平成27年12月9日(水)、忘年会が「常富寿司」で開かれました。 出席者は12名でした。(敬称略) (前列左から)西村幸士、加賀田敬郎、鎌田ゆきえ、浅見経之、牧野 景、星加 晃 (後列左から)加藤文徳、真鍋豊彦、塩田康夫、松浦章雄、竹本幸司、山本浩一 |
第557回新居浜小児科医会
日時 |
平成27年11月11日(水)
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症例提示 | 「先天性心疾患を合併した新生児消化管アレルギーの姉妹例」 | 愛媛県立新居浜病院小児科 | 浅見経之 | |||
話題提供 | 「新生児・乳児胆汁うっ滞疾患に対する網羅的遺伝子解析によりJAG1遺伝子に病原性変異が同定されたAlagille症候群の3世代1家系」 | 愛媛県立新居浜病院小児科 | 村尾紀久子 |
1.症例呈示
先天性心疾患を合併した新生児消化管アレルギーの姉妹例
今回、新生児期に血便を認めたため、母乳・普通ミルクを中止し、加水分解乳へ変更したところ、血便が消失し消化管アレルギーと診断した姉妹例を経験した。
現時点では、同胞例の報告は乏しい。また、両症例ともに先天性心疾患を合併しており、消化管アレルギーとの関連性は明確ではないが、貴重な症例と考えられたため報告する。
2.症例呈示
新生児・乳児胆汁うっ滞疾患に対する網羅的遺伝子解析によりJAG1遺伝子に病原性変異が同定されたAlagille症候群の3世代1家系
愛媛県立新居浜病院 小児科 村尾紀久子
【はじめに】Alagille症候群(アラジール症候群、以下ALGS)は小葉間胆管減少症による慢性胆汁うっ滞に特徴的な肝外症状を伴う遺伝性肝内胆汁うっ滞症で、7~10万出生に一人と言われる常染色体優性遺伝の疾患である。臨床診断では、肝臓、顔貌、心血管、眼球、椎体に5大症状の異常を認めるものを完全型ALGS、肝臓を含めた3症状を伴う場合を不完全型ALGSという。原因遺伝子としてJAG1、NOTCH2が発見され、研究室レベルでの遺伝子診断が可能となってきている。
【症例】在胎36週0日、1979g、ApgarScore1min8/5min9で出生した女児。
【経過】早産、低出生体重児、子宮内発育遅延のため当科NICUに入院、光線療法を要する黄疸は認めず日齢36、2410gで退院した。外来管理中に胆汁うっ滞型肝機能障害を認めたため小児外科に紹介するも胆道閉鎖等は否定された。母親同様、前額部の突出、彫の深い眼窩、通った鼻筋、小さな頤、両橈尺骨癒合を認めた。母親は肝機能障害を指摘された既往はなかった。母方祖母は非糖尿病性腎機能障害のため50歳から人工透析を導入されている。名古屋市立大学小児科に遺伝子解析を依頼したところ、母方祖母、母、娘の3名にJAG1遺伝子に病原性変異が同定され診断確定した。データベースに過去報告のない新規変異であった。
【結語】常染色体優性遺伝の疾患ではあるが、3世代にわたる遺伝子解析による診断が確定された家系は少ない。3世代に同一の塩基変異を認めたが表現型は異なっていた。また、5大症状以外にも生命予後やQOLに影響を及ぼす合併症も知られるようになってきている。遺伝カウンセリングを行い、母方祖母や母親にも、今後の合併症についての検索や経過観察、治療介入が必要と考えている。遺伝子診断は症状を有する非典型症例にとって、多診療科間の集学的継続的医療の糸口となる有用な診断方法であったと考えられた。
第556回新居浜小児科医会
特別講演会
日時 |
平成27年10月3日(土)
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場所 | 新居浜市医師会館大会議室 | ・ | |||
座長 | 愛媛県立新居浜病院 医監小児科部長 |
大藤 佳子先生 | |||
特別講演 講師 |
公立学校共済組合 四国中央病院小児外科 |
大塩 猛人先生 | |||
演題 | 「小児の日常診療と小児外科」 |
平成27年7月8日(水)、夏季懇親会が「響家 高はし」で開かれました。 出席者は11名でした。(敬称略) (前列左から)真鍋豊彦、竹本幸司、鎌田ゆきえ、松浦章雄、星加 晃 (後列左から)加藤文徳、牧野 景、西村幸士、浅見経之、山本浩一、加賀田敬郎 |
第554回新居浜小児科医会
日時 |
平成27年6月10日(水)
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症例提示 | 「VURを伴ったIgA腎症の7歳女児例」 | 愛媛県立新居浜病院 小児科 |
加賀田 敬郎 | |||
話題提供 | 「気管支喘息における呼気NO検査の有用性について」 | 愛媛県立新居浜病院 小児科 |
西村 幸士 |
1.症例呈示
VURを伴ったIgA腎症の7歳女児例
県立新居浜病院小児科 加賀田敬郎
【経過】H25年11月に急性腎盂腎炎に罹患した際、高度蛋白尿(Upro/cre=2.87)と肉眼的血尿を伴い、以降軽度蛋白尿と顕微鏡的血尿が持続していた。H26年3月の感冒罹患時にも肉眼的血尿がみられ、ACE阻害剤が開始された。4月のインフルエンザ罹患時にも肉眼的血尿がみられたため、5月に当科を紹介され受診し、6月に腎生検を施行された。腎生検所見は、光顕では2/41個の糸球体にメサンギウム細胞(以下Mes)の軽度の増加を認めた。蛍光抗体ではIgA、IgM、C3がMes領域に沈着しており、電顕ではMes領域を主体に沈着物を認め、IgA腎症(focal)と診断された。扁桃肥大もあったことから、8月に扁桃摘出術+mPSLパルス療法を行われ、PSL内服の後療法を行われていた。10月に急性腎盂腎炎に罹患し、蛋白尿の増加、肉眼的血尿及び腎機能障害(eGFR
27.5)が認められた。ACE阻害剤を中止され、脱水傾向があり腎前性によるものが強いと考えられ、輸液、抗生剤投与を行われたところ、腎機能は緩やかに改善した。尿培養からはE.coliが検出された。退院後のVCUGで右VUR grade2を認められた。以降、ST合剤の予防内服を行いbreakthrough-UTIはみられていない。
【考察】IgA腎症が感染症に伴い急性増悪を来すことは稀ではないが、VURを合併しUTI罹患に伴い高度の腎機能障害を認めた報告は多くない。UTIがIgA腎症の急性増悪と腎機能障害の一因と考えられ、今後の予防が重要であると考える。
気管支喘息における呼気NO検査の有用性について
愛媛県立新居浜病院 小児科 西村 幸士
当院では紀本電子工業㈱のNA-623N®を用いて呼気NO検査を行っており、測定方法はオンライン法とオフライン法の2種類がある。オンライン法はリアルタイムで結果がわかるというメリットがあるが、手順の簡潔さやコストパフォーマンスという点でオフライン法も優れた検査方法である。
呼気NOの測定値は、正常人の基準値や診断のcut off値など様々な報告がある。小児では年齢や性別によりその値が変わるため、継時的な変化を観察することで診断および治療に役立つ。
当院に通院している気管支喘息の患者に対し呼気NO検査を施行した。多くの例で喘息治療開始後に呼気NO値は低下しており、呼気NO値は治療開始後の気道炎症の評価に有用であった。オンライン法とオフライン法の呼気NO値は有意に相関し、測定器がない施設でもバッグ採取によるオフライン法で検査が可能であると考えられた。JPACスコアでコントロール良好の判定でも呼気NO高値例があり、JPACスコアと呼気NO値には相関を認めなかった。自覚症状が乏しい例でも気道炎症は残存している場合があり、JPACのみの評価ではそれを看過していた。呼吸機能検査の各項目(%FEV1, PEF,
V50, V25)と呼気NOは、いずれも負の相関を認めたが有意ではなかった。気道炎症と閉塞性障害は、関連性はあるが相関性は低いことが分かった。
以上より、呼気NO値の測定は喘息の補助診断および管理効率の向上に有用な気道炎症マーカーであるが、症状や呼吸機能検査と乖離することもあり、他の検査と併せて多角的な評価を行うことでより有用に活用できると考えた。
第553回新居浜小児科医会
日時 |
平成27年4月8日(水)
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症例呈示 | 「小児二次救急広域化後の当院の経過」 | 住友別子病院 小児科 |
竹本 幸司 | |||
話題提供 | 「入院期間が長かった肺炎症例の検討」 | 十全総合病院小児科 | 占部 智子 | |||
その他 | 「ロタワクチンと腸重積」 | しおだこどもクリニック | 塩田 康夫 |
1.症例呈示
小児2次救急広域化前後の当院の経過
住友別子病院小児科 竹本幸司、中矢隆大、牧野景
当院、西条中央病院、四国中央病院は小児科常勤医3名体制で、県立新居浜病院はNICUの併設もあり、小児科常勤医5名体制である。小児2次救急広域化開始前は、新居浜市では、当院と県立新居浜病院が1日交代で小児2次救急を担当(即ち月に15-16回)していた。西条中央病院と四国中央病院は各々の市の(内科)2次救急当番日に小児科も対応する形式で、月に12-15回の充足率であった。それぞれ人数の割に負担が大きく、西条市と四国中央市では、小児科医常在病院以外が2次救急当番日の時に、新居浜市に小児救急患者が流出するという問題点も一部認められた。
小児2次救急広域化後は、当院、県立新居浜病院、西条中央病院と四国中央病院のペア、の3体制で、at randomに3日に1回の割合で救急当番を担当した。開始前の当院は、2日に1回の救急当番であったが、3日に1回の割合となったため明らかに負担が減った。特に土、日・祝日の回数が減少したことは大きな変化と感じられた。
当番日の救急患者数、日・祝日当番日の救急患者数を、開始前の過去2年、即ち2日に1回救急当番を担当していたシステムの時と比較したところ、年ごとに変動はあるものの、当番日の減少にも拘わらず、ほとんど横ばい状態であった。また、救急車の搬送数についても同様の傾向であった。ちなみに平均の病棟稼働率は横ばいから増加傾向であった。
医療圏を超えた小児救急体制の構築という意味で、非常に意義あるものと考えられた。救急搬送については、いわゆる‘たらい回し’の状態はほぼなくなったものと考えられる。また、当番回数負担減(減少)にも拘わらず、患者数の減少は入院も含めて見られず、病院の減益にもつながっていないということも特筆すべきと考える。今のところ、他市へ2次紹介されること、救急搬送されることに対する患者からの不安、不満は大きくない。少ない医師数(医療資源)で最大限の救急医療体制を患者に提供するための、医療圏域を超えた小児広域2次救急体制の稼働は有益であったと考える。
2.話題提供
入院期間が長かった肺炎症例の検討
当院における2010年~2014年の5年間の小児科入院患者を後方視的に検討した。
入院の原因疾患分類では、気道感染症が75.9%で最も多く、次いで、腸管感染症が13.4%、その他の感染症が4.0%、感染症以外と新生児疾患がそれぞれ3.3%であった。
5年間全体の平均入院日数は4.16日であった。最も症例の多い気道感染症で、かつ入院が7日以上となった症例を検討した。(入院日数は入退院日を含み、2泊3日の場合3日とした。)
気道感染症で入院が7日以上となった症例はすべて肺炎で、5年間で10例、男女比は8:2であった。
病因別では、細菌性2例(4歳、15歳)うち1例はβ-ラクタマーゼ陽性のインフルエンザ菌、マイコプラズマ性3例(3歳、12歳、13歳)、ウイルス性5例(0歳9ヵ月RSウイルス(インフルエンザ菌中耳炎も合併)、1歳、7歳、11歳、18歳)であった。
年齢別では、6歳までが4例、7~12歳が3例、13歳以上が3例あった。
当院の2014年1年間の入院患者の年齢は、6歳までが82%、7~12歳が18%、13歳以上はいなかった(0%)。入院が長くなった症例の年齢は、入院患者全体の年齢に比べて、7歳以上、特に13歳以上に多く、予想外の結果であった。
7歳以上の患者の入院が長期化した理由を考察した。
①マイコプラズマ肺炎で、マクロライド系薬剤に効果がない症例が長期化した。
入院前からの発熱も長かったマイコプラズマ肺炎の2例(入院日に発熱14日目(12歳)、発熱9日目(13歳))は、マクロライド系薬剤の内服も点滴静注も効果がなく、テトラサイクリン系薬剤点滴静注に変更の2-3日後に解熱していた。
マイコプラズマ肺炎の残りの1例(3歳)でも、マクロライド系薬の効果がなく、徐々に下がるが最終的に解熱したのは、入院7日目だった。テトラサイクリン系薬剤は原則禁忌となる8歳未満であり、使用できなかった。
②解熱しても本人及び家族が入院継続を希望した。
13歳(上記マイコプラズマ肺炎)と15歳(細菌性肺炎)の2症例で、倦怠感が残り、解熱後3日の入院継続を希望した。
今回の結果を参考に、今後の診療に役立てていきたい。
3.その他
ロタワクチンと腸重積
しおだこどもクリニック 塩田康夫
嘔吐下痢症をひき起こす主要ウイルスのひとつであるロタウイルスに対するロタウイルスワクチンが、我が国でも2011年末から接種可能(任意)となり、2014年末までにおよそ130万人の乳児に接種された。
しかし厚生科学審議会予防接種副反応検討部会の報告では、そのうち確認された腸重積例が111名で、初回接種後1週以内の症例が31名、開腹例が13名、腸切除例が4名とのことである。
日本ではおよそ1.5万~2万人に1人がワクチン接種後腸重積を発症したことになり、これは米国での報告より3~4倍も多いことになるが、より詳細な検討の報告はまだない。
今のところロタワクチン接種に際しては、生後早期の初回接種の推奨と、副反応として腸重積の可能性があることとその症状を詳しく説明し、疑われる場合はできるだけ早く対応可能な医療機関を受診し、ワクチンを接種したことを担当医に伝えるよう指導する必要がある。
訃報:元会員 篠原文雄先生が逝去され、3月11日(水)に葬儀が執り行われました。心からご冥福をお祈りいたします。合掌
訃報:元会員 星加光江先生(91歳)が3月4日、逝去されました。心からご冥福をお祈りいたします。合掌
平成27年3月11日(水)、送別会が「寿司善」で開かれました。 出席者は13名でした。(敬称略) (前列左から)中矢隆大、桑原 優、手塚優子、森谷友造、占部智子 (中列左から)真鍋豊彦、塩田康夫、松浦章雄、加藤文徳 (後列左から)竹本幸司、山本浩一、牧野 景、加賀田敬郎 |
第551回新居浜小児科医会
日時 |
平成27年2月4日(水)
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症例呈示 | 「外来診療のピットフォール~心筋症について考える~」 | 愛媛県立新居浜病院 小児科 |
森谷 友造 | |||
話題提供 | 「ヒト・メタニューモウィルス(hMPV)感染症」 | 山本小児科クリニック | 山本 浩一 |
1.症例呈示
外来診療のピットフォール ~心筋症について考える~
愛媛県立新居浜病院 小児科 森谷友造
心筋症は病初期においては明らかな症状は無く、日常生活に問題がないことから気が付かれないことが多い。しかし、ひとたび増悪すると致命的になりうる疾患であり、なるべく早期の診断・治療が望まれる。
心筋症の疫学
日本全国で小児の心筋症の発症数は70-100例である。中でも拡張型心筋症が1歳未満に多いのが特徴である。肥大型心筋症の6割、拡張型心筋症の3割は遺伝が深く関与していると言われている。拘束型心筋症も遺伝との関係が指摘されている。
心筋症の基本病態
肥大型心筋症:左室収縮能は正常で心筋肥大に伴う拡張障害が基本病態である。症状は無症状のことが多い。突然死の頻度が多いのが特徴である。
拡張型心筋症:心室の内腔拡大と収縮不全が基本病態である。症状は心不全、不整脈、血栓症に基づく症状が主体である。
拘束型心筋症:心室の収縮能は正常だが、拡張障害と拡張期容量の低下が基本病態である。症状は初期は無症状である。進行すると心不全、不整脈、血栓症に基づく症状が主体となる。
症例1は2カ月女児。主訴は嘔吐。2014年5月初旬から1日1回程度の嘔吐が認められた。5月13日から嘔吐頻回のため、急患センターを受診し、精査加療目的で総合病院に紹介され受診した。同院にて急性胃腸炎と診断され入院を勧められたが、都合により一旦帰宅した。翌朝、喘ぎ呼吸が認められレントゲン検査にて心拡大(CTR=66%)が認められ、心臓超音波検査にて拡張型心筋症と診断された。診察上、季肋下3cmの肝腫大、心音はgallop rhythmが認められていた。
症例2は5歳男児。主訴は腹痛、意識消失、心肺停止。2011年8月11日、早朝に腹痛を認めトイレにて意識消失、全身硬直あり救急車(ドクターカー)が要請された。救急車到着時、心肺停止状態で、AEDにてVfが認められDCが1回施行された。DC後、心拍再開し総合病院に搬送された。精査にて拡張型心筋症と診断された。患児の既往歴として、これまでに意識消失発作は3回認められていた。他院にて脳波検査・MRI検査施行され異常なかったため、経過観察となっていた。
症例3は日齢17女児。主訴は咳嗽、喘鳴。2014年12月29日に近医産科クリニックにて正期産にて出生し日齢4に退院した。日齢14から咳嗽が認められ日齢17に近医小児科を受診した。喘鳴が強いため当科を紹介された。レントゲン検査にて心拡大(CTR=63%)を認めたため、心臓超音波検査が施行された。同検査にて拡張型心筋症と診断された。
上記3症例は前駆症状として、嘔吐、腹痛、意識消失、咳嗽・喘鳴といった一般的な症状を認めていた。診察上は肝腫大、gallop rhythmを認めていた。一般外来において、一般的な症状を認めていても、肝腫大やgallop rhythmといった心不全症状には注意して慎重に診察することが重要である。
症例4は5歳男児。主訴は腹部膨満感・倦怠感・浮腫。2014年6月下旬から腹部膨満と倦怠感を訴えていた。7月2日、近医クリニックを受診し総合病院にて精査にて拘束型心筋症と診断した。患児の既往歴として、1歳半に泌尿器科にて腎嚢胞の精査として心電図が施行されていた。右室肥大所見が認められたが、経過観察されていた。3歳時に鼠径ヘルニアの術前心電図にて右房負荷所見が認められていたが、精査はされなかった。
本症例では初期は無症状のことが多く、心電図などの異常から診断されることも多い。
まとめ
肥大型心筋症と拘束型心筋症は無症状のことが多く、学校検診など心電図異常で見つかることが多い。拡張型心筋症は乳児期発症が多く、診断を誤ると致命的なことが多い。初発症状は感冒症状など一般的な症状を来すこともあり、鑑別に心筋症も考えながら、肝腫大や心音など全身をくまなく診察することが重要である。
2.話題提供
「ヒト・メタニューモウイルス(hMPV)感染症」
発症者家族の臨床像(特に兄弟姉妹の臨床経過について)
山本小児科クリニック 山本浩一
平成24年4月にhMPV(ヒト・メタニューモウイルス)抗原を検出する「チェックhMPV」が発売された。この検査で今まで診断できなかったhMPV感染症の診断が外来で実施可能となり、流行の把握、家族内感染への注意喚起、さらに治療方針を決定する上での大変重要な情報が簡単に得られることになった。
平成26年春に4家族で5名の検査陽性者が確認された。この4家族で、家族内での症状発現状況を観察できたので報告する。
発症者家族の臨床像
「M家」:第1子(4歳)が、2月28日に咳と発熱で受診した。その後二峰性の発熱があり気管支炎となったがその後の経過は良好であった。第2子(2歳)が、3月7日から咳と発熱が持続し3月10日来院した。インフルエンザ検査は陰性で、扁桃炎と気管支炎があった。その後も発熱の持続があり、3月11日アデノウイルス検査(陰性)、h-MPV検査(陽性)でh-MPV感染症と診断した。第3子(生後2カ月)は3月10日から鼻閉が出て10月17日に来院。後鼻漏だけで発熱もなく5日ほどで改善した。同時期に母親は強い咳発作があった。
「K家」:(第2子(2歳)が、3月11日から発熱し、12日に近医でインフルエンザの検査を受け陰性であった。)第1子(3歳)が、3月12日から咳。3月14日に発熱して来院。15日のインフルエンザ検査は陰性。その後も発熱の持続があり、3月17日気管支炎となり検査。WBC 5100、CRP 2.2mg/dlで、h-MPV検査(陽性)を確認した。食思不振が強く外来での点滴治療となった。気管支炎に中耳炎の併発があったが18日から解熱し、その後の経過は良好であった。第3子(5ヵ月)は、3月15日から咳、鼻汁出現し後鼻漏と左中耳炎があったが発熱もなく経過良好であった。両親の発症は無かった。
「Y家」:第1子(6歳)が、3月16日から咳、鼻汁と発熱があり、3月17日に来院。気管支炎となったが経過は良好であった。第2子(4歳)が、3月20日から咳と鼻汁がでて、3月24日に来院。後鼻漏があったが経過は良好であった。第3子(2歳)が、3月20日から咳と鼻汁が出て、3月21日に発熱。22日は解熱するも23日から再び発熱して24日に来院。気管支炎があり治療開始となる。その後も発熱の持続があり、3月25日にWBC 5000、CRP 1.7mg/dlで、h-PMV検査(陽性)を確認した。発熱の持続はあったが軽い気管支炎という状態で経過した。第4子(生後1カ月)が、3月30日に鼻汁出現し、4月1日来院した。気管支炎と両側中耳炎があった。発熱は無かったが4月2日にh-MPV検査(陽性)を確認した。その後の経過は良好であった。両親の発症は無かった。
「Ya家」:第1子(3歳、兄弟なし)が、5月4日夜から発熱、咳、鼻汁出現。発熱が続き、5月6日に急患センターでインフルエンザ検査を受け陰性。その後も発熱が続き、5月8日(発熱後5日目)に来院。気管支炎と両側の鼓膜の軽度の発赤があり、WBC 5500、CRP 0.6mg/dlで、h-MPV検査(陽性)を確認した。翌日から解熱し、咳、鼻汁も軽くなる。5月10日気管支炎が残るが経過良好。5月13日気管支炎の改善があり、経過観察終了となった。「発熱の持続があったが、元気な気管支炎」という状態で経過した。両親の発症は無かった。
注:「M家」と「K家」は、友達関係で同じ乳幼児の集会に参加するなどの接触があった。
まとめ
1)乳児期早期では感染をしても発熱もなく概ね軽症で経過した。1歳から4歳では高熱の持続があり下気道感染症を引き起こしていた。
2)高熱の持続するアデノウイルスやインフルエンザとの鑑別が必要であり、どのような症例にhMPV迅速検査を実施すべきか臨床的に判断することが難しかった。
ヒト・メタニュウモウイルス感染症
2001年オランダで、呼吸器感染症を引き起こすウイルスとしてヒト・メタニューモウイルス(Human metapneumovirus: hMPV)が発見された。その後、このウイルスはRSウイルス(respiratory syncytial virus: RSV)やインフルエンザと症状が似ており、特に小児や年配者では重症化することがあるため重要なウイルスと考えられるようになった。感染様式は、飛沫感染と手指を介した接触感染である。潜伏期間は4~6日で、ウイルス量は発熱後1~4日に高く、ウイルス排泄は1~2週間持続する。1回の感染では十分な抗体が出来ないため何度も再感染をすると推測され、生後6カ月頃から感染し発症するようになり、2歳までに50%、5歳までに75%、遅くとも10歳までに1度は感染する。
患者の年齢は、1-2歳にピークがあり、下気道感染症は4歳児までの頻度が高く、RSウイルス感染症に比べると明らかに年齢が上になる。園に通う年齢での罹患が多く、施設内での集団感染やその後の家族内感染として園児からの乳児への二次感染が心配される疾患である。
主症状は、発熱、咳、鼻汁で、1歳から3歳までの児では38-39℃の熱が4-5日間続くのが典型的である。発熱の前日に咳が出始めたと訴えるケースが全体の65%あり、突然の発熱で発症するインフルエンザと異なる。乳児での発熱者の割合は6カ月未満が15.4%、6-11カ月が83.3%であり、6カ月未満では軽症に経過することが多いが鼻閉による呼吸苦や気管支炎に注意する必要がある。年齢が上がると発熱期間も短くなり、6歳以上では1-2日間で収まっている。鼻汁や咳は年齢に関係なく1週間以上続くことが多く、5日以上発熱が続く症例では下気道炎の可能性が高くなる。
わが国では2月から6月に流行のピークがあり、症状が同時期に流行するRSウイルスやインフルエンザと似ていて、インフルエンザのような高熱の持続とRSV感染症のような呼吸器症状が出現する疾患である。乳幼児や高齢者では下気道呼吸器感染症(細気管支炎、喘息様気管支炎、肺炎など)を引き起こし、施設内流行の報告がある。一方、健康成人においては比較的軽度の急性上気道炎の起因ウイルスである。
呼吸器感染症で入院した小児患者では、RSウイルス感染症が30%と最も多く、その次に多いのがhMPV感染症で17%であったと報告(山形大学医学部、松嵜洋子)されている。また、外来で迅速診断が可能になってからの検査陽性138症例をまとめた報告(兵庫県小児科医会)では、年齢の平均が3.38歳、発熱、鼻汁、喘鳴が全例であり、平均有熱期間は4.1日で、5%が入院し、入院症例では呼吸困難例が多かったが10カ月未満児の入院はなかったとのことである。
このように乳幼児では重要な感染症であるが、今まで日常診療では検査が出来ずその感染を証明することが出来なかった。平成24年4月にhMPV(ヒト・メタニューモウイルス)抗原を検出する「チェックhMPV」が発売され迅速検査による診断が可能になった。
この診断キットを上手く利用して、経過観察の上で投薬の必要性など治療方針の決定や患者を把握することで施設内の感染の拡大防止などへの応用が期待されている。ただ現在、保険診療では「当該ウイルス感染症が疑われる6 歳未満の患者であって、画像診断により肺炎が強く疑われる患者を対象とする検査」と位置付けられ、画像診断で肺炎が証明された時の原因診断検査としての位置づけで、通常の日常診療での検査としては使用が制限されている。乳幼児や高齢者では非常に重要な感染症であり、保険診療上も日常診療で使用可能な検査として利用できるようになることが望まれる検査の一つである。
参考文献:
1)菊田
英明:ヒト・メタニューモウイルス感染症 モダンメディア 51:217~222.2005
2)菊田
英明:ヒト・メタニューモウイルス ウイルス 56:173-182.2006
3)菊田 英明:ヒト・メタニューモウイルス感染症―病態解明とその制御に向けて
4)山形大学医学部感染症学講座 准教授 松嵜 葉子 「小児の呼吸器ウイルス感染症 〜ヒト・メタニューモウイルスを中心に〜」呼吸気感染症の原因ウイルスとその病原診断、 第536回新居浜小児科医会特別講演 平成25年6月22日
5)兵庫県小児科医会感染症対策委員会:ヒト・メタニュウモウイルス(hMPV)感染症の臨床像についてのアンケート調査 日本小児科医会会報 48:62.2014
平成27年1月18日(日)、第550回新居浜小児科医会記念会が琴平で開かれました。金刀比羅宮奥社までお詣りしたあと、「琴平花壇」で会食しました。 参加者は9名(1名病欠)でした。(敬称略) (前列左から)真鍋豊彦、塩田康夫、手塚優子、加藤文徳 (後列左から)牧野 景、松浦章雄、占部智子、山本浩一 |