出版という仕事は、地方では珍しいせいか、「出版社をやってます」とか「編集者です」と言っても、たいていの人は「ああ、そうですか」と返事はするものの、どうもピンと来ていないようすである。そういうのには慣れているが、あるとき、一番詳しいはずの印刷会社の営業マンから「編集って、何するんです?」と言われ、あっけに取られたことがあった。
編集の仕事を説明しようとすると、横文字や専門用語がやたらと並ぶのだが、かいつまんでいうと、「どんな本にするかを考え、その方針に沿っていろいろなことを決めて形にしていくこと」とでもいえようか。
私は本作りをよく料理にたとえるのだが、大きく分けると、材料を揃える段階と、調理・盛り付けをする段階とになる。テーマに応じて執筆者を決め、原稿を依頼し、それが出来上がると、わかりにくい文章や間違っているところを直し、文章を整えていく。
本によっては取材や写真撮影の必要なものがあるので、ライターやカメラマンに同行することもある。写真が上がってくれば、そのなかから使う写真を選び出す。歴史に関する本なら、古い写真を探したり、写真掲載の許諾を得るといったこともする。また対談やインタビューが入るときは、その交渉や場所の設定といった段取りもする。
こうして材料が揃えば、版下という印刷のもとになるものを作り上げていくわけだが、文字中心のものは、どうすれば読みやすいか、本文の文字の種類(書体)や大きさ、行間(行と行の間隔)などを決めていく。
このほか判型(本の大きさ)や紙の種類、製本のことなど、決めることはいろいろあるが、キリがないので端折(はしょ)らせてもらうと、要するに編集者の仕事というのは雑用の連続である。にもかかわらず、どれひとつ手が抜けないので、本ができたときの安堵感はちょっと口では言い表しにくい。
編集の仕事の中で一番嫌なのは原稿の催促で、やったことはないが、多分借金の取り立てと同じくらい嫌なものだと思う。だからというわけではないが、私が依頼されて書く立場になったときは、たいてい締め切り内に書き終えるいい執筆者のはずである。(2012.12.7掲載) |