視覚化する醍醐味

 私は愛媛県文化振興財団が発行している「文化愛媛」の仕事を、1991年からやらせてもらっている。一般の人が読みやすい60ページあまりの手頃な冊子で、愛媛の歴史や文学、美術、自然、民俗など幅広い文化を連載や特集といった形で取り上げているのだが、その分野の第一人者が執筆しておられるので、私もここから、どれだけ文化的知識を得られたかわからない。
 私はこのなかで、愛媛の文化施設や文化活動を紹介する「ウォッチングナウ」を主に担当し、県内にあるミュージアムは、小さな資料館から愛媛県歴史文化博物館といった大きな施設までほとんど取材してきた。
 この仕事で、私は目に見えない歴史や文化を視覚化する面白さを知るようになった。というのも、博物館の展示方法と本作りは似ていて、文字を書いたパネルばかりだと見る人は興味を示さないが、実物資料を展示したり、模型で当時を再現することにより、歴史や文化が俄然身近なものになる。本も同じで、文章にどんな写真、どんな絵を加えるかによって、読者の興味と理解度は大いに変わってくる。編集の仕事は、いかに効果的に視覚化するかが大きな役割であり、醍醐味でもあると思っているので、私はミュージアムによって異なる展示法に次第に惹かれるようになった。
 旅先でも、その土地のことを知りたいと思えば博物館に入る。小樽に行ったときも、いささか俗化した運河近辺の風景にうんざりし、ふと倉庫だったという小さな博物館に入ったところ、運河ができた歴史的背景のほか、無用のものとして埋め立てられそうになった運河や倉庫を、市民がまちづくりに生かそうと保存運動を展開したことが写真や映像で紹介されていて、とたんに見る目が変わった。
 ミュージアムショップで図録や郷土出版物を買うのも楽しい。特別展の図録などは、常設展で見られないものが掲載されているので特に面白く、見ているとつい時間を忘れてしまう。
 ミュージアムの展示は、学芸員のみなさんの地道な資料収集や研究の成果である。私たち出版人は多分にその恩恵に浴しているが、一般の人ももっとその面白さに気付いてくれるといいのになと思う。(2013.1.11掲載)

1.ライター稼業40年 2.地方のライター 3.ジ・アースとアトラス 4.アトラスの思い出 5.単行本第1号
6.調べる楽しさ 7.出版というオバケ 8.平均的読者像とルビ 9.文化の喪失 10.編集って、何
11.義士祭とベアトの写真 12.泣かせてしまった本 13.後に続くことば 14.原野に挑んだ人 15.視覚化の醍醐味
16.本の「顔」 17.書く力とは 18.文化財修復と犯罪 19.読む力と想像力 20.木蠟は何に使われた
21.宇和島のヘルリ 22.図書館とのおつきあい 23.サイド・バイ・サイド 24.土井中照さんのこと 25.本のお土産
26.予期せぬ出来事 27.題字は大事だよ 28.生きてるだけで丸儲け 29.掲載ビジネス 30.牛島のボンちゃん
31.おじいさんの自慢 32.編集者の言い分 33.書いてくれませんか 34.隈研吾さんと南京錠 35.幻の出版物
36.高島嘉右衛門と三瀬周三 37 声が聞こえる写真 38.翻訳 39.骨のある出版社 40.男っぽい文章
41.人生のダイジェスト 42.どう書いたら…… 43.消える仕事 44.近欲の風潮 45.運転免許の話
46.目に見える被害 47.過疎の町にパティシエを 48.講演は苦手です 49.カッコ付き市民の意見 50.父の信号
51.文化の繰り上がり 52.出版社の存在意義      
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