サイド・バイ・サイド

 「サイド・バイ・サイド フィルムからデジタルシネマへ」という映画を観た。俳優のキアヌ・リーブスが、マーティン・スコセッシ、ジェームズ・キャメロンといった大物監督をはじめ、撮影監督、編集技師、特殊効果技師といった関係者にインタビューし、映画の現場で何が起きているのか、映画づくりは将来どうなっていくのかを探ったドキュメンタリー映画である。
 サイド・バイ・サイドは、「併存」とか「横並び」という意味で、このタイトルはフィルムとデジタルの両方が併存していることを表しているのだが、この映画を観て思ったのは、すでにフィルムは消滅寸前の状態にあり、一部のこだわり派のものになっているということである。そのこだわり派ですら「数年後にはデジタルにせざるを得ない」というのも、フィルムメーカーが生産を中止し、映画館もフィルム映写機から専用のサーバーやプロジェクターを使った上映に変えるなど、ハードの事情からデジタルに移行せざるを得ない状況に追い込まれているためである。
 出版においてもすでにこれと同じ状況が起きており、パソコンによるDTPへと変わって久しい。映画と違うのは、印刷した書籍と電子書籍が併存する状況にあるものの、現時点では印刷した本の方が圧倒的に多いという点である。それがいつ逆転するかは、デバイスのさらなる進化や価格、そして電子書籍自体の価格にかかっている。
 40年近く出版に関わってきた私は、振り返ると、その最初の場面には鉛の活字を拾う印刷工場のおじさんがいた。20年前に編集制作会社を起業したときは、200万円を超えるパソコン一式をやっとの思いで買い揃えた。その後、出版業を営むにあたってパソコンは何台替えたか記憶にないが、何度かの転換点を乗り超え、仕事を続けることができたのは、デジタルを道具に、人間にしかできないことをしてきたからだろう。
 過去への思いはいろいろあるが、ひとつだけ言えるのは「時代は後戻りできない」ということである。デジタルシネマによって表現の幅が広がることを肯定的にとらえていた映画監督のように、前を向いて生きていきたいと思う。
(2013.3.8掲載)

1.ライター稼業40年 2.地方のライター 3.ジ・アースとアトラス 4.アトラスの思い出 5.単行本第1号
6.調べる楽しさ 7.出版というオバケ 8.平均的読者像とルビ 9.文化の喪失 10.編集って、何
11.義士祭とベアトの写真 12.泣かせてしまった本 13.後に続くことば 14.原野に挑んだ人 15.視覚化の醍醐味
16.本の「顔」 17.書く力とは 18.文化財修復と犯罪 19.読む力と想像力 20.木蠟は何に使われた
21.宇和島のヘルリ 22.図書館とのおつきあい 23.サイド・バイ・サイド 24.土井中照さんのこと 25.本のお土産
26.予期せぬ出来事 27.題字は大事だよ 28.生きてるだけで丸儲け 29.掲載ビジネス 30.牛島のボンちゃん
31.おじいさんの自慢 32.編集者の言い分 33.書いてくれませんか 34.隈研吾さんと南京錠 35.幻の出版物
36.高島嘉右衛門と三瀬周三 37 声が聞こえる写真 38.翻訳 39.骨のある出版社 40.男っぽい文章
41.人生のダイジェスト 42.どう書いたら…… 43.消える仕事 44.近欲の風潮 45.運転免許の話
46.目に見える被害 47.過疎の町にパティシエを 48.講演は苦手です 49.カッコ付き市民の意見 50.父の信号
51.文化の繰り上がり 52.出版社の存在意義      
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