで新たな発見が得られることがあるため、常にリサーチマインドを持って症例に取り組む必要がある。


第543回新居浜小児医会
楠目和代先生送別会 
 (平成26年3月12日、於興慶)

平成26年3月12日(水)、楠目和代先生の送別会が「興慶」で開かれました。
 出席者は15名でした。(敬称略)
(前列左から)真鍋豊彦、松浦章雄、手塚優子、楠目和代、塩田康夫、大坪裕美
(中列左から)中矢隆大、加藤文徳、村尾紀久子、加賀田敬郎
(後列左から)牧野 景、山本浩一、高橋 貢、竹本幸司、星加 晃
 

第542回

日時
平成26年2月12日(水)
症例呈示 「複合性局所疼痛症候群(CRPS)の2小児例」 住友別子病院小児科   中矢 隆大
 話題提供   「ポンぺ病の酵素補充療法について」 しおだこどもクリニック  塩田 康夫
 その他  「今後の例会運営について」 ・  ・ 

1.    症例呈示

     複合性局所疼痛症候群の2症例

                住友別子病院小児科 中矢 隆大  

複合性局所疼痛症候群(CRPS)は、強い疼痛やアロディニアを呈する慢性疼痛症候群で、発汗異常等の自律神経性変化、脱力やジストニア等の運動性変化、関節拘縮や骨萎縮等の栄養性変化を伴う。今回我々は学童期発症のCRPSの2症例を経験したので報告する。

  症例1、12歳女児。神経学的に右前腕の自発痛と軽度の筋力低下、皮膚色の変化および浮腫を認めた。深部腱反射に左右差はなく末梢神経電動速度に異常を認めず、脳・脊髄MRI検査、髄液検査等にも異常を認めずCRPSと診断した。リハビリと内服薬等による治療を継続し、発症後3ヵ月頃から徐々に症状は改善を認めるようになった。

症例2、11歳女児。両下肢の自発痛および皮膚温の低下を認めた。末梢神経電動速度、脳・脊髄MRI検査、髄液検査等で異常を認めず、CRPSと診断した。種々の治療にもかかわらず疼痛は治療に抵抗したが、発症後2年で著明な改善がみられ寛解に至った。

考察。CRPSは重症化すると治療抵抗性となり、成人では予後不良の経過となることも稀ではない。これに対し小児では、数ヵ月~数年で寛解に至ることが多いとの報告が散見される。今回の2症例も小児特有の臨床経過に合致するものと考えられた。

 2.話題提供

    ポンペ病の酵素補充療法について

           しおだこどもクリニック 塩田 康夫

   症例1、5ヵ月男児。生後1ヵ月の時、哺乳困難で入院。その後、筋緊張低下が著しくなり再入院、ポンぺ病と診断した。生後8ヵ月の時突然死した。

   症例2、5ヵ月女児。頸定不良、哺乳困難で入院。ポンぺ病と診断した。生後10ヵ月の時死亡した。

   上記30年前の2症例は乳児型ポンぺ病の典型例であり、当時は致死的疾患であった。
 ポンぺ病はライソゾーム酵素である酸性αグルコシダーゼ(GAA)の欠損または活性低下により、あらゆる細胞のライソゾームにグリコーゲンが大量に蓄積し、心筋骨格筋などの筋機能が障害される稀な常染色体劣性遺伝性疾患である。臨床症状から乳児型・遅発型に分類されるが、GAAの残存酵素活性の程度と表現型とは必ずしも一致しない。
 長く有効な治療法がなかったが、2000年代になり遺伝子組み換え操作により作成された酵素補充薬である「マイオザイム」が開発され、近年最も劇的な治療上の進歩を遂げた疾患の一つとなった。アメリカのポンぺ病患児の父親がマイオザイム開発のため奔走した様子は2010年「小さな命が呼ぶ時」として映画化された。我が国では2001年特定疾患に指定され、2007年薬価収載・発売された。同じ頃ポンぺ病研究会、患者会も発足し活動を続けている。
 新生児スクリーニング法も検討され始めたように、早期発見・早期治療により画期的な生存率の延長やQOC(Quality of Care)の改善が期待できる酵素補充療法だが、生涯治療を受ける必要がある、中和抗体が発生しやすい、極めて高価である、等の問題点があり、より効果的な新しい酵素補充薬の研究がなされている。残った酵素を活性化する化学シャぺロン法や、蓄積物質の合成阻害法、更に細胞・遺伝子治療の臨床試験も試みられている。


第541回

日時
平成26年1月8日(水)
症例呈示 「感染症時の検尿で異常を指摘され、その後腎生検を要した症例のまとめ」 愛媛県立新居浜病院
小児科
  手塚優子
 話題提供   「回虫症」 大坪小児科  大坪裕美
1.症例呈示

 感染症時の検尿で異常を指摘され、その後腎生検を要した症例のまとめ

   愛媛県立新居浜病院小児科 手塚 優子

日常の外来においては感染症の児を診療することが多く、その中で検尿を行う機会も少なくない。感染症時の検尿異常ののち、経過観察を要し、最終的に腎生検を要したH20年以降の8例を提示する。
 2例は肉眼的血尿があり、その後も顕微鏡的血尿が持続、蛋白尿も伴っており、25か月後に腎生検を施行し、IgA腎症と診断された。初回異常指摘時に無症候性血尿の例は4例で、うち1例は経過観察中に感染に伴う肉眼的血尿や蛋白尿増加を認め、6か月後に腎生検を施行し、IgA腎症と診断された。残りの3例は無症候性血尿として経過していたが、79年後に間欠的な蛋白尿があり腎生検を施行し、菲薄基底膜病であった。無症候性蛋白尿の1例は、軽症Oligomeganephroniaであった。
 感染症に伴う一時的な検尿異常はよくみられるが、その後も異常が持続しないかどうかを観察する必要がある。

2.話題提供

   回虫症

     大坪小児科         大坪 裕美


1.ヒト回虫症の症例

症例:19か月女児
主訴:糞便に虫がいる(20cm強、アイボリー色でミミズ様)
症状:主訴以外なし
環境:家庭菜園なし 堆肥なし
検査:便虫卵(塗抹):回虫(受精卵)虫体鑑別:回虫(雌)
治療:家族全員にコンバントリン投与、1週間後に再投与

回虫は1950年代頃までは国民の60%以上の人が罹患していた。しかし、生活改善、環境衛生の整備などにより一時は消滅するかに思われ、1994年までは0.01%にまで低下した状態で推移してきたが、有機野菜ブームが過熱するにつれ患者が増えつつある。回虫の幼虫包蔵卵の経口摂取により人は感染する。排泄直後は感染力がない。2832度が虫卵の発育至適温度で1014日で幼虫包蔵卵になる。治療はパモ酸ピランテルで十分な駆虫効果が得られる。予防法は、回虫卵は熱に弱く701秒で死滅するので、生で食べるよりはごく短時間熱湯につけてから調理した方が安全である。名称未設定-1.jpg

   ①幼虫包蔵卵の経口摂取
     ↓
幼虫孵化、腸壁貫通
         
 門脈を経て肝臓に侵入(感染後日)
       
  肝静脈、心臓を経て肺に移行(感染後514日)
      
 気道を経て咽頭へ(感染後916日)
      
⑥嚥下され小腸に到達、成虫となり産卵(産卵開始はヶ月後)
     

虫卵外界へ
     ↓
 外界にて発育、幼虫包蔵卵となる(至適温度で10~14日)

2.イヌ、ネコ回虫症(トキソカラ症)

 幼犬は生後1年までが最も高い感染率を示し、生後1年未満の幼犬の6070%はこの回虫を持っているといってもよい。イヌ回虫の幼虫が胎盤を通じて胎内の幼犬に移行する。このようにして生まれた幼犬では、その体内幼虫は肝臓、気管、咽頭、胃、小腸へと移動しつつ成虫へと発達し、小腸に寄生する。ヒトの病型として内蔵型、眼型、中枢神経型がある。確定診断は虫体の確認だがこれは確認される率が低く、免疫血清学的検査が必要である。治療はアルベンダゾール投与。必要に応じてステロイド剤を併用する。予防法としては、イヌ、ネコと遊び終わった後の手洗い、鶏や牛の肝臓の生食を避け加熱調理したものを摂取する。

トキソカラ症(イヌ回虫幼虫移行症)の日本における報告例

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