ライター稼業40年

 文章を書く仕事に就いて40年になる。会社勤めもしたが、結婚後はフリーライターとなり、夫と編集制作会社を立ち上げ、のちに出版社を営むようになってからは編集の仕事もするようになった。
 愛媛初のライターというわけではないが、草分けの一人には違いなく、いつだったか、ある取材を申し込んだとき、相手がどこの社に所属しているのかと聞くので「フリーのライターです」と答えると、「愛媛にそんな人がいたのですか」とえらく驚かれたことがあった。驚くのも無理はなく、当時はライターの活躍の場となる媒体(メディア)も少なかった。
 子どもの頃から好奇心の強かった私は取材の仕事が大好きで、行ったことのない場所に行き、人から話を聞かせてもらうのが楽しくて仕方なかった。しかし楽しいのは取材の時までで、帰ってから録音した話を文字に起こし、決められた字数にまとめあげるのはひと苦労である。しかもライターはどんなテーマを与えられるかわからず、知らないことを取材する前には予備知識を仕入れ、質問することを考えておかなくてはならないし、書くときも間違いを書かないよう資料に当たったりするから、どんな短い原稿を書くにも何冊かの関連本を読まなくてはならない。私は40代の早いうちに老眼になってしまったのだが、これは一種の職業病である。

 若い頃の私は、後進が次々と育ってくれば老兵は去るのみだろうと思っていた。ところが、世間でいう定年を超えてもまだ仕事をしている。バトンタッチをしようにも、こんなしんどい仕事をしようという若い人はいないのか、そもそもライターが少ない。一時は、それなら団塊の星になってとことん頑張ろうかなどと思ったが、体は正直で、そんな冗談も長続きしないほどくたびれる。先日、草分け仲間の一人に「私もそろそろ引退かなあ」と電話で言うと、「私たちの仕事はわざわざ引退宣言しなくても、仕事が来なくなったら、そのときが引退よ」と言われ、なるほどと思った。そして、考えたらずいぶん厳しい道を歩んできたんだなあと思った。(2012.10.5掲載)
1.ライター稼業40年 2.地方のライター 3.ジ・アースとアトラス 4.アトラスの思い出 5.単行本第1号
6.調べる楽しさ 7.出版というオバケ 8.平均的読者像とルビ 9.文化の喪失 10.編集って、何
11.義士祭とベアトの写真 12.泣かせてしまった本 13.後に続くことば 14.原野に挑んだ人 15.視覚化の醍醐味
16.本の「顔」 17.書く力とは 18.文化財修復と犯罪 19.読む力と想像力 20.木蠟は何に使われた
21.宇和島のヘルリ 22.図書館とのおつきあい 23.サイド・バイ・サイド 24.土井中照さんのこと 25.本のお土産
26.予期せぬ出来事 27.題字は大事だよ 28.生きてるだけで丸儲け 29.掲載ビジネス 30.牛島のボンちゃん
31.おじいさんの自慢 32.編集者の言い分 33.書いてくれませんか 34.隈研吾さんと南京錠 35.幻の出版物
36.高島嘉右衛門と三瀬周三 37 声が聞こえる写真 38.翻訳 39.骨のある出版社 40.男っぽい文章
41.人生のダイジェスト 42.どう書いたら…… 43.消える仕事 44.近欲の風潮 45.運転免許の話
46.目に見える被害 47.過疎の町にパティシエを 48.講演は苦手です 49.カッコ付き市民の意見 50.父の信号
51.文化の繰り上がり 52.出版社の存在意義      
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